完全学習の実践研究
9
0
0
全文
(2) . 藤友雄陣:完全学習の実践研究. 完全学習の実践研究. 藤. 友. 雄. 瞳. 現在, わが国の小学校 では, 授業内容を十分に理解し, 授業についていくことのできる生徒は, 約半分であり, 中学校 では, 約3分の1 であると一般に言われている. 高等学校では, その割合は さらに減るものと考えられる。 このように, 授業についていけない生徒が多量に生じることは, 単 に学業の問題 だけにはと どまらない種々の問題を生じる. このような生徒は, 学業に対する興味を 失い, 学業及 び学校に対して否定的態度 をとるようになり, 自己を劣等生とみなす自己概念を形成 するようになり, そしてついには, 精神的な健康さすらも犯されていく危険性すら存在する, このような事態に対して, 指導内容を, 生徒に完 全に習得させることを目指す試みが望まれる. 2 1 ( )に よ る The Winnetka pl そのような試みの先駆的な例としては, Washburne (1922) an や, ,. 1 6 ( )があ げ ら れ よ う し か し 普 通 の 学 校 に お け る 学 級 の 授 業 の 水 準 で ク ラ ス の 95% Mo i 1926 ) r r son( , , . ing) を 導 入 す る 試 み t の生徒が, 完全に習得することを目指す学習, 即ち, 完全学習 (ma earn s r e yl 3 { ) 1 1968 が, 広く行われるようになっ てきたのは, B ) 以降であると言えよう. o om( 7 }は 完全学習の理論を概括した 本論文においては 完全学習の実践研究を 生徒 藤友(1 974)( , , , , の習得, 未習得を診断する診断テストが行われ, その診断に基づいて, 治療学習が行われる指導と. してとらえ, それらの研究を概括することを目的とする. 1. 小学生を被験者とした研究 ( 1 9 )は 4年間にわたる縦断的研究を行っ た 教材として 被験者が小学生の時 1 941 Thomps ) on( , , 。 は算数を, 中学生となっ た時は代数を用いた. 生徒は先ず事前診断テストを受け, 合格すれば, 次 の学習の事前診断テストを受けた, 不合格 で, その教材を未習得と診断された生徒は, 治療訓練課 題を学習し, 習得を示す迄は, 次の学習に進むことを許されなかった。 習得したか否かは, 治療学 習効果判定テストの結果により決められた. 実験群の生徒は, このような手続きの自習方式により, 自己に最適の学習速度で学習した, 統制群の生徒は, 教科書による通常の授業を受けた. 結果は, 小学生について, 1 0週間の指導で, 実験群は標準算数テストで, 1.41年分学習したのに対して, 統 制群は,0 ,40年分を学習したに過ぎなかっ た. 中学校1年生35人については, 実験群は1年間に, 算数学力テストで平均2 ,6年分の習得を示した. 完全学習が効果をあげた理由として, ①既に習得 した教材の学習に時間をさくという無駄が生じない. ②生徒は, 学級全体の進度に合わせることな く, 自己の進度で先に進むことができる. ③完全に学習するまで次の学習に進まない, ことをあげ ている. このよう な自習方式の完全学習 では, 治療訓練課題の学習のところで, 教師による指導が 行われるの であろうが, 生徒にとっ て全く新奇であるところの教材を, どのような形態 で教授する のか, 果して全くの生徒の自習だけでそれが可能なのかどうなのかが問題となろう. 1 2 ( )は 5~6年生に 算数を教材として研究を行っ た 3~4週間 通常の授業を行 Ke h( 1970 ) r s , , , 。 い, 診断テストをし, その後1週間, 治療学習を行い, 再テストをするという手続きがとられた. 35.
