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錯視に関する発達的研究

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(1)

錯視に関する発達的研究

平  井  誠  也

 錯視に関する研究は,心理学全般に関する研究が一時停滞した第一次世界大戦および第 二次世界大戦を除いて1890年頃よりかなりの研究がなされてきた。1890年〜1910年が第一 次の全盛時代であり,1025年〜1940年にかけてが第二次全盛時代であった。そうして1952 年以降心理学の全分野における研究が盛んになるにつれ,錯視研究も急速に増加し,1960 年代には最も多い年には錯視に関する発表だけでも8000部にも達している (Zusne,:L・,

1968)。

 我が国においても錯視現象に関する研究は古くから行なわれて,心理学における他の領 域にくらべれば,かなり活発であるといって間違いではなかろう。しかも研究の水準にお いても日本が諸外国に誇れる数少ない領域の・一つと考えられる。

 しかしこれらの錯視研究を発達的観点から研究したものに限定すれば,殆んど見当らず ピァジエを中心としたヨーロヅパにおける研究とくらべて全く淋しいかぎりである。

 本研究では錯視を発達的に検討したものに限り取扱い,錯視現象に関する刺激布置の条 件分析的研究は知覚心理学にゆずる。

 錯視現象を発達的観点より取扱ったものにも単なる生活年令を関数にした研究にとどま らず,さまざまな変数を入れたものが存在するが,ここでは大きく次の5部門について検

討する。

(1)年令に伴う錯視量の変化

(2)刺激の露出時間に伴う錯視量の変化

(3)刺激の要素の同時・継承呈示効果

(4)錯視量と知能との関係

(5)意味性の錯視量への影響

 しかし,ここに便宜上分けた5部門もそれが全く独立したものではなく,相互に関係し合 っている。研究によっては年令と露出時間の関係(Piage七, J.&vinh Bang,1961,平 井,1968,1969)や知能や刺激要素の誰時呈示効果(Pollack, R, H,1964)など二つや 三つの部門に重なる研究も多い。そうしてこれらの部門の相互関連はVurpillo匂E.,(19 63)も指適しているように,錯視の起源や年令に伴う変化,あるいはまた測定のくりかえ

し効果が同じ要因に帰されるのか,あるいはまた一つの測定から次の測定までの短い時間 的変化とは異った起源をもつのかといったような発達研究の根本問題に直接迫ることの期 待されるさまざまな問題を孕んでいる。

(1)年令に伴う錯視量:の変化

 錯視現象を発生的変化の相違に基づいて分類したのはBine匂A.(1895)が最初であ る。彼はさまざまな錯視を生得性錯視illusions inne6sと獲得性錯視illusions acquises に分類した。前者は,年令が増すにつれ錯視量はだんだんと減少するが後者は,おそまき

(2)

に現れ,少しずつ増加する。 しかしもっと柔軟で包括的な分類を行ったのはpiage七, J・

(1961)であり,錯視を一次錯視illusions primairesと二次錯視illusions secondaires に大別した。前者には大部分の幾何学的錯視は勿論場の効果により組織的エラーが生ずる 全ての図形が含まれる。知覚する主体からみれば,凝視点や凝視時間,および注意等の中 心化の効果によって生ずるもので,図形の他の要素と比較してある一つの要素が過大視さ れたり,過少視されることになる。そうしてこの場の効果は年令の増加や,刺激の露出時 間の増加,および刺激の呈示回数の増加などの場合に生じる脱中心化d6centra七ionによ って弱められ, したがって錯視量は年令と共に減少すると考えられる。他方二次錯視に は,知覚する主体の知覚的活動ac七ivi七6s percep七ifsセこよって生じるある種の幾何学的 錯視や恒常性,因果関係,運動知覚,時間知覚などが含まれ,この二次効果は年令と共に 一次関数的に増加したり,またはある年令水準においてはじめて生じ後減少するものなど

