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文学作品の読解における交流方略の獲得

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文学作品の読解における交流方略の獲得

魚沼市立広神西小学校 武 田 純 弥

1.はじめに

吉田裕久・山元隆春ら(2009:116)は、文学の読みのモードを以下の 3 つに整理してい る。

①〈情報駆動〉の読み:読者の主たるゴールがテクストから学んだり,情報を引き出すこ とにある読み。

②〈物語内容駆動〉の読み:テクストの叙述の細部に余計な注意を払わず,物語の出来事, 登場人物,設定に没入する読み。

③〈要点駆動〉の読み:その物語や文章が「語りうるもの」となるためのプラン(要点)を 抱いていると想定しながら読む読み。

また、山元隆春(2005:663)は、「コミュニケーション行為としての文学教育で目指すのは

〈話し合い〉によって学習者のテクスト理解を〈情報駆動〉〈物語内容駆動〉のものから

〈要点駆動〉のものへと展開させていくということである」と述べている。つまり、文学 教育においては、学習者の読みのモードを〈要点駆動〉の読みへと誘うことが重要である。

吉田裕久・山元隆春ら(2008:200)は、〈要点駆動〉の読みについて、「「結束性を求める読 み」(結束性方略)であり、「叙述の特徴に目を向け」(表層方略)、「書き手と交渉するよう に読む」(交流方略)という特徴をそなえている」(( )内稿者注)と述べている。つまり、こ の3つの方略によって、学習者が〈要点駆動〉の読みへと誘われたか否かが特徴づけられ る。しかし、武田純弥(2020:28-31)では、授業実践の分析において、「〈物語内容駆動〉の 読みが形成され、その形成過程において、すでに結束性方略が獲得されて」いる可能性が あると述べている。また、その一要因として、「作品の主題にかかわる最後の一文を部分 テクストとして指定し、登場人物に寄り添った〈問い〉」をあげている。しかし、その詳 細に関しては、触れておらず、「(〈要点駆動〉の読みを特徴づける:稿者)3つの方略が読 みの形成過程においてどのように獲得されていくのか今後検討し」たいと述べるにとどま っている。この論に基づけば、〈要点駆動〉の読みを特徴づける3つの方略の獲得は、同時 進行的に起こるとは限らず、その獲得過程は、学習者個々の読みの内実によって異なる可 能性がある。本稿では、武田(2020)が示す「作品の主題にかかわる一文を部分テクストと して指定し、登場人物に寄り添った〈問い〉」(一部修正)によって、3つの方略がどのよ うに獲得されるのか臨床的に検討したい。

2.研究目的

小学校3年生、6年生、及び中学校1年生の各発達段階の学習者に、「作品の主題にかか わる一文を部分テクストとして指定し、登場人物に寄り添った〈問い〉」を提示する。提 示した〈問い〉における学習者の読みの質的分析を通して、このような〈問い〉によって 3つの方略は獲得されるのか検証し、読みのモードと3つの方略の関係性について知見を

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得ることを本研究の目的とする。

3.研究方法

3.1.分析対象と検証方法

山元隆春(2005)は、小学校4年生は〈見物人的スタンス〉獲得の移行期にあるとし、「〈見 物人的スタンス〉に立つことができるようになることと〈要点駆動〉の理解が可能になる ということの両者は、共起することであるように思われる」と述べている。つまり、小学 校3年生までは〈要点駆動〉の読みを展開するという経験は乏しいと想定される。そこで、

本研究では〈見物人的スタンス〉及び〈要点駆動〉の読み未獲得であると思われる小学校3 年生を含め、さらに、小学校高学年、中学校の各発達段階の学習者を分析対象とする。な お、授業者はすべて稿者である。また、全授業共通して〈問い〉の提示、個人思考、全体 共有、振り返り、を1過程として設定し、この過程を1単位時間内に限定して行った。

各実践において、「作品の主題にかかわる一文を部分テクストとして指定し、登場人物 に寄り添った〈問い〉」を提示する。提示した〈問い〉に対する学習者の記述、振り返り の記述、及び授業内全体共有時の学習者の発話をトランスクライブした発話プロトコルを データとして用いる。なお、プロトコル書式は、松本修(2015:5)に準じる。

