短 報 Short Article
―127― 蘚苔類研究 ( ) 12(5): 127‒129, August 2020
木口博史1・澤田 満2:Funaria flavicans Michx.(トガリバヒョウタンゴケ,新称)は日本にも産する Hiroshi Kiguchi and Mitsuru Sawada: Michx. newly found in Japan
筆者の一人である澤田は,2019年6月下旬に青森県 西津軽郡鰺ヶ沢町の日本海に面した海岸を踏査した. そこで面積 4 m×4.5 m の範囲で生育しているカモガ ヤ,オニウシノケグサ,ハルガヤのイネ科植物群落の 中に,成熟した蒴をつけたヒョウタンゴケ属の1種が 径 10∼50 cm のパッチ状に群生しているのを見つけ, 確認のため木口に同定を依頼した.なお,本群落内に は,ホ ソ ウ リ ゴ ケ Brachymenium exile(Dozy & Molk.)Bosch & Sande Lac. も見られた.標本を送ら れた木口は葉細胞が大きく,蒴がやや傾き,頸が明瞭 に発達しないことからヒョウタンゴケ属の種であると 断定した.
Noguchi(1988)と Suzuki(2015)によると,これ までに日本から記録されたヒョウタンゴケ属の種とし て は, ヒ ョ ウ タ ン ゴ ケ Funaria hygrometrica Hedw. とノコギリギヒョウタンゴケF. serrata Brid.(syn. F. japonica Broth.)の 2 種がある.しかし,木口は標本 を詳細に検討した結果,北アメリカから報告のある Funaria flavicans Michx. に該当することがわかり, ここに日本新産として報告する.
Funaria flavicans Michx. トガリバヒョウタンゴケ
(新称).図1 植物体は黄緑色,やや密生して生育する.茎は高さ 5 mm,中心束がある.葉は密に重なり,茎の下部で 披針形,上部では卵形∼倒卵形,長さ1.5‒3.9 mm,最 も広い部分で幅0.5‒1.7 mm,舟形にくぼみ,葉先は急 に尖り,中肋のみになり葉全体の1/6程度が突出する. 葉の中央部の細胞は六角形∼長六角形,40‒80×25‒ 30 μm,葉の下部では長く70‒100×15‒25 μm,葉縁部 の細胞はやや狭く,小さな鋸歯がある.葉の断面で中 心束がある.青森産の標本では雌雄独立同株,蒴柄は 長さ 13‒18 mm,乾燥するとややしわがよる.蒴は頸 部を含め,長さ1.5‒1.7 mm,やや長い西洋なし型,短 い頸部を持ち,非相称,水平∼やや下向きにつき,乾 燥すると低い縦皺があり,口はやや斜めで広く開口す る.口環は大きくて,反り返る.蒴壁の細胞は長い六 角形∼長い四角形,皺部分の細胞は皺以外の部分に比 べてやや細長く,頸部に多くの気孔をもつ.外蒴歯は 披針形で長さ350‒380 μm,先端部は透明になり,一面 に小さな乳頭をもち,横線は突出しない.内蒴歯は外 蒴歯の1/4 程度で100 μmの長さ,一面に乳頭をもつ. 胞子は28‒30 μmで乳頭がある.蒴の成熟時期は晩春.
Crum & Anderson(1981)によると北米の東部で は比較的普通に見られる種類で,ヒョウタンゴケなど と混成するようである.Miller & Miller(2007)では カナダ北東部とアメリカのロッキー山脈の東方にのみ 生育が確認されているとしている.北米の東部地域に 分布する種類が青森県の海沿いの砂地で発見されたこ とは興味深い. なお,本種に形態が類似していると思われる2種と 比較したので,同定の際の参考にして頂きたい(表1). Michx.
Specimens examind: Japan. Aomori-ken, Nishitsugaru-gun, Ajigasawa-machi, (40°47′15.30″N, 140°14′18.36″ E). 2 m alt., on sandy soil, June. 23, 2019.
(Herb. M. Sawada); on sandy soil, Apr. 8, 2020. and Apr. 27, 2020.
(Herb H. Kiguchi, NICH & TNS). 本原稿を作成するのに,標本をお貸しいただいた 口正信博士(国立科学博物館)と片桐知之博士(服部 植物研究所)のお二人に感謝申し上げます. 表1. 形態の類似したヒョウタンゴケ属3種の比較. 中肋 蒴の傾き 内蒴歯と外蒴歯の比較 長く突出 水平∼やや下向き 内蒴歯は短い 短く突出 下向き ほぼ同じ長さ 短く突出 水平∼やや下向き 内蒴歯は短い
蘚苔類研究 ( ) 12(5), August 2020
蘚苔類研究 ( ) 12(5), August 2020
―129―
Summary.
Michx. is added to the moss flora of Japan. The species is closely related to
Hedw., but has leaves acuminate tip, endo-stome segments about 1/4 as exendo-stome teeth. It was found on sandy soil at Northern Japan. Description (in Japanese)and illustrations of the species are
giv-en.
引 用 文 献
Crum, H. A. & L. E. Anderson (1981). Mosses of East-ern North America. Vol. 1. 663 pp. Columbia Univ. Press. New York.
Miller, D. H. & H. A. Miller (2007). . In Flora of North America Editorial Committee (ed.),Flora of North America, Vol. 27 Bryophyta, part 1. 188‒194. Oxford University Press. New York.
Noguchi, A. (1988).Illustrated Moss Flora of Japan, Part 2, Hattori Botanical Laboratory, Miyazaki. Suzuki, T. (2015). Notes on (Funariaceae,
Bry-opsida): , syn. nov. of . Hattoria 6: 27-29. (1〒714‒1412 岡山県井原市美星町東水砂,2〒030‒0914 青森県青森市岡造道) (受理:2020年7月2日) 図1. トガリバヒョウタンゴケ a. 湿った状態の植物体.b‒e. 葉,f. 雌包葉.g. 葉頂部の細胞.h. 葉基部の細胞. i. 葉中央部の細胞.j. 葉縁部の細胞.k. 葉中央部の断面.l. 乾燥時の蒴.m. 帽.n. 蒴の表面細胞.o. 気孔. p. 蒴の横断面.q. 外蒴歯(左)と内蒴歯(右).r. 胞子.a‒l, n‒p と r は . m と q は より作図.
Fig. 1. a. Plant (wet). b‒e. Leaves, f. Perichaetial leaf. g. Cells at leaf apex. h. Cells at
leaf base. i. Cells at leaf middle. j. Cells at leaf margin. k. Cross section of leaf(middle). l. Capsule(dry). m. Calyptra. n. Exothecial cells. o. Stomata. p. Cross section of capsule. q. Exostome (left) & endostome (right). r. Spores. a‒l, n‒p and r drawn from . m and q drawn from .