特別講演会
2020 年東京オリンピック招致に向けて、
造園界はいま何ができるか
〜安全・環境共生・健康生活の先進モデル都市東京を世界にアピール〜
報 告 書
平成 25 年 7 月 2 日
一般社団法人 ランドスケープコンサルタンツ協会 関東支部
目 次
1 はじめに ……… 1
2 講演会概要 ……… 2
3 特別講演会記録 ……… 4
4 「花笑みのおもてなし」サインパネル ……… 39
5 「ランドスケープ宣言 2013」サインパネル ……… 40
「花笑みのおもてなし」サインパネル
1
わが国は、これまで数多くの大規模な国際スポーツ大会を招致し開催してきました。
第18回オリンピック東京大会(1964年)から49年後の今年、東京都はオリンピック招 致(2020年)を表明しています。
わたくし達は、2016年に続き、「2020年東京オリンピック・パラリンピック招致支 援活動」を進めています。
国際オリンピック委員会・評価委員による 3都市視察が4月に終了しました。東京 は、支持率を 73%まで上げ、英国のガーデアン紙は「東京開催は、最も安全な選択」
と評価しています。これを実現するためには、国民と国際社会が共感する「世界の未 来に夢と希望を与えるコンセプト」を受け、具体的なビジョンとその実現に向けた国 民をあげての幅広い運動を展開していくことが重要です。
東京都は、「2020年の東京」と題してオリンピック開催年の東京の姿を描き、その実 現に向けた実行プログラムを策定しています。オリンピック・パラリンピック開催に より、日本の首都であり、世界を代表する大都市である東京を21世紀にふさわしい都 市へと進化させ、東日本大震災の痛手から立ち上がらんとする日本の再生を牽引し、
都市のあるべき姿を世界に示す決意を述べています。
今回、わたくし達は、緑とオープンスペースの環境づくりの専門家としての立場か ら、オリンピック憲章の精神や東京都の都市づくりの方向性を踏まえ、2020年東京オ リンピック・パラリンピック招致支援活動の一環として、「安全・環境共生・健康生活」
を柱とする「ランドスケープ提言2013」をまとめました。今回、多数の造園関係諸団 体の後援・共催のもとに、『2020年東京オリンピック招致に向けて、造園界はいま何が できるか 〜安全・環境共生・健康生活の先進モデル都市東京を世界にアピール〜』
と題して特別講演会を開催しました。
今度ともわたくし達は、国際的なスポーツ振興、普及発展に寄与すると共に、これ を契機とする環境都市の創造に積極的な役割を果たしていきたいと考えています。
本報告書は、特別講演会の講演記録を中心に取りまとめたものです。本講演会が東 京オリンピック招致と環境都市の創造に向けて造園の力を結集していく一助となれば 幸いです。また、この場をお借りして、ご多用の中ご講演をいただきました講師の皆 様、ご参加いただきました多くの方々に厚く御礼申し上げます。
平成25年7月 一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会関東支部長 村岡政子 2020年東京オリンピック招致支援特別委員会 委員長 細谷恒夫
1 . は じ め に
2
【名 称】 2020年東京オリンピック招致支援 特別講演会
【テーマ】 2020年東京オリンピック招致に向けて、造園界はいま何ができるか サブテーマ:「安全・環境共生・健康生活の先進モデル都市東京」を
世界にアピール
【会 場】 日比谷図書文化館 コンベンションホール(大ホール)
【日 時】 平成25年7月2日(火) 14:00〜16:45
【主 催】 (一社) ランドスケープコンサルタンツ協会関東支部 2020年東京オリンピック招致支援特別委員会
【共 催】 (一社) 日本造園建設業協会東京都支部 (一社) 日本公園施設業協会東京支部 (一社) 日本運動施設建設業協会関東支部 (一社) 東京都造園緑化業協会
(一財) 公園財団、(一財)日本造園修景協会
(一社) 日本植木協会、(一社)日本造園組合連合会、
(一社) ランドスケープアーキテクト連盟
IFLA Japan、 全国1級造園施工管理技士の会 日本ランドスケープフォーラム
【後 援】 (公財) 東京都公園協会、(公財) 都市緑化機構
(公社) 日本造園学会関東支部、(一財) 日本緑化センター (一社) 日本公園緑地協会
【参加者】 約150名
2 . 講 演 会 概 要
3
【プログラム】、
14:00〜14:10 開会挨拶 (一社) ランドスケープコンサルタンツ協会関東支部長 村岡政子
開催経緯 2020年東京オリンピック招致支援特別委員会委員長 細谷恒夫
14:10〜15:00 講演①
『2020年東京オリンピック開催と、これからの環境都市づくりの課題』
元東京都副知事・明治大学大学院教授 青山 佾
15:00〜15:40 講演②
『大会計画(立候補ファイル)、招致に向けた活動状況など』
東京都スポーツ振興局招致推進部 施設計画担当部長 福田 至
15:50〜16:30 講演③
『2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に向けて、
造園界はいま何ができるか』
東京農業大学名誉教授 進士 五十八
16:30〜16:40 ランドスケープ宣言2013 宣言文発表 佐藤 憲璋
16:40〜16:45 閉会挨拶2020年東京オリンピック招致支援特別委員会副委員長 新井 豊
4
テーマ
「2020 年東京オリンピック招致に向けて造園界はいま何ができるか」
サブテーマ「安全・環境共生・健康生活の先進モデル都市東京」を世界にアピール
●(丸山)本日はお忙しい中、多数のご参集を頂きまして、厚く御礼申し上げます。
特別講演、題して「2020 年東京オリンピック招致に向けて造園界はいま何ができ るか」を開催いたします。
本日の司会進行を務めます一般社団法人ランドスケープコンサルタンツ協会 関東支部代表幹事、丸山でございます。どうぞ宜しくお願いいたします。それでは 会を始めさせて頂きます。開催挨拶並びに開催経緯、一般社団法人ランドスケー プコンサルタンツ協会関東支部長、村岡政子より、皆様へ開催の挨拶を一言申し 上げます。村岡支部長、宜しくお願いいたします。
■(村岡)ランドスケープコンサルタンツ協会関東支部長の村岡でございます。ど うぞ宜しくお願いいたします。2020 年東京オリンピック招致特別講演会の開会に 当たりまして、一言ご挨拶を申し上げます。本日は皆様、ご多忙の折にも関わらず、
このように多数ご出席くださいまして、誠に有難うございます。また、青山先生、
福田先生、進士先生におかれましては、講師を快くお引き受け頂き、有難うござい ます。厚く御礼申し上げます。
さて、今年 1 月に、私達ランドスケープコンサルタンツ協会では、2020 年東京オ リンピック招致支援活動の一環といたしまして、環境都市づくりと、会場設計の 考え方をまとめ、「ランドスケープ提言 2013」を提案いたしました。今回さらに多 くの方々の力を結集し、多数の関係諸団体のご後援、共催のもと、本講演会を開催 することといたしました。本日の講演会が 9 月 7 日、『開催都市、東京』という嬉 しい知らせに繋がりますことを祈念いたしまして、開会にあたってのご挨拶とい たします。本日はどうぞ宜しくお願いいたします。
