長崎大学教育学部社会科学論叢 第63号 (2003年)
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教員 としての適格性 をめ ぐるケース ・スタディ ( ‑)
舟 越 秋
Ac a s es t udyofqua l i f i c a t i onsf orat e ac he r( I )
Koui c hiFUNAKOE
第
1
鑑定意見を求め られた事項私立高等学校 の英語科教諭である債権者が行 った授業 について、生徒 ・保護者か ら 「授 業 が分 か らない」 「分 か りに くい」等 の不平 ・不満が寄せ られた。 この こ とを とらえて、
教員 としての指導能力 を欠 くと判断 し、加 えて生徒指導上 も問題 が あった ことを理 由に、
直 ちに当該教 員 につ いて 「教 員 としての適格性 を欠 く」 と見 な して解雇 す るこ とに合理 性 ・正当性 を見出 しうるか。
第
2
鑑定結果債権者 に対す る本件解雇 は、教員の身分の保障を定 めた教育基本法第6条第2項 を無視 し た もの と言 う他 はな く、合理性 を見出 しえない。
第
3
鑑定の理由1、本件当事者双方の主張 (1)解雇理由
債権者 は、 「教諭 としての必要 な適格性 を欠 く」 として解雇 された ものであるが、 「教員 としての不適格性」の主張 は以下の2点 に拠 っている。
第1、債権者 は1999年度の3年Aクラスの英語 を担当 していたが、生徒 ・保護者か ら、 「授 業が分か らない」 あるいは 「分か りに くい」 といった不満が寄せ られた。債権者 は債務者 か ら注意指導 を受 けたにもかかわ らず これ を改善 しなか った。 よって英語の指導力 を著 し
く欠 く。
第2、債権者 は生徒への不用意 ・不適切 な発言 な どを行 って トラブルを発生 させ、債権 者 と生徒 との関係 を悪化 させ なが らこれ について正 しい認識 を欠 き、真撃 な反省、改善 を 全 くなさなかった。
第1は英語 の授業 とい う教科の指導 に関わ り、第2はいわゆ る生徒指導 (又 は生活指導) の領域 の問題である。
(2)解雇理由に対す る債権者 の反論
①債権者 は新任教員であったにもかかわ らず、受験 を間近 に控 えた3年Aクラスを担当 さ せ られた。 しか も、授業 をす るにあたって通常行 われ るべ きガイダンス も新任研修 も受 け なか ったばか りか、 「債務者 は、生徒 の学力 ・学習到達度、学習態度、性格、生徒が抱 え ている問題や悩 み、 それ までの指導上の問題点、家庭環境等 に関す る個々の生徒 に関す る 情報 の提供 を全 くしていなかった。」
② 英語科の教員 は3名で あったが、 うち債権者 を含 む2名が新任 で あ り、残 りの1名 も前 年 の採用 で あ り、かつAクラスの授業 は担 当 していなか った。 そのため英語科 の教員全員
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がAクラスの生徒 に関す る情報 は持 ってお らず、結局3名 は、 「生徒 の実態 を正確 に把握 し て的確 な学習指導体制 を組 む ことがで きず、 とりあえず生徒 たちの志望大学合格 に必要 な 水準の授業 を進 め る中で、教科会 で話 し合 ってい くとい うや り方 を とらざ るを得 なか っ た。」
③1999年度 の3年生 は、入学 当初か ら学力差が あった上 に、習熟度別 の クラス編成 は前 年度の ままであった ことか ら、 クラス内の生徒 の学力差が非常 に大 きかった。 その ような 状況で、 「生徒 の志望大学受験 に必要 な レベルの授業 を行 えば」、 「学力の高低差 の大 きか ったいずれの側 の生徒か らも、債権者 の授業 について不満が出 る余地が はじめか ら大 き く あった。」
④債権者が採用 され る以前の2年間に、英語科の担当教員が7名 も退職 ・交替す るとい う 異常事態が続 いてお り、債権者 の着任以前か らすで に生徒 ・保護者か らの不満 ・苦情が寄 せ られていた。 その上 に、新任の債権者が英語科の主任 とな り、 さらに前年度 に引 き続 い て受験 を間近 に控 えた3年Aクラスの担任 になった ことか ら、生徒 ・保護者 に不安 ・不満が 広が った ことは当然予想 され るところであった。
⑤生徒 ・保護者か ら 「授業が分か らない」等の不満や苦情が寄せ られた ときには、事態 の的確 な分析 ・把握が行 われなければな らないに もかかわ らず、債務者 は 「その ことにつ いてなん らの調査 も分析 もしていない」 のみな らず、 「債務者 自身 に対 してその具体 的な 内容 を示 して、その ような不満 を述べている生徒か ら話 を聞いて対応 ・指導 させ ることも、
英語科教科会 に事実の調査 と分析 をさせ ることす らしていない。」
⑥教育組織 の責任者 た る校長 は、 「学校 としての組織 的な教育指導体制 を確立 して問題 の解決 を図 る とい う姿勢 を全 く欠 いていた。」教科指導上及 び生徒指導上、問題 が生 じた ときには、 「これ を教育現場 で様 々な役割 を負 って生徒指導 にあたってい る関係教員 ・担 任 ・学年主任 ・生活指導や学習指導担当者 に伝達 して、各担当者の教育実践の経験 の下 に、
対象 とな る生徒 に関す る情報 を総合 して まず事実 を確認 し、 その よ うな問題 の原 因 を分 析 ・検討 させた上で、的確 な生徒指導の方針 を確立 して、 それ を教員 に組織 的に実践 させ て教育的解決 を図 ることが求め られ る。」 に もかかわ らず校長 は、 この ような 「自らの当 然の役割 と責務 を果た さず、やみ くもにその責任 を債権者 に転嫁 している。」
(3)債務者 と債権者 の再反論
(丑債務者‑1999年4月9日の校 内実力テス ト (2年生 ・3年生) を採点 したのだか ら生徒 の 学力 レベルは判断で きたはずである。
債権者 一春季補修 の成果が判断で きる程度の比較的 レベルの低 い内容のテス トだった ので生徒 の レベルが判断で きるとい う内容の ものではなかった。
②債務者‑1999年4月22日の職員会議で、校長 よ り、3カ年分 の入学試験上位者表、ス タ ディサポー ト成績比較及び6回生模擬言式験別成績表 を配布 した。
債権者 ‑スタデ ィサポー ト成績比較 のみが配布 されたが、 これでは全体 の学力 レベル を知 ることはで きない。他の二つは配布 されなかった。
③債務者 一同年4月27日、第3学年会が開催 され、学年の年間指導 目標 な どについで 情報 交換や意見交換が行 われた。
債権者 一簡単な話 しと簡単な報告があっただけである。
④債務者 一教科主任が中心 となって随時教科会が開かれ、各種 の情報交換や意見交換が
舟越 秋一・
31 なされたはずである。
債権者 一新任 の債権者 が英語科主任 であったが、3年 の英語科教員 は手探 り状態での スター トであった。
