奈良教育大学学術リポジトリNEAR
Muller‑Lyer 錯視の destruction に関する予備的 研究
著者 瀧野 千春
雑誌名 奈良学芸大学紀要
巻 3
号 1
ページ 105‑111
発行年 1953‑12‑25
URL http://hdl.handle.net/10105/5126
Miiller‑Lyer錯税のdestructionに関する予備的研究
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所謂Mill王Hr‑Lvi‑r錯視は実験が相当長期にわたって反復される場合には消失、ないしその錯 視'j)程度が減少するものであることはかなり以前から知られていた。併しその錯視の消失ないし 減少の説明としては、所謂「学習説」が揺られていたo即ち錯視と云うのは一種の判断の「誤り」
であり、被験者が多数回の試行を反復するうちに、彼等は次第にこのような「誤り」を避けるこ とを学習しそCL)結果として錯視の消失ないし減少を生すると云う考え方である。
以上の「学習説」に対して. Kohler.W.と Wallach.H.とは全く異る方面からこの現象を 説明しようとしている。彼等は錯視図形の二つの部分(内向図形と外同園形とに分たれる)が程 度を異にするLq:もiatiou (Kohler等によれば之はfigural affer‑effects の同義語とされてい る)の影響を受けその結果として消失ないし減少が起るCDであると説明した Kohler等による と鋭角をなして交る二つの線分や輪廓裸で囲まれた内部領域はその外部領域に比して safiation が強く生するO錯視図形について考えると内向図形の方が強い satiationが生することになる。
このようにして強いsatiation を:受けた図形の部分は次第に、比較的satIatiouを:受けてない領 域へと移動するIvohlerは之をdispl品Ce、neatと云っているO此の結填内向図形はsatiationが 進行するにつれ,より長く感ぜられ、次第に錯視は減少の過程を辿ることになる。以上が錯視の 消失ないし減少をsatiationと云う事実で説明しようとしたKohler等の考え方の大要であるO そこには波のIispl:もcementと云う現豪に重点が患かれていることは明かであるが、 (lisplacement
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〔実験I〕
(1)手続 詳細はKohlerとFishbaekの文献に譲る。実験Iでは極限法によって上昇、下降 交Jiiこ計100回CD試行がなされたoそして内向図形(固定)の等価剣戟値としての外向図形の長
さが測/」された。錯視量は内向図形,I)長さ(凡ての実験を通じ70mm)と等価刺戟値としての外 向図形の長さとの差で現わされている。最初から4個づつの錯視量を‑まとめとしてそ,I)平均値 をとる。合計100回の試行であるから平均値が2可固得られるわけである。被験者のうち試行をつ ゞけているとその錯視量がゼロになるものがある。このような被験者を錯視の「消失」した被験 者と称し、この被験者については試行を打切った。被験者数は13名各被験者について最初の錯視 量(initial amount of illusion)、錯視量のrange(最大値と黄′打直との差)、更に錯視の「消失」
した被駁者については消失までの試行回数を測定したO
(2)結盟 第1表に示すo整埋の都合上、錯視vL)消失した被駄者と消失しない被験者とにわけ てある。
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第 1 表
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h:鎗雨量のrallge c:滑一失ま eォ試行回数
第1表を見ると錯視の消失した被験者が丁名(以下消失群と称する)、消失しなかったのがL3 名(以下非消失群と称する)である。消失群についてはKohlerは最初の錯視量と消失までの読 行回教との間には、かなり高い正の相関G')あろことをPearsonの相関係数を算出することによっ て確かめた。第1表の結果からも同じことが云えるであろうかOそのためにはSpearmanの順位 差相醇係数を用い.消失群のaとCとの間の相関をしらべたところ、 0.812と云うかなりの正の相 関が見られた。.此の順位墓相関係数の有意性を検定したが、 ・5%のIevelで有意であった。 (檎 定方法はOlds,E.G.の方法による。)
次に第1表のbについて消失群と非消失群とを比較してみると、平均値にあいては消失群の方 が大であるように思われるOそこで平均値'JJ差OI)検定を実施した。第2表に示すのがそれであ
る。
平 均 非滑失群 (6名 G.5 治夫群 (7名 12.0
第 2 表
不偏分散
21.04 2.5.)
第2表を見ると,非消失群の不偏分散はかなり大きく、個人差が大であることを示している。
分散の検定をするた糾CFを求める.
F ‑笠砦‑S・'2."i
有意水準を1%にとると、上の両群の分散は等しいと云い得る。そこで平均の差に関するt‑検 定を行うO式は以下V=示すものを用いる。
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levelで有意でる。
(3)考察貴初の錯視量と消失に至るまでの試行回数との問rL、かなり高い正の相関が存在す るから、最初の錯視量が犬なるほど消失まで,D反復回数は大であると云うことが云えろ。併し之 は:…し̲/㍉∵,V''、∴=!‑∴・・<!・';蝣'.