●(丸山)村岡支部長、有難うございました。引き続きまして、これまでに至る経緯 について、ランドスケープコンサルタンツ協会関東支部 2020 年東京オリンピッ ク招致支援特別委員会委員長、細谷恒夫より皆様へ開会の経緯の報告を申し上げ ます。細谷委員長、宜しくお願いいたします。
■(細谷)オリンピック招致支援特別委員会委員長の細谷と申します。本日は、ラ ンドスケープの関係者の多くの方々にご来場いただいています。私たちは、緑の 環境づくりの専門家として 2016 年に続き、2020 年もオリンピック招致支援活動 を進めています。
3 . 特 別 講 演 会 記 録
5
オリンピックの開催は、持続可能な社会の形成につながる、環境都市を実現す る絶好の機会でもあります。ランドスケープはその土地の持つ資質と歴史を活か しながら人々や都市にとって望ましい空間や環境を創造していく技術です。「ス ポーツ・環境・文化」を柱とするオリンピックの会場建設や環境都市づくりにおい て、ランドスケープが主役として活躍できる場は限りなく広がっています。
2020 年の東京計画は、今日の世界の成熟都市が抱える問題を解決に導くプロト タイプが求められています。
私たちは、21 世紀をリードする環境都市 TOKYO づくりに向けて、水と緑を活か した首都東京らしさの醸成や更なる東京の進化に向けた『ランドスケープ提言』
を提案しました。目標達成に向けた取り組みの考え方として、この提言の中で、
『花笑みのおもてなし』をキーワードとした「美しく快適なもてなし」空間を提 案しています。花笑みは平安時代から伝わる日本の美しい言葉です。この言葉の 下で「防災」「環境」「健康」の 3 つの取り組みが相互に連携し、機能を高め、世 界中の人々が交流し、人と街が活力に満ちた空間づくりを目指します。花笑みは 世界平和につながる言葉であり、2020 年東京オリンピックのロゴマークそのもの でもあります。
IOC 全委員に直接働きかけができる最大のチャンスである 7 月 3 日・4 日にロー ザンヌで開催する「IOC 説明会」に麻生副総理(クレー射撃でオリンピックに出場) と滝川クリステルさんがプレゼンターとして行くそうです。「IOC 委員の心を一気 につかむ」戦略だと思います。麻生副総理は人脈、ロビー活動、PR 力も充分期待 できます。ぜひ、日本のセバスチャン・コーになって欲しいと思います。
造園界をあげて、皆さんと一緒に一致協力し、2020 年の招致を勝ち取ろうでは ありませんか。世論の盛り上がりが最も重要で、最後は「情熱」だと言われてい ます。
これから 3 人の講師の方々から興味深いお話を伺えると思います。大変楽しみ です。
●(丸山)それでは正面のプログラム、皆様のお手元に配布したプログラムに沿っ て、本日の講演を進めていきます。最初は、元東京都副知事・明治大学大学院教授、
青山佾先生よりご講演いただきます。
題目は「2020 年東京オリンピック開催と、これからの環境都市づくりの課題」で す。青山先生は東京都経済局に入庁、平成 11 年から 15 年まで石原都知事のもとで 副知事として、危機管理、防災、都市構造、財政等をご担当。現在は明治大学公共政 策大学院の教授に就任し、ご教鞭をとられております。それでは青山先生、お願い いたします。
6
■(青山)青山でございます。どうぞ宜しくお願いいたします。ランドスケープコ ンサルタンツ協会で、こういう催しをやっていただいて、大変心強く思っていま す。
今日は私の話の後、都庁の福田部長と進士先生とそれぞれ大会計画や造園界の 役割についてお話がございますので、私はその前提…前座として周辺的なことと 大会計画の造園界の役割に至るまでのお話をさせて頂きたいと思います。どうぞ 宜しくお願いします。
■オリンピック開催とその後のロンドン
早速ですが、昨年の 2012 年のロンドンのオリンピックの前、ロンドンの地下鉄 の車内広告ですが、開催当局は一生懸命交通混雑を避けようと努力をしておりま した。このポスターは、会場のある地下鉄路線の「地下鉄には乗らないで下さい、
会場のない地下鉄の方が空いてますから」と、宣伝を一生懸命していました。実際 にはさほど混雑することもなく、オリンピックは行われました。シティにある企 業は開催中休業しました。東京の都市機能はおそらくロンドンより良いので、そ ういう不自由さ不便さをお掛けしないで済むと思います。
オリンピックが終わってからオリンピック会場がどう使われているかという と、今に至るまで結構、工事が進行しています。どこの国のオリンピックでも似た ような感じかなと思います。
ロンドンの開催期間中の最大の 特徴はこれだったと思います。イギ リス人は国旗を商店街に並べると いうのはほとんどなくアメリカで は良く見る光景ですが、イギリスの 国旗が商店街に並べられるほどロ ンドンオリンピックは盛り上がっ たということす。
ボランティアもこの種のイベントにイギリス人がどれだけ参加するのかと結 構心配されたんですが、十分ボランティアは集まったということでした。
私はロンドンオリンピックの前と後に、ジョン・ゴールドというオックスフォ ードの先生と、ロンドンでシンポジウムをやりました。オリンピックをテーマに、
この人はオリンピックと都市というテーマに一生を捧げた学者ですが、この人が、
1964 年の東京オリンピックのレガシーとして扱ったのは、駒沢のオリンピック公 園のシンボルタワーです。やや忘れられているかもしれませんが、日本のオリン ピックシンボルタワーとロンドンのシンボルタワーを並べたチラシを彼らがつくっ
『2020年東京オリンピック開催と、これからの都市環境づくりの課題』
元 東京都副知事・明治大学大学院教授 青山 佾
7 たんです。
駒沢公園に確かにオリンピックタワーはあります。1964 年の東京オリンピック のレガシーはこのシンボルタワーであると同時に、日本の社会が 1964 年のオリ ンピックで変わったことの話をロンドンでしました。
ここで日本の女子バレーが大活躍しました。この後、日本の社会ではママさん バレーがブームになり、家庭にいる女性がママさんバレーの練習があるから、試 合があるからと言って家族を置いて外に出かけるようになりました。この時から、
日本の社会では仕事のためだけではなく楽しみのために女性が家族を置いて出 かけるということが当たり前になりました。オリンピックは社会を越える魔力を 持っているという話を私はしました。招致運動を勝手にできないため、次のオリ ンピックの話はしませんでしたが、1964 年のオリンピックの時はこうだったとい う話をしたわけです。
ロンドンのストラッドフォー ドの駅ですが、ロンドンシティの 東側にあります。この一帯でオリ ンピックを開催しました。オリン ピック開催前に何度も行きまし たが、荒れ果てた地域で、産業革 命の時代に工場、公安施設があっ た地域です。かなり長い間放置さ れた場所です。
相当きれいに整備されたと思いますが、まちづくりができあがってきた時点の シンポジウムでジョン・ゴールドと私が話をして、場内からどうぞ、ご発言をとい うことになったら、最初に手を挙げた方が、生粋のロンドナーだと言っていました。
私はオリンピックに反対、オリンピックをやってもロンドン全体が良くならない、