⑤債務者‑K高校 で は、生徒 の成績 な どの過去の各種のデータを職員室 内に教務主任や 進学主任が保管 してお り、 いつで も自由に見 ることがで きるようになってい る。 また家庭環境等 は担任 に聞 けばす ぐわか る。 債権者 は十分情報 を利用で きる環境 にあ りなが ら、単 にこれを活用 しなかっただけだ。
債権者 ‑ どこに どの ようなデータがあるのか、新任 の債権者 を含 め英語科教員 は知 ら されていなかった。 また これ らの資料 はオープンになっていなかった。
⑥債務者‑5月27日、10名の生徒 中5名が保健室 に行 った り、 トイ レに隠れた りしたので、
債権者 の弁明 を聞 くことに したが、債権者 は 「生徒 に授業 ボイ コッ トされた との認識 す らな く、 自らの授業 について生徒 の反応 を全 く把握で きていなか った。」
債権者‑K高校 で は保健室利用 は以前か ら多 く、散発 的な受講拒否 は 日常茶飯事であ ったが、 当 日の授業 不参加 につ いて は事態 の性 質 は よ く分 か らなか った。
「自らの授業 につ いて生徒 の反応 を全 く把握で きていなか った」 とい う非難 には納得で きない。
⑦債務者 ‑ 「高等学校 における生徒への個 々の教科指導の方法 は、担当す る教員が個々 に研究、研債 す るものであ り、所属長等の注意指導 には限界があ るため、当 該個々の教員の 自覚や努力 を要す るものである。」
債権者 ‑同 じ専 門教科 の教員 を中心 として組織 的な指導体制 を とって行 うもので あ る。
⑧債務者 ‑ 「英語の授業が成立 しない状況 を招来 させ」、 「注意指導 を受 けたにも拘 らず、
全 く改善がなかった。」
債権者 ‑いずれ も事実 に反す る。
2、教科指導について
債務者 の 「教員 としての不適格性」の主張 は、教科指導 と生徒指導 (また生活指導)の 両面か ら行 われてい るが、 「授業が分か らない」等の教科指導上の問題が なけれ ば生徒指 導上の問題 も提起 されなかった と判断 され るので、 まず教科指導 に関わって述べ る。
(1)教科指導 は どうあるべ きか
一般的に言 って、学校経営の主体 は校長であ り、校長が教育指導 と経営管理 の両面で リ ーダーシ ップを とって行 う。 これ を教育指導の面で見た場合、校長 は教員集団の長 として 次の ような 「共 同経営体制」の原理 に もとづいて リーダーシ ップを発揮す るとされ る。
岡津守彦監修 『教育課程事典 (総論編)』 (小学館、1983年) は次 の ように述べてい る。
(なお、 岡津守彦 は東京大学名誉教授 であ り、 同大学教育学部学校教育学科で長年、教育 課程研究の中心 となっていた学者であ り、本書 は同学部で学 んだ研究者 を中心 に広 く各分 野の専門家の協力を得て執筆 ・編集 された ものである。)
校長 と各教員、教員集団 との関係 は、上位下達 を中心 にす るタテの ライ ン関係ではな く、
「お互 いに尋ね合 い、考 え合 い、学 び合 い、協力 し合 って教育課程 を経営 してい くとい う
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ス タ ッフ関係 を軸 として相互 に役割分化 を認 め合 う 『共 同経営体制』」 (379ページ)であ る。
つ ま り、学校 の教育指導 は、教員集団の長 としての校長が、教員集団のパー トナーシ ッ プを大切 に しなが らこれ を行 うとい うことであるが、 ここで は教育指導 における校長 の役 割 と責任のあ り方が述べ られていると同時 に教員集団の関係のあ り方が述べ られている。
学校 の教育課程 は、組織上 は、学級学年の担任組織 と各教科の組織 と校 内分掌 (生徒会 な ど)の組織 とか ら成 っているが、仕事の内容上 は、教授 ・学習 とい う教育活動 (‑教 え る とい うこと、 また授業) と生徒指導 (または生活指導) に分かれ る。 中学 ・高等学校で は教科担任制が とられてい るので、教育活動 は教科指導 と称 されている。
なお、教科担任制 のメ リッ トについて、前掲書 は 「この体制 を とる と教科 ご とに教師は 組織 され るので、学年 を超 えた教科の全体系 を見通 しうる条件がある。教科の体系 を全体 として見通 した うえで指導や経営 をす るのであるか ら、 その活動の内容 は自然 に長期 的で 系統的にな る。」 (382ページ) と述べている。
以上 を踏 まえて、前述 の教員集団のあ り方 について言 えば、教科指導 は校長 の リーダー シ ップの下 に、学級学年担当の教員集団 と教科担当の教員集団 との有機 的な関係 の下 に行 われなければな らない とい うことである。
教員 は教員免許 を取得 した専門職であるが、教科指導すなわち授業 は、教員 と特定 の教 室の子 どもと教材 との三者 の関係があっては じめて成立す る。 そ して一人 ひ とりの教員が 授業 とい う専門的な仕事のスキル と能力 を高 め ることは、教員 ひ とりの努力だけでで きる ことではな く、教員集団が 「お互 いに尋ね合 い、考 え合 い、学び合 い、協力 し合 って」 は じめてで きることで ある。 したがって、校長 な ど指導す る立場である教員 によるオ リエ ン テーシ ョンのほか、教員研修、公 開授業 (授業研究)、子供 たちにつ いての情報交換等々 が 日常的に行 われなければな らない。 これ らが うま くなされ るか否かは、多 くは校長 の リ ーダーシ ップ能力 と当該学校の組織的、集団的な指導体制 によることは言 うまで もない。
学校 における教育指導 ・教科指導のあ り方 は、以上の ような ものであると考 え られ るが、
本件学校 の場合 には、校長 によるリーダーシ ップも組織 的 ・集団的な教育指導体制 も、 い ずれ もきわめて不十分 な ものであ ると言 わざるをえない。債権者 は、個々の生徒 に関す る 情報 を提供 されず、新任 の教員集団のみであった ことによ り、的確 な学習指導体制 も組む ことがで きなかった ことが認 め られ る。 また、進学校 で習熟度別 クラス編成 を取 りなが ら も、当該 クラスの学力差が大 きかった ことは、大学進学 を目的 とす る授業 を行 うにあたっ て、元来、矛盾 をは らむ ものであった といえる。 校長 の指導 は もっぱ ら債権者個人 に対 し て、授業 は うま くいってい るのかを問 うことに終始 してお り、 それ以外の指導 は何 も行わ れて いない。 のみな らず、 「高等学校 にお ける教科指導 は教員個 人の 自覚や努 力 に よる」
とい う認識 を示 している。
この認識 は、 リーダーシ ップの放棄 とい うはかな く、教員集団 としてのスキル と能力 を 高めてい くとい う意思 もそれに もとづ く実践 と理論の積み上 げも、 もともと期待で きない 体制であった ことを示す ものであ り、授業が うま くいかない全責任が こうして教員個人 に 押 し付 けられてい くことはきわめて酷であるとい うはかない。
舟越 秋 ‑
