保険契約者の変更(地位の譲渡)に 関する一考察
韓国の生命保険契約における議論を素材として
李 芝
■アブストラクト
生命保険契約者の変更とは,保険契約者が有する保険契約上の一切の権利 義務を第三者に承継させることで,保険法はこれに関する規定を定めておら ず,生命保険約款では,保険契約者は被保険者および会社の同意を得て,保 険契約上の一切の権利義務を第三者に承継させることができると定めている。
従って,生命保険契約者の変更は保険会社が同意する一定の事情がある場合 のみ可能な状況であり,非常に制限的なものとなっている。
時代の変化,特に高齢化社会の側面で鑑みると,従来の生命保険契約の目 的である遺族保障は現在の消費者ニーズに応えられていないので,保険契約 者の重要財産の一つである生命保険契約を流動化する合理的な方案を模索す る必要があるだろう。そこで,本稿は生命保険契約者の変更をめぐる法的問 題について,日本と同様の状況である韓国の議論を中心としてその実例と提 案などを紹介し,日本での議論と比較している。
生命保険契約が有する財産的価値の活用方法の中には,確かに様々な問題 が生じうるものもあるが, その具体的な問題については立法・制度的側面 から事前・事後的な対策を備えた上,合理的な手段として活用できるように その機会を与えるべきであると思われる。
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*平成25年6月14日の日本保険学会関東部会での報告による。
/平成25年7月3日原稿受領。
■キーワード
保険契約者の変更,地位の譲渡,保険者の同意
Ⅰ はじめに
生命保険契約において,保険料を支払う義務を負う者を保険契約者といい
(保険法2条3号),保険契約者が有する保険契約上の一切の権利義務を第三 者に承継させることを生命保険契約者の変更という。
一般的に,生命保険約款においては,保険契約者は被保険者および会社の 同意を得て,保険契約上の一切の権利義務を第三者に承継させることができ ると定めている。保険契約者の変更により旧保険契約者の有していた権利義 務は新保険契約者に包括的に承継されるので,保険契約者の保険料支払義務 も新保険契約者に承継され,旧保険契約者は義務を免れる ことになる。
保険契約者の変更は,保険者との関係からすると,保険契約者に与えられ た契約内容の変更権の行使であり,新保険契約者との関係では,保険契約者 の地位を処分する行為である。一般的には,①保険契約者が死亡する場合,
②税法上の優遇措置のため所得のない保険契約者から所得のある者に変更す る場合,③債権担保のため債務者名義の保険契約を債権者名義に変更する場 合,④団体保険の被保険団体から脱退することを理由として,被保険者を保 険契約者とする個人保険に変更する場合,⑤保険契約者が経済的な事情から 保険料を払えなくなったので,保険契約を他人(買取会社)に譲渡し名義を 変更する場合,などがあるが,特に問題となるのは⑤の場合である。そして,
日本で保険契約者の変更が非常に注目される契機となったのは,初めて生命 保険の買取を目的とした保険契約者の地位の譲渡に関する事例である東京地 裁平成17年11月17日判決 (以下,平成17年判決という)である。それは生
1) 山下友信 保険法 591頁(有斐閣,2005)。
2) 評釈として,山下典孝 判批 金商1240号57頁(2006),島田邦雄=富岡孝 幸=中山靖彦=吉野彰= 木宏 判批 商事法務1765号64頁(2006),鈴木達
命保険契約が売買されたことに基づく保険契約者の変更に関する同意請求に 対し,生命保険会社は保険契約者の地位の譲渡に同意すべき義務がないとさ れた事例として,東京高裁平成18年3月22日判決 を経て,平成18年10月12 日最高裁第1小法定で上告を退ける決定がなされ終結した。この判決が社会 的に注目され,生命保険契約者の変更の効力要件である保険者の同意をめぐ る解釈に関して様々な角度から議論がなされたが,保険法は保険契約者の変 更について特に規定を置いていない 。
上記平成17年判決は,日本と同じ状況である韓国においても非常に注目を 集めた 。韓国では現在まで生命保険の買取を目的とした保険契約者の変更 に関する具体的な事例はない状況だが,2010年12月に,ある国会議員が生命 保険の転売制度を導入する内容の商法一部改正法律案と保険業法一部改正法 律案を提出したことを契機として,その導入をめぐって現在まで議論が続い
次 判批 平成17年度重要判例解説115頁(2006),榊素寛 判批 私法判例リ マークス33号126頁(2006)などがある。
3) 評釈として,甘利公人 判批 判例時報1947号204頁(2007),肥塚肇雄 判 批 金融法務事情1783号37頁(2006年),笹本幸祐 判批 保険法判例百選156 頁(2010),鈴木達次・法学研究(慶應義 塾 大 学 法 学 研 究 会)79巻11号87頁
(2006)などがある。
4) 保険契約者の変更についても被保険者の同意を有効要件とすることが提案さ れたが,法制審議会保険法部会における審議の結果,①保険契約者の変更があ ったからといって常にモラル・リスクや賭博保険のおそれが高まるとは考えに くいこと,②保険契約者の変更に伴って保険金受取人が変更された場合に被保 険者の同意を要求すれば足りること,③仮に被保険者の同意を有効要件とする と,団体生命保険契約について保険契約者である会社が事業譲渡をしたような 場合にまで,改めて被保険者全員から同意を取得しないといけないこととなる が,このような負担を強いるのは現実的でないことなどといった指摘を踏まえ,
