悪性神経膠腫細胞株に対する
perampanel の抗腫瘍効果の検討 ( 要約 )
日本大学大学院医学研究科博士課程 外科系脳神経外科学専攻
龍岡 樹里
修了年 2021 年
指導教員 大島 秀規
要約
膠芽腫は成人に最も多く発生する原発性脳腫瘍である。膠芽腫は、増殖能が非常に高く、
強い浸潤能を有するため、手術による完全な切除が困難であり、最も悪性度の高い腫瘍の一 つである(1)。現在、外科的切除による腫瘍体積減少と組織診断の確定、術後放射線療法、
temozolomideの経口内服による化学療法を行うことが標準治療とされている(2, 3)。しかし、
依然として全生存期間中央値は14.6か月と非常に予後不良である。
膠芽腫の症例において初発症状がてんかん発作である割合は比較的高く、術後も含め た臨床経過中に30~68% がてんかん発作を起こすといわれている(4-6)。さらに、膠芽腫に 起因したてんかん発作は難治性のものが多く、KPS (Karnofsky Performance Status) へ悪影響 を及ぼし原疾患の治療を妨げる一因となる(4, 7)。てんかん発作のコントロールを行うこと は、KPSを維持することに加え治療を継続する上で非常に重要である。そのため、抗てん かん薬の選択および調整が必要となる。
新規抗てんかん薬に分類されるα-amino-3-hydroxyl-5-methyl-4-isoxazole-propionate
(AMPA) 受容体非競合型拮抗薬のperampanelが、抗てんかん作用に加えて抗腫瘍効果を有
する可能性について着目した。AMPA受容体は神経伝達物質であるグルタミン酸をリガン ドとして、本来Na⁺、K⁺の陽イオンを透過させるイオンチャネルである。サブユニットで
あるGluA1~4のうち様々な組み合わせで4量体を形成する(8)。悪性度が高い腫瘍細胞で
は、GluA2欠如型もしくは未編集型のGluA2が発現しているAMPA受容体が多いことが
報告されており、これによりCa²⁺透過性の特徴を持つことがわかっている。また、膠芽腫 はグルタミン酸自身を生成、放出することで細胞外濃度を上昇させる。グルタミン酸の細 胞外濃度上昇は持続的なCa²⁺流入を引き起こし、過剰興奮によるてんかん発作を誘発する とともに、正常細胞に対しては神経毒性を、腫瘍細胞に対しては細胞増殖、アポトーシス の抑制、遊走能の活性化などを引き起こす。Perampanelによって AMPA 受容体の活性を
発作の抑制のみならず抗腫瘍効果が期待される。Perampanelと同様のAMPA受容体非競合 型拮抗薬であるtalampanelは、初発膠芽腫に対する第Ⅱ相試験で、術後化学放射線療法を受 けた群の全生存期間が14.6か月だったのに対し、talampanelを加えた群では20.3か月と全 生存期間の延長をもたらした(9)。Perampanelにおいては、Langeらが悪性神経膠腫細胞株 に対する抗腫瘍効果を報告している(10)。抗腫瘍効果のメカニズムは、細胞周期停止やア ポトーシス誘導は認めず、グルコース取り込み低下による細胞代謝の低下であると結論付 けている。そこで、perampanelの悪性神経膠腫細胞株に対する抗腫瘍効果のメカニズムに 直接的な細胞死誘導があると仮説を立て、本研究を計画した。
膠芽腫に加えて退形成性星細胞腫を含めた悪性神経膠腫細胞株6種類 (A-172、AM-38、 T98G、U-138MG、U-251MG、YH-13) を用いて、perampanelによる細胞増殖抑制実験を行っ た。実験はcoulter counterを使用して行い、perampanel 1 µM処理72時間後に生存細胞の細 胞数を計測した。全ての悪性神経膠腫細胞株はperampanel 0.1 µMの低濃度から濃度依存的 な増殖抑制効果を認めた。ここから算出された細胞数のIC₅₀は、A-172で300.03 µM、AM- 38で9.11 µM、T98Gで8.96 µM、U-138MGで12.13 µM、U-251MGで1.89 µM、YH-13で 1.80 µMであった。T98G、U-251MG、YH-13はperampanelに対して比較的感受性があり、
A-172、U-138MGは低感受性であると考えられた。
細胞増殖抑制実験から算出した IC₅₀ の結果から perampanel 高感受性株と考えられる
T98G、U-251MG の 2 つの細胞株を選択し perampanel の抗腫瘍効果の機序を検証した。
Fluorescence-activated cell sorter (FACS) による細胞周期分布解析とアポトーシス誘導解析、
Western blot による細胞周期関連タンパク質、アポトーシス関連タンパク質について解析を
行った(11)。
FACSによる細胞周期分布解析ではT98G、U-251MGともにG₀/G₁期の細胞の割合は 有意に変化せず、細胞周期停止の有意差を示す結果は得られなかった。Western blotによる タンパク質解析では、細胞周期停止の指標であるp21の発現について評価し、両細胞株と
もにp21の発現に変化を認めなかった。これより、perampanelは抗てんかん薬至適血中濃 度下では細胞周期を停止させる効果はないと考えられた。
FACSによるアポトーシス誘導解析では、perampanel 0、0.1、1、10 µM処理を行い、
