自
己
に よ
る
触刺
激
が
ラ
バー
ハ ンド
錯 覚
に
与
え る
影響
金
谷
翔
子
・
石
渡
貴
大
・横
澤
一
彦
東 京 大 学
Self
−
produced
touch
in
the
rubberhand
illusion
Shoko
KANAYA
,
Takahiro
IsHlwATA
, andKazuhiko
YoKosAwA
The 砺 勿召畑 砂
Of
Toleyo*
Atactjle
stimulus generatesdifferent
sensations,
depending
on thedelivery
source.
Therubber hand illusion(RHI )
,
a phenomenon where a tQuch to one’
shand
is
perceived tQ come fromafake hand
,
reflects the role of a multisensory interaction in a coherent body rcpresentatiQn.
Although
this phenomenonhas
been
mostly studied with an experimenter providing tactilestimuli
,
here
weinvestigate
whether a tactile stimulus mustbe
exterIlally produced for RHI tooccur
.
By introducing the condition where a participant touches an artificial hand and his/her ownhand
simultaneous ]y,
the results demonstrate that illusion stnl occurs,
but the perceived amplitudeis
smaller than thatin
the ordinal externally produced touch cQndition,
Our
results suggestthat
the externally produced tactile sense is not required for RHI
.
Further studies are necessary toelucidate the cause of the decreased illusion with the self
−
produced tactile stimulation.
Key
words :rubberhand
illusion
,
body
ownership,
multisensoryinteraction
適 応 的な 認知
,
行 動 を 取 るには外 界に存 在す る物 体と 自分の身 体を 正確に識 別し,
身 休 保 持 感 覚,
す な わ ち自 分の体が 自分の もの で あ るとい う感 覚を保 持 する こ と が 不 可欠で あ る。 こ の ため に は自分 以 外の他者か ら与え ら れ る刺 激と自分の身 体 運 動によっ て 引 き起こさ れ る刺 激 を見分ける こ と が必要と な る。 また一
般に外 界か らもた ら さ れ る刺激の ほ う が よ り重 要な意味を持つ こ と が多 く,
これ を優 先 的に処理する た め に も自分に よっ て もた ら さ れ た刺激との弁別を確実に行わ な くて は な ら ない。 他 者に よる刺 激と自ら引き起こ した刺 激が異なっ て知 覚 さ れ る こ と は,
日常 的な経験か ら考えて 自明である。 最 も顕著かっ な じ み や すい例は,
自分の体を自分で く す ぐ る こ とは で き な い とい う現 象だ ろ う (Claxton,
1975;Weiskrantz
,
Elliott
,
&Darlington,1971
).
これは自分で与え た触 刺激に伴 う運動 指 令と そ れに基づ く予測が
,
刺 激の 知 覚 過 程に影 響を与え る ため と考え られて い る。
* Department
of
Psychology,
Graduate
School
of
Humanities
andSociology,
TheUniversity
ofTokyo
,
7−
3−
1 Hongo,
Bunkyo−
ku,
Tokyo l l3−
0033,Japan
実 験 参 加 者が自ら機 械を動か し その機 械に よ っ て 自分を くすぐるよ う な触 刺 激を与える と,
他 者が機 械を動か し た と きよ り も く す ぐっ た さが減 少す るが,
参 加 者の運 動 と機械が も た ら す刺激との 間に時 間 的な 遅 延 や軌道のず れ を挿 入 する と,
他 者によっ て くす ぐられ たの と同 様に強く刺 激が知 覚され る〔Blakemore
,
Frith,
& Wolpert,
1999
;Blakemore,
Wo
!pert,
&Frith,2000
)。 つ ま り 運動 指 令に よ る刺 激の
r
測が行い に く くな る に従っ て,
刺激が抑制さ れに く く な る。 さ らに他 者か ら触刺激を与え
ら れる場 合に比べ
,
自ら刺 激を与え る場 合に は 2次 体 性 感覚 野およ び前帯 状回の活動が減弱す ること が示さ れてい る(
Blakemore,
Wolpert,
&Frith,
1998)。 近 年で は触覚 情 報に と どま らずさ ま ざま な感 覚 器 官におい て
,
自ら引 き起こ し た刺激は外界か ら与え ら れ た同様の刺激と異
なる神経 活動パ タ
ー
ン を も た ら す こと が報告さ れて い る(Curio
,
Neuloh,
Numminen,
Jousmaki,
& Hari,
2000 ;Hesse,
Nishitani
,
Fink,
Jousmaki,
& HarL 2010 ; Roy &Cullen