33 (2)英語の授業 に対す る不平不満 について
① まず、校長 は、子 ども ・保護者か らの債権者の英語の授業 に対す る不平 ・不満 を どの ように して知 りえたか。
ィ、1999年5月下旬 に養護教諭か ら校長宛に報告があった。
ロ、同 じ頃3年2組の担任か ら報告があった。
ハ、5月27日、債権者 を呼んで事情聴取 を行 った。
二、5月29日、3年2組の担任 (3年主任)か ら事情 を聞いた。
ホ、7月5日、3年2組担任及び3年1組担任 にその後の状況を尋ねた。
へ、7月7日、3年Aクラス10名の生徒 を校長室 に集め、無記名 アンケー トを徹 した。
これ らの諸事実か ら言 えることは、債権者 に直接行 った事情聴取 は一回のみで残 りは伝 聞 とい うことである。 いったい不平 ・不満の内容 は どのような原因 ・理由にもとづ くもの であるか、事実 を究明す る努力がほ とん どなされていない とい うはかない。
また、校長室で生徒 たちに無記名 アンケー トを書かせ るな どとい うことは、債権者 に対 す る背信行為 とい うべ く、人格的接触 を通 じて教員 と生徒 との間に成立す るはずの人間関 係の基礎や授業実践の土台その ものを破壊す るきわめて非教育的 ・背倫理的な行為 と言わ なければな らない。
②授業 に対する不平 ・不満があることを知った校長 はどのような対策 を講 じたか。
ィ、5月27日、債権者 を呼んで事情聴取 を行 ったが、 「この時はあきれ果てて、格別の注 意を しなかった。」
ロ、5月31日、債権者 を校長室 に呼び、授業が分か りに くい と生徒が言 ってい るか ら改 善す るように注意指導 した。
ハ、 「債務者 は債権者 に注意指導 をなす ことに加 え、3年生の学年主任 に対 し、生徒の気持 ちが債権者の方に向 くようにクラスの生徒 を指導することを依頼する措置をな した。」 以上の通 りであ り、債務者 は債権者 に対す る注意以外何 もしていない と言 って良いほ ど である。
7月19日の会話記録 によれば、理事長 は次の ように言っている。 「あなたが改善 して、 ま た分か りやすい授業 に心が けて、生徒 の気持 ちを自分 にひきつけて、そ して勉強 に向かわ せ る授業 における生徒たちの集 中度合いを増 してい くように、 あなたが仕向けてい くこと がで きるだろうとい う期待 を したか ら、待 ったんです。待 ってたんです。本当に。校長の 方には、 もうとにか く待 って くれ と、 もうしばらく見て くれ とい うことだったんです。」
この態度 は、事態の解決をすべて個人の努力 に委ね るとい うことであ り、前述の教員集 団の有機的な関係 による教育指導 とは対極 にあるとい うべ きである。
債権者 と同学年の主任であ り、2組の担任であったFは、 「その ような こと (生徒 たちの 不平 ・不満の真偽や原因究明、指導の実施 一筆者注)は、改めて学園の指導の下 に、正確 な事実の調査 とその結果 を踏 まえて、英語科 ・各担任 ・生活指導 ・学習指導 を担当す る教 員等の協議 と分析 を行 う中で、 しか るべ き指導方針 を確立 して、時間をかけて解決すべ き 問題であ ります。」 と述べているが、事態の改善策 は、普通 この ような形で行われ るべ き
ものであることは前述の通 りである。
③債権者 は英語の授業 をどのように進めたか、 また どのような改善策 を講 じたか。
一般 に学外者 は、教員免許取得者であ り、 また若干の経験があれば、授業 はスムーズに
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い くものだ と考 えるか もしれ ない。 しか し、実際 には、 また進学校で習熟度別学級編成 を とり、大学受験志望校 に合わせ て授業 をす る となればなおさら、生徒 の学力 レベルの把握 とそれにもとづ く教材の選択、授業の仕方 は、決 して容易なもの とは思われない。
これ を本件 につ いてみれ ば、債権者 ら英語科 の3名 は、肝心の生徒 の実情が全 く分か ら ないまま、授業の進 め方 について話 し合 いを重ね、「Aクラスについては宿題 を出 して大学 受験 に必要 な基礎知識 とテクニ ックを どん どん教 えてい こう」、 「各人が授業 を続 けてい く 中で生徒 の状態 を把握 しなが らや ってい こう」、 「文法の教材 は、各 自プ リン トを使 ってや ってみ よう。 その結果 を見て5月の連休明 けに最終決定 を しよう。」 とい うように、綿密 な 話 し合 いをもって授業の進 め方の方針 を決めている。
5月14日、15日の両 日に渡 って行 われた中間テス トについて も、3人で話 し合 い、 テス ト 問題 も詳 しく検討 して作成 した。 その結果、予想以上 にレベルが低 い ことが分かったので、
さらに指導 を重ねてい くことで意見の一致 を見ている。
校長か ら呼び出 しを受 けて授業の改善 を求め られた5月31日には、授業 の後 で生徒 か ら
「教材が難 しい」、 「授業のス ピー ドが速い 」 とい うこ とを告 げ られた。 そ こで、6月1日の 授業か ら3回は ど生徒 と話 し合 いを行 い、 「即戦 ゼ ミ」教材 をや めて小 テス ト形 式 に改 め、
また 「Z会戦略文法論 ・語法論」 をや めて 「語法 ・文法の標準問題集」 に変更 し、生徒 た ちの同意 を得 て、6月中旬か ら新教材 で授業 を始 めてい るが、 その後、生徒か らは特段 の 意見 は伝 え られなかった。
ところが、校長 は、7月7日に生徒 か ら無記名 アンケー トを徴 し、理事長 を通 じて、7月 19日には突然解雇の意思表示 をなすに至 ったのである。
(3)以上の事実か ら判断すれば、債権者 ら英語の教員3名 は、 当初か ら3年Aクラスの生徒 の実力 を把握で きていなか った ことによって、3名の教員 による英語科教科会で話 し合 い を重ねなが ら、教材 の選定 も含 めて まさに手探 り状態で授業 を進 めていた ことが分か る。
確 か に生徒 の実力 レベルを把握 す るのに時間がかか りす ぎた きらいはあ るが (た とえば、
債務者 は、7月19日の会話の中で 「や っぱ り学生の レベルを見抜 くだ けの力が必要。2ケ月 も見抜 けなか った とい うのは間違 いよ、 それ。」 と発言 している。)、英語科教員2名 は新任 で、残 りの1名 も前年採用、 なおかつAクラスは担当 していない、 また前任者か らの引継 ぎ も不十分、成績 データも入手 していない といった悪条件 を考慮す ると、 それ も仕方がなか った もの と考 え られ る。
問題 は、 「授業が分か らない」等の不平 ・不満が早 くか ら伝 え られていた とすれ ば、 な ぜ英語科教員3名 に これが伝 え られ、事態の解明 ・検討 の指示 な どの指導助言がな されな かったか とい うことである。校長 を リーダー とす る教員集団による組織的 ・集団的教育体 制 の軽視、不存在 とい うことにこそ、問題 の核心が ある と言わなければな らない。 この こ とは、2年間 に英語科教員7名が次々に交替す る とい う異常事態 として も現れてい る と言 わ なければな らない。債権者 ら英語科教員は、普通考 え られ る通 りの英語の授業 を行 ったの で あるが、学校 としての指導体制 の欠陥 とAクラスの生徒 たちに学 力差が あった こ と等が 重な り合 って、 「授業が分か らない」 「分か りに くい」等の不平 ・不満が高 じていった もの
