実験的高血圧性臓器障害におけるレニン・アンジオ
テンシン系の関与と新規アンジオテンシン受容体拮
抗薬の有用性に関する研究
著者
島村 寿健
号
487
発行年
2004
URL
http://hdl.handle.net/10097/15641
氏
名(本
籍)
学 位
の 種 類
学 位 記 番 号
学 位 授 与 年 月 日
学 位 授 与 の 要 件
島
村
寿
健
博:士(薬
学)
薬
第487号
平
成17年1月19日
学 位 規 則 第4条
第2項
該 当
学 位 論 文 題 目
実 験 的高 血 圧 性 臓 器 障 害 にお け る レニ ン ・ア ンジ
オ テ ン シ ン系 の 関 与 と新 規 ア ンジ オ テ ン シ ン受 容
体 拮 抗 薬 の有 用 性 に 関す る研 究
論 文 審 査 委 員
(主 査)教
授
中
教
授
今
教
授
福
畑
則
井
永
浩
道
潤
司
論 文 内 容 要 旨
(序論) 高 血 圧 治 療 の 目標 は単 に血 圧 を コ ン トロー ル す る こ とに と どま らず 、脳 血管 障害 、腎 障 害 また は心 肥 大 とい っ た臓 器 障 害 の 発症 お よび進 展 を抑 制 し、 治療 す る こ とで あ る。臓 器 障 害 の発 症 お よ び進 展 を抑 制 ま た は改 善 させ るた め には、治療 薬 は血 圧低 下作 用 に加 えて 直接 の臓 器 保 護 作 用 を有 す る こ とが 必 要 で あ る。 近 年 の 臨床 研 究 にお い て 、通 常 、昼 間活動 期 に高 く、夜 問安 静 期 に低 い とい う血 圧 日内 変 動 が 認 め られ な い高 血 圧 患 者 にお い て 、脳 血 管 障 害 、 腎 障 害 また は左 心 室 肥 大 とい っ た臓 器 障害 の リス クが 高 い こ とが 知 られ る よう に な っ た。従 って、 血 圧 日内 変 動パ ター ンを測 定 す る こ と は臓 器 障害 の発 症 の 予 測 や 機序 を考 え る 上 で有 用 で あ る もの と思 わ れ る。 血 圧 日内 変 動 に は 自律 神 経 活 動 や レニ ン ・ア ン ジ オテ ン シ ン(RA) 系 が 関与 してい る と考 え られ て お り、 通 常 の血 圧 日内変 動 が 認 め られ ない高 血 圧 患 者 にお いて は夜 間 安 静 期 に お け る交 感 神 経 系 の持 続 充 進 やRA系 の持 続 尤 進 に よる機 序 が 考 え られ て い る 。 この た め ア ンジ オ テ ンシ ン1変換 酵 素 阻 害薬(ACEI)や ア ンジ オ テ ンシ ン受 容体 拮 抗薬(ARB)の よ う なRA系 抑 制 薬 は夜 間 安 静 期 の血 圧 を低 下 させ て 血 圧 日内 変動 を正常 化 させ 、 臓 器 障 害 リス ク を軽 減 させ る可 能 性 が 考 え られ る。 しか し、高 血 圧 モ デ ル動 物 を用 い た基 礎研 究 の レベ ルで は血 圧 日内変 動 を解 析 した研 究 報 告 は未 だ少 な く、 血 圧 日内 変 動 と臓 器 障害 との 関係 につ い て も解 析 が 進 ん で い な い。 イ ルベ サ ル タ ンは ロサ ル タ ン と比 べ 、 ア ンジ オテ ン シ ンサ ブ タイ プ1(AT!)受 容 体 阻害 活性 が10倍 強 く、 薬 物 動 態 学 的 に も優iれた新 規ARBで あ り、 ロサ ル タ ン よ り優 れ た 降圧 作 用 につ い て はす で に臨 床 にお い て確 認 され て い る。 基礎 研 究 の レベ ル で は高 血圧 性 臓 器 障 害 に対 す るARBの 有 用 性 につ い て は ロサ ル タ ンな どを用 い て検 討 され て い るが 、 イル ベ サ ル タ ン も高 血 圧 性 臓 器 障 害 に対 して優 れ た効 果 を示 す こ とが 考 え られ る。 本研 究 で は高 血 圧 性 臓 器 障 害 にお け る血 圧 日内 変 動 測 定 の意 義 、RA系 の 関 与並 び にARB の有 用 性 を明 らか にす る 目的 で 、ARBの 血 圧 日内 変 動性 お よび臓 器 障 害 に対 す る作 用 につ い て検 討 した 。 (本論) 第 一 章 で はSHRSPに お い て 発 症 す る 高 血 圧 臓 器 障 害 と血 圧 日 内 変 動 と の 関 係 に つ い て 、1血圧 日内 変 動 測 定 と生 化 学 的 お よ び 組 織 学 的 手 法 に よ る 臓 器 障 害 の 解 析 を行 い 検 討 した 。 