,
2004 >o
一
方で,
身 体 保持感覚は触 覚,
自 己 受容 感 覚,
視覚な ど 種々 の感 覚情 報の一
貫 性に よ っ て保た れ て い る。 例え12 基 礎 心 理 学 研 究 第
30
巻 第1
号 ば 目の前の 手 が 自 分の もの であ る とい う 主 観 は,
自己受 容 感覚お よ び視 覚に よっ
て得 られ る手の位 置 情 報の 整 合 性に よっ て確か なもの となる。
こ の ことは,
種々の 感 覚 情報間に矛盾 を生じ させた場 合に正常な身 体 保 持感覚が 保た れ な く なる現 象か ら も示されて い る。 例え ば実 験 参 加 者の背 中 を 後ろか ら撮 影 した ビ デ オ カ メ ラの 映 像を ヘ ッ ドマ ウ ン トディ スプレイ を通 して リアル タイムに参 加 者 自身に提 示し,
自分の体を三人 称の視 点か ら観 察さ せ た場 合, その他の感 覚情 報が視点と整合的で あ れ ば, 自分が自分の体の外に存 在して い る よ う な感 覚が得ら れ る(Ehrsson,
2007 )。
ヘ ッ ドマ ウ ン トディ ス プ レ イ に よっ て自分の後ろ姿を観察さ せ な が ら, 参 加 者の 胸 部お よび ビ デ オ カ メ ラ の真 ドあた り を同 時に筒な ど に よ っ て 叩く と, カメ ラ の位置の筒は レン ズ の 目の前に映る が,
参 加 者の胸 部を叩く筒は参 加 者の体に隠れて ビ デ オ カ メ ラに は映 ら な い。 胸部に与え られ る触刺 激と ディ ス プ レ イに提示さ れ る筒の視覚 情 報が統 合さ れ るこ とに よっ て,
自分が自分の背 中を観 察で きる位 置,
すな わち自分 の体の外に存 在し ている かの よ う な感 覚が得ら れ るの で あ る。 っ ま り わ れ わ れ が当た り前の よ うに感 じて い る 「自分 が 自分の体の中に存 在 してい る」感 覚は,一
人 称の 視点で視覚入力を受け,
かっ 視 覚と触覚の よ う な各種感 覚 情 報の整 合 性が保た れて い る結 果と考え ら れる。 こ の よ う に種々の感覚 情 報の矛盾を人為 的に も た ら し た場 合 に,
通 常とは異な る身 体 保 持 感 覚が得 ら れる こと が多 くの先 行研究に よっ て示さ れ ている{
Slater,
Perez−
Marcos,
Ehrsson
,
& Sanchez−
Vives,
2009 )。 Petkova & Ehrs−
son (
2008
)に よ ると,
マ ネ キ ンの体 をその マ ネ キ ンの視 点か ら見下ろ す よ う な映像を参 加者に見せ,
L
述の 実 験 と同 様にマ ネキ ン の体およ び参 加 者の体 幹へ 同 期し た触 刺激を与え る こ と に よっ て,
マ ネ キ ンの体が臼分の体で あるかの よ う な錯 覚が 生 じる。 こ の よ う な身 体 保 持 感 覚の変 容を伴 う錯 覚 を 総 称 して 身体錯 覚と呼ぶ が,
その うち最 も代 表 的で あり,
多 くの 先 行 研 究に おいて取 り上 げ られて きた現 象が ラバー
ハ ン ド錯覚 (Botvinick
&Cohen ,1998
)である。
実 験 参 加 者 の左手を隠し た う えで ゴム製の偽 物の手を 見 せ,
絵 筆 な ど に よっ て両方の手に同 時に触 刺 激 を与 えると,
偽 物の 手が自分の 手で あ る かの よ う な 感 覚 が 生 じ,
ま た左 手の 位 置が偽 物の手の 方 向に寄 っ て知 覚さ れ る (Botvinick
& Cohen,
1998;Haans,
IJsselsteijn,
& de Kort,2008
;IJsselsteijn
,
de
Kort,
&Haa
【/s,
2006
:Pavani
&Zam −
pini
,
2007 ;Tsakiris &Haggard,
2005
)。 この現 象は触覚情 報と視覚情 報の
一
貫性が , 主 観 的な身 体 保 持 感 覚お よ び手の位 置 情 報を与え る自 己 受容 感 覚に強く影 響す る こと を示して い る。 錯 覚が生じた状 態で偽 物の于の指を 無 理 な 角 度に ね じ曲 げた り注 射針を近づ け た りする と, 参 加者は本当の 自分の手が傷っ け ら れると きのよ うに恐 怖 感を覚え,
皮 膚 電 気 反 応が生 じた り〔Armel & Ra−
machandran,
2003 ),
痛みの予 期や 不安 感に関 係す る と さ れ る前 帯 状 皮 質お よ び島葉の活 動が強く 見 られ たりす る (Ehrsson,
Wiech,
Weiskopf,
Dolan,
& Passingham,
2007 )
。
実 際の 自 分の手 が触 ら れて い る触覚 情 報 と偽 物 の手が触 ら れて い る視 覚 情 報の統 合が誤っ
た身 体 保 持 感 覚を生じさせ るの で あ り,
実 際の手 と偽 物の手 が 触 られ る タイ ミング を ず ら し た り,
偽 物の手だ けで なく実 際の 手も同 時に見え る よ うに して これ らの感 覚に齟 齬 を生 じ さ せ る と,
錯 覚は大き く減 少 する(Botvinick &Cohen ,
1998
;Ar
皿 el &Ramachandran ,
2003 )。 多 くの先 行 研 究で は視 覚 刺 激お よ び,
視 触 覚 刺 激の対 応関係を操作す るこ とによっ て ラバー
ハ ン ド錯覚の生起 要 因にっ い て検 討 して きた。
身 体 保 持 感 覚の形 成に は視 触 覚 情 報の時 間 的 同 期と いう物理的な要因のみ な ら ず, わ れ わ れ が あ ら か じ め持 っ ている自分の 手に関す る視 覚 表 象が関わ っ て い る と考え ら れて きた た めで あ る(
Haans
et al.
