• 検索結果がありません。

日本的経営 : その社会的な位置

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "日本的経営 : その社会的な位置"

Copied!
19
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)日本的経営 一一その社会的な 位置一一. 西. 明. 1 l1. 序章. 本論文の目的. 日本的経営に 関しては,周知の通りこれまで 多くの議論がなされてきた.其の多くはその時 時における日本経済の 成果と国内外における 政 治的 ,経済的世論の主流に即した 日本的経営 崩 壊論 ,或いは賞賛論であって,最近では 日本的 経営の長所を 見直そうとする 擁護論が加わって いる.本論は ,結果論的な立場によるものでは なく,日本的経営の持つ普遍性および 特殊性に ついて,企業に属する人びとの 意思決定,行動 様式からその 本質を考察しょうとするものであ る・. 日本的企業経常体は ,日本社会に規定された 事業体としての 社会的器官であ る.我々は日本 的 経営を,歴史的に 日本社会に埋め 込まれて 来 た 社会的条件の 下で,社会の要請に応えて 人び. 第 1 章 本論文の視座 第 1 節 問題提起 第 2 節 基本概念 第 2 章 日本的経営の 連続性を支える 理念 第 1 節 共同体原理 第 2 節 日本的経営の 編成理念 第 3 章 日本的経営の 特質一職場主体の 自己 組 織 ,性. 第 1 節 不確実性と自己組織性 第 2 節 職務発見と職務創造に 表出される 本 的経営の自己組織性 第 4 章 市場主義と社会生活秩序 第 1 節 自由競争市場主義 第 2 節 日本の企業社会が 支える生活世界 第 5 章 日本的経営の 社会的位置 第 1 節 共同体が持っ 社会的意義 第 2 節 日本社会と日本的経営. 日. とが具体的な 社会生活を行 う場 として把握する ,・ ,. 今日の日本企業社会にあ って ,人びとは企業を 通じて社会に 結び付けられ ,経済目的的世界と 生活世界のなかでバランスをとることにより 白 己の価値観を 実現しょうとする. 日本の企業社会に 生きて, 人 びとは何故一生 懸命働くのか. 動機はなにか. ? ?. 人 びとを職務にコミットさせる. これらの間 い に対して,以下. 人 」が果たす役割と 機能の視点から 次の章立 てに沿って答えを 見出し,社会との関係におけ る 日本的経営の 本質を把握することとしたひ. 「. 第 Ⅰ藁 本論文の視座 第 節 問題提起 米ドルが基軸国際通貨となった 第二次大戦 後,アングロサクソン型資本主義と ,自由競争 市場主義が世界的に 力を得る所となり ,各国社 会への浸透の 度を深めつつあ る.資本の国境を Ⅰ. 超える自由移動,新しい技術の短時間における 拡散,人を含む資源の最適活用の 場を求めての 生産拠点の国外への 移動がグローバル 競争を拡.

(2) 50. (192). 第 10巻第 2 号 (2005 年 8 月 ). 横浜国際社会科学研究. 大している, 日本社会においても ,株主主権論 をめぐる企業統治問題が 浮上し,リストラが促 進する伝統的雇用構造の 崩壊・変容が 人々の社 会生活での安定と 安心を奪い去っている , 戦後,経済復興,産業化が 叫ばれる中で ,. 日. 本 的経営は経済的・ 技術的合理性をひたすら 追. 求し,企業規模の 拡大・個人の 消費水準の向上, 国家としての 経済成長志向,を直線的に内在的 価値化して来た.そのプロセスが 進展する中で , アメリカ 的 経営方式を至上とする 考え 方が生ま れ,日本経済が 好不況の波の 中を進む過程で ,. 日本的経営に 対する崩壊論と 賞讃論が繰り 返さ. れて来た.その理由は,日本的経営の本質,そ れを支える理俳についての 本源的理解が 徹底 さ れないまま,結果論としての議論のみが重ねら れて来たという 所に求められる. 各国が持つ経営モデルの 体系,様式はそれが 依拠する社会が 持つ歴史的径路によって 規定さ. れる.本稿においては ,経営の本質を社会との 関係に焦点を あ ててマクロ的に 理解する方法が 試みられる.事業を遂行する経営体は 社会的存 在であ り,社会的器官としての有機的存在であ る. 日本的経営は 信頼と了解に 基づく協働, シ ステムへの成員のコミットメントを 基盤として 形成されて来た.絶ての国別経営モデルは 仝 業 経営体としての 一般的普遍性を 持つと同時に ,. 国際的に比較する 時には相対的特殊性を 示す. 日本的経営は 日本社会の歴史に 基づいて固有の 価値観を持ち あ. ,固有の行動様式を示す.本稿に. っては,かかる前提に立って 戦後の日本的経. 営の特殊性を 支えて来た理俳を. 確認し,共同体. 的日本経営体が 市場競争原理の 拡大する中で ,. 社会に貢献する 器官として今後志向すべき 方向 を確認したひ.. 経営の意思決定と 行動の様式であ る. 日本社会 に規定される 日本的経営体は. 生活が行われる 経営生活体としての 主体であ. 基本概念. 日本的経営は , 個々の成員が 果たす機能と 役. 割を一貫して 重視し,活用して来た所に特色を 持っ. 日本的経営とは ,人が理俳として持っ共 同を柱に協働と 生活の場 (職場 ) で運営される. っ. て,それ独自の価値観・行動特性を 持つ社会的 存在であ る.従って,日本的経営を 理解するた めには日本的経営を 日本社会との 一体化の中で 把握する必要があ る.間はこの姿勢を次の様に 表現している・ 「今日われわれが 日本的経営を 研究するにあ たっては,何よりもまず現代の日本企業が 直面 している社会問題から 出発する必要があ る」 ( 間, 1997, 3 頁 ) 日本的経営を 編成する基本理念は. ,共同体へ. の所属の観念に 立つ「信頼」と「了解」であ る.. 情報解釈,伝達,共有が 人々の自律的協働を 可 能にし,不確実性に対処する機能を 自己組織化 くことで見えざる 秩序を作り上げる. 組織化された 集団としての 経営体は共同の 目 標を志向し,共同活動を行 う 一つの閉鎖的な 社 して い. 会関係であ る・集団は関係そのものを 所与とす. る関係集団と 機能集団からなる.双者が家,家 族をその典型とするのに 対して,後者は特定の 目的をもって 成果を生み出す 手段としての 企業 を 典型とする.機能集団としての企業は,その 目的合理性追求の 観点から機能システムを 作り 上げ,成員に職務・職責を 割り当てることによ り,分業と協業を組織化する.昇進,報酬の シ ステムが職務遂行を 動機づけ,機能集団を維持 していく・. 家 共同体を母体とする. 日本社会は,生活単位. としての家の 理念と論理を 社会行動の規範とし て来た.家は生活単位としての 家族体であ り, 同時に機能集団としての 経営体であ る.関係集 団としての家の 論理が,機能集団としての 日本 企業に強い影響を. 第2 節. ,協働により社会. 及ぼした結果,本来目的的機. 能集団たるべき 日本企業は,その社会的関係と して職場を共同体的に 秩序づけて編成した.か くして日本企業は 共同体と機能集団の 2 つの規 範をあ わせ持つことになる.家の論理が,日本. 的経営の説明原理としての 納得性を与えられる.

