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浸漬切削の研究(第1報) 被削性に関する有用性の検討

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(1)

研究調査報告

浸漬切削の研究(第1報)

      被削性に関する有用性の検討

矢 吹 帰 一・* 山 下 鉄 雄*

(昭和45年9月28日受理)

   Studies on lmmersion Cutting (No.1)

一 The lnvestigation of Usofulness on Machinability 一

Kiichi YABuKI and Tetsuo YAMAsHITA

(Received September 28, 1970)

 Up to the present, there t s no established theory on the effect of cutting fluids against the cemented carbide tool because of many troubles. Then, in the resort of solving the troubles, the authors devised the method to immerse work material and tool in cutting fluid thoroughly and to turn, that is, what is called himmersion cutting .

 After producing the apparatus by way of trial, this method was compared with dry cutting on the machinability of S55C.

 Consequently the following conclusions were obtained and it was proved that this rnethod was of use・

(1) On the cutting resistance. lmmersion cutting obviously had reduction in comparison with dry cutting・

(2) On flank wear. The tool life is much prolonged qualitatively and the occurence of chipping was prevented by the unique method of oiling.

(3) On the roughness of machined surface. This method is inferior to that of dry cutting. But oil type fluids that can lubricate extremely, surely make it possible to progress.

1 緒

 超硬合金工具に対する切削油剤の効果についてはまだ定 説がない。その理由は高速切削における切削油剤の効果 が,工具材質および刃先形状が被削性に与える影響に比し て一般に軽微なこと,高速による切削油剤の飛散,門門に よる作業性低下,冷却むらによるチッピング,仕上面状態 への悪影響等の欠点があげられるからである。

 そこで筆者らは,上述の欠点を補い,有効に切削油剤を 働かす目的で,被削材および工具を切削油剤中にドツプリ 浸した状態で切削する方法(以下浸漬切削と呼称する)を 考案,その装置を試作し,本報ではP20によりS55Cを乾 切削と浸漬切削により旋削し,切削抵抗・フランク摩耗進 行状況・仕上面状態の三点より比較し,浸漬切削の有用性

を検討した。

     2 実験装置および実験方法  i)実験装置

 イ)浸漬切削装置 Fig・1は装置の大要を示す写真

*機械工学科

Fig.1 Set−up of experiment.

一67一

(2)

津山高専:紀要第3巻第1号(1970)

q二方より見た)であり,Fig・2はその説明図である。

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Fig.2 Schematic diagram of experimental set−up.

 Fig・2において,シリンダ(透明アクリル製)はハンガ ー(アルミニウム製)および心押台で両端を固定される。

 ピストン(透明アクリル製)は切削動力計によりシリン ダ細野冊に沿ってしゅう動でき,その範囲は本装置では約 120mmである。シリンダ細窓部およびピストンの切削動 力計挿入部から切削油剤が外部へ漏洩するのを防ぐため,

シリンダ=ピストン間,動力計=挿入部間の隙間をそれぞ れ最小限度にとどめるよう考慮するとともに,ピストンの 長さをシリンダ細窓部長さの2倍以上にとり,ピストンの 切削動力計挿入部の中心から左右に均等に振り分け,送り の始めと終りの位置においてピストン端末部がシリンダ細 君部にのぞき,切削油剤が流出することのないよう注意し た。:更に切削動力計はピストンに挿入された状態で前後に 一定距離移動可能である(本装置では二野材径75φから52φ まで切削可能)。また切削油剤を循環させるため荏原自吸 式200W渦流ポンプを附設した。

 ロ)旋盤  大隈製LP−S精密高速旋盤

 ハ)動歪測定装置  昌運製機械試験三型切削動力計・

東洋測器製MD−6E−P−Cトランジスタ式動歪測定装置

・渡辺測器製WR217−3Cペン書きオシログラフ  ニ)表面あらさ測定装置  小坂研究所製SE−3万能 表面形状測定機(触一法触針移動式)

 ホ)摩耗測定装置  津上製工具顕微測定器T−MCL2  ii)実験方法

 前述の装置と下記条件により,両切削法について長手切 削を行ない,切削抵抗と最大あらさを求め,また16minの 時間範囲で所定時間ごとにフランク摩耗幅を測定した。

 イ)被削材  切削抵抗試験およびあらさ試験では機械 構造用炭素鋼S55CをFig・3に示す試験片に加工して使 用。摩耗試験ではF最g・3と同様な形状・大きさであるが

早筆をつけないものを直径が55mmになるまで使用。

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25 55

引7 Fig.3 Test piece.

 ロ)工具  イゲタロイST 15E(JISのP20に相当)。

工具刃先形状(0,6,6,6,15,15,0・5)

 ハ)切削条件

 。切削抵抗およびあらさ試験の場合   切削速度(m/min):85,115,165,245

  切込み(mm) :0.8

  送り(mm/rev):0・25  。摩耗試験の場合

  切削速度(m/min)=110         .