(3) . 藤友雄瞳:完全学習の実践研究. 結果は, 経済的に恵まれた状態にあっ た5年生 では, 完全学習群が75%, 非完全学習群 では1 9%の 生徒が, 習得を達成した. 経済的に恵まれない状態にあっ た6年生 では, 完全学習群20%, 非完全 学習群 では0%の生徒が習得を達成した. これは, 完全学習の手続きによれば, 経済的に恵まれな い環境の生徒 でも, 経済的に恵まれた環境の生徒の非完全学習群と同程度の習得水準を得ることが 可 能 であ る こ と を 示 し て い る の では な か ろ う か.. 1 0 )は 学級数31 児童数1102 教職員数49のわが国の都市 日俣, 横浜市立元街小学校 (1973)( , , , , における平均規模の小学校 で, 全学的に, 日常的な実践の一環とすることを目指して研究が行われ ている所に大きな意義が感じられる. 元街小学校 では, 1965年以来, ティ ーム・ティ ーチン グの実 践が試みられてきた. 完全学習はその発展の一環としてとりあげられた. 元街小学校では, 完全学 習を, 学習目標を明確にして授業を行い, 生徒の学習したものに対して形成的評価をなし, その評 価の結果, 即ち, 生徒がどのように, どのく らい理解したかにより教師が自分たちの指導に対する フ ィ ー ド バ ッ ク を 受 け, そ れ を 後 続 す る 指 導 に 役 立 て て い く も の と して 考 え て い る. こ れ は, B1 oom. 4 )の指導に密着した形成的評価の考え方を積極的にとりいれている点 で注目されよう ( 1971 t頭.( ) e . 1 0に は 第1学年……体育 第2学年……算数 第3学年…… 日俣, 横浜市立元街小学校 (1973)( , , ,. 社会, 第4学年……社会・理科, 第5学年……算数・理科, 第6学年……体育の事例について報告 されているが, 本論文においては, 第5学年の算数の事例について論じたい. 題材は 「変わりかた と式」 であり, この題材について, 学習目標の分析が行われ, 目標分析表が作成された. 行動の要 素としては, 認知領域として, A理解 (A・1用語・記号の知識, A・2概念の理解, A・3原理・ 法則, A・4数の構成) , B探究の過程 (B・1集合の考え, B・2構造に着目した考え, B・3関 数的な考え, B・4統計的な考え, B・5発展) , 精神運動領域として, C技能(C・1計算の習熟, C・2計器の使い方, C・3表や グラフの作り方) , 情意領域として, D興味と関心 (D . 1 興 味, D .2意欲, D・3たしかめる態度) を設定している そして, 学習内容の要素と, これらの行動 . の要素のマトリ ッ クスに学習目標を分析した. マトリ ッ クスの結びついた所が, 学習の単位目標と なり, こ れらの単位目標のひとつひとつが習得されることにより, 必要な行動が作りあげられ, 目 標に到達することが可能となる. このように, 到達目標が行動目標として細かく具体化されている 1 ので,目標分析表は,学習の計画・展開の重要な基盤となるの である.行動の要素の分類には,B oom 2 )の教育目標の分類学の考え方が採用されている 情意領域ま でを 授業実践の中 でと ( l 1 9 6 5 eta ( ) . , . らえようと している所が特に注目されよう. 生 徒の指導に先立っ て, 事前調査が行われた. 事前調 査では, 認知領域が, 題材に ついての 生徒の理解度を知るためのペーパーテストで調査され, 情意 領域が, 教師の観察によっ て調査された. 次に, 目標分析表に基づき, 児童の発達や変化を見定め, 適切な授業の系列や条件を分析し, 構造化した 「学習経験の系列的構造図」 が描かれた. これは, 目標分析表から, 授業展開を考えていく際の中間に位置する指導計画図とも言えよう. そして, 次 に, 実際の指導計画図である, 具体目標, 指導過程と詳細化された学習目標を相互に関連させて示 した基礎表が作成された. 授業は, 基礎表に基 づいて実施される. そして, ワークシートを用いて, ほとん ど毎時間ごとに形成的評価が行われる.ワークシートとは,謄写印刷された訓練用テストペー 4 ( )の形成的テストに相当するものである 一定の学習単位の学習 が パー であ り, B1 l 1 971 ) oom eta ,( . 終了すると, 形成的評価に基づいて, 学級は, 習得群と未習得群の2群に解体され, 習得群は発展 群として発展問題を学習し,未習得群は,補充群として学習単位の習得化が行われる.これが,ティ ー ム・ティ ーチン グにおける能力別学級指導にあたり, 完全学習における治療学習の部分に相当する 4 { )は 治 療 学 習 の 一 つ と して 生 徒 同 志 が 教 え 合 う グ ル ー プ 学 l 1971 ) も の と 言 え よ う. B1 oom eta .( , ,. 習を考えており, 能力別学級指導は想定していない, ティ ーム・ティ ーチン グと完全学習を結 びつ 36.
