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同心円錯視の発達的研究(2)

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Academic year: 2021

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同心円錯視の発達的研究(2)

平  井  誠  也

 同心円錯視には一つの円がもう一つの同心円によって囲まれることにより円・が単独に存 在するよりも大きく見える現象(正の錯視)とさらに漸次外題を大きくすれば同心円の内 円の過少視(負の錯視)が現われる現象とがある(図1)。

 同心円錯視の発達的研究にはGiering(1905),Rasse1(1934),Piaget et ale.(1942),

Vurpillot(1963),一丸(1967),村瀬(ユ968),平井(1974)などが挙げられる。

 正の錯視も負の錯視も内円と外円の直径比により連続的に生ずる一連の現象であるが分 けて記述した方がとらえやすいように思われる。

 正の錯視(同化効果)に関する現在までの結果について言及すると,Giering(1905)

は6才の幼児の錯視量が14才のそれより大きいことを見いだした。またVurpillot(1963)

は12才でわずかに錯視量が増大するが,一般的には年令とともに減少することを見いだ し,Piaget et ale.(1942)は年令が増すにつれて正の錯視量は減少するという結果を得

ている。

 一丸(1967)は8才,10才,大学生の3グループで発達的には一貫して年少者において 錯視量が大で年令とともに減少することを示し,村瀬(1968)は直径比が2:3の同心円 図形を使用して幼児,小学6年生および大学生の3群で実験し,正の錯視が年令とともに 減少することを示した。

 さらに,平井(1974)は幼児と大学生を被験者として全系列法によって実験した結果,

内円と外円の直径比が2:3の条件において幼児も大学生も錯視量が最大に達すること や,幼児の錯視量が大学生に比較して有意に大きいことを見いだした。

 これらの結果を検討すると正の錯視に関しては年令によるわずかな上昇(Piaget et ale.,1942とVurpillot,1963の結果は12才児で錯視量がわずかに上昇することにおいては 奇妙に一致している)が見られることを除けば,多くの研究で得られた結果は内円と外翼 の直径比が2:3の時最大に達し,錯視量も値が非常に大きく年令に伴って錯視量が減少 する一次錯視であるとの点では一致している。

 しかし,対比効果によって生ずる負の錯視に関する研究は数少なく,得られた結果もそ れぞれ相容れないものが多い。

 Piaget et ale.(1942)は5−6才,7−8才,8−9才,10一ユ2才と成人の5グルー プを用いて発達的研究を行い,外円の大きさが増すにつれ正の錯視量が増大し,最大値に 達した後漸次減少し負の錯視の生じること,発達的には正の錯視,負の錯視のいずれにお いても錯視量は年令とともに減少することを見いだした。とくに負の錯視は年少の児童だ けに一貫して現われると述べている。

 Santostefano(1963)は6才,9才,12才の幼児および児童を用いて実験した結果,

(2)

正の錯視に関しては統計的に有意差は見いだされなかったが,年令とともに減少する傾向 を見いだした。しかし,負の錯視では男児と女児でいくらか異なる結果を得ているが,全 体としては年令とともに錯視量が増大する傾向を見いだした。負の錯視に関する結果は

Pia get et ale.(1942)と異なっている。

 さらに,一丸(工967)では負の錯視は年長者ほど大であり,年長者に一貫して現われて おり,年少の児童だけ一貫して負の錯視が現われるというピアジェと全く相容れない。

 しかも,正の錯視から負の錯視への移行点に関しても一丸(1967)では年長者ほど両円 の円間距離が小の時に存在しており,Piaget et ale.(1942)と結果を異にしている。

 平井(1974)は幼児と大学生において測定したが,負の錯視は女児においてわずかに(O.

46%〜0.7%)見いだされただけで,男児および大学生においては見いだされなかった。

  正の錯視

  (同化効果)

  負の錯視

   (対比効果)

図1 同心円錯視の同化効果と対比効果

 このように同心円錯視は同化効果に よって生ずる正の錯視では錯視量が非 常に強く,いずれの年令においても一 貫して現われるが,負の錯視である対 比効果は非常に弱く測定の仕方や変化 刺激の幅の大きさによっては消えてし まうことも考えられ,一貫した結果が 得られていない。まして発達的な検討 になると全く明らかにされていないと 言っても過言ではない。

 正の錯視を測定するのと同時に負の 錯視をも測定しようとすれば,変化刺 激の幅が大き過ぎ,負の錯視はその網 の目からこぼれ落ちてしまうことになりかねない。負の錯視を厳密に測定しようという目 的で変化刺激の幅を極度に小さくすれば,正の錯視の測定では非常に多くの変化刺激を用 意しなければならなくなり,特に幼児の被験者に疲労,飽き,注意散漫などがみられ正確 な資料は得られ難い。

