博 士 (農学)扇 学位 論 文 題名
泌乳牛のアミノ酸栄養改善による 窒素排泄量低減に関する研究
学位論文内容の要旨
勉
乳牛の飼料中タンパク質の利用効率を高めることは、同時に窒素排泄量を減じ、環境への負荷を低 減させる。乳牛のタンパク質栄養に関する研究では、飼料のルーメン内分解性や通過速度およびアミ ノ酸レベルでの養分充足が重要となっている。飼料中タンパク質はルーメン内分解性の違いにより、
分解 性 タ ンパ ク 質(RDP)と 非 分 解性 タ ン パク 質(RUP)に 分け ら れ る。RDPは ル―メ ン微生 物に より微生 物タンパ ク質(MCP)に合成 され、 良質のタ ンパク 源となる が、高 泌乳牛で はMCPだけで は十分でなく、RUPからの供給も重要となる。
飼料中タ ンパク 質の利用 効率を高 めるには、RDPと発酵性炭水化物の供給量を適正にしMCP合成 量を最大 にすると ともに 、RUP中 のアミ ノ酸組成 を考慮 する必要がある。ルーメン保護アミノ酸 (RPAA)製剤や高RUP飼 料の添加 は、乳 合成を制 限する メチオニンおよびりジンの供給量を高め、
飼料中タンパク質の利用効率を高めるとともに、糞尿への窒素排泄量を低減することが期待される。
近年、酪農経営の規模拡大と個体乳量の増加にともない、家畜糞尿による環境負荷量の増大と環境 汚染が重要な問題となっている。これらを軽減するには家畜側からは、窒素摂取量を低減するか、飼 料中タンパク質の分解性およびアミノ酸組成を考慮し、窒素供給量の減少と窒素利用効率を高める必 要がある。また、北海道の主たる自給粗飼料である牧草サイレージはタ、ンパク質中のRDP割合が高 く、その利用効率を高めるには易発酵性炭水化物の十分な供給と、アミノ酸バランスを考慮した高 RUP飼料の補給が重要であろう。
以上の観点から本研究は、牧草サイレージ主体飼養において、乳牛の飼料タンパク質の利用効率を 高めることにより、糞尿への窒素排出量をコントロールし、環境への窒素負荷量を低減することを目 的 に 、 牧 草 サ イ レ ー ジ 主 体 給 与 下 の 泌 乳 牛 に お い て 以 下 の 点 に つ い て 検 討 し た 。 1) 窒 素 出 納 試 験 デ ー タ に 基 づ く 糞 尿 量 お よ び 窒 素 排 泄 量 の 飼 料 的 要 因 の 解 析 2)RPAA製剤 の添加あ るいはRUP中の メチオ ニンおよ びりジ ン含量が 高い魚粉 の給与による乳 タンパク質生産の向上効果
3) タ ン パ ク 質 供 給 量 お よ び ア ミ ノ 酸 栄 養 を 考 慮 し た 窒 素 排 泄 量 低 減 策
主な結果は次のように要約される。
1)糞尿量 および 窒素排泄量の解析では、初産牛(128頭,平均乳量23.lkg/日)および2産以上の ウシ(131頭,平均乳量31.5kg/日)の窒素出納試験データを用いて、牧草サイレージ主体飼養にお ける泌乳牛の糞尿量および窒素排泄量を示すとともに、飼料摂取量との関連を検討した。糞量は初産
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牛が35.8kg/日、2産以上のウシが51.4 kg/日、尿量は各々13.8、13.Okg/日であった。糞窒素量は初 産牛が146g/日、2産以上のウシが179g/日、尿窒素量は各々78、l10g/日、合計量は各々225、289g/
日であった。摂取窒素量に対する糞尿窒素量の割合は、初産牛が55.0%、2産以上のウシが55.9%で あ った。糞 量はNDF摂取量 と正の相 関(Pく0.001)、 糞窒素 量はCP摂取量と正の相関(Pく0.001)、 尿 量および 尿窒素量はTDN/CP比と負の相関(Pく0.001)がみられた。また、尿量は尿窒素量と正の 相 関(Pく0.001)が みられ、 飼料中 のTDN/CP比を適正に保つことにより、尿窒素量の減少ばかりで なく、尿量も減少することを明らかにした。
