修士 学位論文
題名 竜帝トつ㌧円一・いチ/ン札一正イい枇
限ゲ釜榊9一角イオパ蓄桶
/、
指導教授 麻和看禾 准教授
平成万年!月7日 提出
首都大学東京大学院
理工学研究科ψ的宵仙洋専攻
学修番号 氏 名
09湖Oヲ!夕
雇円使
学位論文要旨(修士(理学))
論文著者名 座間 優
論文題名:静電リングを用いたメチレンブルー王イオンの分光及び 金クラスター負イオンの蓄積
【はじめに】
孤立した分子(周囲からの影響を受けない分子)を調べることは,分子固有の幾 何構造や電子配置,反応性,内部温度などの知見を得るうえで非常に重要であ
るが,実験的に測定が困難な場合がある.内部温度測定については,低温分子 や小さい分子を対象とする場合と比べて,高温分子や巨大分子を扱うことは非 常に難しい.そこで,イオントラップや蓄積リングを利用して内部温度を求め る手法がいくつか提案されており,最近では静電型イオン蓄積リングを利用し て多光子吸収による遅延反応を解析することにより,内部温度の情報を得る手
法も報告されている[1].
本研究では多光子吸収を利用して,メチレンブルー王イオン(C16N3H18S,MB+)
の内部温度を測定し,イオン化法の違いによる内部温度の比較を行った.また,
金クラスタ」負イオン(Au )では,二量体(n=2)と七量体(n=7)を静電リングヘ蓄 積し,中性粒子収量の時間スペクトルを得た.これより高温Au、一の遅延解離,
電子脱離反応について検討した.
【実験】
MB+生成には,レーザー脱着型イオン源(LDI)及び,マトリックス支援レーザ ー脱着型イオン源(MALDI)を用いた.MALDIではマトリックス分子として,2,5一 ジヒドロキシ安息香酸を用いた.どちらのイオン源とも,窒素パルスレーザー
(SpectraPhysics,337−SiLaser,337nm)を試料に照射した.Au は,金コロイド溶液
中に析出した金微粒子凝集物をLDI試料とし,Nd: Gレーザー卿ew Wave Research,M1N1LASE2)の4倍波(266m)を照射して得た.
これらのイオン源で生成した分子イオンを15keVに加速し,リングヘ入射し た.このとき,イオン源で生成した不純物イオンも同時にリングを周回するの で,リング内の上下偏向電極の一つに,標的イオンの周回に同期したパルス電 圧を印加して,質量選別を行った.この 精製 された分子イオンは,自動電 子脱離,解離あるいは残留ガス衝突のいずれかにより中性粒子を生成する.周 回中の分子イオンから生成した中性粒子を,リング直線部下流に設置した検出
器で検出し,蓄積時間の関数として測定した.
また,OPO(SpectraPhysics,MOPO−SL)レーザーを用いて,480㎜一680mの 領域でMB+とレーザー合流実験を行った.MB+が吸収したエネルギーが振動エ ネルギーに分配され,遅延過程を経て生成する中性粒子を選択的に観測するた め,レーザー合流部とは反対側の直線部の検出器を用い,中性粒子収量を蓄積 時間,励起波長,励起光強度の関数として測定した.
【結果・考察】
[メチレンブルー王イオンコLDI及びMALDIで生成したMB+のレーザー合流 実験から,励起スペクトル及び中性粒子収量の励起光強度依存性を測定した.
実験より得られた励起スペクトルと,水溶液中での吸収スペクトルを比較する と,吸収帯の波長領域がほぼ同じであることから,どちらのイオン源において も,イオン化時点での構造異性化の寄与は少ないと考えられる.また,水溶液 中では極大吸収波長が約40㎜レッドシフトしていることが分かった.しかし,
現在の∫/Nが悪いため,イオン源の違いによるスペクトルの有意な差は観測さ れなかった.
中性粒子収量の励起光強度依存性から,解離に必要な光子数を求めることが できる[2].蓄積時間17msにおいて620㎜のレーザー照射を行ったところ,解 離に必要な平均光子数はLDIの場合は1光子で,MALDIの場合は1.4光子であ ることが分かった.このとき,内部エネルギーの差を計算すると0.8eVとなり,
LDI法と比べてMALDI法で生成したMB+の方が低い内部エネルギーを持つとい
える.
[金クラスター負イオン] 金微粒子凝集物LDIで生成したAu (n=2,7)のリ ング蓄積実験から,中性粒子収量の時間スペクトルを得た.n=2,7いずれの時 間スペクトルにおいても,中性粒子収量の速い減衰(短寿命)成分と,遅い減衰(長 寿命)成分があった.このうち長寿命成分は,残留ガスとの衝突によるものであ
る.n=2の場合,中性粒子収量の減衰は1/プ曲線[3]でほぼ近似することができ,
すでに報告されているAg2一やCu2一の場合[4]と同じような傾向であった.このこ とから,短寿命成分は解離による信号であると考えられる.しかし,1/才近似か らのわずかなずれは有意であり,これを検討することが今後の課題である.n=7 の場合,生成するイオン量が少ないため中性粒子収量の∫/wが悪いものの,蓄 積後1msまでの減衰はn=2の場合と同様に1/τ曲線で近似可能であった.こ のことは,分子イオンが生成時に幅広い内部エネルギー分布を持ち,従って幅 広い速度定数分布を持つ遅延過程で中性粒子を生成していることを示している
[3].
[1]M.Gotoヲ首都本学東京博士論文,(2010).
[2]M.Goto eオ〃,Chem.Phys.Lett.460,46(2008).
[3]K.Hansen eCα及,Phys.Rev Lett.87.123401(2001).
修 士 学位 論 文
静電リングを用いたメチレンブルー正イオンの分光 及び金クラスター負イオンの蓄積
首都大学東京大学院 理工学研究科 座間 仮
分子物質化学専攻
2011
目次
1 序論
1./ はじめに.........
I.2 静電型イオン蓄積リング......................
1.3 TMUE−ring.、..
1.3.1 TMUE−ring概要..................
1.3.2 イオン入射系.....................
1.3.3 イオンビーム周回条件..........