(3) (193)@ 51. 日本的経営 (西 ll) 」. 根拠が。 ここに存在する.家の経営原則の体系 としての家の 論理が,同時に 組織原理となる.. 第2章. 日本的経営の 連続性を支える 理念. 家は家族の運命共同体であ り,「家は何よりも まず,その維持繁栄を 願 う 経営体であ る」 ( 三 戸, 1991, 6 頁 ) ということになる. これをウェーバ 一の類型化に 従って理解すれ. 第 節 共同体原理 共同体の原理を 見るために,ウェーバー ,ア ンニースそしてエチオーニの 論を参考とする. ウェーバー は ,社会的行為の行われ方が,成員. ば,日本企業の特質は,共同社会関係としての. の主観的な共属感情に 基づく社会関係をゲマイ. ゲマインシャフト 関係と利益社会関係としての ゲゼルシャフト 関係が共存し ,統合される所に 在るということが 出来よう. 小笠原はウェーバ 一の言う共同と 統合の関係. ンシャフト関係. を次の様に説明している.それによれば ,「経 営体とは事業達成という 目的的行為実現のため の統一体であ り,人の有機的システムを基盤と する実践的行為主体であ る.経営体は人間の協 働生活の場であ る」 (小笠原, 2004, 96 頁 ) 本 稿では,普遍的事業主体としての経営体という 概念に対し,より一般的・具体的存在を 示す場 合 には「企業」を 用語として用いることとして いる, また特殊性とは 国際上 較による柏村的特 殊性であ ることを強調するために ,日本型経営 でなく日本的経営で、 ・・・・・ 表現を統一した ,同時に, 日本企業は機能的性格と 共同体的性格を 強く 併 せ 持つことから ,このニュアンスを示すため企 ヒ. 業 共同体ではなく. ,共同体的企業を用いること. としている・ 日本的経営は ,今後.人間性と 社会性 人の自律と社会秩序. 個. の同期化を志向すべき. であ る.そのための方向づけとしてはヨーロッ パ社会における 共同体的思考方式,特にドイツ における,公共の福祉を最高の 捉とし,市場の 力を政府が活用しつつ 同時に抑制するという 役 割を果たすべきとする 信条に沿った 形での検討 が望ましいと 考える. しかし,この点について は,今回は至り得なかったので ,次の機会に改 めてとりあ げることとしたい・. Ⅰ. 共同社会化. と呼んだ.. そこでは目的合理性を 超えた感情価値を 中心と する人間結合が 特色とされる. テンニース (1935) によれば,ゲゼルシャフトが 諸個人が 互いに自己の 目的を達成するために 選択意志に もとづ けて 形成された社会関係. 利益社会一. 一であ るのに対し , ゲマインシャフトは 家族, 村落を典型とする「人々が 人間の本質そのもの. を表す本質意志によって 結合した統一体であ り,それ自体が有機体的生命を 持つ. 人 びとは 本質的には全人格をもって 感情的に互いに 融合 し.親密な相互の愛情と了解のもとに 運命を共 にする.そこでは交換や売買,契約や規制とい った概念の入り 込む余地は少ない.」とされる ,. ゲマインシャフトにおける 人間関係を支える. ものは了解であ る. 「了解 (Verstandnis, Consensus) が ゲ マインシヤ フト に特有な意志. としての相互に 共通な結合的心持ち (Gesinnung)としての社会的共感を 生む.」「了 解はその本質上暗黙のものであ. って,了解はあ. らゆる真の共同生活,共同居住,共同作業の内 面的な本質と 本性にもっとも 端的に表現され る.」「家が最小の中心としての 統一体であ り, 諸個人は家を 最終単位として 自由と所有権 を家 から導き出すことが 出来る.」「家 よりも大きな 全体はいづれも , ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 分散せる一つの 家と同じであ ・. る. .」. ( テンニース。. 1935, 邦訳 50 一 85 頁,傍点. 引用者 ). エチオ一二. (2001) はコミュニティとして 「あ る集団の個々のメンバ 一同士の間に 存在す る 互いに交差し 合い強化し合 う ような情緒に 基 づくネットワーク ,共属感情に依る連帯感を 持. ち」「共有価値,規範,意味および 共有する 歴.

(4) 52. (194). 第 10 巻第 2 号 (2005年 8 月 ). 横浜国際社会科学研究. 史や アイデンティティなどあ る特定の文化に 対 してメンバ一の 一定の貢献の 存在する人間関係 の属性の集まり」と 定義した. 西欧社会が形成して 来た市民社会に 対して,. 員. として生きていくためには ,社会生活を維持. するための責任を. 分担しなければならない.社. 会的責任を遂行する 必要から権 限が生まれる. 村落経営体が 発展するに伴 い 村長 ( ムラオ サ ). 核として,上に示 単独での統治は 困難となり,結果として権 限の される強い所属 (共属 ) 感情,共有価値,相互 分散化と委任が 進められて組織が 複雑化してい 了解,相互依存に立っ共同体社会を 構築して来 くことになる.生活世界を共有する中で 生活を た.人々は相互作用を通じて内発的な 慣習,制 維持・向上させるための 協働が多角化する.協 日本社会は家一氏族一村落を. 度と秩序に基づく 社会. 人間関係のシステム. な 形成して来たのであ る. ョ一 ロッ バ にお. ける市民社会誕生迄の 段階における 日欧の共同 体社会は同じ 哲学に立つと 言えるのではない か. 日本的経営は 共同体原理に 立つ生活世界の 構 築と ,経営体としての経済的集団目的を 実現す るための機能の 整備によって 編成されてきた. 日本的企業経営体は 家の論理が通底する 家 ,家 族としての関係集団と ,組織目的達成手段を追 求 する機能集団が 統合された日本特殊的な 経営 体としてこれを 理解することが 出来る. 日本社 会がその歴史的径路に 依存して保持して 来た関 係集団を貫く 家と村落共同体の 論理が,機能集 団の経営哲学に 支配的とも言ってよい 影響を与 えることにより ,日本的経営の特殊性が作り 上 げられて来た・ 村落と家のシステムが 構築して来た 日本社会 の基本的な構造は 共同体であ る.明治維新以降 の 殖産興業の国家イデオロギーがもたらした. 急. 速な産業化は ,それ迄の地域共同体をとり 崩し ,. 家を核家族化に 追い込んだ. しかしながら 産業 革命による市民の 形成を見ないまま 近代化を急 いだ日本社会は ,共同体的理念と行動様式を維. 持することとなる.共同体存立の基礎は,地域 と構成メンバ 一の ソト に対する閉鎖性であ り, ウチにおける 人相互間の強い 信頼の絆であ る. 信頼の原理がすべての 思考と行動を 引き出す. 同じ共同体に 所属し生活を 棺互に依存する 社会 関係が共属感情を 強め信頼を高めて い く,信頼. とは静態的に 先手的に存在するものではない. それは作り上げられるものであ. る.共同体の一. 働のプロセスの 中でも,人々は富と 社会的地位 0 差別化,自己の権 力の増巾を目指して 相互に 競争する.一見矛盾するように見える協働と 競 争の同期化は ,閉鎖社会が必然として持っ 社会 関係であ る.競争のプロセスを通じて権 力と富 の集中が結果し , 人々は生活の 安定と有利性を 求めて権 力者に奉仕し. ,社会的比較優位を求め. て,その庇護を 得るために努力するようになる. 集団が大きくなることが 組織化を促進し ,組織 化された集団は 公としての性格を 持つに至り ,. 人々の自発的奉仕は 半ば強制された 権 力に対す る奉公へと変容して い く. この過程を通じて ,. 人々は社会的義務を 果たすべく自ら 組織にコミ ットして い くことになる.かくて日本社会にお. いては所属感覚を 基盤にして,信頼の理念が 権 限 と責任の分散化につながることにより ,コミ ットメントの 精神構造が共同体経営のための 隠 れた秩序化を 社会的径路として 埋め込んで来 た.次節では ,日本社会が作り上げてきた 日本 的 経営を支える 基本理念を順序立てて 見て い き たい. ・. 第 2 節 日本的経営の 編成理念 1. 所属が生む信頼と 了解 日本的経営を 支える諸理俳は ,日本社会が辿 って来た歴史的径路の 中で形作られ ,そして埋 め込まれて来た.社会単位としての 日本の家は 血縁集団に止まらず 非血縁者を含む 生活集団で あ り,同時に機能集団としての特質をあ わせ持 っことにより ,日本的企業経営の説明原理とし ての有効性を 維持している. 近代日本企業の 発展を可能にしたのは ,企業.