が含まれる。

 i幾何学的錯視の年令に伴う変化を取扱った研究はいくつかある (Wohlwi11, F. J.,

1960,Vurpillot, E・,1963,山内,19◎7)。本論文においては最:近の研究を加えて表を作 成した(表1)。しかし錯視の年令的変化をみる場合錯視量の決定には必ず精神物理学的 測定法の効果があるので厳密にいえば各研究者の結果を一律に比較すること自体が困難で ある。また発達曲線の型にしてもとり出された年令群が各研究者により異るので,ある研 究者により単調減少曲線とされたものがある非常に若い年令群を加えたために逆U字型の

曲線になる場合も考えられる。

表1錯視の発達的研究

錯視図形1研究者

年  齢  群

年齢傾剛備

M廿11er一:Lyer

     錯視

Bine七(1895)

Van Biervlie七     (1896)

Pin七ner&

Anderson(1916)

Wa1七ers(1942)

Piaget&

Albertini(1950)

Piage七, Maire

&Priva七(1954)

Vurpillo七(1959)

Fra,isse(1960)

Noe1七ing(1960)

Hanley&

Zerbolio(1965)

村瀬(1968)

7−12才と10−14才 12−16と成人

6−14才 6−19才 5−9才と成人

4−10才と成人 5−11才 4−10才 5−10才と成人 4−11才,成人

6才,10才,成人

減 少

成人において最小

減 少

11才まで減少 15−19才増加 成人において最:小

減 少

減少

5才まで増加

次いで減少

減少

小3頃まで上昇 小5より大学生にか

けて減少・

減 少

図形は垂直呈示

被験者調整法

実験者調整法

4−5才における:増加 は有意ではない 練習効果が取扱われた

UP−and−down法使用

Piage七 s concen七ric

me七hod使用

(3)

Delboeuf錯視

Poggendorf

Ponzo錯視

錯視

Size−Weigh七

     錯視

H:orizon七al−

 Ver七ical錯視

平井(1969)

Giering(1905)

R廿sse1(1934)

Piage七,

Lambercier&

Alber七ini(1942)

Vurpillo七(1963)

Vufpillo七(1963)

一丸(1969)

Vurpillot(1957)

▽urpillo七(1957)

ネ寸 瀬(1968)

Leibowitz&

 H:eise1(1958)

Hallley&

Zerbolio(1965)

Leibowi七z&

Tudisch(1968)

ネ寸 瀬(1968)

山内(1968)

山内(1970)

Ciampi(1930)

Rey(1930)

大脇(1953)

Rivers(1905)

Winch(1907)

Wa1七ers(1942)

W廿rs七en(1947)

Fraisse&

Vau七rey(1956)

6才,10才,成人

6才,14才 4才,6壱才

5−12才,成人

5−12才,成人 5−12才,成人

8才,10才,成入

5−11才半成人

5−11才と成人

10才と成人

9−21才,22−26才,

27−29才,31−38才

5−11才と大学生

4−17才と成人

6才,12才,成人

5才一16才

5才一22才,37才

3−6才,7−15才,成人

5才一成人

3−5才

子供と成人

8−15才と成人 6−19才

5−13才と成人

6才,9才,成人

減 少

14才で減少 わずかな不規則な変 化

減少

12才でわずかに増加 して,その後減少 減 息

急の錯視は減少 負の錯視(内円の過 少視)は増加

I

i7才まで増加 9才一成人減少 5−7才はほとんど

変らず,以後減少 成人において小

4−7才で増加後コ

ンスタント 縦図形減少 幅図形増加し青年期 において減少 13才まで増加 50才まで変らず後減 少

12才で最大

幾何・有意味図形

とも7−10才増加

その後減少

増 加

9才まで増加後減少 増 加

成人が小 わずかな減少

減少

10才まで増加後,減 少

減 少

刺激の露出時間を関数 として行なわれた。

ここには自由視の場合

を示した.