(4) . 藤友雄 嘩 : 完 全学 習 の実 践 研 究. けようとしてい る元街小学校の試みは, このような点からも, 今後が注目さ れよう, 富山市奥田小 2 0 )でも 同 様 の こ と が 試 み ら れ て い る 学 校 (1975){ , 。. 2。 中学生を被験者とした研究 1 3 ( )は 1 学 級 約 70名 で 総 数 272名 の 1 年 生 に 数 学 を 教 材 に 用 い て 8 セ Kim eta l 1969 ) ッ .( , , , ,. ショ ンにわたる研究を行った。 完全学習群, 非完全学習群ともに, a)習得すべき学習目標の提示, b)図や, 視聴覚機器を利用 しての授業, c)総括的テスト, が行われた. 完全学習群は, それに加 えて,d)学習単位の学習終了 後に形成的テストとして,10分間のテストが3つ施行された。そして, そ の 得 点 が 80% に 満 た な か っ た 生 徒 に は,40~50 フレームの治療学習 プロ グラムが, 個人の宿題 と して与えられ, さらに, e)復習問題が課せられた. 早く学習を完了させた生徒は, 形成的テ ストの 得点の悪かった生徒を援助した, 結果は, 総括的テ ストにおいて, 80%以上正答することを完全学 習達成基準としたが, 全体では, 完全学習群が74%, 統制群 では40%の生徒が達成を示した。1 ,Q . 93以下の低1 .Q.群についてみると, 完全学習群が50%, 非完全学習群 では8%の生徒が達成を示し た. 平均1 .Q.以上の群についてみると, 完全学習群が95%, 非完全学習群では64%の生徒が達成を 示した。 いずれにおいても, 完全学習群の方が優れていたが, 特に平均1 ,Q .以下の低1 .Q,群にとっ て, 完全学習は有効なよう である。 この研究は, 1学級約70名という, わが国の約2倍に近い学級 定員 でも, 完全学習が可能 であることを示したものとして, 意義を認めることができよう. 治療学 習として, 個人に家庭での宿題を与える方法が用いられているが, これが方法の一つとして有効 で あることは認められるとしても, やはり指導は, 学校 での授業時間内 で完結させることを目指すべ きではなかろうか. 早く学習を完了 した生徒に, 形成的テストの得点の悪かった生徒を援助させて いるのは, グループ学習の-形態として考慮に値するものと言えよう. 1 4は 8つの中学校の約58 ( Kim eta l 1970 ) .( , ,00名の1年生に, 数学と英語を教材にして, 8週間 にわたる研究を行っ た, 完全学習群に対する手続きは,Fi g .1に示す通りであるが, 深化課程は, こ の研究においては行われなかっ た。 結果は, 総括的テストにおける80%以上の正答を, 完全学習の 達成基準として用いたが, 完全学習群は, 数学 で61%, 英語で72%, 非完全学習群は, 数学 で39%, 英語で2 8%の生徒が達成を示した.8つの中学校を用いて実験が行われたが, 学校間に差が生じた. これは, a)学校による学習風土の差, b)学校と教師の協力の度合の差, c)教材を利用し, 実施す る こ と が 十 分に 行 わ れ な か っ た こ と,d)何 人か の. 学習欠陥の事前診断. 教師が, 実験的な操作手続きに失敗したため であ. 学習欠陥の治療処置. る と 考 え ら れた。 こ の 研 究 は 約 5,800名 の 生 徒 を 用 い て, 大 規 模 に 行 わ れ た も の で あ り, 完 全 学 習. 学習目標の提示. を実 際 の 教育 現 場 に 広 く 日 常 化 し て い く た め の -. 授業:学習内容の提示. つのスプッ プの役割を果す研究として貴重なもの であ る と 言 え よ う. 6 )は 1 学 級 約 25名 の 2 年 生 6 学 ( l l ins( 1970 Co ) , 級 の 生 徒 で, 現 代 数 学 を 教 材 と し て 研 究 を 行 っ た.. 補充指導:復習と練習 形成的テスト 補 充課 程 (治療学習). 1 組 に は,① 学 習 目標 分 析 表 が 与 え ら れ る だ け で, 2 組 に は, ① と, ② 5 ~10 分 間 の 形 成 的 テ ス ト,. 小グループ協カ学習. ③討議と質疑, ④未習得項目を教科書 で学ぶこと を指摘する治療学習が与えられ, 3 組 に は, ① ②. 総括的テスト. ③ ④ と ⑤ 他 の 教 科 書, ワ ー ク ブ ッ ク, ゲ ー ム, S. 深化課程 (発展学習). F i g1, 授業過程のフローチャート 37.
