バーチャルリアリティ映像の呈示条件がユーザー体験に及ぼす影響
- 両眼視差と視野角の観点から
Effects on user experience by viewing condition of virtual reality images
- From the view point of binocular parallax and viewing angle
5118E023-8 吉川 佳祐 指導教員 河合 隆史 教授
YOSHIKAWA Keisuke Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究では、現在利用されている
VR映像フォーマットを構成する
2つの要素として立体情報・呈示視野角に着目し、2 つの実験 を行った。実験
1では立体情報(2D・3D)と呈示視野角(180 度・360 度) 、実験
2では呈示視野角(180 度・210 度・...・360 度)が映 像観察中のユーザー体験に及ぼす影響について検討した。その結果、心理的特性として「3D」 「360 度」それぞれの特徴が同程度に評価 されること、生理的特性として映像の呈示される部分とされない部分の境界線付近で頭部の動きが抑制されることなどが分かった。
キーワード:ヘッドマウントディスプレイ、360 度映像、180 度映像、視線計測、両眼視差
Keywords:HMD, 360 degree video, 180 degree video, Eye tracking, Binocular parallax1.
はじめに
安価な
360度カメラの登場によって、個人が
360度映像 を撮影・共有できる環境が整った。一方で、360 度映像の 問題点も指摘されている。例えば撮影・編集が複雑なこと、
3D
撮影が困難なことが挙げられる。
Googleはこれらを解 消する映像フォーマットとして
180度映像を提唱した。
180
度映像の利用が進む一方で、180 度映像観察中のユー ザー体験については十分に検討されていない。本研究では、
現在主流の
VR映像フォーマットを構成する要素として
「立体情報」 「呈示視野角」に着目し
2つの実験を行った。
2.
実験 1 ( 1 ) 実験目的
本実験では立体情報・呈示視野角がユーザー体験に及ぼ す影響について人間工学的検討を行う。
( 2 ) 実験環境・実験条件
視線追跡機能を搭載した
HMDを用いて刺激を呈示し た。参加者はその場での回転可、前後左右への移動不可の 状態とした。実験条件として立体情報(2D・3D)と呈示 視野角(180 度・360 度)の
2要因を設け、2 水準×2 水準 の
4実験条件とした。
( 3 ) 評価指標
主観指標として、質問紙を用いた
7件法による評価を行 った。評価項目は
3D画像の評価研究
[1]を参考に現実感・
臨場感・立体感の
3項目とした。客観指標として、刺激観 察中の視線・頭部のトラッキングデータを用いた。
( 4 ) 実験参加者と手続き
参加者は
20代の男女
16名とした。開始時の視線位置 を統一し、刺激を
40秒間呈示した。終了後、質問紙への 回答を求めた。以上の試行を
4回繰り返した後、実験全 体に対する内観報告を求めた。
( 5 ) 実験結果
各項目の評定値について二元配置分散分析を行った結 果、現実感・臨場感において立体情報・呈示視野角の主効 果が有意に表れた(p<.01)。また、立体感において立体情 報の主効果が有意に表れた(p<.01)。交互作用については 現実感で有意傾向(
p<.10)、立体感で有意に認められ(p<.05)、
3D・
360度条件で顕著な得点の上昇がみられた。
頭部・視線のトラッキングデータについて、カーネル密 度推定による水平方向の分布推定を行った結果、180 度水 準では
0度(正面)付近と±90 度(境界線)付近において 視線・頭部の分布に差が見られた。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
-180 -150 -120 -90 -60 -30 0 30 60 90 120 150 180
分布率
2D・180・視線 2D・180・頭部 3D・180・視線 3D・180・頭部 1
2 3 4 5 6 7
2D・180 2D・360 3D・180 3D・360
得点
図 1 現実感の評定結果(実験 1)
図 2 視線・頭部の分布(実験 1・180 度水準)
( 6 ) 考察
主観指標では
2D水準より
3D水準で、180 度水準より
360度水準で、現実感・臨場感の得点が有意に上昇した。
一方で、
2D360度条件・
3D180度条件の間に差が見られな かったことから、3D と
360度各々の特徴が同程度に評価 されたと考えられる。また、現実感・臨場感における交互 作用は
3Dと
360の組み合わせによる相乗効果を示唆して いると考えられる。客観指標では、180 度水準において±
50
度付近で頭部・視線の分布が逆転した。この角度は使用
HMDの視野角の約半分であり、境界線を認識した段階で 頭部の回転を抑えて観察していたと考えられる。
3.