有意味事態

完全上下法による比較 法

有意味事態

Piage七璽s

法使用

concentric

up−and−down法使用

Piageザs concen七ric 法使用

幾何学図形と有意味図 形使用

⊥図形使用 調整法

L図形使用

教育的背景により異な

(4)

Oppe1−K:und七

     錯視

Fraisse &

Vau七rey(1956)

且anley&

Zerbolio(1965)

Hanley&

Zerbolio(1965)

村瀬(1968)

Piage七&

Os七errieth     (1953)

Vurpillo七(1958)

Vurpillo亡(1958)

Vurpillo七(1958)

平井(1968)

6才,9才,成人 4才一11才と成人 4−ll才と成人 6才,10才,成人 5−11才と成人 5−11才と成人 5−11才と成人 5−ll才と成人 6−10才と成人

9才まで増加,後減 少

成人において最大

5才まで減少,後増 加,V字型

10才で減少,成人で

最大,V字三

跡 少

11才まで増加,後減 少

11才まで増加,後減 少

増 加

減少,6才より成人

が有意に小

L図形使用 up−and−down法

使用

Piaget s concen七ric 法使用

concen七ric法使用

調整法

平面有意味図形

立体有意味図形 極限法,露出時間を関 数として行なわれた。

これは自由視の場合で

ある。

 さらにまた年令差の検定も行なわれていない研究も多いので,発達曲線が本当に有意か どうか検討される必要がある。本研究においては以上の諸事実を考慮したうえでおおよそ 次のように錯視の発生的類型化を試みた。

 ①年令と共に錯視量が線型的に減少する図形には,Maller−Lyer錯視(M−L錯視),

Delboeuf錯視, Poggendorf錯視などがある。

 M一:L錯視に関する5才から成人までを被験者にした殆んどの研究は年令による線型的

減少を示している。しかし例外としてWaI七ers(1942)やWapner&Werner(1957)

のように15才〜19才の青年期における一時的増加を示す研究がある。 おそらくこの現象 は青年期における主観性への傾向の増大などの青年期特有の発達過程に基づくと考えられ

る○

 あるいは4才児を』も含めた研究(Fraisse,1960)において,4才から5才にかけて錯視量 が増大する傾向を見出しているのは注目に値する。それ故,M−L錯視が典型的な一次錯 視として年令に伴って線型的に減少してゆくと考えられていたものが,ある非常に幼い年 令群を加えることによって逆U字型の発達曲線を描く場合も考えられる。しかし,Fraisse の研究においては4才から5才への錯視量の増加は,統計的には有意でない。さらにまた 非常に低い年令の子供における錯視量の測定の方法論的困難さも考慮される必要があると

思われる。

 Delboeuf錯視

 Dθ1boeuf錯視は4才から15才および成人の範囲の被験者を用いた研究がなされている が,殆んどの研究は年令に伴う線型的減少傾向を示している。

 ただ4才〜6才にかけてはわずかな不規則な変化だけではっきりした傾向は不明である という結果(Rassel, A.,1934)があり,また他方同一被験者にはただ一回だけの比較し か行なわないup−and−down methodを用いた研究では小学一年生において最大値をも

(5)

つ逆U字型の曲線が見出されているなど幼少時における結果は一即していない(Hanley,

C ・e七Zerbolio, D・T..1965)。さらにDelboeuf錯視に関してはM一:L錆視図形に関す る研究のように青年期に関する資料が見当らない。またPiage七他(1942)では円の相対 的大きさを変化させることにより錯視量のサイン曲線が得られているが,この正と負の錯 視量はどちらも年令と共に減少するという結果を示している。

 しかし,一:丸(1969)は正の錯視量は年令と共に減少するという結果を見出し,これは Piaget他(1942)と一致するが,負の錯視量は年長者ほど大きくなり,また正から負へ の移行点も年長者ほど円間隔が小の時点において存在した。これはPiage七他(1942)の 結果と一致しない。特に負の錯視に関する発達的研究が今後望まれる。

