氏 名
所 属
学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学位授与の 日付 課程 ・論文の別 学位 論 文題 名
論 文審 査 委 員
劉 永 亮
人 文 科 学 研 究 科 人 間 科 学 専 攻 博 士(日 本 語 教 育 学)
人 博 第88号 平 成28年3,月25日
学 位 規 則 第4条 第1項 該 当
モ ン ゴ ル 語 母 語 話 者 に お け る 日本 語 促 音 の 習 得 に 関 す る研 究 一 モ ン ゴル 語 ・北 京 語 の バ イ リン ガ ル と北 京 語 モ ノ リ ンガ ル と
日本 語 母 語 話 者 間 の 差 違 一 主 査 西 郡 仁 朗
委 員 ダ ニ エ ル ロ ン グ 委 員 浅 川 哲 也
【論 文 の 内 容 の 要 旨】
「
所 属1人 文 科 学 研 究 科 人 間 科 学 専 攻 日本 語 教 育 学 教 室 学 修 番 号110965104
氏 名=劉 永 亮
モ ンゴル語母語話者 にお ける 日本語促音 の習得に関す る研究
̲モ ンゴル 語 と北 京語 の バ イ リ ンガル ・北 京 語 モ ノ リン ガ ル ・ 日本 語母 語 話 者 の 異 同一
要 旨
本 研 究 で は 第 二 言 語 の 分 野 に お い て 長 期 に わ た っ て 取 り上 げ られ て き た 母 語 の 影 響(母 語 転 移)に 基 づ き 、 日本 語 学 習 者 の促 音 の習 得 に つ い て 論 じて き た 。 特 に 、 中 国 籍 を持 ち な が ら 、 中国 語 と全 く異 な る 言 語 を 持 つ モ ン ゴル 語 を母 語 とす る学 習 者 を 対 象 と した 。 対 象 と した 学 習 者 は モ ン ゴル 語 と北 京 語 の バ イ リ ン ガル 話 者 で あ る の で 、 北 京 語 の モ ノ リン ガ ル と比 較 しな が ら分 析 を 行 っ た。 ま た 、 促 音 の 研 究 お い て こ れ ま で 取 り上 げ て い な か っ た 促 音 は調 音 の 際 、 喉 頭 に 緊 張 が 生 じ る 特 徴 で あ る母 音 の 突 然 停 止 の度 合 い を も研 究 の視 野 に 入 れ た 。 本 研 究 に お い て は 、 ま ず 学 習 者 の 知 覚 面 と産 出 面 の 問 題 を 分 け 、 次 に 知 覚 面 と産 出 面 の 関係 に っ い て 大 き く4つ の 研 究 を さ ま ざ ま な 角 度 か ら行 っ た 。 研 究1で は促 音 の 知 覚 にっ い て 、研 究2で は 知 覚 に お け る 指 導 、研 究3で は促 音 の 産 出 に つ い て 、 研 究4で は 促 音 の知 覚 と促 音 の産 出 の 関 係 に つ い て 分 析 を行 っ た 。
そ の結 果 以 下 の よ うな 成 果 が 得 られ た 。
① 促 音 の 知 覚 に つ い て 述 べ る。
促 音 の 知 覚 に は 閉鎖(摩 擦 性 雑 音)の 持 続 時 間 だ け で は な く、 後 続 子 音 、 ア クセ ン ト型 、 そ して こ れ ま で 明 らか に され て な か っ た 母 音 の 突 然 停 止 の度 合 い な どが 影 響 す る こ とが 明 ら か に な っ た 。 そ れ が 、 母 語 に よ っ て 特 徴 が 異 な る こ とが 明 らか に な っ た 。 特 に母 音 の 突 然 停 止 の度 合 い の 与 え る影 響 は 、 モ ン ゴル 語 と北 京 語 の バ イ リ ン ガ ル 日本 語 学 習 者 に お い て 母 音 の 突 然 停 止 の 度 合 い が 高 け れ ば 、 高 い ほ ど促 音 を 早 い 段 階 で 促 音 を判 断 しや す く な る の に 対 して 、 北 京 語 モ ノ リ ン ガ ル の 学 習 者 の 場 合 は母 音 の 突 然 停 止 の 度 合 い が 「低 」 の ほ うが 最 も早 い 段 階 で 促 音 を 判 断 して い る こ とが 明 らか に な っ た 。 こ の よ うに促 音 の 知 覚 は 母 語 の違 い に よ っ て 異 な る 特 徴 を 持 つ が 、 共 通 に み られ る特 徴 も確 認 され た 。 そ れ は 、① 促 音 の 知 覚 に お い て 後 続 子 音 が/k/の 場 合/p/と/t/の 揚 合 よ り短 い 持 続 時 間 で 促 音 を 知 覚 して い る。 ② 後 続 子 音 が 有 気 音 の ほ うが 無 気 音 の揚 合 よ り短 い 持 続 時 間 で促 音 を 知 覚 して い る こ とが 明 らか に な っ た 、
