第 6 回
大阪市北ブロック新人症例発表会
会期 平成 27 年 1 月 25 日(日)
会場 会場 CIVI研修センター新大阪東
1
演題プログラム
9:45~11:05 第 1 セクション(会場:E703 号室) 座長 大阪回生病院 森 憲一 1.神経系 左被殻出血にて重度右片麻痺・重度失語症を呈し、家族介助下で手すり歩行獲得を目標とした一症例 ボバース記念病院 阪倉 麻美 P.3 2.運動器 頚椎症性脊髄症により四肢麻痺を呈し、座位保持が困難となった症例 済生会中津病院 本村 直紀 P.4 3.神経系 脊髄脂肪腫、右麻痺性内反足に対する右足関節、距骨下関節固定術後の歩容改善に取り組んだ症例 森之宮病院 大西 志乃 P.5 4.運動器 左前十字靭帯再建術を施行した患者に対し、体幹機能に着目し治療を実施することで歩容の改善に至った一症例 大阪暁明館病院 髙橋 将司 P.6 5.運動器 義足調整による荷重痛軽減が歩行能力の向上に影響を及ぼした一症例 関西電力病院 掛谷 佳昭 P.7 9:45~11:05 第2セクション(会場:E704号室) 座長 牧デイサービスセンター 明比 大 6.運動器 左足関節脱臼骨折の職場復帰にむけて ~作業特性と体型を考慮した治療の展開~ 大阪回生病院 塩見 太一朗 P.8 7.運動器 認知機能低下がみられる大腿骨転子部骨折で立位安定性の低下となった一症例 ~課題を使った荷重練習を行った例~ 大阪暁明館病院 越智 亮太 P.9 8.運動器 一期的両側 THA 後の跛行における一考察 ~体幹機能に着目して~ JCHO 大阪病院 岸部 裕馬 P.10 9.運動器 TKA 術後の内側広筋に着目した筋力増強訓練により右膝内側部痛が軽減した症例 中之島いわき病院 下野 浩子 P.11 10.運動器 腰部痛と腹筋群の関連性に着目し治療を行った症例 大阪暁明館病院 小森 紗恵 P.12 11:20~12:40 第 3 セクション(会場:E703 号室) 座長 森之宮病院 島 恵 11.神経系 右視床出血により左片麻痺を呈し,歩行獲得に向けて装具の設定に難渋した症例 関西電力病院 中川 達裕 P.13 12.神経系 左半側空間無視により坐位保持能力が低下した利用者に対して、体幹回旋をコントロールすることで坐位姿勢改善を 目指した症例 介護老人保健施設のだふじ 井上 健 P.14 13.運動器 下肢筋力差が大きい二分脊椎患児に対し、股関節屈筋群の強化を図り段差昇降を獲得した症例 村上整形外科 山口 早紀 P.15 14.神経系 脳腫瘍摘出術後に歩行改善を認めた一症例 JCHO 大阪病院 水田 典孝 P.16 15.神経系 慢性期片麻痺患者の廃用症候群に対し装具の再検討が歩行能力改善に至った一症例 関西電力病院 井戸 浩世 P.172 11:20~12:40 第 4 セクション(会場:E704 号室) 座長 大阪医療福祉専門学校 菊地 淳 16.運動器 腰髄損傷不全対麻痺患者の洗顔動作・歩行動作獲得を目指した一症例 大阪回生病院 松田 和洋 P.18 17.運動器 階段昇降の実用性向上に向けた理学療法の試み -メカノレセプターの入力に着目した結果- 大阪暁明館病院 中川 裟耶佳 P.19 18.運動器 両変形性膝関節症に対して両側同時 TKA を施行した症例 ~立脚初期から中期に着目して~ 牧病院 西田 徹也 P.20 19.運動器 膝関節屈曲角度の改善に着目し、歩行動作が改善した症例について 中之島いわき病院 中西 和敏 P.21 20.運動器 タックル動作獲得に向けた理学療法の試み ~足関節脱臼骨折受傷した一症例~ 大阪回生病院 姜 承燁 P.22 13:30~14:35 第 5 セクション(会場:E703 号室) 座長 牧病院デイケアセンター 山下 修平 21. 運動器 転倒を繰り返した大腿骨頸部骨折のトイレ動作獲得を目指した理学療法 大阪回生病院 西浦 志郎 P.23 22.運動器 心機能が低下した左人工膝関節全置換術後の一症例 済生会中津病院 大谷川 雅史 P.24 23.運動器 TKA 術後患者に対し、社会背景を考慮した急性期病院での理学療法の工夫 医誠会病院 高木 良 P.25 24.運動器 活動範囲狭小化に至った癌性疼痛患者に対する理学療法の試み~COPM を用い個別性を重視した一症例~ 大阪回生病院 山岡 明弘 P.26 13:30~14:50 第 6 セクション(会場:E704 号室) 座長 関西医科専門学校 久保原 裕一 25.運動器 開腹術および脊椎カリエスの既往がある大腿骨頸部骨折後の理学療法 ~体幹機能低下により治療に難渋した一症例~ 大阪回生病院 岡野 真伍 P.27 26.運動器 右人工股関節全置換術後、立ち上がりの反復した重心移動訓練を行うことで腰痛が軽減した症例 JCHO 大阪病院 奥野 佑介 P.28 27.運動器 左内側半月板縫合後、ACL 再々建術を施行した 4 ヶ月目の一症例 〜スクワット動作指導の見直しによる変化〜 千船病院 毛利 早希 P.29 28.運動器 人工膝関節全置換術施行後、歩行での荷重応答期に着目した症例 牧病院 江守 翔 P.30 29.運動器 外傷性多発骨折患者の洗体動作獲得の試み ~徒手的治療に加え 24 時間管理に着目して~ 大阪回生病院 柴 大樹 P.31
3 左被殻出血にて重度右片麻痺・重度失語症を呈し、家 族介助下で手すり歩行獲得を目標とした一症例 ボバース記念病院 阪倉 麻美 【はじめに】左被殻出血後、重度右片麻痺・重度失語 症を呈した患者に対し、体幹機能に加え、歩行周期に 合わせた治療や下肢装具作成にて、家族介助下で手す り歩行獲得に至った症例を経験したので報告する。 【症例紹介】60 歳代男性。左被殻出血後、開頭血腫除 去術施行。発症 2 ヵ月後、リハビリテーション目的で 当院転院となる。当院リハビリテーション施行期間は、 発症後2 ヵ月~6ヵ月である。発症後2 ヵ月~4ヵ月は、 主に立位時の麻痺側下肢(以下、麻痺側:右)の支持性向 上を目的に介入を行い、姿勢を整える事で見守りでの 立位保持が可能となった。このため、発症後 4 ヵ月以 降、治療目標を歩行獲得へ移行した。この時期の Functional Independence Measure(以下、FIM)は 45 点、移動は車椅子自走レベル、トランスファーは中等 度~軽介助レベル、最高機能は歩行セラピスト中等度 介助レベルであった。コミュニケーションは理解が一 部単語レベル、表出がジャーゴン様発話であった。 【方法】歩行獲得に向けた治療内容の違いから単一症 例研究を A-B デザインと設定した。A 期は発症後 4 ヵ 月~5 ヵ月、治療目標を右立脚初期~中期に設定した。 治療は体幹・右股関節周囲を中心に行った。B 期は発 症後 5 ヵ月~6 ヵ月、治療目標を右立脚中期~後期に 設定し、A 期治療内容に加えて右足部への介入も行っ た。また、B 期に joint 付きシューホンブレース(背屈 角度 0-10°)を作成した。尚、評価項目は Fugl-Meyer Assessment(以下 FMA)、Berg Balance Scale(以下 BBS)、 Range Of Motion(以下 ROM)、筋緊張検査(触診)、FIM、 Modified Ashworth Scale(以下 MAS)とし、各期開始時 及び終了時に測定した。症例及び症例家族には本発表 の趣旨を説明し、同意を得た。 【結果】A 期開始時、歩行では右立脚初期~中期で右 骨盤前方回旋、側方偏移が生じ、体幹屈曲が強まり、 右膝折れがみられ介助を要した。 A-B 期移行時では BBS、筋緊張(右腹斜筋群、右大殿筋、 右中殿筋、右ハムストリングス)に改善がみられた。歩 行では、右立脚初期~中期で右骨盤前方回旋、側方偏 移や右膝折れが軽減した。しかし、右立脚中期~後期 において右骨盤前方回旋が強まると共に、右膝折れや 右内反尖足が生じ、介助を要した。 B 期終了時では BBS、ROM (右股関節伸展・右足関節背 屈)、筋緊張(右大腿四頭筋)に改善がみられた。歩行で は右立脚中期~後期で右骨盤前方回旋や右膝折れ及び 右内反尖足が軽減した。また装具使用で、右遊脚が可 能となり、家族介助下で手すり歩行獲得に至った。 表:A 期開始時、A-B 移行時、B 期終了時評価 【考察】A 期に体幹及び右股関節への治療により、右 立脚初期~中期の右下肢に対する右腹斜筋群による体 幹回旋の遠心性制御が改善し、右膝折れが軽減したと 考える。Karthikbabu らは、脳卒中患者に対する体幹 への治療が歩行の対称性、ケイデンスに影響を与えた 事を報告しており1)、本症例は体幹の安定性向上によ り、右下肢の支持性向上に繋がったと考える。また、B 期で足部への治療を行った事で、右足関節の可動性と 右足部からの感覚入力に伴う姿勢制御が改善し、右足 関節背屈位での支持が可能となったと考える。加えて、 装具を用い、右足関節の内反尖足を制御する事で右遊 脚が可能となったと考える。脳卒中治療ガイドライン では、内反尖足に対する歩行改善のために短下肢装具 をグレード B と推奨しており2)、本症例は姿勢制御に 対する治療に加え、装具を用いた事で、家族との手す り歩行獲得に至ったと考える。
