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健常男性の下腿前面への触刺激が心身に及ぼす影響 ―軽擦速度との関連―

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Academic year: 2021

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(1)心身健康科学. 17 巻 1 号 1〜12(2021 年). 原著論文. 健常男性の下腿前面への触刺激が心身に及ぼす影響 軽擦速度との関連 二神. 弘子 1)2). 藤原. 宏子 3)4). 吉田. 浩子 3). [要 約] 健常男性 14 名を対象に 2 つの実験を行い,下腿前面への軽擦が心身に及ぼす 影響を軽擦速度との関連で検討した.単軽擦実験では,異なる速度条件(0.3,3,30cm/s) で下腿前面に 1 回の軽擦を行った.軽擦直後の快不快評価を条件間で比較したところ,求 心性触覚 C 線維の活性化に最適速度範囲にある 3cm/s が最も快と評価された.繰返し軽 擦実験では,マッサージを模して下腿前面を 20 分間軽擦し,2 条件(0.6,3cm/s)で比 較した.気分評価を軽擦前後で比較したところ,両条件ともに「緊張−不安」が有意に減 少した.心拍数も,両条件ともに刺激開始後に有意に減少したが,条件間に違いはみられ なかった.一方,3cm/s においてのみ,快と評価されるほど心拍数の減少が大きくなった. 以上のことから,下腿前面への軽擦による快評価と心拍数減少との相関に軽擦速度が関連 することが示唆され,求心性触覚 C 線維が関わっている可能性が議論された. 〔キーワード:心身健康科学,軽擦速度,リラクセーション,快不快,心拍数〕. Ⅰ.緒. あり,おもに麻酔動物を用いた基礎的研究で詳細に分析. 言. されてきた 10, 14, 15).以上のようにマッサージの心理面,. 施術者の手でからだに刺激を与えるマッサージは,健. 身体面に及ぼす効果の機序は概略としては明らかにされ. 康の維持,増進を目的として医療,保健,その他の分野. ているものの,実際のマッサージでは,心理的・身体的. 1). において広く応用されている .マッサージの効果につ. 効果が相互に影響していると考えられる.心理面や身体. いて,心理面では,快(心地よさ)が増大し,不安が減. 面の効果について独立した研究ではなく,心身相関の観. 少する. 2-4). と報告されている.また,身体面の心臓・血. 管系への影響では,心拍数や血圧が減少する. 2, 4-8). と報. 点から両者の関係について神経科学的機序の研究を進め ていく必要がある.. 告されている.不安感・緊張感などのネガティブな感情. 近年,皮膚触刺激と感情の関係について,体性求心性. の軽減や,心拍数・血圧の減少という「リラクセーショ. 神経である触覚 C 線維の重要性を示す研究が発展して. 9). がマッサージによって誘起される機序は,皮. きている 16).Löken ら 17)は,前腕部をブラシでなでた. 膚や筋・関節などに対して与えられた体性感覚刺激が体. ときの快不快評価とともに,マイクロニューログラフィ. 性求心性神経を介して中枢神経系に伝えられて, 1) 感覚,. を用いて前腕部神経線維の発火頻度を記録し,両者の関. 感情として意識されること,2)自律神経系や内分泌系を. 係を調べた.その結果,1)主観的な快不快評価は,軽擦. 介して心臓・血管系の反応を起こすこと,と理解され. 速度 1-10cm/s のときにもっとも高く(快と)なり,1cm/s. る 10, 11).心臓・血管系の反応は,感情に伴って起こる場. 未満,または 10cm/s より速い場合では低くなること,. 合のほかに,反射性に誘発される場合があることが知ら. 2)C 線 維(無 髄 線 維)の 平 均 発 火 頻 度 は,速 度 が. ン反応」. 11-13). .このような体性−自律神経反射や体性. 1-10cm/s のときに高くなり,1cm/s 未満,10cm/s 以上. −内分泌反射は,マッサージの効果の基礎となる機序で. では低くなる逆 U 字型を示し,快不快評価の結果と類. れている. 似すること,3)これに対して A β 線維(有髄線維)の平 1). 人間総合科学大学大学院 人間総合科学研究科 帝京科学大学 医療科学部 3) 人間総合科学大学大学院 2). 4). 人間総合科学 心身健康科学研究所 受理日:2020 年 2 月 19 日. 均発火頻度は,速度とともに単調に増加すること,が見 出された.これらの発見は,ブラシを用いた擦りによる 快の誘起には,触覚を伝える無髄の C 線維が関与してい ることを示している.触覚を伝える C 線維の受容部は (1)1.