  切込み(mm) :1.2

  送り(mm/rev):0.2

 二)切削油剤  三菱石油製ダイヤモンドカット11,21 W11(20倍液), W21(4倍液)の4種類。以下ダイヤモ

ンドカットの名を省き,11,21,W11, W21と略称する。

 ホ)フランク摩耗幅測定時間  切削時間1min,3min 6min,11min,16minの5回。

 へ)その他  工具の研摩は使用前および切削抵抗,あ らさ試験では切削長さ10mmごとに,摩耗試験では切削時 間1minごとにハンドラッパで行なうのを原則とした。浸 漬切削における切くずの排除は切削抵抗,あらさ試験では 切削長さ10mmごとに,摩耗試験では切削時間20〜30sec ごとに行なうのを原則とした。

3 結果および考察

 Fig・4より切削抵抗の3分力とも浸漬切削による場合の 方が小さく現われ,本実験の範囲では概括的に見て主分力 で15%程度,背分力で30%程度,送り分力で25%程度減少 し可成りの潤滑効果が認あられた。

 すなわちすくい面への切削油剤の浸透性が大きいほど境 界潤滑領域は拡大されて,切くず=すくい面間の摩擦係数 が減少する結果,せん一角が増加して被削性が向上し切削 抵抗が減少するわけであるが,一一ra的にいって高温,高圧 下のすくい面への切削油剤の浸透は,低速の場合でも刃先 附近まで達することは不可能で,わずかに切くずがすくい 面から離脱する附近において,切くず両わきから浸入し,

境界潤滑を行なうにすぎず1)・2),まして高速切削の場合は 切削油剤の大部分が飛散してしまって,切くずの両わきに

一68一

(3)

浸漬切削の研究(第1報) 矢吹・山下

達することも不可能で,潤滑効果はほとんど期待出来ない。

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        Cu廿ing speed伽1/min)

Fig.4 lmmersion cutting effect on relationship oi    cutting speed  vs. cutting forces.

Work material=S55C, tool==P20 (O, 6, 6, 6, 15, 15

0.5),

depth of cut=O.8mm,  feed=:O.25mm/rev.

 しかるに浸漬切削によれば,被削材・工具とも常にドッ プリ切削油剤に浸した状聾で切削作業が行なわれる上,切 削油剤は弓削材の回転切削運動によってシリンダ内で撹拝 運動を,またポンプによってシリンダ軸線方向に流動性を 与えられる結果,摩擦面にはあらさなどのおうとつによっ て微細な錯そうした毛管が発達していることによる毛管現 象と,工具と切くずの間の相対的な振動によるポンプ作用 により,すくい面への切削油剤の浸透が容易になり,3)境 界潤滑領域が拡げられ,摩擦係数が減少するためせん断角 が増加して切削抵抗が減少するものと考察される。

 またF19・5より切削油剤の種類によって切削抵抗の変 化が若干認められ,切削抵抗減少効果からいえば,低粘度 で浸透性のよい11がややよく,不活性型極圧油で構成刃先 成長抑止力の大きな21がやや劣るようである。

 ところで超硬合金工具を用いた鋼旋削における注油の可 否は不定で,場合場合に応じ試験的に工具寿命・仕上面・

消費動力などを求めて切削油剤を定めることになっている ので,4)JIS K 2241の切削油剤適用表を準用するととも に,オイル・メーカ発行の適用表等を参考にして,水溶牲 切削油剤については精製鉱油と界面活性剤を主成分とした エマルジョン型のW11と,界面活性剤を主成分にし特殊添

加剤を配合したソリューブル型のW21を,不水溶性切削油 剤としては鉱油,界面活性剤,油脂,防せい剤を主成分と する混合油の11と鉱油,塩素系筆圧剤,油脂,界面活性剤 を主成分とする不活性型極圧油の21を選んだ。

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Fig.5 Variation of cutting forces and.roughness of

   machined surface in immersion cutting with

  ,.. rega rd.七〇cutting f正uids.

Cutting conditions same as in Fig.4.

 つぎにFig・6から乾切削に比し浸漬切削では逃げ面の 摩耗進行状況が遅く,例えば15×10−2mmの摩耗幅に達す るまでに,乾切削の場合よりW11で1min, W21で4min,

11で13min,21で11min長くかかり,フランク摩耗よりみ た耐久性について有用性が期待できると考えられる。

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         Cutting time {min)

Fig.6 Flank wear process curves for immersion    cutting.

Work material and tool same as in Fig.4, depth of cut=1.2mm,

feed=O.2mm/rev., cutting speed=110m/min.