【参考文献】1)S.Karthikbabu, et al. :Role of Trunk Rehabilitation on Trunk Control,Balance and Gait in Patients with Chronic Stroke:A Pre-Post
Design,Neuroscience&Medicine,2011,p61-67 2)萩原幸人他編集:脳卒中治療ガイドライン 2009,協 和企画,東京,2009,p300-304 A期開始時 A-B期移行時 B期終了時 FMA(上肢項目) 6/66点 6/66点 7/66点 (下肢項目) 8/34点 8/34点 9/34点 BBS 12/56点 15/56点 20/56点 ROM(右股関節伸展) -10° -10° -5° (右膝関節伸展) -10° -5° -5° (膝伸展位右足関節背屈) 0° 0° 5° 筋緊張検査(立位:触診) 右腹斜筋群 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張 右大殿筋、中殿筋 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張 右ハムストリングス 重度低緊張 中等度低緊張 中等度低緊張 右大腿四頭筋 重度低緊張 重度低緊張 中等度低緊張 MAS(右足関節背屈) 1+ 2 1+ FIM 45/126点 49/126点 53/126点
4 頚椎症性脊髄症により四肢麻痺を呈し、座位保持が困 難となった症例 大阪府済生会中津病院 本村直紀 【はじめに】今回、頚椎症性脊髄症術後、食事動作の 改善を目的に機能的座位の獲得を目指しアプローチし た症例を経験したため、ここで報告する。 【症例紹介】70 歳代後半女性で、診断名は頚椎症性脊 髄症(C2-7)である。1 年前から、両上肢にしびれを知 覚し、3 ヶ月前から両上肢の巧緻運動障害と歩行障害 が増悪した。1ヶ月前頃から立位保持困難となったた め、椎弓形成術(C3-6)・椎弓部分切除術(C2 下縁・C7 上縁)を施行した。意思疎通は難聴で指示理解不良も、 長谷川式認知機能検査は 28/30 点と認知機能低下は認 めなかった。Need は自分のことは自分でしたいであっ た。 【説明と同意】症例には本発表の趣旨を書面にて説明 し、書字困難のため家族から同意を得た。 【初期評価(術前)】ADL は FIM で評価し運動項目 13 点 で終日ベッド上で過ごしていた。機能評価として、 Modified Ashworth scale(以下、MAS)は大腿四頭筋・ ハムストリングス・下腿三頭筋・股関節内転筋が 3 レ ベルで左優位にやや抵抗感が強く、股関節・膝関節共 に、他動屈曲 90 ゚に満たなかった。頸部伸筋群も筋緊 張が亢進していた。MMT は両上肢 2—2+・両下肢 1-2、 Head-up 不可で体幹屈筋群は1であった。表在感覚は 過敏となり四肢全体にしびれが生じていた。深部感覚 (振動覚)は左右とも重度鈍麻で、中枢部と比べ末梢部 に強い感覚障害を認めた。 【中間評価(術後 2 週目)】大腿四頭筋・下腿三頭筋・ 股関節内転筋の MAS は右 1+・左 1 レベル、ハムストリ ングスは両下肢とも 0 レベルに改善し、頸部伸筋群の 筋緊張亢進は消失した。ROM は両股関節屈曲 90 ゚、膝 関節屈曲は右 130 ゚・左 140 ゚となった。MMT は肩関節 屈曲伸展・内外転、肘関節屈曲伸展、手関節掌背屈が 2-3(Rt<LT)、体幹屈筋群は 2 に改善し、Head-up も可 能で頸部屈曲位保持は 2-3 秒可能となったが、下肢は 術前と変化がなかった。感覚障害も著変なかった。車 椅子座位は頭頸部屈曲・体幹屈曲・骨盤後傾位の仙骨 座りで、股関節屈曲位・足関節軽度底屈位を保ててい たが、股関節内転筋・大腿四頭筋・下腿三頭筋の筋緊 張は亢進しフットレストを押し突っ張っていた。 【治療プログラム】機能練習は視覚代償を用いた低負 荷での神経筋再教育練習を行った。動作練習は車椅子 座位の実用性向上を目的に、股関節周囲筋から下部体 幹筋にかけての筋出力向上を目指し、二人介助での端 座位練習を中心に行った。端座位練習の方法としては、 前方から足底を床に接地し動かないように保持し、さ らに骨盤の前傾運動を促した。この時後方から、代償 動作を抑制しながら腰椎伸展運動を行った。 【最終評価(術後 6 週目)】FIM は食事・移乗(トイレ・ ベッド)が 3 点に改善し運動項目は 19 点となった。大 腿四頭筋・下腿三頭筋・股関節内転筋の MAS は両下肢 とも 1 に改善した。MMT は肩関節屈曲伸展・内外転、 肘関節屈曲伸展、手関節掌背屈が右 2-3・左 3-3+、両 下肢 2-2+と筋出力が改善し、体幹屈筋群は 2 のままで あったが、頸部屈曲位で頭部保持可能となった。上記 の端座位練習を行った直後は、腰椎伸展運動が軽度出 現し上部体幹の過伸展が減少し、その結果、抗重力伸 展活動が可能となった。また車椅子座位での頸部中間 位保持は可能で、下肢の筋緊張は正常化し、骨盤の軽 度前傾を伴ったバックレストから背中を離す動作は肩 甲骨下部付近まで可能となった。 【考察】本症例が目指す食事動作での機能的座位とは、 体幹を前傾させ、バックレストから背中を離した状態 で、上肢が円滑に操作でき食塊を口に運ぶことができ る肢位と考えた。端座位保持練習を行ったことで、股 関節・下部体幹筋群の筋出力向上などの機能面の改善 が得られたが、バックレストから背中を離す動作が不 十分であり、機能的座位の獲得には至らなかった。原 因としては、下部体幹や股関節周囲筋を中心にアプロ ーチを行ったが、支持基底面としての足部や殿部に対 するアプローチが不十分であったためと考える。しか し、下部体幹や股関節周囲筋の筋出力が向上したこと で、体幹の安定性が向上し、肩甲帯から上肢にかけて の機能面が改善したため、リーチ動作の実用性が向上 した。これにより、食事動作が改善し、Need が満たさ れたため、一定の効果はあったと考える。