(5) 日本的経営. (西 Jll). (195)@ 53. による有能な 人材の開発であ った,商家が作り. 誌 され,秩序化され,実行されるプロセスを通. 上げた伝統的な 丁稚一手代一番頭 一 支配人とい. じて成員相互間の 信頼関係が更に. うキャリア上昇の 仕組みが,今日の職能資格制 度の淵源となり ,昭和初年にかけての木工制の 成立が日本的長期雇用制度の 基礎となった. 第 一次大戦後に 始まった小学校卒児曹職工の 定期 採用, 見習 制度が今日の 企業内教育・ 訓練シス テムにつながり.大正期から昭和期にかけては ブルーカラー 労働者の終身雇用・ 年功序列 削 が. 日本企業は家の 論理が通底する 所属型組織を 持っ. そこでは成員としての 個人は経営体に 無 限定的に全面参加し ,全人格的に所属する. 成 員は企業理念,価値観との一体化と,企業への 忠誠心を要請される.共同体的日本企業は ,公 式・非公式組織を 併せ持っ有機的組織体とな. 慣習として成立した.大学新規学卒定期一括採 用が始まったのは ,明治40 年頃 とされているが , 小学校から大学に 至る直線的教育システムが 民 間型官僚制を 支える画一的な 所謂日本型サラリ ーマン層を作り 上げることとなったのであ る.. 日本の農村共同体は 季節の変化に 従って協働 して生産を行う 必要があ るため,水利を中心に システムを作り 上げる.秩序に関する取り決め や役割分担のメカニズムが ,自然環境がもたら す複雑性を縮減することを 人々は体得して 来. 家 社会づ村落共同体社会 づ 企業社会へという. た . 家 単位相互間での 信頼関係に基づく 協働が. 本社会の発展過程を. 日. 通じて,日本企業は職務遂. 行を図る企業内共同生活の 場. 経営生活体一. 強化される.. る・. 人々の生活を 安定させ安心を 与えて来たのであ る・. 一として特徴づけられることとなる.拡大され た 家集団としての 共同体的日本企業は ,成員に 対してはその 奉公に対して 生活保障が与えられ. ルーマンが「信頼とは ,社会的な複雑性の縮 減 メカニズムであ る」 (N. ルーマン,Ⅰ990) と. る職務遂行の 場 三 職場となった.関係集団とし. スを通じて,人は孤立的存在たり 得ず,第一義 的に生活の安定と 社会生活の安全を 求めて共同 体 に所属する集団的存在であ り続けて来た.企 業を場とする 共通の所属意識が 信頼と了解を 基. 不確実性と複雑性を 除去してシステムに 安定性 を与える・共同体的日本企業システムにあ って は.人々は他の所属成員との 間の柑 互 信頼を前 提 として暗黙の 了解に立って 行動する.システ ムの機能が予定通り 果たされることを 期待し, 将来に向けての 信頼関係を共有することで ,企 業内の場における 全体の流れの 中での自己の 役 割を認識 Tr解することにより 人々の間の目的 的協働が可能となる. 職務遂行の場においては ,情報と環境に対す る共通の解釈を 行 う ためにアナロバ 的了解を主 体とする成員間コミュニケーションが 行われ, 解釈と了解が 経験的に累積される 中で信頼が形 成されていく.一旦組織のシステムに 対する. 盤として一つの 生活圏を形成し , 人々は共同体. 人々の信頼が 出来上がると. の成員として 共同目標を持ち ,全体社会に結合 される. 日本企業は日本社会の 構造の中の特定 集団として生活圏を 構成し,目的追求のための 機能を持つ共同体的企業として 存在することと なる.果たすべき貢献と責任が 相互に了解, 確. は内部化され ,システムを通じて信頼が 無限定 なものとなって 組織内行動としての 協働が自律 的・効率的に 進行する.組織文化形成の基盤と なるこのプロセスは ,組織内における成員間の 縦横に結合される 人格的信頼関係に 立つシステ. ての家族の一員として ,人々は共同体的企業に. 所属し,家名 (社名 ) を尊重し,企業への強い コミットメント 意識を持つことになる.来経営. 体への所属が ,信頼を基盤とする人々の間の情 報共有を可能にし ,アナロバ的相 互了解を通じ て個々の成員は 共同体を維持するための 機能を 自発的に果たし ,責任を分担するシステムを組 織化して い く.特に農村の村落共同体を 母胎と する日本社会においては. ,生産一 収穫のプロセ. 指摘するように ,一般化された期待即ち信頼が ,. ,成員相互間の信頼.

(6) 54. (196). 第 10巻第 2 号 (2005年 8 月 ). 横浜国際社会科学研究. ム形成の行動として 端的に表出される.例えば,. 上司は部下の 人格的保障を 得ることは出来ない にしても,部下を信頼することによって 判断と 行動の権 限を実質的に 委譲することに 依り,自 己領域の仕事の 複雑性を全て 検討対象とするこ. 柏手が組織内行動を 起こす意図に 対する信頼で あ る. 2 つ 目は,協働する相手が同じ目的を 追 求する仲間として 認知され,目的達成のための 協働と行動能力を 保持していることへの 信頼で る.共同体的性格を強く持っ日本社会は ,集 団の利益を第一義とする 集団目的の追求を 可能 にする基本理念として「信頼」を 埋め込んで来 た.信頼に応えられなかった成員は,組織から 疎覚され排出される ,経済理論的に見れば, こ あ. とから解放されて ,自らの判断及び上層幹部か ら指示された 優先順位に従って 職務に専念する ことが出来る.他方,権 限を委譲された 部下は, 責任をもって 職務遂行に努力し 成果を得ること で 現在と将来にかけての 上司の信頼を 獲得して 自己のキャリア 形成にっなげて い く. このよう な組織内相互信頼形成プロセスが 蓄積される結 果,組織は全体として対処すべく直面する 複雑. れ 逐日本的経営は , 相 互信頼が可能にする 取引 費用節約によって. ,その有効性を高めて来た.. 性を縮減し , 新たに出現するであ ろう不確実性. 仝 業 集団内での系列取引,下請け関係による取 引がその典型であ った.近時集団内部の結合が 緩められていく 動きが,これ迄の閉ざされた 信. に 対処するための 行動を準備することが 可能と. 頼 関係から組織の. なる.企業が行. クの形成による 開かれた信頼関係の 構築. う. 業務のうち,定型的業務領域. については行動基準. 規定. 境界線拡大,対覚ネットワー. 引費用と機会費用両面での 効率化追求. が予め明示的. 取 に移. に細かく定められ ,行動を取り囲む不確実性が 除去されているため 意識的に職務遂行の 前提と して信頼関係を 作り上げる必要性は 比較的少な い, しかし多くの 不確実性が存在し ,それを予 測しての事前の 了解が乏しく ,行動のために多. 行しつつあ る・ 2. バーナードに 示される協働 バーナードにあ っては,協働が組織の存続原 理として捉えられている.協働とは複数の人々. 面的判断と意思決定を 要する業務領域にあ って は ,関係者相互間の行動及び結果に 対する信頼 関係と相互了解が 前提として予期されることに. 協力活動であ る.協働の原理は,個人主義に対. 依り , 初めて行動が 方向づけられ ,個々人の役. 割と行動内容の 範囲が決定され 得る.欧米型企 業が 垂直的な権 威一服従のデジタル・プロセス を用意することで 組織内信頼関係を 保障しょう とするのと対照的に ,日本型企業は黙示的アナ ログ情報の共有と 発信そして自己解釈により. ,. による目的達成,制約克服のための相互依存的 持 する集合主義であ. り,個人と集団の同時的発. 展の可能性を 見る.協働を柱とする組織 観 はい かにも経営者を 経験した人間としての 観方であ ると納得出来るものであ り,日本的経営にも通 底 する側面を持っ. 個人には目的があ るということ ,あるいはそ うと信ずること ,および個人には制約があ ると いう経験から. ,その目的を達成し制約を 克服す. 信頼の秩序を 現場で自己形成していく 点に特質 を 持つ.共同体的日本企業にあ っては,信頼に. るために協働が 生ずる.少なくとも一つの明確 な 目的のために 二人以上の人々が 協働すること. 立つ人間関係が 作り出す期待と 行動の安定性 が,相互了解を前提とする成員の 意思決定と行. によって,特殊の体系的関係にあ る物的,生物 的,個人的,社会的構成要素の 複合体として 協 働体系が存在し ,協働体系の構成要因として 物. 動の柑 互 依存を可能にし ,安心して自己の役割 と責任を果たすことが 可能となり,企業全体と しての機能の 有効性を高めて 来た. 組織内での意思決定と 行動の双提としての 信 頼は ,. 2 つの意味を持っ. 1 っは 関係する協働の. 的 体系,人的体系および社会的体系があ. るとさ れる ( バーナード, 1968). 協働 ( 体系 ) に関 するそれらの 言明は,日本企業が持っ人々の協 働関係にもそのまま 適用出来るかに 見える. し.