ま た 、 促 音 の 単 語 内 の位 置 も 学 習 者 の促 音 の 知 覚 に影 響 され る こ とが 明 らか に な っ た 。 っ ま り、 モ ン ゴル 語 と北 京 語 の バ イ リン ガ ル 日本 語 学 習 者 の 場 合 、 後 続 す る子 音 は 破 裂 音 の 揚 合 、 促 音 が 第 一 音 節 に あ っ て も 、 第 二 音 節 に あ っ て も 、促 音 の 知 覚 が と ほ とん ど変 わ
「
ら な い 。 しか し、 後 続 す る子 音 が 摩 擦 音 の 揚 合 は 、 促 音 の位 置 が 第 二 音 節 に な る と促 音 の 知 覚 が 劣 っ て し ま う傾 向 が 見 られ た 。 北 京 語 モ ノ リン ガ ル の 学 習 者 の 場 合 は 促 音 の位 置 が 第 一 音 節 に あ る 揚 合 は 促 音 の 位 置 が 第 二 音 節 に あ る揚 合 よ り、 早 い 段 階 で 促 音 が あ る と判 断 して い る。 しか も 、 促 音 が 第 二 音 節 に あ る場 合 、 促 音 が 第 一 音 節 に あ る場 合 と比 べ 、 遅 い 段 階 で促 音 が あ る と判 断 す る だ け で は な く 、 閉 鎖(ま た は 摩 擦 性 雑 音 の)持 続 時 間 が 長 く な る に も か か わ らず 、 促 音 が な い と判 断 した り、 第 一 音 節 に促 音 が あ る と判 断 す る傾 向 が 強 か っ た 。
② 促 音 の 知 覚 に お け る 指 導 に 関 して 言 及 す る。
拍 感 覚 を 持 た な い 日本 語 学 習 者 に お い て は 促 音 の 音 声 特 徴 を 視 覚 情 報 面 を 用 い て 、 学 習 者 の 母 語 で 丁 寧 に 説 明 す る こ と と反 復 練 習 と に よ っ て 、促 音 の 知 覚 方 略 を 意 識 的 に 変 え る
こ とが で き た 。 具 体 的 に 以 下 の よ うな 結 果 が 得 られ た 。
ま ず 、 モ ン ゴル 語 と北 京 語 の バ イ リン ガ ル に お い て は 後 続 子 音 が 破 裂 音 の 場 合 、母 語 に よ る説 明 お よ び 反 復 練 習 に よ り促 音 判 断 境 界 値 が 有 意 に 伸 び 、 日本 語 母 語 話 者 の 知 覚 に 近 づ く こ とが 可 能 だ っ た が 、 カ テ ゴ リー 的 知 覚 へ の 移 行 は そ れ ほ ど明 らか で は な か っ た 。
後 続 子 音 が 摩 擦 音 の 場 合 は そ の 効 果 は促 音 判 断 境 界 値 の 変 化 に は 現 れ に くい が 、 カ テ ゴ リー 的 知 覚 へ の 移 行 に は 有 利 に働 く こ とが 分 か っ た。 さ ら に 、 知 覚 判 断 に お け る 「一 貫 性 」 に つ い て 全 体 の 数 に お い て そ れ ほ ど変 化 は な か っ た が 、 そ の 「一 貫 性 」 が 判 断 境 界 の 付 近 へ 移 行 され た こ とが 判 明 し た 。
一 方、 北 京 語 の モ ノ リ ン ガ ル で は 、 後 続 子 音 が破 裂 音 の 揚 合 、 母 語 に よ る説 明 と反 復 練 習 に よ り促 音 判 断 境 界 値 が 有 意 に 伸 び 、 日本 語 母 語 話 者 の 知 覚 に 近 く つ く こ とが 可 能 で あ り、 カ テ ゴ リー 的 知 覚 へ の 移 行 に も確 実 な 効 果 が あ っ た 。 摩 擦 音 の 場 合 、促 音 判 断 境 界 値 が 有 意 に 長 く な っ た が 、 そ れ が 過 剰 修 正 と も 思 わ れ る ほ ど 日本 語 母 語 話 者 の 知 覚 よ りも長 か っ た。 と こ ろ が 、 知 覚 範 疇 は 縮 め られ た 。 知 覚 判 断 に お け る 「一 貫 性 」 に つ い て は 全 体 の数 値 が 大 き く減 少 した だ け で は な く、 個 人 にお け る 「一 貫 性 」 も 変 化 し、 判 断 境 界 値 の 付 近 に は 「逆 転 」 の 数 が 多 く な り、 逆 に遠 くな る 場 合 は 「逆 転 」 の 数 は 明 らか に 減 少 した