1.3.4 中性粒子検出系...............
1.4 中性粒子生成.............
1.4.1 リング内での分子イオンの反応......,.........
且.4.2 高温分子イオンからの中性粒子生成とブ1減衰...
豆.4.3 レーザー合流.................
1.4.4 光吸収と即発/遅延過程........
1.5 質量選別..........、......
1.6 −MALDI...................
.4
...4
...8
.8
..9
..11
..12
..14
...14
..15
..17
.19
...20
...23
2 実験(標的イオン生成)
2.1 MB+生成法........
2.2 Au 生成法......
2.2.1 クエン酸保護金コロイド溶液...
2.2.2 金微粒子凝集物.....................
..24
、..25
..25
....28
3 結果及び考察
3.1 MB+............
3.1.1 質量スペクトル.......................
3.1.2 中性粒子収量の時間スペクトル...
3.1.3 励起光強度依存性.........
3.1.4 励起スペクトル.............
3.2 Au。一............
3.2.I 質量スペクトル.........
3.2,2 Au の蓄積結果..1......
3.2.2.1 Au,の蓄積結果............
3.2.2.2 Anナの蓄積結果.....
..30
..30
..31
...35
...37
...38
..38
..43
...43
...44
結論...
参考文献....
...45
...46
1 序論
1.1 はじめに
孤立した会子(周囲からの影響を受けない分子)を対象とした実験は,分子固有 の幾何構造や電子配置,反応性,内部温度などの知見を得るうえで非常に重要で あるが,技術的に測定が困難な場合がある.内部温度測定については,低温分子 や小さい分子の内部温度を測定することに比べて,高温分子や巨大分子の内部温 度を測定することは非常に難しい.そこで,イオンビームトラップや蓄積リング を利用して内部温度を求める手法がいくつか畢案されており[1],最近では静電型 イオン蓄積リングを利用して,多光子吸収による遅延反応を解析することにより,
内部温度の情報を得る手法も報告されている[2].
本研究では多光子吸収を利用して,メチレンブルー正イオン(C16N3H18S,MB+)
の内部温度を測定し,イオン化法の違いによる内部温度の比較を行った.また,
金クラスター負イオン(Au, )では,二量体(n=2)と七量体(n=7)を静電リングヘ蓄 積し,中性粒子収量の時間スペクトルを得た.これより高温Au、一の遅延解離,電 子脱離反応について検討した.
本論文では,以下1,2節に静電型イオン蓄積リングに関する現状を記す.1.3節 では,本学に設置された静電型イオン蓄積リング(TMU E−ring)を紹介し,1.4節に 中性粒子生成について記し,1.5節に質量選別について述べる.1.6節にMALDl について記述する.第2章では実験について,3章1節ではMB+のリング蓄積及 び分光結果を示し,3章2節ではAu、一のリング蓄積結果を記し,4章で結論を述べ る.また,5章で参考文献を示す.
1.2 静電型イオン蓄積リング
一般に静電型イオン蓄積リングは,イオンビームの周回軌道を電場のみで制御 し,リング内部にあらゆる質量の分子イオンを蓄積できるイオントラップの役割 をもつ.イオントラップとは異なり,リング直線部下流にて中性粒子を観測する ことにより,イオンビームを蓄積したままで,解離や電子脱離などの遅延反応(mS
_SeC程度の時間領域)を観測できることが利点である.従って,蓄積分子イオン の輻射冷却や,準安定励起状態の寿命などを測定することに適しているといえる.
現在(2010.1)の時点で稼動している静電型イオン蓄積リングはELlSA,ESRlNG,
TMU E−ring,Mini−Ringである.以下に各リングの現状について述べる.
◇瓦LISA
Aarhus大のELISA[31では1997年の建設以来,様々な研究が行われている.分 光実験では,例えば緑色蛍光タンパク質負イオンが真空中において479nmに極大 吸収をもつこと[41,2種類の黄色タンパク質負イオン(deprotonated
trans−thiopheny1−p−coumarate(pCTっ,deprotonated trans−p−coumaricacid(pCん))は,430
nm(PCT)と460nm(PCん〉に極大吸収をもつことがわかり[5],水溶液申の吸収ス ペクトルと比較すると,いずれのピークも水溶液中でブル』シフトしていること を報告している.またTomitaらはC60 の室温下における吸収スペクトルを測定し,
ヤーンテラー効果によるピークの分裂を観測した[6].これらの研究は,対象イオ ンの質量によらずリングに蓄積できる利点を生かして,巨大分子イオンを標的に
した例である.寿命測定としては,高温のアルミクラスター負イオン五量体(A1。つ をリングに蓄積し,自動電子脱離による中性粒子を観測した実験が代表例のひと つである.この実験からA1。 が幅広い内部エネルギー分布を持って生成し,幅広 い速度定数分布を持つ遅延過程で中性粒子が生成していることを示す1/才減衰則 が成り立つことが示された[7].またAdenosine5 一Monophosphate(AMP)正イオン 及び負イオンのレーザ』励起(266nm)後の中性粒子収量の減衰を観測した実験で
は,どちらのイオンでも減衰寿命16μsを持ち,正イオンにおいては146μsの 減衰成分も観測された.減衰寿命16μsの成分は光吸収による振動再分配後の遅 延解離反応によるもので,正イオンでは,一重項からスピン禁制の電子基底三重 項への項間交差が146μsの寿命を与えていると報告している[8].
ごく最近では,蓄積分子イオンの解離で生成する,娘イオンの検出手法が報告 されている[9].Stochke1らは,解離イオンの周回速度が変わらないことを利用し,
娘イオンの周回条件に合わせてリング全体の電圧を変化させる手法を開発した.
この手法を用いれば,分子イオンの解離チャンネル分岐比を求めることができる.
この論文では,娘イオンの質量スペクトルを測定し,Ru(bipy)3+(bipy=
2,2ラーbipyridine)からbipyが解離してRu(bipy)2+を生成するチャンネルが支配的で あることを報告している.