5 脊髄脂肪腫、右麻痺性内反足に対する右足関節、距骨 下関節固定術後の歩容改善に取り組んだ症例 森之宮病院 大西志乃 【はじめに】今回、脊髄脂肪腫による、両下肢麻痺を 呈した患者の右足関節固定術後の歩容改善に取り組み、 歩容の改善が得られた症例を経験した為、これを報告 する。 【症例紹介】40 歳代女性。診断名は脊髄脂肪腫、両下 肢麻痺、右麻痺性内反足に対する固定術術後である。 足関節高度不安定性(右>左)から末期変形性関節症を きたし、右足関節、距骨下関節固定術(髄内釘固定)を 施行。2 ヶ月後、リハビリ継続目的にて当院に転院し 理学療法開始となる。術前は ADL 自立。主訴は、左右 足関節、右腰背部痛の軽減、ニードは歩容改善であっ た。 【説明と同意】症例には、本発表の趣旨を書面にて説 明し、同意を得た。 図:足部レントゲン写真 【初期評価(術後 73 日目)】筋力は、S1 レベル以下 MMT1 ~2、表在感覚、固有感覚は重度鈍麻~脱失であった。 疼痛評価において、右足部内側縦アーチの足底筋膜部、 三角靭帯脛踵部・脛舟部に伸張痛(+)、歩行時に右腰背 部に収縮時痛(+)。10m 歩行は左 T 字杖を使用し 21 秒、 32 歩。独歩は不可。 歩行は 3 動作そろえ型歩行。左 MStにおいて、左足 関節は内反、左股関節は屈曲、内転、左骨盤が後方回 旋し、腰椎前弯、右腰背部の短縮を強めて体幹を正中 位に保持する。右立脚期においても、左足関節のフォ アフットロッカーが使えず、右 IC から MStへの移行 時に、努力的な右股関節屈曲、内転運動によって右へ 重心移動し、右側方への骨盤変位が著明となる。 【治療プログラム】左 MStにおける股関節伸展、外転、 左骨盤の前方回旋を伴った支持を促す為に、足部から 中枢部に向かって、骨、筋のアライメントを整えてか ら、体幹筋の活性化に取り組んだ。座位で、左足部内 在筋を活性化し、足底からの固有感覚情報を得やすい よう中足骨間が広がった足底接地を促した。また、左 足部に対し外側ウェッジの足底板を作製し、左足関節 の内反変形の軽減を施した。 【最終評価(術後 128 日目)】筋力、感覚検査ともに著 明な変化なし。疼痛評価では、立位時の右足部の伸張 痛、歩行時の右腰背部の収縮時痛はともに軽減した。 10m 歩行は左 T 字杖を使用し 12 秒、23 歩。病室内、独 歩可能。 歩行は、2 動作前型歩行。左 MStにおける左骨盤の 後方回旋は軽減、左股関節の外転、伸展での支持が向 上、左体幹の抗重力伸展活動が得られやすくなり、腰 椎前弯、右腰背部の短縮を強めた動作は軽減。右立脚 期においても、左 MStの骨盤の後方回旋が軽減したこ とで、右 IC から MStにかけて、右股関節外転、伸展 方向の支持が得られやすくなり、右側方への骨盤変位 が軽減した。 【考察】歩行時、左 MStに左足部が内反で支持する為、 左踵部からの荷重感覚入力の経験が乏しく、左股関節 外転、伸展方向の活動と、左体幹の抗重力伸展活動が 得られにくいこと、また、左足関節の底屈運動の困難 さから、右 IC から MStにかけて、右股関節屈曲、内 転運動によって右への重心移動を行っていることが、 歩行時、右立脚期に骨盤が右側方変位する要因と考え た。未治療の経過を辿ってきた症例であり、踵支持で の二足直立位の経験が少ないことから、姿勢コントロ ールにおいて足部からの固有受容感覚入力が乏しく、 足底に対する下肢、体幹の抗重力方向への運動経験の 乏しさが見られた。治療後、左踵からの荷重感覚が得 られるようになったことで、左股関節周囲筋、左内腹 斜筋、腹横筋が活性化され、左骨盤の後傾方向への運 動を促せたことが、歩行時、右立脚期における骨盤の 右側方変位の軽減につながった。 今後の課題として、足部の変形と、腰背部痛の増悪 予防を目的として、更なる体幹の抗重力伸展活動の向 上に取り組む必要がある。 左 右
6 左前十字靭帯再建術を施行した患者に対し、体幹機能 に着目し治療を実施することで歩容の改善に至った 一症例 大阪暁明館病院 髙橋 将司 【はじめに】 前十字靭帯(以下 ACL)損傷に対して二重束再建法(以 下 STG 法)を用いて ACL 再建された患者に対し、歩容の 改善を図るべく体幹機能に着目し治療することで、歩 容の改善に至った症例を経験したため報告する。また 症例には本発表の趣旨を書面にて説明し、同意を得た。 【症例紹介】 30 歳代女性。診断名は左 ACL 損傷である。ジャンプ着 地時 knee in toe out による受傷約 1 ヶ月後、STG 法 により ACL 再建術施行された。職業は事務員であり、 現在の主訴は仕事場まで約 15 分の道のりを楽に歩け るようになりたいとのことである。理学療法経過とし て、術後 1 週間完全免荷であり、術後 2 週目より 1/3 荷重開始となる。その後 1 週毎に 1/3 ずつ増加し、術 後 4 週にて全荷重となり自宅退院される。退院後週 2 回の外来リハビリを継続する。 【初期評価(手術後 28 日目)】 DONJOY 装具による-20°の膝伸展制限あり。 疼痛評価:左膝関節周囲 NRS2/10 ROM-t:左膝関節屈曲 110° MMT:体幹屈曲 4 体幹回旋 右 4 左 4 左膝関節伸展 3+ 立位:骨盤は前傾し、腰椎前弯著明である。 10m 最大歩行速度:11.15 秒(独歩) 歩容:左 LR~TSt に骨盤前傾位で腰椎は前弯し、左骨 盤は後退し左股関節は屈曲位にある。左 TSt~PSw には 足関節底屈運動は促されず足趾による蹴り出しも欠如 し、左立脚期の短縮がみられ推進力を生み出せない状 態となっている。 【治療プログラム】 歩行中における体幹の安定性に着目し段階的に治療介 入を行う。背臥位にてドローインによる腹筋群の収縮 を促した状態でヒールスライドを実施した。次に、高 座位にて腹筋群の収縮促した状態で股関節屈曲位から 伸展を促す。立位では徒手誘導で腹筋群の収縮を促し た状態で左下肢への荷重を誘導し、中臀筋の収縮を促 す。同一状況下での左 MSt~TSt ステッピング練習を実 施した。 【最終評価(術後 33 日目)】 DONJOY 装具による-20°の膝伸展制限あり。 NRS:1/10 ROM:左膝関節屈曲 120° MMT:体幹屈曲 5 体幹回旋 右 4 左 4 左膝関節伸展 4 立位:骨盤前傾と腰椎前弯は軽減している(図参照)。 10m 最大歩行速度:8.82 秒(独歩) 歩容:左 LR~TSt にかけて腰椎前弯は減少し、股関節 伸展運動がみられる。また、左立脚時間の延長も確認 できた。左 TSt~PSw では軽度であるが足関節底屈運動 は促されるようになった。 【考察】 膝関節周囲筋の筋力増強運動と関節可動域運動に 加えて、腹部周囲筋の問題に対し理学療法実施した。 歩行効率不良の原因として、ACL 損傷と左下肢免荷期 間により、大腿四頭筋の筋力低下が生じ、歩行中 LR~ MSt にて膝折れを生じ、その代償動作として骨盤前傾 位となり、腹部周囲筋の出力低下に陥ったと仮定し治 療。初期評価時、歩行中の左 LR~MSt に腹部周囲筋出 力低下より腰椎前弯し、骨盤前傾することにより中臀 筋の作用が低下し、左立脚期の短縮が著明となり、左 MSt~TSt に股関節伸展が減少し、推進力低下がみられ た。治療として、歩行における腹部周囲筋の緊張を高 める事で、歩行中の腰椎前弯と骨盤前傾を減少させる 運動に着目し治療介入を実施した。最終評価時には歩 行中の腹筋群が賦活され、骨盤の安定性が得られた。 よって、左 LR~MSt に中臀筋の作用が賦活され左 MSt ~TSt における股関節伸展が出現した。以上の歩容の 改善により、10m 最大歩行速度が 2.33 秒速くなり、歩 行効率は初期評価時と比較して改善されたと考える。 図:立位(初期、最終) MSt(初期、最終)
7 義足調整による荷重痛軽減が歩行能力の向上に影響 を及ぼした一症例 関西電力病院 リハビリテーション科 掛谷佳昭 【はじめに】断端痛、幻視痛などの疼痛は義足歩行獲 得の阻害因子とされている。本症例は歩行時に荷重痛 を認めていたことから独歩の獲得に難渋していたが、 義足調整による荷重痛軽減を図ったことで独歩自立ま で獲得した。荷重痛軽減にあたり、義足調整について 若干の知見を得たので報告する。 【症例紹介】70 歳代女性。診断名は急性動脈閉塞によ る下腿切断であった。今回、左下腿切断術を他院にて 施行後、義足歩行練習を目的に当院へ転院となった。 当院への入院は切断術後3 週目であり、急性期病棟で 術後6 週目に義足作成を行い、切断術後 8 週目で自宅 復帰を目的に回復期リハビリテーション病棟へ転棟し た。合併症に糖尿病による末梢神経障害があったが、 術前ADL への影響はほとんどなく自立していた。 【初期評価(術後8 週)】左断端部の熱感、発赤なく、 創部の癒合も良好であった。断端長は 17cm、断端周 径は 31±0.5cm で断端部の感覚障害はみられなかっ た。骨断端上部に安静時痛はないが、歩行の左足底接 地時に荷重痛を認めた。荷重痛はVisual Analog Scale (以下、VAS)で 50~70mm あり、骨断端上部に発赤 を認めた。下肢Manual Muscle Testing(以下、MMT) (R/L)は股関節が屈曲 4/5、伸展 3/4、外転 4/4、膝 関節が屈曲 4/4、伸展 4/5、足関節が底屈 2/‐、背屈 2/‐であった。