(7) 日本的経営. (西. 」. ll). (197). 55. かしながら,日本企業を運命共同体として 把握 する時「協働」は 全く異なる文脈を 持っことが 注意されなければならない.即ち 日本社会にお ける経営体が 基本理念として 持っ所属が生む 協. の内における 職務の境界線を 明確にすることが なれ.職務領域は自己の認知と 解釈に よ り,弾. 働は , 家の維持・繁栄を 第一とする理念から 発. 当該職務領域に 関係する成員間の 了解と協働 関. するものであ って,奉公としての無私の性格を 持つ貢献であ り,具体的には職務遂行の場で 生 起する自発的な 相互協働であ る. これに対し, バーナードが 説く協働は,アメリカ的経営を双 提 に報酬といった 誘因或いはルールによって 経 営効率を引き 上げるという 経営目的達成のため の管理の観点に 立つものであ って,そこでは協 働は (他律的に ) 実現されるべきものとなる. 日本的経営にあ っては,成員は経営体に全人格 的に所属することに 依り,奉公の理念に立っ内. 係の存在が前提として 期待されているというシ ステムの存在であ る.協働は職場間に行動の不 整合が起こることを 抑止し,間違っても組織 外 関係者たる顧客に 迷惑をかけてはならないとす. 発的貢献が行われ. ,自発的相互協働が当然の社. 会的合意 及至 了解として進められる 所に特質が あ る.所属の理念が貢献の理俳を 導出し,経営 体の成員はその 発展のために 相互に協働するこ. して い く.機能集団としての日本的経営は ,そ. 力的に理解されるが ,それを可能にするのは ,. る 成員間の強. い 了解を生んで 来た.集団として. の機能が果たされ ,協働にょ 0 目的が達成され ることが日本的経営においては 第一義的重要性 を与えられる.協働による機能達成の追求のた めのシステムが 存在する一方で ,日本的経営は 職能資格制度を 軸とする人材管理・ 育成システ ムを存在せしめることによって ,成員個人間, グループ単位間での 内発的な激しい 企業内競争 を誘発する.即ち,日本的経営にあっては, 協 働と 競争が同期化されることがその 特質とな. とが予定されているのであ る.. る. 3. 協働と競争 日本的経営の 特質は,日本社会がその径路 と して形成して 来た共同体への 所属意識,社会の 同質性とアナロバ 的了解がもたらすハイコンテ クストの場の 存在に求められる. 日本企業は ゲ. 協働と競争の 同期化が長期安定雇用のもたら す職務遂行への 強い動機づけと 相まって , 人々. マインシヤ フトと ゲゼルシャフトの 複合体であ. り,近代化のプロセスにおいて,共同体原理と 市場原理とを 融合するため 国家主導での 統合努 力が行われた.明治維新以降示された 富国強兵, 殖産興業に集約される 往時の政治理念は ,伝統 的共同体原理と 市場原理の共存の. 中に,日本の. ・. を自律的職務発見と 職務創造そして 自発的学習 に 志向させ,その結果,日本企業は 自己組織化 能力を特質として 保有するに至る.企業による 教育・訓練・ 異動のプロセスを 通じる経験・ 学 習が累積することで ,個々の成員は再帰 的 自律 性を身につけていくことが 可能となる. 自己組 織化の進展は , 新しい情報・ 技能の創造によっ. 活性化する. 集団の規模を 問わず,人々は生活の安定と. て組織を進展させ. 安. 将来を構築しょうとする 理念であ ったと理解さ. 心を求めて共同体的企業に 定着しょうとする ,. れる・. しかしながら 近代日本社会においては ,個人. 所属意識は個人が 所属する企業及び 企業内部分 集団を単位として 境界線をはさむ ウチとソト の. ,個人は自. 感覚を生み,経営体の 内部において 収入と所属. 主義一市民が 確立されることがなく. 分の所属する 何らかの集団が 持っ価値規準に 他 律的に同調する 傾向を継続して 来た.個人は共 同体的企業に 所属し , 他の成員の ( グループ ). ,自己解釈すること によって了解し ,集団としての企業秩序を維持. 思考と行動の 様式を見守り. 階層の上昇をめぐって 表面上は静かな ,しかし 内面では激しい 成員間競争を 引き起こす. こう した組織がらみの 日本特殊的な 競争は,個人が 保有している. 知識,技能を前提としての 欧米的. 競争とは全く 性質を異にする.欧米社会では.

(8) 56. (198). 第 10巻第 2 号 (2005年 8 月 ). 横浜国際社会科学研究. 人々の関心が 競争の結果として ,自分がどの社 会階層に帰属することになるかが 第一義的な問 題となるのに 対し,日本社会においては人々の 関心は,自分が所属する企業或いは 企業社会内 で自分がど う 評価されているかに 限定して焦点 が 合わされる.長期安定雇用が人々に安定した 生活世界を保障すると 同時に,その反面で年功. る. . 採 m に当たり,日本企業は面接を通じて 候. 補者が社会的基準に 即した一般的社会生活,判. 階層で働く同僚との 給与格差に鋭く 反応をす. 断能力を持つかを 先ず見定め,その上で当該企 業が重視する 内容を身につける 潜在能力を持つ かどうかを複数の 眼で観察し,会話に依って 確 認に 努める.通常は上位者による 面接が繰り返 されるプロセスを 通じて,素材としての候補者 が絞られ,採用決定された若者は,企業が設定 するプロバラムに 即して職務遂行に 必要な基本 知識・技能をインプットされ ,企業文化を埋め 込まれていく.採用段階で客観的に確認するこ とが不可能な 潜在能力は, OJT, 異動の各プロ セスで定期的に 行われる評定結果の 累積を追. る.けだし給与格差は単なる金銭的多寡であ. 跡,観察することにより ,その有無と内容が見. 制を含む職能資格制度を 軸とする人材システム が競争を促進するという 経営活性化の 組織を作. 上げて来た.従業員は他の企業 (産業の同じ かどうかは問わず ) で働く同期生 達 との給与格 差に対してではなく ,自分が所属する企業の同 り. る. 以上に , 彼に対する企業の 社会的評価を 意味す. 出され,或いは追認されて い く,. るからであ る.給与格差と集団内での地位に 対. ンをかけて行われる 入社初期段階での 従業員へ の教育・訓練投資が ,従業員の職務遂行へのコ ミットメントを 醸成する効果をもたらし ,企業 は 長期間かけて 職務が所期通り 行われること で,初期の教育投資を回収することとなる.人 材の能力,業績を対象とする定期的評定の 累積 が,特定の人材育成,配置の 方向を決定してい く.評定は直属上司のみならず,キャリア形成 の プロセスで直接関与した 複数の上席者によっ て行われることにより ,綜合評定としての妥当 性,納得性が追求される.新規大卒一括採用に 典型を見る採用方式と 在職期間をかけて 行われ る 評定方式が,協働と競争の原理に 立っ日本企. する鋭敏な感覚が , 人々の集団内の 競争に大き. な動機づけを 与える.企業内の競争意識は ,ソ トに 対する激しい 企業間競争の 意識とも通底す る. 人々の企業内競争は ,キャリアをめぐる競争 として表出される. 日本的経営の 特色は,その 官僚システムが 企業内自己完結的であ って ,殆 どの場合経営トップも 他の成員が通過するキャ リア競争の結果として 決定される点にあ る.長 期安定雇用と 年功 削 が全従業員の 参加機会平等. の下での競争システムを 作り上げ,官僚制シス テムがもたらし 得る経済的非効率性と 組織運営 への 逆 機能性を抑止する 機能を果たして 来た. キャリア形成競争に 於 いては,日本社会が持 っコンテクストでの「能力」が 競争の基準とし て大きな役割を 果たす. ァメリヵ の場合,能力 とは本人が先年的に 保有するものとして 理解さ れるのに対し ,日本社会では能力とは現在保有 している所に 止まらず,その上に立って本人の 自主的勉励,社会の教育訓練によって 新たな開 発・育成が可能な 潜在的可能性としての 能力を も 意味する. 日本的人事システム 全体の基礎と なる新規大卒一括採用システムは ,この考え方 の上に初めて 可能となり,その機能性を発揮す. 3 一 5 年のスパ. 業の人材育成,開発システムを構築し,全体と してのシステムの 高い経済合理性と 日的達成へ. の有効性を発揮して 来た. 競争. (compete) の源泉は「共に」を. 意味す. petere 二 toseek が合成されたもので. る. com. あ. るとされる.競争は本質的には協調的な 側面. と. と共通の義務の 側面を多分に 有するものとして. 観念されていた.協調的な 競争 (inclusive competition) という発想が 生まれてくること 自 体不思議ではない (宮坂, 2000, 131 頁 ). 論者が ョ一 ロッ バ で在任時の経営経験から 学. んだ新規参入競争者との 関係開始に当たって.