(2) 心身健康科学. 毛根にあると考えられており 18),特に上肢および下肢 の有毛部に存在する. 19-23). .有毛部への触刺激において,. 触覚 C 線維のみを選択的に刺激することは不可能であ. りの実験を行った.どちらも仮説として,1-10cm/s の 軽擦が心身に与える効果はほかの速度と異なるとした. 単 軽 擦 実験 で は,前 腕 に 対 し て行 われ て き た先 行 研. .しかし,軽擦速度に注目した研究のように,触覚. 究 16, 17, 26)と比較するために,一回の軽擦に対する快不. C 線維と A β 線維が刺激速度に対して異なる反応特性を. 快評価を調べ,軽擦速度条件による違いを検討した.繰. 持つことを利用した実験を行うことは,マッサージ効果. 返し軽擦実験では,実際のマッサージにより近づけるこ. の機序の解明につながる可能性がある.Löken ら 17)の. とを意図し,軽擦を繰返し行った場合の心身への影響を. 研究の触刺激条件は,機械で制御されたブラシで前腕の. 調べた.心理的指標として,軽擦速度との関係で多くの. 皮膚を 1 回なでる,というもので,施術者の手指で繰り. 研究で調べられてきた快に加え,リラクセーション反応. 返し刺激を行うマッサージとは異なるが,このような基. の指標として重要な「緊張−不安」にも注目することに. 礎研究は,マッサージ効果の神経科学的機序を解明する. した.. る. 16). 17 巻 1 号(2021 年). 切り口になると考える. また,マッサージでは,施術者の手指による複数の動. Ⅱ.方. 法. 作(おし,もみ,さすり,たたき,振るわせ,引っ張る)1). A.対象者. を組み合わせて使用するために,動作の組み合わせやそ. 実験は 2019 年 3 月に A 大学内で実施した.対象者は. れぞれの動作の強弱の条件によって,心や身体の反応,. 健常な男性大学生 14 名で,年齢は平均 21.2 歳(20-22 歳). または反応を引き起こす機序が異なる可能性がある.東. であった.実験前日は,飲酒と激しい運動を避けて睡眠. 洋医学におけるマッサージにあたる按摩(あんま)にお. を十分にとること,実験当日は,喫煙をしないことを指. いても, 「抑按調摩」といわれるように, 「按」は「おさ. 示した.また,食事は実験開始時刻の 1 時間前までに摂. える」動作で抑制的な効果があり, 「摩」は「さする」動. ることとしたが,糖分とカフェインのない飲料は制限し. 作で調整する効果があるとされている 1, 24).マッサージ. なかった.参加条件として,1)60 分間程度の半座位保. による心身の反応に関する機序の理解のためには,それ. 持が可能であること,2)ベビーパウダーや軽擦刺激に対. ぞれの動作の特徴を把握することが必要である.. する皮膚アレルギーがないこと,3)他者の手が皮膚に直. 以上のことより,本研究はマッサージにおける動作の. 接触れる行為が可能であること,4)右利き(文字を書く. うち「さする」動作に注目し,下腿前面への軽擦による. のが右手)であること,の 4 点について事前に確認を行. 心身への影響を明らかにし,軽擦速度との関連を心身相. い,すべての条件を満たした場合に対象者として依頼し. 関の観点から検討することを目的とした.軽擦部位を下. た.実験当日に,発熱その他の急性症状や,体調不良,. 腿前面にした理由は,軽擦速度の影響を検討した研究の. 