10m 歩行は T 字杖を使用し快歩 18.8 秒(25 歩)、速歩 16.7 秒(27 歩)であった。歩容は 左右を比較すると左立脚期、右ストライド長の短縮が みられ、Tinetti gait assessment(以下、TGA)は 3 点だった。Functional Independence Measure(以 下、FIM)は 115 点であった。 【治療プログラム】下肢筋力増強訓練、義足アライメ ント調整、義足部品の変更を行った。荷重痛軽減に伴 って、歩行、継ぎ足歩行などの応用歩行練習、坂道な ど傾斜での歩行練習、階段昇降訓練を中心に実施した。 その後、自宅復帰を目標とした入浴動作などの ADL 訓練も並行して実施した。 【最終評価(術後20 週)】断端周径が 30±0.5cm に 短縮した。荷重痛はVAS30~40mm に軽減し、骨断端 上部の発赤も認めなかった。下肢MMT は股関節が屈 曲5/5、伸展 5/5、外転 5/5、膝関節が屈曲 5/5、伸展 5/5 足関節が底屈 4/‐、背屈 3/‐に改善した。10m 歩 行では快歩9.3 秒(20 歩)、速歩 7.7 秒(19 歩)に改 善した。歩容は、左立脚期、右ストライド長が初期と 比較し延長を認め、TGA も 12 点と向上した。FIM は 124 点まで改善を認めた。 【考察】本症例は、歩行時に荷重痛が顕著にみられ、 下肢筋力の低下もあったことから歩行にT字杖を使用 し、側方からの介助を要した。荷重痛は、当初、骨断 端部に認めていたため、荷重を避けるため骨断端部分 のみソケットに膨らみを持たせ免荷を図った。しかし、 免荷した上部に圧が集中し、その部位に荷重痛、発赤 が生じた。川村¹⁾らは断端前面の痛みの原因としてソ ケットの前傾角度が大きすぎることを挙げている。こ のことから、ソケットの初期屈曲角度を減らし、前方 への推進力を下げることで、立脚期の断端前面に加わ る圧の軽減を図り、荷重痛軽減を試みた。しかし、そ れだけでは荷重痛軽減が不十分と考えられたため、足 部を単軸型からアジャスト型に変更した。アジャスト 型は単軸型と違い、踵接地時に踵部分のパッドとイン サート部分で衝撃の吸収を行うことができ、足底接地 への移行が緩やかとなることで断端に加わる衝撃の軽 減を図った。これにより、荷重痛がVAS50~70mm か らVAS30~40mm に軽減した。その結果、初期と比較 し、左立脚期、右ストライドの延長を認め、TGA の点 数が向上した。それに伴い、歩行速度が上昇したこと で10m 歩行の向上もみられた。 以上のことから、荷重痛を認める下腿切断症例に対 し、初期屈曲角度の調整、足部の選択を行い、荷重痛 軽減の図ることが歩行獲得に重要であると考えられた。 【引用文献】 1)川村次郎ら:義肢装具学第 4 版、医学書院、p131-133、 2009
8 足関節脱臼骨折後のしゃがみ動作と歩行動作の獲得 にむけて ~作業特性と体型を考慮した治療の展開~ 大阪回生病院 塩見太一朗 【はじめに】今回、左足関節脱臼骨折後に骨接合術を 施行した患者を担当した。本症例は商品の運搬作業を 伴う職場への復帰を希望。業務上必要なしゃがみ動作 と歩行動作に着目し、作業特性を踏まえた治療を展開 した結果、若干の改善を認めたため考察を加え報告す る。 【症例紹介】本発表の趣旨を説明し書面にて同意を得 た 50 歳代前半女性。BMI は 29.6(肥満)。寝具のマット レスに左足部を挟み転倒し、左足関節脱臼骨折 (図 1)。 腓骨に対しプレート固定、脛骨に対しピンニング術を 施行した(図 2)。 図 1(後方 正面) 図 2(正面 内側面) 図 3 足部アライメント 【初期評価(術後 43 日目)】カナダ作業遂行測定(以下 COPM、重要度・遂行度・満足度の順で表記)では、①荷 物を持つ際に深くしゃがめる(10・5・5)、②片道 15 分の職場まで歩ける(8・8・8)の 2 項目が聴取された。 関節可動域測定(以下 ROM-t、右/左、単位°で表記) では足関節背屈 15/5、ST 関節回内 10/0、リスフラン 関節回外 10/10、回内 15/5。徒手筋力検査(以下 MMT、 右/左で表記)では足関節底屈 3/2+。足部のアライメン トとしてハイアーチと外反母趾が存在した(図 3)。歩 行検査では 10m歩行が 13.7 秒 25 歩、ケイデンスが 109.4 歩/分、PCI は 0.3 であった。しゃがみ動作では、 体型による腹部の圧迫により股関節の深屈曲が制限さ れ、 足関節の背屈運動と下腿の前傾が減少 (図 4)。 歩行動作では早期に踵離地が出現し、立脚後期が短縮 (図 5)。マットスキャン(ニッタ社)を用いた歩行時の 足圧中心の軌跡では、母趾への荷重が減少していた(図 6)。 【治療プログラム】作業動作と歩行の立脚後期の相方 を治療する目的で、通常のしゃがみ動作ではなく前足 部に荷重をかけたしゃがみ動作(蹲踞)を課題として 選択した。しゃがみ動作に必要な足関節・膝関節・股 関節の可動性を獲得するため、治療前には温熱療法を 実施後、徒手療法を施行。各関節の協調的運動と前足 部荷重を意識したしゃがみ動作・歩行動作の訓練を行 った。24 時間アプローチとしては、足底パッドを用い て前足部の剛性を向上させ、母趾への荷重を誘導した。 図 4 図5 図 6 【最終評価(術後 50 日目)】COPM①10・6・6、②8・10・ 10。ROM-t 左足関節背屈 10、ST 関節回内 5。MMT 左足 関節底屈 3。足圧中心の軌跡では前足部荷重が増大。 10m歩行 11.3 秒 20 歩、ケイデンス 106.6 歩/分、PCI 0.2 と各パラメーターにて改善が得られた。完全な蹲 踞の獲得には至らなったが、しゃがみ動作において下 腿の前傾が増加し (図 7)、歩行動作は左立脚後期が延 長、エネルギー効率にも改善がみられた。(図 8、図 9)。 図 7 図 8 図 9 【考察】しゃがみ動作では、股関節深屈曲・膝関節屈 曲・足関節背屈の協調的な動作が必要とされる。本症 例では受傷・手術後による足関節背屈制限と前足部の 剛性低下によって足関節でのバランス制御が困難とな っていた。また、体型により股関節屈曲可動域が制限 されていたため、通常のしゃがみ動作ではなく蹲踞で 動作を遂行する必要があると考えられた。 【おわりに】今回、体型を考慮しつつ作業動作と歩行 立脚後期に共通する構成要素を抽出した。相方に関わ る問題を治療することが効率的な治療展開に必要であ ると考える。
9 認知機能低下がみられる大腿骨転子部骨折で立位安 定性の低下となった一症例 ~課題を使った荷重練 習を行った例~ 大阪暁明館病院 越智 亮太 【はじめに】持続的注意の低下がみられる症例に対し 荷重練習として重心移動練習を試みた。しかし効果が みられず、輪投げや目標物などの課題を使った荷重練 習を中心に遂行することで立位の安定性向上を試みた ので考察を加え報告する。本症例と家族には発表の趣 旨を説明し書面にて同意を得た。 【症例紹介】本症例は 80 歳代女性、身長は 145.0cm、 体重は 40.0kg であった。バイクとの衝突事故により、 転倒され自宅にて安静にしていた。受傷 2 日後ご家族 の勧めにより当院に受診し、左大腿骨転子部骨折と診 断され入院した。受傷 7 日後当院入院され骨接合術 (IPTnail)を施行した。術後 23 日後、当院の回復期病 棟に転棟した。 【初期評価】術後 53 日目~55 日目 HDS-R は 14 点、減点項目は短期記憶,見当識が低下し ていた。口頭指示だけで立位保持行うと周りに注意が 向き平均 6 秒で視線保持不可、前方に目印を置き注意 を向けるように指示すると平均 17.5 秒視線保持可能 であった。ROM は左股関節伸展‐5°であった。MMT は 左股関節外転 3p、左股関節伸展 3 であった。 立位時の筋緊張は両大殿筋,左内側広筋は低下し、 左大腿筋膜張筋と左大腿直筋は亢進した。左大腿近位 外側部に安静時,運動時に疼痛があった。立位では、 頚椎は過伸展、腰椎は後弯、体幹は左側屈,左回旋、 骨盤は後傾,右側方偏位,右回旋、両股関節軽度屈曲、 両膝屈曲、両足趾伸展位であった 。