クロスモーダル刺激における呈示条件の接触感への影響
An effect of the presented conditions in the cross modal stimulation to the touch sensation 1w120166-1 川口 拓也 指導教員 河合 隆史 教授
TAKUYA Kawaguchi Prof. KAWAI Takashi
概要:近年、クロスモーダル知覚を用いた研究が進んでいる。それはある感覚の刺激呈示によって他感覚の呈示ができる ことからシステムの肥大化を解決できることが一つの理由である。そこで、本研究は HMD を用いた視覚刺激の呈示のみで 触覚刺激の呈示ができる視触間錯覚について着目した。その中でも、現実空間の身体に付加する呈示条件による、VR 空間 内の視触間錯覚への影響ついて着目した。「皮膚表面の空気の様な弱い触覚呈示が視触間錯覚誘発の要因である」と仮説を 立て、そこから、皮膚を覆う条件や身体に風を当てる条件を設定した。それらの条件を付加した状態で、VR 空間内で仮想 物体が身体に接触する時の「接触感」を主観評価によって評価した。その結果から、視触間錯覚は視覚刺激の内容よりも、
身体の部位や呈示条件による影響を受けやすいことが示唆された。
キーワード:触覚、錯覚、感覚間相互作用、仮想現実
Keywords: Tactile sensation、 Illusion、 Cross-modality、 Virtual Reality
1.はじめに
クロスモダリティ(感覚相互作用)とは、ある感 覚の情報から他の感覚の情報を補完して認知、解釈 する特性のことである[1]。本研究はこの特性によっ て生じる接触感に着目した。接触感とは、仮想空間 内で自分の身体に仮想物体が接触する様な視覚刺激 を観察した時に誘発される視触間錯覚の 1 つである。
本研究では先行研究[2]を基に、生起させる身体部 位とその部位に与える呈示条件が接触感に及ぼす影 響を調べた。また、「皮膚表面の空気の様な弱い触覚 呈示が視触間錯覚誘発の要因である」と仮説を立て て評価実験を行った。よって、常に空気と接触して いる口と手を対象に空気との接触状況を操作して実 験条件を組み立て、VR 空間におけるクロスモーダル 知覚について新たな知見を得ることを目的として実 験を行った。
2.方法
実験条件は呈示条件(3)、仮想物体(3)、接触部位 (2)の 3 要因とする 18 条件を設定した。仮説から呈 示条件を、「皮膚を覆って空気を遮断し、強い触覚刺 激を付加」するカバー条件と「人工的な空気を当て て、強い触覚刺激を付加」する送風条件、統制条件 の「何も触覚刺激を呈示しない」アンカバー条件を 設定し、接触部位は口と手に、仮想物体は球と四角 錐と包丁に設定した。要因と水準を表 1 に記す。
表示デバイスとして Oculus Rift DK2 とノート PC を用いた。送風条件には USB 接続の扇風機を、カバ
ー条件にはマスクと手袋を用いた。実験環境は図 1 のようになる。評価項目は接触感の強度について 7 件法で回答を求め、その後に触錯覚の種類や呈示条 件による影響を口頭インタビューで求めた。実験参 加者は 20-24 歳の健康な学生 22 名であった。
1 つの条件に関して 3 回刺激を呈示した。口に対し ては正面 130cm の位置から仮想物体を接近させた.手 に対しては実験参加者の首を下に傾かせて膝の上に 置いた手の甲の上部 13cm から仮想物体を落下させた。
9 条件の刺激呈示後にインタビューと休憩を挟み、接 触部位を変えて残りの9条件の刺激呈示を行った。
表1 各要因と水準
要因 水準1 水準2 水準3
接触部位 口 手
呈示条件 アンカバー カバー 送風
仮想物体 球 四角錐 包丁
図 1 実験の様子(左:実験環境、右:HMD 表示画面)
2 3.結果
解析は 3 要因の 3 元配置分散分析を行った。結果、
呈示条件と接触部位の間に 1 次の交互作用が、接触 部位と仮想物体の間に 1 次の交互作用が 1%水準の有 意差を示した。よって単純主効果の検定を行い、5%
水準で有意差が認められたものに関して t 検定を用 いた Bonferroni 補正法による多重比較を行った。そ の結果のうち各接触部位における呈示条件の影響と 各仮想物体における接触部位の影響を図 2-3 に示す。
図 2 より口条件においてカバー条件では接触感強 度が減少している。また、送風条件では影響がなか った。手条件においてはカバー条件と送風条件で接 触感強度が減少した。また、図 3 より球と四角錐に おいては口条件で接触感強度が増強したが、包丁に 関しては手条件で増強した。
4.考察
結果より、カバー条件で接触感強度が減少したこ とから、視触間錯覚誘発時に接触部位が空気に触れ ていることが強い錯覚誘発の要因となることがわか る。また、送風条件では手に当てた風は接触感を弱 らせるという結果が示されたが、口条件では影響が なかったことから、人工的な空気の付加は必ずしも 有効ではないことが示された。その理由として、2 つ挙げられる。1つは口と手で風を当てる方向を変え たことから、2つの接触部位の感じる風量が異なって しまった。このことから「強い触覚刺激の呈示は接 触感強度を減少させる」ことが示された。2つ目は正 面から風が吹いて口に当たるというのは普段から現 実世界でよくあることだが、上から風が吹いて手に
当たるというのはあまりにも不自然である。この違 和感から現実世界と仮想空間の情報の乖離が起きて 接触感が弱まったと考えられる。
また図 3 を見ると仮想物体によって有効な接触部 位が異なっている。これは視覚刺激の内容は接触部 位の影響を受けやすいことがわかる。
5.まとめ
以上の考察から、接触感の強度は視覚刺激の内容 よりも生起する身体の部位や置かれた状況(呈示条 件)による影響を受けやすいことが示された。また、
その呈示条件として、弱い触覚刺激(空気による皮 膚感覚)の呈示が強い接触感誘発の要因となること が示された。このことから、接触感を生起させたい 身体部位は肌を露わにする必要があることが分かる。
そして、違和感によって起こる現実空間と仮想空間 の情報の乖離は接触感を弱める可能性がある。これ らのことから、現実世界と仮想空間の情報の乖離を 作らないために、クロスモーダル刺激では現実世界 の状況を考慮して VR 空間を構築する必要があると 考えられる。
参考文献
[1]” ク ロ ス モ ー ダ ル 設 計 調 査 分 科 会 ” http://crossmodal-design.Tumblr.com/page/2 [2] 盛川 浩志,飯野 瞳,金 相賢,河合 隆史:シ
ースルー型 HMD を用いた微触感錯覚の呈示と評 価 , 日 本 バ ー チ ャ ル リ ア リ テ ィ 学 会 論 文 誌,Vol.18,No.2,2013.
図 2 各接触部位における呈示条件の接触感への影響 図 3 各仮想物体における接触部位の接触感への影響