学習者の発話とワークシートの記述に基づいて、学習者の読みの形成過程を山元隆春 (2005:653-654)が示す〈要点駆動〉の読みを特徴づける3つの方略(結束性方略、物語表層 方略、交流方略)の観点から分析し、提示した〈問い〉における読みのモードと3つの方 略の関係性について検討する。

3.2.〈問い〉の検討

松本修(2015:44)は「読みの交流を促す〈問い〉の要件」を以下の5つに整理している。

a 表層への着目:テクストの表層的特徴に着目する〈問い〉であること

b 部分テクストへの着目:部分テクストが指定されていることによって、読みのリ ソースの共有がなされていること

c 一貫性方略の共有:部分テクストが他の部分テクストや全体構造との関係の中で 説明されるという解釈の一貫性方略(結束性方略)が共有されていること

d 読みの多様性の保障:読み手によって解釈が異なるという読みの多様性に開かれ ていること

e テクストの本質への着目:想定される作者との対話を可能にするようなテクスト の勘所にかかわるものであること

本研究における対象教材は、「少年の日の思い出(中学校1年生)」、『つみきのいえ(小学 校6年生)』、『きつねのおきゃくさま(小学校3年生)』、の3つである。作成した〈問い〉に ついて、この要件に基づいて検討する。(〈問い〉の検討にあたっては、桃原千英子(2008)、

西田太郎(2016)、松本修・佐藤多佳子(2016)を参照した。)

「少年の日の思い出(中学校1年生)」の〈問い〉

〈問い〉僕がちょうを指で粉々に押しつぶしてしまったのはなぜか。

要件 理由 要件の充足

a.表層への着目 最後の一文というテクストの表層的な特徴に ○

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着目している。

b.部分テクストへの着目 着目する部分テクストを指定している。 ○

c.一貫性方略の共有 部分テクストが他の部分テクストや全体の構

造との関係の中で説明されるという解釈の一 〇 貫性方略が共有されている。

d.読みの多様性の保障 読み手によって解釈が異なるという読みの多 ○

様性に開かれている。

e.テクストの本質への着目 「ちょうを指で粉々に押しつぶす」という作 〇

品の勘所を指定している。

『つみきのいえ(小学校6年生)』の〈問い〉

〈問い〉おじいさんは、なぜタンポポをみてわらったのでしょうか

要件 理由 要件の充足

a.表層への着目 テクストの表層的な特徴に着目している。 ○

b.部分テクストへの着目 着目する部分テクストを指定している。 ○

c.一貫性方略の共有 部分テクストが他の部分テクストや全体の構

造との関係の中で説明されるという解釈の一 △ 貫性方略が共有されている。一方で、限定し

た場面状況や、状況の文脈に依存した読みに とどまる可能性がある。

d.読みの多様性の保障 読み手によって解釈が異なるという読みの多 ○

様性に開かれている。

e.テクストの本質への着目 象徴的なものにかかわる〈問い〉であり、想 〇

定される作者との対話を可能にするようなテ クストの勘所を指定している。

『きつねのおきゃくさま(小学校3年生)』の〈問い〉

〈問い〉きつねは、なぜ「はずかしそうにわらって」しんだのでしょうか

要件 理由 要件の充足

a.表層への着目 「はずかしそうにわらう」という表現の意味 ○

にかかわり、表層の特徴に着目する問いであ る。

b.部分テクストへの着目 「はずかしそうにわらってしんだ」という部 ○

分テクストが指定されている。

c.一貫性方略の共有 「はずかしそう」「わらって」というそれぞ 〇

れの意味づけによりテクスト全体にかかわ る。

d.読みの多様性の保障 すでに指摘したようないくつかの読みが想定 ○

される。

e.テクストの本質への着目 テクストに対する読みの違いが鮮明になる重 〇

要な表現であり、勘所にかかわる。

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作成した〈問い〉を比較検討すると、全ての〈問い〉が登場人物を主語に求められるた め、登場人物に寄り添った形式で問われている。また、eの要件の検討から明らかなよう に、全ての〈問い〉がテクストの勘所を指定している。したがって、作成した〈問い〉は 理論上、「作品の主題にかかわる一文を部分テクストとして指定し、登場人物に寄り添っ た〈問い〉」という条件を満たす〈問い〉であるといえる。

4.授業の実際 4.1.検証授業①

4.1.1.対象と実施期間

○期間 2020年1月

○対象 公立中学校1年生(24名)

