純電子プラズマで検証する二次元オイラー流体の特性と限界
京都大学人間・環境学研究科 際本泰士, 河井洋輔, 曽我之泰, 青木順 GraduateSchool of Human andEnvironmental Studies, KyotoUniversity
\S 1. 非中性プラズマ純電子プラズマ
クーロンカで長距離相互作用する多粒子系をプラズマと呼ぶ
.
更に構成粒子の電荷が正負のうち片 方のみであれば, 非中性プラズマと呼ぶ. 後者は対抗電荷の遮蔽がないため力が距離の二乗に逆比例 して遠方まで届くので, 重力系とよく似ているが, 相互間には斥力が働くため散らばろうとする. 従って, この系を有限の空間にとどめるには, 外部から電磁場による拘束を課さねばならない.
ここでも核融合を臼指す高温中性プラズマとは違い
,
対抗電荷による遮蔽の不在が効いて,
非中性プラズマは強い外場による拘束・制御に良く従う
.
ここで報告するのは, 電子のみで構成される非中性プラ ズマ (純電子プラズマと呼ぶ) の集団的挙動におけるオイラー流体的特性の観測である.
一様な磁場の方向に矩形に近い電位分布を重畳した Malmberg-trapの中において, 各電子は半径が0.
$3mm$以下の円軌道上で$\omega_{C}/2\pi\sim$数GHzの gyration を行いながら, 軸方向には$\nu_{T}/L\sim$数MHz の往復運動をする. 一方自己電場$E$を通じて互いの間には斥力が働くが, 磁場$B=B\hat{z}$ によって変位は電場と
磁場の両方に垂直な方向に起きる.
これは, $ExB$ ドリフトと呼ばれる旋回 (案内) 中心の移動であり, 電子群は局所的に流速$u=(ExB)/B^{2}$ で流れる. もし, 磁場方向の密度分布が各磁力線について
一様であれば, この流れは磁場に垂直な断面$(x,y)$で記述され, $\nabla\cdot u=0$であることが容易に示される.
つまり非圧縮性の二次元流体である
.
この運動が他と区別されて明瞭に現れるには, 断面内の密度分 布の代表スケールを$a$ として, $\omega_{c}$ $v_{T}/L$ $u/a$が満たされなければならない. つまりx-y
平面内のマクロな運動は磁場方向の往復運動に比べて緩やかでなければ三次元運動を無視することができない
.
一方, 二元運動の代表時間$a/u$ がクーロン衝突時間よりも短ければ, この時間帯において散逸は一応 無視できると考えて良い. 更に流速の rot をとり, Poisson方程式に結びつけると, 渦度が電子密度に 比例することが判る.密度分布は高い精度を持って直接観測可能である
.
[11本来粒々の電子が三次元運動をする多粒子系においては,
様々な時空スケー,レにおいて多様な現象 が進行する.この多層的なダイナミクスの中から二次元オイラー流体の特性を引き出すには
,
上記の 条件を満たす環境を作り, 適切な時空スケ$-J$レで現象を観る必要がある. これは別に特殊なことでは なく, どのような「流体系」においても, いかなる近似で 「流体」 とみなしているか確認すべきこと を示しているに過ぎない.実験的に二次元オイラー流体の特性を満たす条件を作ることは,
さほど困 難ではない. 例えば,数千回転するほどの長時間に渡りオイラー流体的特性を維持することが
,
数cm サイズの純電子プラズマにおいて実現可能である
.
この間に渦塊の離合集散が多段階に進行する.
鳴門の渦や台風など自然界の渦において, 数回転以内に散逸効果が現れることとは対照的である
.
仏実験方法の概略 電子を閉じ込める電位分布は, 図 1 に示すように, 磁気軸と一致した円筒状に互いに絶縁した導体 リングを多数並べ,各リングには外部電源により最適の電圧分布を与えて形成する.
軸方向には中心 部で平坦,両端部で急速に深くなる電位分布を本研究では採用する
.
アーンショウの定理から真空電 位分布には極大極小は存在しないので,
電位は半径方向に上昇するが, それよる電子の流出は軸方向に一様な磁場によって阻止する
. 電子は閉じ込め域の外部においたカソードから放出される
.