(5) . 藤友雄嘩:完全学習の実践研究. RA教授用具が与えられ, 4組には, ②と, ⑥復習が与えられ, 5組には, ②だけが与えられ, 6 組は, 普通の授業を受けるだけの統制群とされた. 結果は, 全学級に同一のテストを行い, その得 点 で評価を行っ た. AかB で評定された生徒が各組 で占める割合は, 1組60%, 2組80%, 3組 80%, 4 組 70%, 5 組 50%, 6組4 0%であっ た. この研究は, 2組と3組の生徒の80%が達成基. 準に達したことから, 完全学習の有効性を示したものと言えよう. 3. 高校生を被験者とした研究 2 2 ( )は 116名 の 男 子 高 校 生 (平 均 年 齢 16 歳 5 月)に 自動車の 点火 シ ス テ ム を l ing( 1973 Went ) ヶ , ,. 教材として, 5週間にわたる研究を行った. 教材は, 8つの学習単位に分けられ, 各々の学習単位 は10~2 0の具体的学習目標に細分化された. そして, 8つの学習単位の各々は,1 3~25頁の小冊子 0分の授業に週4回参加 した. 学習方略 (完全学 にまとめられた, 被験者は, 5週間の間に, 一回7 習, 非 完 全 学 習) , フ ィ ー ド バ ッ ク 様 式 (フ ィ ー ド バ ッ ク 無 し, 部 分フ ィ ー ド バ ッ ク, 全 体 フ ィ ー ド. バッ ク) , 精神能力 (高知能, 低知能) の3つが変数として用いられた. 生徒は, 小冊子を利用し, 自己の ペー ス での自習方式 で教材を学習した. テストを受けることができると判断した生徒は, 教 師に申し出てテストを受けた. 非完全学習群の生徒は, テスト結果を得点とそれについてなされた 段階評価として, 翌日に知ることができた. 完全学習群の生徒には, テスト結果についての段階評 定を与えるの ではなく, 80%の習得基準に到達したか否かが知らされた. 習得を示した生徒は, 次 の学習単位に進み, 未習得の生徒は, 小冊子を復習, 再学習して, 再度代換えテストを受ける. こ の治療学習サイ クルは, 最大限3回ま で行われた. フィ ー ドバッ ク様式については, テストの解答 の 正 誤 に つ い て, フ ィ ー ド バ ッ ク 無 し 群 は, フ ィ ー ド バ ッ ク を 受 け ず, 部 分 フ ィ ー ドバ ッ ク 群 は,. 一部の項目に ついてのみ, フィ ー ドバッ クを受け, 全体フィ ー ドバッ ク群は, 全部の項目について フィ ー ドバッ クを受けた. 精神能力については, 中央値を境に して, 被験者を折半し, 高知能群と 低知能群を構成した. 結果の測度としては, 最後になされたアチー ブメ ントテストの得点と, 3週 間後に測定された同じアチーブメントテストの得点(把持得点) , このコースに対する態度, 学習に 要した時間の4つが用いられた. 学習方略については, 完全学習群が, 非完全学習群よりも, 得点 (P<. 035) , 把持得点 (P<. 01) で有意に優れていた. 時間については, 完全学習群の方が非 完全学習群より有意(P<.001 )に長くかかっ た.態度については, 有意差がみられなかっ た.フィ ー ドバッ ク様式については, 部分フィ ー ドバッ ク群が, 他の2群よりも, 得 点(P<. 07) , 態度 (P <,001 ) で有意に優れていた. 把持テストについては, 群間に有意差はみられなかっ た. 時間につ いては, 全体フィ ー ドバッ ク群が最も少なく, フィ ー ドバッ ク無し群が最も時間を要し, 両群間に は有意差 (P<.03) がみられた. 精神能力については, 高知能群が低知能群よりも, 得点 (P<. ) ) についても有意 0001 ) 01 , 把持得点 (P<. 0 , 態度 (P<. 05) で有 意に優れ, 時間 (P<. 05 に少なかっ た. この研究は, 統制された実験条件下 で, 完全学習の3要因, 学習方略, フィ ー ドバッ ク様式, 精神能力を研究したもの である. このような要因分析的な研究は, 完全学習を広く教育現 場に日常化していくための基礎研究として, 今後も必要とされるものであると言えよう. 4. 大学生を被験者とした研究 1 7 ( )は Post l i t eta l 19 64 ewa ) .(. ,480名の学生 で,植物学を教材として,4学期間にわたる研究を行っ. た. 週 3 時 間 の 自 立 学 習 セ ッ シ ョ ン に は, 学 生 は テ ー プ や フ ィ ル ム を用 い て, 割 り あ て ら れ た コ ー. スを, 自己の ペー ス での自習方式 で学習を進めた. 週1時間の小 グルー プ討議セ ッ ショ ンは, 復習 と問題討議と小研究プロジェ クトにあてられた. 週1時間の大 グループセ ッ ショ ンは, 教材を統合 38.