 正の錯視に関しては現在までのいくらかの研究によりある程度明らかにされているの で,本研究は前研究(平井1974)において変化刺激の網の目が粗く,正確に測定できなか ったと推測された負の錯視を変化刺激の幅を小さくすることにより正確にとらえ,その発 達的変化を明らかにすることを主目的として行われた。

方 法

 被験者 本実験の被験者は幼児および大学生それぞれ20昂ずつで,男児10名の平均年令 は6才3ヵ月であり,女児10名の平均年令は6才4ヵ月であった。男子学生10名および女 子学生10名の平均年令はいずれも20才8ヵ月であった。各被験者とも視力は正常で情緒障 害のないものに限られた。幼児は長崎大学教育学部附属幼稚園の園児であり,大学生は長 崎大学教育学部の学生であった。

 刺激材料 標準刺激,変化刺激ともそれぞれ,たて32.6佛,よこ25.8伽のケント紙の中 央に描かれ,線の太さは約O.5襯であった。標準刺激の内意の大きさは32獺で内円と外

(3)

円の円間距離は1解物から始まり,4物πごとに増大してゆき5鋤錫で終るIO段階が設定され

た。

 標準刺激の直径を3勘物にした理由はPiaget et ale.(1942),一丸(1967),平井(19 74)と比較できるようにしたからであり,ユ働勉から始めたのは一丸(1967)の結果から負

の錯視を検討するのに適当と思われたからである。

 変化刺激は負の錯視の値が非常に小さいため,予想される主観的等価点を中心にして 0.5獺ステップで直径27.5%%から34.肋物まで変化するU枚の図形を用意した。

 手続 被験者が実験者と向い合って着席すると,被験者からおよそ80脇離れたところに ある白い衝立の上に刺激図形が被験者の目とほぼ直角になるように置かれた。被験者から 見て右側に標準刺激が左側に変化刺激が置かれた。

 本実験で使用しない他の図形を用いて練習試行が2回行われ,反応の仕方が学習された。

 変化刺激の呈示は極限法により上昇系列(小→大)と下降系列(大→小)がそれぞれ1 回ずつ行われ,その中間点をもって主観的等価点とし,等価点から標準刺激の内円の大き さを引いた値を錯視量とした。

 なお凝視点はとくに設けず自由視とし,大きいか,小さいかの2件法によって反応を求 めた。3件法による判断はとくに幼児の場合に桐じ大きさ または 分らない という 反応が多く,不定帯が非常に広いことが以前の研究(平井,1974)その他で明らかにされ ているからである。

 同心円錯視の錯視量をあらわす測度として主観的等価点が測定され,等価点から標準刺 激の大きさを引いた値が使用された。幼児および大学生の平均錯視量を男女別に示したの が表ユである。図1は男女をこみにした幼児,大学生それぞれの錯視量を図示したもので あり,図2は男女別に図示したものである。

 表ユに基づいて分散分析を行った結果,F(342.9)一68.72, P<0.Olで条件の主効果

表1 幼児および大学生の平均錯視量(単位 ㎜)

\円間距離

被緒\\16

1.45

1.50

1.48

男  1.33

女  1.98

2 0

0.68

0.95

0.81

0.63

1.48

2 4

0.08

0.48

0.28

0.15

1.33

計11・65

P1・05iO・74

2 8  3 2

一〇.58

030

一〇。14 一〇。98

一〇.10

一〇.54

3 6

一1.10

一〇.40

一〇.75

4 0

一1.35

一〇.70

一1.03

一。、51一。.65一。.68一。.75

。.751。.23」。.23

0.30 1−0.21

  5

一〇.45 一〇.10

一〇.43

4 4

一1.60

一〇.53

一1.06

一〇.60

一〇.25

一〇.43

4 8

一1.68

一〇.95

一1.3!