最終的には,法律によって被保険者の同意を有効要件とすることはしないと取 りまとめられた。萩本修 一問一答保険法 191頁(商事法務,2009)。
5) 評釈として,キムムンゼ(金 在) 生命保険契約者の地位の譲渡 商事判 例研究第21集第4巻237〜279頁(2008),イスンファン(李承桓) 生命保険転 売に関する日本判例に対する考察―保険者の同意を中心として― YGBL第 3巻第2号69〜86頁(2009)などがある。
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ている。
生命保険契約者の地位譲渡に関しては,平成17年判決が出された後,多く の研究が発表されているので,その内容には簡単に触れる程度とする。そし て,本稿では,生命保険契約者の変更をめぐる法的問題について,日本と同 様の状況である韓国の議論を中心としてその実例と提案などを紹介し,日本 での議論と比較することを目的としている。
Ⅱ 生命保険契約者の変更
1. 生命保険契約者の変更に関する約款規定
保険契約者の地位は,大きな財産的価値や担保的価値をもつものであり,
保険契約者の重要な財産の一つである。この保険契約者の地位変更に関して,
一般的に生命保険約款では,保険契約者又はその承継人が被保険者の承諾お よび保険者の同意を得て,保険契約上の一切の権利義務を第三者に承継させ ることができると規定している。これは 生命保険契約が長期間にわたり継 続するものであることから,契約者側の諸事情の変化により契約者変更の必 要が生じた場合,契約者の地位の変更,言い換えれば契約者の地位の譲渡を 認める ことを意味する 。そして,保険契約者を変更するためには,被保 険者の同意と保険者の承諾(同意)を約款上の要件としている。そして,保 険契約者が変更されると,譲渡人である旧保険契約者の権利義務は包括的に 譲受人である新保険契約者に承継されることになる。
2. 保険者の同意を要する約款条項の妥当性
保険契約者の地位の譲渡は,保険実務上,保険約款の保険契約者の変更に
6) 福島雄一 生命保険買取契約と保険者の同意についての一考察 行政社会論 集第20巻第2号138頁(2008)。
7) 福島雄一 生命保険買取契約と保険者の同意についての一考察 行政社会論 集第20巻2号135―200頁(2008),志茂謙 米国における生命保険買取市場の 現状 生命保険経営75巻5号3−27頁(2007),山下典孝 保険契約関係者の 変動を巡る法的諸問題 保険学雑誌598号1−20頁(2007),手島宏晃 米国に
基づいて運用されており,この保険契約者変更約款は,合理的な規制を行っ ていると評価されている。そして,保険契約者変更約款では保険者の同意
(承諾)ともに被保険者の同意(承諾)が必要とされており,学説は保険者 の同意を必要とする説と不要とする説 で分かれているが,通説は保険者の 同意を必要とする説である。保険者の同意を必要とする説では,保険契約者 の地位の譲渡も契約上の地位の移転に関する一般原則に基づくものであるこ と,生命保険契約における保険者の同意は道徳的危険の増加をチェックする 意味があること,保険契約者は契約上の諸義務を有するとともに,保険者に 対しては保険料支払等の義務を負うので,保険契約者が誰であるかは保険者 にとっても利害関係があること,などが主な理由として挙げられている。そ して,最近では,モラルハザードとは無関係な保険契約者の地位の変更がな される場合には,保険者は同意義務を負うべきとする見解 や保険者の同意 を求める理由はモラルハザードの予防が主な目的である立場からモラルハザ ードの危険性がない場合には保険者は同意義務を負うとする見解 なども 唱えられている。
Ⅲ 生命保険契約者の変更と生命保険買取
1. 生命保険買取 の仕組み
生命保険買取制度はアメリカで行われている保険契約の買取ビジネスとし
おける生命保険買取規制 生命保険経営74巻3号138−158頁(2006),阪口恭 子 米国における保険買取ビジネスと各州の対応 生命保険経営64巻4号 819−837頁(2006)など,先行研究が多くなされているため,本稿での具体的 な検討は省略する。
8) 具体的な内容は,福島・前掲注6)159〜161頁を参照。
9) 肥塚肇雄 生命保険の売買契約を原因とする保険契約者の地位変更と生命保 険会社の同意拒否(東京高判平18年3月22日) 金法1783号41〜42頁(2006)。
10) 溝渕彰 生命保険契約者の地位の譲渡―平成17年11月17日判決を契機とし て― 神戸学院法学35巻4号57〜58頁(2006)。
11) 保険契約者の変更は,実務上,使われる用語として,名義変更請求権者であ る保険契約者がその名義を保険受取人などに変更することで,保険受取人が保 165
←単注が文頭に 来てしまうため、
イレジュラー処 理をしています 訂正時注意
て証券化ビジネス の一種である。
生命保険買取契約が成立すると,保険金受取人の名義は買取人に変更され,