(6) . 藤友 雄 嘩 : 完 全学習 の 実 践研 究. し解明することと, 宿題と個人研究プロジェ クトにあてられた. 結果は, 第1学期には, AかBの 成績評定を受けた者が4 3%, DかFだっ た者が27% であっ たが, 第4学期には, AかB だっ た者が 64%, D か F だ っ た 者 が 13%に な っ た. こ の よ う に, こ の 方 法 は 伝 統 的 な 教 え 方 の コ ー ス よ1 )も 優. れた成績を示した. また, 転移と把持が増加 し, この学習コースに対する学生の態度が改善された. この研究に用いられた3つの学習セ ッ ショ ンは, 完全学習の授業過程のあり方を考える 際に示唆を 与えるものであると言えよう.. 1 8 ( )は 心 理 学 を 教 材 と し て 研 究 を 行 た 学 生 は 教 科 書 の 読 む べ き 所 の 指 摘 Sherman( 1967 ) っ 。 , , ,. 術語や資料についてのヒント, 質問, 次の学習単位についての註, 時事的な問題についての註な ど が記載された学習ガイ ド表が与えられ, 小学習単位を自己のペー スでの自習方式 で学習した。 学習 単位を終了した学生は, 既に習得した監督係 の学生が施行する診断テストを受ける. それに合格し た学生は, 次の学習単位に進み, 不合格の学生は復習し, 再テストに臨んだ. テストに合格し, 習 得したことを示さなければ, 学生は, 先の学習単位に進むことができなかった. 監督係の学生とは 常に相談することができた. 講議と演示は, 大多数の学生が, 教材を適切かつ十分に習得した時に のみなされた. 結果は, 最終評価において, AかBの成績評定を受けた者が50%, DかFの者は0% であった. また, 学生はこのコースに対して肯定的な態度を示し, ほとんどの者が, 監督係になる 1 1 ( ) l l 1968 ことを望んだ.監督係になることが,学生には社会的強化を与えたと考えられよう.Ke ) r( e , 9 ( ) 8 ( )も同様に 学生の監督係を用いて 同様の結果を得ている Green( 1969 i 1 l 97 0 ) ,Gen t ) e( , , . 1 5 { )は 完全学習群に1 Mayo eta l 1 968 ) 7名 の学生を用いて, 統計学を教材として, 6週間にわた .( , る研究を行った。 完全学習群には, 宿題と週毎の形成的テストが与えられた。 そして, 必要に応じ て, 個人に対する援助や, 小 グルー プに対する援助 が与えられた. 完全学習群の65%がAの評定を 受けたのに対し, 非完全学習群は, 5%がAの評定を受けたに過 ぎない. 完全学習方式による指導 の有効性が示された. 5 )は 約90名の学生 で 現代数学と計算法を教材として研究を行っ た 完全学習 l l i Co ns(1969)( , , . 群, 非完全学習群ともに, 同じ教科書, 割りあて, 教材, テストが用いられたが, 完全学習群に対 しては, それに加えて, 各学習単位, 各クラスセッ ション, 各割りあて で達成されるべ き目標が書 かれた表が与えられ, 各セ ッショ ン毎に, 5~1 0分の診断テストが行われ, 引き続いて, 問題の討 議と質疑応答が行われた. 結果は, 完全学習群 では, 現代数学で75%, 計算法で6 5%の学生が, A かBの評定を受けたのに対して, 非完全学習群では, 現代数学で30%, 計算法で40%の学生がAか Bの評定を受けたに過 ぎなかった. 1 )は 教育心理学を教材に用いて研究を行っ た 完全学習群の学生は 学習目標 B i l 0){ eh e r(197 , , . が提示された。 この学習目標を基に して, 3つの学習単位テストが作られ, このテストに不合格の 学生は, 復習をし, 代換えテストで再テ ストを受けた, 学生は, 3枚の要約 ペーパーと, 1枚の術 語ペー パー を用いることができた. 不合格だっ た学生も, 進ん で復習に時間を費し, テストを再度 受 け れ ば, そ の コ ー ス に お い て, い い 成 績 に な る 機 会 があ る こ と を 見 い 出 し た そ して 90% 以 上 , .. の学生が, 従来のコースよりは, この完全学習コースの方を選択した. 従来, わが国の大学教育 で は, この研究に示されたような未習得の学生を習得に導くような方策は, 何等導入さ れなかっ た, 大学が, 増々大衆化していき, 多数の学生が大学に進学していく現在の情況下 では, 未習得の学生 の占める割合は, 増々増大していくこと であろう。 大学においても完全学習が考慮される必要 があ る の では な か ろ う か.. 39.