一〇.60

一〇.50

一〇,55

5 2

一1.53

一1.00

一1.26

一〇.68

一〇.40

一〇.54

(4)

が有意であり,年令の主効果および年令と条件の交互作用はどちらも有意でなかった。

 つぎに,負の錯視が生じている円間距離3蛙掛より5肋πの円隔だけをとり出し分散分析し た結果,F(38,1)一4.22, P<0.05で年令の主効果が,さらに, F(160,5)一6.77, P

<O.01で条件の主効果がそれぞれ有意であった。しかし,年令と条件の交互作用は有意で なかった。この結果は負の錯視だけをとり出してみると,大学生と比較して幼児の錯視量 が有意に大きいことを示している。

 さらに,それぞれの条件ごとに検討すると,48捌と5踊魏の立直の2条件において5%水 準で幼児が大学生より有意に錯視量が大であり,それより少し小さい円隔の4砺窮と44繊の

2条件においては10%水準でやはり幼児が大学生より大きく,円隔が大になるにつれて差 が大きくなっている。

 つぎに,幼児と大学生における性差を検定すると,幼児においては有意な性差は見いだ されなかった。しかし,大学生においては,円隔20㎜において5%水準で女性が男性より 有意に大きかった。また円隔16捌,32賜,および4伽駕の条件下ではIO%水準で有意差がみ

られた。負の錯視量は幼児,大学生のいずれにおいても男性が女性より大であった。

考 察

 同心円錯視の錯視量を示す一般的曲線は内野と真円の円隔が大きくなるに従って上昇し およそ半径比が2:3の時最大に達する。それ以後漸次下降し,錯視が見られない時点を 過ぎ負の錯視が現われる。すなわち,二つの円の円隔を横軸にとり錯視量を表わせば,い わゆるサイン曲線を描くと言われている。しかし曲線の大きさは正と負で著しく異なって おり,下半分の負の錯視や正の錯視から負の錯視への移行点,およびそれらの発達的変化 に関してはいまだ殆んど明らかにされていない。

 負の錯視に関する本研究の結果は男女をこみにすれば,幼児,大学生の蚊帳において負 の錯視が一貫して現われている。発達的には幼児の錯視量が大学生に比較して有意に大で

あり,Piaget et ale.(1942)の結果を支持した。

 一丸(1967)は直径16捌と32瀦の大きさの異なる二つの図形を用いて実験しているが,

16捌の標準図形では大学生だけに負の錯視が生じ,8才および10才の児童においては生じ ていない。しかし,ここで使用したのと同じ大きさの直径3肋%の標準図形の場合,成人群

とIO才児群で一貫した負の錯視が生じ,8才児群ではほとんど無錯視に近い結果が得られ ており,本研究の結果と異なって発達的にはむしろ逆の結果である。

 Santostefano(1963)は6才,9才,12才の間で統計的には有意ではないが,負の錯 視は年令に伴って上昇する傾向を見いだし,Wapner&Werner(1957)が見いだした Titchener錯視の結果と同様子供が発達するにつれて分節化がすすみ,図形の埋没された 部分がとり出されることにより新たに錯視現象が生じ,換言すれば,ウェルナーの言う未 分化な知覚が分化されてゆく過程において生ずる錯視であると説明した。未分化な故に生 ずる正の錯視(同化効果)とは全く発生や成立の過程が異なるものと考えられた。

 しかし,本実験の結果はこれらの結果と一致せず,平井(1974)とも異なった。筆者の 前研究は正の錯視の部分だけピアジェらの結果を支持したに過ぎず,負の錯視に関しては 異なっていたが,本研究の結果は負の錯視においても一致した結果を得た。

 本研究の結果は正,負いずれの錯視も,未分化な知覚において強く現われることを示し

(5)

視+2』0

mm+1.50

+1.00

+0,50

0

一〇.50

一1.00

一1.50

幼 児(男女)△一△

大学生(男女)●一■

錯・2.00

 刊.50

mm

+1.00

+0.50

o

一〇.50

一1.00

一1.50

16  20  24  28  32  36  40  44  48  52

   円間距離mm

一2.00

幼 児(男)●一→

  (女)△一△

大学生(男)●一一●

16  20  24  28  32  36  40  44  48  52

   円間距離mm

図2 幼児大学生の平均錯視量 図3 幼児大学生の平均錯視量(男女別)

ており,ピアジェのいわゆる 場の一次効果 によって生じ,年長になるにつれ探索活動 その他の知覚活動が働くようになり,場の効果が減少し,錯視効果は弱められ,正の錯視

も負の錯視も発生・成立の過程を一つの枠内で考えることが可能であることを示した。

 正の錯視から負の錯視への移行点に関して,一丸(1967)では従来の研究で得られなか った一貫した結果が示されており,年長者ほど移行点は円隔がより小において存在してい る。本研究と同じ大きさの標準図形では,大学生で円隔が2翫窺一3肋窮,IO才児で32窺π一 3働鋸,8才児で36鰯一4肋鋸の間に存在しており,児童の未分化な知覚が年令とともに分化 すると考察されているが,本研究では幼児24灘一28瀦勉,大学生では28%π一32伽の円隔に存 在しており,大学生に関しては全く一致している。しかし,年少の被験者(本研究では6 才児であり,一丸では8才児と10才児)では方向が逆になっている。