,
2008
;Pavani
&Zampini ,2007
)。
Tsaki−
ris&Haggard (
2005
)が,
偽物の手を参 加者の 手と異な る向きに置いた条 件,
ま た偽物の手の代わ りに単な る木 の俸を置いた条件で実験を行っ た ところ,
こ れ らの条 件 で は錯 覚が生 じな か っ た。
ま た彼ら が参 加 者の左手の う ち 1本の指に は偽 物の手と同 期し た触 覚 刺 激 を,
も う1
本の指に は同期して いない触覚刺 激を与え た ところ,
位 置の定 位 ずれ は同 期 して刺 激された指に おいてのみ観 察 さ れ た。 っ ま り視 触 覚 刺 激が同 期 して与え ら れ るこ と は 身 体 保 持 感 覚の保 持に とっ
て必要 条 件で あ る が十 分 条 件 で は なく,
視 覚 刺 激 が ある程 度 「自分の手」 ら し く見え るこ と も必 要と な る (Ehrsson,
Spence,
& Passingham,
2004 )。
一
方,
近 年で は,
視 覚 刺 激 と同 期 して提 示される身 体 感 覚の質 的な違い がラバー
ハ ン ド錯 覚に与え る影 響にっ い て も検 討さ れて い る。
従 来,
ラバー
ハ ン ド錯 覚およ び 類 似の身 体 錯覚を引き起 こす際に は主に絵 筆 等に よる触 覚 刺 激が用い られて きた が,
これに対 しTsakiris,
Pra−
bhu ,
&Haggard
〔2006 )や Dummer,
Picot−
Annand,
Neal,
& Moore (2009 )は参 加 者 自身の手の運 動に よ っ て も錯 覚が生 じ ることを示し た。 参加者の手の指の運動 (Tsakiris,
et al.
,
2006 ).
また は手 首 か ら先 全 体の水 平 方 向の 運Sh
(Dummer
et a1.
,2009
>と同期して動 く偽者の 手を観 察さ せ た場 合に も,
典 型 的なラバー
ハ ン ド錯 覚が 生 じ た。 これ ら は触覚 刺激だ けで な く,
運動に よっ て得られ る自己受容 感覚が身体 保持感 覚の形成に大き く寄 与 する こと を示す 重要な知 見で ある。 し か しこ こ で 見落と されているの は
,
触 覚 刺 激そ のものが2通りの性 質 を 持 ち得る とい う 点で あ る。 従来研 究で は一
般 的に 他 者によ る触 覚 刺 激が用い ら れて き た が,
わ れ わ れは 臼らに よっ
て も触 覚 刺 激 を 与える こ と がで きる。
また前 述の よ うに これ ら は異な る触 知 覚を も た ら す ことが示さ れて お り,一
般に自らによ る触 刺激は他者によ る同様の触刺激よ り も減 弱 する (Blakemore et al.
,
1999,
2000 )。 こ の よ うな 触 刺 激の質 的な違いがラバー
ハ ン ド錯 覚に見 られる感 覚 統合過程に与える影響にっ い て も,
明ら かにす る必要が ある。 そこ で本 研 究で は,
触 覚 刺 激に よ っ て誘 発さ れ るラ バー
ハ ン ド錯覚に とっ て,
他 者に よ る刺 激が 必要 条 件か 否か を検 証し た。 っ ま り 自ら が触 刺 激を与え る場 合に も ラ バー
ハ ン ド錯 覚が生 じる か,
またこの ときに生 じる錯 覚は他者の触 刺 激に よ っ て引き起こさ れ る錯 覚と同じか ど う か検討し た。 前者にっ い ては, 参 加者が 自分の手と 偽 物の手に同 期 し た刺 激を与える参 加者同 期 条件と,
偽 物の手に は同 期 し た刺 激が与え られない同 期 情 報 非 提 示 条件の 比 較を行っ た。
後者につ い て は,
従 来の ラバー
ハ ン ド錯 覚パ ラ ダイム と1
司様に実 験 者が 参 加者の 手お よ び 偽 物の手に同 期 した刺 激 を与 える実 験 者 同 期 条 件 と,
前 述の参 加 者 同 期 条 件の 比 較 を 行 っ た。
他 者に よ る 触 刺 激 が錯 覚の 必要 条 件で あ る な ら ば, 自らの 与え る触 刺 激は ラバー
ハ ン ド錯 覚を生 じさせず,
錯 覚 量は1
司期 情 報 非 提 示 条 件と異な ら ない と考え られ る,,一
方,
触 刺激 を与え る 主体の違いが ラバー
ハ ン ド錯 覚に影 響を与えず,
参 加 者 目身に よ る刺 激 も実 験 者に よ る刺 激と同 様に錯 覚 を 生 じ さ せ る な ら ば, 参 加者同期条件に お け る錯 覚量は実験 者同 期 条 件と異な ら な い と考え ら れ る。
錯 覚 量の指 標とし て,
自 己 受 容 感 覚 ドリフ ト の測定お よ び ラバー
ハ ン ド錯 覚質問紙に よ る 主観報 告の2
種 類 を用い た、 自 己 受 容 感 覚 ド リフ トとは参 加 者 自身の手の 定 位が錯 覚に よ っ て偽 物の手の ほ う にずれ る量の こと を 指し,
客 観 的なラバー
ハ ン ド錯覚の指標と して多くの先 行 研 究で用い られて きた(Botvinick &Cohen ,1998
;Haans et aL
,
2008
;IJsselsteijn
et al.