生命保険契約者の地位も買取人が譲受けることになる。そして,買取人(譲 受人)は保険契約者(譲渡人)にその対価として買取代金を支払うことにな るが,それだけでなく弔慰金を死亡年度ごとに逓減しながら支払うのが通例 であり,被保険者が死亡する年度によって慶弔金の額が変動するので,生命 保険買取契約は射倖契約の一種である。そして,旧保険契約者である売主が 生命保険契約者の地位を譲渡し,同時に保険金受取人も買主に変更し,その 対価として新保険契約者である買主が,保険金額の額面を割り引いた金額を 支払うので,有償・双務契約である。
2. 生命保険買取のメリットとデメリット
まず,生命保険契約の買取制度のメリットとしては,保険契約者兼保険金 受取人である被保険者が余命わずかの状況となった場合,生命保険の売却代 金で必要な治療を受けたり,債務を返済したりすることで死亡時まで経済的 な困難なく生活できることがある。また,完全看護が必要な場合,生命保険 を売買した代金で看護する人を雇うことでその家族は無理なく日常生活を送 ることができるようになるだろう。そして,経済的負担から生命保険契約を 維持できなくなった場合,解約払戻金より高い金額を生命保険買取金として 取得することになるメリットがある。それだけでなく,社会的側面からは,
険契約者としての地位を取得する場合が多い。反面,買取制度のような保険契 約者の地位譲渡は,保険契約上の権利または利益のみを他人に譲渡することを 意味するもので,譲渡権者は保険契約上の債権者的地位を失うことになるが,
保険関係からは脱退しないことである。
12) 証券化ビジネスとしての仕組みは,証券会社が顧客の加入している生命保険 を買い取り(死亡保険金額の50〜80%が目安),保険金受取人は証券会社とな り,保険料支払義務も証券会社となり,それをまとめて証券化し債権を発行す る。そして,機関投資家など運用ファンドがこの債権を買い取り,被保険者が 亡くなると,証券会社が保険金を受け取って,投資家はその保険金を債権持ち 分に応じて受け取ることになる。
金融機関が生命保険買取業を営むことで利益が上がることになると,多くの 法人税収入が期待できるし,公保険である健康保険の財源では処理できない 高額医療費を,生命保険契約者が自分の生命保険契約を売却して取得した資 金で治療を受けられることになるので,健康保険の空白を埋める効果も期待 できるだろう 。
次に,デメリット としては,生命保険買取がその仕組みからすると,
被保険者の死亡時期が早ければ早いほど買取会社の利益が増大する とい う倫理的問題と,モラルリスクの可能性,遺族保護の側面からの問題などが 指摘されている。そして,保険契約者が保険料を滞納することによって解約 となるはずの保険契約を生命保険買取会社が買取り,保険料を納付すること によって効力を維持できるようになると,保険会社が保険料の算定基準とし ていた条件が変わることになるので,保険料を上げることにならざるを得な い という指摘もある。生命保険買取会社が将来の保険料債務を負担する 代わりに被保険者の残余期待寿命を推定し,買取価格を一方的に計算し被保 険者兼保険契約者に提示するため,被保険者兼保険契約者と生命保険買取会 社との間では対等な協議ができるとは期待できないとする見解 ,初めから 生命保険を譲渡する目的で生命保険契約を締結するよう誘因する効果があり 得るとする見解 もある。
13) Margo L. Intrator, “Comment, The Debate Surrounding Viatical Set- tlements”, 5University of Miami Business Law Journal231,1995, p.236。
14) 福島・前掲注6)190〜191頁の具体的な内容を参考。
15) 手島宏晃 米国における生命保険買取規制 生保経営74巻3号138〜139頁
(2006)。
16) Michael Lovendusky, “Illicit Life Insurance Settlements”,40Spring
“Brief”46,2011, p.48
17) 手島・前掲注15)138〜139頁。
18) キムイス( ) わが法上,生命保険売買の必要性および譲渡方式の適 切性 に 関 す る 考 察 Hongik法 学 第13巻 3 号609〜610頁(2012)。NCOILの Life Settlement Model Act第2条(Y)は,Stranger−Originated Life In- surance(STOLI)を規定している。STOLIとは,第三者である投資者の利 益のために生命保険に加入する場合をいう。すなわち,投資者が生命保険に加 167
3. 生命保険契約を利用する現在の資金調達方法
⑴ 解約払戻金
解約払戻金とは,生命保険契約の解約,失効,保険金額の減額などの場合,
保険契約者に支払われるものとして,その金額は払い込んだ保険料総額より 少なくなるのが通常である。解約払戻金算定は,払い込まれる保険料から,
年々の保険金の支払および契約の締結・維持に必要な諸経費を差し引いた残 額として,個々の契約について予め定められた金額となる。そして,解約払 戻金は保険契約者が保険会社に納入した保険料の総額を超えることはできな いし,被保険者の死亡によって支払われる保険金に比べると,はるかに少な い金額となる。
被保険者の死亡が確実となっている状況を想定して鑑みると,もし厳しい 経済状況から保険契約を維持できなくなった場合,保険契約者の立場からす ると,近い将来に保険金を受け取る可能性が非常に高いにもかかわらず,保 険会社からその経済的価値は全く認めてもらえず,自分が保険会社に納入し た保険料の一部を払い戻してもらうという選択肢しかないことに違和感があ る。反面,保険会社の場合,被保険者の死亡という保険事故が発生して莫大 な保険金を支給する状況であったにもかかわらず,保険契約者が契約を維持 できなかったことによって,保険金よりはるかに少ない金額の解約払戻金を