と考 え られ る。
新任 の債権者個人 に、右 の生徒 ・保護者 の不平 ・不満 の責任 を負 わせ ることはで きな
い 。
舟越 秋‑
35 3、生徒指導 (または生活指導)について
(1) これ まで 「生徒指導 (または生活指導)」とい う表現 を用 いてきたのは、兼子仁 『教 育法 〔新版〕』 (法律学全集16‑ 1、有斐閣、1978年7月新版初版)が次の ように述べてい
るか らである。
「法令上 は 『生徒指導』 と称 され ることが多いが」、生徒指導の語 は 「教育法的実質 に よ く見合 っていない」 ので、 「教育法用語 として は 『生活指導』が適切 と考 え られ る。」
(431ページ)
ちなみに、生徒指導 なる用語 は、現行法令では、地方教育行政法23条5号、文部省設置 法5条17号、文部省組織令8条3号、学校教育法施行規則52条の2な どに見出され る。
兼子の整理 によれば、生活指導の領域 は以下のように広範である。
(a)担任教師による学級活動 として、①授業中の行動指導、② ホームルーム、③給食指導、
④進学指導、⑤個人生活行動の指導な ど (b)学校行事(清掃、運動会な ど)
(C) クラブ活動指導
(d)児童 ・生徒会活動の助言指導な ど(同上)
このような整理 にもとづいて、兼子 は現行教育法上の生活指導 を定義 して 「教科教育の 場でのそれに付随す る教育機能 をも含んでひろ く児童生徒の学校生活 をめ ぐる人間的成長 発達の指導助言活動 を指す」 としている。(同上)
また、文部省 は生徒指導 を次のように定義 している。生徒指導 は 「一人ひ とりの生徒 の 個性の伸長 をはか りなが ら、社会的な資質や能力 ・態度 を形成 しさらに将来 において社会 的に自己実現がで きるような資質 ・態度 を形成 し、 さらに将来 において社会的に自己実現 がで きるような資質 ・態度 を形成 してい くための指導 ・援助であ り、個々の生徒の 自己指 導能力の育成 をめざす ものである。」 (文部省 『生活体験や人間関係 を豊かな もの とす る生 徒指導 (中学校 ・高等学校)』1988年)
以上を踏 まえて、以下、 とりあえず生徒指導なる用語 を用 いることとす る。要す るに生 徒指導 とは、広義 には教科指導 をも含 む広い概念であるが、狭義 には児童生徒 の人間的成 長発達 を うなが し、社会的な資質 ・能力 ・態度の形成 を援助す る活動およびその領域であ
るとい うことがで きる。
それゆえに、 その推進体制のあ り方は、基本的には教科指導の場合 と異なるところはな い と考 え られ、生徒指導 に関す る諸文献 は、推進体制のあ り方 に関 し、 まず第一 に、すべ ての教員集団が一体 となって取 り組む体制 を確立す ることをあげる。 そ して第二 に、生徒 理解すなわち生徒一人ひ とりに対す る理解 を深めることがあげられ、つづいて、学級づ く
り、わか る授業、児童生徒活動の活発化、家庭 ・地域 との連携、関係機関 との連携 な どと なる。
(2)ところが本件の場合 は、固有の生徒指導に関わる問題が提起 されているとい うよりは、
教員 と生徒 との間の 日常的な人間関係のあ り方が問題 とされている。
解雇理由書では、債務者 は、債権者 の 「不用意な発言」 を、債権者 と 「生徒 との関係が 益々悪化 している」 ことの原因のひ とつ として位置づ けているが、全体 としてみ ると、生 徒指導のあ り方 に関わ る債務者の主張 は、教科の指導力の欠如を主原因 とす る 「教員 とし ての不適格」の主張 を補強する位置 にあるもの と見 ることがで きる。
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しか し、答弁書 お よび主張書面 (‑)で は、債権者 に生徒指導上の問題が あった ことを 教科の指導力の欠如 と同格の もの として位置づ けてお り、 そ こでは、 もっぱ ら 「債権者 の 生徒指導 における言動」が問題 とされ、次の三点が指摘 されている。
①セ クシュアル ・ハ ラスメン トに該当す るような発言があった こと0
②美化委員会 をめ ぐる生徒か らの抗議 とそれに続 く口論 とい う トラブル。
③ 生徒 が採点 ミスを申 し出た際、 「書 き換 えた可能性が あ る」 と発言 して生徒 に精神的 打撃 を与 えた こと。
(3) これ に対 して、債権者 は、① の発言 を した ことは否定 し、③ の発言 につ いては、 「何 か書 いた跡 もあるし」 とい う発言が事実である とす る。 そ して、 この発言 については、反 省 もし、生徒及 び保護者 との話 し合 い も行 い、謝罪 を行 ってい る。 「家 出事件」 との関係 は、多 くの原因の中のひ とつに過 ぎない程度の もの と考 え られ る。
② については、当事者の間で争 いがあ るが、私 は この ような トラブルは学校現場 では日 常 的 に生起 してい る類 の もので あ る と考 え る。最近 の生徒 指導問題 は、 もっぱ ら生徒 の
「問題行動」への対処 をめ ぐる事例 で あ り、 そ こで は教員 と生徒 との間の対立や トラブル は学外者 の想像 をはるか に超 えるものが多 い。 その ような現実 に比べ ると、② の ような ト ラブルは、解決 に向けて どう対処す るかによって、生徒 と教員 との間の人間的な理解 と関 係性 を一段 と深 めていけるような事例 であ り、 また教員 に とって も生徒 に とって も 「人間 的成長発達」の糧 にな りうるような事例であると考 えなければな らない。
生徒指導 につ いて文部省 は、 「個 々の生徒 の 自己指導能力の育成 をめざす もの」 と述べ て いたが、 自己指導能力 とは、 自己受容 (自己 をあ りの ままに認 め る こ と)、 自己理解 (自己に対す る洞察)、 自己決定 (自分 の行動 を決断す る) といった諸能力の総称で あ り、
これ らの能力は、 まさに日常的な人間関係 をめ ぐる トラブルの正常な解決の積み重ねの中 で学習 してい くものだ といえる。
教員が決めた ことを決め られた とお りにや ってい るので は、 この能力 は育たないのであ って、 自己主張 を し、対立 し、話 し合 い、解決す る とい うプロセスを経験 す ることによっ ては じめて十全 に身 について行 くものだ と考 え られ る。生徒 も教員 も生身の不完全 な人間 同士であるか ら、思わぬ不用意、不適切 な発言 はあ りうるし、生徒 と教員 との対立 ・衝突 は不可避である。逆 に、 その ような トラブルが存在 しない ことの方がおか しい とさえ私 は 考 える。 当然、問題 は、 この ような トラブルが生起 した とき、 それ に関係教員が一体 とな
