東医大誌 74(4): 382-387, 2016
特 別 講 演
胆管癌手術に対する安全性と根治性の追求 The pursuit of safety and curability for
the operation of bile duct carcinoma
鈴 木 修 司 Shuji SUZUKI
東京医科大学消化器外科学分野 茨城医療センター消化器外科
Department of Gastroenterological Surgery, Ibaraki Medical Center, Tokyo Medical University
【要旨】 胆管癌は今日でも難治癌のひとつで、外科切除が治癒を望める唯一の治療法であることは変 わらず、切除症例の5年生存率は肝門部領域で約25%前後、遠位で約40%前後と未だ予後不良である。
肝門部領域胆管癌の外科的治療成績は以前では大量肝切除によって肝不全や感染症の発生、血管合併 切除による合併症によりmortalityの高い手術となり、手術成績も不良であった。しかし、近年になり 治療成績は、飛躍的な進歩を遂げてきた。これには外科手術手技の向上だけではなく、各種画像診断 技術の進歩、大量肝切除術前の門脈枝塞栓術の積極的導入、血管再建手技の改善、周術期管理の改善 などの寄与するところが大きい。画層診断の進歩による根治性の向上とともに、手術の安全性の向上 による術後adjuvant chemotherapyの最近の研究により治療成績の向上が図られている。遠位胆管癌の 外科的治療成績は以前では膵頭十二指腸切除手術の安全性が確立されておらず、やはりmortality、
morbidityの高い手術であった。しかし、近年では膵頭十二指腸切除手術の手技が安定し、安全性が著
明に向上したため、早期に術後adjuvant chemotherapyを行えるようになり、成績向上を認めるように なってきた。胆管癌は未だ難治癌のひとつであるものの、外科的治療成績は安全性、根治性の向上に て著明に改善傾向であるものの未だ満足いく結果となっておらず、さらなる集学的治療、外科治療の 改善を図っていくべき疾患である。
2016年6月4日 第177回東京医科大学医学会総会における特別講演
キーワード: 肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌、門脈塞栓術、胆管炎、膵頭十二指腸切除
(別冊請求先: 〒300-0395 茨城県稲敷郡阿見町中央3-20-1 東京医科大学茨城医療センター消化器外科)
Email : ssuzuki@tokyo-med.ac.jp は じ め に
がんはわが国では
1981年から死因の第
1位で、
最近では総死亡の約
3割を占めている。部位別では 胆道癌は
1985年以降男女とも減少傾向である
1)。 わが国のがん死亡数の
2014年推計値は、約
36万
7,000人であった(男性
21万
8,000人、女性
15万 人)
1)。部位別の死亡数は、男性では肺が最も多く
がん死亡全体の
25%を占め、次いで胃(15%)、大 腸(12%)、肝臓(9%)、膵臓(7%)の順で、胆道
癌は
9,500人(4%)8 位であった一方、女性では大
腸が最も多く(15%)、次いで、肺(14%)、胃(12%)、
膵臓(11%)、乳房(9%)の順で、胆道癌
9,700人(6%)
6
位であった。また、わが国のがん罹患数の
2014年推計値は、約
88 万2,000例であった(男性
50万
2,000人、 女 性
38万 人 )
1)。 部 位 別 で は 男 性 で 胃
(18%)、肺(18%)、前立腺(15%)、大腸(15%)、
肝臓(6%)の順で、胆道癌
13,700(3%)11位であっ た。女性で乳房(23%)、大腸(15%)、胃(11%)、
肺(10%)、子宮(7%)の順で、胆道癌
12,700(3%)8
位であった
1)。
Miyakawa
らの
1998-2004年までの全国集計の解 析では胆道癌切除後
5年生存率は、胆管癌
33.1%、 胆嚢癌
41.6%、十二指腸乳頭部癌52.8%であった
2)。 胆管癌部位別の
5年生存率では肝門部領域胆管癌
28.6%、遠位胆管癌32.7%であった
2)。その当時の
海外の
high volume施設の論文では肝門部領域胆管
癌
11.0-25.6%3-6)、遠位胆管癌