◇ES㎜NG
筑波の高エネルギー加速器研究機構(KEK)のES㎜NG[1O]は2001年に建設され て以来,主に生体分子正イオンと電子の合流衝突実験が行われている.例えば,
ペプチド王イオン(プロトン付加アンジオテンシンI一皿)と電子の再結合反応では,
重心系の電子のエネルギーが6.5eV付近にピークが観測された.単体アミノ酸イ オンと電子の衝突実験では,これらのピークは観測されなかったことから,ピー クを与える要因としてペプチド結合が寄与していることが示唆された[11].また,
DNAオリゴヌクレオチド負イオンクラスター(2〜14量体)と電子の衝突実験では,
中性粒子収量の衝突エネルギー依存性が測定されている.この中性粒子検出は負 イオンからの電子脱離というより,むしろDNAの解離による信号と考えられて おり,その解離のしきい値はDNA鎖長には依存せず,電荷状態のみに依存する ことが実験から分かった.たとえば,実験から求められた解離のしきい値は,一 価の2,3量体DNAで10eV程度であり,二価の4−6量体DNAでは20eV程度で
あった.理論計算から,DNAのプラズモンエネルギ』が求められており(3,6,8,12 量体),DNA鎮長依存性がややあるものの,lO eV程度であった.このことから,
DNA解離にはプラズモン励起が寄与しており,解離のしきい値は,プラズモン三 ネルギーと電荷の積で見積もることができると結論づけている[12].最近では,
オリゴペプチド正イオン(グリシン六量体(G1y6),アラニン六量体(A1a6),
Angiotensin1V,bradykinipotentiatorC,Tu丘sinのプロトン及びアルカリ金属イオン
(Li+,Na+,K+)付加体)と電子の再結合反応が行なわれている[13].解離によって生 成する中性粒子の収量は,電子エネルギーの増加に伴い増大する傾向であり,す べてのプロトン付加体といくつかのアルカリ正イオン付加体においては,5−10eV 付近に電子捕獲解離によるピークが観測された.これらのピークは,K+よりもLi+,
Na+付加体が高強度となる傾向があった.これは,K+に比べてH+,Li+,Na+の方 が非共有π電子との結びつきが強いことを反映していると述べている.
◇TMU正一rimg
本学の静電リング(TMU E−ring)[14]は2003年に建設され,3種類のイオン源を 用いて,様々な原子・分子イオンを対象に研究が行われており,デュオプラズマ
トロンイオン源を用いた実験では,希ガス王イオンの寿命測定,酸素分子tイオ ンの分光など,Csスパッタイオン源を用いた実験では炭素クラスター負イオンの 寿命測定などが行われてきた.レーザー脱着型イオン源では,主に巨大分子イオ ンとレーザーの合流実験が行われてきた、亜鉛フタロシアニン負イすン(ZcPσ)の 分光では,蓄積時間(24.7ms,74.7ms,174.7ms)に依存した吸収スペクトルの構 造変化が観測された.輻射冷却の効果により,蓄積時間が長い(174.7ms)ほど,溶 液中の吸収スペクトルに構造が近づいていることを報告している.また,中性粒 子収量のレーザー強度依存性の解析から,高温ZcPc一の冷却速度が求められている
[15].最近では,高温フラーレン負イオンのレーザー誘起反応で生成する中性粒 子観測から,高温フラーレンの冷却速度を求めている.Smdenらは,レーザー励 起した高温フラーレンのエネルギー総損失は0.9eV/8であることを求め,さらに 照射後5ms付近ではdep1etioncoo1ingが支配的であるが,20ms付近では輻射冷却 が支配的であることを報告している[16].またGotoらは多光子吸収を利用して,
ZcPσの内部温度測定を行い,LDI型イオンでZcPc一を生成したときの内部温度は,
およそ1000Kであると報告している[2,17].現在,エレクトロスプレーイオン源
を利用したイオン蓄積実験も進行中であり,内部温度が制御された分子イオンの 分光,衝突実験への展開が期待される.
◇㎜㎜i−Ri㎎
Lyon大のMini−Ringは2008年に建設された.その特徴は,テーブルドップサイ ズ(80mmx300mm)という従来に比べて小型なリングを採用したことである.小 型化する利点としては,準安定状態の寿命測定において,従来の静電リングより
も早い減衰を観測することができることにある.建設コストや実.験スペースの削 減に繋がることも大きな利点である.BemardらはMini−Ringの真空度が1び5Pa
という条件で,4keVに加速したAr+とHe+を蓄積し,ガスとの衝突寿命2.0ms(Ar+)
と1.7ms(He+)を報告している[18].
また,今後建設予定の静電リングは以下の通りである.Stockho㎞の
DESI肥E[19]では,2つのリングを組み合わせて正イオンー負イオン合流実験を目 指している.HeidelbergのCSR[20]では,液体ヘリウムでリングを冷却(2K,10−13 Pa)し,極低温分子イオンと電子の合流実験を計画中である.Frank血れのFIRE[21]
は局長30.68mでイオン源にECRを用い,入射エネルギーが50keVまで蓄積可 能なリングを計画している.日本においては,理化学研究所に液体He冷却可能 な静電リング,首都大学東京にテーブルドップサイズのμ一ringが建設中である.
このように,世界中でユニークな実験計画があり,静電リング用いた研究のさら なる発展が期待される.
1.3 TMU正一rimg
本学設置の静電型イオン蓄積リング(TMU E−ri㎎)の概略図をFig.1−1に示す.本 節では1項でTMU E−ringの概要を述べ,2項でイオン入射系を示し,3項でイオ
ンビーム周回条件を記す.また4項で中性粒子検出系について示す.
Laserablation∫desorption iOn SCurCe
LineA
Faradaycup=aradaycup Viewθr RF Unlt QF QD DEF−10 VST lon beam 電
,
・ ■■■■ 一 一 工
MCP ^ 川島
EF−160 Cs−spu皿er iOn SOurCθ
目 Merging ・一 量… 0 0 − 1
…、.一一
■ 一 Nθutrals
1〕eam リLN。 Scraper †LN。 MCP
1i n^ D
OPO lεsθr Llne B
1m
Nd=YAGlaser
Fig.1−1静電型イオン蓄積リング(TMUE−ring)の概略図.