この熱電子を閉じ込め域に蓄積するには
,
カソードに面した電位障壁を短時間浅くして通過させ, 戻した 後, それを保持するサイクルを数$\sim$1000回繰り返して, 糸状分布が次々と混合し緩和するのを待つ.
その上で, 例えば,電位障壁の高さを瞬間的に適当な値まで下げると
,
自己電位が深い軸近傍の電子は斥力によって磁場に沿って流出するので, 密度分布には穴が空く. このような密度分布の中では周 方向の $ExB$流れには動径方向に強いシアができるので, 流体力学で Kelvin-Helmholtz 不安定性 (非中 性プラズマ物理ではdiocotron不安定性) と呼ばれる摂動が成長する. 障壁の高さによって, 密度分 布は穴の空いた状態から, 平坦な形状, あるいは軸上にピークを持つ状態まで幅広く調整できる. 更 にこのような連続分布の中に細くて高密度の紐状分布 (渦糸分布) を重ねることも可能である. 渦糸 の位置も多様に設定することができる. [21 このような手法で初期分布を形成したあと, 本来の電位分布に戻して放置すると, 純電子によって 構成される渦系は孤立運動を行う. 外部から物を挿入したり, 外壁に非対称な突起があると本来保存 性が極めて高い純電子集団には, 動径方向の輸送が無視できないほど増大し, 系は破壊される. ここ に, 渦運動の代表時間は $ExB$ 回転に伴う密度分布の回転周期である. その長さは殆ど磁場強度に反比 例し, 10$\sim$ltX)0 $\mu$である. 所定の時間が経過すると電子導入とは反対側 にある電位障壁を取り去り, 電子を磁力線に そって放出する. その先には数$kV$ の電位に置 かれた蛍光面があり, 加速された電子は衝突後, その個数に比例した強度で蛍光を発する. その 発光分布を CCD カメラにより二次元の数値デー タとして記録するのである. [3,41 その例を図2 に示す. 空間的かつ検出強度において, 高い分 解能が達成されている. 蛍光面の表面は$400nm$ のアルミ薄膜で覆われており, 励起によってエ ネルギーを失った電子はここに捕集され, 外部 回路に抽出される. その電流は精密に測定でき るので, 電荷量より全電子数が評価される. そ れを輝度分布に比例して配分すると, 軸方向に 線積分された密度分布の絶対値が決まる. これ をプラズマ長で割ると, 密度分布が決決まり, 更に境界条件付きで二次元面内の自己電位分布 が決まる. この自己場とトラップのための真空 場を重畳すると, この二次元電子渦系の流れ場 が決定されることになる. 図 1. 純電子プラズマ初期分布の形成と計測 (クラ ンプとは渦糸のこと) 図2.高解像の CCDカメラに記 録された純電子の密度分布. 左側はプラズマ中央面におい て 45mmx45mm の視野を示 す. 右側は別ショットで$17mm$ $x17mm$の視野にズームァッ プ. どちらも2048x2$\sim$格個の 画素で構成され, 各画素は 1$\sim$ 60000の線型感度域を持つ,
中性流体では差分操作を経て得た流速分布を更に微分して渦度を評価するのに対して, 純電子プラ
ズマでは渦度に比例する密度が直接計測される
.
更に流れ関数に対応する電位分布は密度の積分から 導出されるため, データ解析段階においてノイズの混入は極めて小さい. しかもこの積分は生データ を, 境界条件を満たす Bessel 関数と三角関数を組み合わせた直交関数系で展開したあと, 代数的に実 行できるため,系統的高速かっ精度良く実行できるという大きな利点がある.
[3-51 \S 3. 案内中心の集合体とみた純電子の流れと二次元Euler流体との対応関係[11 前節で述べた対応関係について, 簡単に確認しておこう. まず純電子プラズマの案内中心の流速は ポテンシャルと磁場によって, $Il=\hat{z}\cross\nabla\phi/B$ と表される. この結果渦度は$\sigma=\hat{z}\cdot\nabla\cross u=\nabla^{2}\phi/B=en/\epsilon_{0}B$と表される. 最後の関係の導出には Poisson方程式を用いた. 非圧縮性$\nabla\cdot u=0$は容易に導出できる.