入する意思がない個人,特に高齢者に生命保険に加入するよう勧誘し,その勧 誘を受けた個人を生命保険に加入させることである。しかし,この生命保険契 約を締結する前に,投資者と保険契約者は一定期間が過ぎたらその生命保険を 投資者に譲渡する内容の合意をする。そして,投資者は保険契約者が保険契約 を保有する間,保険会社に保険料を納入するために必要な資金を借りることも 可能である。後で,生命保険が投資者に移転すると保険契約者が投資者に対し て負担していた金銭債務は消滅する。保険契約者の立場では事後的に生命保険 を投資者に対して譲渡さえすれば,保険料を納入するため投資者から借りた資 金を弁済する義務を負わないので,事実上では何の費用も支出せず,生命保険 の譲渡が行われるまで生命保険による保護を受けることになる。Life Settle- ments Task Force, “Staff Report to the United States Securities and Exchange Commisson”,2010, p.11
支払うことで経済的損失を抑止できたとも言えるだろう。このような状況を 想定すると,保険契約者にとってより望ましいのは,支給可能性の高い死亡 保険金請求権を第三者に解約払戻金より高価で譲渡してその代金を取得する ことであろう 。
⑵ 保険契約者貸付
保険契約者貸付とは,契約している生命保険の解約払戻金の一定範囲内で,
保険契約者が資金を借り入れることができる制度である。保険契約に解約払 戻金があれば,審査等を受けることなく借入ができるし,契約者貸付を受け ている間も,保険保障はそのままである。しかし,保険契約者貸付によって 借りられる金額は,生命保険会社や保険の種類によって異なるが,通常,解 約返戻金額の70〜90%の範囲内となっているので,保険金よりはるかに少な い解約払戻金の一部の借入が金銭的に困った保険契約者にとって本当に手助 けとなっているのか,その実益に疑問がある。そして,返済には借りたお金 だけでなく,利子分の返済も必要であり,その貸付利率は生命保険契約の時 期などにより異なるが,通常は契約した生命保険の予定利率に1%〜2%を 足した程度に設定されている。
なお,韓国も日本と同じく保険契約者貸付 が行われている。
⑶ 生前給付保険・リビングニーズ特約
これは被保険者が余命6ヶ月以内という医師の診断を支払条件として死亡
19) Sharo Michael Atmeh, “Regulation Not Prohibition :the Comparative Case Against the Insurance Interest Doctrine”, 32Northwestern Journal of International Law and Business93 ,2011, pp.105‑106
Atmehは,生命保険契約者が生命保険を市場で売る場合,保険会社から受 取る解約払戻金より多い金額を受取ることになるので,生命保険買取市場が登 場したと説明する。保険会社は保険契約上の保険金よりは低いが,保険会社か らの解約払戻金よりは高い金額で生命保険を売ることができる。従って,保険 契約者は市場で生命保険を処分することで生命保険価値の極大化を追求できる。
20) 2013年2月28日,金融監督院によると,昨年末の保険会社の貸付債権残高は 111兆9000億ウォンであり,その中で家計貸付,特に保険契約者貸付は46兆 9000億ウォンとして益々増加している状況である。
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保険金額の一定範囲内で指定した特約保険金をその生存中に受け取ることが できる制度である。
なお,高度障害保険金とリビングニーズ特約保険金は,被保険者の客観的 な身体状態が支払事由に該当しても直ちに請求権が具体化するのではなく,
被保険者が診断受診あるいは受診結果をもとに保険金請求の意思表示をなす ことにより具体化する点で,金銭債権としての具体化はいつの時点かという 法的問題をはらむものであり,特異である 。
生前給付保険とリビングニーズ特約は生命保険買取契約の代替的制度とし て評価されているが,死亡保険金が事前に支給されるためには余命6ヶ月と いう医師の診断が必要であり,全ての保険契約者がその条件を満たすことが できるとは限らない。そして,金額の面でも,生命保険金額の一定範囲で支 給されるため,その金額に満足できない可能性があるので,これらの制度が 保険契約者のニーズを完全に充足しているとは思えない。
なお,韓国でもほぼ全ての生命保険会社が特約で死亡前に保険金の一部を 支給する死亡保険金の前払いサービスを行っている。しかし,この特約は保 険期間中に医療法第3条で定められている総合病院または国内外の医療関連 法が定める医療機関で専門医が実施した診断の結果,被保険者の余命が12ヵ 月以内(定期保険の場合は6ヵ月)であることがその資格要件となっており,
支給される前払い保険金は死亡保険金の最大50%,金額としては最大1億ウ ォンまでと制限している。
⑷ 保険金請求権の譲渡・質入
自己のためにする保険の場合,保険契約者が有する保険金請求権を譲渡・