(9) 日本的経営. (199)@ 57. (西川 り. liveandletlive と表現される 観念は , 今にして. (3) 集団としての. 居、 えば競争と共存の 同期化を示すものとしての. 共同体的日本企業は ,責任の内部追及を行 う のとは対照的に ,上部社会に対する責任観念が. 西欧的発想、 ということが 出来る. 4, 責任と権 限 日本社会そして 日本の企業社会が 信頼の理念 を 重視する背景は. ,協働関係の中で責任の所在. がどうしても 不明確にならざるを 得ないという 文脈に拠る.社会的不確実性の存在が信頼を 必 要とする道理であ るが,不確実性に対しての 子 め 行動に対する 責任を規定し ,事前了解の上に 責任を問 う システムを作り 上げることは 不可能 であ る.信頼の理念に立つ日本社会は 企業シス テムに 於 いても責任と 権 限の概念を暖 味 なまま とすることによって ,その機能をアナロバ的に 取り扱ってきたのが ,特徴的である. 日本的経 営における責任の 特質は , 次のように整理する. ことが出来る.. (1) 責任の連帯性 日本社会においては ,権利一義務の意識が 不 明確であ. り,それを反映して日本企業社会での. 権 限 一 責任の意識もまた 不明確となる.責任は. 成員が所属する 共同体的企業の 場における半強 制的な連帯責任として 観念される. 個人の責任範囲が 不明確であ. り,包括的性格. を持つ責任と 利益の範囲が 契約によって 明示的 に規定される 欧米に対し,日本的企業社会では 職務遂行に伴う 個人責任の原理は 連帯責任にと って代わられることが 多い. 日本では個人の 社 全的主体性が 不明確であ ることから,個人の責 任は結果責任,状況責任として観念される.. (2) 責任と権 限の不一致 日本の企業社会においては ,権限の範囲とそ の 正当性を確認する 意識が低い.権限の委譲が 暗黙 裾 に行われるため.権限と責任の間に 不一. 致がもたらされる.個人が負うべき責任の 範囲 は極めて不明確であ り.場合によっては個人が 権 限を持たない 職務領域についてまでも 責任が. 問われ,状況次第でその受容を余儀なくされる 事態が発生し 得る.. 薄い.. 責任. 「世間をお騒がせして 相 すみません.」. 「社会にご迷惑をかけ 申し訳あ りません,」とぃ ぅ 謝罪表明は,市民社会全体を柏手に発せられ ているわけではなく ,当該企業が属している業 界を意識して 述べられる.因果関係の説明責任 が問われるというのではなく ,何よりも遺憾の 意を表現することにより ,社会への恭順の態度 を示してまずは 謝ること自体が 要求される.責 任を取る場合の 潔さが,世間の 同情につながる という社会的理解が ,最近における日本の代表 的大手企業トップが 不祥事に際して 行った如き 空虚な謝罪発言となり ,極端な場合には責任転 嫁すらを思わせる 発言につながる. 日本的経営においては 当初より,職務責任が 限定されている 専門職を別として 一般従業員の 場合,職位と権 限・責任の関係が 明確に規定さ れず,責任は無限定的なものとなることが 特徴 的であ る.川島武官 (1967) に ょ れば日本に伝 統的な規範意識においては ,権利の観念が欠け て い て,義務本位に 意識される傾向が 認められ, しかもその義務は 非限定性をその. 特色とする,. と 説明されている.. 権 限と責任が明示化されることのない 日本企 業のアナロバ 的了解のシステムの 下では,従業 員 個人としても. 将来負 う 責任の領域と 可能性を 予見し,それに伴 う 責任を見越して 行動するこ とは不可能であ る.論者が就職した昭和 30 年代 初めでは,入社時にそれなりの社会的地位を 持 っ第三者に依る 連帯保証書を 提出することが 習 慣 として行われていたことが 想起される.採用 する側は,本人が保証人に対して 持っ精神的 桂 格 が本人に自律的責任感をもたらすことを 期待 したのであ ろう.企業に所属することが 第一義 的な意味を持っ 共同体的日本企業の 採用システ ム にあ っては,可変的な責任領域或いはその 限 度を予め明確に 設定するような 感覚は所在する べくもなく,「ただ一身をもってお 仕えする」.

(10) 58. (200). 横浜国際社会科学研究. 第 10 巻第 2 号 (2005年 8 月 ). という武士社会の 所属一献身の 倫理が信頼の 精 神構造を支えるものであ ったことをうかがわせ. 木型企業グループによる 持株比率は 20% 台とい った 低 比率のもの迄を 含むといわれ ,第三者企. る. 業の参加を嫌う 欧米企業の持株比率が 殆ど. (4) 分権 と委任. 100% であ るのとは対照的であ る.信頼に立つ. 信頼の理念はまた. ,日本的経営に分権 と委任. の 概念を持ち込む.上位者権限の分散化と. 委任 の仕組みが一つの 組織内における 分散化の段階 から,持株会社による 日本型企業集団統治に 至 る段階まで日本的経営が 持っ統治システムの 基 軸. となり,統治の有効性を説明する.家が本家. を中核に分家,新家,別家を 興して発展・ 増殖 するプロセスが 企業にも適用される. 分家の設立が 企業の外に 荷 っての子会社の 分 離,設立,内に 伺っての事業部設置の 考え方に つながる.商家の場合には三井家の 例に見られ るよ う に,完全支配の支店として江戸表といっ た中心地に拠点の 展開を行い,本家の機能が分 与されることで 商いが基本的には 委任される 形 を 取った.経営については ,本家の完全統治下 に置かれたものの ,遠隔地で営業に従事して い く上で,分家としての店はかなりの 裁量権 を持. ち,自分の才覚を活かして行動したとされてい. した.競争力強化を図って行われる 組織分権 化 の動きは,最近では 純粋持株会社の 設立に代え, 社内力ンパニー 制度,社内資本金制度としての 経営手法の導入となって 表れている. ここでは 分権 化による下位組織の 経営効率引き 上げに加 えて,資本の論理による親会社の 統治・支配の 確保が志向されていることが 明らかであ る. カ ンパニー制度の. 導入は,分権と委任を通じて 経. 営責任の所在の 明確化と意思決定の 迅速化を図 る ,いわば組織原理と市場原理の接近を 図るも のということが 出来よう.従来の企業グループ 経営のあ り方と異なる 市場競争原理を 射程に入. れるプロセスは ,日本的経営に新たな市場の 不 確実性に対する 対応力を備えようとする 試みで あ. る.先述の如く 日本的経営の 共同体としての. 側面は,組織内における権 限および責任の 領域 を明確にせず ,責任を無限定なものとする特徴 をもたらす.共同体的日本企業においては, 成. る・. 分権 と委任による 増殖・展開の 論理によっ て,日本的企業グループが財閥として形成され ることとなった.企業グループとは持株会社と しての親会社を 頂点とする企業集団であ る. 1949 年 ( 昭和 24 年 ) の企業持株会社解禁が 親会 社と (複数の ) 子会社から成る 企業グループを 制度化した.信頼の理念が分権 ・責任を通じる 組織化を可能にし ,責任遂行と競争原理に立つ 経営効率化の 2 つの目的行動を 同期化した. 親 会社は資本による 支配の体制から ,分権化によ り責任遂行を 子会社に求める. 分権 の考え方が,日本的分社システムを可能に. 経営に移行する.. これ 迄 非自律的事業単位であ った組織がスピン オフされて独立採算の 子会社となることに 依. 員は組織内の 状況を自己解釈して 自己の組織内. の立場と役割を 認知しなければならない.不明 確な権 限と責任は , 逆に自己の職務領域に 関し て暗黙的に分権 と委任が実行されることを 意味 し ,個人に対しては組織内行動の 自由裁量の巾. が広げられ,結果,組織全体としての 不確実性 への対応力が 高められるという 長所を持っ.か かる長所が発揮されるためには ,日本企業が有 能な人材を確保し , 自ら教育・訓練することが 前提であ. って,日本的経営が人材中心の,換言. すれば人材と 能力に依存する 弾力的な経営であ ることを特徴的に 説明する所であ る.. り,経営の経済合理性が追求され,他方親会社. 日本的経営においては ,このように委譲され た 権 限の内容が客観的に 認知出来ないこと ,責. は 統括機能に集中出来ることで. 任が無限定的であ ることが,権限一職務遂行 一. 組織の肥大化が もたらす 逆 機能性を克服して ,グループ全体と しての経営効率の 追求を図ることとなった. 日. 責任 一 結果責任の所在を 分明にしない.然しこ. のことは責任の 所在を明らかにし 難いという マ.

