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映画制作を通して生きる力をデザインする

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Academic year: 2021

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(1)56. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 石丸みどり Ishimaru Midori 愛知淑徳大学. Aichi Shukutoku University. 映画制作を通して生きる力をデザインする ─創造表現の経験から─ Research to design the power to live through movie production ∼Creative expression experience∼. 1.市民映画での実証 子どもたちの創意工夫と好奇心を育て,生きる力をデザインするため,タ ブレットを使い,映画制作に取り組んでいる。その制作工程である 脚本・ 撮影・演出・キャスト・制作・演奏・編集は,ほぼ子どもたちのみで行われ る。 ここに至るまで,筆者は地域の人々と共に映画を創る「市民映画」制作の 活動を行って来た(図1)。自治体が主体の場合もあれば,民間団体主体の 場合もあるが,市民がスタッフやキャストを務め,地域の物語を協同で制作 する。地域活性化の活動事例は,映画に限らず無数にあるが,筆者は映画制 作という手法の特性に,「人」が主体である地域の活性化への有効性を過去 の複数の事例により実感していた。 映画は,さまざまな表現方法−文学・音楽・絵画・演劇などあらゆる要素 が集約された総合芸術であると言われる。実際に,役者・脚本家・カメラマ ン・照明・美術ほか多くの制作スタッフが動き作り上げていくのが映画であ る。 市民映画の場合も,多くの市民が各々の個性や能力に合わせて各役割を担 当し,協働でひとつの作品を創りあげていく過程で,人々の成長する姿が多 く見られる。人々と協力しながら努力した結果が,映像作品として形になる ことで,「自己を客観視し,自分の有り様や社会における位置を知ることに つながるといえる。」と柿沼宏寿は書いている。. 図1 愛知県西尾市での市民映画参加者.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 2.創造性を育てる試み 2.1. 制作方法の模索. この映画制作の工程を,子どもの主体性や創造性,コミュニケーション能. 力を伸ばす力にできるのではないかと,筆者が2017年から始めたのが子ども の創造教室だった。柿沼宏寿は「映像メディアによる表現がメタ認知を促し 社会的自我を形成すること,そしてそのことによって得られる所属感や自己 肯定感はエンパワーメントとして作用することがわかってきた。」と書いて いる。そしてこれを「シネリテラシー」とし,「映画の読み解きと製作を通 した学び」と位置づけた。 筆者は,未来の子どもたちに必要な力を以下の4点にまとめ,その力を培 うためにどのようなプログラムが考えられるのかを模索した。 1.主体的に課題を発見し,解決に導く力,志,リーダーシップ 2.創造性,チャレンジ精神,忍耐力,自己肯定感 3.感性,思いやり,コミュニケーション能力,多様性を受容する力 4.ICT 教育. 身体表現,アニメーション制作,フィールドワーク,写真,影絵,演劇,. CM 制作などの創造的な遊びの中で,子どもたちが自分に自信を持つ原動力. となる4つの力を育てることを目的にしたのが創造教室である。. 想像の世界は自由である。頭の中に次々に浮かぶ想像の画を,その次に は,相手に伝えたいという欲求が芽生える。 頭の中で想像した画をどうすれば画面に映し出すことができるか? その点においても,撮影する場所,時間,カメラの位置,画角,光,役者 の選出,役者の動き,セリフ,小道具,かける時間など考えなくてはならな い課題と直面することになる。 指示通りに行動することには慣れている現代の子どもたちが,その多くの 課題と向き合い,仲間と時にはひとりで考え,実施しなくてはならない。こ うした瞬間がひとつの作品を創りあげるまでに,無数に連続して存在するの だ。このすべてがシネリテラシーの教育的意義である。[注1] 客観的な自己分析,迅速で的確な判断力が求められ,協働作業における相 互作用を通して所属感や自己肯定感を持ち,またコミュニケーションの構築 も大きな成果となる。 このチャレンジが,技術的な壁であきらめ頓挫してしまわないよう,道具 はタブレットを使用することにした。撮影および編集はタブレットを使用 し,こどもたちの手で行う。(図2) 高度なビデオカメラや一眼レフを使いこなす前に,「創りたい!」という 気持ちが冷めないうちに,タブレットはすぐさま撮影し確認できる。そし て,インストールした動画編集アプリに読み込み,編集に取り掛かる。結果 図2 タブレットで制作中の子どもたち 1)シネリテラシーの教育的意義については,拙論におい ても述べてきたが,次の三つに集約される。 ① メタ認知(自己の意識化):編集作業等で演技やカメ ラアングルなど自分たちの表現を客観視できる。 ② 社会的自我:映画製作には多くの役割があり,役割を こなすことで相互作用的に自己が構成される。また, その過程で自己肯定感・所属感を抱くことができる。 ③ 映画文化:映画には,暗い空間・巨大スクリーン・映 画祭等々,独特の文化があり,子どもの表現を〈学 校・家庭・社会〉が支える構図を形成している。 柿沼宏寿  『美術教育学』美術科教育学会誌,第38号,457.. をすぐに観たい子どもたちにとって,タブレットでの撮影と編集は,創造欲 を停止させないことを証明した。もちろん,撮影技術を身につけ,より優れ た美しい映像を撮ることや高度な編集を学ぶことも必要だと考える。しか し,主体性を持って,創る喜びを実感し,仲間とその喜びを分かち合うこと が,子どもたちにとってはその後の学びにつながる基盤となることを考えれ ば,まずは扱いやすい道具から始めることが好ましいと考えた。. 57.