重心は右後方重心 となり、立位時荷重は左 15kg,右 25kg であった。 【治療プログラム】荷重練習には立位での輪投げ等、 目標物を使ったリーチ動作を反復し行った。 【最終評価】術後 70 日目~71 日目 ROM は左股関節伸展‐5°、MMT は、左股関節外転 4、 左股関節伸展 3。筋緊張は初期評価時に比べ両大殿筋 と左内側広筋の緊張が軽度改善し、左大腿直筋,左大 腿筋膜張筋の筋緊張が軽度低下した。疼痛は安静時は なくなり運動時は軽減した。初期評価時の立位姿勢に 比べ、体幹の左側屈,左回旋、骨盤の後傾,右側方偏 位,右回旋、両膝関節は屈曲が軽度改善した。立位時 荷重は左 18kg,右 22kg となった。 【考察】本症例は、短期記憶と持続的注意の低下がみ られた。具体的な例では、正面を注視して立位を保持 するように口頭で指示すると、数秒経つと注意散漫と なった。初期時の立位アライメント不良の問題点は、 術部の疼痛と左中殿筋の筋力低下、両大殿筋,左内側 広筋の立位時の筋緊張低下による骨盤後傾,右側方偏 位であり左股関節安定性を低下させていた。また代償 として右外側支持機構と右大腿直筋の筋緊張亢進を引 き起こし、左股関節荷重逃避姿勢を助長させていた。 左下肢へ荷重が行えるようになることで左中殿筋の筋 力が増加し、筋緊張異常が改善すると考えた。そして 立位の安定性が向上し、その結果として転倒予防に繋 がると考えた。よって治療プログラムとして、骨盤帯 のアライメントを整え、左股関節安定性を獲得するた めに、筋力増強運動と左股関節荷重練習を実施した。 しかし、左股関節荷重練習をする際に徒手により重心 移動を行うと、把持している所や周囲に注意が向き課 題遂行困難であった。目標物に意識を向けると注意持 続が可能だったので、毎回口頭で指示を出し、輪投げ や目標物等を使い注意を持続させ、リーチ動作を行っ た。リーチ動作を行うことで、左側への重心移動、垂 直方向への体幹,両股関節の伸展を促した。また外乱 刺激を反復して与えることで効率的な姿勢制御を行い やすくする 1)という報告があるため、前述の課題を行 った。治療を行い左中殿筋の筋力増強、筋緊張異常が 改善したことで立位時の骨盤アライメントが改善した。 その結果左荷重逃避姿勢が軽減した。 図(左 術後 55 日目 右 術後 70 日目) 【参考文献】(1)大畑 光司 リーチ課題の反復による 姿勢制御の変化 理学療法学 第 30 巻第1号 1~7 頁
10 一期的両側 THA 後の跛行における一考察 ~体幹機能に着目して~ JCHO 大阪病院 岸部 裕馬 【はじめに】特発性両側大腿骨頭壊死症に対し、一期 的両 THA を施行した症例を経験した。Duchenne 歩行に よる体幹側屈を認め、体幹機能に着目し理学療法を施 行し、改善が見られたので報告する。 【症例紹介】40 歳代女性。診断名は特発性両側大腿骨 頭壊死症である。併存症は 25 年前に全身性エリテマト ーデスがあり、ステロイド治療を行っている。20 年前 に右股関節痛が出現し、15 年前に左股関節痛が出現し た。その後両股関節痛憎悪(右>左)したため、一期 的両側 THA 施行した。主訴は歩行時の両股関節痛であ った。 【説明と同意】症例にはこの発表を行うにあたり、説 明し書面にて同意を得た。 【初期評価(術前)】疼痛(VAS)rt/lt:歩行時股関節 痛 9.5/2.3 ROM(°)rt/lt:股屈曲 60/50,伸展-5/-5, 外転 0/0, 内転 20/15, 外旋 0/0, 体幹回旋 55/50 MMTrt/lt:股屈曲 4-/4-,伸展 4/4,外転 3/3,内転 3/3, 外 旋 3/3, 膝 伸 展 4/4 TUG : 12.1( 秒 ) 下 肢 長 SMD(cm)rt/lt:77/78 座位の重心移動では右方向に対 する体幹の立ち直りは見られず、坐骨に重心を移動す ることができない。歩行時左右ともに立脚中期に支持 側への体幹側屈、上肢外転を認めた。(右>左) 【中間評価術後(2w)】疼痛(VAS):歩行時股関節痛 4.6/8.1 ROM:股屈曲 70/60,伸展 0/0,外転 10/15,内転 5/10,外旋 5/10,体幹回旋 55/60 MMT:股屈曲 3/3,伸展 3/3,外転 2/2,内転 3/3,外旋 1/1,膝伸展 4/4 TUG: 13.0(秒)(右 T 字杖) 下肢長 SMD:79/79 座位の重心移 動は右方向に対し体幹の立ち直りが見られたが、左方 向では体幹の立ち直りが見られなかった。歩行は右立 脚期での体幹右側屈が軽減し、左立脚期では左体幹側 屈が残存した。独歩では右体幹の過緊張が歩行周期を 通して認めた。 【治療プログラム】立脚期の左右体幹側屈は①股関節 外転筋力低下②体幹筋力低下と考えた。術後 3 日目よ り①に対し両側同時に股関節外転をすることで骨盤の 引き上げによる代償を防ぎ、経過と共に負荷量を増加 させた。②に対し臥位、座位での骨盤の引き上げ、立 ち直り動作を指導した。①②に対して立位にて重心移 動を行い、筋力強化と共に協調性の改善を図った。 【最終評価(4w)】疼痛(VAS):歩行時股関節痛 0/1.3 ROM:股屈曲 80/85,伸展 5/5,外転 15/20,内転 5/10,外 旋 15/20,体幹回旋 55/60 MMT:股屈曲 4/4,伸展 4/4, 外転3/3,内転3/3,外旋2/2膝伸展4/4 TUG:8.4(秒) 座 位の重心移動では両方向に対する体幹の立ち直りを認 めた。歩行は体幹の側屈が軽減し、右体幹の過緊張も 軽減した。 【考察】術前は歩行時の両側立脚中期に支持側への体 幹側屈、上肢外転を認めた(右>左)。座位の重心移動で は右方向に対する体幹の立ち直りを認めなかった。右 股関節に認めた強い疼痛に加えて、外転筋力低下、体 幹筋力低下を原因と考え、術直後より臥位、座位を中 心に筋力増強訓練を行った。術後 2wで右方向に対す る体幹の立ち直りを認めたのは、右股関節痛の軽減と 共に、左体幹筋力の改善によるものと考えた。しかし、 座位での左方向への重心移動で体幹立ち直りを認めず、 立脚期では左体幹側屈が残存した。これは左股関節の 術後疼痛と外転筋力低下、体幹筋力低下が考えられた。 しかし、徒手的に外転筋力に左右差を認めないことか ら、術後疼痛と体幹筋力低下によるものと考え、座位 中心での重心移動訓練を継続した。術後 3wでは左右 共に疼痛が軽減し、独歩可能となった。左立脚期に左 側屈を認め、代償的に歩行周期を通して右体幹筋の過 緊張を認めた。術前は右股関節優位に認めた疼痛によ る逃避性跛行を呈していたと考えたが、術後3wでは 疼痛に左右差を認めず、歩行時に左優位に体幹側屈を 認めた。これは長期罹患による疼痛性跛行の継続によ り、左右体幹筋の協調性が低下したと考えた。歩行時 の左右体幹筋の協調性の再教育を目的とし、立位での 重心移動を積極的に行い、最終評価時には立脚期の左 右体幹側屈や、体幹筋の過緊張の低下が見られ歩行機 能の改善に繋がったと考える。
11 TKA 術後の内側広筋に着目した筋力増強訓練により右 膝内側部痛が軽減した症例 中之島いわき病院 下野 浩子 【はじめに】本症例は、両変形性膝関節症に対し両 TKA 術を施行。その後、右膝内側裂隙に疼痛が生じた。疼 痛緩和を目的に内側広筋の筋力増強および内側膝蓋大 腿靱帯(以下 MPFL)、内側膝蓋脛骨靱帯(以下 MPTL)に対 して柔軟性トレーニングを行い、疼痛の軽減を図るこ とができたので報告する。 【症例紹介】80 歳代男性。身長 155cm 体重 55kg。3 年 前から両膝関節痛があり、疼痛増強により両 TKA 術施 行した。needs は右膝関節痛をとり、自転車に乗るこ とと階段昇降の獲得である。 【説明と同意】症例には本発表の趣旨を説明し、書面 にて同意を得た。 【初期評価】術前の疼痛は右膝外側裂隙に出現 (VAS6.2)していた。術後の初期評価では Q-angle(R/L) 9°/13°で、下腿の捻転角度は(R/L)5°/20°であり、 右下腿外反、内旋傾向が示された。ROM(R/L)は、膝関 節屈曲 120°/110°、伸展-20°/-20°と制限があった。 MMT は術後 1W で、膝関節屈曲 3.伸展 4-で、特に内側 広筋の収縮は触知困難であった。