良くなるのはストラッドフォードの街の一角だけだと。ロンドンにはテームズの 向こう側、南側に広大なスラム地帯が広がっている、それは良くならないという発言 をしました。ジョン・ゴールドは一生懸命反論していましたが、私は、そういう論が こういう場所ででるのは、イギリスの民主主義の健全性を表している、反対論を取 り入れて計画も良くなるからよいと思いました。
ロンドンは開催期間中は盛り上がってましたが、ストラッドフォードの駅周辺 の建物にはオリンピック反対という垂れ幕が下がっていました。反対論もあった と思いますが、結果的にオリンピックの魔力がロンドンを良くしたと思います。
歩いていきますと、ウエストフィールドのショッピングセンターに数百の店舗 が入っていますが、ここを通りぬけるとオリンピック会場です。ウエストフィール ドは巨大ショッピングセンターです。ロンドンの西部には今まであったものを東 部に造るということですが、今行っても賑わっています。ここに来ている人の特徴
8
はほとんどが昔からロンドンに住んでいた移民の人たちです。このお店で働いて いる人たちも移民で、もともと彼らが住んでいた地域です。
■ロンドンのオリンピックの特徴・ソーシャルインクルージョン
実はロンドンのオリンピックの特徴が一つあります。彼らはそれをソーシャル インクルージョンと言っていますが、移民、低所得者が多く住むロンドン東部の ストラッドフォードの街でオリンピックを開催することによって彼らに雇用、職 業訓練、教育や住宅をもたらすことが、オリンピック憲章の差別の解消、世界平和 というクーベルタン男爵の理念に合致すると招致運動の関係者は言っています。
今日のショッピングセンターの賑わいを見ると、確かに、雇用と楽しみは提供 したのかなと思えます。さらにロンドンオリンピックの意味はこれだったと思い ます。産業革命後工場があった、それが出て行って草むらになっていて、この草む らはメインスタジアム近くの草むらですが、自然の草むらではなく工場跡地に雑 草が生えた草むらです。
このリー川の水も非常に汚くて淀んでいて、悪臭を放っていた。この区画にメ インスタジアムを建設する。私は工事が始まる前に何度も足を踏み入れたが、ど こが道が分からない、そういう状態でした。同じ場所がよく手入れされた公園に なっています。水もきれいになったということで、実はロンドナーが国旗を掲げ るほど一致して盛り上がったというのもオリンピックの成果だったと思います。
産業革命で荒れ果てた地域を 21 世紀に至ってきれいにしたと、これがロンドンの オリンピックの一つの意義ではないかと思います。
■東京オリンピックの意義
東京も、2020 年に東京オリンピックを開催すれば、東京は戦災復興の後、高度経 済成長を遂げて世界の経済をリードする一角を占める位置に来て、水と緑を整備 してきましたが、オリンピックを機会にこれを更に改善することは意味があると 思います。
・都市おける「水とみどり」の役割
ロンドンオリンピックで、環境が一つのテーマになったのは、産業革命と切り 離せないところがあります。ガーデンシティをエベネザー・ハワードが唱えて、最 初にガーデンシティ(田園都市)として、レッジワースをつくりました。ロンドン から 50 キロほど離れたところにありますが、これを造った動機、あるいは大義名分 は産業革命後にロンドンの街が無味乾燥になって住宅環境等も非常に劣悪であ ったこと、それに対して緑豊かな田園都市をつくりたいと、そういう発想だった と思います。今日に至るまで、この 3 万数千人の街は、そういった街として継続さ れています。
もう一つレッジワースはこれに飽き足らなくて、第二の田園都市ウェルウィン をつくりました。これは人口も 5 万人以上でロンドンから 30 キロで、より広く、より
9
ロンドンに近いというところに、第 2 のガーデンシティをつくり、圧倒的な緑が あります。
ロンドンを取り囲んでいるグリーンベルトがありますが、産業革命をリードし たイギリスあるいはロンドンに、負の遺産があるとすれば、それをオリンピック のイベントで回復しようというのが、今回のロンドンのオリンピックの柱にあり ました。
2020 年に東京でオリンピックを開催するとすれば、他にもいろいろやりたいこ とがありますが、水と緑は非常に大きなテーマとなると思います。
思い起こすのは 2008 年の北京オリンピックの緑です。名もない公園に花を咲か せている例ですが、北京はほとんど水がない、100 キロ先からオリンピックの時には 水を引いてきたことを北京市の当局者は誇っていました。とにかく、努力をした と思います。
IOC の関係者が成功したオリンピックとして必ずあげるバルセロナの場合もや はり、緑を増やしたという結果を残したと思います。そういう意味で、ロンドンが オリンピック会場付近に残された穀物を挽く工場を残したが、産業革命との関係 で都市化が進行する中で、水と緑をいかに守るかではなくて増やしていくかとい うことを考えると、近代の都市公園が、もともとあった自然を守ることが一方で あったのと同時に、失われた場所に水と緑を新たに都市公園として増やしていく という努力をすることがオリンピックの中では一つの重要なテーマになるだろ うと思います。
ロンドンが評価されたのはテームズ沿いを人々が通れるようにするとか、テー ムズ川は、汚いが、少しでもきれいにしようという努力をしていると、この努力は やはり認めなければいけないと思います。
オリンピックの場合その努力が伝わってくる一例として、ロンドンの場合この 地下鉄があります。私たちがヒースロー空港に着くと、確かに 15 分で列車でパデ ィントンの駅に着きます。ロンドンの西側の端になります。そこから東側の端に あるシティまでタクシーで乗ると 1 時間かかりロンドンは東西が不便です。構造 上地下鉄はあまりバリアフリー化されていない。
オリンピックを機会にロンドンは地下鉄整備を進めています。今も工事中です が、オリンピックの開催期間中は工事はほとんどストップしていました。ロンド ン市役所で、オリンピックに間に合わない地下鉄をどうしてオリンピックの前に 掘り始めるんだと話すと、オリンピックが決まったから掘り始めることができた と、それぞれ国の考え方はあるので、努力は認めるということになるんだと思い ます。
■もう一つの特徴
もう一つの特徴は街が非常に元気になったということです。この尖がった建物 は、例の、シャードオブグラース、ガラスの切片みたいに尖がったオフィスビルで、
10
これが 320m の高さで、ロンドンのみならずヨーロッパで最大高さのオフィスビル です。これは今日完成していますが、入居している企業がなくて、私たちが金を払 えば展望台までは上ることができます。
これができたのはオリンピックのおかげだと、ロンドン市役所の計画の担当者 は言っています。他のロンドナーに言わせると、この種の事に口を出すチャール ズ皇太子がこの計画が持ち上がった時に非常に機嫌のいい時で、イギリスも日本 と同じで王室が政治に口を出したらいけないが、この種の景観論争にチャールズ 皇太子が加わったケースがあり、この時は機嫌が良かったので何も言わなかった と、理由は息子の結婚が決まった時だったから、タイミングが良かったのだとい う説もあります。