(3) 58. 特集:なぜ、子どものためのデザインに取り組むのか. 2.2. コンクールへの挑戦. 2018年度,マイナビこども映画コンクールへの出品を目標に,小学校4年. 生と6年生の子ども2人で映画制作に取り組んだ。2人が思いつくものやエ ピソードを言葉にして並べていく形で,ストーリーのアイデア出しを行っ た。その言葉からは,子どもたちの普段の生活が垣間見えた。「鉛筆」「消し ゴム」などの文房具や散らかして母親に叱られたエピソードなどが,次々と 登場する。その合間に筆者がストーリーへとつながる質問を投げかけた。 図3 道具箱を制作する子どもたち. 「なぜ散らかすとお母さんに叱られるのかな?」 「鉛筆や消しゴムは散らかしたままの時,どう思っているんだろう?」 すると,子どもたちから「文房具たちが自分たちで整理整頓したり,仲間 同士で直し合えばいいんじゃない?」「それを見た僕たちは,これから文房 具を大事にしようって思うよね。」という意見が上がり,ストーリーが出来 上がっていく。 文房具たちの姿を見た自分たちは今後どうしたら良いのか?まさにメタ認 知力が発揮される場面である。文房具を整理整頓して大事に扱うために,道 具箱を作ることになった(図3)。こうして,映画の中で工作も行うことに なった。デジタルでの撮影と編集でありながら,そのコンテンツ制作には, アナログの作業もあることも実感していたようだ。 次に撮影方法の相談をした。ストーリーを考える際,すでに子どもたちの 中では文房具は擬人化されており,それをストップモーションで撮影するこ とが決定した。子どもの創造教室で,過去に数度,ストップモーションの制 作を行っており,静止しているものが動き出す面白さに夢中になっていた。 その制作中の集中力は素晴らしく,終了時間が来ても終わろうとしない。撮 影と再生を繰り返しながら,モーションを確認し,間違いに気付くと戻って やり直す。 文房具が魂を持ったように動くストップモーションの案は,この世界に魅 了された子どもたちから出た,必然のアイデアだったのであろう。 画が出来ると音声である。アフレコという方法について説明をすると,各 文房具キャラクターの性格を設定し,誰がどんな声で演じるかを決め,練習 を始めた。性格に合わせた声や話し方があることに気づき,提案できるの は,日頃の友人関係などコミュニケーションの中で,多様な個性があること を認知し,擬人化された文房具の世界にも多様性を再現しようとしていると 考えられる,また人に対する観察力が育っているとも言えるのではないだろ うか。 さらに,1人は,劇伴として挿入したい曲があるということで,楽譜を購 入し,自らタブレットのピアノアプリで演奏し録音するという主体的な行動 に,驚かされる場面もあった。画が出来上がりつつある経過の中で,本人に はそのメロディが自然に浮かんでいたようである。しかも,その楽曲を自分 で弾こうとする積極性は,創造という行為から引き出された力ではないかと 考える。 このようにテーマを決定し,頭の中の想像を見える形にするまでには,何 を伝えたいのかを何度も問い直しながら,その方法を模索し,協同で作業を し,トライ&エラーを繰り返しながら想像が形になることを実践していくの が,映画制作である。2ヶ月の制作期間の中で,子どもたちは非常に多くの 体験をし,映画作りについて自分自身の言葉で語れるまでに成長していた。.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.28-1 No.103. 3.結果と考察 作品のタイトルは「文ぼう具の1日」と決定し,第3回マイナビ日本こど も映画コンクールに応募した結果,応募総数127作品の内16作品に入選した。 東京の日本 BS 放送株式会社ホールの表彰式に出席した子どもたちは上位7. 作品にこそ入らなかったものの,自分たちが考え,創った作品が200名を超 える観客の前で上映されたことは,大きな自信となった様子で,早くも翌年 のコンクールへの意欲を見せていた。作品が完成した際の達成感だけでも大 きな満足感があったようだが,プロの審査員に評価をされたこと,大勢の目 に作品が触れ,拍手を頂くことは,努力の結果を実感することができる良い 機会となった。また他の子どもたちの作品を知ることも,多様な考え方や多 様な表現に気づく機会となり,視野が広がったようである。特にフィクショ ンのドラマを制作した彼らにとって,ドキュメンタリーという分野を知るこ とは,映画という表現に対する理解を深めることができた(図4)。 その後,子どもたちは,2019年度に向けて,再び新しい作品に挑戦した。 第1段階のテーマ探しでは,映画制作経験者の子どもはテーマの重要性を理 解していたため,自分が伝えたいことについて自問自答し,自主的にテーマ の候補探しを考え始めた姿に,大きな成長が見られた。 シネリテラシーの意義の一つであるメタ認知と社会的自我が芽生えた成果 と言えよう。今後の成果に期待している。. 図4 日本こども映画コンクール 表彰式の様子 参考文献 柿沼宏寿「シネリテラシーの教育的意義 ─ シネリテラシーフェスタ in 新潟の取り組みを中心 ─. に」参照,『美術教育学』第32号,436,2011. 柿沼宏寿『美術教育学』,美術科教育学会誌,第38号,455,2017. 59.

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