,2006
;Pavani &Zarnpini,2007
;Tsakiris & Haggard,
2005 }。 ラバー
ハン ド錯 覚 質 問 紙は 主観 的な錯 覚の強 さを 7件 法で回 答 さ せる もの で
,
Botvinick &Cohen
(1998)の質問 項 目 を一
部改変して使 用 し た。 な お,
従 来の ラバー
ハ ン ド錯 覚 研 究で は実 験 者が 2本の手を同 時に動か し な が ら,
参 加者の 手と偽 物の手に刺 激を与え る方 法が取ら れて き た。 本 研 究におい ては参 加 者が自 由に動か せ る・
方の手 を用い て,
自分の も う片方の 手と偽 物の手の 2 カ所に同 時に刺 激を与え るこ と がで きるよ う,
3次 元感触イ ン ター
フェー
スを 用い た。 こ の装 置は 3次 元 空 間 内で 臼 由 に動 か すこ との で き るペ ン先の 座 標を取得 し,
こ の 位置 を反 映する ポ イ ンタをコ ンビ=
・
一
タの デ ィ スプ レイ上に 2次 元 的に提 示 する もの で ある。
これ を用い て,
参 加 者 の 手の上のペ ン先と同様の運 動が デ ィ ス プ レ イ ヒに も表 示さ れ る状況を作り出す こと が可能と な る。 ディ ス プレ イ にあ ら か じ め提 示し た偽物の手の画 像の上でポイ ン タ を 動 かせば,
参 加 者の片 方の手の運 動によっ て も う片 方 の 手お よびデ ィ ス プレ イ上の偽 物の手に同 時に刺 激 を与 える こと がで き る。 方 法 実 験 参加 者 21 歳か ら23歳 〔M=
21.
78,SD ;
O.
73)の 男 女 18名 (男性 14名,
女 性4 名 )が実 験に参 加し た。
全 員が正 常 な視 力ま た は矯正視力を有してお り, 実 験の 目的に関し て は事前 知識を持た な かっ た。 ラバー
ハ ン ド錯覚の 生起 しやすさ に利 き手の違い は影 響 しな い こと が報 告さ れて い る が (Haans
et al.
,2008
),
本 実 験で は参 加 者の右 手を 運動さ せる必要が あるた め参 加 者は右 利きに統 制し た。 装 置 視 覚 刺 激はCRT
デ ィ ス プ レイ 〔SONY
GDM −
F400 ) に提示 さ れ た。
触 覚 刺 激の提 示お よ びこ れ と 同期 して偽 物の手の ヒを運 動す るポイ ン タ の表 示は,
3次 元 感 触イン タ
ー
フ ェー
ス 〔SenSable Technologies PHANToMOrnni
)に よっ て行わ れ た。 実験プロ グラ ム の制御はパー
ソ ナル コ ン ピュー
タ (DELL DIMENSION E521 )に よっ て行われ た。 参加 者の正面に置か れ たCRT
デ ィ ス プ レ イに画 像の手が表 示さ れ,
デ ィ ス プレイの左 側には参 加 者 の 左 手 を固 定 す る 台お よ び 3次 元 感 触 イ ン ター
フェー
スが 設置さ れ た。 実 験は暗室で行わ れ た た めデ ィ ス プ レイ上 の視 覚 刺 激 以 外は 見え な い状 態で あっ た が,
デ ィ スプ レイ の明る さ に よ っ て その左にあ る参加者の 左 手お よ び3
次元感触イン ター
フ ェー
スが 見 え ることの ない よ う,
これ らの間に は簡 易な衝 立が置か れ た。
刺 激 視 覚 刺 激は人 間の 左 手の2
次 元 コ ン ピュー
タ グ ラ フ ィッ ク 画像で あ り,
イー
フ ロ ンテ ィ ア社 製ソフ ト ウ ェ ア Poser 7を用い て作 成さ れた。
な おラバーハ
ン ド錯 覚 は2
次 元 的な手の映 像を用い た場合に も 生 起 す る こ と が報 告 されて い る(IJsselsteijn et al.
,
2006
;Pavani
&14 基 礎 心理学研究 第
30
巻 第1
号Figure
1.
Visual stimulus :apicture ofhuman
left
hand with computer graphics.
Ared
point
,
represcnted as a white square,
suggestswhere tactile stimulus should be given
,
andthe green point
,
represented as ablack
square,
refiects the location of the stylus penon the participants
’
left
hand ,
chez
−Vives,2008
)。 参 加 者の左手は ディ スプ レイの左側 に置か れ た台に固 定さ れてお り,
参 加 者の 左 手と画 像の 手との距 離は25〜30cm
であっ た。 画 像上には,
触 刺 激 を与え る位 置を指 定 する赤い ポ イ ンタ図 中で は 自と、
3 次元 感 触イ ンター
フェー
ス の ペ ン先の位置を反映す る黄 緑 色の ポ イ ン タ図 中で は黒が提 示さ れ た (Figure l)。
実 験開始 前に,
ペ ン先と ポ イ ンタ が そ れ ぞ れ参 加 者の左手 お よ び偽 物の手の1
司じ位 置に あ た る よ う キ ャ リブレー
シ ョ ンを行っ た。
参 加 者の左 手は固定さ れて い る た め,
ディ ス プレイ を見て画 像 上の手の どこ か に黄 緑 色の ポ イ ン タを持っ て い くよ う な 運動を行う と,
同 時に参加者の 左 手 上の同じ部 分にベ ン先が触れる よ うな状 態で あっ た。 触 覚刺 激は3
次元 感触イン ター
フ ェー
スを用いて,
実 験 者ま たは参 加 者の右 手によっ て与え ら れ た。 これ は 6 関 節の アー
ムの先にペ ンが付い た3
次 元マ ウス である が,
本 実 験におい て は参 加 者の左 手が見え な い状 態で も 安 定 して刺激を与え ら れ る よ う,
アー
ム の一
部の関節が 勤か な い よ う固 定さ れた。
刺 激を与える場 所は人 差し指 と中 指につ い てそ れ ぞ れ爪,
第二 関節, 指の 付け根の3
ヵ所 ずつ,
計6
ヵ所で あっ た。
刺 激 する場 所を指 示 する 赤い ポ イ ン タが画 像の手の上の こ の6
ヵ所をラ ンダムE
(b)PHANToM
isplay
Participant
spjayParticipant
Figure 2
.