オリンピックを機会に街が良くなったということはあると思います。地下鉄の 駅から出たところでいきなりこれが見えます。ロンドンの地下鉄は 1863 年に走 り出した古い地下鉄が多く、チューブと呼ばれているように、本当にチューブの ような形で、体格の良いロンドナーの方には気の毒な地下鉄で今回改善工事が始 まりました。
もう一つ、自転車ブームであります。これはパディントンの駅で、ホームに自転 車置き場をつくりました。郊外から電車で通勤してきてパディントンの駅に降り ると自分の自転車にホームで乗って職場まで行く。日本では考えられない。いか にロンドンの駅のホームが自転車置き場にするほど広かったか、日本とは違った 形でオリンピックを機会に街を良くする努力をしたと思います。
私はロープウェイがヒットだ と思います。会場はテームズの 両側にあるので、それを結ぶロ ープウェイを設置しこれを残し ました。ロープウェイの特徴は 構築物が非常に簡単でいいとい うことです。駅がこっち側と向 こう側に 2 箇所あるだけで、あ とはポールがあって、可愛いゴ
ンドラがたくさんあるという構造で、省資源型の交通インフラと思います。スー ツケースを引きずっていても乗れて見栄えもよいと思います。
これは、日本でもオススメじゃないかと思います。これからの交通インフラは、ちょ っとあそこをつなぐと利便性が高くなる場所をつなぐのが多いので、必要なとこ ろもあります。
・ロンドンプラン
ロンドンオリンピックを招致したのは 2004 年にロンドン市がつくったロンドン プランでした。スペイシャルプランニングというのは都市計画をランドユース、土
11
地利用計画だけではなくて、雇用、福祉、教育、環境を総合的に捉えようという運 動の一環としてスペイシャルプランニングとしてロンドンプランを 2004 年につく りました。
それから、ソーシャルインクルージョンと いうことで移民にも雇用や教育をというス ローガンがありました。はじめからロンドン プランの表紙には移民の少女を登場させる ということをやってこれをアピールした背 景があります。
実際にスイスのローザンヌにビッドブッ クを届けたのは 14 歳のバスケットボール選 手の二人でした。そのうちの一人は移民の少 女が登場したということで、この考え方をア ピールしたということがあったと思います。
・コンパクトシティ(高密度都市)
もう一つ、その時の市長の公約ですが、スペイシャルプランニングの中にコン パクトシティという概念があったと思います。ロンドンは巨大都市ですが、コン パクトシティを目指している。これはこじんまり化ではなくて、高密度都市であ るという説明をしていました。
ロンドンの場合で言うと、グリーンベルトを守るということでもあると思いま す。実はコンパクトシティは高度情報化時代に高密度化によって多機能化を図っ て都心機能が非常にグローバルに通用するものになるという意味がある一方で、
やはり緑を守るために中高層化していくというセットで緑を守るという点があ ると思います。
・オリンピック憲章(差別の解消・世界平和)の今日的な意義
ロンドンの場合、オリンピック憲章の差別の解消、世界平和を具体化するとい うことに努力をしました。
1996 年、100 年目にあたるオリンピックを再びアテネでというアテネに対し、ア トランタが勝ち取った。これがキング牧師のお墓です。そういうオリンピック特 有の論理に訴えた結果だと思います。
2008 年の北京オリンピック閉会式の席が余ってるからとシカゴにメールが入 り、その時シカゴにいたが成田に着いてそのままトランクを引きずって北京の閉 会式に行きました。
ご承知のように次の 2012 年のロンドンオリンピックをやる、その時の市長はハ ヴィス・ジョンソンに変わっていましたが、北京市から巨大なオリンピックの旗 をもらうのを見ました。
12
その後ロンドン市役所に行くたびに、あのオリンピックの旗は、どこにあるか と聞いたが、計画や政策や市長室の担当者は知らなかったが、ある日、見つけま した。地下の職員食堂の脇のテーブルに乱雑に置いてありました。このオリンピ ック旗の本物がここに畳んであったんです。一応ガラスケースに入っていたがこ の扱い少しひどいんじゃないかとロンドン市役所に言ったら、いやオリンピック をやるときにはちゃんときれいにして会場に持っていくから大丈夫だといって いました。
日本人が考えるオリンピックに対する考えと、アングロサクソンの人たちが相 当違うのかなと、ヨーロッパ委員が 4 割近く占める IOC は油断がならないと思っ たわけです。我々が几帳面に考えることと、民族性の違いがあるということを頭 に入れておかなければならないと思います。
2012 年のロンドンオリンピックの前の年には貧困デモが吹き荒れました。シテ ィのギルドホールも立ち入り禁止の状態になっていました。
■オリンピックと開催費用
1964 年オリンピック時の決算を、東京 100 年史の数字を拾った金額ですが、実 際に東京都のオリンピック予算が組まれたのは 4 年間でした。東京都の計画事業 費が当時の金額で 5400 億円です。東京都の計が約 1 兆 2184 億円なので、4 割以上 の経費がオリンピック関係だったことが分かります。しかもこの時の 4 年間の決 算の合計に倍する金額が国等のオリンピック事業として使われたということで、
これはやはり 1964 年オリンピックに、いかに東京が…日本が集中したかという証 拠ではないかと思います。
■東京の都市基盤整備
我々の近代の歴史から言うと、東京の都市基盤整備をキチンとやったのは、大 正 12 年関東大震災の震災復興と 1964 年のオリンピックで今日の都市構造が成り 立っているのが事実です。東京大空襲で焼け野原になったが、占領下で戦災復興 はほとんどできませんでしたが、それを 1964 年のオリンピックで実施しました。
都市内道路を立体交差にしたのと環七をはじめ、東京は道路面積率がロンドン やニューヨークよりも劣るのに、渋滞率は東京の方がましだというのはやはりこ の、交差点を立体構造にした発想が役に立っていると思います。これを東京オリ ンピックでやったということです。
東京都の歴史書を紐解き特記すべき事項は首都高の路線について、環七はオリ ンピック施設と関係ないのに、なぜオリンピック道路だということを聞かれます が、実は朝霞に選手村が決まっていました。環七と首都高 5 号線の足が長いんで す。直前にワシントンハイツが突然返還されることになりました。これもオリン ピックの効果だと思います。突然代々木に選手村と NHK を配置することになり、
国から首都高 5 号線はこんなに長くなくていい、環七はいらないと言われました
13
が、当時の東京都は絶対にそれはだめだと、オリンピックをやってもやらなくて も必要なものであると強く主張したからこそ、実現できたんです。
典型的なオリンピック道路は青山道路の拡幅です。これは文字通りオリンピッ クのために造ったものです。日本中の都市が名古屋も広島も仙台も戦災復興で 100m 道路を造ったのに、東京だけが占領下で出来なかったというのがあり、1964 年オリンピックで実現したと考えることができます。
そういう意味で言うと私はやはり 2020 年のオリンピックは水と緑がもっとあ ってもいいんじゃないかと思います。
今、欠けているものを造ると、そういう魔力をオリンピックは持っていると考 えるべきです。少なくとも世界都市といわれるこの 3 都市を比べると、東京には 数々の利点がある、それをどう伸ばしていくかということだと思います。