連続の方程式$\partial n/\partial t+l\iota\cdot\nabla n=0$において, 両辺に$e/\epsilon_{0}B$ をかけると, 渦度方程式$\partial\sigma/\partial t+u\cdot\nabla\zeta=0$が得 られる. 二次元 Euler 流体において, 流速と流れ関数との間には$u=\hat{z}x\nabla\psi$ が成り立っから, 渦度は $\sigma=\hat{z}\cdot\nabla xu=\nabla^{2}\psi$ である. 従って, $\psi=\phi/B$ と関係づければ, 案内中心群は等電位面に沿っ$\vee C$流れ, Euler流体の流線と一致し, 電子密度は渦度に比例することが確認できる
.
\S 4. 運動量の圧倒的多数派は璽磁成分 粒子の運動量密度は力学的には$mnu$ であるが, 磁場の中に置かれた電子は電場を作るので, 電磁成 $\epsilon_{0}ExB$が加わる. [61 したがって, 系の角運動量は次のように壁$r=w$ まで拡がる全体積積分,$L_{-,\backslash }= \sum_{j}mu_{\theta}r_{j}+\int dz\int_{0}^{w}drr\oint d\theta\hat{\theta}\cdot(\epsilon_{0}ExB)$ (1)
によって表される. 電場は Poisson 方程式に従い粒子密度に比例して生じるから力学成分と電磁成分
との比は, 大まかにラーマー半径と密度分布の広がりの比に等しく, 実験では1%以下である. [1,7,81
従って電子の総数を$N$ とすると, 角運動量は電子の空間分布に依存した電磁成分のみで表され,
$L.,$ $= \frac{eB}{2}(Nw^{2}-\sum_{j}r_{\dot{j}}^{2})=\frac{eB}{2}(Nw^{2}-\int dz\int_{0}^{w}drr^{3}\oint d\theta n(r.\theta))$ (2)
と評価することができる. 電子密度分布 $\iota(r,\theta)$ は図2に例示したように, 画像データとして実験にお いて直接観測される.(2)式の第1項は粒子数が保存する限り定数である. \S 5.
2
本の渦柱の相互作用 [9] 図3. $9mm$隔たった 2本の渦柱の合体過 程の画像記録中心が約$9mm$隔たった2本の渦柱の相互作用 による密度分布の時間変化を図3に示す. この 間隔が $12mm$ まで拡がると, ]$\alpha)\mu$ の間両渦柱 は図3の $3_{[lS}$ フレームに描かれるように近づい てはまた離れるサイクルを繰り返す. そこで 2 渦柱間に1/10以下の渦度の柱を背景渦として追 加すると, 両渦柱はこの薄い渦をシート状に引 き延ばし, 自身の周りに巻き取りながら急速に 接近し, 図3の場合と同様に合体に至る. 背景 渦が無い場合, 渦柱の重心間距離がゼロになる までに要する合体時間は. 初期の渦間距離とと もに増加する. そこで各時刻の渦間距離を初期 間隔で, 時間を 2 渦系の初期回転周期で規格化 すると, 図4に示すように, 合体に要する時間 は全て系回転の 2 周期にほぼ等しいと纏めるこ とができる. 渦柱は第1周期の間に変形し, 第 2 周期目に入ると, 急速に近接合体する. こ の所要時間は粘性効果より遙かに短い. 合体を駆動するのは, 渦度分布の変形によっ て, 流れ場に多極成分が生まれ, 2渦の重心を 互いに近づける移流場ができるためと考えられ る. それを指示する解析結果を図 5 に描く. 実 験室系で観た流線は同心円の集まりに過ぎない が, これを渦重心の周りの回転座標系で観たの が図5である. 図5. 合体直前の渦度分布と回転座標系で観た流れ 場$[9|$
.
