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■巻頭言

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Academic year: 2021

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医療機関における身体抑制・拘束はなかなか減らな い。いやむしろ、増えているように思われる。本人の 同意なしで身体拘束をするのは違法であると、名古屋 高裁が判決を下したのは昨年 2008 年 5 月であった。そ の後、医療機関は安全管理委員会などが中心となっ て身体拘束を実施する際の患者・家族からの同意取 得や一定時間ごとの観察などを盛り込んだガイドライ ンを定め、記録も含め看護師に順守徹底を促してい る。しかし、各県協会等での看護倫理の研修における 倫理的問題に関する提出事例を見ても、抑制は依然 として多い。看護師は「患者の生命と安全を守るため に」ガイドラインに沿ってミトンをつけ、紐で手足を ベッドにくくりつけ、拘束具で車いすから立ち上がれ ないようにし続けている。そして、これでよいのかと 悩み苦しんでもいる。

この背景には、患者の高齢化やこれに伴う認知障害 が多いこと、依然として看護職員が十分とは言えない ことがあるのは言うまでもない。これに加えて、他に もいくつかの要因が考えられる。まず、病院の役割や 医療提供の考え方についての変化である。国の医療行 政は、医療費を抑制すべく病院機能の分化と効率化 を押し進めてきた。急性期病院では、診断治療を短期 間に効率よく進め、患者の状態がそれなりに安定する と次に送る。受診する人の動機や目的などは、実はさ まざまなのだが、病院の側は医療を求めて病院に来た のだから、入院させたからには何もしないわけにはい かないと、持てる手立てを繰り出す。医療技術の開発 は、かつて寿命と受けとめられていた状態にも医療の 手を加えることを可能にし、急性期病院は患者を静か に看取る場ではなくなった。高齢で合併症があるなど のリスクが高い患者も手術を勧められ、食事が取れな くなると経管栄養や胃ろう造設、呼吸状態が悪くなる と挿管・呼吸器装着である。しかし、これらの医療行 為は確かに患者の生命の延長をもたらすのだが、それ に伴って抑制拘束という事態をも引き起こしているの である。そして、事前の IC において、予測されるリ スクとして術後せん妄や不穏があること、その際に身 体拘束とその悪影響の可能性が高いことは、必ずしも 明確に説明されているわけではない。

次に、安全安心な医療の実現という大目標が関わ っていると考えられる。医療安全の観点から、患者に よるチューブ類の抜去や転倒転落はあってはならない

医療事故であるとされ、その防止には高い優先順位が 与えられている。しかも、これらは看護師の責任とみ なされる。家族から事前に同意を得る、予防的な抑制 を実施するなどの行為は医療安全の名のもとに正当化 される。また、いったん抑制が実施されると、責任が 問われることへの恐れがブレーキとなってなかなか解 除に踏み切れない。名古屋高裁が判決のなかで示した 身体拘束がやむを得ないとみなされる3 要件「切迫性、

非代替性、短期間」は、こうして医療機関では抑止力 を発揮するには至っていない。

さらに、この間急増した患者・家族によるクレーム や威嚇的な言動がこれらの状況に拍車をかけているよ うに思われる。たとえば、医師が延命治療は患者にと って苦痛でしかない、益するところがないと判断し、

その場の家族の同意を得て看とった後で、駆けつけた 家族・親族から「見殺しにした」と抗議された、入院 時に家族から「縛ってください」と言われ、医療者が その必要はないのではと説明しても「何かあったとき に責任がとれるか」と詰め寄られた。このようなケー スが決して少なくないのである。一度でもこのような 体験をした医療者が防衛的になってしまうことは十分 あり得る。

抑制拘束はなぜいけないのか。まず確認されなけれ ばならないのは、人間は自由を求める存在ということ である。自分の行きたい所へ、行きたい時に、できる だけ自分の足で行きたい。これが人間の本性なのであ る。もちろん、社会生活の中で、この自由は制約を受 ける。しかし、この制約そのものについても自分の考 え、判断というものがある。身体拘束は、この人間の 本性を根本のところで奪おうとする行為なのである。

神経障害や筋力低下、拘縮等の合併症の危険がある からいけないというレベルにはとどまらない、日本国 憲法に定められている基本的人権、人間の尊厳を侵す 行為なのである。こう考えてくると、医療行為、看護 行為として正当性が認められる範囲はそれほど大きな ものではないはずである。

この正当性をどのように確かめることができるか、

3 要件は必要十分かつ実際的な指針となるか、倫理 的・科学的な検討が求められている。そして介護施設 ではすでに死語となりつつある拘束・抑制を医療現場 で減らしていくにはどうすればよいのか、看護倫理研 究の最優先課題のひとつとして取り組む必要がある。

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■巻頭言

*日本看護倫理学会理事長・京都橘大学看護学部

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