質入するもので,譲渡・質入の方法や対抗要件は,民法の一般規定(民法 467条,364条1項)に従い,保険契約者と被保険者が別人の場合,被保険者 の同意が必要である 。しかし,保険金請求権は一定の支払事由が成立した
21) 松田武司 生前給付型保険の法的諸問題 文研論集(生命保険文化研究所)
113号133頁(1995)。
22) 西島梅治 保険法〔新版〕 109〜110頁 有斐閣,1991)。
ときに具体化するという停止条件付金銭債権であるので,その実効性に問題 がある。すなわち,保険金請求権はあくまで一定条件の保険事故が発生する ことで具体化するものであり,ある程度の事故発生可能性がないと,相手方 はその保険金請求権の譲渡・質入をしないからである。
Ⅳ 生命保険買取をめぐる韓国の議論と提案
1. 保険契約者の変更に関連する法的状況
韓国商法も日本と同じく保険契約者の名義変更に関する定めは存在しない。
そして,生命保険標準約款第5条は,保険契約者は会社の承諾を得て保険契 約者を変更できるとしており,その場合,会社の承諾は書面で知らせるか,
あるいは保険加入証書(保険証券)の裏に記載することで行われると定めて いる。そして,保険契約者の地位の処分に関連しても直接的な規定はなく,
韓国商法第731条2項は他人の生命保険契約から生じた権利を被保険者では ない者に譲渡する場合は,被保険者の書面による同意が必要であると定めて いる。
韓国民法第450条1項 では,指名債権譲渡の場合,譲渡人が債務者への 通知または債務者の承諾がなければ,債務者その他の第三者に対抗できない としているが,保険約款は債務者の承諾を必要としている。
2. 保険契約者の変更をめぐる韓国の紛争事例
ここでは,保険監督院1993年調整事例(事件94−調整−18,老後設計年金
23) 第450条(指名債権讓渡の対抗要件)
①指名債権の譲渡は,譲渡人が債務者に通知し又は債務者が承諾しなければ 債務者その他の第三者に対抗することができない。
②前項の通知又は承諾は,確定日附ある証書によらなければ債務者以外の第 三者に対抗することができない。
24) キムソンゾン(金善政) 保険契約者変更 商事判例研究第21輯第4巻258〜
263頁(2008)の研究論文に掲載している事例を引用して紹介し,筆者の見解 を述べている。
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保険紛争)を紹介する。
申請人X以外のAは被申請人Yとの間において,1991年10月8日に月払い の保険料471000ウォンとして老後設計年金保険契約を締結し,1992年10月ま での13回を納付したが,経済的な困難で契約を解約しようとしているところ,
XがAから本件契約を引受けることにし,Aの契約者変更用の印鑑証明書を 添付して1992年11月10日にYから保険証券の裏書事項として契約者をAから Xに変更することの承認を受けている。1992年8月17日にXは災害死亡特約 を解約しており,Xは1993年8月17日に受益者変更申請書に被保険者である Aの死亡時には受益者変更同意書用の印鑑証明書を添付してYに死亡時の受 益者をAからXに変更する申請書を提出しており,Yは1993年9月2日にそ の申請を承認し,保険証券に裏書事項として記載した事実がある。ところで,
被保険者であるAが1994年1月1日に溜池で夜間釣りの途中,溺死したので,
Xがその保険金を請求したが,Yが契約無効を主張したため,紛争となった 事案である。
当事者が主張する事実とその調整内容として,まず,Xは旧保険契約者か ら保険契約を引受けて,契約者の変更および保険受益者の変更が旧契約者で ある被保険者の同意とYの承諾によって成立しているにもかかわらず,Yが 契約の無効を主張することは理由がないと主張した。これに対し,YはXが 同契約の募集を行った保険設計士として,旧契約者から保険契約を引受けた 後,保険契約者が受益者を変更できる権利を利用して,死亡時の受益者をX に変更するなど,自分と親族関係もない第三者の生命を担保とする保険契約 売買行為をしたので,これは自分の保険情報と旧契約者および被保険者の保 険知識に対する無知を利用する,いわゆる軽率,無経験,窮迫による不公正 な法律行為に該当し,第三者の生命を担保として保険契約を譲渡した売買行 為は反社会的法律行為に該当するため,民法第103条 ,第104条 によっ
25) 韓国民法第103条(反社会秩序の法律行為)善良な風俗,その他社会秩序に 違反した事項を内容とする法律行為は,無効とする。
26) 韓国民法第104条(不公平な法律行為)当事者の窮迫,軽率又は無経験によ
て契約を無効として処理するのが妥当であるとした。これに対し,当時の保 険監督院の人保険紛争調整委員会は生命保険契約において死亡時の受益者変 更が被保険者の生死に特別な利害関係もない者に被保険者の死亡で不当利益 を与えてしまう弊害が発生する可能性があるとの事実は認めたが,保険事故 が発生する前,Xが契約変更を申請した時点でYはその承認を拒否できる機 会が与えられていただけでなく,Yの無効主張には具体的な証拠資料がある とも認め難いとした理由から,Xの主張を引用して決定を行った。
この調整事例は,保険契約者と保険受益者が変更された事案として,申請 人は本件保険契約者の変更を保険契約の売買として把握している。