○教材 「少年の日の思い出」ヘルマン・ヘッセ(『国語1』光村図書) 4.1.2.〈問い〉に対する学習者の記述の分析

〈問い〉「ぼくがちょうを粉々に押しつぶしてしまったのはなぜか」を提示し、学習者 に〈問い〉に対する読みとその根拠を自由記述の形式でまとめさせた。図1は学習者Ts、

図2は学習者Mnが実際に記述したワークシートである。

学習者Tsは、〈問い〉に対する読みとして「エーミールのちょうを盗みこわした僕は自 分にはちょうを集める意味がないと思った。」と記述している。登場人物である僕の心情 に強く寄り添っており、〈物語内容駆動〉の読みである。この読みの根拠として、登場人 物である僕の心情を表現した叙述を抜き出し、矢印を使って時系列順に整理している。さ らに、四角囲みで分類している。つまり、作品の部分テクストと部分テクストのつながり から結束性を生み出し、自己の読みを構築している。従って、結束性方略にかかわる記述 と認められる。ただし、この段階では僕の心情に強く寄り添い、叙述を結束させている。

いわば、ストーリのレベルでの結束にとどまっており、作品のプロットを読むような読み 方とはいえない。

学習者Mnは、上段に根拠となる叙述、下段にそこから読み取れる僕の心情を記述して いる。学習者Mnは、根拠となる叙述に基づいて、読み取った心情を矢印を用いて時系列 順に整理してまとめ、「ちょうには、申し訳ないが早く楽になりたい(自分が)」→「だっ たら思い出のものを消せばいい」と自己の読みを記述している。複数の部分テクストを根 拠にあげ、そこから読み取れる心情を矢印でつなげ、読みを構築していることから、結束 性方略にかかわる記述であるといえる。

学習者Ts、Mn両名とも、最後の一文という表層的な特徴に着目し、その叙述の特徴に 基づいて読みを形成していることから表層方略も獲得されていると考える。また、Mnの 記述は、少年の日の「思い出」を自ら消すという題名にかかわる作品のしかけにかかわっ ており、交流方略を念頭においた読みといえよう。

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図1 学習者Tsのワークシート

図2 学習者Mnのワークシート 4.2.検証授業②

4.2.1.対象と実施期間

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○期間 2019年11月

○対象 公立小学校6年生(13名)

○教材 『つみきのいえ』加藤久仁生:絵・平田研也:文 4.2.2.〈問い〉に対する学習者の記述と発話の分析

〈問い〉おじいさんはなぜタンポポをみてわらったのでしょうか

・学習者Mrの記述

海の上にすんでいるから、天然の花を見るのはめずらしい。理由は花は海の上にはさか ないし、花の船から買うことはできるけど何もしないで天然の花を見るのはめったにな いから。

・学習者Akの記述

タンポポを見ると、おばあさんを思い出す。春におばあさんとの楽しい思い出があって タンポポを見たらおばあさんのことを思い出した。

・学習者Yhの記述

おばあさんが3年前の春に亡くなって、おじいさんの家が完成したのが春だったから、

タンポポがおばあさんだと思ったから。

全体共有時の発話 T:どんなのでた?

Mr:えっと、海の上に住んでるから、天然の花を見るのがめずらしかったから。

T:あ::天然の花を見るのがめずらしかったから。あ::なるほどね。なんで天然の花 は珍しいんだろ?

Mr:えっと、なんだっけ、どっかに::おはなやさんのふねって書いてあったから、そ れで、おはなやさんのふねは、生えてるのをとって、そっから売り出すから、だから::

自然と生えてる花を見ることは海の上では、ほぼほぼないから、だから珍しいから。

T:あ::なるほどね、じゃあおじいさんはいつも花を見るときは=

Mr:=たぶん買って見てた。

((中略)) T:他どうですか?あ、じゃあはいどうぞ。

Yy:もぐって、もぐって、おばあさんとの思い出を思い出したあとにタンポポを見たか ら、タンポポがおばあさんの笑顔に見えた。

T:あ::タンポポがおばあさんの笑顔に見えたんだ。なるほどね::あ、似てる?どう ぞ。

Ak:タンポポがおばあさんってところは一緒で、もぐっておばあさんとの思い出を思い 出して、はるにおばあさんとの思い出があって、それで、タンポポを見たら::おばあさ んとの思い出を思い出したから。

((中略)) T:あ、じゃ、はい。どうぞ。

Yh:おばあさんが亡くなったのが3年前のはるで、おじいさんの家が完成したのも春だっ たから、タンポポをみておばあさんが帰ってきたと思ったから。

T:なるほどね::おばあさんが亡くなったのも3年前の春だったんだ。

Mr:お::すげ::ほんとだ3年前って書いてある。

T:どこかに書いてあった?