1.3.1 TMUF−ri㎎概要
TMUE−ringはリング本体,イオン源とイオン輸送部からなる入射系,周回イオ ンやレーザー合流反応によって生成した中性粒子を観測する検出系から構成され る.イオン入射系については以下1章3.3節で述べ,中性粒子検出系は1章3.4 節で述べる.
リング本体は局長7,736mのレーストラック型で,リンク内に設置されている2 つの円筒型電極(DEF−160)と4つの平行平板電極(DEF−lO)でイオンビームをそれぞ れ160。とlO。偏向し,4組の4極電極(それぞれは2組の収束・発散電極QF,
QDからなる)によってビームを収束・発散させた、DEF−loとDEF−160間に設置 されている上下偏向電極(VST)は,イオン入射側から3つ(VST1−3)をビーム軌道の 調整に用い,VST4を質量選別に用いた(質量選別の詳細については1章9節にて 述べる).また,合流実験用にNd:YAGレーザー(spectra Physics,Quanta−Ray
Pro−230−lO)と0PO(Spectra Physics,Optical Parametric Oscillator MOP0−SL,450_690,
730_1700nm)がリング外部に設置されており,イオン入射の対角位置の窓から照 射できる.レーザー合流の詳細は2章2節で述べる.
リング直線部にある4つの誘導電荷検出型ビーム位置モニター(BPM)でビーム 周回ごとの位置を確認し,これを基に軌道の微調整を行った.リング直線部で生 成した中性粒子を,各々のリング直線部下流に設置された検出器(MCP)で観測し
た.
TMUE−ring内部の真空度は10 Pa台に保たれており,入射する安定分子イオン を減衰寿命(τ:刷=〃e)〜10s程度でリング内に蓄積することができる.さらに 本装置の電極周辺には2系統の液体窒素(LN2)配管が張り巡らされおり[14],各電 極を約80Kまで冷却することができる.LN2冷却にはリング内壁からの黒体輻射 を抑える効果があり,Takaoらは,炭素負イオン準安定状態寿命の環境温度依存
性を報告している[22].
且.3.2 イオン入射系
イオン入射系概略図をFig.1−2に示す、入射系には3台のイオン源が設置可能 になっており,それらの切り替えを行う静電型4極セレクター(EQS)が設置されて いる.リング直線部延長線上には,Csスパッタイオン源が設置されており,各種 負イオンの生成に用いる.本実験では,EQS下方に設置されているレニザー脱着 型イオン源(LDI)を用いた.試料は溶媒に分散させ,サンプルボノレターに塗布・乾 燥後イオン源に導入しレーザー照射を行う.本測定に用いた試料調整法は2章1 節で紹介する.レーザー照射窓の手前には,光学レンズが設置してあり,レンズ
を移動させてスポットサイズを調整できる.また,レーザー照射により試料が枯 渇しないように,サンプルホルダーは回転式となっており,6時間以上安定にイ オン供給できる.
LDI型イオン源で生成した各種イオンは,レーザー照射後10_20μs遅延させ てパルス電圧(±0.92kV,10μs)で引き出し,イオン源チャンバーに印加されてい る高電圧(Hv:±14.25kv)によって入射エネルギーを15kevとした.EQs(7.9−8.5 kV)で90。方向転換し,イオンレンズ部,4φのアパーチャーを通過してリングに 入射する.入射直前のイオンレンズ部では,アインツェルレンズ(3.5−4.5kV)でビ ームを収束させ,I組の上下左右偏向電極(〜±100V)でリングヘの入射角を微調整
できる.
イオン入射系ではターボ分子ポンプで作動排気を行っており,LDI型イオン源 で1015−10年a,EQs部で1o勺a,イオンレンズ部で1018pa台の真空に到達し,
リング本体では10 Paで実験を行えるようになっている.
EQS
Cs sputter ion source
へ
』
□ ■8し。 ノ o■■■一
口Ring 6幽間■ 100■006■0
Wコ劇0 C■10pPer 貝ユ皿Z隻
10n1enS fi1ter 1enS
11
Acceleratio■1
N飢;YAζ≡…■aser(266■wn) LDl N21as列337nm) IOm M^1.Dl
= HV
Fig.1−2 イオン入射系概略図.リング直線部延長線上にCsスパッタ源,EQS下 方にLD1型イオン源が設置されている.
1.3.3 イオンビーム周回条件
TMUE−ringでは,イオンビームを安定に周回させるためにQD,QFの電圧が満 たすべき 安定領域 が計算から求められている(Fig.1−3[23]).これによると,
ビームの安定条件が4つの領域に存在していることが分かる.それぞれの領域に おいて,軌道計算プログラムからビーム収束位置が求められている.その計算結 果をFig.1−4に示す[23].横軸はリング直線部中央からの距離(DEF−160の中央で2 m),縦軸はビーム径,実線は水平方向のビーム径,点線は垂直方向のビーム径を 表している.図中の黒い長方形は電極を表し,左からQF,QD,DEF−1o,DEF−160,
DEF−1o,QD,QFとなっている.ビーム合流実験においては,リング直線部でビ ーム発散角が小さい方が好ましい.領域A〜Dを比較すると,領域C,Dではリ ング直線部でビーム径が極小となり,領域A,Bではビーム径が極大となってい ることが分かる.さらに領域AとBを比較すると,リング直線部において水平方 向のビーム径はほぼ同じであるが,垂直方向のビーム径は領域Aの方が広がって いることが分かる.これらの理由から,領域Aの電圧値を用いてビームを周回さ せることがビーム合流実験では有効であるといえる、そのため,本実験では領域 Aの範囲内における電圧を用いた.
Vg榊饅^P砂ω畑怖。◎岨d認PoI 耐誠9§!8日0808m
600u巾岬…}…∴∴■
姜 ブ ;・
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〜。。。1 /デ 〆
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】、上.I _、}__、 、.…_」
200 300 4◎◎ 50◎ 60◎ 700
◎f V
Fig.1−3 ビーム周回の安定領域[23].分子イオンのエネルギーが20keVの場合に求 められたビームが周回する,垂直偏向電極Qdと水平偏向電極Qfの電圧値.A〜D 以外の領域ではビームが発散する.