 POggendo:rf錯視

 村瀬(1968)は10才児と成人のグループを被験者としてPiage七のconcen七ric method

によって錯視量を測定した結果,10才児群が成人群より大であった。またVurpillo七

 (1957)は,5才,7才,9才,11才と成人群を被験者として実験した結果,7才におい

て錯何々は最大値に達し,その後だんだんと減少する傾向を見出している。この結果から すればPoggendorf錯視をこの類型に入れることは無理であろうか。

 ②次にある年令まで錯視量が増加しその後減少傾向を示すいわゆる逆U字型(又は逆

V字型)の発達曲線をたどる図形がある。

 この型にはPonzo錯視, Size−Weight錯視, Horizon七al−Vertica1錯視, OPPe1−

K:und七錯視などが含まれる。

 Ponzo錯視

 Ponzo錯視の一般的発達傾向としては4才から7才頃まで少しずつ増加し,その後減

少する。錯視量が最大になる年令は7才(:Leibowitz, H.,&Heisel, Mり1958)7〜9才

(山内,1968),8才〜10才(Hanley C.,&Zerbolio D. T.,1965),13才(:Lei『bowi七z, H:・・

1968)のように結果はまちまちであるが,いずれの研究もある年令において最大値をとる 逆U字型の曲線を描くことに関しては一致している。

 Size−Weigh七錯視

 Size−weigh七錯視は5才児から成人群までの研究においては,9才まで増加しその後

減少する(Rey, A.,1930)。あるいは3才〜5才にかけて増加する(大脇,1953)。

 しかし,このSize−Weigh七錯視は単なる視知覚的観点より考えられるいわゆる幾何学 的錯視と区別される必要がある。なぜなら多分に認知的要素が含まれるからである。それ 故ある程度の精神発達のレベルに達した後はじめて現れるので,上述の結果は当然である と考えられる。この点についてはPonzO錯視も恒常性の発達との関運においてとらえれ ば同じ事が言える。恒常性が経験的に獲得されたものであるなら,だんだんと錯視量は増 大し最大値以後殆んど変化しないと考えられる。

 Horizohta1−Vertica1錯視

 E−V錯視はL図形において5才からだんだんと錯視量が増加し,9才(:Fraisse, P.,

&Vau七rey, P・,1956)や10才(Wars七en, H.,1947)で最大値に達し,その後減少すると いう結果と成人(大学生)において最大であるという結果(村瀬,1968,Hanley他,1965

が存在する。また⊥図形に関しても,6才以降減少するという結果(Wa1七ers, S, A.,1942,

Fraisse, P・,&Vautrey、 P・,1956)や成人において最大であるという結果(Hanley&

(6)

Zerbolio,1965)があり必ずしも一致しない。

 また同じH−V錯視でもL錯視や⊥錯視のように構造が強い場合S七ructure forte(Vur pillot,1963)は6才以降年令と共に減少し,構造が弱く各要素が離れている場合 (L錯 視)はある年令において最大値に達し,後減少する逆U字型の発達曲線が得られるのであ

ろうか。

  (2)刺激の露出時間に伴う錯視:量の変化

 一般に幾何学的錯視の錯視量を測定する研究において時間という変数を入れない研究が 多い。しかし,錯視量は刺激の露出時間と共に大きく変化し,また連続測定すれば減少した

り,逆錯視を生じたり,あるいは連続測定干しばらくして再び測定すれば錯視量の自然回 復現象がみられる(Mountjoy, P・T・,19β1)。幾何学的錯視に関する研究において瞬間 視(タキストスコープ視)が無制限自由視の時より錯視量が大きいことは20世紀のはじめ から知られていた。Lewis(1908)は1/50秒のタキストスコープ視においてM一:L錯視 の錯視量を測定し,自由視より大であることを見出している。平井(1969)は刺激の露出 時間を0.2秒,0.4秒,0.8秒,2.4秒に設定して錯視量を測定した発達的研究を行った。