The schematic experimental settingof the experiment
.
a:experimenter touchcondition
,
b
: participant touch cQndition,
nonvisible touch condition.
な
1
頂で移 動 し,
こ れ に合わせ て黄 緑の ポ イ ンタを 動か し な が ら刺激を行っ た。 条 件 実 験は実 験 者 同 期 条 件,
参 加 者 同 期 条 件,
同 期 情 報 非 提 示条件の3
条件で行っ た (Figure
2
)。 すべ ての参 加者 がこれ らの3
条 件で実 験を行い,
条 件のr
順番は参 加 者 間 で カ ゥ ン ター
バ ラ ン ス を取っ た。 実 験 者 同 期 条 件は従 来 の ラバー
ハ ン ド錯 覚パ ラダ イム と同様,
実 験 者に よっ て 触刺 激が与え ら れ る もので ある。 実 験 者が参 加 者のすぐ 左に立 ち,
3
次 元 感 触 イン ター
フ ェー
スの ペ ン を使っ て 参加者の 左手に刺激を与え た。 参 加者 同 期条件は実験 参 加者が, 右手を用い て 自身の左手に刺 激を与え るもので あ る。
これ らの2
条 件で はペ ン先の動 きがデ ィ ス プ レイ 上の 黄緑 色の ポ イ ンタと同期して お り, 視 触覚刺 激の同 期が保た れて い た。 触 刺 激を与え る主体の違いが ラバー
ハ ン ド錯 覚に影 響を与えないな ら ば,
参 加 者 同 期 条 件に お け る錯 覚量 は実験 者同期条 件と異な ら ない と考え られる。 同 期 情 報 非 提 示 条 件で は参 加 者 同 期 条 件と同 様に参 加 者が 自 身の左 手に刺激 を 与え た が
,
ペ ン先 を 反 映 す る ポイン タ が ディ スプ レイに表 示さ れ な か っ た。 デ ィスプ レイ に は刺 激を与え る位 置を示す赤い ポ イ ンタのみ が表 示さ れ,
参 加 者は これ を 目 安にペ ン先を 動 か し た。 他 者 に よ る触 刺 激が錯覚の必要 条件で あ る な ら ば,
自らの与 える触 刺激は ラバー
ハ ン ド錯 覚を 生 じさ せず,
参 加 者 同 期 条 件における錯 覚 量は同 期 情 報 非 提 示 条 件と異な ら な い と考え られ る。
な お すべ ての条 件におい て,
実 験者お よ び参 加 者はCRT
デ ィ スプ レイ 上の視 覚 刺 激を観 察 し な が ら触 刺 激を与え た。 Table lRubber
Hand
Illusion questionnaire1 と きどき画 像の腕の 位 置で 叩か れて い る と感 じ た。 実験の 間
,
私が感 じて い る もの は画 面 上の緑の点 2 に よ っ て引 き起こ さ れて い るよ うに感じ る瞬間 が あっ た。
実 験の 間,
画 像の腕が自 分の もの だ と感 じる瞬 間 3 が あっ た。 実験の 間, 自分の本物の 腕が画 像の 腕の ほ うに動4
か さ れて い ると感 じる瞬 間が あっ た。
手 続き 実 験は暗 室で行わ れ,
以下のすべ て の手続きが実験 者 条件, 参加 者条件, 非 同期条 件の そ れ ぞ れ にっ い て繰り 返 さ れ た。 まず 照 明の ある状 態で参 加 者の左 手 を 台に固 定し, 参 加 者の 手h
の ペ ン先と偽物の 手上の ポ イン タが同じ位 置 に来るよ うに キャ リブレー
シ ョ ンを行っ た。 次に照 明を 落 と し,
参 加 者の 手,
3次 元 感 触イ ン ター
フ ェー
ス,
デ ィ ス プ レ イ のすべ て を 黒 い布に よ っ て覆い 隠 し た 状 態 で, 刺 激を行 う前の 左手の主 観 的 定 位 位 置を測 定 した。 参 加 者の左手と画 像の手の上 方に水 平に張 られた ロー
プ に沿 っ て 実 験 者が ク リッ プを 動か し, 参 加 者はこ の ク リッ プ が左手の中指の 真上に来た と感 じ た場 所で報 告す る よ う教 示さ れ た。
な お実 験 者は毎 計 測ごと にラ ン ダム な位 置か らク リッ プを 動か し始め た。
続い て,
実 験 者 同期 条件,
参 加者同 期 条 件,
同 期 情 報 非 提 示 条 件の う ちいず れ かの条 件で参 加 者の左手お よ び 偽 物の手へ の刺 激 を 行っ た。
参 加 者 は実 験 中に 画像の手 か ら 目 を 離 さ ない よ う 教示さ れ た。 刺激 は 1条 件にっ き360
秒 間, 60bpm
の メ トロ ノー
ム の音に合わせてっ つ くように与え られた。
実 験 者同期 条 件で は実験 者が,
参 加者同 期条 件で は参 加 者が 3次 元 感 触イ ン ター
フ z一
スの ペ ン を動か すこ とで刺 激 を行 っ た。
同 期 情 報 非 提 示 条 件で はペ ン先を反 映す る黄緑 色の ポ イン タがデ ィ ス プ レ イ に表示さ れ な か っ た。 刺 激 提 示 後,
再び上 述の方 法で左 手の定 位位 置 を 測 定 し,
