第 6回 :「 不登校 という物語 を生 きる子 どもたちの心 と身体」

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第 6回 :「 不登校 という物語を生 きる子 どもたちの心 と身体」

富山大学保健管理 セ ンター 西 村優紀美

Yukimi Nishimura: The mind and body of the Students who are livins the life of school refusal

1.は じめに

筆者 はスクールカウンセ ラー (SC)と して学 校 とい う場で発達援助的な関わ りを継続的に持つ 機会 を得た。 そ こで はSCが 教室 に入 りに くい子 どもたちや不登校の子 どもたちと積極的につなが りを持つ ことがで き、周辺の人々への関わ りを拡 げてい く中間領域的な立場 を取 ることが可能であ る。一般的に学童期や思春期の子 どもたちは、病 院等の臨床場面 における治療 につなが ることは少 な く、たとえ関わることがで きたとして も、継続 的な治療が続 け られ ることが難 しい。 さ らに言 え ば、学校現場 において この時期の子 どもに生 じる さまざまな問題 (行動,症 状)は 、医療診断モデ ルで治療的に関わ るよりも、む しろ発達援助 モデ ルを基盤 に置いた教育的な関わ りが有効 に働 く場 合が多い とい う印象 を持 っている。今回の講座で は、登校 しに くい、 あるいは登校 して も教室 に入 りに くい状態 を呈す るこどもたちに対す る発達援 助的な関わ りについて事例を中心 に述べてい く。

事例 となる子 どもの年齢や特質、生活歴 によって 現れ方 はさまざまであるが、 その身体 に現れ、状 態 として表れ ることが らを子 どもか らの非言語的 なメッセージとして受 け止め、そのことに向き合 っ ていったプロセスを参加者 とともになぞ ってみた い。

2.発 達援助的な心理面接

学校 におけるカウンセ リングは、教育 モデルと しての 「育て ること」が 目標 にあ り、児童生徒の 発達の流れに沿 った 「問題解決能力 を育む こと」

が大 きな目標 となる。

また、保護者の面接 において も、援助者である カウンセラーは、その時期の発達段階を3、まえた 子 どもイメージ、 さ らにはその時期の子 どもの内 的体験世界をイメージしなが ら、保護者 の訴えに 耳 を傾 ける必要がある。 クライエ ン トである保護 者の語 るス トー リーに、子 どもイメージをパ ラレ ルに置 きなが ら、保護者の内面 に心を寄せてい く。

その一方で、中心 に置かれるべ き子 どもが、保護 者 のス トー リーの中で どのよ うな体験 を している

のだろうかという視点を持 って子 どもの世界を創 っ てい く。つま り、現実的な子 どもを中心 に据えな が ら、発達段階か らみた子 どもの内的体験世界を 想像 し、保護者のス トー リーで語 られる子 ども像 を重ね合わせてい くのである。 このような中で確 認 されるべ きことは、現実 はただ一つではあるが、

子 どもの状態像 は多 くの可能性 を持 っていること である。 この ことは多 くのアプローチが存在す る ことを示 している。発達援助的な関わ りは、子 ど もたちに関わ るすべての人 々に開かれている。そ れぞれの立場で、「私 な らで はの子 ど もとのつな

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が り方」があるのだ とい う可能性 と自信 を持 って 臨んでいきたい ものだ。

3。 関係を築 くこと ・関係をつな ぐこと

子 どもたちと関係 を築 くときに大切 なのは、 そ のプロセスである。児童期の子 どもの場合、 カウ ンセラーに会 いに来 ること自体 に必要性 を感 じる ことは少ない。 自分をニュー トラルに受 け止めて もらえ る大人であるとい うこと、 自分 を受容的に 受 け止めて もらえ るとい う実感を、 カウンセラー は何 らかの方法でメ ッセー ジとして子 どもに発信 す る必要がある。思春期の子 どもも同様である。

自分がなぜ元気が出ないのか、 自分 はい ったい何 者であるか とい うよ うな漠然 とした不安があ り、

自分が感 じている感情 を口に出 して も良 いのか、

日にす ること自体恥ずべ きことではないか と悩む とき、 目の前のカウンセ ラーがそれを伝え るに遮ゝ さわ しい人物であるか どうか ということは、 自分 の尊厳 を守 る意味で も重要 なポイ ン トである。 そ の不安を払拭す るために、私 たちカウンセ ラーは 良好で対等 な関係を築 くことが第一義的な ことと

して考え る必要がある。

子 どもとの出会 いは、「無知の質問」 と、「積極 的 な関心」 を もって臨む とスムーズにい く場合が 多い。大人 は目の前の子 どもが どのような内的体 験世界を持 っているのか ということに、大 きな関 心 を持つのだ。 それは誰かのス トー リーに登場す る 「子 ども」で はな く、 目の前の子 の内面 にある