図3,5は良く知られた数値計算による ContourSurgery[101 で得られる渦度分布に良く似ていること が了解されるであろう これは, 非圧縮性が優越した渦間の相互作用の理論的枠組みを, 純電子プ ラズマで良く再現できることを意味している. しかしながら, 低レペルの背景渦の存在が合体過程を 支配することを示唆する上記の観測結果は, 未だ必ずしも理論/シミュレーションで検証/支持され ているわけではない. 実験サイドから観て大変輿味がある. 背景渦が構造形成に果たす役割はこの後 の記述でも度々現れるだけに, 理論面から検討を深めていただきたいところである. 図3に示した渦度 (密度) 分布から角運動量(2) の第 2 項$L(r)$ とその径方向の輸送率$\Gamma_{L}(r)$ を$L(r)= \int_{0}^{2\pi}d\theta n(r,\theta)r^{3}$, $\Gamma_{L}(r)=\int_{0}^{2\pi}d\theta n(r,\theta)r^{3}\nu_{r}(r.\theta)$ (3)
のように求めて, その半径方向の分布を図6に表す. 強い渦に対応する渦柱の中心が近づくことは $L(r)$が当初の $7mm$のピーク位置から内側に移動することを意味する. しかし, 全角運動量を保存す るには, 外部に拡がる成分も必要である. これも図 6 に現れている. っまり渦度分布の再配列には 角運動量分布の再配列が必要なのである. この内向きと外向きの流れは図6に描かれた $\Gamma_{L}(r)$の負と 正とに対応する. 外向きの流れが図 3 において, 渦巻きながら拡がっていくスパイラル分布によって 担われている. それを補うために高密度のコア部が近づき合体するのである. ここに希薄な背景渦度 分布の役割がある. 初期間隔が近ければ, 相手側の流れ場のシアによって当方の渦度分布の周辺部が 剥ぎ取られ, スパイラル部になるが, そうで無いばあいには, 背景渦度がその代役を果たす.
渦度保存の観点からはこの考え方で良いのだが, 式(2)から明らかなように, $L(r)$は正定数に対して 引き算となっている. つまり, 密度分布が拡がる場合は, 電磁角運動鑓は減少し, 逆に中心に向かっ て密度分布が収縮する場合には増加する
.
力学的には逆のようであるが, これが実験で得られる電磁 角運動量の現実であることは, 角運動量の増減と密度分布の膨張/収縮を絡めて議論する場合には留 意する必要がある.$|7_{r}8|$ これは本講演では省略した二次元の渦運動と三次元波動との結合に関係し ている. 念のため付言すると, 図 3 に始まる孤立系としての渦柱の合体過程では, 実験の再現性の範 囲内において, 渦の循環に比例する全粒子数と全角運動量は保存している.
図6. 渦運動に伴う電磁角運動量の半径分布と, その径方向輸送率分布の時間変化 [91 \S 6. 乱流秩序渦渦結晶前節では渦相互作用の基礎過程について述べた.
このような渦柱が強度も揃わずに多数存在し, 更にその隙間を低密度の背景渦が不均一に満たしているのが現実の渦場であろう.
そこでどのような構 造が出現するかをこれから議論したい.
従来の報告を概観し, その上で我々がこれまでに純電子プラ ズマ実験により検証してきた渦運動の特性を対比すると,
渦度の集中度の増加につれて図 7 に示すよ うな構造変化が起きると考えることができる.
以下には各場合について最近の実験結果を報告する. なお参考までにここで付言しておくが, 正負の点渦系について, 系のエネルギーが高くなった極限 を考え, ミクロカノニカル統計における状態数を求め, それを元にて温度を定義すると, 負温度状態 が得られる. このような初期条件から, 点渦の運動を数値シミュレーションで追跡すると, 同符号の渦同士が集合した状態に到達する.
$\ovalbox{\tt\small REJECT} 11$] これは Onsager が二次元乱流における波数のスペクトルシフトを点渦系で表現したモデルを検証したものである
.