安静時に不整脈がみられた者は対象から除外した.. ほとんどは上肢を対象にしたもので,他の身体部位にお. 本研究は, 人間総合科学大学倫理審査委員会の承認(第. ける軽擦速度の影響を検討する必要があるためである.. 589 号) ,および帝京科学大学人を対象とする研究に関す. 下肢に対するマッサージにより,心理面では「緊張−不. る倫理審査委員会の承認(第 18101 号)のもとに行った.. 安」気分の低減と,快,およびリラックス感の増大,身. B.実験の概略. 体面では心拍数や平均血圧の減少,というリラクセーシ. 本研究は「繰返し軽擦」実験を行ったのちに「単軽擦」. ョン反応を示す先行研究がある. 25). .また,下腿を対象. 実験を行った.. に軽擦速度の影響を検討した研究はこれまでに 1 つあ. 1.繰返し軽擦実験は,下腿前面の軽擦を 20 分間繰返. り,下腿においても 1-10cm/s の軽擦が,他の速度に比. して行い,すべての対象者に対して 2 つの軽擦速度条件. べて快の誘起に有効である 23).従って,軽擦速度の影. で実施した(図 1).軽擦速度は,① 3cm/s,② 0.6cm/s. 響を心身相関の観点から検討するにあたり,下腿が適切. の 2 条件とした.2 条件の実施日は別日とし,刺激の馴. であると考えた.これらのことから,本研究では,二通. 化を避けるために試行間間隔を 1 日以上空け,さらに実. 図1 2(2). 実験手順.

(3) 心身健康科学 表1. 対象者ごとの実験条件. 17 巻 1 号(2021 年) 表2. 単軽擦実験における刺激の提示順. 験として 20 分間の軽擦を行った.5 分間の後安静の後 に,二回目の POMS 2,および繰返し軽擦に対する快不 快の評価を Self-assessment manikin(以降,SAM)29)を 用いて実施した.心拍,および血圧測定装置を除去した 後,単軽擦実験を行った.単軽擦実験では,毎回の軽擦 について,快不快の評価を Visual Analogue Scale(以降, 験条件の実施順は,カウンターバランスによってランダ ムに割り付けた(表 1) .. VAS)を用いて行い,実験を終了した. C.軽擦方法. 繰返し軽擦実験終了後,各対象者に対して単軽擦実験 を行った(図 1,表 1) .. 軽擦は実験者とは別の施術者 3 名が行った.ただし, 実験は速度条件を変えて別日に 2 回行ったが,一人の対. 2.単軽擦実験の軽擦速度は Triscoli ら. 26). の実験に. 象者に対して同一の施術者が軽擦を行った.施術者は,. 準じて,① 0.3cm/s,② 3cm/s,③ 30cm/s の 3 条件とし. 実験前日までに,対象者以外を対象にして圧と速度につ. た.対象者ごとに刺激速度の順序・組み合わせを変えた. いて同一になるように練習を行った.圧については,デ. (表 1,2) .下腿前面に対して 1 回の軽擦を行った直後. ジタル台秤を使用して 0.2-0.4N の圧を確認し,速度につ. に,その速度条件に対する快不快の評価を得た.約 3 分. いては,タイマーを確認しながら擦る練習を行った.実. の実験の間に 3 条件を行い,条件間の比較を行った.. 験当日の実験開始前にも,対象者以外を対象にして,圧. すべての実験において,実験室は室温を 26℃に設定. と速度を確認した.対象者と施術者との関係性が結果に. し,直射日光を遮断して,光が直接目にはいらないよう. 影響を与えないように,実験中は対象者と施術者の間は. に調節した.