(11) 日本的経営. に,組織内における実質的分権 と 委任は下位に 属する成員の 職務遂行に強 い 動機 づけを与えるというプラス 効果を持っ.協働に 価値が置かれ ,アナロバ的文脈で経営が進めら れる日本的経営においては ,不確実性が現実に ィテ. ス と 裏腹. 問題化した段階で , 改めて責任の 所在が問われ ることになる 場合が少なくない.事実これ迄 多 くの例にあ. って,責任は関係者の共同責任とい. う形で解決されて 来ている.所属が信頼を生み ,. 協働が当然のこととされる 共同体的日本企業 は,当初から権 限と責 を明示し規定してかか る組織文化には 馴染みにくいという 特質を持 ィモ. つ. しかしかかる 組織文化が実在することは ,. (201). (西 ⅠⅡ. 59. (1958) は,組織と個人が 交換関係にあ るとし て,組織からの報酬が個人の 組織への貢献をも. たらし,帰属する組織が個人の 特定の技能,欲 望,目標を満たすと認識する時,個人の対組織 コミットメントの 度合いが強められると 主張す る .退職・転職を抑止することが 生産性向上に つながると理解するアメリカ 型企業では,従業 員の対組織コミットメントを 高めることが 経営 管理の大きな 課題とされて 来た事情があ る. 以下,報酬 (給与 ) と職務遂行への 動機づけ に関する日本社会とアメリカ 社会の認識の 違い る 期待理論構築者として. ーⅢ. 知られる E. E. ローラ (1981) に拠ることで 把握してみたい.. 不祥事を起こした 日本の大企業トップが , 公の. 場ア 自己責任を回避するが 如き態度を取ること を社会が容認してもよいということを 意味する ものではない ,経営責任とはあ くまで結果責任. ①. であ る. このことは経営者責任として 十分認識. 一 給与は組織成員の 行動と業績に 影響を与え,. されなければならない・ (5) 奉公と献身 ( コミットメント. 組織の有効性に 直接的効果を 持つ. 一企業の全てのコストに 占める給与比率は 製造 業で 40%, サービス業では 70% 又はそれ以上.. ). 家の論理は , 家の盛衰を家族の 盛衰とし,家. を運命共同体とする ,雇用が契約に基づく限定 的労働と観念する 欧米に対し,日本仝業におい て 従業員は運命共同体としての. 企業に全人的に. 所属し,無限定的に 自己を滅して 奉公する精神 構造を醸成して 来た.そこでは家の維持・繁栄 のために家族が 犠牲になる場合も 容認される ( リストラが事実上容認されるのはこのためで あ る ).. 奉 」はもともと 神前に用いられた 言葉 であ り,尊上に対する奉公の観念が ,忠誠・忠 「. 節・滅私奉公の 観念を伴ってくる. 家 一国家一 企業が一大事に 直面する際,奉公と献身の意識 が 強められ表出する. このことは間がつとに 戦 後における企業戦士の 労働エートスとして 指摘 した所であ る.社会と国家を貫く共同性として の公は,道義とか正義の観念を 伴 う よ う になっ た、. ・. (滅私 ). 奉公の理念に 対しコミットメントと は,特定の領域に対象を絞った 献身と理解して よいのではなかろうか・. マーチ ニ サイモン. 職務遂行への 動機づけとしての 給与の役割 ローラーⅢの 主張 ( 論者の若干の 用語の変更. を含む ). 仝 業 生産性の改善につながるインセンティ. ブとしては,給与30%, 目標設定 18%, 職務 充実 17%, 参加 0 . 5% と ,給与の持つ比率が 一 局い. 一 給与システムの 変更は組織全般に 亘る 変化を. 創出する.給与システムは一旦変更されると 極めて大きな 存在となり,組織行動の決定に ン 重要な役割を 果たす.職務評価体系と給与、 ステムが職務充実に 大きな影響を 持っ. 一 給与に対する 個人の満足は , 人々が実際に 受. け取る 額と, 受け取るに値すると 思う期待 額 との関数であ る.. 一満足感は他の 人の置かれている 状況との比較 によって影響される 複合的なものであ る 報酬の二側面 内的報酬…達成感,満足感など 自分自身に 対する報酬 外的報酬…上司・ 組織の報酬体系 一組織は人々に 正確な情報を 提供することがな.

(12) 60. (202). 横浜国際社会科学研究. かなかできない.人々は実際にそうであ. りも,自分自身の 報酬を相対的に. 低く. るよ. ( 悪く ). 見てしまいがちであ り,他人の業績を過小に 評価する傾向を. 持っ.. 第 10 巻第 2 号 (2005年 8 月 ). 認識された個人的職務情報. コ. 認識された情報と 準拠他者の成果. 受けるべきであ ると. 認識された 額. A. 認識された職務特性. 一 給与体系は業績向上への 動機づけの要因とな. .人々は自分の認識マップに 立って,自分 の欲求を最終的に 充足させる結果につながる る. と期待される 行動を選択する.業績への動機 づけは,人々が 自らの欲求に 対する状況や 給 与 をどのように 認知しているかに 依存する. 一一般的に役割選択を 行 う 人々に対する 動機づ けは,以下の場合に最も大きくなる. 特定の行動があ る成果につながると 信じて. Ⅰ. ( 努力 一 業績期待 ). 満足が業績の 結果として生じることが 認識さ れる 時 ,満足が動機づけを増大させることに. 同等の位置と 認識する 準拠他者の成果. 確率は,知覚され る ( 努力 一 業績 ) 確率と知覚される (業績一 報酬 ) 確率の積と仮定することができる. ブルームの期待モデルでは ,組織の成員が. ユ コ. 実際の受け取り 給与. 認識された. 図2. 給与満足の決定 因 に関するモデル 給与満足に対するアメリ ヵと 日本の見方は 対. 照的であ る. ローラ一のアメリカモデルとそれ. に準拠して作成した 日本モデルを 図 1, 図 2 とし て対比すれば 次の通り.. ノb. 不満足感. a. 満足感. a=b. b c. ノb. b ノ. c. 日本モデル (論者作成 ) ∼他者準拠での 比較満足. 第 3 章 日本的経営の 特質 一一職場主体の 自己組織性一一 第 節 Ⅰ. 不確実性と自己組織性. 日本的経営の 特質は,それが持っ高い自己組. 織性にあ る. 自己組織性とは ,組織のシステム が内外の環境と 相互に作用し. ②. a. 受け取り給与. 地位,報酬の上昇 ) をもたらす確率が 高いと いと認知するほど ,仕事遂行に努力する動機 づけが高くなることが 仮定されている.. 自己が認識した 成果. 認識された準拠他者の 給与. 結果,特定の成果 (例えば. 認知するほど , 又 成果が自分にとって 望まし. 評価されるべきと. 主観的成果認識. ( 努力一報酬 ). 自己の仕事努力の. A=B. アメリカモデル (ローラⅡ ∼職務基準に 対する金額満足. なる・ 一 知覚される. 満足感. ). その業績が自己にとって 魅力的であ ると感 じている時. 望ましい水準での 業績が達成可能であ ると 信じている時. ン. A ノB. :. いる時. (業績一成果期待. ミ. ニ. 過小報酬感. ,機能化するプロ. セスの中で自らの 構造を変化させ 新たな秩序を 形成する性質であ. って,自己組織化は,自律的. な個体に固有の 行動であ る.人間社会において は,成員たる個人が,社会を 自己認識する 過程 を通じて自己組織化を 進めて い く.. 日本の経営の 場で個人は職務遂行を 通じて, 自律的な秩序形成を 行 う .特に日本的経営の場 では成員による. 恒常的な創造.革新,適応が 求. められることが 特徴であ り,そこでは他律性. よ.