「この子」 である。語 られ る言葉や、語 られない けれ ど伝わ って くる非言語的メ ッセー ジは、別 の 誰かにとっては真実ではないか もしれないが、 こ の子 にとっては 「内的真実」であることは確かで ある。子 どもが表す 「内的真実」 に積極的な関心 を持 って耳 を傾 けること、畏敬の念を持 って耳 を 傾 ける態度 は、必然的に相手 を尊重す る態度を生 む。

関係を築 くための方法 はさまざまだが、 ここで 紹介す る事例では、言語的な心理面接の他 に、両 者をつな ぐための媒介物が大 きな意味を持 ってい る。小学生や中学生 の場合、つな ぐための媒介物

(共有す る場 0も の)が 、 カ ウ ンセ ラーが選ぶ と い うよ りも本人が選んで提供 して くれ る場合が多 い。それは、最初 は自己防衛的に自分を守 るもの であ り、他者を寄せ付 けないガー ド (柵)の よ う な ものであるか もしれない。 しか し、 その ことも 含 めて受 け止 め積極的な関心 を持 ってい くと、 そ のガー ド (柵)自 体が強力なつなぎ役を演 じて く れ る場合がある。む しろ臨床場面ではそ うなるこ

とのほうが多いように思 う。

先 に保護者の面談で述べたような、 ス トー リー をパ ラレルに幾重 にも重ね合わせて創 ってい くよ うなイメー ジづ くりが ここで も行われ る。現実の 子 どもの状況 と子 どもが語 る言葉、子 どもの行動 とその媒介物 を介 したカウンセ ラーとのや り取 り が、複数のス トー リーを作 り、 カウンセラーであ る私のイメー ジの中でぼんや りと象 られてい く。

中学生事例では日記や本、箱庭が媒介物 とな っ ている。 また、小学生事例では遊 びと箱庭、 そ し て、母親の語 りがイメージを作 り上げる材料になっ ている。関係 を創 り、関係をつな ぐ中であ らわれ て くる子 どもの物語を紹介 してい く。

テーマに挙 げた 「不登校 とい う物語を生 きる」

とあ らわ したのは、 「いわゆる現象 と しての不登 校」 とい う意味で書 きあ らわ した ものであ り、筆 者 と しては、「それぞれのか けがえのない唯一 の 物語」 と して描 きたいという意図があることを確 認 してお きたい。

4。 「私 らしく生 きること一アイデンテ ィテ ィの 確立 に関わる体験 としての不登校」

〜A子 (中学 2年 生)の 場合〜

(1)初回面談

A子 とSCで ある筆者 と出会 ったのは 2年 生 も 終わ りの 3月 。 クラスメー トと一緒の時は明 る く は しゃいでいたが、始業の合図が鳴 るとあわてて クラスに戻 る生徒の中で、何 とな くそ こにいたA 子 と何気 ない話を しているうちに、 ち ょっとした 沈黙の後、「家がお もしろ くない。学校 も 00・ 。」

とぽつ りと言 った。

第 1回 目の面接では、「家族が言 い争 いをす る。

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私 はその中にいて黙 っているが、 どう振 る舞 って いいのかわか らない。家族の誰 ともうち解 けられ ない し、大事 にされていないよ うな気がす る。思 いを口にす るとかえ って大 ごとにな って しまうと 思 い、黙 って しまう。 そ うい う自分が嫌 になる。」

と家族を語 り、 さらに 「誰 とで もうま く話を合わ せていかないと、相手 に悪 いような気がす る。他 人 にどう思われているのか気 になる。嫌われた く な くて一生懸命 に気 を遣 い、その うちに、私 って 何 だろ うって虚 しくなる。」 と対人関係 のつ らさ を語 った。 その後、 A子 は登校で きな くな り、家 の中では自分の部屋のベ ッドで過 ごすようになる。

家族 との接触 も断ち、窮屈 なベ ッ ドの中で本 を読 んだ り日記を書 いた りしていた。唯一外出す るの は、飼 っている犬の散歩 と筆者 との週 1回 の面接 に登校す るときだ。

中学生 の時期 は、抽象的論理的思考が可能 にな る。 それ とともに知的興味 も自分 自身の内面 に向 か う時期で もある。大人か らの借 り物の価値観で はな く、 自分 らしい価値観を自分の力で獲得 した いと思 い、揺れ動 く時期であるといえ る。万能感 にあ遮ゝれた理想の 自己像を もらて生 きていこうと す るが、現実の自分 はつかめない。そ もそ も 「自 分」 とはどういう人間かわか らない。 そ こで他者 の目を通 した自分 に 「現実の自分」をみることに なる。

