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短編漫画『トルコ人』の制作 Creation of a Short Manga “The Turk”
1W153046-7 北村 翼 指導教員 坂井 滋和 教授
KITAMURA Tsubasa Prof. SAKAI Shigekazu
概要:本制作は漫画の持つ解説能力の高さに着目し漫画によって身近な技術である人工知能を解説することを目 的とする。漫画表現との適合性から人工知能の概念や歴史を取り扱うこととし、Standageの指摘する歴史上の機 械人形《トルコ人》とコンピュータ史とりわけチャールズ・バベッジとの関係性を題材に漫画制作を行った。ア ナログ作画とデジタル作画の併用により完成した漫画作品『トルコ人』は一方で人工知能の側面を解説すること に成功したが、人工知能という大きな領域の総合的な解説を課題として残した。一方で制作した経験を通じ学習 漫画と歴史知識の適合性を再確認したほか、髙橋の先行研究の結果を用いて定量的な漫画表現の評価を行なった。
キーワード:漫画制作、学習漫画、コンピュータ史、人工知能
Keywords: manga creation, textbook manga, history of computers, artificial intelligence
1.はじめに
近年注目されるようになった研究分野として 人工知能があるが、その具体的な性質は一般的に は知られていない。身近な技術を理解することは 防犯・自衛の観点から重要である。また、村田[1]
は実験研究により漫画は同じ内容を示す文章よ りも知識習得の効果が高いことを示した。知識習 得を目的とした漫画を一般的に学習漫画と呼ぶ。
本制作においては漫画表現によって人工知能 を解説する学習漫画の制作を行い、人工知能とい う分野と漫画表現の融合を試みた。
2.漫画と人工知能の現状
人工知能という言葉には明確な定義がないが、
近年においてはディープラーニングや機械学習 といった言葉が代名することが多い。
人工知能を取り扱う既存の学習漫画本 4 冊を 標本とすると、総ページ数に占める漫画のページ 数の割合がいずれも髙橋[2]の取り上げた 7 冊の
学習漫画本の平均 60.25%を下回った。これらの 計算結果を表 1 に示す。村田の示した漫画の知識 習得効果を可能な限り活用するため、本制作では 全編漫画による学習漫画の制作を行った。
学習漫画以外の漫画を取り上げると、『攻殻機 動隊』(士郎正宗, 1989)や『AI の遺電子』(山田 胡瓜, 2016)など人工知能を取り扱う作品の多く は現在の技術とはかけ離れたサイエンス・フィク ション的な側面が強く、現代社会における人工知 能の理解を助ける働きは弱いと考えられる。
3.漫画作品『トルコ人』の物語構成 学習漫画を別として歴史漫画という漫画の 分類が存在することから歴史は漫画による解説 に適していると仮定し、本制作では人工知能の概 念や歴史を取り上げる漫画の制作を行った。
世界で初めてプログラム可能な計算機械を考 案したのはチャールズ・バベッジである。本制作 においてはバベッジと機械人形《トルコ人》の
表 1 既存の人工知能学習漫画における漫画のページ数の割合
作品名 総ページ数 漫画ページ数 漫画の割合
『マンガでわかる! ⼈⼯知能 AI は⼈間に何をもた らすのか』(松尾, かん, 2018)
208 124 59.62%
『マンガでわかる⼈⼯知能』(藤⽊, ⼭⽥, 2018) 222 98 44.14%
『マンガでわかる! 楽しく読める⼈⼯知能/AI《超
⼊⾨》』(三宅, ⾼⽊, 2018)
103 50 48.54%
『マンガでわかる⼈⼯知能』(備前, 三宅, 2017) 207 72 34.78%
2 物語を題材として漫画制作を行った。《トルコ人》
とは 1770 年にヴォルフガング・フォン・ケンペ レンによって制作された装置であり、人間相手に チェスを指す機械人形として 19 世紀半ばまで欧 米各地で興行を行っていた。当時の人々は機械が チェスを指す実現性を判断できなかったが、バベ ッジはこの装置が人間の操作によってチェスを 指す奇術道具であることを確信しながらもチェ スを指す機械の実現性を理論的に検討していた。
Standage[3]は《トルコ人》が実際には奇術道具 であったにも関わらずコンピュータや機械知能 の可能性を人々に示唆したとしている。
漫画制作にあたっては題材の内容を現代の舞 台に展開し親しみやすさを増す試みをした。
4.漫画制作の手順
漫画制作には一般的にペンと紙を用いるアナ ログ作画と、ペンタブレットとイラストソフトを 用いるデジタル作画の 2 種類がある。本制作では アナログ作画の手軽さとデジタル作画の柔軟さ を併用した。プロット(筋書き)はテキストファイ ルに、ネーム(コマと構図のみを整理した物)はノ ートに、下描きとペン入れは B4 の原稿用紙上に、
写植や仕上げはイラストソフト CLIP STUDIO PAINT PRO 上で行った。
5.結果と考察
製本し完成した漫画冊子を添付資料とする。
本制作にて制作した作品『トルコ人』は表1に 表される既存の学習漫画とは異なり全ページを 漫画によって解説する学習漫画である。しかし本 制作は比較実験を欠いており既存の学習漫画に 対する優位性は示せず、取り扱う内容も異なるた めこれを断念した。これを解決するためには既存 の学習漫画と同じ内容を表現し理解度を計測す る比較実験を行うもしくは定量的な理解度の比 較材料を考案するといった試みが必要である。
また、本制作では人工知能の歴史的背景を漫画 によって比喩的にと同時に直接的に解説した。主 観的には歴史の解説は満足に達成され、人工知能 と漫画表現の融合は局所的には成功したと考え る。しかし、人工知能を代名するディープラーニ ングや機械学習の数学的・統計学的知識の漫画に よる解説は行っていないため、人工知能という領 域の完全な漫画表現を達成するためにより広い
知識の学習漫画の制作を行うことを今後の課題 とする。
一方で学習漫画制作を通じて、限られた知識の解 説をする漫画の制作にも膨大な時間がかかるこ とを実感した。様々な分野と漫画の融合である学 習漫画という分野は今後も発展が期待されるが、
限られた時間と資源で多彩な情報を提供する必 要のある新聞や学術雑誌などの書籍においては 学習漫画による代替は難しいと断じることがで きる。一方で義務教育の教科書、とりわけ歴史の 教科書については時間を経ても内容が大きく変 化することはないため学習漫画による代替を検 討する価値があると考えられる。ここに、歴史は 漫画による解説が適しているという仮定が補強 された。
本制作では構図や絵柄といった表現手法は一 般の漫画家を参考にした。髙橋の研究においては オノマトペの数をコマ数で割ったオノマトペ出 現率を算出し、表現手法の発展した現代的で効果 的な漫画と呼べる下限を出現率 10%としている。
『トルコ人』においてこのオノマトペ出現率は 21.25%であったため、本制作における表現技術が 効果的であると定量的に評価を行なった。図 1 に『トルコ人』におけるオノマトペの例を示す。
図 1 『トルコ人』におけるオノマトペの例
参考文献
[1]村田夏子, “教授方略としての漫画の効果,” 読書 科学, 第 巻 Vol.37, 第 No.4, pp. 127-136, 1993.
[2]髙橋享平, “学習マンガの表現形式の比較,” 筑波 大学修士 (情報学) 学位論文, 2014.
[3] T. Standage, 服部桂 訳, 謎のチェス指し人形
「ターク」, NTT 出版, 2011.