(13) 日本的経営 りも自律的な 主体性が高い. 価値を持っ.経営者. (西 )ll). 第2 節. 自身,経営管理システムの一つの要素と 考えら れること, ヒェ ラルキ一の経営管理システムは.. (203). 61. 職務発見と職務創造に 表出される日本 的経営の自己組織性. それが持つ知識,制御機能に限界があ ることか ら,特に日本企業の場合管理の方式として 常に 適切な有効性を 持つものではないと 言ってよ. 共同体的日本企業では 人々は各自に ,所属或 いは関係する 企業内の場の 情報と行動そして 仕 事の流れを解釈して 行動する. 日本社会にお い てはそれが持つ 共同性のゆえに ,人々は他の個. ⅠⅠ. 人又は集団が 発する情報を 意識して受けとめ ,. 自己組織化は ,情報解釈のメカニズムを通じ て進展する.従業員が全般に高い教育水準と 相 互の ハイコンテクストを 持つ日本企業において は,下位,中位グループに 所属する成員も 同期 的に情報を共有し 解釈することを 通じて,仕事 の新しいアイディアを 自発的に作り 上げ,相互 了解と合意を 経て新しい組織行動が 生まれる. 各部門における 新規行動能力が 統合されて新し いシステムが 創出され,全体の行動秩序が自己 維持的に進められる 時 ,それは組織の進化とし て認知されるところとなる.. その行動を観察することによってそれが 意味す る所を感覚的に 解釈し,自己を社会に位置づけ る 文化を伝承して 来た.共同体の一員としての 自己存在を認知し ,協働と競争を生活規範とし て受け入れ,共同体への所属を確認することで 安心と生活の 安定を希求する.共同体の一員と して安心して 生活を営んでいけることを 確信で きる 時 ,人々は生活圏の中で自己領域を 自律的 に創出する意欲を 与えられ,全体への貢献を自 律的に果たす 用意が行われることが 可能とな. 経営体は.特定の 目的を達成しょうとする 社 会組織として ,指示にもとづく 合理的行動によ り秩序づけられるものと 見られやすいが ,我々 が現実の日本企業を 見る時,それは基本的に自 己組織的システムであ って,すべてが経営者の 制御の下に置かれていないことは 明らかであ ろ う,企業が行う 組織行動すべてが ,意図された 計画の下で行われているわけではない.絶え間. アナロバ性の 強いハイコンテクストの 経営体 としての日本企業では ,従業員が創造する暗黙 知の共有化が 組織知の創造に 大きな役割を 果た すことを特質とする.情報の共有化とそれに 基 づく情報の創造,情報ネットの形成が日本的経 営の自己組織化能力を 高めることに ,日本的経 営はその本源的特質と 有効性を持っ.人々の企. な い 環境変化,直面する不確実性に囲まれて ぃ. 易にし,機能が果たされることを 第一義とする. 中で,企業が全方位に向けて 意識的に其の 行 動を計画し,準備することは不可能であ る.不 確実性の下で 企業が生存を 図るためには ,組織 内部に多くの 現場情報を持ち ,相互調整により 情報処理を進め 状況に自発的に 対応し遅滞なく 実行するセンターが 多く存在していることが 必. 現場主義,経験和重視の 日本的企業文化を. る. 要であ る. 自己組織化能力の 高 い 企業が高 い 不. 確実性克服の 能力を持っことが 出来る.特に 日 本的経営は組織が 進化する過程の 中で相互行為. が了解,選択,合意,制御を 経て自発的に 不確 実性に対応する 規範,規準として慣習化され秩 序付けられて い く強 い 性向を持っ.. る. 業への所属意識が 企業内の知識移転 一 共有を容. 育て. てきた・. 欧米企業においては ,新しい職務に就くに際 しては,多くの場合アサインメントレターを 手 渡されることにより ,担当する職務内容の具体 的 詳細,職務遂行に伴 う 権 限,責任そして報告 ラインが規定される.要素還元的分業組織の下 では,指示・ 命令はトップダウンで 行われ, 個々の従業員の 持つ権 限と責任の範囲は 明示的 に限定される. これと対照的に 日本企業に所属 する正規従業員の 場合においては ,担当する職. 務範囲,権限,責任の明細が通知されることは 原貝 Ⅱとしてな い . ゼネラリストとして 非定型の.

(14) 62. (204). 横浜国際社会科学研究. 第 10巻第 2 号 (2005 年 8 月 ). 判断業務を主として 行う所謂日本的ホワイトカ ラ一社員の場合には ,与えられる職務は包括的 であ り,具体的職務遂行は前任者からの 引継ぎ. 繍仏能力を作り 上げる. 自律分散的な 自己組織. に基づいて行われる.引継ぎをべー スに個々人. 日本的経営はその 歴史的径路に 依存して共同. が新しい職務の. 姿を認知し,それに 自分なりの. 化の行動が , 新しい全体組織の 有機的結合をも. たらし,情報共有化のネットを拡大していく. 体的性格を強く. 持ち,ハイコンテクストの環境. 創意・工夫を 加えることで 遂行方法を改善し ,. に 存在する事からして ,他国のモデルに較べて. 新たに作り出すことになるが ,重要なことは ,. 企業成員による. このことが新しい 自己の職務領域を 創出する機. 易であ り,其のことが高 い 自己組織性を 日本的 経営の特質とすることに 結びっく.企業が組織 を 維持していくためには ,経営者の指示,命令 の領域を超える 重要な木質的要素と 組織化能力 自発的 が必要であ る.信頼,忠誠心,職務への 動機付けといった 日本社会の特質が 日本企業に 高い自己組織性をもたらして 来た. この点にお いて日本的経営は 国際的に見て ,すぐれて比較 優位にあ ると言わねばならない.事実この事が これまで日本企業の 国際競争力を 下支えしてき たことは,間違いのないところであろう. 日本企業における 経営者の役割は 命令者ない. 能をもたらすことであ る.新任の場で 人々は ,. 過去に習熟した 専門分野を活かして 新しい職務 領域を編成し , 或いは新たにチャレンジすべく. 領域を作り上げて い く場合もあ ろう. 日本の仝 業 システムにおいては ,担当すべき. 業務 (課業 ) は 課 或いは 係 といった集団として の 職場単位の業務表現として 与えられる.課・ 係に配属されて 上司から具体的に 職務が割り振 られ,少なからぬ部分が個人の 創意と工夫の 世 界に任される.新任者が 日本の社会水準で 通常 の 職務処理能力を 持つ場合,かかる創意工夫の 裁量,自由領域が存在することが 職務遂行への. ,工夫・改善のプロセス. 情報の共有,解釈がすぐれて容. し能動的行為者のそれよりも. ,日本企業の特質. 務 領域の重点シフト 或いは領域の 新規拡大をも たらすことで 個人による新たな 職務領域の発 見,開発,創造が 可能となる.個人としての担 当者は,システムへの信頼と,関係を持つこと. であ る自己組織化能力を 高めるために 組織要素 間の関係を円滑化し.調整することである. 日 本企業の経営者は 自己組織化 づ 秩序化の流れを 迅速化し容易化する 触媒として機能するところ にその最大の 機能を持っ. このことはウルリッヒ (1997) が夙に指摘し ている所であ る.即ち「将来におけるリーダー シップは,フォーマルな意思決定の仕組みから 下される決定によって 遂行されるものではな く,多くの試行とリスクテーキンバの連続によ って遂行されるものになる.」. になるであ ろうパートナーへの 信頼を前提に ,. 企業内教育,訓練の一環として若年層従業員. 大きな動機づけとなり. が業績と合わせて 評定の大きな 対象となり,昇 進・昇格へと 結びついて自発的職務創造が 結果 として報われることとなる・ 即ち非定型の 判断業務の場合には ,権限と責 任の境界が明示されることなく ,個人が自主的 に決定出来る 範囲の弾力性が 大きいことが , 職. その了解と協働を 期待出来ることにより. ,職務. 遂行への動機づけが 強められる.結果,上司の 了解をも得た 自己組織化. 上で,組織内で新しい秩序化一一 が進行する.個の 自発性が全体. に 対し,慣習的に行われて来た 企業主導の異 動・転勤のシステムは , 新たな職務領域の 可能 性を実際に学習する 機会を従業員に 与 え, 彼ら に自己能力発見・. 開発の場を提供する.かかる. スが協働と意思決定の 新しいプロセスを 生み出. 企業内学習プロセスにより 従業員は (1) 将来 専門的に担当することがあ り 得 べき業務内容。. す.自律的問題解決やプロセスの改革,新規開. 業務間の連関を. 発が自律を基本原則とする. 人的関係を作り 上げることで 情報の伝達・ 共有. の 秩序を進化させ , 創 発的自己組織化のプロセ. 日本的経営の 自己 組. 理解し, (2) 他の職務領域との.