周径(R/L、単位 cm) は膝蓋骨上縁 5cm34.5/35、膝蓋骨上縁 10cm36.5/36、 膝蓋骨上縁 15cm40/40.5 であった。疼痛は MPFL、MPTL に出現(VAS8.0)しており、強い圧痛が認められた。炎 症所見について、CRP(mg/dl)は術後 2W で 3.93 まで低 下したが、術後 5W から上昇し、術後 8W では 6.58 と高 値を示していた。術前後ともに立ち上がり着座動作、 歩行、階段昇降時に疼痛が増強していた。立ち上がり 動作は、股関節外転、外旋位で、右下腿内旋・外反、 左下腿外旋・外反、足部回内を伴いながら重心の前上 方移動により行っていた。 図:立位時の下腿捻転角 (右下腿内旋、左下腿外旋) 【治療プログラム】荷重下 での膝関節屈曲に疼痛が増 強していたため、疼痛緩和 を目的に 1、姿勢修正しな がらのパテラセッティング とスクワットや立ち上がり練習 2、MPFL、MPTL 柔軟性 トレーニング(圧迫を加えながらの膝関節屈伸運動)を 約 3 ヶ月間実施した。 【最終評価】ROM(R/L)は、膝関節屈曲 140°/145°伸 展-5°/-5°に改善した。MMT は、屈曲 4、伸展 4 まで 改善し、内側広筋の収縮も得られた。周径(R/L、単位 cm)は膝蓋骨上縁5cm36/36、膝蓋骨上縁10cm 38.5/38.5、 膝蓋骨上縁 15cm41.5/41 であった。疼痛は、術後 7 週 頃から内側裂隙(VAS5.3)に出現部位が変化した。 【考察】内側広筋は膝蓋骨の外側偏位を抑止する特異 的な機能がある。1)本症例では、術前・術後ともに内 側広筋の収縮が触知困難であり、膝関節屈曲時に膝蓋 骨の外側偏位を抑制できず、MPFL、MPTL が過伸張され、 疼痛が生じていたのではないかと考えた。また、立ち 上がり時には股関節外転・外旋位、右下腿内旋、外反、 足部回内を伴っており、術前の動作方法が残存してい た。そのため、右膝関節内側部の組織に過剰なストレ スがかかり、疼痛が生じていたのではないかと考えた。 MPFL、MPTL の柔軟性トレーニングを行ったところ、膝 蓋骨の可動性が向上した。また、パテラセッティング は股関節外旋位で内転を伴いながら行い、スクワット や立ち上がり練習では、股関節外転、外旋位を修正し、 股関節内転筋を収縮させながら行い内側広筋の筋力増 強を行った。その結果、MPFL、MPTL の疼痛軽減が得ら れた。しかし、内側裂隙の疼痛は軽減傾向にはあるが 未だに残存している。この原因として筋の走行角度に 変化が生じ、膝蓋骨の内側への牽引力が低下し、筋力 を発揮しにくくなっている2)ことが考えられる。また、 初期評価時に股関節周囲の筋力評価を行っていなかっ たため比較することはできないが、最終評価時に股関 節周囲の筋力低下が認められた。膝関節の安定性を高 める股関節周囲筋に対し、初期から評価、介入を行っ ていくべきであったと考える。 【引用文献】1)矢型幸久:内側広筋優位の大腿四頭筋 強化訓練に関する研究.リハビリテーション医学,第 35 巻,8 号 556-562,1998 2)田辺聡史:大腿四頭筋の走行が膝関節に与えられる 影響-人工膝関節全置換術後の膝伸展筋力の回復過程 との関連-.運動器理学療法 9
12 腰部痛と腹筋群の関連性に着目し治療を行った症例 大阪暁明館病院 小森 紗恵 【はじめに】腰椎圧迫骨折を受傷後、著明な腰部痛 により基本動作が制限されていた。そこで腰部痛と腹 筋群の関連性に着目し、治療を行ったことにより腰部 痛が改善され、基本動作が向上した症例を担当したの で、報告する。なお、症例には発表の趣旨を説明し同 意を得た。 【症例紹介】自宅のベッドから転落し、L2 圧迫骨折を 受傷した身長 142cm、体重 65kg 、BMI31.7 肥満体型の 70 代女性。受傷前は屋内伝い歩き、屋外杖歩行自立 既往:Th12.L1 圧迫骨折、肺気腫、両変形性膝関節症 【初期評価】(介入より 1~3 日目) 疼痛 (NRS) 両腰多裂筋、両脊柱起立筋 臥位 7/10 体動 10/10 触診 (過緊張) 両脊柱起立筋、両広背筋、両腰多裂筋、 両腰方形筋 筋力 体幹屈曲:2 両下肢:腰痛強く測定不能 寝返り~起き上がり~端座位 背臥位から側臥位は、ベッド柵の引き込みで、頭頸 部・上部体幹回旋するも腰部痛にて困難。両股・膝関 節屈曲するよう指示するも腰椎前彎で代償し、腰部痛 出現するため介助にて膝立て位となる。その後ベッド 柵の引き込みで下部体幹・骨盤回旋して側臥位となる。 起き上がりは、下肢を下垂させる際、体幹屈曲・回旋 により腰部痛出現し、ベッド柵を引き込むも、on elbow なれず、体幹回旋することでより腰部痛増強。そのた め全介助にて端座位となる。座位姿勢は頭頸部前方突 出、腰椎前彎強く、骨盤前傾位、凹円背。右上肢はベ ッド端、左上肢はベッド柵を把持するも腰部痛著明な ため、端座位保持不可。 【治療プログラム】①腰背部筋リラクゼーション ②徒手的に腹圧を高め腹筋群・下肢筋力増強練習 ③動作練習(起き上がり・座位・立ち上がり・立位) 【最終評価】(介入より 30 日目) 疼痛(NRS) 両腰多裂筋 臥位 4/10 体動 7/10 触診 (過緊張) 両脊柱起立筋・両広背筋・両腰多裂筋 両腰方形筋 初期に比べ過緊張軽減 筋力 体幹屈曲 3- 両粗大下肢筋力 3+~4 寝返り~起き上がり~端座位 背臥位から側臥位では、ベッド柵を把持せずに両 股・膝関節屈曲と同時に頭頸部・体幹回旋させ、腰部 痛なく側臥位となる。起き上がりは、下肢を下垂させ ると同時に頭頸部・体幹屈曲・回旋する際に、軽度腰部 痛出現するも、介助なく端座位となる。座位姿勢は頭 頸部前方突出、腰椎前彎軽減し、骨盤前後傾中間位で 円背だが、上肢支持なく可。端座位にて腰部痛の訴え なく 30 分以上保持可能。 【考察】以前より圧迫骨折を繰り返し、その度、腰部 痛が著明であった。入院前はサービスを利用し、自宅 でもベッドにて過ごすことが多く、活動性が低い状態 であったため、全身的な筋力低下があったのではない かと推測した。今回も腰部痛が強く基本動作が制限さ れており、腹筋群の筋力低下の影響により腰部筋の持 続収縮が体幹の固定性を強めていること・体動時腰部 筋の収縮がさらに強くなることで著明な腰部痛が生じ ているのではないかと考えた。治療ではまず、腹筋群 の効率的な収縮を促すためにリラクゼーションで腰部 筋の過緊張を軽減し、骨盤の可動性を高めた。腹筋群 の効率的な収縮を促す際に、徒手で腹直筋を介して腹 横筋に触刺激を加え腹圧を高めながら、腹筋群の筋力 増強練習を行った。その後、腰背部の過剰収縮を抑制 するために、腹筋群を意識して体動を行うこと・無理 な体幹回旋が生じないように行うことを指導し、起居 動作の運動学習を図った。腹筋群の筋力が向上したこ とで相反神経抑制1)により、腰部筋の過緊張・腰部に 掛かる負荷が減少し、大幅な腰部痛の軽減に繋がった と考える。それにより腰部痛残存するも寝返り・起き 上がり動作が自立し、端座位保持時間が延長されたと 考える。また腰部での代償・疼痛が軽減したことで下 肢筋の筋出力も向上したと考える。 今回は腰部痛と腹筋群筋力増強に着目し、腰部痛が 軽減され、基本動作の向上が図れた。しかし、既往歴 の肺気腫や両変形性膝関節症も基本動作に影響してい たと考え、今後は視野を広げて、評価・治療を行って いきたい。 【参考文献】 1) 貴邑冨久子:シンプル生理学、南江堂、2010.11