 移行点に関して注目すべきもう一つの結果は性差が生じたことである。すなわち男性が 女性より円間隔がより小の時に移行点は存在し,男児は2脇彫一2翫彫,男子大学生24π%一28 勉物,女児2翫π一32灘,女子学生で3肋寵一36捌であった。

 しかし,本研究の被験者は幼児と大学生の2群だけであり,小学生,中学生,高校生な どの被験者を加えて,さらに段階をこまかく埋めてゆくことが必要であり,それによって はじめて発達的傾向は明らかにされるであろう。

 今後検討すべき点としては次のことが考えられる。一丸(1967)では標準刺激の大きさ によって負の錯視の結果が異なっており,正の錯視から負の錯視への移行点も図形が小さ いと円隔が大の方へずれている。なぜこのように標準刺激の大きさにより異なった結果を 生じるのか。さらに,図形の線の太さも錯視量に当然影響を及ぼすと考えられるし,対比

(6)

効果に関係するように推測されるが,今後検討される必要がある。発達的研究としては,

幼児と大学生だけでなく多くの発達的段階の児童や青年(思春期など)の被験者をも含め たよりきめの細い研究が行われてはじめて発達的方向が明らかにされるであろう。

要 約

 平井(1974)において負の錯視量が殆んど現われず発達的にも一貫した結果が得られな かったので,本研究は負の錯視を重点的にとり出し,よりきめの細いものさしで測定する ことにより非常に値の小さい負の錯視の錯視量を正確に測定し,負の錯視量や正の錯視か ら負の錯視への移行点に関して発達的な変化を明らかにする目的で行われた。

 被験者は幼児20名,男女10名ずつで平均年令は6才3ヵ月と,大学生20名,男女10名ず つ,平均年令20才8ヨ月であった。

 刺激材料は標準刺激として八鹿の直径が32纏の円で外山との間隔が1伽卿から5肋%まで4 勿鋸ごとに増大していく10段階が設定された。変化刺激は予想される主観的等価点を中心と

して0.肋%ステップで変化する11個の単独円であった。なお,刺激の呈示は極限法により 行われ,反応は2件法によって求められた。

 その結果,負の錯視量は幼児が大学生より有意に大きくPiaget et ale.(1942)の結果 を支持し,一丸(1967)やSantostefano(1963)の結果と相容れなかった。正の錯視か ら負の錯視への移行点に関しても幼児と大学生の間にはっきりした相違は見いだされなか

った。

 これらの結果は場の一次効果によって正の錯視も負の錯視も生じるというピアジェの説 を支持し,負の錯視は正の錯視と発生,成立の過程を異にし,分節がすすむにつれて埋設 された部分をとり出すことが可能となり,図形の部分間の分節による関係把握によって新 たに生ずるというウェルナーに基づいた一丸の考察と相容れない結果を示した。

 しかし,発達的研究としては幼児と大学生だけでなく,その中間の児童や青年の段階を きめ細かくとって実験が行われてはじめて発達的傾向は明らかにされるであろうというこ とが言及された。

 付記 本研究の実施に協力していただいた長崎大学教育学部附属幼稚園,ならびに実験 に骨を折っていただいた長崎大学教育学部心理選修の学生小島明君に記して謝意をあらわ

します。

Giering, H.1905 Das Augenmass bei Schulkindern. Z. f. Psycho王.,39,42−87.

平井 誠也 1974 同心円錯視の発達的研究 長崎大学教育学部教育科学研究報告 第21号,61−68.

一丸藤太郎 1967 同心円錯視に関する発達的研究 広島大学大学院教育学研究科 修士論文抄,

    98一ユ01.

村瀬 章男 1968幾何学的錯視の発達的研究 日本心理学会第32回大会発表論文集,142.

Piaget, J.,Lambercier, M., Boesch, E.,&Albertini, B.,1942. Introduction a 1     ¢tude des perceptions chez 1 enfant et anaユyse d une illusion relative a la     perception visuelle de cercles concerltrique. Arch. de Psycho1.,29,1−107.

R茸sse1, A.1934 Ein erltwicklungs Psychologischer optischen Tauschungen. Arct. ges,

(7)

        Psychol., 91, 289‑304.

Santostefano, S. A developmental study of the delboeuf illusion. Percep. & motor         Skill, 1963, 17, 23‑29.

Vurpillot, E. 1963 L'organisation Perceptive: Son r61e g6om6triques. Paris Vrin.

Wapner, S. & Werner H. 19s7 Perceptual development: An investigation within the         framework of sensory‑tonic‑field theory. Worcester: Clark Univ. Press.

参照

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