(15) 日本的経営. (西 Jll). (205). 63. が 容易となり, (3) 人 と情報のネットワークを. 自由競争市場主義が 浸透するに伴い ,コスト. 可能となり, (4) 自己のキャリ. 削減 づ 競争力維持の 経済的要請が ,これ迄の伝. 拡大することが. ア 形成を選択し 方向づけることが 出来ることと. なる.企業側は上のプロセスを 通じて個々人の 適性発見と能力開発の 方向づけが可能となり. ,. 統的雇用慣行をリストラ ,成果主義の形で崩壊 させ,従業員の生活世界を支えて 来た日本企業 の社会保障費負担部分すら 削減の対象とするこ. 学習を通ずる 個人の組織コミットメントと 貢献. とが容認されるに 至っているのが 現状であ る.. 意欲の上昇,自己組織化能力の引き上げを期待. 長期安定雇用が 従業員の生活世界を 支えること で,仕事に対する動機づけとなり ,協働が日本. するのであ る. 職務領域が細かく 規定されることがなく , 柑. 互 アナロバ的に 相手の行動を 予測し,協働が実 現する共感と 相互了解に立っ 職場において ,. 人々は新たに 自分が置かれた 場の状況,そこで 期待される自己の 役割を確認し 参加していくことになる.. ,. 新しい秩序に. グリーン エー リア. 的経営の優秀性を 維持して来たという 事実が ,. 今や社会的に 無視されているかに 見える.市場 競争主義は,個人が各々の自己責任において 就 業能力を用意することを 強要する段階に 至っ た. 目先の短期的利益捻出へのイデオロギーと. して 課 と課の間に存在する 担当領域のニッチ ,. しての成果主義が 従来の年功制度を 脆弱化し , 雇用を不安定なものとしているのが 現実であ. 部 と部の担当領域の 隙間空間を埋め , 或いは新. る. たなニッチの 職務を創出することにより ,自己 の能力が所属集団によって 認知され,評価され ることを期待して 日本企業の職場で 人々は自己 領域の創造と 拡大に努めるのであ る.. 市場主義は自ら 制御する能力を 持たず,社会 生活を呑み込んで 不安定なものに 化してしま. 第4 章. と. 市場主義と社会生活秩序. 第 節 自由競争市場主義 1960 年代以降の大量生産一大量消費のシステ ムの大規模化による 経済成長の過程で ,日本社 会全体が市場システムに 包摂されるよ う になっ Ⅰ. た,生産効率の引き上げが至上命題とされ. ,. ぅ. .. このことは 1950 年代ポラニーが 適格に指摘. した通りであ り,正に現代において顕現してい る所であ る.「市場はそれが 経済的自己調整の 器官であ ることをやめてしまう」のであ り, 「市場社会においては 社会は市場に 分解させら れ ,人間と自然は社会実体としての 質を失 い 。. 経済の単なる 要素に転落する.」 1957, 邦訳 337 頁, 421 頁 ).. (ポ. ラニー,. 自. 由は競争の自由に ,平等は参加機会の平等と理 解されることとなった.情報の技術革新が市場 経済システムによる 社会の一元的組織化への 途 を開いた. 自律的制御のメカニズムを 持たぬ市 場において,情報と技術の同時的拡散,人を含 む 資源の有利性を 求めての生産拠点の 国際移. 動,貨幣価値本位を欠いたままの 無秩序な資本. 第 2 節 日本の企業社会が 支える生活世界 第二次大戦後の 日本社会においては ,国家に 対する意識が 意図的に薄められ ,企業社会が個 人と共同体としての 全体社会の中間に 存在する ことになって ,企業社会が社会の中心的存在と なる.個々の企業は雇用と 雇用システムを 通じ て生活社会に 対する貢献と 責任を果たす 存在に. 移動が,今日のグローバル市場を形成する ,世. なった.慣行としての長期安定雇用と 年功制度. 界にまたがる 自由競争市場のもたらす 基本的問. が,従業員が生涯所得を算出することを 可能に することで,生涯の 個人生活設計を 可能にし, 人々の生活世界に 安心と安定を 用意する.安心. 題は ,市場がこれ迄 依存して来た 自律的社会と 世界的範囲にわたって 衝突し,各国の社会シス テムとりわけ 生活社会に混乱と 破壊をもたらす ことにあ. る・. と安定の上に 立って日本社会の 共同体原理は ,. 市場主義を抑制する 機能を果たして 来た..

(16) 64. (206). 横浜国際社会科学研究. 給与と非法定の 社会的生活保障コストを 負担 することで,日本社会はそれが内包する企業社 会が社会生活の 中核的役割を 担 う 存在であ るこ とを認知し.日本企業が社会的器官として 機能 し行動することを 承認して来た.かつて従業員 の家産形成を 果たして来た 法定外福利厚生シス テム. 住宅資金低利貸付制度,そして退職金. 制度すらが動揺しているのが 現実であ る.市場 主義の拡大に よ り , K-401 型年金が導入される ことに依り,個人は不慣れな金融市場に 参入し て自己採算リスクで 資産形成を行 う ことを強い られる. 日本の企業社会に 帰属し , 個々の企業に 所属. することで,人々は 共同性への要求を 充足され, 他方で主体的個人として 消費市場で自己の 欲求 を充足して来た.人々は 社会的価値観を 共有し, 共同体としての 日本社会に帰属することによ 受け入 り,共同体が求める道徳,倫理,規範を れ ,生活世界の秩序を維持すべく 貢献して来た のであ る, 現代日本社会においては ,人々は一人では生 きていけないという 基本的心情から 共同体への 帰属欲求を強く 持ちながらも ,市場競争主義が 主張する個人の 自由,自律性との矛盾に曝され ているのが社会的事実というべきであ ろう. こ. れ逐日本企業が 担って来た職務達成能力の 獲 得,キャリア形成の場を,個別企業の領域を超 えて公共が代替することは ,現実問題として不. 第 1(@ 巻 第 2 号 (2005年 8 月 ) い くことが可能となる. この間の考え 方を ェ チ. オーニは次のように 要約している.共同体に帰 属することにより ,人々は「個人の自律と集団 の秩序の間のバランス ,権利と責任の間のバラ ンス,国家制度,市場および 市民社会の間の バ ランスを探求する.」 ( エチオーニ, 1997, 邦訳 433 頁 ). 我々は個人と 社会の関係については ェ チオーニの文脈を 基礎としつつ ,同時に,共同 体としての社会に 依拠することによる 市場と生 清世界との 共 進を模索する 視点に立つ.ポラニ 一 (1957) は,経済を生活経済と (貨幣 ) 交換 経済に区別し ,生活経済とは社会が自然発生的 に 形成して来た 規制により集団的生活の を 確保しているものと. 規定した.我々は ポラニ. (1957) を参考としっ っ ,第4 章で見た如く. 一. 個人一社会一市場の 関係を市場 生活世界. 対. るものであ. ( 社会秩序 ). (. 自由競争 ). の構図として 把握す. る・. 我々は,経営体を構成する個人を 第一義的に 考 え ,個人とシステムが織りなす経営体を 成員 の生活世界が 確保されるべき 生活体と理解す る.いやしくも組織が先手として 持っ個々の成 員を人材としてではなく. ,人的資源として他の. 資源と同列に 見るのには与しない. 次 章では個 人の自律的意思と 社会的生活の 安定した秩序を 同時に追求する 共同体的日本経営が 行動主体と して持っ課題は 何であ るかを考えたい. 第5章. 可能に近 い .選択肢は限られている.人々の 生. 活世界を優先して 確保するためには ,日本社会 が自由競争一辺倒がもたらす 経済の逆機能性に. 安定性. 第 節 Ⅰ. 日本的経営の 社会的位置. 共同体が持つ 社会的意義. 対し,企業社会を通じて自ら防衛を 計らなけれ. 金本位制,固定相場制といった貨幣の国際的 価値基準を欠いたまま ,個人の自由と,競争の. ばならないということであ. 自由を主張する 市場主義がもたらす 社会の非秩. る. 日本社会は ,. 人々に生存権 を保障しなければならない.かか る社会に対する 生活世界確保の. 要請の中で,日. 前にして,我々は共同体 が持っ社会秩序化の 機能を再評価し ,その中で. 序化と生活不平等化を. 本的経営が志向すべき 所は何かが問われること. の個人の自律を 達成する途を 考 え なければなら. となる・. ないという歴史的局面に 置かれている. 共同体は ェ チオ一二 (1997) に依れば,次の. 共同体に帰属することによって 初めて人々 は,社会における生活世界の設計が 可能となる のであ り,市場主義との共存の可能,性を 求めて. 要素を持っ. (1)連帯性と補助性を 持っ自律的, 人格的相互関係を 理念とし,共同のア イ デンテ.

参照

関連したドキュメント

1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における

ƒ ƒ (2) (2) 内在的性質< 内在的性質< KCN KCN である>は、他の である>は、他の

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

最愛の隣人・中国と、相互理解を深める友愛のこころ

図 21 のように 3 種類の立体異性体が存在する。まずジアステレオマー(幾何異 性体)である cis 体と trans 体があるが、上下の cis

市民的その他のあらゆる分野において、他の 者との平等を基礎として全ての人権及び基本

ニホンイサザアミ 汽水域に生息するアミの仲間(エビの仲間

二月八日に運営委員会と人権小委員会の会合にかけられたが︑両者の間に基本的な見解の対立がある