これに対して,形式的に契約者変更の手続きをしている以上,有効な変更 として判断したことは妥当であるが,Yに承諾を拒否できる機会があったこ とと保険者にも逆機能を防止すべき責任が要求されることを看過して承諾し たことの指摘は疑問であるとの見解 がある。そして,本件調整事例が生 命保険契約の売買を認めていることに注目した上,保険者が保険契約者およ び保険受益者の変更申請について承諾した以上,事後的に反社会的な法律行 為などを理由として契約の無効を主張することは妥当ではないとし,むしろ 保険者の行為が信義誠実に反するとした見解 があり,同見解に賛成する。
なお,金 在教授は,生命保険契約の転売について,保険契約法上,明示 的に保険契約者の地位譲渡を禁じておらず,約款上に要求している保険者の 同意があれば,当然に可能な行為であるので,転売事業の不正的機能は保険 契約とは分離して論じるべき事項であると主張する。すなわち,保険契約の 売主である保険契約者が死亡保険金よりも少ない転売代金で取引することは 転売契約自体の有効性問題として論じるべき事項であって,保険契約の法的
り著しく公正を失った法律行為は,無効とする。
27) キムソンゾン(金善政)・前掲注24)261頁。
28) キムムンゼ(金 在) 生命保険契約の転売に対する国内法的受用可能性と 限界に関する研究 企業法研究第23巻2号(通巻37号)216頁(2009)。
173 本文に上付き29が入るため強制的に送ります
構造論では対象とすべきではないとした 。
3. 生命保険の財産的価値に基づく提案
⑴ 買取 制度に関する立法論的提案
① 定義規定
生命保険買取の概念と関連当事者,すなわち,生命保険買取業者,保険 契約の譲渡人,生命保険買取の仲介人などに関する定義規定と生命保険買 取の特有の用語に関する定義規定を定める必要がある
② 保険契約者の保護規定
ⅰ) 最低買取価格に対する基準の設定
買取業者が弱い立場にある保険契約者に対し,不当に低い買取価格 で保険契約を買い取る可能性を排除するために,最低買取価格に対す る基準を設定する必要がある。アメリカの場合,期待寿命が6ヶ月未 満であれば,死亡保険金の80%,18ヶ月以上から25ヶ月以下であれば,
死亡保険金の60%,25ヶ月以上であれば,解約払戻金または死亡保険 金が年給付金より多い金額としている 。
ⅱ) 保険契約者(あるいは被保険者)の個人情報および私生活の保護装 置
買取業者および仲介人など,買取関与者が被保険者の身分または健 康状態に関する情報を価格算定の目的以外の事由で利用することを防 止する必要がある。そして,投資者にこれを公開してはならない。ま
29) キムムンゼ(金 在)・前掲注28)217〜218頁。
30) 韓国では,買取を転売として表現しているので,困難を防ぐために統一して 買取と表記する。ただし,論文の題名などはそのまま翻訳して表記する。
31) 金 在教授が 生命保険契約の転売に対する国内法的受用可能性と限界に関 する研究 企業法研究第23巻第2号(通巻第37号)231〜234頁(2009)で提案 している内容を翻訳して紹介する。
32) NAIC, Viatical Settlements Model Act(2006), 2;N.Y.Ins. L., 7801. 33) NAIC, Viatical Settlements Model Regualtion(2004), 5
た,医療機関も被保険者の個人情報を事前の書面同意がないまま公開 しないようにする必要がある 。
ⅲ) 買取契約に関する説明義務および撤回制度の認定
買取業者および仲介人は買取契約の申込時と契約締結時に保険契約 者が買取に対する判断資料を得られるよう,詳細な公示説明書(ある いは提案書) を作成して提供しなければならないし,それに対する 説明義務を負わなければならない 。そして,契約が締結されたとし ても,保険契約者の困難な状況を考慮して一定期間内では契約を撤回 できる機会を与えなければならない 。
ⅳ) 保険会社の同意権の制限
アメリカでは問題とならないが,日本と韓国の場合,保険契約者の 変更につき保険者の同意を要する内容の約款条項があるので,その保 険者の同意を保険会社の自由裁量的判断に委ねることは困難であるし,
むしろ特別の事由がない限り,同意を拒むことができないようにしな ければならない 。そして,約款上,保険契約の買取を禁止する条項 を設けることを禁ずる必要がある 。
34) NAIC, Viatical Settlements Model Act(2006)), 6:また 7 では買取 業者は少なくとも5年間は生命保険買取に関するすべての記録を保存しなけれ ばならないし,洲保険当局の要求に従ってその記録を提出しなければならない と規定している。
35) 具体的な公示事項については,キムムンゼ(金 在) 米国での生命保険転 売制度の規制とその示唆点 企業法研究第22巻4号432〜433頁(2008)。
36) Andy Rich, “Viatical Settlements:The Visceral Reaction, The Exist- ing M arket. And a Framework for Regulation”.29Queenʼs L.J.
283(Fall.2003). pp.303.
37) NAIC, Viatical Settlements Model Act(2006), 8 :N.Y.Ins.
L., 7807⒜:Andy Rich, op. cit., p.303.