(7) . 藤友雄嘩:完全学習の実践研究. 5. わが国における完全学習 現代教育科学 (明治図書刊) は, 1975年4月号 で 「学習目標の明確化と完全学習の思想」 を特集 75年1 0月号 で, 「理科の完全学習とは何か」 を特集し し, 教育科学理科教育 (明治図書刊) は, 19 た. その他の教育雑誌にも, 完全学習関係の論文が掲載されるようになっ てきている, このように, 1 oom et al わが国の教育 界に完全学習が導入されるようになっ てきた直接の原因となっ たのは, B , 4 ( ) ブ 一法規出版刊 1 4 ) 9 7 1 「 ド ク (第 て 9 7 3年に 教育評価法ハン 」 (1 971 ) が, 梶田叡一らによ っ , ッ , , oom 年に,「学習評価ハン ドブッ ク」(第一法規出版刊)と題して, 翻訳出版されたことにあった. B1 l i は, Ty er を師とし, Ch cago 大学に所属し, 長年にわたっ て教育現場と密接した諸研究に従事して. 1 きた. B oom の主要な業績は, 彼の教育理論全体の基盤となっ ている 「教育目標の分類学」 , そして 「完全学 「 形成的評価を活用した これを活用 した形成的評価と総括的評価よりなる 教育評価理論」 , 習の理論」 ,これら諸理論を踏まえてカリキュ ラムの評価と新カリキュ ラムの開発とを行おうとする 「カリキュ ラム理論」 によ って構成されている. 教育研究の三本柱とも言う べき, カリキュ ラム, 1 oom 教育方法, 教育評価の諸問題を, 全体として統合し得る理論として存在しているところに, B の偉大さ があるの ではなかろうか. わが国においては, 完全学習はま だ導入の初期にあり, その成果を云々する時期にはまだ至っ て いない. しかしながら, 現在ま でにおける導 入のされ方をみると, クラスの95%の生徒が, 完全に 習得することを目指す学習, 即ち, 落ちこぼれを出さない教育実践としての完 全学習への取組みは, まだほとん ど見られず, 学習目標の明確化, 即 ち, 教材分析の方法として, 完全学習の理論を用い ようとしている段階にあるように思われる. 6. 幼児教育と完全学習 遊 びを, 保育内容の中心としている現在のわが国における幼児教育には, 完全学習などというも のは, 全く無縁のものと思われるの だが, 果してそう であろうか. 4 )では 就学前教育における学習の評価として 第1 ( B1oom eta l 1971 3章 で, 「社会・意識, 知 ) .( , , 「 4章 をとりあげている 覚.運動, 認知の発達」 で, 初期の言語発達」 , 第1 . その内容を検討してみ ると, 完全学習のもつ 思想性は, わが国の幼 児教育においても, 将来貢献するところ大 であろうこ とが示唆さ れる. 7. 展望 本論文 でとりあげた諸研究を概観してみると, 被験者としては, 大学生を対象としたものが多い. これは, 完全学習の実践研究の大部分が, まだ大学での実験的研究の水準にあることを示 している の ではなかろうか. 実験的研究に基づきながら, 教育現場に完全学習を広く日常化していくための 実践研究の発展が望まれる. 用いられた教材については, 全体として, 自然科学系教材が多い. これは, 教材を階層構造に構 成しやすい自然科学系教材の方が, そう でない人文科学系教材よ りも, 完全学習に適用することが 容易 であることを示しているの ではなかろうか. 完全学習を人文科学系教材にも広く適用 していけ る方法の開発研究が望まれる. また, 大学生を被験者とした研究に, 心理学を教材としたものが多いのは, 完全学習の研究者に, 心理学を専攻している者が多いため ではなかろうか. 広く 各教科教育の研究者と協力研究していく ことが望まれよう. 40.