最近、東京都心は結構緑が多 くなりました。これは丸の内仲 通りですけれども、丸の内仲通 りに匹敵するニューヨークの 通り、ロンドンの通りにこれだ けのテラスレストランや、緑の 並木は有りません。
今まで私たちは長い間、東京 は海外都市に比べて緑が少な いと思っていたわけですが、少 なくともロンドンやニューヨ
ークに比べてましな都市を私たちはつくりつつあり、これをさらに伸ばすことだ と思います。
特に皇居の水をどう活かしていくか、例えばこれは緑が迎賓館、東宮御所、神宮 外苑の緑です、下の緑が青山霊園、そういう位置にあるわけですが、結構緑がない わけではない、これらをどう活かしていくかということが一つのテーマになると 思います。
緑がないと思っていたニューヨークに最近つくったハイラインが、高架貨物鉄 道が廃線になったが長く放置されたところを水と緑の遊歩道にした。WTC 跡地、2 本のビルがあった跡は鎮魂の池にした。セントラルパーク以外、緑がどこにある んだと言っていたわけですが、近年は結構整備されてきたと思います。
セントラルパークを見て思うのはゴミ捨て場だったところを、このままいくと マンハッタンがすべて市街地に覆われるということで 160 年前に何人かの若者が 立ち上がって、公園にするという世論が一挙に巻き上がり、この広大な緑の公園 ができました。
日比谷公園が 100 周年の時に、セントラルパークが 150 周年で、憧れのセントラ ルパークなので、一緒に行事をやろう、こっちは 100 年、そっちは 150 年というこ
14
とでニューヨークに呼びかけて、シンポジウムをやった記憶があります。このセ ントラルパークもやはり後からつくった緑です。
明治神宮内苑外苑の緑も、畑、練兵場だったところを、明治天皇が亡くなったの で、大正天皇の時代に、明治天皇を神様として祀ろうと全国民から苗木を募集し てつくったのが明治神宮内苑外苑です。それが今日、私たちが見ると鬱蒼とした 緑で原始の古代から緑があったかのように育っています。
水と緑は都市の中心部においては、新たにつくっていくものだということが万 国共通に考えていいと思います。後から作るものといえば都市の中心部だけでは なくて郊外もそうだと思います。
まとめて考えると、世界の街づくりの考え方に、いろんな変化があるが、一口で いうと 20 世紀は効率性を追い求めたけれども、21 世紀は快適性がキーワードに なっていると思います。
■ロンドン、ニューヨークに比べた東京
東京都も昔は、都市計画局地域計画部なんていったのが、今はまちづくり政策 部とひらがなをつかうように変わっています。これは全国の自治体に共通した都 市計画という漢字の四字熟語をひらがなのまちづくりへと変える流行になった のが 20 世紀から 21 世紀へと変わる頃でした。
同時に EU がランドユースではなくてスペイシャルプランニングをという考え 方で計画をつくろうといった宣言をしたのが 83 の EU 都市が集まった時でした。
その時に、英語ができる、英語を喋る都市はロンドンだけだったと、後の 82 の都市 はそれぞれがヨーロッパの各国の言語を喋る都市だったわけでして、その人たちが数 年間、何度も集まってこの問題を議論した。相当言語の壁が大変だったと、その会 議に参加した人から聞いた記憶があります。83 の EU の都市が、これからはスペイ シャルプランニングだと申し合わせたのが、日本が、都市計画という四字熟語を、
まちづくりというひらがなで言うようになったのと、ほとんど時を同じくしてい たというわけです。
■世界のまちづくり・考え方の変化
アメリカも言い方を変え、中国も言い方を変えたと、これが、あの…共通の意味 をザクッと、相当乱暴にまとめると要するに、都市計画を都市計画だけではなく て、福祉、教育、経済、環境とかを総合的に考えるようにしようと、ということが 共通要素だと考えることができます。
オリンピックにはオリンピックの魔力があるわけでして、こういう機会に東京 を変えるという場合には、もちろん水と緑だけではないが、やはり環境が非常に 大きな要素になってくると思います。
さらにいうと、防災も、一つの要素になると思います。これは東京だけの問題で はなく、ニューヨークでは特に、駅の看板で 86 丁目駅と書いてありますが、セン
15
トラルパークの脇のどっちかというと高級住宅地側の駅ですが、ハリケーンにや られました。これで地下鉄路線の半分くらいが 1 週間止まったわけです。
日本の国土交通省の調査によると、1 週間経って 57%の区間で運行を開始した。
逆にいうと半分近くが 1 週間止まっていたということになるわけで、インターネ ットなどでニューヨークの市民の声を拾うと、アングリー、アングリーとでてき ます。市民は相当怒ったということです。
なぜアングリーかというとニューヨークの場合、碁盤の目構造の道路構造なの で信号ストップが多いので、自動車で移動するには実に適していない都市なんで す。あれほど自動車で世界を席巻したことのあるアメリカで、もっとも自動車に 適していない碁盤目構造の道路を設計し、立体交差が全くないという、信じられ ないような都市であるわけです。
東京みたいに地下道とか陸橋を使って少しでも立体交差をした方がいいと思 うが、それはほとんどできていない、川でしかできていないというのが現実です。
地下鉄が止まるということは、ほとんど彼らは働けないということを意味する わけで、これは大事件だと、しかも 1 年前にも麻痺し台風でやられているわけです。
ニューヨークの地下鉄は何も対策をしていない。高級住宅街の地下鉄でこれほ どボロボロで、更新されていないのがニューヨークの地下鉄の現状です。
私はコロンビア大学の付き合っている教授から、東京は台風で地下鉄が 1 週間 くらい止まることがあるのかというメールをもらいました。東京は台風の時こそ 地下鉄は活躍するのであって、台風で地下鉄が止まったという話は聞いたことが ないと、ただ高い橋を渡るような地下鉄は止まることがあると、東西線を言った んですが、そしたらアングリーという単語を使ったメールが戻ってきました。や はり都市における災害というのは世界の都市における共通のテーマです。
火山もそうです。数年前にヨーロッパ中の飛行機が止まったことがありますが、
アイスランドの噴火で火山灰が飛んだ時です。
日本だけが災害が多いように勘違いしているかもしれないが、世界中の都市が 悩んでいるのであって、日本はむしろテロがないだけあってずっとましです。
それをどう対応していくのかというのが一つのテーマになるわけです。ニュー ヨークのタイムズスクウェア駅の一角で、ホームからとれる写真で、いかにニュ ーヨークの地下鉄が、これは台風でやられたからボロなんかじゃなくて普段でも ボロだというのが分かると思います。
他の都市をボロだ、ボロだというのは、やや耳障りかもしれないが、私はやはり ひどいと思います。乗る人がたじろぐ風景です。東京もこうならないように気を 付けたほうがよいということです。
これはタイムズスクウェア駅です。昼間彼らは地下鉄を止めて路線工事をする ので、どこの路線が今日は止まっているというのがアナログで示されているとい うので途方に暮れる話であります。
16
・世界のまちづくりと東京