実験中の肢位は半座位として,対象者は背. カーテンによって視覚的に遮断した.また,施術者は言. もたれのついた椅子に着席し,両足を台に載せた.対象. 葉を発さないことで,情報を与えないようにした.軽擦. 者の着衣は,膝までの長さのゆったりとしたストレッチ. の範囲は,腓骨頭から 5cm 下方をマークして上端とし,. 素材のパンツで,実験中は下肢全体をバスタオルで覆っ. さらに下方に 15cm の距離をマークして下端とし,前脛. た.軽擦刺激時は,軽擦を行う部位のバスタオルをずら. 骨筋部を中心とした 2 点間の 15cm の距離とした(図. して下腿を露出した.上着の着衣は自由としたが,寒い. 2).軽擦部位のデルマトームは L 5,S 1 が中心であり,. と感じる場合は適宜タオルをかけて体感温度の調整を. Macefield ら 23) の軽擦範囲のデルマトームとほぼ同様. 行った.. と考えられる.滑剤として,軽擦範囲にベビーパウダー. 実験手順は,フェイスシートと本日の健康状態につい. (無香料,WAKODO)を塗布した.. て回答した後に,心拍,および血圧測定装置を装着して. 繰返し軽擦実験では,マーク間の 15cm の距離を末梢. 連続測定を開始した.心拍および血圧が安定しているこ. から始めて中枢,そして末梢に戻る往復の 30cm の距離. とを確認した後に,10 分間の前安静を行った.次に,一. で軽擦を行った.軽擦条件は,① 3cm/s,② 0.6cm/s の. 回目の気分評価を Profile of Mood States 2nd Edition 短. 2 条件とした.1 分間の軽擦方法の単位を 5 回繰り返し,. 27, 28). を用いて実施した. 合計 5 分間を 1 セットとして,片側の足に行った.1 分. (図 1) .気分評価の実施後は 3 分間以上安静にして,心. 間の軽擦方法(図 3)は,3cm/s 条件では,1 往復を 10. 拍,血圧が安定したことを確認した後に,繰返し軽擦実. 秒間かけて行い,これを連続で 5 回,合計で 50 秒間刺激. 縮版,日本語版(以降,POMS 2). (3)3.

(4) 心身健康科学. 17 巻 1 号(2021 年). ついて,対象者が直線上に直接マークを書き入れて評価 した.両端から等距離を中心として,マークされた位置 から中心までの距離を計測して素点とし,直線の左端を − 10 点,中心を 0 点,右端を+ 10 点として, 得点化した. 2.繰り返し軽擦実験 1)気分および快不快の評価 POMS 2 による気分評価:繰返し軽擦の前と後の 2 回 評価を行った.本実験では,対象者の負担を軽減するた めに短縮版を用いて, 「今の気分」 について回答を求めた. 本調査票は対象者の感情や気分の状態として, 「緊張− 不安(TA) 」, 「抑うつ−落ち込み(DD)」, 「怒り−敵意 図2. 下腿前面の軽擦範囲(a. 単軽擦実験 実験). b. 繰返し軽擦. (AH) 」, 「活気−活力(VA)」 , 「疲労−無気力(FI)」, 「混 乱−当惑(CB)」 , 「友好(F)」 (以後, ()の英語の頭文 字を略す)に分けた 7 つの気分尺度で構成されている. 短縮版では,気分の状態を評価する 35 項目の質問につ いて, 「まったくなかった」 (0 点)から「非常に多くあっ た」 (4 点)の 5 段階で回答を求めて,合計を素点とし た 27).それぞれの項目の点数に対し,年齢や性別の影 響をなくすために定められた変換表 28)を用いて標準化 し,T 得点とした.