このような発達段階にあるA子 への心理面接 は、

「空 っぽの自分」 と感 じる自分 の内面 を埋 めてい くこと、実のある自分であることを確認 してい く ことであ り、 それは思春期のアイデ ンティティの 確立 に関わる発達課題であるという認識を持 って 臨んだ。

筆者 と会 うA子 は、楚 々とした印象で大 きな声 で話す こともな く、 いつ も微笑みを含んでいる。

筆者の前で良 いクライエ ン トを演 じているような 居心地 の悪 さを感 じ、 A子 がその内面をあ らわす ことがで きる媒介物を彼女の語 りか ら探 し出 した いと思 った。 A子 は本を読む ことが好 きで、小学 生の頃に日記 を書 いた り、友人 と交換 日記 をや り 取 りしていた ことがあると知 り、筆者か ら、「思 っ

たことを書 くことと、どんなイヽさなことで も良かっ たと思えたことを書 くのはどう?」 と提案す ると、

それならできるという返事を もらうことができた。

以下 にその流れを示す。

(2)自己探索

0今 とて もつ らい。 どうしていいかわか らない。

苦 しくて胸が詰 まる。 このまま じゃいつか押 しつ ぶ されて しまう。 ここか ら抜 け出 したい。逃 げた い。 どうした らいいか誰か教えて。

・こんなに家が嫌なのに、学校 に行 くの も嫌なの はなぜ ?き っと、 いざとい うときに意見の食 い違 いがで きるのが嫌 なのか もしれない。

・自分のことそんなに嫌いじゃないよ。よく頑張っ ていると思 う。で も、 もう一人の自分がいた ら何

もしてあげ られない。 ただ話 を聞いてあげる しか ない。応援 した らだめになるよ うな気がす る。

・ベ ッドで寝ているしか自分のこと守れない。

この時期 のA子 が作 る箱庭 は、「家」が テーマ だ った。最初の箱庭では自分 は家の中にいて、外 と家 をつな ぐ橋 には大が横 たわ っている。家 には 垣根があるのだが、家のそばを通 る怪獣やお化 け、

不気味な人たちのいるあた りには垣根がない。 A 子 は 「ち ょっと横を見ればす ぐに怖 い人 たちに気 づかれて、家の中に入 って こられ る」 よ うな状況 だ。その店滸 ない垣根のない部分をかろうじて守 っ ているのが老夫婦である。一方、 その反対側 には 男女が 「演劇」 を してい る。反対側 に危機的な状 況 と無関係で、演劇 に興 じている場合ではない状 況での男 と女 の役者 の存在 は、危機 に瀕 している 家庭 の現実をみて見ぬ8ゝりを している両親 の存在 を連想 させた。

(3)自己受容

・私、みている世界がどんどん狭 くなっているよ うな気がす る。 この ごろ、ベ ッ ドにいる時間が長 いと感 じる。同 じ場所 にいると本当に世界が狭 く て窮屈だ。

・ここか ら、 この性格で この場所か ら始めてい く

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しかない って知 ってるよ、私。

この ころの箱庭 は、対 になる二つの世界を作 っ ていた。 ある日の箱庭 のテーマは、「にぎやかな 町」だ った。家がた くさん建 ち並 び、 その間を行 き交 う人がいる。一見、 にぎやかな風景だが、箱 庭 の右側 には一本の川があ り、その川を隔てた対 岸 には、狭 い空間だが寂 しげな世界があ った。 マ リア像 とお墓、十字架 と幽霊が付置 されている。

川 の右上 にはにぎやかな町 と寂 しげな場所をつな ぐ橋がある。 A子 はその世界を語 らない。

ある日の箱庭 は 「子 ど もの世界 と大人 の世界」

とい うテーマで作 られた ものだ った。中央 に小高 く山に した部分があ り、 そ こは子 どもの世界だそ うだ。真ん中には ピアノがあ り、 それを中心 に小 さな動物 たちが楽 しそ うに歌 っている。その小高 い山の周囲を小 さな川が周囲を取 り囲んでいて、

それを境 にもう一つの陸地がある。そ こは 「大人 の世界」だそ うだ。病院やマ リア像、結婚式をす る男女 や老夫婦が いる。「子 どもの世界」 と 「大 人の世界」は、小さな川で区切 られていてつなが っ ていない。 しか し、そ こを小 さな亀が渡 ろうとし ている。 <A子 さんは、 どこにいるの ?>と 尋ね ると、 A子 は 「私 はまだ子 どもの世界 にいる」 と 答えた。大人の世界 はみえているけど、 そ こにつ なが る橋 はない。おびえた亀がゆ っくりとおそる おそる歩みを進めている。現実 の自分 はまだ 「子 どもの世界」 にいるけれ ど、彼女 の精神 は亀 に託 して 「大人 の世界」へ と歩んでいるのだろ うか。

