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(1)

ドイツにおける児童騒音訴訟に関する一考察 : 連 邦イミシオン防止法における特権化の意義

著者 石上 敬子

雑誌名 同志社法學

巻 68

号 7

ページ 3059‑3078

発行年 2017‑02‑28

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000139

(2)

    同志社法学 六八巻七号九一一三〇五九

――連邦イミシオン防止法における特権化の意義――

           

一  はじめに   近年、保育施設から生じる﹁子どもの声﹂をめぐるトラブルが耳目を集めている 1

。開園前の反対運動により開園自体が断念されたケースがある一方で 2

、開園後に裁判にまで及んだケースもあり、現在も数件が係争中とされる 3

。ただし、判決まで至った例は、これまでのところ存在しない 4

  ところで、ドイツに目を転じると、当地では既に一九九〇年代には、﹁児童騒音[

K in de rlä rm

]﹂をめぐる一群の裁判例が存在している 5

。そして二〇〇〇年代には、とりわけ保育施設に厳しい判決が示されるようになるが 6

、世論から強

(3)

    同志社法学 六八巻七号九一二三〇六〇

い反発が巻き起こった。そこで二〇一一年、﹁連邦イミシオン防止法﹂が改正され、児童騒音については特権的扱いが認められることになった 7

。﹁イミシオン﹂とは大気汚染や騒音等が環境に及ぼす影響のことであり、同法の直接の目的は、行政による環境規制の基準を示すことにある

)8

。ただし同法は、保育施設と周辺住民との訴訟における判断基準と密接に関連しており、本改正はまさに、保育施設を訴訟リスクから守ることを重要な目的として掲げていた 9

  そこで本稿では、連邦イミシオン防止法の改正に至る、ドイツにおける児童騒音訴訟をめぐる法状況を紹介する。本稿は概況を紹介するものにとどまる ₁₀

が、この問題を扱う文献は今日に至るまで乏しい ₁₁

。本稿をきっかけに議論が深化し、日本の児童騒音訴訟への示唆が得られることとなれば幸いである ₁₂

  以下では、ドイツにおける児童騒音をめぐる法状況を概観したのち(二)、連邦イミシオン防止法の改正の内容を明らかにし(三)、若干の検討を加えてまとめとしたい(四)。

62http://toyokeizai.net/articles/-/642)、 SH5cle1SHs/AGNILH1SUT00.html/artiRmwcoht://wtpw.asahi.)、﹁﹃ 1、﹁) 

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3) 

1

(4)

    同志社法学 六八巻七号九一三三〇六一 )。﹁﹃調http://www.asahi.com/articles/ASJ4H4VTRJ4HOBJB00H.html)、西  、来http://

mainichi.jp/articles/20161119/k00/00m/040/140000c))

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,eid HG; L12196er19R-RJW, N95elbg, ., W.38,9719uM96U19.10.23rt.191019.VerwG, Urt.12.12.1991, NJW92z.B,1779; OLG Düsseldorf, Urt.11. B5) 

20.319,0620RU, Z05.8.8rt., Urgbuam HGL6) 

omausgenden Kinderlärms veh20B. J.l I38G, B1120uli sed inrichtungen unlpKinderspielätzenrtagedeisserms-Ideuns Bdeg unndin Äurz zetes GesntmioZile Kon ves dngrugierivns -Pestzsegetzhusceh7) 

8]﹃) )、

. Drs. 175., S3648/17rsBDT-B/4836, S.4,7.T-9)  10) 稿

30Gidler, Das Zehnte esScetz zur Änderung dehes Bundes-Immissionsschutzgesetzes, NVwZ2011,838; Maaß, Zum Immissionsschutz bei Kinderlärm, ZUR2006,196. Schröer, Neues zum Schutzgut Kinderlärm, NZBau2010,303; ders., “Sozialer Lärm” im Fokus des Bauplanungs-und

Umweltrechts, NZBau2009,27; Guckelberger, Geräuschemissionen von Kinder -und Jugendeinrichtungen aus öffentlichrechtlicher Sicht, UPR2010,241; Rojahn, Kinderlärm zwischen Immissionsschutz und Sozialadäquanz, ZfBR2010,752; Macht/Sclarrer, Einrichtungen für Kinder und Jugendliche im Verhältnis zur Nachbarschaft, DÖV2009,657; Dietrich/Kahle, Immissionsschutzrechtliche Beurteilung von Kindergartenlärm und

Lärm von Kinderspielplätzen, DVBl 2007,18.