総合的気分状態(TMD)得点は, 「友. 図3. 繰返し軽擦実験における 1 分間の軽擦方法. 好」を除いた 6 つの尺度のうち, 「活気−活力」以外の 5 尺度の得点の合計から, 「活気−活力」の得点を減じた値 とした.. して,10 秒間休息した.0.6cm/s 条件では,1 往復を 50. SAM による快不快の評価:20 分間の繰返し軽擦に対. 秒間かけて行い,10 秒間休息した.軽擦は左足から開始. する快不快評価を行った.軽擦終了後安静の後に,「先. して,右足,左足,右足,と 5 分間ずつ交互に全部で 4. ほどの 20 分間の軽擦を思い出して,どのように感じた. セット,合計 20 分間繰返して行った.. かを評価して下さい」と質問をした.調査用紙には,し. 26). の実験方法に準じて,部. かめ面から笑顔までの 5 段階のマネキンの絵が描かれて. 位を前腕から下腿前面,刺激の発生源をブラシから施術. おり,左端がしかめ面で不快を表し,右端が笑顔で快を. 者の手に変更して行った.マーク間の 15cm の距離を中. 表す.対象者は 5 段階のマネキンの図と,図と図の間の. 枢から末梢に向かって 1 回擦った.軽擦速度条件は,①. 4 つのスペースを加えた 9 段階で,評価にもっとも近い. 0.3cm/s,② 3cm/s,③ 30cm/s の 3 条件とした.始めに. 場所に印をつけた.快でも不快でもない場合は,中央に. 見本として,左足に対して 3 種類の速度を提示して,. 印をつけるように予め説明を行った 29).. 単軽擦実験は,Triscoli ら. VAS 用紙への記載方法もあわせて説明した.次に本実. 2)心臓血管反応の評価. 験として,右足から開始して,左右の足に交互に 1 回ず. 心電図は胸部に電極を貼付しⅡ誘導で導出した(メモ. つ軽擦を行った.速度条件の異なる 3 種類の軽擦をラン. リー心拍計 LRR-03,株式会社 GMS).血圧は,非観血的. ダムに各 3 回,合計で 9 回提示した.刺激の提示順は 8. 連続血圧測定装置 CNAP MONITOR500(CNSYSTEMS. 通り準備して(表 2) ,対象者ごとに偏りのないようにし. 社)を用いて測定した.左手の上腕部にカフを,第 2 指. た.ひとりの対象者について別日に 2 セット実施し,刺. と第 3 指にフィンガーセンサーを取り付けて,橈骨動脈. 激の提示順は 2 回とも同じにならないように配慮した. から容積脈波法 30)により記録した.記録された心電図 と 連 続 血 圧 デ ー タ を デ ジ タ ル 信 号 に 変 換 し,. (表 1) . D.測定項目と使用機器. MemCalc/Tonam2C(株式会社 GMS)を用いて解析し. 1.単軽擦実験. た.心電図 R-R 間隔から心拍数を算出し,心電図 R-R. Triscoli ら. 26). の方法に準じて,単軽擦の一回ごとに,. 間隔変動の周波数解析を行った.副交感神経活動を反映. VAS による快不快の評価を求めた.調査用紙には 10cm. する指標である 0.15Hz〜0.40Hz の帯域を高周波成分. の直線が引いてあり,左端に不快(− 10) ,右端に快(+. (High Frequency component;HF)として算出し,自律. 10)と付された.毎回の軽擦に対する快不快の度合いに. 神経活動の分析を試みた.また,血圧については収縮期. 4(4).