(8) . 藤友 雄嘩 : 完 全学 習 の実 践 研究. その他に, 完全学習の実践研究が持っ ている問題点としては, 他の心理学の実験と比べて, 統制 群の設定の仕方があいまい で, 完全学習方式の優越性を立証したとは言い難い説得性に乏しい研究 も少なくないことである。 実践研究に, 実験室研究と同等の厳密さを求めることは, もとより無理 な事 であるとしても, これは, 今後考慮されていかなければならないことなの ではなかろうか。 ( 3 }が目指す クラスの9 1 968 ) 5%の生徒が完全 また, 完全学習方式の有効性は示されたが,B1 oom( , に習得する水準には到ら なかっ た。 95%は, 努力目標点であるに しても, それが, 普通の学校にお ける学級の授業水準 で可能 であるのかどうなのかが探求されなければならない. そして, 短期間 で のみ, 完全学習方式を実施した実践研究が多いが, 年間を通じて, 完全学習方式のみで授業を行う 実践研究も望まれよう. そうすれば, 完全学習方式が, 現在の学校の限定された授業時間数内 で可 能かどうなのかも示されよう。 本論文 で報告された研究のほとんどが, 完全学習の有効性を示したが, どの要因が, 何故に有効 であったかは, まだ明確にされていない. 今迄, 述べてきたこと以外に, 完全学習の実践研究で, 今後どのような研究が必要とされるの であろうか。 以下に列記されたことが, 研究課題の一部とな る の では な か ろう か.. ( )学習目標の分析:行動の要素として, どのような項目を設定するかの教育目標の分類について. 1 学習目標分析表を基に, 授業を どう展開していくか, 教材をどのように整備して, 生徒に どのよう な形で与えるか. ( )診断テスト: どのような方法で施行するか.テスト結果のフィ ー ドバッ クの仕方. テストの頻度. 2 ( )治療学習: どのような治療学習用教材を準備すればよいのか.どのような方法によれば良いのか. 3 ( 4 )授業過程全般:生徒の自習方式による学習は どこま で可能 であるのか。 生徒の自習と教師による 講義をどのように結びつけるのか. 自習方式で進める場合, どのような形 で教材を与えれば良いの か, 学習所要時間について。 生徒の学習の結果としての理解, 把持, 転移について, 生徒の学習の 進行に伴う興味, 態度, 自己概念, 精神的な健康さの変容について。 生徒の知能, 根気, 家庭環境, 社会環境が学習にどのように関係するか. ほめたり, 勇気づけたり, 即時強化を与えたりすること の生徒の動機づけに果す役割について. 教師の資質が果す役割について. 学習の個別化をどのよう に して実現するか. 授業の効率化を促す教育方法について。.ティ ーム・ティ ーチン グによる能力別 学級指導を導入することについて。 競争事態と協力事態が学習に及ぼす影響について。 習得した生 徒には, 全員AかBの評定を与える絶対評価の立場に立つ完全学習の評価について. 〈注〉 t t ’ A roacげ Educa ing f i IPsycho l i Learn t At t te t t r r r Mas ry (1) Biehl e s emptatat o ona og s pp . ,R.F. , A Fi ,7 1970 3 ( ) . . ,No ,7-9 i lob ives id McKay Co Ed j l.(Dav ) :Handbooks l and l nc (2) B1 oom,B.S,( ona ect . . , ,l , ,Taxonomy ofEducat 1956 ) t t l i 1968 ingfo t t ( ) (3) B1 r Mas erゾ’ ua on Comment oom,B.S, .2 . . UCLA‐CSEIP Eva ,1 ,No , Learn i i i l iono f H T T & M d G F H d b k F dS t t t t (4) B1 r oom,B,S a s n s a a u s : a n o o o n o m a v ea n umma ve Eva ua g, . . . , , , . . ing i l l l 1 M G H 9 1 StudentLea 7 ( ) c ‐ n rn r a w c . , , , i l i l ins tudy cs sheds (5) Col .(Unpub ,Purdue ,K.M. ,A Strategyfor Mastery Learningin Freshman Mathemat iver i i iono f Ma i ISc i Un t ) ty thema ca ences s s ,1969 ,Div l ins i l i tudy cs shed s (6) Col .(Unpub ,Purdue ,K. M. ,A Strategyfor Mastery Learningin Modern Mathemat i i i f Ma i ISc i Un ive t thema t ) r ono s s ca ences y .1970 ,Div. (7) 藤友雄陣 「完全学習の理論」24 3-24 2巻 第4号 1974 年 9頁 教育心理学研究 第2 l A M f i l l i i i l R S 工 d E d IP t t t t t t s s r r r n u o r shed mat a at e J e a e a e o r o c u c a o n a s cho ogy er (8)Gent y g y y y .(Unpub ,St ,. . , ive i f l fEduca iona IPsycho l Un t tBuf tmento t ) r s rka a o r ogy yofNew Yo .1970 ,Depa 41.