(5)

    同志社法学 六八巻七号九一四三〇六二

 11)。) 

)。 12) 

二  児童騒音をめぐる法状況

⑴   法 的 争 点

ア  概要   ドイツでは、児童騒音をめぐる裁判は、民事訴訟と行政訴訟の双方において争われている ₁₃

。民事訴訟となるのは、騒音を生じる施設が民営の場合である。行政訴訟となるのは、典型的には、担当官庁に対して施設の騒音に関する監督不作為が問われる場合や、施設に対する建築許可の取消しが争われる場合である。ただし、施設が公営の場合も、行政訴訟として争われるべきものとされる。つまり、行政訴訟の典型例を除き、施設に対する差止めが争われる場面についてみれば、施設が民営か公営かで訴訟形式が異なりうることになる。管轄裁判所も、民事訴訟は通常裁判所、行政訴訟は行政裁判所となる。

  訴えの法的根拠とされるのは、民事訴訟の場合は民法[

B G B

]の一〇〇四条および九〇六条であり、行政訴訟の場合は連邦イミシオン防止法[

B Im Sc hG

]の二二条および三条である ₁₄

。主な要件は、前者では、当該騒音が﹁本質的な侵害﹂にあたるか(侵害の本質性[

W es en tli ch ke it

]、

B G B

九〇六条一項一文)、後者では、当該騒音が﹁有害な環境作用﹂にあたるか、とりわけ﹁重大な不利益または負荷﹂をもたらすものか(イミシオンの重大性[

E rh eb lic hk eit

]、

(6)

    同志社法学 六八巻七号九一五三〇六三

B Im Sc hG

三条一項)である。

イ  民事訴訟の場合――民法   この場合、請求の内容は、当該施設から生じる騒音の差止め、または騒音の受忍に代わる金銭補償となる。ドイツでは差止めが所有権侵害に対する物権的請求権の内容として規定されていることから、不法行為(

B G B

八二三条)という法律構成は前面には出てこない。差止めについては

B G B

一〇〇四条 ₁₅

、金銭補償については

B G B

九〇六条 ₁₆

が、次のように定めている。

 

B G B

一〇〇四条によれば、物の所有者は一般に、物に対する所有権侵害が継続する恐れがあるとき、差止を請求することができる(

B G B

一〇〇四条一項二文)。ただし、所有者が﹁受忍義務﹂を負う場合はこの限りでない(

B G B

一〇〇四条二項)。受忍義務を負うか否かは、相隣関係に関する

B G B

九〇六条から導かれる。これによれば、土地の所有者は、隣接する土地からの作用が、自己の土地の利用を﹁本質的﹂に侵害していない場合、その作用を禁じることができず、受忍義務を負う(

B G B

九〇六条一項一文)。つまり、

B G B

九〇六条にいう︽侵害の本質性︾が、

B G B

一〇〇四条の差止請求において最も重要な要件となる ₁₇

  ただし、受忍義務を負い、差止請求が認められない場合でも、自己の土地の利用または収益が、期待可能な程度を越えて侵害されるときには、土地所有者は、差止めに

本質的な侵害か

(本質性要件)

【BGB906Ⅰ】

場所慣行的な 利用でないか

【BGB906Ⅱ①】 受忍義務なし

⇒妨害排除

【BGB1004】・差止

⇒金銭補償

【BGB906Ⅱ②】

程度を越えた 受忍義務あり 侵害か

本質的でない

場所慣行的 防止措置が 経済的に可能か

【BGB906Ⅱ①】

不可能

(7)

    同志社法学 六八巻七号九一六三〇六四

代わる金銭補償を請求する道が残されている(

B G B

九〇六条二項二文)。

  本質性の評価においては、他の法令上の限界値または基準値が手がかりとされ、これを超えない場合は通例、本質的侵害にあたらないとされる(

B G B

九〇六条一項二・三文)。この一文は、民法と行政法規との判断基準を一致させることを目的として、一九九四年の改正によって挿入されたものであり、他の行政法規上に関係する数値基準が存在する場合には、その値が評価基準として用いられる。

  騒音に対して用いられうる基準は、次の三つである。・騒音防止技術指針(

T A -L är m

、一般的な騒音基準)・スポーツ施設騒音防止令(第一八連邦イミシオン防止令[

18 .B Im Sc hV

])・レジャー施設騒音指針(イミシオン防止全国調整員会(

L A I

)が策定)