13 右視床出血により左片麻痺を呈し,歩行獲得に向けて 装具の設定に難渋した症例 関西電力病院 中川達裕 【はじめに】片麻痺患者の歩行では,膝・足関節が不 安定になることが多く,短下肢装具の調節について 様々な報告がある.今回,右視床出血後,運動麻痺に より膝・足関節の不安定性を呈した症例を担当し,装 具の設定に若干の知見を得たので報告する. 【症例紹介】50 歳代後半男性.左上下肢の運動麻痺と 感覚障害が出現し当院救急搬送.CT 画像にて右視床出 血と診断された(CT 分類Ⅱb).脳室穿破と内包への血 腫伸展を認めたが,血腫の増大がないことから保存的 加療となった.発症 3 日目よりリハビリテーションを 開始した.合併症や既往に特記する事項なし.入院前 は営業職. 【説明と同意】症例・家族には本発表の趣旨を口頭で 説明し,同意を得た. 【初期評価(発症 3 日目)】意識障害軽度:Glasgow Coma Scale(以下 GCS)E4V4M6.左半側空間無視軽度:線分 二等分試験 3cm 右偏移.その他の高次脳機能障害なし. 感覚障害:左上下肢表在感覚・深部感覚ともに中等度 鈍麻.筋緊張上下肢ともに軽度亢進: Modified Ashworth Scale(以下 MAS)1.左足関節は誘発で足間 代が出現した.深部腱反射は左膝蓋腱反射のみ亢進し ておりその他は正常.病的反射は左 Babinski 反射が陽 性.運動麻痺:Brunnstrom Stage(以下 Brs)左上肢 Ⅴ 下肢Ⅳ 手指Ⅴ.筋力:Manual Muscle Test(以下 MMT)で股伸展 4/4(右/左),膝伸展 5/4,足背屈 5/4, 足底屈 5/2,右上下肢と体幹筋力低下なし.関節可動 域制限なし.基本動作は寝返りや起き上がり時に左上 下肢の管理に対する口頭指示が必要.端座位保持は監 視にて可能.立ち上がりは手すりを使用し最小介助で 可能.特に膝折れに対して介助必要であった.歩行は 金属支柱付き短下肢装具(底背屈 0°固定)と四点杖 使用で中等度介助,膝折れは抑制された.10m 歩行は 75.5 秒,連続歩行距離は 40m であった. 【治療プログラム】①痙縮に対して筋持続伸張(左足 関節背屈),②筋力増強練習(左膝伸展・足関節底屈), ③歩行練習(装具装着、装具なし) 【最終評価(発症 20 日)】意識障害改善:GCS E4V5M6. 左半側空間無視改善:線分二等分試験正中位.感覚障 害は表在感覚・深部感覚ともに軽度鈍麻.筋緊張:MAS 0,深部腱反射は正常.運動麻痺:Brs 上肢Ⅵ 下肢Ⅵ 手 指Ⅴ.MMT:股伸展 5/5,膝伸展 5/4,足背屈 5/5,足 底屈 5/3.基本動作は歩行以外自立.歩行は金属支柱 付き短下肢装具(0~5°遊動,背屈制動)と T 字杖使用 し監視にて可能.歩行速度は 10m 歩行が装具ありでは 14.2 秒(遊動のみでは 16.1 秒),装具なしでは 20.0 秒.連続歩行距離は装具装着で 200m.装具なしでも 200m の歩行が可能であったが,装具装着時に比べ立脚 初期~中期の膝屈曲が増大した. 【考察】初期評価時,立脚中~後期での膝折れが問題 であった.原因として感覚障害と足関節底屈筋力低下 が考えられた.このような原因で膝折れを生じる場合 は短下肢装具の背屈を制限する必要がある.本症例も 金属支柱付き AFO 底背屈 0°固定で膝折れは制御され たが,その後,背屈角度をフリーにすると,立脚期中 ~後期にかけて膝屈曲位であり,歩容の改善が困難で あった.通常,膝は立脚中~後期にかけて完全伸展し 前遊脚期から屈曲する.このような場合,装具の背屈 を固定,もしくは制動,制限することが一般的である. 本症例は,背屈を 0°固定に設定した際,立脚後期で 急激な膝伸展が生じたため,足背屈 0°~5°遊動とし, 脛骨の前方傾斜を軽減するために足継手に 23mm 金属 製コイルスプリングによる背屈制動機能を付加した. 結果,立脚中~後期にかけての膝伸展が良好になった が,立脚中期での軽度膝屈曲は残存した.膝屈曲が残 存した原因としては底屈筋力低下や左下肢の軽度深部 感覚障害が残存したことが考えられた.また 10m 歩行 速度は向上した.以上のことから,背屈制動機能によ り下腿の前方傾斜が軽減し,膝伸展が促されたことで 下腿の支持性の向上と 10m 歩行時間の短縮に繋がった と考える.背屈制動機能を付加する際には,制動の強 さや下腿三頭筋の痙縮に留意する必要があるが,立脚 中~後期に膝屈曲位で歩容が改善しにくい症例には有 効であると思われた.
14 左半側空間無視により坐位保持能力が低下した利用 者に対して、体幹回旋をコントロールすることで坐位 姿勢改善を目指した症例 介護老人保健施設のだふじ 井上 健 【はじめに】左半側空間無視のアプローチ方法として 視覚情報、体性感覚、言語性認知などを利用した方法 がよく用いられている。今回、左半側空間無視特有の 症状を呈し、不良坐位姿勢がみられる症例に対して、 体幹回旋コントロール機能を向上することで坐位姿勢 における不良姿勢を調整した症例を経験したためこれ を報告する。 【症例紹介】60 歳代男性。数年前に右前頭葉脳梗塞(左 片麻痺)を発症。右側頭葉脳梗塞再発のため入院。1 ヶ 月ほどで症状安定し、当施設に再入所となる。 【説明と同意】被検者、家人に本発表の趣旨を説明し 同意を得た。 【初期評価】治療は入院後33 日から計 23 日間 1 回 40 分週 2 回実施した。Br.stage 左上肢Ⅱ‐下肢Ⅱ。筋 緊張は腹直筋、腹横筋、内・外腹斜筋が低下していた。 自動運動は体幹前・後屈わずかに可能であるが、回旋 運動は不可。臥位姿勢では、右上肢でベッド柵を把持 し、体幹右回旋、頚部右回旋し体幹長軸がベッドの縦 方向の軸に対して右斜めを通っており、半側空間無視 患者で多くみられる姿勢をとる。端坐位保持は右上肢 支持下にて可能であるが、骨盤後傾、体幹軽度右側屈 右回旋位となり右肩甲骨後退。数秒で右後方へ転倒傾 向。臀部への荷重は両側に可能であるが、右骨盤後傾 が左より強く右側優位。下肢への荷重は左足関節底屈 位であり不十分、右側下肢は可能であるが支持性は少 ない。各姿勢において、頚部右回旋を認めること多く 左側への注意力は低い。線分二等分テストでは正中線 より1.6cm 右偏倚を示した。 【治療プログラム】体幹回旋機能の向上を目的に主に 外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋に対してのコアスタビリ ティトレーニングを実施した。臥位にて、腹式呼吸に 徒手的に抵抗を与えることで、腹横筋を促通した。坐 位では、骨盤後傾を抑制し骨盤を直立位に保持するこ とで、両臀部へ均一に荷重を誘導。正中軸の獲得を目 指し、体幹を少ない重心移動で他動的に左右に揺すり、 腹横筋の筋活動を活性化させながら正中軸への知覚を 促した。体幹の軸回旋を促すため、他動的に左回旋運 動を意識させながらリーチングを実施することで腹斜 筋の促通を図った。生活環境により頚部右回旋を強い られる場面が多いため、テレビを左側に設置し左側か らの刺激量が増えるよう環境調整を行った。 【最終評価】線分二等分テストは正中線より左右±1 cm 示した。臥位姿勢は日差変動あるが右上肢のベッ ド柵把持、体幹、頚部の右回旋が減少し体幹長軸はベ ッドの縦方向の軸に近づいた。端坐位姿勢は前額面上 で正中位保持可能。右上肢支持なく20 秒保持可能。 内・外腹斜筋の筋活動向上を認め、体幹回旋自動運動 がわずかに可能となった。治療後の即時効果は認めた ものの持続効果は乏しい。 【考察】左半側空間無視の坐位姿勢では、患側後方へ 崩れていくことが多いといわれている。本症例でも、 正中軸の認識が不十分となり、右上肢が過活動を強い られ、右肩甲骨後退、体幹右側屈・回旋が増強するこ とで右後方へ転倒傾向になると考えた。半側空間無視 は方向性注意障害を基盤とする説があり、方向性注意 障害は顔面の向きではなく、体幹の向きに依存してい ることも報告されている。そこで、体幹回旋のコント ロール獲得を目指した。回旋運動には骨盤の固定性と 腰部の可動性が必要であり、その運動に重要といわれ ている外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋に対してアプロー チした。内・外腹斜筋の筋活動向上に伴いわずかでは あるが体幹左回旋が自動的に可能となった。体幹を無 視側空間へ回旋させられる機能を有したことで、右上 肢で坐位姿勢をコントロールしていたのを体幹でのコ ントロールへ変化したと考えた。その結果、右上肢の 過活動は減少し前額面上において正中位に近い保持が 可能となった。体幹回旋をコントロールすることが半 側空間無視の改善に結びつく報告もあり、無視側空間 への回旋機能が坐位姿勢での正中軸の認知も高めたと 考えた。 【おわりに】体幹回旋のコントロールにより坐位保持 能力の向上を認めたが、持続的な効果は不十分であっ た。今後も継続して経過を追い追求していきたい。