って取 り組む全学的な指導体制が存在 し、 うま く機能 しているか否かである。
(4)債権者 の生徒指導上の問題 として、債務者 の言 う 「授業 ボイ コッ ト事件」 (債権者 は これを 「生徒 の授業忌避」 とい う問題行動 と認識 してい る) に も言及 すべ きであるが、既 述の①〜③ の事例 と合 わせて、債務者 は 「生徒 との間に各種の トラブルを発生 させ、 しか もこれ ら トラブルについての正 しい認識 を欠 き、真撃な反省 ・改善が全 くなされなかった」
と主張 している。
私 は、 これ らの トラブルの性質 をめ ぐる認識 は、 当然当事者の間で も一致 を見出 しに く い ものだ と考 える。 それぞれに言い分があるだろうか らである。
学校現場 における生徒 と教員 との間の トラブルあるいは生徒 間 また教員集団間の トラブ ルな ど、学校 における種々の トラブルは、学校現場 に固有のや り方で解決 され るべ きもの であ り、 それ は裁判所 における法律 的な解決 とは基本的 に異なってい る。当初 に述べた よ
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37 うに、学校 は教員集団による 「共 同経営体制」 で運営 され るべ きところであるか ら、 トラ ブルが生起 したな らば、学校長 の リーダーシ ップの下 に、関係教員すなわち担任、学年主 任、教科担 当、生活指導、学習指導担 当者が一体 となって、連携 して、事態 を解明 し、将 来 に向か って改善 してい くよ うな教育的解決 を探 る とい う対処が な され な けれ ばな らな
い。
に もかかわ らず、K高校 の場合、 この ような集 団的、組織 的な対応 は皆無で ある とい う しかない。債権者 は、新任 であるばか りか、生徒 たちの性格や家庭環境、抱 えてい る問題 や悩 み、指導上の留意点 な どにつ いて まった く知 らされていなかったのであるか ら、生徒 たち との対立や衝突 は起 こるべ くして起 こった とも考 え られ、 その責任 を 「教員 としての 適格性 を著 しく欠 く」 として債権者個人 に押 し付 けることはきわめて不合理である と言 わ なければな らない。
4、あるケース ・スタデ ィで提案 されている事態処理の基本的考 え方
1994年3月発行の 『季刊教育法』 (エイデル研究所発行)96号 には、 ひ とりの教員の教育 指導 に不平 ・不満 を持 った母親たちが クラス担任替 えを校長 に要求 して きたが、 どう解決 した らよいか、 とい う内容 のケース ・ス タデ ィが掲載 され、三名 の研究者 が対応策 を検 討 ・提案 してい る。本件 の場合 に もあてはまる ところが多いので、以下基本的考 え方の部 分 を紹介す る。
神 田修 (山梨学院大学教授 ・前九州大学教授) は以下 の ように述べてい る。 「学校 か ぎ りでの管理職 の対応 として次 の二つが重要だ と思われ る。 そのひ とつ は、問題教員の問題 性 を一層浮かび上が らせ或 いは当該教員 を排除す るような方向での対応 (この中には直 ち に人事上の処分 を行 うとい うような ことも含 む) は もっ とも望 ま しくない とい うことであ る。職場で問題が ある といわれ るような教員 は、得て してそ うい う取 り扱 いがなされがち であるが、問題視 され るのには必ず何か事情があっての ことが多い。 それ を無視 して問題 性 だ けが問われ る と当該教員 をます ます孤立 に追 いや り一向に問題教員か ら脱却で きない ことにな り易 いか らである。管理職 はこのような問題教員の職場の中でのあ り方 を見極 め、
慎重 に助言指導で臨む ことが求め られ よう。
二つ 目は、 その問題 の原因な り理 由な りが明 らかであ る場合 には、 これ を取 り除 く指導 助言がな され るべ きであろ う。 ただ、 この場合状況 によっては、 た とえば学年担任教員な どとともに、或 いは これ を含 め学校 ぐるみの取 り組 み として問題 に対処 し取 り除 くといっ た こともあ りうるので、 そ うした場合管理職 の指導性が期待 され よう。問題教員の指導 は 元来 そ うたやすい ことではないが、 この ような取 り組みや指導 について‑ そのすべてを公 開す る とい うことではないが一父母 に一定 の理解 を うる努力 をす ることも開かれた学校 ら
しいあ り方 といえよう。」
下村哲夫 (筑波大学教授) は以下 の ように述べてい る。 「田中教諭 (ケース ・ス タデ ィ の問題教員 一筆者注) については、父母か らの申 し入れ を伝 え、 ことの成 り行 きに校長 と して も深 い関心 を持 ってい ることを伝 え、学年 として、学校 として、事態の改善 に協力 を 惜 しまない ことを納得 させ た うえ、具体的な問題 について まず田中教諭か ら改善の方針 を 出 して もらい、 それ を校長、教頭、 あ るいは学年主任、生活指導主任 らを交 えて検討す る ように したい。 田中教諭 の責任追及 といった形 になることはな るべ く避 け、校 内研修 の‑
教員 としての適格性 をめ ぐるケース ・スタディ (‑)
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環 として前向きに取 り組 みたい。」
「田中教諭 はこの学校 に来て5年 目、42歳 にな る女性教諭 とい う。教職歴20年 に近 く1校 で5年 目 といえば、 それな りの実績 もあ り、学校 で は中心的な活躍 の期待 され る存在 で あ る。 こうした状況で、 当面、学校 として戦力 にな らないのは痛 いが、5年前か らそ うだっ たわけではあるまい。 ち ょうど受験期の子 どもを抱 え、家庭関係 に も問題があって一時的 なス ランプに陥ってい るとみ るのが適切 の ようだ。だ とすれば、 ここは校長 として、学年 ぐるみ、学校 ぐるみの支援体制 を しいて、 田中教諭 の立 ち直 りに期待す るのが良策であろ う。 そのためには特 に学年会の協力が必要である。」
島之江一彦 (立正大学講師 ・元県立高校教諭) は以下の ように述べ る。
「第二 に、問題 を起 こした担任教師 に どの ような助言や指導 を しようと考 えているか を 示 さなければな らない。 どの ような教師 も一人の人間 として よ り良 き可能性 を持 っている。
そ う信 じることが職場 の人間関係の基本である。 よい教師 として育 って もらいたい と念 じ るのが先輩 と・しての姿勢である と同時 に、職業上の厳 しさを もって きちっ とした助言 をす る気構 えも忘れてはな らない。
父母か ら指摘 されかつ校長 も確認 した ような担任 としての子 どもたちへの対応 を改め る 努力 を促す こと。教師間の授業の相互公開や親 に対す る日常の公開授業 な どを通 じて教師 の指導力量の向上 に努 め ること。 そ して改 まらない場合の校長 としての決断 も、子 どもた ちの利益 に立 って考 えなければな らない。」