が求められる。之が錯視量のrangeではないかと患うoそして錯視量のranejeが非消失群におい て「より小」であるところから、錯視量のrangeが天であるほど錯視の減少傾向は「より速か」
[BE
であると云えるのではないだろうかO此の点に関してはもつと研究の余地があると考えられる。
〔実験 ∬〕
(1)手続 実験Iの非消失、消英の各群からそれぞれ3名づつの被験者をえらび、実験Iと同 じ手続で軍機したO両実験の時間的間隔は2日であったO
(2)結巣 弟.'3表に示すとおりである。
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H. H.粥 H. E.
央 T. K.
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第.3 表
第3表に於てCが0となっているのは最初から外向図形が過大視されていることを示してい ym
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行回数が′J、であることがわかる。
次に実験且に於ても錯視量のrang;叫ま消失郡の方が「より大」であろうか。その検定をするた め第4表をつくる。
‑i一 増
井滑失群 (3呂 4.3 胎共群 (3名 8.0
saffiBi沼 16.52 19.00
第 4 表
消失群の不偏分散は実験Iに比べてかなり大であるが、非消失群のそれと等しいと云える。
(1し昔.jv.>轟牡)0
両群の平均値の差,D検定をやるには下の式を用いる。 (但しNt‑N3‑Nとする)0
Xl ‑ Xo t=
1子I一一二‑L " "蝣一IT
第i表の値を代入すると、七‑‑1.075となり、その自由度は2 (N‑1) ‑4で上の七の値は.5%
Jnvclでは有意ではない。
次に第:;表のデータと第1麦のそれに対応する被験者のデータとを比較して見ると最初の錯視 畳も・錯視量の1・とも11g'・も実験皿の方が減少している。之をたしかめるた捌こ第.5表にまとめて見 た。消失、非消失'D両群を一つにしてあるO
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不偏分散 21.73 第 5 表
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dの有意性の検定には下のような式を用いる。
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CfF! L diid‑v・4'‑t!j)'l叫こ関しての値を代入するとt‑o¥2f)'Jとなり。1bに関する値を代入するとも‑3.962となるOこの tの自由度はいづれも・5であるから、両方のtはいづれも5%levelで有意となる。
I:i) y‑ミ ト蝣I.‑‑.‑∴ 、工 i‑MllT‑.'・'蝣・T;‑ ・ふh‑I‑: ‥I
に於るよりは減少している。実酪Eにあいて消失、非消失両群の錯視量のrangeの平均の問に差 が認められないのは此の為であろうO佃貴初の錯視畳と錯視量のrangeとの間に実験Iにおいて も実験llにあいても僅かながら負の相封が甘められた。之は最初の錯視量が大なるほど、錯視畳 のrangeは小(即ち錯視の減少傾向は大)であることを意味すると思われる。 (併し相関係数の検 定の結果この相関は有意でなかったQおそらく被験者薮が少なすぎる為であろうO)
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〔実験 且〕 、
(1)問題 党にも運べたように、試行を反復するにつれて内向図形はsatiation によってdis・
placementを:起し錯視が消失ないし減少するものとすれば、内向図形を前以て一定時間凝視させて 後測定を行うと錯視は速かに減少するであろう。そして錯視,D減少の程度は凝視時間が長くなる
につれて大となるであろうと考えられる。之を確めるために実験辞を行った。
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ったのに対し、実験丑では8個,D測定値の平均を取った. 8個の測定値を得ろ毎に内向図形の凝 視を挿入し、この操作を.5回くり返し最初,D錯視卦7)平均隆と.5回RcJそれと,i,差を錯視量減少
を示す値とした。内向図形の凝視時間は1分半、 3分、 1分半の3種とLたO被験者は3人。
(3)結果 第L3表に示すとおりである。蝣"榛の凝視時間の各被験者における冥施順序はrfhiido‑
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計 31.00 第 ^^Eァ
第7表から凝視時間、個人差の両方の要因共、 5%levelで有意でないことが認められたo
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(4)考察 凝視時間が長くなるにつれて、錯視量減少の程瞳も大となるであろうと予期してい たが、その予怨は確証はされなかった。之は被験者が少く、実験誤差がかなり大きかった為であ ると思われるO併し一方錯視量嘩少の程度を示す値としてえらんだものが妥当であったかどうか の点にも問題は残されている。
〔実験 Ⅳ〕
(1)手続 実験灘と同じであるが、凝視時間を20秒、 40秒、 60秒の3種とし、被験者を6人と mm
(2)結果 第8表に示すとありである。