15 下肢筋力差が大きい二分脊椎患児に対し、股関節屈筋 群の強化を図り段差昇降を獲得した症例 村上整形外科 山口 早紀 【はじめに】今回、下肢筋力の左右差が大きい二分脊 椎患児に対し、股関節屈筋群の筋力強化を図り段差昇 降を獲得した症例を経験したので報告する。 【症例紹介】4 歳の男子。平成 25 年 6 月、2 歳 11 ヵ月 時当院受診。脊髄最下髄節レベル右 L4/左 L2 と診断し 理学療法開始した。移動には屋内は四つ這い、屋外は バギーであった。家族は歩行と段差昇降の獲得を希望 している。 【説明と同意】家族には本発表の趣旨を説明し、書面 にて同意を得た。 【初期評価】可動域は左膝関節伸展-25°を除き両股 関節と右膝関節に制限なく、筋力は MMT 股関節屈曲右 2/左 3、外転右 3/左 0、膝関節伸展右 4/左 0 であった。 足部の変形なし。右股関節亜脱臼であるため骨盤帯付 き長下肢装具を装着。左膝継手をロックした状態でつ かまり立ち、平行棒内歩行は自立。しかし股関節屈曲 が少なく、分回し歩行であった。段差昇降は不可能。 【治療プログラム】理学療法開始当初は歩行訓練を中 心に行い、3 歳 4 ヵ月にてクラッチ歩行を獲得。その 後、段差昇降獲得を目標とした。股関節周囲筋特に屈 筋群の強化を重点的に行った。座位にて重錘を装着し 股関節屈曲運動や、骨盤帯を外し平行棒内にて股関節 屈曲運動、障害物を置きまたぎ動作、段差昇降訓練を 実施した。自宅でも座位での股関節屈曲運動をするよ う指導。3 歳 7 ヵ月で目標であった 5.5cm の段差昇降 自立となった。 【最終評価 26 年 7 月:開始 1 年1ヵ月後】可動域変化 なし。筋力は MMT 股関節屈曲右 3/左 4、膝関節伸展右 5/左 0 と改善がみられた。段差昇降は骨盤帯装着時 7.0cm、非装着時で 9.0cm 可能となった。昇段ではクラ ッチで体幹を支持して、右股関節屈曲し踏板に足底を 接地し、両上肢と右下肢の力にて体重移動しながら左 下肢を引き上げる。左膝継手はロックしており膝関節 運動はみられない。降段はクラッチで体幹を支持し、 右下肢でバランスをとりながら左下肢を先に踏板に接 地する。この際、骨盤ひだり右回旋し右股関節は伸展 と内旋方向へ動きながら体重を前方へ移動させている。 【考察】本症例では、右 L4 レベルであるが股関節屈筋 群が弱いため重点的に強化する必要があった。初めに 座位にて重錘を装着し股関節屈曲運動を行ったが、症 例の性格は注意力散漫であり座位での筋力訓練だけで は困難であったため、動作訓練を併用して行った。し かし 2 ヵ月ほど実施したが、筋力強化が不十分であっ た。そこで、骨盤帯を外し股関節の動きに制限がない 状態で動作訓練を行うと筋力強化がみられ、より高い 段差昇降が可能となった。これは骨盤帯を外したこと により縫工筋なども働きやすく、より強い股関節屈筋 群の強化が行えたと考える。 二分脊椎症は残存最下髄節レベル以下の筋は麻痺して おり、残存筋にアプローチすることが重要である。今 回は股関節屈筋群に着目したが腸腰筋などの主要筋だ けでなく、縫工筋などの補助筋を含めた筋力強化も必 要である。また下肢だけでなく、上肢や体幹筋の筋力 強化も必要である。今後の課題として就学に向けて通 学方法や教室移動、階段昇降の方法などを考えていか なければならない。 図:段差昇降動作(骨盤帯非装着時) 【参考文献】 1)北泊 治美:二分脊椎症の理学療法.理学療法,第 5 巻,5 号,349-354.1988 2)小山一信、山本雅也:二分脊椎症の理学療法.理学 療法,第 31 巻,6 号.1997 3)岡 裕士:当院における残存運動最下髄節別移動能 力の分類.第 28 回日本二分脊椎研究会.2
16 脳腫瘍摘出術後に歩行改善を認めた一症例 JCHO 大阪病院 水田典孝 【はじめに】今回,脳腫瘍摘出術後に右片麻痺を呈し 歩行困難であったが独歩自立に至ったケースを経験し たので報告する.なお,今回の発表に対して,患者様 に趣旨を説明し,同意を得た. 【症例紹介】61 歳女性.2001 年 12 月初発脳腫瘍に対 して腫瘍摘出術と術後残存腫瘍に対して放射線治療が 施行される.2014 年になり右上下肢の脱力が間欠的に 出現し,6 月に左前頭葉補足運動野に腫瘍を認め,退 形成性乏突起神経膠腫(WHO gradeⅢ)と診断される. 7 月に開頭腫瘍摘出術を施行し,術後 4 病日より理学 療法,術後 5 病日より作業療法開始となる.
【初期評価】Brunnstrom recovery stage(以下 BRS) 右上肢Ⅳ,右手指Ⅵ,右下肢Ⅱ.感覚,関節可動域(以 下 ROM):問題なし.Manual Muscle Test(以下 MMT): 左上下肢:5,体幹:2.筋緊張:歩行時触診により右 脊柱起立筋亢進,右腹斜筋低下.Modifies Ashworth Scale(以下 MAS):膝関節伸展 1.立ち直り反応:右側 方バランスは右上肢が内転し,右体幹伸展,左骨盤挙 上がみられない.左側方バランスは左体幹伸展出現す るが右骨盤の挙上はみられない.ファンクショナルリ ーチ(以下 FR):前方リーチ;13.5 ㎝.片脚立位:左 は右下肢の挙上が困難で片脚立位不可,右は右下肢の 支持性低下により不可.歩行:平行棒内殿部介助にて 可能.歩容は右遊脚期に右骨盤挙上,体幹左側屈し右 股関節は外転・外旋,右足関節は底屈位でつま先接地 しながら右下肢を前方へ振り出し,右立脚中期では支 持性が低下しふらつきがみられ両手手摺り支持が必要. Functional Independence Measure(以下 FIM):105 点(減点項目;入浴・更衣・トイレ動作・移乗・移動). Karnofsky Performance Status(以下 KPS):50%. 【問題点】右下肢の運動麻痺.右下肢の筋出力低下. 右腰背部・右膝屈筋の筋緊張亢進.右腹部の筋緊張低 下.右側方への体幹の立ち直り反応低下.右下肢の支 持性低下. 【治療プログラム】右遊脚初期の股関節屈曲,右遊脚 中期の膝関節伸展・足関節背屈を促通するために背臥 位と坐位にて股関節・膝関節の屈曲伸展運動,足関節 背屈運動を実施する.右立脚中期での下肢の支持性改 善を図るために背臥位で quad setting,側臥位で股関 節外転運動,平行棒内で片脚立位練習.平行棒内歩行 練習. 【最終評価】術後 34 病日目より実施.BRS:右上肢Ⅳ, 右手指Ⅵ,右下肢Ⅱ.感覚,ROM:問題なし.MMT:左 上下肢:5,体幹:3.筋緊張:歩行時触診により右脊 柱起立筋軽減,右腹斜筋は正常範囲に改善.MAS:膝関 節伸展 0.立ち直り反応:右側方バランスは右上肢外 転・右体幹伸展・左骨盤挙上がみられるようになる. 左側方バランスは左体幹伸展・右骨盤挙上がみられる. FR:前方リーチ;33 ㎝.10M 歩行:10 秒 69.片脚立位: 右 9 秒,左 4 秒.立位保持:自立.歩行:独歩自立. FIM:124 点(減点項目;移動).KPS:80%. 【考察】本症例は自宅復帰に向け歩行獲得を目標に理 学療法を開始した.初期評価より右腹斜筋の筋緊張低 下と右側方への体幹の立ち直り反応の低下がみられた. 歩行は右遊脚期に右骨盤挙上,体幹左側屈し右股関節 は外転・外旋,右足関節は底屈位でつま先接地しなが ら右下肢を前方へ振り出す歩容であった.右立脚中期 では右下肢の筋出力低下により支持性が低下し両上肢 で手摺り支持が必要であった.治療プログラムにて右 股関節屈曲,右膝関節伸展,右足関節背屈を促通し右 遊脚期の下肢の振り出しの改善を図った.それにより 右腹斜筋の筋緊張が正常範囲に改善し体幹の立ち直り 反応が出現するようになった.立ち直り反応が出現す ることにより体幹の支持性が向上し右立脚期での下肢 の筋出力向上が図られ右遊脚期の下肢の振り出しと右 立脚期の下肢の支持性が向上し歩行自立に至ったと考 える.本症例にて摘出された補足運動野は動作開始過 程の意図した動作が妨げられるとされており検査上は BRS 右下肢Ⅱであったが無意識な連続動作の歩行では 改善がみられたと考える.