38) キムムンゼ(金 在) 生命保険契約者地位譲渡 商事判例研究第21巻4号 281〜310頁(2008年)。
39) コンヒョンス( )/イヒョンチョル( ) アメリカ生命保険転売 制度の運営現況および国内導入時の考慮事項 金融監督院調査研究Review第 175
③ 投資者の保護規定
ⅰ) 投資者に対する説明義務
信託方式を利用して生命保険を一般投資者に販売する場合,買取業 者は投資者保護のため,投資契約の締結時と保険契約の移転時に必要 な事項などを正確に明示する公示説明書(あるいは提案書)を作成し,
それを投資者に交付し,それに対する説明義務を負担する必要があ る 。
ⅱ)投資者募集の広告規制
生命保険の投資者は買取業者の情報などに依存して投資することが 一般的であるため,投資の安定性および投資受益率などに関して投資 者の誤解を招いたり,根拠のない投資受益率の提示したりすることに よる被害を防止するため,虚偽の広告を禁ずるよう規制しなければな らない 。
ⅲ)買取禁止期間の設定
アメリカの州保険法のほとんどは,NAIC(全米保険監督官協会)
のモデル法の趣旨を受け入れて,保険証券の発効日から5年が経過し ていない保険契約は生命保険買取の対象から除外しており,その期間 内の保険契約買取行為を保険契約上の書類のインクが乾く間もなく買 取する,いわゆる ʻWet ink取引ʼとして規制している。保険加入時 期と買取時期が近接することは買取業者側とかの詐欺的意図がある確 率が高いからである。その結果,被保険者側の告知義務違反による保 険契約の取消危険と買取業者の残余寿命の予測の困難性が予想できる し,それによって投資者はどんな場合でも投資の目的を達成できない
18号27頁(2006)。
40) NAIC, Viatical Settlements Model Act(2006), 8 41) NAIC, Viatical Settlements Model Act(2006), 8
例えば,100%安全保障,危険のない投資,連邦法で証明するなどの用語を 使用しないように規定している。
脚注が入らないためアキを作成しています
危険に露出されることになる 。従って,投資者を保護するためには,
買取禁止期間を規定する必要がある。
④ 買取業者に対する監督規制
ⅰ) 買取業者に対する免許および取消
買取業者および買取仲介人などは自身の経済力,専門性,新種事業 性などを悪用して,被保険者の生命保険金から過度な利得を得たり,
投資者を募集したりすることで買取市場の秩序を害する恐れがある。
従って,監督機関は彼らの免許申請要件を厳格にし,不純な意図を事 前に防止する必要があり,事後的にも不当行為あるいは違法行為をす る場合,免許の取消とか停止などの処分ができるようにしなければな らない 。
ⅲ)監督機関の指定と機能
生命保険買取業者および買取仲介人などの取引行為とそれに対する 手続きおよび監督を遂行するための監督機関が必要である。韓国の場 合,金融監督院が監督機関としての業務を遂行することが合理的であ る。
監督機関として指定された金融監督院は買取業者などに対する営業 資格を厳格に審査し,買取業の営業範囲を定めると同時にこれに対す る点検体制を備えて,健全な経営体制を確保するために営業および財 産に対する監督および検査を行う根拠が必要である 。また,関連事 件に対する紛争が発生した場合,これに対する紛争調整機構を設置す る必要もある 。
42) Jeffrey A.Baskies and Brian J.Samuels, “Aggressive Viatical Settle- ment Transactions :Gambling On Human Lives”,28Est. Plan.76., (2001), pp.3‑4
43) NAIC, Viatical Settlements Model Act(2006), 3:N.Y.Ins L., 7802⒜, 7803⒜ ⑴。
44) N.Y.Ins. L., 7806.
45) コンヒョンス( )/イヒョンチョル( ),前掲注39)25〜26頁参 177
⑵ 保険会社の契約買い戻し(repurchase)制度
保険会社の契約買い戻し制度とは,保険契約を処分した契約者の保険を該 当保険会社が再び買い取ることで,解約払戻金のような帳簿価額ではなく現 在の契約価値(policy value)を算出して買い取ることである。自社株の買 取が時価で行われるように,保険契約を本質的な価値として買い取ることで 契約者の利益を保護できるであろう。公正な買取価格の算定は数理統計的で あり不確実性が大きいため,配当(participating)商品の運営原理を利用す るのが望ましいだろう。金融監督院あるいは他の専門機関の検討を通じて,
少し保守的な価格を策定することで,保険者の投資危険を軽減させ,事後的 に精算を行って適正以上の利益が発生した場合は還付する方式である。
保険会社の再購買制度は,転売制度よりモラルハザードを減らすことがで きる。なぜならば,保険契約者は他人というよりは株主のように保険会社の 主要な利害関係者(stakeholder)であるからである。それだけでなく,保 険契約を再購買した保険会社は被保険者の早い死亡を望まないはずである。
早い死亡は投資の側面では利益であるが,早い保険金の支給は契約管理側面 では損害であるため,自然ヘッジ(natural hedge)効果が存在するからで ある。また,保険会社は転売制度の仲介人より保険契約者に対する情報と専 門的能力を有しているので,相対的に公正な価格を算出できる。
Ⅴ 終わりに
最近,韓国では経済的危機により生命保険契約を解約する件数が年々と増 加しており,高齢化の加速と社会保障制度の不十分などの理由から生命保険 契約の転売制度をめぐる活発な議論が続いている。