血 圧 日内 変 動 の 測 定 はDataScience社 製 の テ レ メ ト リ ッ ク シ ス テ ム を 用 い て 行 っ た 。 日 内 変 動 の 解 析 は 消 灯 期(ラ ッ トに お け る 活 動 期)12時 間 平 均 値 と 点 灯 期(ラ ッ トに お け る 安 静 期)12時 間 平 均 値 の 比 較 お よ び 最 小 二 乗 法 に よ り最 適 コ サ イ ン カ ー ブ を 算 出 す る 日 内 変 動 解 析 を 行 っ た 。SHRSPに お け る 臓 器 障 害 の 解 析 は 生 化 学 的 お よ び 組 織 学 的 方 法 を 用 い て10、!2お よ び17週 齢 時 に行 っ た 。 す な わ ち 、 左 心 室 肥 大 は 左 心 室 重 量 お よ び 左 心 室 筋 内 ミオ シ ン 重 鎖 の α鎖 に 対 す る β 鎖 の 比 率 変 化 に よ り、 腎 臓 障 害 は24時 間 尿 タ ンパ ク 質 排 泄 量 の 変 化 お よ び 腎 臓 組 織 学 的 変 化 に よ り、 脳 血 管 障 害 は 脳 重 量 の 変 化 に よ り判 定 した 。 SHRSPに お け る 血 圧 日 内 変 動 は 、 そ の 正 常 血 圧 コ ン トロ ー ル で あ るWistar-Kyotoラ ッ ト(WKY)お よ び 軽 症 本 態 性 高 血 圧 モ デ ル で あ る 高 血 圧 自然 発 症 ラ ッ ト(SHR) 、と比 べ て 、 高 血 圧 の 進 展 に伴 っ て ラ ッ トの 安静 期 側 ヘ シ フ トす るパ ター ンを示 した。 左 心 室 肥大 に つ い て に高 血 圧 の 進 展 に伴 い 、左 心 室 重 量 の 増 加 お よび左 心 室 筋 内 ミオ シ ン重 鎖 の α鎖 に対 す る β鎖 の比 率 の増 加 が 認 め られ 、 明 らか に左 心 室 肥 大 が 進 展 し て い た 。 また 、 腎 障 害 につ い て も高 血 圧 の 進 展 に伴 い24時 間尿 タ ンパ ク質 排 泄 量 の 増 加 お よび 腎臓 組 織 学 的変 化 が 認 め られ 、 明 らか な腎 障 害 の 進展 が 認 め られ た。 さ らに、左 心 室肥 大 は血 圧 日内 変 動 にお け る 24時 間 平 均 値 の上 昇 に相 関 し、 腎 障 害 は そ の安 静 期 側 へ の 変 化 の程 度 に相 関 して い た。 従 っ て 、SHRSP は血 圧 日内変 動 異 常 お よ び臓 器 障害 との 関係 を検 討 す る た め の有 用 なモ デ ル で あ る可 能性 が示 唆 され た。 第 二 章 で はSHRSPに お い て血 圧 日内変 動 異 常 お よび発 症 す る高 血 圧 性 臓 器 障 害 に対 す るRA系 の 関与 に つ い て ア ンジ オ テ ンシ ン1(AngI)変 換 酵 素 阻害 薬(ACEI)で あ るベ ナゼ プ リル とア ンジ オ テ ンシ ンII(Ang H)サ ブ タイ プ1受 容 体 拮抗 薬(ARB)で あ る ロサ ル タ ン を用 い て検 討 した 。 血 圧 日内変 動 の 測 定 お よ び 日内変 動 の解 析 は第 一 章 と同様 の方 法 を用 い て行 っ た。SHRSPに お け る臓 器 障 害 の解 析 に つ い て 、左 心 室 肥 大 は左 心 室 重 量 の 変 化 、 腎 臓 障 害 は24時 間尿 中 ア ル ブ ミ ン排 泄 量 の変 化 お よび 腎臓 組 織 学 的変 化 に よ り判 定 した。 薬 物 の投 与 は薬物 動 態学 的 要素 に よ る影 響 を最小 限 に す る た め に浸 透 圧 ポ ンプ を用 い て3週 間腹 腔 内持 続 注 入 を行 う こ とに よ り行 った 。 ロサ ル タ ンお よびベ ナ ゼ プ リル はSHRSPに お い て認 め られ る血 圧 日内変 動 異常 を改 善 した。 左 心 室 肥 大 につ い て は い ず れ の薬 物 も24時 間平 均 血 圧 値 の 減 少 に相 関 した用 量 依 存 的 な改 善 効 果 を示 した 。一 方 、 腎 障害 に つ い て は、 尿 中 アル ブ ミン排 泄 量 、腎 糸 球 体 硬 化 お よび コ ラー ゲ ン線 維 肥厚 とい った 腎臓 組 織 学 的 変 化 を有 意 に改 善 した が 、 そ の 改 善 効 果 は血 圧 日 内 変 動 異 常 の改 善 と相 関 して い た 。 