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Mr:3年前のはるに亡くなって、その思い出を思い出したから、おばあさんみたい。

T2:さえてるね::

Mr:さえてるマン。

学習者Mrは、おじいさんの心情に強く寄り添っており、〈物語内容駆動〉の読みである といえる。一方で、学習者Ak、Yhは、「タンポポをみたらおばあさんのことを思い出した」

「タンポポがおばあさん」と記述している。つまり、「タンポポ」を「おばあさんの象徴」

として読んでいる。このことから、学習者Ak、Yhは、おじいさんの心情に寄り添い〈物 語内容〉を駆動させながら、この物語が語りうるものとなるための〈要点〉も駆動させて いると考える。作品のしかけとしての「タンポポ」の存在意義を意味づけていることから、

交流方略を念頭に置いた読みとも考えられる。学習者Mrは全体共有の中で「おはなやさ んのふねって書いてあったから、それで、おはなやさんおふねは、生えてるのをとって、

そっから売り出すから、だから::自然と生えてる花を見ることは海の上では、ほぼほぼ ないから」と発話している。「おはなやさんのふね」という部分テクストと自身がもつ状 況の文脈を指定された部分テクストとの関係から説明しており、結束性方略にかかわる発 話といえる。ただし、この段階では、結束させるテクストが限定的であり、一貫性を築く ものとは言い切れない。

学習者Akは自身の読みについて、「もぐっておばあさんとの思い出を思い出して、はる におばあさんとの思い出があって、それで、タンポポを見たら::おばあさんとの思い出 を思い出したから。」と発話している。回想場面におけるはるの思い出と結末場面の季節 がはるであることを結束させ、読みの形成に至っている。全体構造や部分テクストとの関 連の中で読みを形成しており、結束性方略にかかわる発話であるといえる。また、学習者Yh は「おばあさんが亡くなったのが3年前のはるで」と発話している。しかし、実際のテク ストでは「おばあさんが3年前に亡くなったこと」と「おばあさんがはるのひに亡くなっ たこと」は別々の場面として描かれている。つまり、学習者Yhはいくつかの場面や部分 テクストと結末場面を結束させて「3年前のはるに亡くなった」という読みを形成してお り、結束性方略にかかわる発話であるといえる。また、学習者Mrの「3年前のはるに亡く なって、その思い出を思い出したから、おばあさんみたい」という発話はYhの発話を受 けて結束させるテクストや場面を増やし、自身の読みをメタ的に変容させている姿である。

4.3.検証授業③

4.3.1.対象と実施期間

○期間 2020年4月

○対象 公立小学校3年生(18名)

○教材 『きつねのおきゃくさま』あまんきみこ

4.3.2.〈問い〉に対する学習者の記述と発話の分析

〈問い〉きつねはなぜ「はずかしそうにわらって」しんだのでしょうか

・学習者Yaの記述

せっかくたべようと思ってふとらせてたのに、やさしいとかしんせつとか言われて、自 分からたたかって、みんなをまもって、けっきょく食べられなかったからはずかしそう にわらってしんだと思いました。

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・学習者Ohの記述

ひよこたちといっしょにくらしているうちにあいちゃくがわいてきて「なんで食べよう としたんだろう。」という気もちがあったからはずかしくてわらってしんだんだと思い ます。なんでそう思ったかというと「親せつなお兄ちゃん。」とか「かみさまみたいな お兄ちゃん。」と言われたからあいちゃくがわいたんだと思いました。

・学習者Yrの記述

ひよこたちに「やさしい」とか「しんせつ」とかいわれてはずかしくて、それでおおか みがにげていったからおいはらって、これでやっとめしが食えるとおもってわらってし んだ。

全体共有時の発話

Yr:わたしはひよこたちにやさしいとか、親せつとかいわれてはずかしくて、それでお おかみがにげていったからおいはらって、勝った、と思って、やっとめしが、く、え、る、

みたいな感じでわらってしんだと思いました。

T:きつねはおおかみに勝ったんだ=

Nn:=勝ったんだよ。

((全体の賛同)) T:あ::そうなんだ、なんで?