 その結果6才児と8才児の年少者群では刺激の露出時間が大になるにつれ,殆んど変化 しないか,あるいはいくらか増大する傾向がみられたが,10才児と大学生の年長者群にお いては露出時間が大になるにつれ錯視量は減少傾向を示した。それ故露出時間が大になる につれ,年少者群と年長者群の錯視量の差は増大してゆく傾向を示した。この結果は年長 者における知覚的活動の増大により説明された。

 またNoe1七ing(1960)はM一:L錯視の連続呈示の効果を発達的に研究している。 M−

L錯視図形を連続的に数多く呈示したり,凝視時間を引伸ばせば錯視量は減少し,時には

逆錯視さえ生じる(Judd, c. H.,1902, Lewis・E・o・,1908,:Koehler, w・&Fish−

back, J.,1950(1)a,1950(皿)b, Moed, G・,1959, selkin, J・&wertheimeち

M.,1957,Moun七joy, P. Tり1960,1961,1963, Rudel, R. G.&Teuber, H. L.,19 63)。

 しかし,この事実は年少者を被験者とした場合はあてはまらない。このくりかえし効果

が生じてくるのは7才頃からであり,それ以前の5〜6才児では殆んど現れず,むしろ最

初の数試行においては増大傾向さえ示している。この事実は,平井(1969)において刺激 の露出時間が増大しても年少者群においては錯視量が減少しないのみか,むしろ増大する 傾向を示した事実と関係をもつと考えられる。すなはち刺激の要素が結びつきはじめ,錯 視への順応が起る。

 さらにOPPel−K:und七錯視に関してはPiaget&Vinh−Bang(1961)がある。被験者 は5〜7才児20名と成人20名である。結果は5〜7才児群では刺激の露出時間が0・5秒の

時錯視量は極大値をとり,成人群では0・2秒で極大に達するいわゆる逆U字型の曲線が得

られている。そうしていずれの露出時間においても成人群が幼児群より大きい。

 また平井(1968)は6才,8才,10才,22才の年令群を用いて露出時間を0・2秒,0・4秒,

0.8秒,自由視に設定し,極限法を用いてOppel一:Kun砒錯視の錯視量を測定した。

 その結果下降系列において幼児群は0・8秒で極大値に達し,10才および成人の年長者群 では0.4秒で極大となる逆U字型の曲線が一般的であった。極大値に達する露出時間は Piaget&Vinh−Bang(1961)と一致しないが,年少者群が年長者群より極大値に達する

(7)

時間が長いことおよび露出時間を関数とした場合逆U字型の曲線が得られることは一致す る。この逆U字型の曲線が得られる理由はPiaget(1961)の rencontres coupla−

ges のシェマにより説明された。

  (3)刺激の要素の同時・継時呈示効果

 錯視量は刺激図形の各要素の布置関係上の空間的要因により変化するとともに,錯視図 形の各要素の呈示方法の相違等の時間的要因に汰っても変化する。

 M−L錯視に関する研究の大部分は年令と共に錯視量が減少する傾向を示した。 しか し,これらの結果は全て主線および矢バネの二つの要素が同時呈示された場合であった。

Pollack(1964)は8才〜11才の被験者においてこの二つの要素を同時呈示した場合は線 型的に減少する傾向を見出した。しかし主線と矢バネを二時的に呈示した時逆錯視一外向 図形における主線の過少視一が生じ,この過少評価の量は8才から11才にかけて線型的な 増加傾向を示した。彼の手続きは外向の矢バネだけがまず500msec.呈示され,ついで黒 色の背景のカードが500msec.呈示された後標準刺激と比較刺激の主線が500 msec.呈示 されるというものであった。

 そうしてこのような二時呈示によって生じた負の錯視量は年令と有意な相関をもつとと もに,MAと非常に高い相関(R=0.72)を示した。この事実は空間的に全く同一の錯視 でも,それらの要素が一つの中心化の場に同時に呈示されるか,あるいは各要素が別々に 呈示され,これらの情報が中枢により統合されなければならないかにより,方向において 逆の錯視が生じ,発達的にも全 く逆の傾向になることを示した。

