技術の構造化による技術戦略 : 人材戦略とテクノ ロジーブランド
著者 宮崎 洋, 高井 紳二
雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー
巻 10
ページ 177‑179
発行年 2009‑03‑31
権利 同志社大学ワールドワイドビジネス研究センター
URL http://doi.org/10.14988/re.2017.0000015958
車メーカーの車種はランク入りしておらず,北京市のアジア村汽車交易市場でのアンケート調査
(京都大学経済学部塩地洋教授を代表とする中国自動車流通調査チームが実施)でも民族系自動車 メーカーの車種6に対する評価は低かった。なお,後者のアンケート調査に関しては拙稿「中国自 動車市場における個人消費者の購買行動について」『同志社大学ワールドワイドビジネスレビュ ー』第10巻,第1号,2008年9月を参照のこと。
9 詳しくは,拙稿「民族系メーカーの自動車流通における現状と課題−奇瑞汽車を事例に−」『同志 社大学ワールドワイドビジネスレビュー』第9巻,第1号,2007年9月を参照のこと。
10 『ジェトロ上海ニューズレター』2006年3月上期号を参照。
技術の構造化による技術戦略
──人材戦略とテクノロジーブランド──
宮崎 洋
(譁三菱総合研究所主席研究員)
高井 紳二
(同志社大学商学部教授)
本研究では日本企業がワールドワイドにビジネスを展開していく上で大きなキーとなる技術 に焦点を当て,必要な技術移転を円滑かつ効果的に進めていくことの必要性とその方策につい て検討した。
日本の現場技術
現代日本は技術戦略を再考する時に来ている。日本の企業システムは高度成長期と石油危機 を経て,その後のバブル成長期とバブル崩壊,さらには
IT
に代表される新デジタル経済にお いて大きく変化している。日本企業の強さの背景には日本独特の仕事の進め方がある。現場主義ともいわれるが,現場 特に工場を中心とした現場感覚が重視されてきた。この仕事の進め方は
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年代米国の研究 者によって米国企業にも伝えられ,現場での改善力を米国企業にもたらすことになった。しか し日本企業のさらなる強みは現場の要員の強さによってもたらされるものであり,ものづくり の現場の実力がよりよい方向を示唆していくところにある。仕様書や設計図が本社の設計部門 で作られたものであっても,現場での改善がそれよりも重視され,仕様書が後から改善されて くる。この背景として米国の場合優秀なエンジニアが大学を出ると,本社に勤務し仕様書とマ ニュアルを作り,現場がそのとおりの仕事をするといったエンジニアとクラフトマンが設計部 第蠡部:ワールドワイドビジネスと新興経済圏 177門と現場とに棲みわけされていたのに対し,日本ではそうした技術者が工場や現場に配置され るという逆転現象が起きていた。こうした強い現場主義こそが日本企業のテクノロジーアンデ ンティティであったと言える。
技術を取り巻く環境
その中で日本企業の競争優位の源泉であった技術人材面にも大きな変化が起きている。2008 年の後半からの急激な景気の後退はあるものの,ここ最近は団塊世代の退職,若年者の企業離 れ,慢性的な採用難などが重なり企業内だけで事業の継続・発展に必要な技術人材を確保する ことが難しい状況となってきた。就業者統計からも高度な熟練技術を有する
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代以降の技術 者数とその技術の継承者である40
代の技術者数に大きな隔たりがあることがはっきりと現わ れている。こうした問題とも相俟って近年では海外,特にアジアを中心とする新興国にその生 産拠点を置く動きが盛んである。それとともに重要な課題として浮き上がってくるのが技術伝 承である。そしてここに来て新たな技術管理の展開が起きてきている。それは技術管理の方法論をより 明確にさせること,自社のみならず他社を巻き込んだ新たな仕組みの技術開発のマネジメント を構築すること,イノベーションが引き起こされるようなマネジメント,そして成果が確実で 収益や多くの企業組織への貢献が可能になるマネジメントが求められてきている。この大きな 動きは日本の企業社会のみならずグローバルな動きとなってきている。いかに上手く技術管理 し,多くのイノベーションや技術開発の競争に打ち勝つかが国力の評価にもなってきている。