(9) . 藤友雄嘩:完全学習の実践研究 l f i idge t t t t r -Paced Cour sein Fr eshman Phys cs sachuse s: Mas sachuse s (9)Green,B.A. .(Cambr . ,A Se , Mas ,J l i lns i t ) t t on Resear chCent er ut eofTechno ogy .1969 ,Educa. 73年 東洋館出版社 (10 ) 日俣周二 横浜市立元街小学校 「学習目標の明確化と形成的評価」19 ” ” i i l 1968 l i i l lofApp ( ) s edBehav or Ana (1 1 ) Ke e r ys . ,1 ,79一89 ,F.S, , Goodbye ,Teacher … ,Journa i i f A i h i l i i f M i F h G d U b A L t S t t ( t t t n r r m n u shed Ph r n n r r s se r ‐ (1 ‐ a e e c e a r a e o a s e 2 ) Kersh, M.E. p g y y g . .D.d , i i ive i ta t tyofCh ) on r s cago .1970 ,Un ing l: Ko i fthe B1 i l t t tute fo t ta rean工ns oom St r a eg esf o r Mas ery Learn r (1 3 ) Kim, H, .(Seou . ,e , A Studv o Resea i ISc i ) rchintheBehav or ences a ,1969 l:Ko l i ingPr l l t tuteforResea tinthe Midd tery Lea j (14)Kim,H. reanlns rn o ec eSchoo s rch .(Seou . ,The Mas ,eta inthe Behav io ISc iences 1 9 0 7 ) ra . ionofLea ingSt l l i i t t t t (15)Mayo emme e ry Approachtothe Eva ua rn a s cs , ,S,T, ,R,C, ,andTr ,F,:A Mas ,Hunt l mee ing ofNa iona ICounc i lon Measur i C h i 1 1 l i i t t t (Paperpr ementin Educa on c a o n esent edatannua o s g , , , 1968 ) fCh icagoPr icago:Un ive i ingintheSecondarySchoo l i iceo fTeach tyo r s (16)Mor es s r son act .(Ch . ,H.C. ,ThePr 1926 ) i ing wi l i t t t th (17) Pos r nt r rn ewa ay egra ed Expe ence Appr oacht o Lea .N. ,S ,and Mur ,H.: Anl ,Novak ,T.D. i h Emphas i M i l i B P b l i C 1 9 6 4 ( ) n om a n ndependentStudy n n e a o s : u r e s s u s sonl p g g p y . . l l l i i fRe infor inc ip l l t (18)Sherm m J.G, ca ono cementPr est oaCo egeCour se esentedattheannua .(Paperpr ,App i i IRes i ingo fthe Ame i ) t t t rk on ona ea r ch Ass oc a r c zm Educa mee .1967 ,New Yo ’ Schoo ( t a nos ics ia llns ionin Ma i ISc i t themat themat (19)Thompson ruct cぎ enceand Ma sandRemed g i . .B. , ,R , Di 2 41 1941 1 2 5一1 8 ( ) . ,. 97 5年 明治図書 (20 ) 富山市奥田小学校 「学習能力を育てる完全習得学習」 1 ”Educa ’ i IMeasur Keytolnd i iv idua l i ing工ns ionandPr t t t t t n m e n sa sa z ruc (21) Washburne,C, W, o a e onざ omo , , lo fEduca i IRe 1922 t ( ) Journa ona sea r ch , ,5 ,195一206 て t t i ing Tes l ing t t th Va tl t te (22)Went ns on wi ry eryver sus Nonmas ry工 ruc em Feedback Tr eatmentゞ. ,T.L. , Mas i IPsycho l lo fEduca 1973 ( ) t Journa ona ogy . ,65 ,50-58 (本 学助 手 ・ 函 館 分 校). 42.
(10)
関連したドキュメント
大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ
工学部の川西琢也助教授が「米 国におけるファカルティディベ ロップメントと遠隔地 学習の実 態」について,また医学系研究科
実習と共に教材教具論のような実践的分野の重要性は高い。教材開発という実践的な形で、教員養
・学校教育法においては、上記の規定を踏まえ、義務教育の目標(第 21 条) 、小学 校の目的(第 29 条)及び目標(第 30 条)
副校長の配置については、全体を統括する校長1名、小学校の教育課程(前期課
全体構想において、施設整備については、良好
の原文は“ Intellectual and religious ”となっており、キリスト教に基づく 高邁な全人教育の理想が読みとれます。.
光を完全に吸収する理論上の黒が 明度0,光を完全に反射する理論上の 白を 10