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(4)

津山高専紀要 第3巻 第1号(1970)

 高速切削たおけるクレ・一一タ摩耗については切削油剤の効 果はほとんどないと考えられるので,5)本報ではクレータ 摩耗に対する耐久性は検討しなかった。これは結局逃げ面 にくらべてすくい面は圧力も温度も高いため切削油剤がほ とんど浸入出来ない上,摩擦現象も逃げ面における場合よ りはるかに過酷であるためと思われる。クレータ摩耗に対 して切削油剤の効果が認められないということは,超硬合 金工具に対しては冷却効果はたいした役割を演ぜず,むし ろ逃げ面の潤滑効果の方が大切であるという推論が成り立 ち,6)Fig・6においても水溶性で冷却能力の大きなW1ユ,

W21より不水溶性で潤滑能力の大きな11,21の方が摩耗進 行が遅いことを見ても超硬合金工具では,潤滑性に富むも のが高速でもフランク摩耗に対してよい結果を与えること

がわかる。

 ただし本報では第1期摩耗の範囲について検討した結 果,潤滑能力の大きな11,21が役立ったのであるが,第2 期摩耗の領域に入って摩i耗が急激に増し,発熱量も増すと 冷却能力の大きなW11, W21の方が役立つことになるかも 知れないが,本実験の範囲からは立証されない。

 つぎにチッピングの問題については,本切削法では急熱 急冷による熱衝撃がほとんど起こり得ぬ状態で注油が行な われるため,切削作業に障害を与えるようなチッピングの 発生が認められなかったことを附記しておく。

30

20

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         Cutting speed (m/rnin)

Fig.7 lnfluence of immersion cutting on roughness

   of machined surface.

Cutting conditions same as in Figd4.

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 Fig・7に示すように限界切削速度に近い本実験条件にお いても,切削速度効果によって切削速度の上昇に伴って徐 徐にではあるが仕上面状態が向上するのは乾切削,浸漬切 削を問わず共通にいえることであるが,あらさの程度から 見れば乾切削の方が浸漬切削の場合より良好な結果を示し たが,このことは結局超硬合金工具に対する乾切削の優位 性に基づくもので,7)注油方法それ自体の影響ではなく,

注油条件如何によっては十分改善できる余地を残すものと 考えられる。浸漬切削では流動性がよく極圧添加剤の反溶

着性による構成刃先成長抑止力の大きな21が最もよく,潤 滑性が水溶性切削油剤の中ではよいに拘らず,表面張力が やや大きいために浸透性のよくないW11が最も悪かった。

 油性のやや劣る11は別にして,仕上面状態の向上によい 影響を与える潤滑作用の大きな不水溶性切削油剤の方がよ く,不:水溶性切削油剤に比して冷却能力の大きな水溶性切 削油剤は,高速切削における切削油剤冷却のマイナス効果 による切削作用劣化が大きく顕われ結果が悪かった。

 またFig・5における切削抵抗主分力と最大あらさの傾 向が互いに逆になっていることから,切削油剤の冷却作用 によって構成刃先消滅の限界速度が高あられ,乾切削では 当然構成刃先が消滅する切削速度でも構成刃先が発生した ため仕上面状態が悪化したとも考えられるが,本実験の範 囲では具体的にどの程度の切削速度まで構成刃先の影響を 受けて仕上面が劣化したかはっきりしない。

       4 結     言

 以上浸漬切削装置を試作し,浸漬切削の被削性に関する 有用性について検討した結果,

 i)切削抵抗については,切削油割の種類により程度の 差はあるが,すくい面への切削油剤の浸透が容易になり,

境界潤滑領域が拡大される結果,乾切削の場合より明らか

に減少した。

 ii)フランク摩耗よりみた工具寿命は,定性的に見て可 成り延長されると思われ,チッピングの発生防止について は,急熱急冷による熱衝撃がほとんど起こり得ぬ浸漬切削 独特の注油方式から見て極めて良好であった。

 iii)仕上面状態については,乾切削の場合に劣るが,潤 滑能力の極めて大きな不水溶性切削油を使用すれば,向上 の可能性が認められる。

 となり,総合的にみて有用性が期待出来る。

 今後の課題としては,a)切削機構改善についての検討 b)噴霧注油,ジェット注油等による切削と比較しての有 用性検討,c)実用化への対策等があるが,これらについ ては第2報以下に報告する予定である。

 終りに本研究に対し種々助言を賜わった本校重松 清講 師,実験に多大の協力を得た本校卒業生大岩健一・衣田憲 司・西井幸三の諸氏に厚くお礼申し上げる。

        参  考  文  献

一70一

1)篠崎 裏・吉川弘之:精密機械243(1958)141 2)竹山秀彦・正治梅太郎:精密機械266(1960)347

3) M.C.Shaw : Metal Cutting Principles(1952,1954)

  MIT

4)切削油技術委員会:潤滑26(1957)283 5).竹山秀彦:潤滑51(1960)49

6)『「スとえば 山本 明・鈴木音作:切削油剤とその効   果P・132朝倉書店

7)同上P・19

参照

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