[121渦系のエネルギー低 $arrow$ 渦系のエネルギー高
乱流状態 $arrow$ 秩序渦 $arrow$ 渦結晶
連続スベクトル $arrow$ 渦数
:
$N\sim N_{0}t^{-\xi}arrow$ 渦数:
$N-N_{0}- \alpha\ln\frac{t}{r_{0}}$$\ovalbox{\tt\small REJECT}$
渦度 (電荷密度) の集中度\S 61 不安定な初期分布から発展する渦運動と乱流 純電子の高い保存性を活用した実験では, 外部からのエネルギー注入と流出のバランスにより到達 する定常状態を検証するよりも, 孤立系として初期状態から緩和する過程 (free-decaying) を時間的 に追跡するところに有効性がある. 外部から連続的に低レベルの擾乱を加えて小さな散逸過程とバラ ンスさせて, 定常状態を検証することは不可能では無いので, 今後の課題とするが, ここでの報告は free-decaying
process
に焦点を当てる. 不安定な初期分布としては, 円柱状の密度分布から中軸部を抜き取った, 中空分布を採用する. そ の実験的手法は図1の5行目までの操作から構成される. この密度 (渦度) 分布を磁力線方向に積分 した量が生のデータとして画像 (実際には二次元の数値行列) で表現される. 時間経過の一例を図8 に示す. [13,141 周方向のモード数が$m=5$の摂動が非線形効果によって選択的に成長し $13\mu$ には5 本の強い渦柱を形成する. これらの渦柱の周りには, 初期分布に含まれ渦柱からは除外された背景渦 が既に存在する. 隣あう渦柱対については, 図3において観測したプロセスが $15\mu$ に示すような構 造変化を起こしながら進行すると考えてよい. もちろん各対が独立に相互作用するわけではない. 合 体の結果渦柱の数は4本に減少する. $(21\mu s)$ しかし, 渦柱は既に大きく変形しているので, 合体に よる減数は急速に進行し, 周方向の中心モード数も下方にずれていく. $S\mu s$13
15
21
23
$\iota_{*,-}^{l\iota_{l}}$ $\alpha^{Y^{\backslash }}\cdot-\alpha_{l^{\backslash }}$,
乃31
40
60
200
$=-g_{s}$ . $ae_{-}\cdot$.$\$
図 8 周方向流速にシアを持つ hollow状の初期密度分布から diocotron不安定が成長して, 渦を形成し, 渦間の 相互作用で乱れが発達し, 最後は釣鐘状の安定な分布に落ち着く.[141 図9 図 8 に表示した各時刻の密度分布画像から導出した波数空間におけるエネルギースペクトル.$|14]$ しかしそれと同時に強い渦から放出された希薄な渦は細く伸びてスパイラル状に拡がって行く. 図 3 に観られた規則的なスパイラル構造は, ここでは大きく乱れている. この構造は波数スペクトルが上方に拡がりつつあることを意味している
.
$15AOps$ に激しく変化する密度分布を波数スペクトル空 間で眺めると, これは正に free-decayingturbulence である. 図8に示したこのような密度分布から電位分布を求め, これより系のエネルギー分布を波数空間に 分解したものが図 9 である. 図 8 の初期分布 $(5\mu_{S})$ に観られる切れ味の良い hollow 分布から得られ るエネルギースペクトル $($図$9, 5\mu)$ には, 密度分布の幅に対応する凹みが現れる. この代表スケー ルは流れのシアーをエネルギー源とする diocohon 不安定性によって密度分布が分裂しフィラメント 分布を放出する過程によって,
急速に消滅するため, エネルギースペクトルにおける凹みは埋められ て,13 肉に顕著な渦柱のサイズに対応する波数を極大として,
ほぼ波数のべキに依存して減少する形 となる. この極大に対応する波数は目立たなくはなるものの$200\mu$ まではこぶとして認識できる. こ れは図3に現れた強い秩序渦 (coherentvortices) に対応するものと解釈される. 波数空間におけるエ ネルギースペクトルの変化は, 初期分布に由来する強い渦を起点とする波数空間における輸送と解釈 できるであろう. 実際この乱れた渦系の循環, エネルギー, 角運動墨は全空間を積分すると, ここに示した緩和過程の期間に渡って良く保存されている.
図9に表された波数空間におけるエネルギー$E(k)$やエンストロフィー$Z(k)$のスペクトルの時間変 化から, 波数空間におけるこれらの量の輸送率$\epsilon(k)=-\int_{k_{Nt1\hslash}}^{k}dk\frac{\partial E(k)}{\partial t}$, $\eta($ん$)=$-$\int_{k_{1j_{l1}}}^{k}dk\frac{\partial Z(k)}{\partial t}=-\int_{k_{ill}}^{k}dkk^{2}\frac{\partial E(k)}{\partial t}$ (4)
を図 10 のように評価することができる. 図 10. 図 9 から評価したエネルギーとエンストロフィーの波数空間における輸送率 [161 初期段階で発生する
5
個の渦柱のサイズで決まる $k_{in}j\approx 500/m$ を境としてエネルギーの輸送率$\epsilon(k)$ が下向きに強くなり, エンストロフィーの輸送率$\eta$$($ん$)$が上向きに増加し一定値に近づく. $karrow 0$ にお いて, $\epsilon(k)$がゼロに向かって減少するのは, 純電子プラズマが角運動量の保存によって無限遠に拡が ることができないことに対応している. ここに初期条件によって有限サイズに規定された保存性渦系 の特徴が現れている. 図9
と図10
は初期分布から自由に緩和する孤立 した乱流系の時間変化を追跡したものである.