Nn:だってさ::じつにじつにいさましかったぜって言ってるからさ、あのさ、こうさ んっていみだからさ::おおかみは負けたって認めてる。

T:なるほどね::ごめんねYrさんいいよ。

Yr:Yaさんどうぞ。

Ya:えっと::せっかく食べようと思って太らせたのに、やさしいとかしんせつとか言 われて、自分からたたかって::みんなをまもって、けっきょく食べられなかったから、

はずかしそうにわらってしんだと思いました。

T:食べられなかったから、はずかしそうにわらってしんだんだね。

Ya:うん::なんか::さいしょは、太らせて食べようとしてて、わるいやつなんだけ ど、だんだんいいやつになってきて::みんなをまもろうとしてたたかったから::う:

:ん、なんて言うんだろう。

T:あ::だんだんいいやつになってきたんだ。あ、しゃべりたい?はい、いいよ。

Oh:Yaさんのに似てるかわかんないんだけど、親せつとかやさしいとか、あと::かみ さまみたいとか言われたから、「なんで食べようとしたんだろ」みたいに思ったんじゃな いかなって思いました。Nnさんどうぞ。

Nn:えっとさ、だってさ::最初は、よしよし、おれのうちにきなよとか言って、ほんと に食べようとしてたのにさ、ほんとに親せつにそだててるからほんとに親せつになったん じゃないかなって思いました。

T:どう?Yaさん納得?

Ya:ん::まあ、そんな感じ。

学習者Yaは、「せっかくたべようと思ってふとらせたのに」と記述している。登場人物 であるきつねの心情に寄り添って記述をしており〈物語内容駆動〉の読みを展開している といえる。同様に、学習者Ohの「ひよこたちといっしょにくらしているうちにあいちゃ くがわいてきて」という記述、学習者Yrの「これでやっとめしが食えるとおもって」と

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いう記述は、登場人物であるきつねの心情に強く寄り添っており、〈物語内容駆動〉の読 みを展開しているといえる。その読みを共有する過程において学習者は、「やさしい」や

「親せつ」、「かみさまみたい」などほかの動物たちの立場からみた、登場人物であるきつ ねの様子を表す部分テクストをリソースとして共有し、結束させている。すなわち、結束 性方略にかかわる発話といえる。 また、学習者Yaは「さいしょは太らせて食べようと しててわるいやつなんだけど、だんだんいいやつになってきて::みんなをまもろうとし てたたかったから::」と発話しており、きつねという登場人物の心情の変化を作品の全 体構造の中から捉えようとしている。ただし、この段階では読みの根拠となる部分テクス トを明確にしていない。学習者Nnの「最初は、よしよし、おれのうちにきなよとか言っ て、ほんとに食べようとしてたのにさ、ほんとに親せつにそだててるからほんとに親切に なったんじゃないかなって思いました」という発言をうけて学習者Yaは「あ:うん。ま あ、そんな感じ」と発話している。学習者Nnが取りあげた「よしよし、おれのうちにき なよ」、「親せつだった」などの部分テクストと自己の読みを結束させることで学習者Ya は自身の読みをより一貫性の高いものへとメタ的に変容させていると考えられる。多くの 学習者が取り上げた「かみさまみたい」や「親せつ」という表現は、ほかの動物からみた、

きつねの印象ときつね自身が抱く自身の印象との乖離を特徴的に描き出した表現であり、

この物語が語りうるものとなるための〈要点〉にかかわる表層的な特徴ともいえる。3名 の学習者は「ひよこ」や「あひる」などの保護者としての「きつね」の存在と捕食者とし ての「きつね」の存在のダブルバインドによるアイロニーを読んでおり、登場人物に焦点 を当てた〈物語内容〉を駆動させつつ、この物語が語りうるものとなるための〈要点〉も 同時に駆動させていると考える。

4.3.3.振り返りの分析

・学習者Yrの振り返り

なぜはずかしそうにわらってしんだのかがよくわかりました。だけど、ほんとの心の中 のきもちもわたしはずるいしやさしいんじゃんかと思いました。「まるまるふとってき たぜ」とかきつねのことばみたいだけどほんとはナレーターとかしんじつがわかりまし た。ものがたりはながかったけどそれぞれのやくになりきりながらよめました。