  たとえば騒音防止技術指針は、一般住居地区については、昼間(六:〇〇~二二:〇〇)は五五デシベル(

dB

A

)、以下同)、夜間(二二:〇〇~六:〇〇)は四〇デシベル、純粋住居地区については、昼間(六:〇〇~二二:〇〇)は五〇デシベル、夜間(二二:〇〇~六:〇〇)は三五デシベル、との数値基準を定めている(同六・一号d・e)。ただし、同指針は﹁社会的目的のための施設﹂を適用除外としており(同一号h)、スポーツ施設騒音防止指令、レジャー施設騒音指令も同様とされる。

  利用可能な数値基準が存在しない場合には、個別事情に基づいて侵害の本質性につき判断がなされることになる。 ウ  行政訴訟の場合――連邦イミシオン防止法

  この場合、法的根拠となるのは、連邦イミシオン防止法である。

(8)

    同志社法学 六八巻七号九一七三〇六五   同法は、施設[

A nla ge

]からの排出物に対する規制を中核とする。まず、一定以上の︽有害な環境作用︾(後述)を生じうる施設は、設置運営につき、各担当官庁による各種の許認可を受けるべきものとされる(

B Im Sc hG

四条以下)。許認可を要する施設は、第四連邦イミシオン防止令[

4 .B Im Sc hV

]に具体的に列挙される。しかし、児童騒音を生じうる施設は、同令の列挙に含まれていない。そこで、許認可を要しない施設に関する同二二条の適用が問題となる。

  許認可を要しない施設は、許認可に代わり、設置運営において以下の二つの義務を果たすべきものとされる(

B Im Sc hG

二二条一項)。当該施設がこれらに違反した場合、担当官庁は追加的命令を発し(

B Im Sc hG

二四条)、従わない場合には操業禁止等を命じるべきものとされる(

B Im Sc hG

二五条)。・技術水準に照らして回避可能な︽有害な環境作用︾の阻止(同一号、回避要請)・技術水準に照らして回避不可能な︽有害な環境作用︾の最小化(同二号、最小化要請)

  ただし、この義務が課されるのは、当該施設からの排出物が︽有害な環境作用︾にあたる場合である。同法はこれについて次のように定義する(

B Im Sc hG

三条)。﹁本法の意味における有害な環境作用とは、その性質、範囲、期間により、公衆または近隣に、危険、重大な不利益、または重大な負荷をもたらすことに適するイミシオン ₁₈

である。﹂

  この要件は︽重大性︾と呼ばれる。騒音が問題となる場合にはとりわけ、その作用が﹁重大な負荷﹂をもたらすかが問われることとなる。具体的な基準としては、イで述べた三つ(騒音防止技術指針、スポーツ施設騒音防止令、レジャー施設騒音指針)が用いられうるが、いずれも同じく、社会的目的のための施設に対しては適用されないため、個別事情に基づく判断がなされることになる。

  一方、以上に述べた連邦イミシオン防止法の基準は、建築利用令[

B au N V O

]が定める建築許可の基準としても機能

(9)

    同志社法学 六八巻七号九一八三〇六六

している ₁₉

B au N V O

一五条は、建築物等につき当該地区の性質に照らして受忍し得ない不利益が生じうる場合には、その建築は許されないとする(一項二文)。ここでの受忍限度の判断においては連邦イミシオン防止法が参照されており、当該騒音が連邦イミシオン防止法にいう︽重大性︾要件を満たす場合、担当省庁は建築許可を認めないか、取り消さなければならない。

  ただし、純粋住居地区に関しては、社会的目的を有する施設は例外として許容される(

B au N V O

三条)。

エ  騒音に関する判断基準――二つの法の近接と異同   民法は民営施設への差止請求等を基礎づけるのに対し、連邦イミシオン防止法は公営施設に対する担当官庁の不作為を問う根拠となるものであり、適用場面が異なる。ただし、公営施設に対して差止請求等がなされる場合には、下級審ではしばしば、

B Im Sc hG

二二条および三条が引き合いに出されていることから ₂₀

、施設に対する差止めが争われる場面についてみれば、施設が民営か公営かで適用される条文が異なりうることになる。もっとも、前述した

B G B

九〇六条の一九九四年改正にみられたように、民法の相隣関係規定と連邦イミシオン防止法とは、元より調和が目指されてきた。このため、

B G B

九〇六条一項一文にいう侵害の本質性要件と、

B Im Sc hG

三条一項にいうイミシオンの重大性要件とは、基本的に同じ方向に向かうべきものと解されてきた ₂₁

  ところが、裁判例をみると、両者は特に数値基準との関係において、不統一がみられることが指摘される ₂₂

 