高齢者の立場から鑑みると,生命保険契約は財産的価値の高いものである ことに間違いないし,少子化社会で,独身者が増えている現状において生命
照。
46) リュグンオク( ) 生命保険の二つのジレンマと解法 韓国保険新聞 2012年6月24日。
保険契約が有する遺族保障という機能は果たして必要であるかも疑問である。
そして,医療技術の革新などから無病長寿時代から有病長寿時代へと変わり つつあるので,高齢者の医療費と生活資金を確保するための対策は非常に重 要な課題となっている。その対策としては,例えば日本でも公的機関を中心 に少しずつ始まっているリバースモゲージ(Reverse Mortgage) とかフ ランスのビアジェ(Viager) などがある。しかし,現在の対策はまだまだ 不完全・不十分であるため,これから多様な角度から研究していく必要があ るだろう。
このような状況を背景として,財産的価値のある生命保険契約が買取制度 を利用して資金として流動化できれば,経済的に困難な状況に置かれている 保険契約者の金銭的利益が保護されることになるだろう。そして,日本と韓 国は同じく保険契約者の変更に関する法律条文がないので,約款条項に従っ て保険者の同意によって保険契約者の変更の可否が決まることになる。言い 換えると,法整備はないまま,保険者の同意さえあれば,生命保険契約を買 い取るという仕組みはある状態なので,むしろ今の現状のほうが好ましくな いと思われる。従って,その法的整備が至急必要であると思われる。
一般的に,生命保険買取制度のデメリットとして取り上げられている様々 な問題は,実際に発生する可能性のある問題ではあるが,それは各種規制を
47) リバースモゲージ(Reverse Mortgage)とは,老人の自宅担保でその後の 生活費等を貸付け,死亡時に処分して借入残高を返済するというものである。
すなわち,最初から 貸倒れ を予定したローンであるから,契約開始時の担 保価値を超えた貸付を行うことはなく,通常は発生する利息と将来の担保価値 の下落の可能性を見越して担保価値の半分程度が貸付限度額となり,これを契 約期間で割ったものが毎月の 年金額 となる。
48) ビアジェ(Viager)とは,高齢者が自宅所有権を売却するに際し,生涯住 み続ける権利を残したまま売却代金を終身延べ払いで受け取る制度である。例 えば,3000万円の自宅について,一時金1000万円で売買契約を締結し,一時金 と別途に例えば月10万円を買主は売主に終身に渡り払い続け,売主(又は売主 夫婦)が亡くなった時に始めてその物件は買主に引き渡されることになるので,
売主が早期に死亡することで買主の利益が上がることになる。
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通じてその弊害を防止することも可能ではなかろうか。具体的にみると,ま ず,生命保険買取制度は非倫理的であるとの指摘であるが,生存保険の場合,
被保険者が一定の時期までに生存していることが保険事故であるので,被保 険者がその一定時期が到来する前に死亡すると,保険会社は保険金の支給義 務を負う必要がない。この場合,生命保険会社は一定時期が到来する前,被 保険者が早期に死亡すると,保険金の支給義務がなくなることは,早期死亡 による利益の面では買取会社と類似する経済的地位に置かれることにもなる だろう。また,生命保険にはそもそも倫理的問題が内在しているので,生命 保険買取制度だけに特別な倫理的問題があるわけではない。そして,この点 に関しては,どの国でも経済的利害関係を有する事業では反社会性・倫理性 のような危険は存在しており,これは制度の問題ではなく,人間自体が有す る限界であるとし,ただ最大限の合理的・実用的な法的あるいは制度的装置 を設けることで,これらの危険性を除去できる方案を探る必要があるとの見 解 もある。
次に,生命保険契約の買取を許容すると,死亡可能性の高い者を死亡保険 に加入させて,不正利得を得るようなモラル・リスクが高まるとの指摘であ るが,それは告知義務違反という制度的装置があるので,特に問題にならな いと思われる。また,買取価格の問題は,適正な買取価格の算定基準を明確 にしておけば,保険契約者が買取会社と不利な内容で取引をする危険性も解 消できると思われる。
最後に,本来ならば,解約されるはずの保険契約が買取契約によって維持 できることから生じる保険会社の損失については,生命保険会社は保険料の 滞納による契約の解約率は,非常に保守的に計算しているため,生命保険の 買取が頻繁に行われたとしても,生命保険会社の保険料算定とか利益に及ぼ す影響は制限的なものにすぎないとする見解 がある。そして,解約払戻
49) キムムンゼ(金 在)・前掲注28)229頁。
50) Sharo Michael Atmeh, Regulation Not Prohibition :the Comparative Case Against the Insurance Interest Doctrine, 32Northwestern Journal
金の算定が妥当であるかに関しても今一度検討する必要があるだろう。
確かに制度的な問題はあるが,主に金融機関が死亡保険金請求権を買取る 外国の運用方法を参照しながら適切に運用するならば,生命保険買取制度の 活性化は金融機関の営業領域を拡大する効果も期待できるであろう。消費者 ニーズとして財産的価値のある生命保険契約の流動化がある以上,多様な選 択ができるよう機会を与えるべきであり,そのためには,立法的・制度的観 点での具体的検討が必要であると思われる。
(筆者は東洋大学准教授)
of International Law and Business93,2011, p.132
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