「第三 に、学校 として教科の指導や児童たちの生活指導の方針 は各担任教師に どの よう な形で実践化 され相互評価 され るようになっているか とい う問題、つ ま り教職員組織 の機 能 につ いてであ る。 『一人の優 れた教師の実践 よ りも、数人の普通 の教師が共 同で進 め る 教育実践 の方が は るか に優れてい る。』 とい う名言が あ る。 指導力 に欠 ける教師 に父母 の 非難が表面化 す るまで学校 内で措置 を取れなかった とい うことは、教職員組織 のあ り方 に 問題が ある といえる。孤立 した一人の教師の指導姿勢 だけに責任 を求め るこ とで完結す る もので はない。教科指導や生活指導 につ いての相互評価や研修体制 に問題が あったか ら、
ば らば らな学級王国的な風潮が職場 のぬ るま湯 として蔓延 していたか ら、 そ うい う教師の 存在 を許す ことにな るのであ る。 この際 しっか りと職場体制 の点検 を明 らかに してお く必 要がある。」
三人の研究者が提案 している事態改善策の基本 的考 え方 は、校長 の リーダーシ ップ (描 導助言) に もとづ く学校 ぐるみ、学年 ぐるみの取 り組みの必要性 とい うことで共通 してい る。実 に 「共同経営体制」 とい う考 え方の重要性が ここで も確認 されているわけである。
5、教員の指導力 ・適格性の判断について
(1)わずか3ケ月の授業で、英語 の指導力 を著 し く欠 き、教員 としての適格性 に欠 ける と い う判断 を下す ことには合理性がな く正当な もの とは認 め られない。 いったい教職員の解 雇事 由の正 当化根拠 とな りうるような、教科指導の能力の欠如や教員 としての適格性の欠 如 とは如何 な るものか。 そこには、容易 に矯正 しがたい持続性 を有す る能力、素質、性格 等 に起因す る障害があることが証明 されなければな らないが、債権者の場合、 どこに もそ れに該当す るような証明は見当た らない。
(2)一般的に 「よい先生」 とか 「質の高い先生」 とかいわれ る。 しか しその判断 もまた情
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39 緒的で主観的な側面がある。
私 は長崎大学教育学部 に赴任 して、教員養成 に携 わって25年 にな るが、言 うまで もな く 教員志望の学生 たちの資質 は様 々であ る。 したが って、毎年 の教育実習の授業 の進 め方、
その持 ち味 もきわめて多彩であ る。先生が能弁 な授業 もあれば、 もっぱ ら生徒 たちに発表 させ、話 をさせ る授業 もある。 持 ち味が違 うか らなかなか甲乙はつ け られない。 ところが 彼 らは、現場 に出てか ら、つ ま り正式 に教員 に採用 されて 日常的に授業 を行 うようになっ てか ら飛躍 的 に成長 し、能力 を高 めてい くので あ る。 この意味で はまさに、 「教員 は現場 で育つ」 ものだ といえる。教員の資質 向上 に関 しては、養成、採用、初任者研修、現職研 修 の各段 階で工夫や努力が求め られ るが、や は り重要 なのは、現場 に出てか らの実際の実 践 と研修 である。教員免許の取得者であって も、教職 についてか らの教育実践 とそれを基 礎 に した研修 と熟練 の積 み重ねが あって、 は じめて専 門職 としての力量 を高 め、 「よい先 生」 「質の高 い先生」 になってい くのである。
(3)この ような観点か ら、大学 にお ける教員養成 を担当 してい るもの としては、 おのず と 各学校現場 において、教員の専門的力量 を高 め るための どの ような組織的、集団的な取 り 組みがなされ るか に重大 な関心 をもつ ことにな る。
本件 は、 「授業が分か りに くい」等、債権者 の授業 に対す る不平 ・不満が生徒 ・保護者 か ら寄せ られた ことに起因 しているが、本来、授業 は、教員 と生徒 たち との人格的接触 を 通 じて行 われ るものであ るか ら、教員 は、 まず学業成績、生活態度、個性、家庭環境、希 望進路 な ど、生徒 の実情 を的確 に把握す ることか ら始 めなければな らない。 しか し、個人 でカバ ーで きる範 囲 と能力 には限界が あるので、 どうして も教員集団 として これに取 り組 まなければな らない。
ここに教科指導 と並んで学級 ・学年 の担任や生徒指導 な どの職務が分化 し共働 しなけれ ばな らない必然性が あ る。 「一人 のす ぐれた教 師の実践 よ りも数人 の普通 の教師が共 同で 進 め る教育実践 の方が はるか に優れてい る」 とい う言葉があ るように、 また、 「ス タ ッフ 関係」 を軸 とす る 「共 同経営体制」 とか、 「教員集 団のパ ー トナーシ ップ」とか、 あ るい はまた 「学年 ぐるみ」 「学校 ぐるみ」 といった言葉が示 してい るように、教員集 団の有機 的な関係 による組織 的、集 団的 な体制が非常 に重要であ る とい うことであ る。 ところが、
本件 の場合、生徒 たちの不平 ・不満 に対す る取 り組みはきわめて個人的な対応 に とどま り、
債権者一人の責任 に帰せ られているのである。
教科指導の能力、 また教員 としての優れた適格性 も、教員集団のパ ー トナーシ ップの下 での相互 的な吟味 ・検証 の機会 を 日常的に積み重ね ることによって こそ高め られ る と言 う
ことがで きる。 そ して始 めか ら優れた教員な どいないのであって、教員 も子 どもたち との 日常 的な葛藤 を経 て成長 してい くもので あ る といえ る。 「半年かか って受 け入れて もらえ ない ことが、一年後 には理解や納得 を得 られ ることもあ ります。生徒 も教師 もともに成長 す る場が学校 である。」 とい う債権者 の同僚Fの言葉 は、 まさに至言 とい う他 ない。3年Aク ラスの生徒 か らは不平 ・不満が出た債権者 の授業 も、 同時 に受 け持 っていた1年生か らは さ した る苦情 も反発 も出ていない とい うことも、債権者 の授業 に対す る不平 ・不満が決 し て債権者 の教科指導の能力や教員 としての適格性 に疑問 を抱かせ るもので はない とい うこ との証左であ る。問題 は、学校側 の集団的な教育指導体制の不在、 さらにはその ような考 え方 その ものの不在 とい うことに こそあ ると言 う他 ない。 これ まで述べて きた ように、わ
教員 としての適格性 をめ ぐるケース ・スタディ (‑一)
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ずか3ケ月の授業で は、 とて も教員 としての能力や適格性 に関わ る判断 を下す こ とはで き ない といえる。
(4)ちなみに、公務員た る 「教員の適格性」の判断基準 を示す判例 を補充的に引用 す ると 以下の通 りである。
①最高裁判所第2小法廷判決 (1973年9月14日)要 旨