各時 刻におけるフレームが各状態の滞在時間を表すもの と解釈して, 時間の重みをつけて平均すると, 一種 の定常状態のスペクトルとして観ることができるか もしれない. このような意図で導出したのが図11 である. エネルギースペクトルは$k>k_{in}j$の領域で ベキ数44で減少する. 二次元定常乱流において, 図 11 図9-10を時間平均したスペクトルこの値は $- 3$ になると予測されている.[15] 図 9 によれば, 時間の経過とともに, 実験的にもベキ数は 減少の傾向にある. しかし, $- 3$ になるとは期待できない. 逆にこの差に注目することによって, 定常 乱流においては, 構成要素が絶えず発生しながら時間的に発達して行く中で, 異なる世代間の相互作 用を持ち得ることに対して, 本実験のようなffee-decayingmrbulece では, 同世代の要素間の相互作用 しか含まれないことによる違いをえぐり出すという新しい展望が開かれる可能性がある. 最後に波数空間におけるエネルギースペクトルの上限波数について言及しておきたい. 本実験と Euler 流体としての対応が電子の案内中心の $ExB$ ドリフト近似に依存していることを\S 1 で述べた. も し密度 (渦度) 分布が微細化して, 電場がラーモア半径$\rho$ の内部で一様でなくなる場合には, 円軌道 に沿って平均された実効的な電場は Finite LarmoirRadius(FLR)効果として, $(1+\rho^{2}/4\nabla^{2})E$で置き換え
られる. 案内中心が満たすべき連続の方程式にこの効果を入れると, 渦度方程式は $\frac{\partial}{\partial t}(\sigma-\frac{e\rho^{2}}{4\epsilon_{0}B_{0}}\nabla^{2}n)+\vec{v}_{GC}\cdot\nabla_{\zeta}=0$ (5) と表されることになり, 拡散項が入ってくる. この効果で波数に上限が現れると, 我々は当初予想し ていた. 純電子プラズマを閉じ込める磁場の強度を 0.$048T$から 22 $T$まで変えられる装置と高い空間 分解能を持つ計測系を整備開発した理由の多くはここにあった
.
実際実験を行ってみると,(5) 式に現れた FLR による「散逸効果」 は観測を説明するには小さすぎる ことが判った. 更に磁場強度を強めても, 揺動する密度分布の微細化はあるスケールで留まることを 示した. つまり, ラーモア半径を小さくして行くと, それに追随して波数の上限が増加して行かなく なるのである. 実験によれば, その空間スケールの下限は 0.$3mm$程度のところに留まる. この値は, 渦を構成する電子の密度から評価される電子間平均距離の3
倍程度である.
つまり, 電子のラーモア 半径がいくら小さくなっても, 揺動する密度分布のスケールが縮小し, 粒子間の平均距離のスケール に近づくと, それ以上の微細化は阻まれる, という観測を得た. これは恐らく Euler の条件を満たす 流体としては, 連続体の記述が適用できなくなるからであろう.
逆にとらえ直すと, 粒子間の平均距 離のオーダーまで非中性プラズマが連続体と近似できることは驚きでもある.
通常の流体であれば, ほぼ流体構成粒子のサイズで相互作用が起きるから, 連続体としての記述は, それよりも遙かに大き なスケールでのみ成り立っはずである. 純電子プラズマにおいては, 相互作用が遮蔽を受けないクー ロン長距離力であるため, 粒子間距離のスケールまで連続体の記述が成立するのであろう.
\S 6.2
渦結晶の形成と級和 電子渦柱の合体を促進するのは, 渦度の広がりが渦間距離に対して有する比率の大きさである.