21.0-27.0%で
7-10)で、
日本の成績の方が良好であった。
一方、Ishihara らの
2008-2013年までの全国集計 の解析では胆道癌切除後
5生率では肝門部領域胆管 癌は
24.2%、遠位胆管癌は39.1%で
11)、1998
-2004年までの全国集計とは大きな差は認めなかった。こ れは、この領域は外科切除が治癒を望める唯一の治 療法であるため、手術手技、化学療法、放射線療法 の進歩により、手術適応は拡大傾向にあり、より進 行した症例も手術を施行している背景もある。手術 適応の拡大と手術の安全性向上は相反する命題であ るもののその両立を追及することはこの領域には重 要である。本稿では肝門部領域胆管癌、遠位胆管癌 にわけてこれまでの進歩、今後の課題につき概説す る。
1. 肝門部領域胆管癌
1980
年代から
1990年代初頭までは肝門部領域胆 管癌に対する手術は平均出血量も
4,000〜5,000 mlと非常に多く、術後肝不全も
20-30%に認め、在院 死亡率も
10%を超える時代であった
12)13)。術後肝 不全の原因として
1)術前胆管炎の存在、
2)残肝 容積の不足、3)残肝機能低下などがあげられた。
このため、在院死亡減少のため対策が講じられた。
1) 術前胆管炎対策
それまで大量肝切除施行した症例の解析から術前 胆管炎が術後肝不全の有意な要因の一つとされ た
14-16)。閉塞性黄疸に対しては東京女子医科大学の 高田らによる世界で初めて成功した経皮的アプロー チによる
PTBD(percutaneus transhepatic biliary drain-age)が従来は頻用されていた17)
。これは閉塞部位
の上流にドレナージチューブを比較的容易に超音波 ガイド下または胆管造影後レントゲン直視下に挿入
できる点、複数本が留置でき、徹底した胆管炎を起 こした胆管をドレナージできる点が有用であると考 えられていた。しかしながら
PTBDは、経皮経肝 による観血的手技であり、門脈/動脈穿刺による出 血や血栓、胆汁性腹膜炎などの偶発症の危険がある ことが指摘されていた
18)。また、PTBD 施行後の癌 性腹膜炎や穿刺ルートへの播種は
5.2%にのぼり、
予後も不良とされ、ERCP 手技の発展により、術前 胆道ドレナージは、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ
(Endoscopic nasobiliary drainage、
ENBD)による片側ドレナージが第一選択となってきている
19)。
2) 残肝容積・機能低下対策
残肝容積不足、残肝機能低下を改善させる目的に
1982年から幕内らは切除肝側の門脈塞栓術を開始 し、残肝の肥大、機能改善をはかった
20)。その後残 肝容積の拡大、切除率の向上に寄与することがわ かったため、予備能改善の標準治療となった
21-23)。 門脈塞栓により早期から塞栓した部位は動脈優位と なって、肝網内系機能が亢進することなどがわかっ てきた
23)24)。さらに広範囲肝切除を伴う胆道癌にお いて膵頭十二指腸切除を付加しても残肝再生・機能 改善を認めることがわかり、拡大手術の安全性が示 された
25)。
最近、手術適応は拡大傾向で、術式も肝葉切除以 上の肝切除を伴う術式がほとんど占める様になって きている(図
1、2)。さらに肝切除に加えて行う合図1 77歳、女性 MRCP検査: 左肝管から上部胆管、左 右分岐部まで達する狭窄を示し、Bismuth IVである
併切除、即ち膵頭十二指腸切除の併施や脈管の切除・
再建の頻度も年々増加傾向となっているが、在院死 亡も
2-3%程度と減少傾向となっている
12)。
しかし、肝門部領域胆管癌は進行して発見される ことも多く、stage II 以上も多いことから未だ難治 癌と考えられる(グラフ
1)。化学療法の奏功が良 くないことから、手術の
benefitは十分にある疾患 であることから、安全性とともに根治性を高めた手 術が未だ模索されている。
2. 遠位胆管癌
遠位胆管癌の基本根治手術は膵頭十二指腸切除で ある。その歴史は
1935年
Whippleが膵頭十二指腸 切除を十二指腸乳頭部癌に施行したことに始ま り
26)、遠位胆管癌治療へと広がった。胆管癌の多く は正常膵であるため、膵頭十二指腸切除の安全性は 膵液瘻が問題となることが多い。膵液瘻は