(5) 心身健康科学. 血圧と拡張期血圧を算出した.. 17 巻 1 号(2021 年). 分,後安静)で相関係数の有意性検定を繰り返すことに. 心拍,血圧の解析は,①前安静,②軽擦 5 分:左足 1 回. よる第一種の過誤を防ぐために,ボンフェローニの補正. 目,③軽擦 10 分:右足 1 回目,④軽擦 15 分:左足 2 回. を行った.このため,相関係数の検定における有意水準. 目,⑤軽擦 20 分:右足 2 回目,⑥後安静,の 6 区間につ. は 0.01(= 0.05/5)とした.さらに,5 区間(繰返し軽擦. いて行った.前安静の解析区間は,10 分間の安静の最後. の 5 分,10 分,15 分,20 分,後安静)のそれぞれにおい. の 4 分 30 秒間とした.②から⑤の軽擦中の 4 区間,お. て,3cm/s 条件の相関係数と 0.6cm/s 条件の相関係数の. よび後安静区間は,それぞれのイベント開始 6 秒後から. 差の検定を行った(ボンフェローニの補正により有意水. の 4 分 30 秒間とした.4 つのパラメータ(心拍数,HF. 準は 0.01)31).. 値,収縮期血圧,拡張期血圧)について,各区間の平均 値を求めた.. Ⅲ.結. 果. E.統計学的検討. A.単軽擦実験. データは平均値±標準誤差で示した.統計ソフトは. 各速度の軽擦に対する快不快評価の平均得点(n = 14. Bell Curve for Excel(株式会社 社会情報サービス ver.. 名)は,0.3cm/s 条件で− 3.41 ± 0.73,3cm/s 条件で. 3.20)を用い,有意水準を 5%とした.ただし,例外につ. − 0.05 ± 0.56,30cm/s 条件で− 3.52 ± 0.84 となった. いては,以下の該当箇所に記載した.. (図 4).フリードマン検定で 3 条件を比較したところ有. 1.単軽擦実験. 意な違いがみとめられた(p = 0.004)ため,シェッフェ. VAS による快不快評価では.各対象者あたり単軽擦. の多重比較検定を行ったところ,3cm/s 条件での軽擦. 実験を 2 回行った.このため,各速度の軽擦に対する快. は,0.3cm/s 条件,30cm/s 条件の軽擦と比較して快不快. 不快得点として,2 回の実験の平均値を対象者ごとに求. 得点が有意に高かった(p < 0.05)が,0.3cm/s 条件と. めた.速度の異なる 3 条件で比較するために,フリード. 30cm/s 条件の軽擦の間に有意な違いはみられなかった.. マン(Friedman)検定を行った.条件間の多重比較検定. B.繰返し軽擦実験. にはシェッフェ(Scheffe)法を用いた.. 1.心理的指標. 2.繰返し軽擦実験 POMS 2 による気分評価では,総合的気分状態および. POMS 2 短縮版による気分評価(図 5)は,総合的気分 状態および下位 7 尺度のそれぞれにつき,1)軽擦前の速. 下位 7 尺度のそれぞれにつき,1)軽擦前の速度条件間の. 度条件間の比較,2)3cm/s 条件の軽擦前後の比較,3). 比較,2)3cm/s 条件の軽擦前後の比較,3)0.6cm/s 条件. 0.6cm/s 条件の軽擦前後の比較を行った.軽擦前の速度. の軽擦前後の比較を,ウィルコクソン(Wilcoxon)符号. 条件間の比較では,どの尺度においても有意な差は認め. 付き順位検定を用いて行った.1)から 3)の検定を行う. られなかった.軽擦前後の比較では, 「緊張−不安」が両. ことによる第一種の過誤を防ぐために,ボンフェローニ. 条件に共通して減少し,3cm/s 条件では軽擦前が 42.50. (Bonferroni)の補正を行った.このため,POMS 2 の解. ± 2.59,軽擦後が 38.86 ± 8.17(p = 0.007,有意水準はボ. 析における有意水準は 0.017(= 0.05/3)とした.SAM. ンフェローニの補正値である 0.017),0.6cm/s 条件では. による快不快評価では,速度条件間の比較を,ウィルコ. 軽擦前が 44.50 ± 2.90,軽擦後が 39.43 ± 2.34(p = 0.003). クソン符号付き順位検定を用いて行った.. であった.「混乱−当惑」は 0.6cm/s 条件のみに減少が. HF はパラメトリック検定を行うために平方根を用い た.心拍数と  HF ,収縮期血圧,拡張期血圧の測定値に ついては「速度条件」 (2 水準:3cm/s,0.6cm/s)と「軽 擦時間」 (6 水準:前安静,軽擦 5 分,軽擦 10 分,軽擦 15 分,軽擦 20 分,後安静)を要因とする反復測定二元配置 分散分析(2 要因ともに対象者内要因)を SPSS(ver.19) により行った.軽擦時間の多重比較検定にはボンフェロー ニ法を用いた. 対象者ごとに,軽擦前安静区間の平均心拍数を基準と して各軽擦区間の平均心拍数の増減値(Δ心拍数)を算 出し,心理指標(「快不快評価」および「緊張−不安得点 の 増 減」)と の 関 連 を 検 討 す る た め に,ス ピ ア マ ン (Spearman)の順位相関係数を求めた.各速度条件につ いて,5 区間(軽擦 5 分,軽擦 10 分,軽擦 15 分,軽擦 20. 図4. 単軽擦実験による軽擦速度と快不快評価の関係. n = 14,平均±標準誤差,フリードマン検定,多重比較検定 (シェッフェ法) * p < 0.05,n.s.(not significant). (5)5.