B Im Sc hG

三条にいう重大性要件については、行政裁判所では連邦行政裁判所一九八三年一〇月七日判決以来、﹁評価的利益考量[

w er te nd en G üt er ab w äg un g

]﹂の原則が確立されている ₂₃

。これによれば、特定の騒音源は、数値基準による類型的な評価には適さないとして、状況に応じ諸事情を比較考量して重大性について判断すべきものとされる。ただ

(10)

    同志社法学 六八巻七号九一九三〇六七 し、こうした立場に対しては、判断基準が不明確であり法的安定性を欠くこと、少数者の具体的な不利益が公衆の利益の犠牲にされるとの批判が向けられている。

 

B G B

九〇六条にいう本質性要件についても、下級審には

B Im Sc hG

三条における判断と同様に、具体的な比較考量を行うものもある ₂₄

。しかし、連邦最高裁判所は、個別事情を考慮する場合にも、より厳格な判断を行う。そこで述べられるのは、評価的要素は確かに一定の役割を果たしうるが、それは具体的判断を可能にするものとしてではなく、﹁合理的な平均人﹂の感覚を示すものとして意義があるに過ぎない、ということである。その他の例ではむしろ、連邦最高裁判所は明確に、現存する数値基準に依拠して本質性について判断している。

⑵   裁 判 例

  次に、児童騒音を生じる施設に関する裁判例を通覧する。   児童騒音を生じる施設に関する裁判例は、古くは一九七〇年代から散見された。しかし、それらの多くは、児童保育施設等に対して寛大な判断を示してきており ₂₅

、たとえば連邦行政裁判所一九九一年一二月一二日判決は、児童遊戯施設は年齢に応じた児童の成長のために望ましいものであり、一般住居地区、純粋住居地区のいずれにおいても原則として許容されるべきであって、近隣に受忍されるべきだとした ₂₆

  しかし、二〇〇〇年代に入りとりわけ注目を集めたのは、ハンブルグ地方裁判所二〇〇五年八月八日判決 ₂₇

およびギーゼン行政裁判所二〇〇五年九月二一日決定 ₂₈

である。近い時期に相次いで出されたこの二つの判決は、それぞれ民事訴訟と行政訴訟という異なる形式であったところ、判断基準も結論も対照的であり、一方はとりわけ施設側に厳しい判断を示したことで話題になった。ギーゼン行政裁判所は、児童遊戯施設に関し、レジャー施設騒音指針を参照としつつも、

(11)

    同志社法学 六八巻七号九二〇三〇六八

児童騒音には社会的相当性が認められるとして直接にはこれに依拠せず、具体的な利益衡量を行って結論において差止請求を退けた。対して、ハンブルグ地方裁判所は、幼稚園(改正法にいう﹁児童保育施設﹂)に関し、騒音防止技術指針の数値基準に依拠し、純粋住居地区における中間基準である五〇デシベルを超えていたとして、差止請求を認めることとなった。

  既に述べたように、騒音に関する数値基準は、社会的目的のための施設に対しては適用されるべきでないとされる。にもかかわらず、それらの基準は判例において、連邦イミシオン防止法との関係でも、民法の相隣関係法との関係においても、基本的な方向性を示すものとして引きあいに出されることが多い。そして、ギーゼン行政裁判所のように、数値基準が考慮要素の一つに過ぎないとされるのであればまだしも、ハンブルグ地方裁判所のようにもっぱら当該数値基準によって判断されるのであれば、児童保育施設等にはしばしば過酷な結果がもたらされることになる。

  ハンブルグ地裁判決の結果、当該幼稚園はその後、二〇〇八年一〇月には廃園に至ったとされる。同様の事態はベルリンでも生じており、商業・住居用建物で運営されていた幼稚園が移転を余儀なくされたという ₂₉

20Maaß, aaO.Fn.10UR, Z06 )、 )、調):)()( 13)  ra111520Jauf.Al. , hGScIm, Bss)。 14; §ta2010uf.A6, 7d.anBr, en, §mom KerenchünMBGB13l. 90hG04-BaldusBIm6Scr-Skeäc)、) 

13

115

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