地方公務員法28条1項3号 にい う 「その職 に必要 な適格性 を欠 く場合」 とは、当該職員の 簡単 に矯正す ることので きない持続性 を有す る素質、能力、性格等 に起因 してその職務 の 円滑 な遂行 に支障があ り、 または支障を生ず る高度の蓋然性が認 め られ る場合 をい うもの と解 され るが、 この意味 における適格性 の有無 は、当該職員の外部 に現れた行動、態度 に 徴 して これを判断す るほかはない 。 その場合、個々の行為、態度 につ き、 その性質、態様、
背景、状況等の諸般 の事情 に照 らして評価 すべ きことは もちろんそれ ら一連 の行動、態度 につ いて は相互 に有機 的 に関連づ けて これ を評価 すべ く、 さらに当該職員の経歴や性格、
社会環境等の一般的要素 を も考慮す る必要があ り、 これ ら諸般の要素 を総合的に検討 した うえ、 当該職 に要求 され る一般的な適格性 の用件 との関連 において これを判断 しなければ な らないのである。
②福岡高等裁判所宮崎支部判決 (1980年5月26日)要 旨
条件付採用期間中の職員 といえ どもすでに試験 または選考 の過程 を経て勤務 し、現 に給 与の支給 も受 け正式採用 になることの期待 を有す るものであ り、かつ、右の法令が存す る 以上法令所定の事 由に該当 しない限 り分限 されない とい う身分 の保障 を受 けるもの と解 さ れ るけれ ども、条件付採用制度の前記の ような趣 旨、 目的か らして、条件付採用期間中の 職員 に対す る分限処分 については任命権者 に相応 の裁量権が認 め られ ることはい うまで も ない。 もとよ り、 これが裁量 は純然た る自由裁量ではな く、 その処分が合理性 を もつ もの として許容 され る限度 を超 えた不当な ものであ るときは裁量権 の行使 を誤 った違法 な もの になるとい うべ きである。
条件付採用期間中の職員の分限に関す る条例がい まだに制定 されていない場合、 同 じ く 条件付採用期間中の国家公務員の分限につ き定 めた人事院規則11‑4 (職員の身分保 障)9 条 の規定 に準 じて、勤務実績の不良な こと、心身 に故障があ ることその他 の事実 に基づ い てその官職 に引 き続 き任用 してお くことが適 当でない と認 め られ る場合 に限 り許 され るも の と解す るのが相当である。
6、教員の身分保障について
本件解雇 の合理性 ・正当性 の判断 にあったって、法的判断で重要 な意味 を持つのが教育 基本法第6条の教員の身分保障である。 よって以下、 この点について述べ る。
(1)法律、学説、判例 のいずれ において も、学校 の教員 は特別 な身分保 障を受 ける と考 え られている。
教育基本法第6条 (学校教育) は、第1項で 「法律 に定 め る学校 は、公 の性質 を もつ もの であって、国又 は地方公共 団体 の外、法律 に定 める法人のみが、 これ を設置す ることがで きる。」 とし、第2項で 「法律 に定 める学校 の教員 は、全体 の奉仕者であって、 自己の使命 を自覚 し、 その職責の遂行 に努 めなければな らない。 このためには、教員の身分 は、尊重 され、 その待遇の適正が、期せ られなければな らない。」 とす る。第1項で 「法律 の定 め る
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41 学校 は、公 の性質 を もつ ものであって」 とし、第2項で 「法律 に定 める学校 の教員 は、全 体の奉仕者であって」 としているのは、現行憲法下の学校教育が、国民の 「教育を受 ける 権利」 (憲法第26条第1項) を国家が積極 的条件整備 によって保障す る 「公教育」、 それゆ
えに社会の公共的課題 としての 「公教育」であると考 えられているか らである。
したがって第2項の 「全体の奉仕者」 とは、 「国公私立を問わず、法定の正規学校すべて の教師について、子 どもの教育 を受 ける権利の社会全体的保障である公教育活動 に携わる もの (社会全体の文化的奉仕者) とい う意味」 と解 されている。 (兼子仁 『教育法 〔新版〕』
法律学全集16‑Ⅰ、有斐閣、1978年7月新版初版、328ページ)
また、 「国公私立 を問わず」 とい うことは、判例 も認 め るところであ り、た とえば次の ようにい う。 「右条項 にい う学校 に私立学校が含 まれ、同 じ くその教員に高等学校教諭及 び講師が包含 され ることは明 白であるか ら、私立学校教員の勤務関係が労働契約関係であ って も、私学経営者 は当然 に右の教員の身分尊重義務 を負 うと解すべ く、 その具体化 は解 雇権の制限 として現れ るもの と言わねばな らない。」 (横浜地裁横須賀支部判決1971年12月 14日、判例 タイムズ282号、256ページ)
(2)すでに判例が、教育基本法第6条か ら経営者の教員身分尊重義務 すなわち解雇権 の制 限を導 き出 していることを見たが、教員た る身分の特別の保障について学説 は次の ように 述べ る。
「学校教師の労働条件や身分保障は、教師の人間 としての生活条件であることに加 えて、
子 どもたちが良い教育 を受 けるために必要 な 『教育条件』で もある」 ことによって、 「一 般 の労働者や公務員 におけるそれ以上でなければな らない、 とい う教育法的要請が存す
る。」 (兼子仁、前掲書327ページ)
教員の身分保障が 「子 どもたちが良い教育を受 けるために必要な教育条件である」 とは いかなることか。 この間題 は、教員の教育権 (学校教育法28条6項 「教諭 は、児童の教育 をつか さどる。」の法的性質、兼子仁 に従 えば、 「教師の教育権の法的保障を根本 において 根拠付 ける教育条理」の評価 に関わっている。兼子 は、教師の教育権の教育条理的根拠 を 以下の四点 にわたって指摘 している。 (前掲書274‑278ページ)(なお兼子仁 は東京都立大 学教授で、1988年か ら91年 まで 日本教育法学会第5代会長 を務 めた。 同学会 の創設者の一 人であるとともに、同学会の理論的権威の一人である。)
①教育 ・学習には人間的主体性が不可欠であること (教育の人間的主体性)
②真理 を教えるのに必要 な自由 と権力的多数決になじまない こと (真理教育の自由性)
③子 どもの発達の法則性 を見定めてい く教育の専門性 に ともな う自律性 (教育の専門的 自律性)
④教師が子 ども ・父母 に教育責任 を負 えるために教育の 自主性が必要 (教育の自主的責 任性)
教育 は人格 の完成 をめざす (教育基本法第 1条)す ぐれて精神的文化的な営みであ り、
教育 は、教材 を媒介 として教員 と子 どもとの人間的接触や信頼関係 を通 じて行われ る。 こ の ことを最高裁 は、 「教育が教師 と子 どもとの間の直接の人格的接触 を通 じ、 その個性 に 応 じて行 われ なけれ ばな らない とい う本質 的要請」 (学力 テス ト裁判最高裁大法廷判決 1976年5月21日) と述べた。