そ れでは, 渦度の広がりを圧縮していった場合, 前節で述べた free decayturbulence の進行速度が遅く なるだけであろうか? この間に対する答えは1995年に UCSDの Fine 等の実験によって, 思いがけな い形で現れた. [161 もっとも, この設問自体が後付けであって, 1995 年には存在しなかった. これまで の研究では,相互作用によってランダムに動き回る渦柱の合体間時間は渦塊数の減少に伴って増加し
,
渦塊数は$\overline{n}_{c}\propto t^{-\xi}(\xi\approx 1)$ のように時間のべキに比例することが, シミュレーション・実験に基づき経験 的に知られている. これを現象論的に記述するスケーリングモデルも提案されている. Fine等の実験 は更に, 不安定性によって生じる強い渦塊はべキ依存性に従った減数緩和の途中から規則的な配列を 示し, その配列を構成する渦塊の数はべキ則から離れて. 長時間維持されることを示した. この「渦結 晶」 を形成する渦塊の広がりは小さくて, 渦紐あるいは渦糸と称しても良い. 渦結晶の形成機構と破 壊, その後に形成される新しい配列については, 強い興味を惹きながらも良く理解されていない. な かんずく, 渦結晶緩和の時間依存性に関しては殆ど注目されて来なかった.
渦紐のランダムな運動が結晶形成に至るため に, 背景渦の寄与が本質的であることは実験的 検証が積み重ねられてきた
.
[1,17,$18|$ しかし, 各結晶配位の寿命については議論されることが 無かった. 実際実験してみると, 結晶配位の崩 壊は極めて統計的に起こる. これは, 様々な要 素が重なり合っているからであり, 条件の整理 が必要であると考えられる. このような視点か ら, 初期条件として半径の小さい高密度の渦塊 (二次元であるから渦紐に近い) 群を配列も含め て固定し, このセットを図 12 に示すような密度 の異なる背景渦度分布の中に埋め込んで, 系全 体の緩和を追跡してみた.$|17,19|$ 図 12 渦紐を埋め込む背景渦の初期分布[191 [1] 渦結晶を形成する渦紐数は時間の対数に依存する.
観測によれば, 背景渦度が低い場合, 渦紐が 合体して減数し十分な量の背景渦を補充するま で, 渦結晶は形成されない.
そこで, 初期条件 とする背景渦の高さを様々に変えて, 緩和過程 で渦結晶配位が観測された場合に, 結晶を構成 する渦紐の個数を時間の関数として整理してみ た. その結果を図 13 に纏める. 各シンボルは 図 12 に描いた背景渦の初期分布に添えたシン ボルと対応している. ここで時間軸を対数ス ケールにとり, 渦紐の数を線型スケールにとる と, データ点はほぼ直線上に並ぶ. かなりばら ついていることは事実であるが, 縦軸を対数ス ケールにとると回帰直線は直線にならない. も し直線となれば, 渦紐本数についてベキ依存性 が得られ, 結晶配位が形成されない場合のス ケーリングに帰すことができる.
確認のため, 良く知られているFine
等の実験を同様の片対数 図13 各背景渦における結晶渦紐の時間変化$[19|$ 座標に整理し直すと, 挿入図に示すように, データ全体がほぼ直線状に並び, Fine 等の論文口$6|$の両 対数座標に現れた相関の弱い配列に比べて, 大きく改善されることが明らかとなった. ここに示した片対数座標系における直線の勾配は, 背景渦の初期密度に依存する. その勾配は背景 密度の増加とともに大きくなる. 更に、最初の渦結晶が現れる時刻を $t_{0}$ とすると, $t_{0}$ は初期密度が高いほど短くなる
.