こ の ときの定 位位置と最初に計測 し た位 置とのずれ を自己受容 感覚 ド リフ トと定 義し た (Tsakiris &Hag −
gard,
2005 )D 続いて ラ バーハ
ン ド錯覚質 問 紙へ の回 答を 求めた。 質問紙はBotvinick
&Cohen
(1998 )で用い ら れ た英 文の質 問 紙 (項 目1〜
9)を 日本 語訳 し,
さ らに3
次 元 的なラバー
ハ ン ドで は な く画 像の 手を用い る本 実 験 の デザ イン に合うよ う に一
部を改 変し た。
こ の質 問 紙 は 実 験の 間,
自 分の感じ る接触が 本物の 腕と画 像の 5 腕の間の どこかか ら生 じ る と感じ る瞬 間が あっ た。 実 験の 間,
本 物の腕が画 像の腕に な っ た と感 じ る 6 瞬 間が あっ た。 実験の間,
画 像の腕が本 物の腕の ほ うに動かさ れ7
て い ると感 じ る瞬 間があっ たQ 実 験の間,
画 像の腕が本 物の腕の よ うに見え始め8
た瞬 間が あっ た。 実 験の間,
2っ 以 上の左 手を持 っ てい る とい う感 9 覚を持っ こ と があっ た。10
と き ど き 自分が画 像の腕を触っ て い ると感 じた。 例え ば 「ゴム の 手 が 私の 手で あるかの よ うに感 じた」の よ う な, ラバー
ハ ン ド錯 覚に伴っ て知 覚 さ れると考え ら れ るさ ま ざ ま な 主 観 的 状 態にっ いて,9
項 目にわ たっ て 記述 し た もの であ る。 な お本 研 究で はゴム 製の偽 物の手 で は な くデ ィス プレイ に提 示さ れた画 像の手 を用い るこ とか ら,
例え ば質 問 項目3
「ゴム の 手が 私の手で あるか のよ う に感じ た」を 「画 像の手が自 分の もの だ と感 じる 瞬 間があっ た」 と言い替え る等,
数 点の 改 変 を 行 っ た。 ま た,
本研究の参 加 者 同期条 件お よ び同 期 情 報 非 提 示 条 件に おい ては参加者が自ら触 刺 激 を 与え ることか ら,
新 た な質 問 項 目10 「と きど き自分が画 像の手を触っ
て い るよ うに感じ た 」 を追 加し た (Table
1> 。 参 加 者は これら の10
項 目にっ い て,
7件 法 (1:全くそ う思わな か っ た,
2:ほとん どそ う思 わな か っ た,3
:あ ま り そ う思わ な かっ た,
4
:ど ち らで も ない,
5:や や そ う思っ た,
6:か な り そ う 思っ た,
7:完全に そ う思っ た)で回 答を行っ た。 結 果 自 己 受 容 感 覚 ド リ フ ト 実 験者同期条件,
参 加 者 同 期 条 件,
同 期 情 報 非 提示 条 件の そ れ ぞ れにお ける臼 己受容 感覚 ド1丿フ ト 値を Fig−
ure3
に示す。実験 後の ほ う が右 側 (画 像の手と同 側 )に16
基 礎 心理学 研 究 第 30 巻 第 1号 3の 2e 10 言 ε 軽 O 。蠱
巴 昼」
ユ o 占 OExperirnen宝er PnrtiCipamt Nonv臨垂b顴e 下ouch
Condi毫io臼
Figure 3
.
Mean values of proprioceptive drift.
Error bars correspond
to
standard errors.
6 巴 584 の 焉 3
耋
2 1 12345678910 questionnaireFigure 4
.
Mean scores of lO items in Rubber
Hand
Il
]usion questionnaire.
Error
bars
cQrrespond to standard errors
.
定 位 さ れた場 合は プラ ス の値
,
左 側 (画 像の手と反 対 側 ) に定 位さ れ た場合はマ イナ ス の 値と して算 出 した。
自己受 容 感 覚 ド リフ ト の平 均 値に っ いて 1要 因 分 散 分 析 (実 験 者 同 期 条 件,
参 加 者 同 期 条 件,
同 期 情 報 非 提 示 条 件の 3水 準 )を行っ た ところ 実 験条件の主効果 が 有 意 とな り(F
(2,34
}=30,
90
,ρ〈.
Ol
),ライ ア ン 法による下 位 検 定の 結果,
同 期 情 報 非 提 示 条 件よ りも実 験 者 同 期 条 件と参 加 者 同 期 条 件が,
ま た参 加 者 同 期 条 件よりも実 験 者 同 期 条 件の ほ うが 有 意に大 きい値 を 示 した (いずれもp
く.
01)、 な お同 期 情 報 非 提 示 条 件にお け る 自 己受 容 感 覚 ドリフ ト値は 0 と有 意に異な ら な か っ た (t(17)=
1.
87,
n.
s.
)。 ラ バー
ハ ン ド錯覚質問 紙質 問 紙へ の回 答 値をFigure 4 に示 す。 実験条 件 (実 験 者 同 期 条 件
,
参加 者同期 条 件,
同 期 情 報 非 提 示 条 件 )×質 問 項 目 (項 目1〜10
)の2
要 因 分散分析を行っ た とこ ろ,
実 験 条 件の 主 効 果 (F
(2,34
)=
22.
58,
p
く.
01),
質 問 項 目の主 効 果 (F(9,
153);
28.