2)泌乳 初期牛へ のRPAA製剤 および 魚粉の添 加試験で は、牧 草サイレージ主体飼養において、ル ー メ ン 保護 メ チ オニ ン(RPM)およ び ル ーメ ン 保 護 リジン(RPL)の添 加、ある いは魚粉 の給与 が 乳 タンパク 質生産 に及ばす 影響を検 討した。RPAA製剤添加試験では、試験1(供試牛16頭)でRPM (DL‑メ チ オ ニ ン 量 で30g)を 分 娩 後16週 間添 加(RPM区 )し 、 試 験2( 供 試 牛14頭 )でRPM( 同 15g)お よ びRPL (L‑リジ ン 量 で20g)を 分 娩 後12週 間添 加(RPML区 )し た 。 乾物 摂 取 量お よ び 乳 量は試験1、2とも 処理間に 差がな かったが 、乳タン パク質 率は試験1で 対照区2.87% 、RPM区 3.07% 、 試 験2で 対 照区2.80%、RPML区3.00%と 、いずれ も添加 区が0.20ポイ ント高 かった。
血 清遊離メ チオニ ン濃度は 、試験1、2とも添 加区が対 照区に 比ベ有意 に高か った(Pく0.01)。
魚粉給与試験(供試牛26頭)では、混合飼料の乾物比率は牧草サイレージと圧ぺんとうもろこし と 大豆粕と 魚粉が、対照区で50: 38:12:O、魚粉区で50: 39:6:5、養分含量はともにCP含量 15% 、TDN含 量77%と し、分娩 後6日から12週 まで給 与した。 乾物摂取 量およ び乳量は 差がなか った。乳タンパク質量は対照区が1.07g/日、魚粉区が1.17g/日と、魚粉区で高い傾向にあったが、乳 タンパク質率は対照区が2.86%、魚粉区が3.04%と、魚粉区が有意に高かった(Pく0.05)。血清遊離 メチオニン濃度は対照区が2.15H moVdl、魚粉区が2.43ハmol/dl (Pく0.05)、血清遊離リジン濃度は 各 々 7.66、 8.90u mol/dl (Pく 0.01)と 、 と も に 魚 粉 区 が 有 意 に 高 か っ た 。 以 上の結果 より、 牧草サイ レージ 主体飼養ではRPAA製剤添加あるいは魚粉給与により、制限ア ミノ酸と考えられるメチオニンおよびりジンが効率的に補給され、乳タンパク質生産が高まると考え られた。
3)窒素排泄量低減試験では、飼料中アミノ酸バランスを考慮して、乳生産を低下させずに窒素排泄 量を低 減し得る 可能性 について 検討した。窒素出納試験(供試牛6頭)は3x3ラテン方格法で実施 した。供試飼料は混合飼料とし、牧草サイレージ、圧ぺんとうもろこし、大豆粕および魚粉の乾物比 率は、13%CP区で55: 39:4:2、15%CP区で55: 34.6: 8.4:2、17CP%区で55: 30:17:0 とし、TDN含量はいずれも76%とした。乾物摂取量、乳量および乳タンパク質生産は処理間に差が なかっ た。糞窒素量は処理問に差がなかったが、尿窒素量は17%CP区が125g/日、15%CP区が98g/
日、13%CP区が69g/日 と、飼料 中CP含量の低下とともに著しい減少がみられた。乳中尿素窒素濃 度は飼 料中のCP含 量とと もに低く なり、血中尿素窒素濃度とも高い相関(Pく0.001)がみられた。
こ れ ら の 濃度 は 尿 窒 素量 と も 相関 が 高 く、 尿 窒 素量 低 減 の指 標 と して 有 用 と 考え ら れ た。
以上の結果から、乳合成の制限アミノ酸となるメチオニンおよびりジンを効率的に補給することに より、飼料中CP含量を低く設定しても乳生産を低下させずに、尿窒素量低減が可能と考えられた。