このことから背景渦が結晶形成を促進することが判る. この観測結果は, 次の関係 にまとめることができよう.$\overline{\prime l}_{c}(t)=\tilde{n}_{c}(t_{0})-\gamma\ln(t/t_{0})$ $\langle$6) 但し, $\gamma=0.166\exp[1.61n_{b}(t_{0})/10^{12}m^{-3}]$ (7) この経験則は, 背景渦が渦紐のカオス的な運動を秩序ある配列に導き維持する$[17|$だけでなく, いった
$[2|$ この時間依存性の起源 物理量の時間変化が対数依存性を示す例は少なくない. 粉体の間歌的なパッキングやガラスなどの 構造パラメタがその例である. ある時間スケールでは (準) 平衡状態にありながらも, より緩やかに進 行する基礎条件の変化によって, 既存の構造が突然破壊され, 混沌とした運動のすえ, 次の準平衡状態 候補のどこかに移ると解釈される. 我々の観測によれば, 準平衡配位において渦紐内部の密度分布が 拡散的に広がることに呼応して, 周囲の背景渦によるシア付きの速度場が破壊効果を持ち始めること が重要と考えられる. それが対数依存性につながるかどうかについては, 更なる検討が必要である. この解釈に従えば, 流体渦としての特性と, 流体を構成する粒子のミクロなダイナミクスが微妙に連 携して間歌性が生まれることになる. $[3|$ 渦系の配位はいかに決まるか? 一方, 孤立状態におかれて相互作用する渦紐の数が時間的に減少し, 残留個数に応じて特徴的な二 次元配位を形成することが観測されている. その例を図 14 に示す. 各フレームにおいて上段が純電 子プラズマにおいて得られた渦結晶と解釈される配位の撮影像である. ここでは図13にまとめた一 連の実験で得た最大14本までの結果を示している. これに対応して下段に並べてあるのは, 超流動状 態にある液体ヘリウムにおいて常流動体の渦糸がエネルギーの極小状態として位置する配位の理論予 測である. [201 マス印は対応する配位が見つかっていないことを意味する. 渦結晶の配位を定める物理機構としては, さまざまな提案はあるものの決定版が無い. 観測と良く 一致する配位を導出したと評価され, 最も知名度の高いものは
UCSD
のJin
&Dubin
が提案した,Regional Maximum Fluid
Entropymodel
[21] であるが, 配位を決めるためには天下り的な拘束条件 が多い. しかも配位間の遷移については何も語らない. この間題点を, 本研究で得られた対数時間緩 和特性を視野にいれて検討してみたい. [4] 緩和方程式とべキ依存性の再現 経験式(6) が満たすべき運動方程式を捜してみる. 経過時間を最初の結晶が現れる時刻$t_{0}$で規格化し て, $\tau=t/t_{0}$ で表すと, 式(6) が次の微分方程式を満たすことはすぐわかる. $\frac{d\overline{n}_{c}(\tau)}{d\tau}=-\gamma\exp[-\frac{\overline{n}_{c}(1)-\tilde{n}_{c}(\tau)}{\gamma}]$ (8) ここで, 渦紐の環境を構成する背景渦に依存する $\gamma$ と渦紐数を組み合わせた, 一種のBoltzmann
変数$\eta(\tau)=\exp[\tilde{n}_{c}(\tau)/\gamma]$を導入し, $\eta_{1}=\eta(]),$ $U(\eta)=\eta^{3}/3$ と定義すると, (8)式は次の形に変換される.
$\eta_{1}\frac{d\eta}{d\tau}=-\eta^{2}=-\frac{d}{d\eta}U(\eta)$ (9) これは, 状態変数$\eta$で代表される質点がポテンシャル$U(\eta)$ の中をずり落ちる運動を表す. その摩擦 は平滑化されたポテンシャルがミクロスケールで有する凹凸に陥りながらも. 渦紐と背景渦の揺動に よって脱出し, よりエネルギーの低い状態に遷移する過程を表すと解釈する. エネルギーの極小状態 として得られる図14の超流動ヘリウムモデルは, このミクロスケールの凹凸への捕捉に対応すると 考えて, 関係づけるのである. この変換された変数によって, 経験則(6) を表現しなおすと, 結晶形成が無い場合の強い渦に関する 比例則と同じ形の時間依存性が次のように得られる. $\eta(\tau)=\eta_{\text{】}}\tau^{-\xi}$ (10) しかも, ここで得られる指数は, 乱流の相似則モデルにおいて期待されている $\xi=1$である. 強い渦の 乱流的相互作用と渦結晶の形成崩壊遷移過程をこのような変換を通じて関係づけられることに物
理的意味があるだろうか
?
もし何か意味があるとすれば、 その実態が何であるかについて, 今後更に 検討を加えて行きたい.7 $9a$
図 14 純電子プラズマの渦結晶配位 (上段) と対応する超流動ヘリウムの渦糸配位 (下段)
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