A子 の母 は家を後 に した。別れの儀式 はA子 と 祖父母、母親で行われた。母 と祖父母 は泣 きなが ら最後の別れの挨拶 を していた。哀 しい場面であ る。 しか しA子 は泣 けなか った。泣 いている母親 に言葉 をか けることもで きなか った。 ベ ッ ドの中 のA子 。筆者 はただ 1週 間に 1度 だけA子 と向 き 合 うことしかで きなか った。相談室 に来 るだけで 精一杯 なA子 、何 も語 らず、誰を責 めることもし ないA子 に、 いつ もより深 い哀 しみを感 じた。筆 者 にで きることは、 A子 の哀 しみ、無力感、すべ

ての感覚 を我が身 に しみ こませ ること、私 自身の 心 と身体で感 じることだ った。そんな日は、A子 が帰 った後 もA子 の感覚が取 り残 されたままにな る。A子 が感 じているであろう寂 しさの中にいて、

消えて しまいそ うな自分 を体験 し、我が身の身体 をぎゅっと抱 きじめずにはい られなか った。

(4)自己選択

・私 はいつかは幸せになれるつて思 っているよ。

今 よりず っといい人生を送 って もいいはずだ。で も自分 は行動 していない。 ただ時間の中でぼ一っ としているだけだ。

・学校 に行 くべ きか、行かない方がいいのか二つ の道がある。今 は二つの道のどっちで もな くて、

少 し離れた ところにいる。 そろそろ決 めな くては いけないってわか っている。

(5)自己決定

・こんな生活 はもう嫌。私 にはどうす ることもで きないのかな ?た だ時が解決 して くれ るのを待 っ ているだけでいいのかな ?

・掃除をす るって決めたら、なんかやる気が出て きて元気。ば一っと過 ごすの もいいけど、 なにか やるって決めて一生懸命す るの も気持 ちがいいな。

その後、家族内の言 い争いがな くなった。 また、

A子 は母親 と距離が取れた ことで、かえ って素直 に話がで きるようにな った。両親 は離婚 したけれ ど、 自分 にとって親であることに違 いない。何か と体調を気遣 って連絡 して くれ る母親 との関係 は 安定 していった。

6)自 己行動

・私 は自由なのに、それを自分で自由 じゃな くし ている。すべては私の思 い一つなんだ。

・私 はもしか した ら本当は学校 に行 きたいのか も しれない。

・英語 と国語の勉強を した後、布団を干 して シー ツを替えて髪を洗 った。気分がいいのは天気がい いせいばか りでな く、 自分の好 きなことを好 きな

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(7)自己実現

・学校を休んだけど無駄 じゃなか った。ゆっくり 考えることがで きた。

・今の自分でいい。す ごくつ らか ったこともあっ て、 なかなか本心が言えないけど。言お うとして いる自分がす ごいと思 った。

・私 は私のために生 きていることを忘れちゃだめ なんだ。

・自分が自分の気持 ちを大切 に しないと、誰 も私 を大切 に して くれない。私 は私 らしく生 きてい く ために生 きている。

・誰かが私 よりも頭 も顔 もスポーツも性格 もすべ ていいか もしれない。実際そ うだ として も私 は私 なんだ。 これでいい。私 の性格 なんだか ら。比べ て もどっちが劣 っているとい うことなんてない。

私 には私 のいいところがあるよ、 きっと。

A子 は教室 に帰 っていった。 その後、筆者 との 面接 は当初週 に 1回 だ ったが、時間が来 るとあわ てて教室 に戻 ることがで きた。 A子 が最後 に私の 前を去 るときに、立 ち上が り振 り向 きざまに言 っ た言葉が忘れ られない。 「先生、楽 しい ことって 単純 な もので、つ らいことは複雑 なんだ。人生 っ てそんな ものなんだよ !」初秋の風 に髪を揺 らし、

はにかんだような笑顔で教室に帰 ってい くA子 は、

「私 らしく生 きる」 ことを発見 した一人の女性で あった。

(小学生の事例 は紙面の関係上、省略す る)

5.終 わ りに

『西 の魔女が死んだ』 (小学館)の 中で、 おば あちゃんはまいに言 った言葉がある。

「00悪 魔を防 ぐためにも、魔女になるためにも、

いちばん大切なのは、意志の力。 自分で決める力。

自分で決 めたことをや り遂 げる力です。 000」

私 が出会 った子 ど もたちは、「不登校」 とい う場 を選び、「自分決めたことをや り遂げる力」を培 っ ていたよ うに思 う。

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参照

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