教育が この ような営みである とすれば、 それ を実践す る教員の労働条件や身分保障は、
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当然、一般以上に安定 し、確固 とした ものでなければな らない とい うことである。
(3) さらに兼子仁 は、 「学校教師の職責が社会 的に重要であ るが ゆえに、 その身分や待遇 には特別 な保障がなされなければな らない」 とい う 「条理 はすでに教育判例 によって確認 されていると見 られ る。」 (前掲書328ページ) とす る。
まず兼子 は、 自説 として 「具体 的教育活動 の失 当 を理 由 として は直 ちにな され ない」、
さ らに 「身だ しなみその他私生活上の行動 に ともな う教育的支障 を処分理 由 とす ること」
に も制限があ るとす る。 そ して、教育専門的な 「指導助言」や教師集団での吟味検証の結 果 として、全体 として教職適格性 の欠如や是正 しがたい根本 的な服務違反が明 らか になれ
ば、 その限 りではない とす る。
兼子 は同所 において、私学教員 に関す る判例 として、前出の横浜地裁横須賀支部判決 を 指示 しているが、以下の2例 を追加 したい。
①東京地裁判決1971年7月19日 (判例時報639号61ページ、上原正章対学校法人麹町学園) は、礼儀 の常識 をわ きまえない、規律指導能力 に欠 ける、言語表現、対人態度が粗野であ る、生徒会規定 の無視、 クラス担当の不適格性 を理 由 とす る解雇 を権利濫用 とし、無効 と してい る。裁判所 は以下の ように判示 した。
「以下の とお り、 申請人が教師 として不適格であることを認 め るに足 りない。 もっ とも 前認定 によれば、 申請人 において も反省 を求め られ る点が絶無 とはいえない。 しか し、 い ずれ も教師 としての本質的能力 に関係 のない些細 な ことであるか ら、 これ らを総合 して判 断 して も申請人の教師 としての不適格性 を認 め ることはで きない。世 に完全無欠な ものは 存在 しないか ら、教師 といえ ども、言語 ・服装等 において完ぺ きを要求 され るものではな い。特 に申請人 は、大学 を卒業 して教諭 として第一歩 を踏み出 したばか りの青年教師であ る。 この段階で完成 した教師を律す るような厳格 な基準 を もって、教師 としての適格性 を 判断す るな らば、 それ に合格 す るものは暁天の星の如 くりょう りょうた るもの となろ う。
そ うした基準 は、将来の完成 を指 向す る試用 中の教師の職業 的適格性 の判断 につ いて客観 的合理性 あるもの とはいえない。
こうした事情 を掛酌 し、前認定の一切 の事情 を評価 すれ ば、申請人 に教師 としての適格 性 な しとはいえない。 したが って、本件 は、先 に説示 した ところの就業規則上被 申請人 に 留保 された労働契約解約権 を行使 しうる場合 には当た らない。
申請人 は、新規採用で試用期間中の教諭である。少 しで も非難すべ き行為があるな らば、
校長や先輩教師が注意 し指導すべ きが当然である。 いかな る社会 において も、先輩 による 後進の指導育成 は重要であ り、 それな くして個人の職業的能力の進歩 はあ りえない。注意 指導 し、 なおかつ矯正不能 の非難があるな らば、学園か らの排除 もやむをえないであろう が、 〔証拠略〕 によれば、 申請人 は被 申請人の主張す る事実 について一度 も、校長や先輩 教師か ら注意 を与 え られた ことがない。 それなのに被 申請人 は、突如 として本件解雇 の挙 に出た。 しか も、 その解雇の理 由 として述べ る ところは、 その多 くが根拠薄弱の ものであ り、残 るもの も教師 としての不適格性 を首肯 させ るのには程遠 い ものである。 そ うす ると、
本件解雇の意思表示 は、合理的理 由 もな く、 申請人か ら教諭 としての地位 を剥奪 し、 申請 人 を困惑 させ る以外の何物で もない とい うことになるか ら、権利の濫用 として、無効 と認 めざるをえないのである。」 (教育判例総覧第12巻13819・9‑10ページ)
② また、東京地裁判決1993年6月23日 (判例時報1473号137ページ、学校法人松蔭学園対
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43 甲野花子) は、私立高等学校家庭科教諭 に対 し、3年間 に した生徒 に対す る成績評価 の う ち124件 に誤 りが あ る として、職務 の適格性 を欠 くこ とを理 由 とす る通常解雇 につ いて、
誤 りを7件 のみ認定 し、次の ように判示 した。
「被告の本件 ミスは、 これが生徒 の及 ぼす影響か らすれば、軽微 な誤 りであ る とはいえ ない ことは明 らかであるが、 それが被告の能力、素質、性格 に基づ くものであって矯正が 容易でない ものである とは到底認 め られず、 したが って、本件 ミスによって、被告 に教師 としての職務 の適格性が欠 けていた とまではいえない。」控訴審 ・東京高裁判決1995年6月 22日も同趣 旨。
なお、本判決で は、就業規則 に定 め る 「職務 に適格性 を欠 くとき」 について、次の よう な解釈 を示 してい る。 「それが教職員の解雇事 由で あ ることに照 らす と、 当該教職員の容 易 に矯正 しがたい持続性 を有す る能力、素質、性格等 に起因 してその職務 の遂行 に障害が あ り、 または障害が生ず る恐れの大 きい場合 をい うもの と解す るのが相 当であ る。」 (教育 判例総覧第12巻、13819・103、106ページ)
(4)以上の ような学説、判例 を踏 まえて本件 をみ る とき、債務者側 は、教員の身分 には一 般以上の特別の保 障が あること及 びその ことの重要性 について認識 を欠いてい る と言わざ るを得 ない。 ご く些細 な ことまで動員 して債権者の教員適格性 を否定 しようとしているが、
それ は人格 の誹誘 にまで及 び こそすれ、解雇理 由 としては薄弱であ る。 そ こには、 なん と して も債権者 を学校 よ り排除せん とす る強 い意志のみが感 じられ る。
7、以上の検討の結果
解雇 を正 当化 しうるほ どのいかなる理 由 も見 出す ことはで きなかった。前途有為 の青年 教員 を この ような形 で学校 か ら排除す ることはきわめて非教育的処置である。 債権者 は債 務者の無能力 と不見識の犠牲であると言 う他 ない。
よって、鑑定結果の通 りの結論 に達 した次第である。
以 上
(後記)
本稿 は、元 々 は、長崎地方裁判所大村支部平成12年 (ヨ)第6号地位保全仮処分命令 申 立事件 に関わって、求 め られて作成 した鑑定意見であ る。作成提 出時2000年7月10日か ら 一定時間が経過 したので、参考のために公表す ることに した。
投稿 に当たっては、固有名詞 な どに必要 な修正 を施 した。本文中、引用文献の指示のな い 「 」は、当事者提 出の書面か らの引用である。