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Fig.1−4 軌道計算プログラムによるビーム径シミュレーション結果[231.
1.3.4 中性粒子検出系
各々のリング直線部下流にはマイクロチャンネルプレート(MCP,有効径40 mm)と蛍光板が設置してあり,リング直線部で生成する中性粒子を検出できる.
中性粒子生成については,以下1章4節にて述べる.Fig.1−5に中性粒子検出系の 概略図を示す.リング直線部で生成した中性粒子は,DEF−1O電場の影響を受けず
に,ビーム周回軌道を逸れてMCP表面に到達する.MCP表面で生成した二次電 子がMCP内で増幅され,蛍光板に到達する.この信号をプリアンプで増幅し,
マルチチャンネルスケーラー(MCS)で計数している.これにより,中性粒子到達 の時間情報を得ることができる.また,蛍光板をCCDカメラでモニターすること で,ビームの位置情報を得ることができる(CCD画像の例をFig.1−6に示す).こ のCCDカメラで得られる中性粒子到達の位置情報と,BPMで得られるビーム周 回の位置情報をもとに,ビーム軌道の調整を行っている.
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Fig.1−5 中性粒子検出系の概略図.
Fig.1−6 中性粒子観測のCCDカメラ画像.
1.4 中性粒子生成
本節ではリング実験で検出可能な高速中性粒子生成について述べる.1項では リング内で分子イオンが起こす反応と中性粒子生成について述べ,2項では高温 分子イオンからの中性粒子放出と内部エネルギーについて示し,3項ではレ∵ザ ー合流について記す.また4項では光吸収と即発/遅延過程による中性粒子生成 について記す.
1.4.1 リング内での分子イオンの反応
本項では分子イオンが中性粒子を放出する過程を述べる.リング内を周回して いる負イオンから中性粒子が生成する過程は,電子脱離,解離,残留ガスとの衝 突の3種類ある.基底状態の負イオン(ABっ及び励起状態の負イオン((ABっ*)がリ ング内で起こす反応を以下(1)一(6)に示す.
(AB )*→
→ →
AB一十H2→
AB 十H2→
AB 十hv →
AB+e−
A+B−
AB 十hv AB+H2+e−
A+B 十H2
(AB )*→(1)(2)(3)
(1)自動電子脱離
(2)自動分子解離
(3)輻射冷却
(4)残留ガスとの衝突による電子脱離
(5)残留ガスとの衝突による分子解離
(6)光吸収
過程(1)一(3)は高温分子イオンが起こす反応を示している.(1)自動電子脱離では,
負イオンから電子が取れることにより,中性分子(AB)を生成する.(2)分子解離で は,解離により負イオンと中性粒辛を生成する.(3)輻射冷却では,光放出によっ てエネルギーを失活し,基底状態へと緩和するために中性粒子を生成しない.(4)
と(5)に残留ガス(主に水素分子)との衝突で,負イオンからの電子脱離及び分子解 離により,中性分子を生成する過程を示した.(6)は負イオンが光吸収し,励起状 態になる反応を示した.この励起状態の負イオンは,過程(1)一(3)を起こす.次に,
基底状態の正イオン(AB+)及び励起状態の正イオン((AB+)*)がリング内で起こす 反応を以下(7)イ11)に示す.
(AB+)*→
→
AB++H2→
AB++H2→
AB++hv →
A+B+
AB++hv A・B+・H2 AB・H2+
(AB )*→(6)(7)(8)
(7)自動分子解離
(8)輻射冷却
く9)残留ガスとの衝突による分子解離
(10)残留ガスによる電子捕獲
(11)光吸収
正イオンの場合,電子脱離は起こさないが,残留ガスとの衝突により,電子捕獲 し中性分子(AB)を生成する過程(10)がある.電子脱離反応と電子捕獲反応以外は,
負イオンの場合と同じ反応である.過程(3)と(7)の輻射冷却は,自動電子脱離,分 子解離と競合し,・中性粒子の生成を抑制する過程である.
1.4.2 高温分子イオンからの中性粒子生成とC1減衰
前項で述べたように,励起状態の分子イオンは中性粒子を生成する.本項では,
内部エネルギー分布と中性粒子生成について,内部エネルギー分布図を用いて説 明する.イオン源で生成する高温分子イオンの内部エネルギー分布g(E)の模式図 をFig.1−7に示す.破線は電子脱離/解離のしきい値を示し,これより高いエネ ルギー(赤色の領域)を持つ分子イオンは自発的に中性粒子を放出する.Fig.1−8は,
Fig.1−7の高温部分を拡大した図で,イオン生成の瞬間は,内部エネルギー分布は 一様であると考えられている.イオン生成後,時間経過とともに,より高温成分 からイオンが失われ,結果として平均の内部エネルギーが低下することを dep1etioncoo1ingと呼ぶ.高温分子の集団からdep1etionにより失われる成分の収量 は,∫(オ)=∫班ん(功g(均exp(一た(五)C)で与えられ,イオン生成時の内部エネルギー分 布が非常に狭い(g(η㏄δ(万一五〇))とき,dep1etionによる収量刷は,そのエネル ギーに依存した特定の速度定数(ん。)を持った単一の指数関数(∫(チ):exp(一ん。C))で表す
ことができる.図の斜線の部分は,一様にエネルギ∵分布を持っイオン集団から,
ごく微小な時間〆にdep1etionにより失われる成分を表しており,これは単一の指 数関数に比例せず,時間の逆数に比例する(刷・・ブ1)ことが簡単な計算から示さ れている[7].Fig1−9に示すように,HansenらはCsスパッタ源で生成したAg を 静電リング(ELISA)に蓄積し,高温のAg5 から生成する中性粒子観測した結果,そ の収量がブ1曲線で近似できることを報告している.
リングを用いた実験では,赤い領域で示したように,しきい値を越えた分子イ オンから生成する中性粒子を選択的に検出している.従って,しきい値よりも内 部エネルギーが小さい分子イオンは自発的に中性粒子を生成せず,残留ガスとの 衝突でのみ中性粒子を放出する.残留ガスとの衝突頻度はリング圧力に比例する ので,この中性粒子成分から,周回イオン量を見積もることができる.