このような動きが良いか悪いかは別として,現象として技術優位性が大きな目標になるような 社会が出現していることは間違いないのである。
技術伝承の課題
技術伝承を,それも文化も言語も基本的な知識レベルも違う新興国において技術伝承を進め るに当たっては留意しなければならない課題がある。第一には技術の体系が複雑化・高度化し ていることである。例えばテレビのような家電製品の開発であれば,以前は数人レベルのチー ムで進められていた新製品開発のプロジェクトが,昨今では
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人を超えるような規模になっ てきている。当然,技術は細分化され全体を俯瞰することが難しくなる。一方で必要な技術を 正しく認識しそれを取り入れ統合していく技術のオープン化や,いわゆる擦り合わせの高度化 の重要性はますます高まることとなる。第二には技術伝承や人材育成のスピードアップが求め られていることである。我々の調査によると技術者が一人前になるのに要する時間は技術分野 によってかなり差があり,IT分野であれば3
年程度が目安となるのに対し,機械や組み立て 178 ワールド・ワイド・ビジネス・レビュー 第10巻 公開セミナー特集号系の製造業では
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年位の習熟期間を要する,というような傾向が示されている。新興国への 技術移転を図る際には,こうした複雑化した技術をいかに短期間に伝承するかという課題をク リアする必要がある。技術の見える化
前述したような課題に対応する方策として,技術をなるべく客観的な要素に整理,構造化し て伝承するべきポイントを明確することが挙げられる。いわゆる技術の見える化である。何社 かでの技術管理プロジェクトの実践を通し,技術の見える化には概ねの場合,
漓 業務的視点:対象とする事業や製品製造の業務を実践する力を評価する視点 滷 機能的視点:どのような機能や価値をもたらす技術かを評価する視点 澆 工学的視点:どのような工学・科学分野の知識や技能かを評価する視点
の視点から整理することが有効であることが検証されている。これらの視点で技術を構造化し 個々の技術者の技術力を個別・定量的に評価・調査することにより,企業が持つ技術の幅と量 が共通のテンプレート上で表現できるようになる(技術マップの作成)。このような技術マッ プを基盤とすることにより,技術の様々な特性を分析することが可能となる。例えば技術を習 得,伝承していく際に一連の体系として捉えておくことが効果的になるような技術の塊(技術 群)をテクノロジーセットと定義する。将来にわたって持続的に競争優位を築く核(高い売上 や収益を産み出す)となるテクノロジーセットはその企業のコアテクノロジーとして認識する ことができる。技術伝承の鍵はこのコアテクノロジーを明確化して移転を図ることにある。コ アテクが定義できると技術の選択と集中や,投資効率の向上,新しい事業や技術開発などに役 立てることも可能となる。
テクノロジーブランドの確立
我々は本研究を通して,テクノロジーブランドという新しい概念を導入した。それを「技術 に裏打ちされた,統一的・一体感のある企業独自のコアテクノロジーが,外部世界(業界内 外)でも連帯的・共有的に認知された結果として創出される(コーポレート)ブランド」と定 義した。テクノロジーブランドが確立されることにより,様々な効用が生まれる。自社の技術 力をベースとする強みが広く認識・評価されることで市場優位を築くことができるだけでな く,有利なアライアンスが組みやすくなり技術戦略の高度化,スピードアップが図りやすくな る。技術移転においてもその基幹となるコンセプトが容易に共通理解され,その技術を習得し た技術者や企業に自信と誇りを与えることができる。こうした側面からも技術のブランド化は 日本企業の新興国における事業発展に大いに資することが期待できる。
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