48時間後の細胞の状態を評価した。T98G、U-251MGともに10 µMでcontrolと比較し有 意なアポトーシス細胞の増加を認め、アポトーシスが誘導されていることが示唆された。
また、アポトーシス関連タンパク質の中から内因系経路のp53、Bax、Caspase-9、外因系経 路のFas、Caspase-8、共通経路でありアポトーシス誘導の実行タンパク質であるCaspase-3 についてのWestern blotによるタンパク質解析を行った。Perampanel 1 µM処理下で、T98G は、8時間以降でp53、Bax、Caspase-9、Fas、Caspase-8の発現増加がみられた。U-251MG は4時間後にp53の発現増加、8時間以降で、Bax、Caspase-9、Fas、Caspase-8の発現増加 がみられた。また、T98G、U-251MGともに8時間をピークにCleaved Caspase-3の発現増 加を認めた。以上より、perampanelは内因系経路、外因系経路でのアポトーシス誘導を起 こすことが示された。
次に、悪性神経膠腫細胞株におけるperampanelの感受性を検証するために、AMPA受 容体の発現を蛍光免疫染色にて行った。GluA1は低感受性株において、GluA2はA-172にお いてimmunoreactivityの減少を認めた。また、perampanel高感受性株のT98G、低感受性株の
U-138MGを選び、RNA-seqによりmRNA発現を網羅的に解析した。その結果、T98Gにお
いては、perampanel 処理により RNA‑binding protein として腫瘍の進行に関わる Negative elongation factor E、肝癌などの進行に関与しているATP binding cassette subfamily F member 1、 神経膠腫の悪性度と関連しているFAM20C golgi associated secretory pathway kinase、腫瘍の遊 走や浸潤を促進するaarF domain containing kinase 5、胃癌の進行に関連するRUN and FYVE domain containing 1の遺伝子発現を減少させた。またp53依存性にG₁期を停止させるPAK1 interacting proteinの遺伝子発現を増加させた。U-138MGにおいては、perampanel処理により 発癌に関与する prefoldin subunit 6、悪性神経膠腫のヌクレオチド糖代謝に関わる tissue
分子であるtransporter 1、ATP binding cassette subfamily B memberの遺伝子発現が増加した。
一方でperampanelは、遊走や浸潤、血管新生を抑制するFSHD region gene 1の遺伝子発 現の減少、神経膠腫の遊走を制御するLysophosphatidylserinesを産生するabhydrolase domain containing 16A、胃癌の進行に関連するとされるRUN and FYVE domain containing 1、神経膠 腫の発達と進行に関与するkinesin family member 15の遺伝子発現を増加させた。T98GとU-
138MGの間では、少なくとも変動上位遺伝子で定常状態での細胞の違いに起因する遺伝子
発現の違いがperampanelによって変化する傾向は見られなかった。しかし、temozolomideを 長期に作用させることで上昇し、薬剤耐性が増加する可能性が示唆されている aldo-keto reductase family 1 member C2、また temozolomide への薬剤耐性に関わっている aldehyde dehydrogenase 3 family member A1、さらにスプライシングが悪性神経膠腫の予後不良に繋が
るMyosin IBで遺伝子発現の違いが見られた。
さらに、perampanelの細胞内Ca²⁺に対する影響を検討したところ、すべての細胞株にお
いてperampanel 処理による静止時Ca²⁺濃度に有意な影響を与えなかった。しかし、フィル
ムプレートに播種したU-251MGにおいては、顕著な自発的Ca²⁺シグナルが見られ、その発 生頻度がperampanel処理により著しく低下した上、4分間のCa²⁺動態測定の間、低いCa²⁺レ ベルが持続した。
最後に、標準治療として使用されるtemozolomideにperampanelを併用した際の抗腫瘍 効果について、細胞増殖抑制実験を行い評価した。Temozolomide 10 µM、perampanel はそ れぞれ0、0.01、0.1、1、10 µMで処理し72時間培養したのち細胞数を測定した。
Temozolomide単剤と比較し、perampanel低感受性株であるU-138MG以外の細胞株におい
てperampanel 1 µM処理下で抗腫瘍効果が有意に促進した。
以上から、悪性神経膠腫細胞株において perampanel はアポトーシス誘導を含む抗腫瘍 効果を持つことが明らかになった。また細胞間での perampanel の感受性の違いが示唆され た。今後はin vivoにおける動物モデルでの評価や、perampanelの感受性を決定する因子の同 定、それに続く実臨床でのトランスレーショナルリサーチも検討が必要と考える。
引用文献
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