⊆
◎
石コ
。◎
一=
一ω
.◎
initemal energy(eV)
Fig.1−7分子の内部エネルギー分布の模式図.イオン生成直後の幅広い エネルギー分布を示した.
軌日 ←イオン生成直
後の分布
9(ξ)θxp(一火くε)φ ,
Fig.1−8
Energy ε㎜(φ
Fig.1−7の高温部分の拡大図[7].
10000
Ag。
望
【 コ0
0
1000 一1……・…
・1.1 一一一
100
10
OI1 1 10 ηm8 m到
Fig.1−9Ag5一を蓄積したときに得られる中性粒子収量の時間スペクトル[71.
1.4.3 レーザー合流
自動電子脱離/分子解離のしきい値よりも内部エネルギーの低い分子イオン集 団については,レーザー照射による再加熱で内部エネルギーを調べる手法がある.
1.3節に記したように,リング直線部(LineB)では,レーザー合流を行うことがで る.例えば,周回中のMB+に,蓄積時間17msにおいてレーザー照射(620nm)し たときに得られる,典型的な中性粒子収量の時間スペクトル(片対数プロット)を Fig.2−1Oに示す.蓄積直後からlO ms程度の領域で検出された信号は,前項で述 べたように,イオン源で生成した高温MB+のdep1etionに由来しており,時間と共 にその収量が減少していることが分かる.これは高温成分が失われて,しきい値 を越えるイオン集団が減少していることを示す.また,レーザー照射により,中 性粒子収量が増大していることが分かる.この成分について,エネルギー分布図 を用いて説明する.Fig.1−11に,イオン生成から一定時間経過後のレーザー照射 時点での内部エネルギー分布を示した.ここでは,イオン集団の内部エネルギー はしきい値を超えでないとした.レーザー照射によって吸収するエネルギーを青 矢印(ひとつの矢印が1光子)で示し,1光子あるいは多光子吸収により内部エネル ギーがしきい値を越えると,そのときの内部エネルギーを反映したdep1etionによ
り,高温成分が失われていく.この中性粒子生成について調べることで,レーザ ー照射前の内部エネルギーを反映した情報を得ることができる.
104
2103…
3102◎
£ ち
⑭⊆101
0 5 10 15 StOragetime(mS)
20
Fな1−lO蓄積時間17msにおいてレーザー照射したときに得られる典型的な中性粒 子収量の時間スペクトル.赤色の領域は,内部エネルギーがしきい値を越えて生成 する分子イオンからの中性粒子検出信号.緑の領域は,光吸収による中性粒子生成 の検出信号.
⊂
◎
、=
⊃
.◎
=
一ω で
initema1energy(eV)
Fig.1−l1イオン生成から一定時間経過したときの内部エネルギー分布.レーザー 照射なしで中性粒子を放出する領域を赤色,光吸収(1光子。r2光子)で中性粒子を
1.4.4 光吸収と即発/遅延過程
本項では分子の光吸収と緩和過程,及びそれに伴う中性粒子生成をJab1onski Diagram(Fig.1−12)を用いて解説する.分子に電子遷移のエネルギー差に相当する 波長の光を照射すると,光吸収を起こし励起状態へと遷移する.励起した分子が 基底状態へと緩和する過程は蛍光,りん光,無輻射遷移であり,以下に詳細を述 べる.図にあるように,蛍光は,一重項同士の光放出(S1→So)であり,緑線で示
した.りん光は,項間交差(ISC)により,電子状態が三重項状態(Tl)となった後の 光放出で,赤線で示した.無輻射遷移は吸収したエネルギーを内部転換(lC)によ って振動エネルギーに再分配し,振動緩和によって脱励起する過程であり,黒の 破線で示した.これらの過程によって脱励起する分子イオンは,自発的に中性粒 子を生成しない.一方,中性粒子を生成する電子脱離/解離には,即発過程と遅 延過程の二種類が存在する.即発過程とは,光吸収で得たエネルギーにより瞬時
(〜ps)に中性粒子を放出する反応であり,黒の実線で示した。遅延過程とは,吸収 したエネルギーが内部転換によって振動エネルギーに再分配され,このとき分子 が蓄える総エネルギーが電子脱離/解離のしきい値を越えている場合に,内部エ ネルギーに応じた速度定数をもって電子脱離/解離する過程である.また,分子 イオンの吸収帯では効率よく光吸収が起こるので,波長に対して中性粒子収量を プロットすることで,吸収スペクトルに対応する励起スペクトルが得られる.
T 1
1SC
〈……・・
S1 りん光 hv
1C
……・
蛍光 ・L====輻射
一I 即発
S o
Gr◎und state
Fig.1−12Jab1㎝ski Diagram.太線のSoは基底状態,SlとT1はそれぞれ一重項励 起と三重項の電子励起状態で,細線は振動準位を表す.
1.5 質量選別
LD1型イオン源では,フラグメンテーション,プロトン付加,酸素付加などに より,様々なイオン種が生成するため,多種のイオンが標的と同時にリング内を 周回する.標的のみ周回するビームを作るために,リング内の電極2つ(DEF−lO−1,
VST4)を用いて質量選別が行える.本節ではそれぞれの電極での質量選別につい て以下に記す.
◇lD皿F−10−1による質量選別
LDI型イオン源からパルス引き出しされたイオン集団は,電場によって与えら れたエネルギーがすべて等しい(15keV)ため,質量ごとに飛行時間が異なる.そ
こで,イオンが入射して最初に通過する偏向電極DEF−10−1に電圧を印加するタイ ミングを標的イオンと同期させ,標的イオンより大きい質量の不純物イオンを除 去することができる.例として,LDIで生成した金クラスター負イオンについて,
(i)は質量選別なし,(i)はAu。一通過後にDEF−lO−1に電圧を印加し,MCP4で負 イオンを検出したとき(TOFモード,付録参照)に得られる質量スペクトルをFig.