4)これ らから、 飼料中 のTDN/CP比を 適正に保 っことに より、尿窒素量ばかりでなく尿量も減少 することが示唆され、同時に乳中および血中の尿素窒素濃度は、尿窒素量低減の指標として有用であ ることを示した。また、牧草サイレージ主体飼養において、RPAA製剤あるいは魚粉の添加は、乳タ ンパク質合成の制限アミノ酸と考えられるメチオニンおよびりジンを補給し、乳タンパク質生産を高 ー170―
めることを明らかにした。さらに、魚粉の添加により乳生産を低下させることなく、給与する飼料中 CP含 量 を 下 げ る こ と が 可 能 で あ り 、 結 果 的 に 尿 窒 素 量 を 低 減 で き る こ と を 示 し た 。
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学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 講師
近藤 田中 小林 中辻
学 位 論 文 題 名
誠司 桂一 泰男 浩喜
泌乳牛のアミノ 酸栄養改善による 窒素 排泄量低減に関する研究
本 論 文 は6章 か ら な り 、 図8、 表18、 引 用 文 献75を 含 む 総 頁 数69の 和 文 論 文 で あ り 、 別 に5編の 参 考論 文が 添え られ てい る。
従 来の 乳牛 のタ ンパ ク質 栄養 に関 す る研 究で は、 飼料 のル ーメ ン内 分解 性や 通過速度およ びア ミノ 酸レ ベル での 養分 充足 が重 要 とな って いる 。飼 料中 タン パク 質の 利用 効率を高める に は 、 分 解 性 タ ン パ ク 質 (RDP)と 発 酵 性 炭水 化物 の 供給 量を 適正 にし 、微 生物 タン パク 質 合 成 量 を 最 大 に す る と と も に 、 非 分 解 性 タン パク 質 (RUP)中 のア ミノ 酸組 成を 考慮 する 必 要 が あ る 。 ル ー メ ン 保 護 ア ミ ノ 酸(RPAA)製 剤 や 高RUP飼 料 の 添 加 は 、 乳 合 成 を 制 限 す る メチ オニ ンお よび りジ ンの 供給量を増加し、飼料中タンパク 質の利用効率を高めるとともに、
糞尿 への 窒素 排泄 量を 低減 する こと が 期待 され る。
近 年、 家畜 糞尿 によ る環 境負 荷量 の 増大 と環 境汚 染が 重要 な問 題と なっ てお り、家畜側か らも 窒素 の利 用効 率を 高め るこ とが 求 めら れて いる 。北 海道 の主 たる 自給 粗飼 料である牧草 サ イ レ ー ジ は タ ン パ ク 質 中 のRDP割 合 が 高 く 、 タ ン パ ク 質 の 利 用 効 率 を高 める には 易発 酵 性 炭 水 化 物 の 十 分 な 供 給 と ア ミ ノ 酸 バ ラ ン ス を 考 慮 し た 高RUP飼 料 の 補給 が重 要で ある 。 以 上の 観点 から 本研 究は 、牧 草サ イ レー ジ主 体飼 養に おい て、 乳牛 の飼 料タ ンパク質の利 用効 率を 高め るこ とに より 、糞 尿へ の 窒素 排出 量を 制御 し、 環境 への 窒素 負荷 量を低減する こ と を 目 的 に 行 っ た も の で あ り 、 得 ら れ た 結 果 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。
1. 泌乳 牛 にお ける 糞尿 量お よび 窒素 排泄 量の 飼料 的要 因の 解析