この こ とか ら SHRSPに お け る高血 圧 性 臓 器 障 害 に は血 圧 レベ ル と血 圧 日内変 動 異 常 が 関 与 し、 そ の いず れ に もRA系 の 活性 化 が 関与 して い る可能 性 が 示 唆 され た 。 第三 章 で はSHRSPに お け る高 血 圧性 臓 器 障 害 に対 す る新 規ARBで あ る イ ルベ サ ル タ ンの効 果 を ロサ ル タ ン と比 較 検 討 した 。 高 血 圧 性 臓 器 障害 に対 す る作 用 の検 討 は高 食 塩 低 タ ンパ ク質 飼料 飼 育 下 で2つ の プ ロ トコ ー ル に よ り検 討 した。 まず 、 イル ベ サ ル タ ンの60日 間連 続 経 口投 与 に よ りSHRSPの 生 存 率 お よび脳 卒 中症 状 に対 す る 作 用 を検 討 した 。 さ ら に2お よび5週 間連 続 経 ロ投 与 に よ る脳 、心 臓 お よび 腎臓 の 障 害 に対 す る作 用 を検 討 した。 心 肥 大 は心 臓 重 量 の変 化 、 腎 障 害 は24時 間尿 タ ンパ ク質排 泄 量 お よび尿 中N一ア セチ ルーD一グル コ サ ミダ ー ゼ(NAG)活 性 の変 化 お よび 腎臓 組 織 学 的変 化 に よ り、脳 血 管 障害 は脳 組 織 学 的 変化 に よ り判 定 した。 高 食 塩 低 タ ンパ ク質 食負 荷SHRSPに お い て認 め られ る脱 力 、立 毛 、 鎮 静 、 刺 激 に対 す る過 敏 性 お よび 前 肢 ま た は後 肢 麻 痺 な どの脳 卒 中症 状 は イル ベ サ ル タ ンの投 与 に よ り用 量 依存 的 に抑 制 され 、 その 抑 制 作 用 は ロサ ル タ ン と同程 度 で あ っ た。 ま た、 脳 卒 中症 状 の抑 制 作 用 は組織 学 的検 査 に よ り認 め られ る脳 血 管 障害 に対 す る 抑 制 作 用 に ほ ぼ相 関 して い た 。 さ らに腎 障 害 に つ い て は24時 間尿 タ ンパ ク 質排 泄 量 、尿 中 NAG活 性 お よ び腎臓 組 織 学 的 変 化 に対 し、 イル ベ サ ル タ ンは用 量 依 存 的 に抑 制 した 。心 肥 大 に対 して も イ ルベ サ ル タ ン は用 量 依存 的 に抑 制 した 。 この こ とか ら新 規ARBで あ る イル ベ サ ル タ ンは 高 血 圧性 臓 器 障 害 の発 症 に対 す る保 護 効 果 を有 す る有 用 な高 血 圧 治療 薬 で あ る こ とが 明 らか とな っ た。
(結 語) 以 上 の 結 果 よ りSHRSPに お い て 認 め られ る 高 血 圧 性 臓 器 障 害 の 発 症 お よ び 進 展 に は 血 圧 の 上 昇 に 加 え て 血 圧 日 内 変 動 の 異 常 が 関 与 し、 しか も そ れ ら の い ず れ に もRA系 が 関 与 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。 ま た 、 新 規ARBで あ る イ ル ベ サ ル タ ン はSHRSPに お い て 認 め ら れ る 高 血 圧 性 臓 器 障 害 に 対 し、 ロ サ ル タ ン と 同 程 度 の 顕 著 な 抑 制 作 用 を 有 す る こ とが 明 らか に な っ た 。 従 っ て 、ARBは 降 圧 作 用 や 血 圧 日 内 変 動 異 常 の 改 善 作 用 を 介 し て 腎 障 害 、 左 心 室 肥 大 お よ び 脳 血 管 障 害 の 発 症 お よ び 進 展 を抑 制 す る も の と思 わ れ る 。 夜 間 安 静 期 の 降 圧 が 認 め られ な い 血 圧 日 内 変 動 パ タ ー ン を示 すnon-dipper型 高 」血圧 患 者 に お い て 腎 障 害 、 左 心 室 肥 大 お よ び 脳 血 管 障 害 が 進 行 し て い る こ とが 知 ら れ て い る 。ARBは 降 圧 作 用 に 加 え てnon-dipper型 血 圧 日 内 変 動 パ タ ー ンか ら 正 常 の パ タ ー ン で あ るてnon-dipper型 へ の 改 善 を介 し て 高 血 圧 性 臓 器 障 害 リ ス ク を軽 減 す る 可 能 性 が 考 え られ 、 臓 器 障 害 を 伴 う 高 血 圧 治 療 薬 と して 有 用 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。