そういう意味で、実は東京のまちづくりは、思いのほか、よくやっていると、世 界的には評価されているのが現実です。ただ、欠けているのは、例えば、ソウルの 清渓川は高架高速道路を取っ払って下水を流すようにしました。ボストンは、セ ントラルアーベリーの高架高速道路を取っ払って公園にしました。高架道路を壊 した瓦礫の山でしたが、その後公園になって非常に賑わっています。この効果は ダウンタウンからウォーターフロントへ行くのに抵抗がなくなり、ウォーターフ ロントが賑わったということがあります。
■都市の 3 要素=交流拠点
総合して都市の要素はやはり集まって住むというのは大前提ですが、同時に交 通や上下水道などの都市施設が機能していることと、それから周辺に対する中心 性、吸引力、そういう 3 つの要素があります。
これは特に現代においては、都市は交流拠点という性格が強くなっている。そ れは工業化時代に比べて高度情報化社会は人々が交流することによって、新しい 知見を得る、新しいヒントやひらめきを得る、ということが経済の上でも文化の 上でも重要になっています。その証拠に世界の人々の移動、トリップスールとい うのは急激に増えています。そういう時代にオリンピックというのは、水と緑を 中心として東京が変わっていって、さらに次の世代に良い東京を引き継いでいく ためのチャンスである、と考えることができると思います。
そういう意味ではランドスケープコンサルタンツ協会の皆さんが、こうして、
オリンピックに対して支援をしていただいているということが、東京という都市 にとって心強いことでありまして、ぜひこれからも宜しくお願いいたします。
オリンピックが来ても来なくてもという言い方をしたらいけないんですが、東 京はやらなくてはいけない、来れば余計いろいろ大変なことがあります。是非こ の協会に集う皆様方のさらなるご協力をお願いしたいと思います。
大会計画とか造園界の役割については、福田部長と進士先生からお話があると 思います。私の話は以上にさせて頂きます。
●(丸山)青山先生、ご講演、どうも有難うございました。こちらにサインがござい ますので…。水と緑、環境と防災、非常に私どもの職業について深いご教示を頂い た気がいたします。次の講演は、東京都スポーツ振興局、施設計画担当部長、福田 至様よりご講演いただきます。題目は「大会計画 立候補ファイル 招致に向けた 活動状況など」です。福田部長は、1985年、東京都に土木技官として入庁。以来、イ ンフラ施設の設計・施工の業務にあたられ、2012年4月より現職にて、オリンピッ ク開催時の施設計画や輸送計画の立案に従事されています。それでは福田部長、
宜しくお願いいたします。
17
■(福田)東京都の福田でございます。今日はこのような機会を与えて頂いて大変 有難うございます。
オリンピックは開催都市決定まで約 2 か月で正念場です。最近の評価報告書で 東京は高評価だったということで安堵していますが、最後まで分からない状況で す。
この 2 か月間、我々は油断しないで取り組みたいと思います。ぜひ皆様のご支 援を引き続き頂ければと思っています。
■開催都市決定までのスケジュール
今日は、オリンピックの状況についてお話をさせて頂きます。
開催都市決定までのスケジュール、それから東京大会の計画概要、まちづくり との関連、今後の予定をお話しします。
昨年の 2 月に申請ファイルを提出し 手をあげた 5 都市が立候補し、昨年の 5 月に 3 都市に絞られ、東京・マドリー ド・イスタンブールが残りました。そ の後、今年の 1 月に立候補ファイルで東京 計画を提出しました。
3 月に評価委員会の視察があり、5 月から 7 月にかけて、国際招致活動に向けた プレゼンテーションを実施しているところです。9 月 7 日に開催都市が決まります。
トルコのイスタンブールは、今回 5 回目の挑戦です。マドリードは連続 3 回目、
東京は 2 回目ということです。
3 月に 4 日間を使って IOC の評価委員の現地視察があり 17 人の委員が来て、プ レゼンテーション、質疑応答、会場予定地を見て回りました。各分野の専門家の方 も IOC の専門委員として入っています。東京側は JOC 委員・評価員と IOC の委員 の方もいました。
プレゼンテーションは 14 の分野で、それぞれプレゼンが 30 分、質疑応答が 30 分という 1 時間のセッションを 14 コマやり、かなりハードなスケジュールでし た。その中で安倍総理、世界のトヨタの会長も出席しました。サイトビジットと いうことで会場予定地の視察もしました。
この 3 都市の評価委員の現地視察の結果が 6 月 25 日の IOC レポートです。東 京は高く評価されたと考えています。
ポイントとしては輸送のネットワークは、もうこれ以上整備をしなくても開催 可能だと書かれています。選手村から 8 キロ圏内に競技会場の 85%を配置するコン パクトな計画も高く評価をされました。開催準備基金、これも猪瀬都知事がパフ
『大会計画(立候補ファイル)、招致に向けた活動 状況など』
東京都スポーツ振興局招致推進部 施設計画担当部長 福田 至
18
ォーマンスで 4000 億円の基金が、今銀行にキャッシュであるというような言い 方が IOC にとっては非常に安心材料になるという評価でした。
3 月の評価委員会の来日時に支持率が出ました。IOC の調査で、昨年の 5 月に は 47%だったが、今年の 3 月には 70%まで大きく伸びました。
招致に向けたスローガン「Discover tomorrow 明日をつかもう」が東京のスロー ガンです。
Discover tomorrow の意味は、世界 で最も安全で、世界のトレンドの最 先端を創る、人々が未来の都市モデ ルやオリンピックの将来像を発見す る。そうした意味を込め、次世代を担 う若者たちへオリンピックの価値を 継承していこうというものです。
昨年のロンドンオリンピックでの
テーマも Inspire the generation ということで、次世代を育てるとか、次世代に 息吹をといった意味だと思います。オリンピックにとって若者たち、次の世代に どう継承していくかが重要になります。そうした意味合いも込めて Discover tomorrow というテーマにしました。
ハードのコンセプトですが地図で、真ん中に OV とあります。これはオリンピッ クビレッジ、選手村で、晴海が中心ということです。これを中心に黄色い円が半径 8 キロの円です。さらに都心側、内陸側のヘリテッジゾーン、それから臨海のウォー ターフロント側の東京ベイゾーンの 2 つのゾーンに分け、このゾーンが交差する ところに晴海オリンピックビレッジを置き、ここを中心にそれぞれのゾーンの中 で施設を集約したコンセプトになっています。
19
8 キロ圏内で東京圏の 33 会場のうちの 85%、28 会場を入れました。ヘリテッジゾー ンは 7 会場、東京ベイゾーンに 21 会場を配置しています。
ヘリテッジゾーンは国立競技場や代々木の体育館、武道館、1964 年の遺産的な建 物を使いながら開催するという意味での文化の継承ゾーンです。
東京ベイゾーンは、新しくつくるところも含めて、東京の将来を象徴するゾーン で、東京の伝統文化から現代にいたる東京の魅力を体験できるゾーンです。