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3.7 5.0 0.3 5.5 0.3
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第 8 表
呈もualysis of ,anaucL‑'/)結巣、第'J表が得られた。
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第 LJ 表
第9表の場合、凝視時間、個人差の要因の両方共、実験誤差項よりは大きいが、 F値を求めて 見ると、 5%!ォ蝣、'cIで有意ではない。
(3)考察、被験者S.I.が凝視時間が長くなるにつれて錯視量減少の程度が大となる傾向が顕普 に見られる以外は余り一義的な傾向が見られす、 allともIysis of 、'ariancjによる結果もそれを裏書 している。そして凝視時間20秒の場合の平均は‑ 0.22であって錯視量減少の効果は認められな いと云ってもよいであろう。そして40秒あたりから凝視による錯視量減少の効果が現われて来る ものと考えられるo個人差は実験且に比べて犬となると云う結果が出ている。被験者をえらぶ場
&K問題があると思われる。
Ⅳ
〔実験 V〕
(1)問題 錯視の減少を説明するにあたって、内向図形に生する(1isplacementがかなりの役 割を演することは最釦こ述べ、叉その考え方に基いて、実験丘、 Ⅳを実施した。併し一方輪廓線 図形即ち線によって囲まれた図形を凝視する場合、その図形は収縮するところる self‑satiation とも云うべき効果について考えて見た。
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(2)手続 実験条件は(A)従来と同じく凝視に当っては、何等特別の構えをとらせない。
(B)内向図形を凝視する場合、それが囲まれた図形'D一部分であると云う構えで積極的に凝視 するように前以て放示を与えるの2種とする。 6人の被験者にA, B両条件をat randomの 順序で実施する。凝視前に1回測定をくりかえしそ乞)平均値と内向図形の長さ(7cm)との差 を錯視量とする。それから内向図形を凝視させ(:3分間)、そのあとで凝視前と同じ手続で錯視 量を求める。凝視前の錯視量から、凝視後の錯視量を減じた値を錯視量,j)減′ト値と規定する。
(3)結果 第10表に示すと患りである。
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第10 表 analysis of varianceの結巣、第11表が得られた。
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計
第11表
第11表から条件間の差はh% love!で有意であることがわかる。即ち、 A,B両条件は明かに差 があるのである。
(4)考察 内向図形を囲まれた図形の一部であると云う「構え」で凝視させると云う条件で は、ごくわづか乍ら過大視が見られた。之は内向図形の収縮を意味するものと考えられ、このよ うな条件下ではdisplacementの生起に抑制的役割を果すものと考えられるo勿論此の事実を確 定するには、 「構え」ではなく、実際の囲まれた図形を使うべきであろうが、そ,D予備的な段階 として、此の実験Vは‑一つの問題を提起したものと考えてよいであろう。
Ⅴ
〔要 約〕
・11 Jci ! ‥二 ∴ 号""'"t¥¥tJ"1‑:、‑ Il .・" i. '・'十,蝣‑11 卜I.::、c 蝣。.
(2)非消失群をも含めた錯視畳の減少傾向を示す値として錯視畳のr乙ill'JOを用いた。此の値 と最初の錯視量との間には僅かな員'Jj相関が見られたが、この相関は統計的に有意であるとは云 えなかった。
(3) 2日の問届をおいて行われた実験IとJlとを比べると、最初の錯視量、錯視量<Jjrangeは 実験皿の方が減少している。そしてこの減少は統計的に有意と云えるo
(4)内向図形を予め凝視させた場合、凝視時間が10秒以上の場合は錯視は有意な減少傾向を示 したが、凝視時間が長くなれば減少傾向も大となるかどうかの点に関しては、数値の上ではそれ
を裏づける値が出たが、そのユ如良問の差は有意とは云えない。
(5)内「占潤形を囲まれた図形の一部として凝視するようにとの教示の下では錯視は減少傾向を 示さなかったo此の問題は今少しく詳しく検討すべき要素を含んでいる。
"'v iV ・こ
(1) Kohler, W & Wtillach. H. Fignral after‑effeぐtS・ h in、,re&tigiition of visual processes. Proc.
Ainer. Philos. Sjc, 1944, 88, 209‑357
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Psycho!., 1908, 2. 294‑306.
(3〕 Kohler.W ̀曳Fishback, J. The obstruction of the Maller‑Lyer illusion in repeated trials: I.
An exalnination of two theories. J. Exp. Psyjhol., 1950, 40, 207‑281.
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Ann. Math. Slat., 1949, 20, 117‑118. (28. 9. 4.)
111