糞 尿 量 お よ び 窒 素 排 泄 量 の 解 析 で は 、 初 産 牛128頭 お よ び2産 以 上 のウ シ131頭の 窒素 出 納 試験 成績 を用 いた 。糞 量は 初産 牛が35.8kg/日 、2産 以上 のウ シが51.4 kg/日、尿量は各々 ‑ 172―
13.8、13.Okg/日、糞窒素量は各カ146、179g/日、尿窒素量は各々78、110g/日、摂取窒素量に 対する糞尿窒素量の割合は各々55.0、55.9%であった。糞量はNDF摂取量と正の相関、糞窒 素 量はCP摂取量と正の相関、尿量および尿窒素量はTDN/CP比と負の相関がみられた。尿 量 は尿 窒素量と正の相関がみられ、飼料中のTDN/CP比を適正に保つことにより、尿窒素 量の減少ばかりでなく、尿量も減少することを明らかにした。
2. RPAA製 剤 あ る い は 魚 粉 の 添 加 に よ る 乳 タ ン パ ク 質 生 産 の 向 上 効 果 泌 乳初 期牛 へのRPAA製剤および魚粉の添加試験では、牧草サイレージ主体飼養におい て、 ルー メン 保護メチオニン(RPM)およびルーメン保護リジン(RPL)の添加、あるいは 魚粉給与が乳タンパク質生産に及ばす影響を検討した。RPAA製剤添加試験では、試験1で RPM(DL‑メ チ オ ニ ン 量 で30g)を 添 加 (RPM区 ) し 、 試験2でRPM( 同15g)お よ びRPL
(L― リジ ン量 で20g)を添加(RPML区)した。乳タンパク質率は試験1で対照区2.87%、
RPM区3.07%、 試験2で対 照区2.80%、RPML区3.00% と、 いず れも 添加 区が0.20ポイン ト高かった。魚粉給与試験では、魚粉区に全乾物中5%の魚粉を給与した。乳タンパク質量 は対照区が1.07g/日、魚粉区が1.17g/日、乳タンパク質率は各々2.86、3.04%と魚粉区が高 かった。血清遊離メチオニンおよびりジン濃度は魚粉区が高かった。以上の結果より、牧草 サイ レー ジ主 体飼養ではRPAA製剤あるいは魚粉の添加により、乳合成の制限アミノ酸と なるメチオニンおよびりジンが効率的に補給され、乳タンパク質生産が高まるものと考えら れた。
3. タ ン パ ク 質 供 給 量 お よ ぴ ア ミ ノ 酸 栄 養 を 考 慮 し た 窒 素 排 泄 量 低 減 策 飼料 中CP水準は13、15、17%の3水準とし、13、15%区には魚粉を全乾物中2%添加し た。ラテン方格法で窒素出納試験を実施した結果、乾物摂取量、乳生産および糞窒素量には 差 がな かっ たが 、尿 窒素 量は17%CP区 が125g/日、15%CP区が98g/日、13%CP区が69g/
日 と、 飼料 中CP含量 の低 下と とも に減 少した。乳中尿素窒素(MUN)およぴ血中尿素窒素
(SUN)濃度は尿窒素量と相関が高く、尿窒素量低減の指標となった。以上の結果から、乳 合成における制限アミノ酸を効率的に補給することにより、飼料中CP含量を低く設定して も乳生産を低下させずに尿窒素量を低減できることが示され、このことは環境ーの窒素負荷 量 の 低 減 ば か り で な く 、 タ ン パ ク 質 飼 料 の節 減 に も っ な が る も の と 考 え ら れ た 。
以上のように本研究は、従来からの乳牛のタンパク質栄養にアミノ酸バランスの観点を導 入し、それらを考慮することによる飼料タンパク質利用効率向上および窒素排出量減少によ る環境負荷量の低減効果を明らかにしており、学術面および実用面において高く評価される。
よって審査員一同は、扇 勉が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するも のと認めた。
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