実際にやる競技は 28 競技でいろいろな種目があり 36 種目です。
競技会場を新設したり、既設を使ったりしますが、ほとんどの会場は 1 年前に 完成させテストイベントをすることになります。2019 年には全会場を完成するス ケジュールになります。
会場はレガシーとして、2020 年のオリンピック・パラリンピック期間中に使用 しますが、常設会場の施設は収容人数を 2 万人から 5 千人に減らすなど現実的な 利用計画も考えながら、仮設と常設を混ぜていく考え方が大事だと思います。
北京の時は 28 競技、ロンドンでは 2 つ減り、2016 年のリオでは 28 競技で 2 つ増え、ゴルフとラグビーが追加されました。ラグビーは 15 人制ではなくて 7 人 制のセブンスです。
2020 年は 28 競技ですが、1 減、1 増です。減はレスリングになったが、それも 候補にもなったということです。候補に絞られたのが、レスリング、スカッシュ、
野球・ソフトボールで、今回はこの 3 つから選ばれることになります。
開催都市は 9 月 7 日の IOC 総会で決定します。都市が決まった翌日に追加種目 が選ばれます。
会場計画はパンフレットに出ています。オリンピックビレッジ、選手村は晴海 に建設します。赤いのが新設、ピンクが仮設、青は既設会場で修復がいるものにな っています。
東京圏では 33 会場、地方会場は、札幌、仙台、埼玉、横浜でサッカー予選で使 われる会場です。9 会場を新しく整備し造るもの、オリンピックの有る無しに関わ らずに計画しているのが 2 会場、仮設で 11 会場、既存施設の改修が 2 会場、既存施 設で改修する必要がないのが 11 会場です。
オリンピックがあれば整備するのが、
新設の 9 会場と仮設 11 会場です。9 会場 のうち、室内系は体育館系が 3 つ、それ から水泳場が 1 つで、あとはアウトドア 系です。ホッケー会場、ボート会場、カヌ ー会場です。
■新設のメインスタジアム
メインスタジアムは国立競技場を建て 変えて建設します。ザハ・ハディドさん
20 の案が選ばれました。
現在の国立競技場の収容人数は 5 万人強ですが、新設の国立競技場は 8 万人、全 天候型、開閉式の屋根がつきで、コンサートもできる会場に建て替えられます。
■豊洲の選手村
オリンピックスタジアムと併せて、中心になるのが選手村で臨海部の豊洲に建 設します。
2016 年の時はここにメインスタジアムを造る計画でしたが、国立競技場の建て 替えを国でやることが決まったこと、前回、有明地区の選手村は狭いと指摘をさ れ、今回は 1.5 倍の広さが取れる晴海地区に選手村を造ることを決めました。
立地は、晴海通り の横にもう一本環状 2 号線、橋はすでに完 成し環状 2 号線を通 っ て 、 臨 海 部 か ら 都 心部に繋がります。
環状 2 号線は重要な 路線になります。
晴海通りも湾岸線 があり、湾岸線から 高速晴海線が豊洲の 選手村の前まで来る ことになります。
環 2 も晴海線も、
3 年後にはできているということで、この 2 つの路線が、オリンピックレーンとし て重要になります。
・風の道
風の道が大事だということで選手村の計画は、この風の道をなるべく遮断しな い形で、塔状の建物、しかも高さもある程度抑えながら、風の通りやすい形状をシ ュミレーションしながら造っていくコンセプトです。
すでに既存の高い建物があるが、招致計画でプランニングしている計画は、選 手のニーズを満たすということで、海辺に向かった景観、眺望は魅力があり、
IOC・評価委員の方々にも現場を案内しながら、眺望を満喫していただきました。
ここに、食べ物や日本的なパフォーマンスを折り込んで楽しんでもらいます。
ここは基本的には選手が住むところで、観客がいっぱいここに押し寄せるという 交通上の問題は特にないと思います。
選手は、専用バスでの移動を考えています。大型バス 60 台の発着所を整備します。
21
・住宅ゾーン
住宅ゾーンはヨーロッパでは超高層のビルに慣れていないこと、エレベーター で降りてくるのに時間がかかり不公平にならないように、選手村の時は 15 階ま でに住んで頂くことになります。
・晴海埠頭公園
晴海埠頭公園があるところは再整備を想定し、選手村のキーポイントになるの で、練習用の 400m トラックと、両サイドにはスポーツ体育館かスポーツ施設のコ ンプレックスを入れるというイメージです。
・運営ゾーン
運営ゾーンのオリンピックビレッジ・ビレッジプラザは、セレモニーやウェル カムセンターとか、人が集うときにここを使います。
選手村は全部都有地で、港湾局のものです。ここに民間の事業者に、民間の資 金で、選手村用の建物を建てて頂き、オリンピック期間中は選手村として住居を 借り上げて、その後、民間事業者が、マンションなどにコンバージョンし、一般に 向けて販売し、資金回収をしてもらうスピンを考えています。
・事業費と輸送
事業費は、基本的に恒設会場、後々残るものに関しては行政がつくり、仮設の 会場は大会組織委員会がつくっていきます。
全体で、競技会場と選手村を併せて、恒設会場としては 3800 億、仮設会場は 700 億で、全体で 4500 億くらいの資金が必要になると考えています。輸送につきまし ては省略します。
選手については専用のバスでの輸送が基本です。観客については鉄道とバスを 中心に考えています。
・宿泊施設
宿泊施設については、東京は圧倒的なホテルインフラということです。選手は 選手村に住み、IOCホテルとして重要なホテルは、赤坂・六本木地区の 4 つのホテ ルに滞在してもらうことになります。ホテルオークラ、ANA、グランドハイア ット、プリンスパークホテル、この 4 つを IOC ホテルとして計画をしています。
メディアは、放送それから新聞関係の人がいっぱい来ます。その拠点はビッグサ イトで評価が高いところです。ここにメディアの人たちの詰め所をつくり、ホテ ルについてもその周辺のホテルを中心に滞在をしてもらうことになります。
■まちづくりとの関連
まちづくりとの関連ということでお話します。1964 年の東京オリンピックはイ ンフラ施設を拡充するうってつけの機会でした。オリンピックに向けてがんがん インフラをつくり、それが遺産になっています。今度のオリンピックは量的充足 というよりは、質的価値をあげていくものになります。従来の開発型、途上国型と は違う、成熟した都市で行うオリンピック開催になります。ロンドンが一つの例
22
ですが、整備を一つの景気の牽引、地域活性化、都市の魅力につなげていくこと になります。その後もきちんとスポーツを楽しめる、レガシーが残っていくこと が重要です。
オリンピックの歴史の大きな流れの中で、一過性でなく捉えていくことが必要 です。1964 年の東京都オリンピックでは、そのレガシーをきちんと残しています。
都市づくりも前回のオリンピックから 50 年を経て、着実に整備してきたものが、
今回のオリンピックを支える、そんなイメージです。
オリンピックムーブメントに関連するものでは、都市環境、スポーツ振興、こう したものが大きなオリンピックの関連要素かなと思っています。
前回はオリンピックが来るのでインフラが充実する、そんな仕組みだったかと 思います。今回はその後 50 年かけて整備してきたもの、おもてなしとかソフト な面も含めて、蓄積してきたものが今回のオリンピックを支えていると、そんな イメージだなと思います。