28,
p
〈.
01)お よ び交互作 用 (F
(18,306
>=15,
30,p
<.
Ol
)が有 意で あっ た。 実 験 者 同 期 条 件,
参 加 者 同 期 条 件において は質問 項 日の効果 が 見 ら れ (いず れ もp
く.
01
),
下 位 検 定の結 果,
実 験 者 同 期 条 件で は項 目1〜3
が共に項 目4〜
9よ り有 意に高 く,
ま た 項 目2,3
にっ いては 項 目10 よ り も有意 に高い値を示 し た。 参 加 者 同 期 条 件で は項 目1〜
3が共に項 目4〜
10 よ り有 意に高く,
さ らに項目2 は項目3
よ り も有 意に 高 い値を示し た。 質 問 項 目ご とに実 験 条 件 間の 比較を行っ
た とこ ろ,
質 問 項 目2 におい て は実 験 者 同期 条 件で参 加 者 同期 条件よ り も, ま た参 加者同期条 件で は同期条件 非 提 示 条 件より も有 意に高い値が得ら れ た φ<.
Ol>。 本 研 究に お い て新 し く付け加え た項 日10 は,
参 加 者 同 期 条 件に おい て他の2
条 件よ り も有意に高い値を示し た(p
〈.
Ol)。
考 察 本 研 究で は触 覚 刺 激に よ っ て 引き起こさ れる される ラ バーハ
ン ド錯 覚に と っ て,
他 者に よ る刺 激が必要条 件か 否か を検討し た。 3次 元 感 触イン ター
フェー
ス の ペ ン先 に よっ て参 加 者の左 手に触 刺 激 を 与え,
同 時に デ ィスプ レ イ上の画 像の左手に も視 覚 的に刺激 を与え た。
これら の同 期 し た視 触 覚 刺 激が実 験 者によっ
て与え ら れ る条 件,
参 加 者 自らに よ っ て与え ら れ る条 件および,
参 加 者 に よ る触 刺 激と同 期し た視覚刺 激が画 像E
には表示さ れ ない条 件の3
条 件におい て実 験 を 行っ た。 実 験 前 後に お け る左 于の位 置の定 位 は実 験 者 同 期 条 件,
参 加 者 同 期 条 件において 画 像の 手の方 向にず れて錯 覚され,
また実 験 者 同 期 条 件で は参 加 者 同 期 条 件より も 錯 覚 量 が 大 き か っ た。 同 期 情 報非提 示 条件で はこ の よ う な錯 覚は見ら れ な か っ た。 っ まり実 験 者 同期 条 件,
参 加 者同期 条 件で はラ バー
ハ ン ド錯 覚が生 起し,
また参 加 者 同 期 条 件におい て は錯 覚 量が弱まっ て いた と考.
え ら れ る。
ラバー
ハ ン ド錯 覚 質 問 紙で は質 問 項 目 1〜
3 におい て実 験 条件の効果が大き く見られ,
錯 覚が起 こっ て い た と考え ら れ る実 験 者 同 期 条件,
参加 者同期 条 件で は有意 に高い値 を示 した。
こ の 傾 向は 先 行 研 究 と.
致 する(Botvinick &
Cohen ,1998
:IJsselsteijn
et a].
,2006
;Kammers
,
de Vignemont,
Verhagen,
& Dijkerman,
2009 ;Peled
,
Ritsner,
Hirschmann,
Geva,
& Modai ,2000
;Tsakiris
et al.
,
2006
) 。 ま た質 問項 目2
で は実験 者 同 期 条 件におい て参 加 者 同 期 条 件よ り も高い評 定 値が 見ら れ, こ れ は実 験 者 同 期 条 件に お け る錯 覚 量 がよ り大 き かっ た こ とを 示 唆 して い る。
これ らの結 果か ら,
他 者によ る触刺激は錯覚の 生 起に と っ て必 要 条 件で は な い こと が示され た。 ラバー
ハ ン ド 錯覚は,
実際に 自分の手が触ら れて い る触覚 情報と, 目 の前の偽 物の手が触 ら れて い る視 覚 情 報が統 合さ れ るこ とに よっ
て生 じ る。 触ら れ ている自分の手に は触覚情報のみ が
,
ま た偽 物の手に は視覚 情報の みが与え ら れる の で,
これ らの情 報を 1つ の事 象と解 釈する ことに よ っ て 「偽 物の手が自分の手である」 とい う知 覚が得ら れ る。
ま たこの時に各 種感覚 情報の 整合 性を保っ ため に は,
自己 受 容 感 覚か ら得 ら れ る左手の位.
置 情 報を本 来よ り偽 物の 手に近い位 置へ 歪め る必 要が あ 翫,
本 研 究に お ける参 加 者同期 条件で は,
参 加者 自らが 自分の左手を触っ て い る 状 況 ドで 画 像の手が触ら れて い る様 子を観 察し た。 こ の と き,
左手が受ける触 刺 激は自 分の右 手に よっ て与え ら れ てい る こ と が自明だが,
その右于が左手を触っ ている 場所は画像の手とは明 らか に異 なっ て い る。 「画像の手 が 自分の手で ある」とい う 知覚が成立 する ために は,
触 ら れ て い る左 手の位 置 情 報だ けで な く触 刺 激を与え て い る右 手の位置情 報まで も錯 覚さ れて い た可能 性があ る。
Tsakiris et al.