 同じ事実がDelboeuf錯視においてもみられる。たとえばIkeda&Obonai(1955)

は直径30皿nのテスト図形に対して凝視円の直径を10㎜から80㎜まで変化させると同時に凝 視図形とテスト図形の呈示の時間間隔を0秒から1秒までの間に18種類の時間間隔を設定

して図形残効の量を測定した。

 その結果時間間隔が200m sec.から3001n sec.を越えると直径40〜60㎜の凝視図形に おいて内円の過大視が過少視へと逆転した。しかしこの実験は発達的な研究ではない。

 このウスナジエ効果を発達的に研究したのはPiaget&:Lambercier(1944)であり,

ウスナジエ効果が5才〜7才の子供より成人においてきわめて強いことを見出している◎

この継時呈示におけるDelboeuf錯視の反対錯視現象と錯視量の年令的変化の様子は錯

視図形は異っても上述のPollack(1964)のM一:L錯視の結果と一致する。すなわち最も

典型的な一一次錯視であるM−L錯視やDelboeuf錯視も呈示の方法及び要素呈示の時間

間隔によっては容易に二次錯視に変化する。

(4)錯視:量と知能との関係

 種々の幾何学的錯視の錯視量と被験者の知能水準との関係は一体どうなっているのであ ろうか。錯視量と知能水準とは正の相関であるのか,あるいは負の相関なのか,それも全 然無関係であろうか。

 まずM一:L錯視と知能水準との相関に関しては,これまで行なわれてきた多くの研究は 殆んど相関がないことを示してきた。

 Crosland, Taylor&Newman(1927)は25名の学生を被験者として実験した結果知能 水準とM一:しの錯視量の相関はR=0.10であった。

 また暑Spi七z&Blachman(1958)は中学生を対象として24人の精神薄弱児(IQ=66)

(8)

と22人の正常児(IQ=96)のM−L錯視量を測定した結果,精神薄弱児が正常児よりい

くらか少なかったが,両者の間に統計的有意差はなかった。さらにGaudreau, Lavoie

&Delorme(1963)は10才〜13才の精神薄弱児と7〜13才の正常児を被験者として,:M−

L錯視は典型的な一次錯視であるので,同じ年令の正常児より精神薄弱児において大きい だろうという仮説のもとに実験を行ったが,統計的な有意差は見出さなかった。

 pollack(1963)は8〜12才の5っの年令群を被験者としてM−L錯視の錯視量とIQの

相関をみた結果,R=0.24であり有意差はなかった。

 またPollack(1964)は8〜11才の4っの年令群を用いて実験した結果,矢バネと主線

の同時呈示の場合MAと錯視量の相関はR=一〇・24であり有意ではなかった。

 しかし,これらの要素を継時的に呈示した場合の負の錯視量は年令と共に増加し,IQ とR=0.72め相関があり統計的に有意であることを示した。

 次に分割錯視(OPPel−Kundt)に関してはGaudreau e七aL(1963)カミあり,10才〜13 才の精神薄弱児と7〜10才,13才の正常児を比較した。

 その結果分割錯視の錯視量は正常児と比較して精薄児において有意に低く,10〜13才児 においては精薄児は逆錯視さえ生じたが,正常児ではこのような傾向は見出されなかっ た。それ故彼等は分割錯視を二次錯視として分類した。さらに残効(af七er−effec七)と知

能水準に関する研究にはSpi七z&Blachman(1958)とPrysiadzniuk&K:elm(1963)