1−13に示す.この図から,DEF−1O−1に標的通過のタイミングに合わせて電圧を印 加させることで,標的よりも質量が大きいイオンを完全に除去できることが分か
る.しかし,この方法のみでは,質量の軽いイオンは除去できない.
bお
;
湯
5
着
(i) Au3一
v
Au7.
/ 山
}
(i),
@l lCli〕
10−1
一w
ん し 10−1DEF ON
0 0,05 0.1 0,15 0.2 0,25 0.3
Storage time(ms)
Fig.1−13 DEF−10−1による質量選別の様子.(i)選別なし.(i)Auデ以降のイオ ン種を除去した.
◇VST4による質量選別
VST4では,DEF−lO−1で除去不可能な不純物イオンを除去するために,標的イ オンの周回に同期したパルス電圧(kickパルス)を印加する.Fig.1−14にパルス電圧 発生方法を示す.電圧の高速スイッチングを可能とするパルサー(Behlke,Push−Pu11,
HTS21−06−GSM)に,ファンクションジェネレーター(Tektronix,AFG3022B)で生成 したTTL信号と高電圧(300V)を入力し,VST4にパルス電圧を印加する.不純物 イオンがVST4を通過するタイミングに合わせて電圧を印加することで周回軌道 が変わり,これを除去できる.例えば,標的と3種類の不純物イオンが周回し,2 回のkickパルスで標的の選別を行う場合のタイミングチャートをFig.1−15に示す.
(i)kickなし(i)kickありの場合にVST4を通過するイオンの時間スペクトルを 示した.ファンクションジェネレーターで生成するTTL信号は4つのパラメータ ーつまり,パルス数,遅延時間(De1ay),パルス幅(Width),繰り返し周期(Period)
で決定し,これらの値を標的イオンの周回に同期させる.図にあるように,標的 と不純物イオンでは周回周期が異なるので,標的がVST4内に存在しないタイミ ングで電圧を印加する.(血)にkickありの場合に得られるMCPでのイオン到達の 時間スペクトルを示す.リングの構造上,kickが行われてから約1周後に選別さ れたイオンが到達する.また,実際に行った質量選別の例として,LD1源でMB+
を生成し,周回させたときに得られる中性粒子収量の時間スペクトル(上)kickな し(下)kickありをFig.1−16に示す.この図から,複数ある目的外イオンが除去さ れていることが分かる.
! ヒトつ60
コ;;工舳 …
Line B。
e山眺、
叫 MCP 1m
HV
ファンクション →パルサー VST4
ジェネレーター TTL (Push−Pu11型)パルス電圧
Fig.1−14 VST4でのパルス電圧生成法.
. 婁(1)嚢
↓ ↓
余
↓
恵
↓ ↓ ↓
T l・0
Delay Width
閂
↓1 1↓
Period
↓ ・ :ON
c1 1ε
● 婁 ■
↓
TOF VST4
1VST40FF一 =
l U ↓
1(iii)
.一●一一●●●●■●■■●■I■□・
↓ ↓
差
8.・..・..
↓ ↓
TOF VST4
TOF MCP
イオン引き出しパルス
Fig.1−15 kickパルスのタイミングチャート.
4 10 雀 103
き
芸 102
と記
: 101
105 104
坐…103 8
元 2
と101≡;
⊆101 1 0
StOragetlme(mS)
↓
、レ
、レ
↓ ↓ ↓
kick PuIses
2 3
StOragetime(mS) 4 5
Fig.1−16MB+周回における中性粒子収量の時間スペクトル.(上)kickパルスな し.(下)kickパノレス(6pu1ses,0.2ms−3.2ms)あり.MB+周回に同期したkickパ ルスを6回印加することによりMB+のみを選別した.
1.6 MALDI
マトリックス支援レーザー脱着イオン化法(MALDI)は,質量分析分野において 一般的に用いられており,標的分子の質量が数百から数万までの広い領域で測定 可能なだけでなく,イオン化時のフラグメンテーションを抑制する効果があり,
ソフトイオン化と呼ばれている.マトリックス分子は,紫外領域に吸収帯を持っ 分子で,おもにシナピン酸やケイ皮酸系の化合物が用いられている.試料に対し て大過剰のマトリックスを加えてイオン化することで,マトリックスがレーザー 光を吸収し,間接的に試料にエネルギーが供給されるので,LDIに比べてMALDI で生成した分子イオンの内部エネルギーは相対的に低いと言われている.試料と マトリックスの組み合わせには相一性があり,その適切な組み合わせがいくつか知
られている.例えばタンパク質,ペプチド,高分子量化合物を標的とする場合は,
シナピン酸(SA,CllH1205),α一シアノー4一ヒドロキシケイ皮酸(CHCA,C1oH7N03),
フェルラ酸(FA,CloH1004)などのマトリックスが有効である.標的が糖,多糖,糖 脂質ならばゲンチシン酸(GA,C7H604),核酸ならば3一ヒドロキシピコリン酸との 相性が良いとされている.参考にこれらのマトリックス分子の構造式をFig.1−17 に示す.また,MALDI法で質量スペクトル測定を行うと,使用したマトリックス に由来するピークが観測される.これらのピークは既知であるので,質量分析器 の質量校正に利用することができる.
蟻塊躍
(d)
(c)
(e)
◎H
Fig.1−17マトリックス分子の代表例.(a)シナピン酸.(b)α一シアノー4一ヒドロキ シケイ皮酸.(c)フェルラ酸.(d)ゲンチシン酸.(e)3一ヒドロキシピコリン酸.
2 実験(標的イオン生成)
本章では標的イオン生成法について詳細を記す.2.1節でMB+生成っいて述べ,
2.2節でAu 生成を記す.標的イオンを用いたリング実験の詳細については,1章 で記述し走.