(2006 )やDummer
et aL (2009 )に よ れ ば,
実 験 参 加 者 が 自分の手を運 動さ せる の と同 時に偽 物 の手が動い た場 合, ラバー
ハ ン ド錯 覚が生 じ た。 こ の結 果は自らの 運 動 情 報お よ び そ れ と同期し た視覚 情 報に よ っ て,
当 該の身 体 部 位の位 置に関 する 自己 受 容 感 覚が 変 容す ること を示 唆して い る。
本研究で は自らに よっ て 右 手に も た ら さ れる運 動 感 覚と,
画 像の手に与え ら れる 視 覚 刺 激 (ポ イ ン タ)の運動 情 報が統 合される ことに よ り,
右 手の位 置 も 画 像の方 向に歪ん で知 覚されていた か も し れ ない。 ラバー
ハ ン ド錯 覚質 問紙の 項目の う ち,
本 研 究で 新たに付け加え ら れ た質 問 項 目 10 「と き どき 自 分が画 像の腕 を 触っ て い ると感 じた 」 が 参 加 者 同 期 条 件 に おい て他の2
条 件よ り も有 意に高い値を示 して い た こ と は,
こ の解 釈を裏づ け る もの と考え ら れる。 参 加 者 同 期 条 件で も錯 覚が生 じ た もの の,
そ の大き さ は実 験者 同期 条件に比べ て有意に小さ かっ た。 こ の琿由 と して は以 ドの複 数の要 因が考え ら れる。
まず 自らの運 動に よ っ て与え ら れ る触刺激の知 覚 強 度は他 者か ら与え ら れ る もの と 比較して弱いた め (Blakemore
et al.
,
2000
),
そ もそ も参 加 者 同 期 条 件に お い て左 手に知 覚さ れ た触刺 激の強 度が実 験者同期 条件にお け る もの よ り も弱 く,
こ れに伴っ
て錯 覚が減 弱 した可 能 性が ある。
Weiskrantz eta1.
(1971
〕に よ れば,
触 刺激 を 抑 制 する働き は厳密に は自らの 運動に伴う 運動指令によっ ての みならず 運 動 す る身体部位そ の もの か ら得 られ る知 覚 フ ィー
ドバ ッ ク に よ っ て も もたらされる。
彼 らの実 験で は,
参 加 者の運 動 が能 動 的か 受 動 的 か (参 加 者 が 自 らの意 思で腕 を動か す か,
実 験 者によっ
て 腕を動か さ れて い るか)に よ っ て,
触 刺 激の抑 制 量は異なっ て い た。
本 研 究の パ ラ ダ イム で は参加者の 運 動の 能 動 性の 有 無に よっ
て ラバー
ハ ン ド錯 覚の大 きさ が異な る か否 か を 調べ るこ とで,
運 動によ る 触刺 激の抑制と錯 覚の減少との関 連を直接 検 討す ること がで き,
今 後の 課題 で あ る。 ま た,
Kammers et al.
(2009
)は実 験 参 加 者の身 体 部 位の運 動に よっ て ラバー
ハ ン ド錯 覚 が抑制 さ れ るこ と を報告 してい るn 通常の ラ バー
ハ ン ド錯 覚パ ラダイム に従っ
て参 加 者の手に錯 覚を 生じさ せ た後,
両 于を見え な い状 態に し た うえで,
錯 覚 の生 じて いる手を反対の手の方 向へ 向か っ て数回弾 道 運 動さ せ る と,
錯 覚が減 弱 し たc, これ は運 動によ っ て得ら れ る自己受 容 感 覚が定 位の歪み を補正 する ため と考え ら れ る。
本 研 究の参 加 者 同 期 条 件でも,
参 加 者が自 ら触 刺 激を与え る際に運動を行っ て いた ため,
同様の 効 果が得 られ た可能 性が ある。 な お本 研 究で参 加 者が 運動さ せ た 手は錯 覚を生 じさ せ る左 手とは反 対の右 手で あっ た た め,
Kammers et al.
(2009 }の結 果と直 接 比 較する こ と は難しいが, 左手に与え ら れ る触 刺 激と同 期して 常に運 動が存 在して いたこ と,
また右 手で持っ たペ ン が 左手そ の もの に刺 激 を 与え てい た こと な どか ら,
右 手の運 動 情 報が左手 位置の定位に用い ら れ や すい状況にあo た と考 え られる。
本研究で は,
触 覚 刺 激によっ て 引き起こさ れ るラ バー
ハ ン ド錯 覚に とっ て他 者 刺 激は 必要 条 件で ない こ と が示 唆され た。 参加 者が自分の手に自分で触 刺 激を与え な が ら1
司時に触 られてい る偽 物の手を 観 察し た ところ,
ラ バー
ハ ン ド錯覚 が 生 じ た。 し か しこ の錯 覚は他者 か らの 刺 激によっ
て得ら れる ものより も弱い錯 覚で あり,
錯 覚 が 減 弱 するメ カ ニ ズム にっ い て は今後の 検 討が 望 ま れ る。 他 者によ る触 刺 激と自らによる触 刺 激の 質 的差異は 触 知 覚 研 究の古 典 的なテー
マ の 1っ で あるが (Claxton,
1975;Weiskrantz et aL,
1971),
これ まで ラ バー
ハ ン ド 錯 覚や類似の身体 錯覚との関 連にっ い て は議 論さ れて こ なか っ た。
身 体 表 象に深く関わ る触 覚,
円己受 容 感 覚 等 に関す る基礎的な 知 見 を, よ り積 極 的に感 覚 統 合 過 程お よ び そ れに立 脚 し た身 体 保 持 感 覚の解 明に活か して い く こ と が重要だ ろ う。 引 用 文 献Armel ,
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