がある。

 前者は24人の精神薄弱児(IQ=66)と22人の正常児(IQ=96)の中学生を用いて実

験した結果,残効は精薄児においていくらか小であったが,統計的には有意でなかった。

 後者は正常児と精神薄弱児を比較した結果,知能と残効量との問に有意な正の相関を見

出した。

 このように見てくると残効が知能水準と関係をもち,しかも知能が高ければ残効量が多 いという結果を示しているが, この知能も正常児と精薄児を比較した場合に限られてい

る。

 しかし,残効量は年令とも正の相関をもっているので,凝視の能力と関係をもつと考え

られるであろう。

(5)意味性の錯視量への影響

 幾何学的錯視を有意味事態におくことは決して新しいことではない。

 Filhene(1898)はPoggendorf錯視に関して,円柱の後で斜めになったロープを建物

の上で引き合っている図形を考えているし,またEbbinghaus(1913)はブレンターノ図 形のヤバネを鳥が飛んでいる図形にして有意味の錯視を取扱っている。

 しかし,発達心理学的にこれらの問題を取りあげ,詳しく意味性の効果を検討したのは Vurpillo七であり山内であった。

 Vurpillotは幾何学的錯視を有意味な事態の中にはめ込むことにより,単なる幾何学的 錯視図形の場合より錯視量が減少することを示した(Vurpillot,1957:Po99endorf錯視に 関する研究,Vurpillot,1958:分割錯視に関する研究およびVurpillot,1963:Doelboeuf 錯視に関する研究)。

 これに対して,山内は幾何学的錯視が有意味となることにより図形の中に方向性とか力 動性とかあるいは遠近法とかが働いて,かえって錯視量が増加することを示した(山内・

(9)

今泉,1965:平行線分間の拡がりに関する研究および古西・山内,1968,山内,1970:

Ponzo錯視に関する研究)。

 Poggendorf錯視

 Vurpillo七が錯視を有意味の事態で検討した最初の研究はPo99endorf錯視(1957)に 関してであった。 Filheneの事態にならって舞台装置のひな型を作成した。その舞台の 上では円柱の後で一人の子供がロープで袋をつりあげている場面を設定して,Poggendorf 錯視を有意味の布置にはめ込んだ。すなはち円柱の後でロープを斜めに引っ張ることによ

りPoggendorf錯視の現象が生ずる。

 被験者は5才,7才,9才,11才,およ:び成人群であった。結果は成人群においては有 意味な事態では明らかに錯視量は減少した。そうしてこの意味性の影響(この場合は減少 させる効果)は9才以後において始まるが,年令と共に規則的には増加せず,9才におい てつよく,幾何学的図形と有意味図形の差は最も大きかった。

 この9才はピアジエの空問概念の発達,特にユークリッド的空間構成がめばえる時期に あたると説明されている。また他方7才児を除いて他の全ての年令群において,女子が男 子より意味性の効果を強く受けているが理由は不明である。

 分割錯視

 さらに翌年,彼女は分割錯視に関して二つの実験を行った。一つは図形を用いての研究 であり,もう一つは立体的装置を用いての研究であった。

 前者の研究における無意味な図形は90㎜の水平線が30㎜の10本の垂直線により分割され た図形で,これが牧場の柵を構成する。だからこの図形をVurpillo七は無意味図形と呼 んでいるが,単なる幾何学的図形ではないことに注目しなければならない。

 有意味図形は上述の図形の柵の向うに牛や木木が描かれた図形で,図柄がより複雑にな り現実味をおびている。被験者群は前研究と同じであり,方法は上昇,下降交互の調整 法。その結果,5才児では両図形の間に差がないが,7才から成人にかけては有意味図形 の錯視量が小であった。

 さらにVurpillotは同年令群の被験者を用いて装置を立体的に作成して行なった。こ の場合の無意味図形は前研究の図形の場合と異って全く幾何学的錯視図形を用いている。

 結果としては,全被験者群において意味性の効果が著しくあらわれた。即ちこの両者の 錯視量の差は非常に大きくなった。また無意味図形が9才において最大になる逆V字型を 描いたのに対して,立体的意味の事態では5才から成人にかけて線型的に錯視量は上昇し

