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巻頭言:「命」という存在性

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Academic year: 2021

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「命」という存在性

京都文教大学人間学研究所所長

秋田

物事の存在様式は人が思っているほど単純な ものではない。「様」式とあるように、まこと にもって種々様々である。1月に出版したばか りの拙著『さまよえる狂気』(創元社)でも書 いたのだが、このことを論ずるにあたり最もわ かりやすい例は神や仏の存在仕し法ほうであろう。神 が存在するのかどうか。あるいは芥川龍之介 『蜘蛛の糸』にあるように仏様が極楽の池の蓮 の間からこの世や地獄を見ておられるのかどう か。 神や仏が存在するとかどうのと述べること自 体が実は厚かましい。もし、いるとすれば、寒そう 気け立つぐらいでは済むはずもない、およそ人間 の思考力などでは言葉にしようのないような在 り方であろうから。感じることはできるのかも しれない。いや、感じることさえ不可能か。ユ ングはルドルフ・オットーの言葉を借りて「ヌ ミノーゼ」なる言葉を使用した。これは神仏に 関する事象を表現するに当たり、偉大なる一歩 の踏み出しと見ることができるが、私の感覚か らすれば、それでもまだ言葉にし過ぎの感があ る。それゆえ私は「 」あるいは“ ”とわけ のわからぬ表記をすることが多いのであるが、 そのうちもう少しまともな表現ができるように なるかもしれない。 とにかく、わけのわからないことが実に多い。 科学の発達に惑わされてわかったような気分に なりやすいことも現代の病の一つであろう。ま ったく不明の事こと々ごとが圧倒的に多いのである。 宇宙には暗黒エネルギーや暗黒物質なるもの があるとのことで、それらを合わせると96%。 「暗黒」なる命名が何故なされているかと言え ば、要するに把握不能だということだ。水素だ のヘリウムだのと人間が同定できる部分は4% くらいしかないとのことである。しかし、これ とて宇宙物理学発展途上の一成果にすぎない。 百年後、千年後得られるであろう知見からすれ ばどうか。児戯に等しい認識となるかもしれな い。しかし、千年後得られるであろう知見もま た同様の運命をたどる。科学と名がつけば、何 だか確かなもののように思いこみがちだが、 「そのさらに千年後」の視点を忘れずにいれば、 いかにもろいものか。 物質についての知見でさえ、そうであるなら ば、神や仏あるいは命が一体いかなるものであ るのか。常に一意見が存在し得るにすぎない。 今年も多くの命が失われた。そして多くの命 が誕生した。命とは何か。生物学的死が訪れる と同時に存在性を失うとする見方ももちろんあ りうるであろう。しかしおそらく、ことはそれ ほど単純ではない。死してのち、より輝く命 (たとえば、イエス・キリスト)もあろう。そ れほど知られたものでなくとも、命は「生」命 と必ずしも重なるものではない。「命」もまた、 新たなる認識を待っているものの一つであろう。

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