こ とが 分 か っ た 。
③ 促音 の産 出について考察す る。
促音 の産出におけ る研究に関 しては、まず学習者 が産出す る音声 と日本語母語話者が産 出す る音声 を比較 し、物理的に どう異なるかを検証 した。 また、それが 日本語能力 レベル の向上に伴い どのよ うに変異 してい くかを観察 した。 さらに、学習者 の音声を 日本語母語 話者 がい かに評 価 す るか 、 とい う観 点 か ら、学習者 の発 音 上 にお け る問題 を探 った。
まず、促音 の産出の物理 的な特徴 に関 しては促音 に先行す る母音長 は学習者 の母語 を問 わず、 日本語能力の レベル の向上によ り目本語母語話者 の産出す る特徴 に近づ けるこ とが 可能だった。 閉鎖または摩擦雑性 の持続 時間長 はモンゴル語 と北京語 のバイ リンガルの学
習 者 の揚 合 、 初 級 レベ ル か ら 日本 語 母 語 話 者 の産 出 の 特 徴 と類 似 して い る こ とが 分 か っ た 。 しか し、 北 京 語 の モ ノ リン ガ ル の 学 習 者 は 上 級 レベ ル に な っ て か ら よ うや く 日本 語 母 語 話 者 の 特 徴 に近 づ け る傾 向 が 見 られ た。
次 に 、 日本 語 母 語 話 者 の 評 価 に よ る促 音(非 促 音)産 出 の特 徴 とそ の 問題 点 を探 る。
モ ン ゴル 語 と北 京 語 の バ イ リン ガル 学 習 者 揚 合 に は 、 単 語 レベ ル に お け る産 出 の 特 徴 は 日本 語 能 力 レベ ル を 問 わ ず 、 非 促 音 語 の 誤 りは促 音 語 の誤 り よ り多 くな る傾 向 が あ っ た。
そ の 上 、 日本 語 能 力 の レベ ル の 向 上 に よ り減 少 す る傾 向 を 見 せ た 。 短 文 レベ ル にお け る産 出 の 特 徴 も非 促 音 語 の 誤 りは 促 音 語 の 誤 り よ り多 く な る傾 向 を 示 し た。 しか し、 必 ず し も
日本 語 能 力 の レベ ル の 向 上 に よ り減 少 す る わ け で は な か っ た 。 ま た 、 評 価 上 に 問 題 が あ っ た 音 声 の特 徴 は 、発 話 ス タ イ ル に 関 係 な く、促 音 ま た は非 促 音 の 持 続 時 間 を うま く コ ン ト ロー ル で き な い 「促 音 の 脱 落 」、 「促 音 の 挿 入 」 お よび 「曖 昧 な 発 音 」 な ど の 問 題 が 最 も 多 く現 れ た 。 ま た 、 単 音 レベ ル に お い て 促 音 に 後 続 す る音 節 に お け る読 み 間 違 い は 母 音 を長 く発 音 す る 問 題 だ け に と ど ま るが 、 短 文 レベ ル お い て は 後 続 す る音 節 の 読 み 間 違 い は 、 母 音 を長 く発 音 す る だ け で は な く、 母 音 を 短 くす る 問 題 、 子 音 ま た は母 音 の 間 違 え る な ど の
多 くの 問 題 が 生 じた。
北 京 語 の モ ノ リン ガ ル に お け る産 出 の 問 題 は 発 話 ス タ イ ル に 関 係 な く、 日本 語 能 力 の レ ベ ル の 向 上 に よ り誤 りが 減 少 して い く傾 向 を 見 せ た 。 特 に促 音 語 にお け る 減 少 が 顕 著 で あ っ た 。 ま た 、 評 価 上 問 題 が あ っ た 音 声 の特 徴 の観 点 か らみ る と発 話 ス タイ ル に 関係 な く、
促 音 ま た は非 促 音 の持 続 時 間 を うま く コ ン トロー ル で き な い 問 題 は 最 も多 く見 られ 、 持 続 時 間 の長 短 の コ ン トロー ル が 学 習 者 に とっ て 困難 で 、 特 に 非 促 音 に お け る 持 続 時 間 の 問題
は最 も難 しい こ とが 観 察 され た。