gradeCのような重篤な状態に至ると出血や敗血症となり、
在院死亡につながることが多くなる。このため、安 全確実な吻合法の確立が重要であり、その工夫がな されてきた。膵と消化管再建には、膵胃吻合
27)、ス テントのある膵空腸密着縫合
28)、ステントのない膵 空腸吻合
29)30)(表
1)、膵空腸を面状に密着させる方法
31)などがなされ、より安全で早期に退院できる 様になり、問題となる膵液瘻
gradeB/Cは
high vol- ume centerでは
10%を切るようになった。
Ishihara
らの
2008-2013年までの全国集計の解析 では遠位胆管癌の
5年生存率は
39.1%と、1998
- 2004年までの全国集計に比してあまり差は認めな
かった
11)(グラフ
2)。遠位胆管癌の予後の改善には外科治療法はほぼ確立された標準術式となってお り、集学的治療が必要と考えられる(図
3、4)。我々は胆道癌における腫瘍内核酸代謝関連酵素発 現について検討したが、胆道癌は胃癌、大腸癌に比
して
DPD、TPは有意に高く、DPD 活性を抑えた抗
図2 77歳、女性 肝門部領域胆管癌に対して拡大左葉尾 状葉切除、胆道再建(前区域、後区域2本再建)後
グラフ1 肝門部領域胆管癌のstage別5年生存率(文献11から引用)
がん剤は有効であると考えられるが(グラフ
3)、TP
活性が高いため、その効果は他の癌に比し、減 弱する可能性を報告した
32)。これまで胆道癌に対す る術後補助化学療法は
2つの
Randomized Controlled Trial(RCT)しかない。一つは
Takadaらによる胆道癌に対する
5-FUと
mitomycinC
併用療法による術後補助化学療法群と
手術単独群の
RCTであった
33)。しかし、非治癒切 除の胆嚢癌のみ若干の有用性を認めたが、胆管癌、
十二指腸乳頭部では有意差は認めない
negative studyであった
33)。またもう一つは
ESPAC-3による手術 単独群、
gemcitabine併用群、
5FU+folinic acid静注 群による RCT であったが、各群に有意差は認めな
かった
34)。但し、多変量解析では術後補助化学療法 が予後因子において
survival benefitを示した。我々 も
retrospective研究において乳頭部癌・遠位胆管癌 症例の
stage IIでは術後
gemcitabine投薬により手術 単独群よりも
disease control rate、overall survivalで 有意差な延長効果を認めた
35)。しかし、RCT の結 果ではないため、
large sizeのコホート研究結果が待 たれる。
胆管癌は未だ難治癌のひとつであるものの、外科 的治療成績は安全性、根治性の向上にて著明に改善 傾向であるものの未だ満足いく結果となっておら ず、さらなる集学的治療、外科治療の改善を図って いくべき疾患であると考えられ、更なる研究継続が
グラフ2 遠位胆管癌のstage別5年生存率(文献11から引用)表1 ステントのある膵腸吻合群(A)とステントのない膵腸吻合群(B)の比較で、膵液瘻には差が認め ない。(文献30より引用)
group A
(n=49) group B
(n=72) p value Morbidity rate (%)
Complications
16(32.7) 11(15.3) p<0.05 Pancreatic fistula (%) 3(6.1) 1(1.4) NS Delayed gastric emptying (%) 7(14.3) 2(2.8) p<0.05 Remnant pancreatitis (%) 3(6.1) 1(1.4) NS Intra-abdominal abscess (%) 1(2) 4(5.6) NS Postpancreatectomy hemorrhage (%) 1(2) 0(0) NS Mortality rate (%) 1(2) 1(1.4) NS Hospital days (day) 48.5 26.7 p<0.05
NS=non-significant
必要である。
文 献
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