現在、スマホの普及やSNSの発達によって私たちの日常には、画像や写真が溢れかえっ ている。スマホなどの通信機器にはカメラが付いていることが当たり前になっており、写真 を撮るという行為自体が身近なものとなっている。そのこともあり、美術の作品制作におい ても写真を使用することは普通のこととなっている。中学高校の美術の授業内でも描きたい 対象をカメラで撮ってその写真を資料として使い、作品制作を行うという指導が行われてい る。1839年に写真が発明されてからたくさんの画家が絵画制作に写真を使ってきた。ま た、それ以前からもカメラの前段階に当たると言えるカメラオブスクラ(camera obscura)
などの光学機器は 17世紀ごろから絵画制作に使われてきたと言われている。フェルメール もまたその一人であると言われており、デビット・ホックニーによるとカラヴァッジョや シャルダンもまた光学機器を使っていたのではないかとみられている。これらのことからも 美術史的な視点から見ても写真を使用して制作を行うことは珍しいことではない。筆者もま た絵画作品の制作において写真を用いていた 1人である。ただ学部4年次からは意図的に写 真を使うようになっており、修了制作でもまた意図的に写真を用いている。本稿では、自身 が制作に写真を用いた経緯を説明・考察し、その上で今回の修了制作作品である《Memory recall》について考えていく。
《Memory recall》は、同じ写真をもとに同じキャンバスサイズ(F20号)に複数制作を 行った連作の作品である。作品に使った写真には自身が幼い頃の家族の集合写真を選んだ。
自身の制作のテーマは「匂い」の表現であり、ここで使っている「匂い」は、哲学者ジル• ドゥルーズの『感覚の論理学』に出てくる〈図像〉に繋がると考えており、そのキーワード をもとに本作品を制作した。
今回連作という形式をとったことで、数点ではあるがジル・ドゥルーズの言う〈図像〉的 な絵画を制作することができた。何枚も描くことで〈図像〉に必要である〈図表〉的な要素 をうまく画面に取り入れることができたのではないかと感じている。そのため、本作は自身 が目標にしていた〈図像〉的な作品に近づいたと考える。
ロング・テイクによる現実と幻想の共存の映像表現
~ホームレスをテーマにした短編映画《萋萋》の制作~
The coexistence of reality and fantasy by long take
-A short film about homeless “The dream of ruins”-
韋 禹西
Yi YUSAI崇城大学大学院芸術研究科デザイン専攻 Division of Design, Graduate school of Art, Sojo University
214 崇城大学芸術学部研究紀要 第 14 号 215
本研究では、ロング・テイクを使用した主な作品について考察した後、「ホームレス」の 生活を題材とした短編映画《萋萋》の制作を通して、ロング・テイクを用いた「現実と幻想 の共存」の映像表現を追求した。
映画におけるロング・テイクとは、長回しの撮影方法のことを言う。まずフランスの ニューウェーブ運動を中心に文献調査および作品鑑賞に基づいて、運動の影響を受けた監督 の映画スタイルと撮影方法を整理すると、ロング・テイクを用いた作品が多いことが判明し た。そこではロング・テイクは監督が自らの意志を表明するための重要な手段となってい る。そこで、ロング・テイクの役割を考えながら、ロング・テイクを用いた短編映画の制作 を目指した。
本研究では、是枝裕和や蔡明亮などの監督作品におけるロング・テイクの使用方法の分析 を通して、映画におけるロング・テイクの役割を明確にすることを目的とした。ロング・テ イクは機械的に画面を記録するために使用されていることが多い。直接的でシンプルな撮影 手法であるが、プロットが多様になるにつれて、画面の内容がはっきりと観客に伝えられ る。ロング・テイクを用いて、現実のシーンと非現実のシーンをそれぞれ撮影し、一つの作 品の中で「現実と幻想の共存」を映像表現することを試みた。
「ホームレス」といわれる、社会から隔離されて実在する人々の物語を題材とすること で、ストーリーの真実性や映像のスタイルを考慮した。ホームレスの生活を調査する中で確 認した彼らのリアルな体験に基づいて、全体的なプロットを構想し、台本を作成した。
各シーンのプロットや構図を工夫することで、ロング・テイクを有効に活用することがで きると考える。そこで、同じ空間で二人の異なる行動を撮影し、構図を調整することで、
キャラクター間の分離感をできる限り表現した。そして、撮影する場面の設定を通して、幻 想的な空間を創出した。
本作品では、ホームレス生活の状態を描き、彼らの生き方を映像で表現することで、鑑賞 者に自分の生活状態を深く熟考してほしいと考えた。制作した作品を展覧会の来場者に鑑賞 していただき、アンケートを実施した。その結果、「深い意味を表現したいのではないか」
「固定の画面を長時間見ると少し退屈になる」などのフィードバックが得られた。
本研究を通して、ロング・テイクを用いた「現実と幻想の共存」の映像表現を試みたが、
このように人間の生活を記録する映画は他にも様々な制作方法がある。今後もロング・テイ クは、様々な主題やプロットを表現する撮影方法として展開されていく可能性を期待してい る。
216 崇城大学芸術学部研究紀要 第 14 号