2.1 MlB+生成法
本研究では,LDI型イオン源を用いてLDIとMALDIの異なるイオン化でMB+
を生成させ,リング実験を行った.本節では,それぞれのイオン化での試料作成 方法とイオン化レ』ザ』について記す.LDIの場合,MB溶液のみをサンプルホ ルダー上に塗布。乾燥させたものを試料とした.MALDIでは2,5一ジヒドロキシ安 息香酸(DHB,C704H6,MW=154)をマトリックスとした.MB,DHBそれぞれの 構造式をFig.2−1に示す.どちらの試料も水/アセトニトリル混合溶液(3:7)に溶
かし,濃度を50mM(MB)と1M(DHB)とした.MALDIは,MBとDHB比が1:20 となるように,同量(5μ)ずつ交互に塗布し,混晶を作成して試料とした.これを イオン源に導入し,窒素パルスレーザー(SpectraPhysics,、337−SiLaseら337nm)を照 射しMB+を得た.それぞれのイオン化法で生成するイオン種の質量スペクトルは 3章1節で示す.
H・C\ N 量
CH3
N
S
1・1OOC O1−1
!CH3 附
一
CH尋
o■・1
Fig.2−1(左)メチレンブルー正イオン(MB+,284Da)の構造式.正電荷は左右のN原 子とS原子上で共鳴している.(右)2,5一ジヒドロキシ安息香酸(DHB)の構造式.
2.2 A㎜、一生成法
本節ではLDI型イオン源でのAu 生成について記す.通常は,イオン源に冷却 ガスを導入することで,クラスターの成長を促進させる.しかし,現在のイオン 源で冷却ガスを導入させることは,排気系統の都合上困難である.そこで,冷却 ガスなしで効率よく金クラスター負イオンを生成させる試料を,金固体(バルク),
クエン酸保護金コロイド溶液,ポリマー保護金コロイド溶液,クエン酸保護溶液 中に析出した金微粒子凝集物の中から検討した.その結果,金微粒子凝集物LDI が最も効率よくクラスターを成長させるということが分かった(それぞれ試料に ついての質量スペクトルは3章2節に示す).この凝集物をサンプルホルダ』に塗 布・乾燥させ,イオン源に導入し,Nd: Gレーザー4倍波(New Wave Research,
MINILASE2,266nm)を照射して得たAu をリング実験に用いた.本節では1項で 金コロイド溶液作成について記し,2項で金微粒子凝集物について述べる.
2.2。且 金コロイド溶液作成
本研究では2種類の金コロイド溶液を作成し,LDI型イオン源でのクラスター 生成効率を検討した.本項では,両者の作成方法及び,それぞれの乾固体の表面 観察の様子を示す.
◇クエン酸保護金コロイド溶液
クエン酸保護金コロイド溶液の合成法は以下の通りである.水100m1と0.01M 四塩化金酸水溶液(HAuC14・4H20(皿))2.Om1を湯浴中で7パCに加温し,1柿%炭 酸ナトリウム水溶液1m1を加えた.そこにクエン酸水溶液を2.Om1加え,金を還 元(皿→O)し,これを金コロイド(10−20nm)溶液とした.作成直後のクエン酸保護 金コロイド溶液の写真をFig.2−2に示す.コロイド粒子が生成していることを示 すチンダル現象を,レーザーポインターで確認した.
◇ポリマー保護金コロイド溶液
ポリマー保護金コロイド溶液の合成法は以下の通りである.水45m1とO.01M四 塩化金酸水溶液5.0m1にPo1y(M−viny1pyrrohdone)(PVP,Wako K−30)を加え,水 浴中で30分撹幹した.そこへ0.l MNaBH4水溶液5.0m1を加え水浴中で15分撹
し,金コロイド溶液とした.NaBH4を加えることで,金が還元されて凝集すると 同時に,PVPによって周囲を保護され金コロイドが生成する.このポリマー保護 金コロイド微粒子は,クエン酸保護の微粒子に比べて粒子サイズが小さく,2nm 程度の金コロイドが得られる.Fig.2−3に(i)NaBH4滴下前と(i)NaBH4滴下後の
写真を示す.この溶液は金コロイドに由来するワインレッド色を呈した.
また,それぞれの試料を乾燥させ,電子顕微鏡(SEM)で表面を観察したときの画 像をFig.2−4とFig.2−5に示す.個々の金微粒子を識別する分解能はないがμm領 域においては構造が大きく異なっていることが分かる.
Fig.2−2 作成したクエン酸保護金コロイド溶液.コロイド溶液特有のチンダル現 象を確認した.
(i) (i)
Fig.2−3 ポリマー保護金コロイド溶液作成の様子.左はNaBH4を加える前,右 はNaBH4を加え金を還元した後.
Fig.2−4 クエン酸保護金コロイドのSEM画像(5000倍).
Fig.2−5 ポリマー保護金コロイドのSEM画像(5000倍).
2.2.2 金微粒子凝集物
2.2.1で作成したクエン酸保護金コロイド溶液を,室温下で放置したところ(2週 間程度),凝集物が析出した.一方で,ポリマー保護金コロイド溶液には変化はな かった.この析出物の画像をFig.2−6aに示す.スクリュー管の底に黒い塊が析出 していることが確認できる.この物体はクラゲのようにふわふわしており,コロ イド溶液自体に見た目上変化は観測されなかった.この凝集物を乾燥させ,SEM で表面の状態を観察したときの画像(5000倍)をFig.2−6bに示す.繊維状物質が形 成され,繊維上に微粒子(lOO−200nm)が点在していることを確認した.
(2−6a) (2−6b)
Fig.2−6(a)クエン酸保護金コロイド溶液に凝集物が析出したときの画像.(b)凝 集物のSEM画像.倍率は5000倍.
また,透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて,金コロイド溶液と凝集物を観察した ときの画像をFig.2−7に示す.Fig.2−7aは作成直後のクエン酸保護金コロイド溶液
(析出物なし)のTEM画像(80000倍)で,作成した金コロイド粒子の直径分布が1O
−20nm程度ということが分かる.Fig.2−7bとFig.2−7cはどちらも凝集物の画像で,
倍率はそれぞれ5000倍と80000倍である.5000倍の画像では,繊維状物質がは っきりと確認でき,その周囲に金微粒子が分散しており,部分的にはある程度の 集団(1μm)を形成していることが分かる.このことから,SEMで観測した微粒子
(lOO−200nm)は,金コロイドが集団を形成したものと考えられる.さらに,繊維