④ 促 音 の 知 覚 と促 音 の 産 出 の 関係 に つ い て 分 析 す る。
日本 語 学 習 者 に お け る 促 音 の 知 覚 と促 音 の産 出 の 関係 に つ い て 、 モ ン ゴ ル 語 と北 京 語 の バ イ リン ガ ル と北 京 語 の モ ノ リ ン ガ ル を 対 象 と し、 日本 語 能 力 の レベ ル の 増 加 に よ り どの よ うに 変 化 を促 音 の 知 覚 と産 出 実 験 が 同 一 被 験 者 に よ る音 響 的 実 験 デ ー タ を用 い て 分 析 を 行 っ た 。
ま ず 、 モ ン ゴル 語 と北 京 語 の バ イ リ ン ガ ル に お け る促 音 の 習 得 に 関 して 母 語(モ ン ゴル 語)が 始 め に は プ ラ ス の影 響 を 与 え る。 しか し、 習 得 が 進 む に つ れ て 、 そ の 影 響 は 促 音 の 習 得 に マ イ ナ ス の影 響 を 与 え て しま い 、 中 級 日本 語 能 力 の レベ ル の段 階 で は 、 一 時 的 停 滞 化 現 象 が 起 こ る 。 上 級 日本 語 能 力 の レベ ル に か け て 、停 滞 化 現 象 が 解 除 され 、 知 覚 と産 出 は よ り母 語 話 者 に 近 づ い て い る。 ま た 、 促 音 の 知 覚 に お け る 困 難 点 は 、 まず 後 続 子 音 が 破 裂 音 の 場 合 、 日本 語 能 カ レベ ル に 関 係 な く、 非 促 音 の誤 りは促 音 の 誤 り よ り多 か っ た 。 一 方 、 後 続 子 音 が 摩 擦 雑 音 の 揚 合 、 後 続 子 音 が 破 裂 音 の場 合 の 結 果 と異 な り、 促 音 の 誤 りは 非促 音 の 誤 りよ り多 か っ た 。
次 に 、 北 京 語 の モ ノ リン ガ ル の 場 合 、 中 国 北 方 方 言 に は 日本 語 の 促 音 に 似 た 音 、 っ ま り
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音 韻 体 系 が な い た め 、 促 音 の 習 得 が 難 しい 。 特 に 、 初 級 時 期 は促 音 の 知 覚 に 関 して さ ま ざ ま な方 法 を 使 っ て 、 母 語 に 存 在 し な い 音 韻 を 弁 別 し よ う と して い る 。 学 習 期 間 の 増 加 に伴 っ て あ る 程 度 、知 覚 の 範 疇 化 が 起 こ るが 、 知 覚 判 断 に 曖 昧 な領 域 が 広 い 。
ま た 、 促 音 の 知 覚 の 困 難 点 は 破 裂 音 の 揚 合 、 非 促 音 の誤 りは 促 音 の 誤 りよ り多 く、 摩 擦 音 の 揚 合 、 促 音 の 誤 りは 非 促 音 の 誤 りよ り多 い 。 産 出 の 困 難 な 点 は 日本 語 の レベ ル の 向 上 に伴 い 、促 音 語 の 誤 りは減 少 す る が 、 非 促 音 語 の 誤 りは そ れ ほ ど減 少 しな い 。
さ らに 、 知 覚 能 力 と産 出 能 力 の 間 に 正 の 相 関 見 られ る。 しか し、 上 級 レベ ル に な る と、
知 覚 の範 躊 が 小 さ くな る傾 向 が 見 られ 、促 音 の 判 断 の 誤 り率 が 減 少 す る が 、 産 出 能 力 は そ れ ほ ど進 ま ず 、 化 石 化 され て しま う可 能 性 が 高 く な る こ とが 分 か っ た。
ま とめ る と 、 本 研 究 で は 学 習 者 の 母 語 が 異 な る こ と に よ っ て 、 促 音 習 得 の プ ロセ ス が 異 な る こ と を 明 らか に した 。 ま た 、 促 音 の 知 覚 、 そ して 学 習 者 が 産 出 す る音 声 へ の評 価 に促 音 を 発 音 す る 際 の 母 音 の 突 然 停 止 の 度 合 い が 影 響 を 与 え る 可 能 性 が あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 こ の 知 見 が 、今 後 、 日本 語 促 音 の 指 導 に お い て 新 し い 指 導 方 法 を 提 示 す る 一 助 と な れ ば 幸 い で あ る 。