・学習者Ohの振り返り

きつねはさいしょはいじわるだったのにだんだんやさしくなってきていいと思いまし た。きつねの気もちとかさいしょはきつねのセリフだと思っていたけど、語り手がきつ ねの気もちまで言ってておもしろかったです。

2名の学習者は「語り手」に着目した振り返りを記述した学習者である。学習者Yrは語

り手の存在を「ナレーター」という自身の文脈で記述している。「きつねのことばみたい だけどほんとはナレーター」という記述から、描出表現をきつねに寄り添った語り手によ る語りだと判断している。一方で、「それぞれのやくになりきりながらよめました」と記 述している。つまり、学習者Yrは、語り手を登場人物のひとりとして物語世界の中に位 置付けていると推察される。また、学習者Ohは「きつねの気もちとかさいしょはきつね のセリフだと思っていたけど、語り手がきつねの気もちまで言ってておもしろかったです」

と記述しており、語り手の存在は意識しているものの、物語世界の内部にその存在を位置 付けていると推察される。つまり、両者ともに、語り手という存在の意識は芽生えている ものの、参加者的スタンスから見物人的スタンスへの移行はしていないと考えられる。し

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かし、前述の通り両者ともにダブルバインド状況におかれたきつねのアイロニーを読んで いる。きつねをなぜ「はずかしそうに」「わらって」死なせたのか、という作品のしかけ とその意味を検討していることから、参加者的スタンスにありながら、交流方略を念頭に 置いた読みを形成していると考える。

5.総合考察

以上、3つの授業実践における学習者の記述と発話について検討してきた。設定した〈問

い〉によって、各発達段階の学習者ともに、登場人物に強く寄り添い、〈物語内容〉を駆 動させる姿が見られた。しかし、その読みの形成過程においては、題名にかかわる作品の しかけを読む、「象徴」を読む、登場人物のダブルバインド状況というしかけを読む、と いった交流方略を念頭に置いた読みの形成が見られた。参加者的スタンスから見物人的ス タンスへの移行期である小学校段階の学習者では特に、交流方略は、登場人物のなかに内 包された形で表出される場合があると考える。つまり、参加者的スタンスの段階でも〈要 点〉は駆動する場合があると考えられる。また、小学校中学年の段階では、物語世界の外 側に語り手の存在を位置付け、その外部の語り手に寄り添って作品を読むことが困難であ ることも検討から示唆された。「作品の主題にかかわる一文を部分テクストとして指定し、

登場人物に寄り添った〈問い〉」は、特に、見物人的スタンス移行期の小学校中学年の段 階において、交流方略の獲得の契機となり、〈物語内容駆動〉の読みから、〈要点駆動〉の 読みへと移行する一助となり得ると考える。ただし、この点についてはさらなる検証が必 要である。このような〈問い〉における小学校中学年の学習者の読みのモードとその転換 については、今後、さらに検証していきたい。

文献

吉田裕久・山元隆春ら(2009)「確かな学力の育成-国語基本教材の授業アプローチの方法

『羅生門(芥川龍之介)』の場合-」『学部・附属学校共同研究紀要』第 38号 広島大学 学部・附属学校共同研究機構,111-117

山元隆春(2005)『文学教育基礎論の構築』渓水社

吉田裕久・山元隆春ら(2008)「確かな学力の育成-国語基本教材の授業アプローチの方法

『少年の日の思い出(ヘルマン・ヘッセ)』の場合-」『学部・附属学校共同研究紀要』第37 号 広島大学学部・附属学校共同研究機構,195-200

武田純弥(2020)「「少年の日の思い出」における〈語りの現在〉の二重性にかかわる〈問 い〉」『国語科学習デザイン』第3巻第2号 国語科学習デザイン学会,22-31

松本修(2015)『読みの交流と言語活動 国語科学習デザインと実践』玉川大学出版部 桃原千英子(2008)「読みの交流のための前提的条件-「少年の日の思い出」の読みを通し

て-」『臨床教科教育学会誌』第8巻第2号 臨床教科教育学会,31-42

西田太郎(2016)「文学作品の読みにおける学習者の〈問い〉に関する考察」『臨床教科教 育学会誌』第16巻第1号 臨床教科教育学会,57-66

松本修・佐藤多佳子(2016)「「きつねのおきゃくさま」における誤読にみる読みのモード」

『臨床教科教育学会誌』第16巻第2号 臨床教科教育学会,113-120

参照

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