実験 2 ( 1 ) 実験目的
本実験では実験
1の結果を受けて、呈示視野角がユーザ ー体験に及ぼす影響についてより詳しく検討を行う。
( 2 ) 実験条件
実験環境・評価指標は実験
1と同様とした。実験条件と して刺激の種類(A・B)と呈示視野角(180 度・210 度・
240
度・270 度・300 度・330 度・360 度)の
2要因を設定 し、2 水準×7 水準の
14実験条件とした。
( 3 ) 実験参加者と手続き
参加者は
20代の男女
19名とした。開始時の視線位置 を統一し、刺激を
30秒間呈示した。終了後、質問紙への 回答を求めた。以上の試行を
14回繰り返した後、実験全 体に対する内観報告を求めた。
( 4 ) 実験結果
各項目の評定値について二元配置分散分析を行った結 果、現実感・臨場感について呈示視野角の主効果が有意に 表れ(p<.01)、360 度水準で他の
6水準に比べて得点が有 意に高くなった(p<.01)。また、臨場感について
270度・
300
度・330 度の
3水準で
180度水準に比べて得点が有意 に高くなった(p<.05)。
頭部・視線のトラッキングデータについて、カーネル密 度推定による水平方向の分布推定を行った結果、330 度・
360
度の
2水準において他の
5水準と異なる分布を示す傾 向が見られた。また、実験
1と同様に
0度(正面)付近と 各条件の境界線付近で視線・頭部の分布に差が見られた。
( 5 ) 考察
主観指標では、270 度・300 度・330 度の
3水準で
180度水準に比べて臨場感の得点が上昇する一方で、3 水準間 では得点に差が見られなかった。270 度は頭部・肩甲帯の 回旋範囲(±60 度・±20 度)と使用
HMDの視野角(110 度)の合計に近い角度であり、参加者が自然に首を回転さ せた際の視野が確保されたことで中程度の臨場感を生起 したと考えられる。客観指標では
330度・360 度の
2水準 で同様の視線・頭部の分布が見られた。このことから、映 像の呈示されない部分が
HMDの視野の半分以下のような 小さい範囲の場合、観察行動を妨げないと考えられる。
4.
総括
本研究では
VR映像における立体情報・呈示視野角につ いて心理・生理的特性の面から複数の知見を得た。これら の結果から、VR 映像フォーマットについて「3D180 度映 像は従来の
2D360度映像と同程度の体験をもたらす映像 として利用できる」 「撮影・編集を考慮する場合、約
270度 でも中程度の臨場感を生起できる」などの特徴が考察され た。本研究では静止画像を用いたが、今後の展望として映 像刺激を用いた検討、刺激が呈示されない箇所の加工・編 集方法に対する更なる検討が望まれる。
参考文献
[1] M.Lambooij et al.:“Evaluation of Stereoscopic Images:Beyond 2D Quality”, IEEE Transactions on Broadcasting, Vol.57, No.2, pp.432-444, 2011.
0 1 2 3 4 5 6 7
180 210 240 270 300 330 360
得点
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
-180 -150 -120 -90 -60 -30 0 30 60 90 120 150 180
分布率
180 210 240 270 300 330 360
図 3 臨場感の評定結果(実験 2) 図 4 視線・頭部の分布(実験 2・刺激 A)
刺激A 刺激B