た。

 Delboeuf錯視

 Delboeuf錯視の有意味事態は一枚の厚紙に男の顔が描かれたもので,その左右の眼の 大きさを比較することであった。左眼は円が二重となり,Delboeuf錯視を構成した。被 験者は5才,7才,9才,12才と成人群からなっていた。

 その結果,1.成人群では有意味図形の錯視量は無意味図形と殆んど変らなかった(どち らも小である)。2・意味図形の場合の錯視量は5才において最も多く,その後減少傾向を

示した。

 Vurpillotの実験においては幾何学的錯視にくらべて,有意味図形は一般に錯視量を減 少させる。なぜなら意味性が視的場の全体の新しい構成をもたらすからであり,この再構

(10)

成は空間表象の構成を特色とするある精神発達の水準に達してはじめて可能となり,この 年令は錯視図形によりいくらか異ってくると考えられる。

 Vurpillo七の上述の三つの有意味錯視に関する研究は,いずれも意味性が錯視量を減少 するように働く結果を得ているのに対して,意味性が力動的に働くことにより,逆に錯視 量が増大することを見出した山内(1963)の研究は注目に値する。

 平行線分間の拡がりに関する研究

 彼は左右の垂直線を中から外に向って押しているような形の人のシルエットを有意味図 形として使用した。即ち2人が左右の垂直線を押すことにより2垂直線間の空間の拡がり が一層強調されると予想した。

 被験者は5才,7才,9才,11才,13才および大学生で各群男女6名ずつ,各群12名か

らなっている。方法は被験者調整法。

 結果は全般的に有意味図形が介在する場合が,無意味図形(人のシルエットと同じ面積 の斜めに立てた2本の棒)より空間が拡がって見える。また無意味図形では10才前後で過 小視が大になり,後に復元するU字型の発達的傾向を示した。さらに彼はVurpillo七と 同様に装置を立体的に作成して実験した結果,有意味図形が介在する場合,生動性が働い て2線分間の空間が拡がって見え,この効果は年少児ほど顕著であることを見出した(古

浦・山内(1965)。

 Ponzo錯視に関する研究

 古巣・山内(1968)はPonzo錯視を有意味の布置にして発達的研究を行なった。

 有意味図形はPonzo図形の左右に遠近法的に樹木や子供が描かれていて,より複雑で 現実味を帯びている。これに対して無意味図形はPonzo錯視だけで他に何も描かれてお

らず左右は空聞のまエである。この両図形を縦の布置におく場合と横の布置に置く場合と を行ない,計4ケースが検討されている。

 被験者は5.1才,7.5才,9.5才,12.4才,16.5才のそれぞれ男女10名ずつ20名,計 100名からなっている。結果は縦の場合も横の場合も意味図形が無意味図形より一般に錯 視量は大であった。そして過大視の量は縦図形の場合が横図形の場合より大きかった。し かし,縦図形の場合,年少児では,意味図形も無意味図形も殆んど同じになっているが,

図形が幾何学的であっても有意味と同様に受けとられているのであろうかと云っている。

 さらに山内(1970)は前研究に大学生(21.5才)と成人(37.1才)を20名 (男女10動 ずつ)つけ加えて検討した。その結果5才から37才までの発達曲線が得られたわけである が,この曲線は5才児と成人の両端において低い逆U字型の曲線となっている。

 その理由として,彼は初期においては外廓と直線の関係が次第に出来上るにつれて錯視 量は増大するが,8,9才頃操作的思考が成立してくると逆に直線部分を分析的に観察す るようになり,そのため次第に錯視が減少してゆくのではないかとして,操作の発達と結 びつけて解釈している。

 以上Vurpillo七と山内の研究を述べてきたが,発達的傾向を見る場合に錯視量は図形 の物理的な特性によって変化し,更に意味性が加えられることにより,益々複雑となり一 義的な結果や解釈は困難である。

 幅広い被験者集団をサンプルにとり,個々の錯視図形に関して条件分析的に研究し資料 を集める以外に方法はなかろう。

(11)

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参照

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