オリンピックは一過性でなく、オリンピックに向けた流れが将来にわたって継 続していく、そんなイメージで考えるべきだと思います。
特に、インフラ整備にしても技術力、環境建築、こうしたものが、オリンピック を契機に、促進されるということです。
オリンピックが来れば官だけではなく民も合わせて、いろいろなムーブメント も出てきます。そうしたムーブメントをきちんと未来に残し、新しい技術とか持 続可能な開発、あるいはバリアフリー化の促進、水と緑の充実がオリンピックを 契機に、未来に向けて継承されていく、これが理想と考えています。
東京全体に影響を与える中で、特にオリンピック施設ができるところは、まち づくりが確実に進んでいくので、メインスタジアム周辺、晴海周辺、臨海部のスポ ーツクラスターということで説明します。
神宮外苑地区については 6 月に都市計画決定されています。国立競技場周辺の エリアの地区計画が定められています。
明治神宮絵画館前の緑は将来に向けて、緑豊かな骨格ある都市景観をしっかり 創造していくことを進めています。
神宮球場は、次の段階で検討が進んでいくことになります。
国立競技場ですが、開催都市が決定したら、基本設計・実施設計と進み、解体工 事が来年から始まります。建設工事が 3 年から 3 年半くらいかかると言われてい ますが、2019 年に間に合わせるスケジュールで進んでいます。
晴海は招致計画上の絵です。風の道にも配慮した、住宅等を造っていくことを 考えています。
晴海埠頭公園は人工地盤的なものでイメージ図を描いていますが、スポーツ施 設も併せてグラウンド等はこれからの議論になります。
ベイエリア競技会場は選手村を中心に、有明とか夢の島、この辺に多くの施設 ができてきます。ここは、恒設会場もあるので、スポーツクラスターの一大拠点に
23 なります。
それぞれ会場周辺では水と緑にあふれた会場設計をする、夢の島、辰巳、有明、
海の森、若洲、こうしたところをどのように上手に連携を取るのかの視点が重要 になります。
今は湾岸道路、ゲートブリッジを含むこの臨港道路で、物理的に結ばれていま すが、水と緑のネットワークで、会場も含めて、水と緑のあふれた一大拠点に整備 していくかがこれからの課題になります。
有明のバレーボール会場、仮設でトライアスロンの会場、海の森のボート会場、
中央、内側と外側の間の水路を使って、ボート会場として残していく予定です。
海の森の植樹計画と整合がとれる形で、馬術会場、自転車会場は仮設で考えて います。夢の島公園はアーチェリー会場予定やバスケットとバトミントンのアリ ーナとして残す恒設施設を考えています。辰巳の周辺の水泳場で両側を仮設で造 って、大会後は縮小して残していくことになります。
■今後の予定(国際招致活動)
今後の予定は、テクニカルプレゼンテーションで、猪瀬都知事以下いろんな人 が行って IOC 委員に対してプレゼン、質疑応答することになります。
投票権のある IOC の委員が 100 人で 43 人がヨーロッパの人です。こうした人 の票をいかに取っていくかということです。決定は、9 月 7 日の土曜日、日本では 9 月 8 日の日曜日です、朝の 5 時くらいに決まると言われています。
7 日の土曜日の夜から 8 日の日曜日の決まるまでの間、駒沢公園でイベントを することになっています。ぜひお越しいただければと思います。
先ほど「花笑み」というお話がありましたが、まさにこのロゴマークは女子大 生の作品です。桜をモチーフとしたリースです。この中でオリンピックカラーを使っ て紫については黒の代わりに江戸紫を入れて、日本的な文化を取り入れていると いうことです。このリースには再び戻るという意味もあるということで、1964 年 以来 56 年ぶりにオリンピックが再び戻ってくるということを、我々も祈念をして 今取り組んでいます。ぜひ皆さんのご支援を引き続き頂ければと思います。
●(丸山)福田部長、ご講演、どうも有り難うございました。これから休憩時間、少 し時間が押していますが 6 分ほど休憩時間をとりたいと思います。それから当プ ログラムは CPD の認定プログラムですので、受付のところに CPD コードリーダが あります。それからあの、こちらの花笑みのボードのサイン、皆様、お集まりいた だいた皆様のサインを頂きたいと思いますので、後でまわしますので是非サイン をお願いいたします。
(休憩)
●(丸山)時間になりました。第 2 部の講演に移りたいと思います。
24
講演は、東京農業大学名誉教授 進士五十六先生です。題目は「2020 年東京オリ ンピック・パラリンピック招致に向けて 造園界はいま何ができるか」です。
進士先生は、東京農業大学で長らく造園学のご教鞭をとられ、1999 年から 2005 年まで東京農業大学学長を歴任されました。また造園学に関する著作も多く、最 近では「日本の庭園 造景の技とこころ」が印象的で、私も座右の銘としていると ころであります。それでは、進士先生、お願いいたします。
■(進士)ご紹介頂いた進士と申します。スポーツと一番縁のない私が出てくるの も変ですが、青山さんが東京はポテンシャルが高いし、現実ではそのままでもい けるという力強い競争原理の話をされたと思います。
日比谷公園の本を数年前に出しました。そのサブタイトルは「100 年の矜持に学 ぶ」と付けたんです。今日、私に期待されているのはそこだろうと思いました。
ランドスケープコンサルタンツ協会が、いろんな計画を立ててプレゼンテーシ ョンをしています。とてもいい提案でこれだと問題ないんじゃないかと思いまし た。ただ一つだけ敢えて提案したいのが今日のテーマです。安全・環境共生・健康 生活を柱とした環境先進都市ですが、私はここに日本文化というのを付けたらど うかというのが私の提案です。
今の東京は十分すべてについて頑張っていて、問題ないとおっしゃったと想定 し欠けているのはここだと言いたい。あるいは逆にいうと建築や土木で頑張って きたこれまでのハード、世界的に競争できる世界都市東京としての魅力で唯一弱 いのが日本文化だと私は思っています。
建築家と土木家のみなさんが頑張ってベースを造っているけれども、最後の仕 上げの時に造園家が必要だということです。
造園家と、今の建築家や土木家との差別化は一体どこで行われるのか。
福田さんの話を聞いていて図面を見ると、みんな緑に塗ってあるわけです。全 部、建物から道路からみんな入っているけれども、ほとんど絵は緑ですね。言葉の 端々に水と緑とおっしゃるんです。造園家のお株を建築や土木や一般職の方たち が持っていったんです。仕事が出たらその植栽設計くらいは造園家がやるかもし れないが、それで造園かということです。それは植栽で緑化ではありますが、造園 ではないと私は思っているわけです。
実は、1964 年の東京オリンピックの前に幻のオリンピックと万博が計画されま した。御存じでしょうか。この絵は、井下先生が描いています。私はあの、細かいと ころは聞かなかったが、その図面は、高村造園の高村弘平が、東急グリーンシステ
『2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に向けて
造園界はいま何ができるか』
東京農業大学名誉教授 進士 五十八