(6) 心身健康科学. 図5. 17 巻 1 号(2021 年). 繰返し軽擦前後の気分の比較. n = 14,平均±標準誤差,ウィルコクソン符号付き順位検定,*p < 0.017(ボンフェローニの補正). して軽擦中および後安静では減少を維持することがわか った.平均値をみると,軽擦中のすべてのポイントと比 較して後安静の値が高かった(図 7) .統計学的に有意な 差がみられたのは 3cm/s 条件で,軽擦 10 分(p = 0.048) , 軽擦 20 分(p = 0.008)と比較して,後安静が有意に高値 となった(図 7)..  HF は,軽擦時間の効果がみられた(F(5,65)= 2.67, p = 0.029) .一方,速度条件間に差はみられず(F(1,13) 図6. 繰返し軽擦実験における速度ごとの快不快評価. n = 14,平均±標準誤差,ウィルコクソン符号付き順位検定, n.s.(not significant). = 0.88,p = 0.367),2 要因の間に交互作用もみられなか った(F(5,65)= 0.233,p = 0.947).軽擦時間の効果が みられたので,多重比較を行った結果,前安静と比較し て軽擦 20 分において,3cm/s 条件では有意な増加が(p. みられ,軽擦前が 47.71 ± 2.49,軽擦後が 44.43 ± 2.18(p. = 0.005),0.6cm/s 条件では増加傾向(p = 0.063)が認. = 0.011)であった.そのほかの軽擦前後比較では有意. められた(図 8).. な差は認められなかった. 軽擦後の快不快評価は,3cm/s 条件で 6.20 ± 0.44, 0.6cm/s条件で 5.93 ± 0.53 であった(図 6) .ウィルコク. 2)血圧 , 収縮期血圧は,速度条件(F(1,13)= 0.165,p =0.691) 軽擦時間の効果はみられず(F(2.6,33.9)= 0.953,p =. ソン符号付き順位検定で比較を行ったところ,条件間に. 0.416),2 要因間の交互作用もみられなかった(F(2.7,. 違いはなかった(p = 0.333) .快不快得点が「緊張−不. 35. 1) = 1. 666,p = 0. 196),拡 張 期 血 圧 は,速 度 条 件. 安」得点の変化と関連しているかをスピアマンの順位符. (F(1,13)= 0.012,p = 0.914),軽擦時間の効果はみら. 号検定により検討したところ,3cm/s 条件と 0.6cm/s 条. れず(F(2.9,37.9)= 1.789,p = 0.167),2 要因間の交互. 件のどちらにおいても,2 つの心理指標の間に有意な相 関関係はみられなかった. 2.生理的指標 1)心拍数. 作用もみられなかった(F(3.3,42.4)= 1.182,p = 0.330) (図 9). 3.心拍数の増減と心理指標得点との相関 前述のように,繰返し軽擦後に行った SAM による快. 心拍数は,反復測定二元配置分散分析の結果,軽擦時. 不快評価,および心拍数の推移については速度条件間で. 間の効果がみられた(F(2.7,35.2)= 9.46,p < 0.01).. 違いはみられなかった.しかし,快不快評価と心拍数の. 一方,速度条件間に差はみられず(F(1,13)= 0.02,p. 増減値との相関を求めたところ,条件間で違いがみられ. = 0. 893) ,2 要 因 の 間 に 交 互 作 用 も み ら れ な か っ た. た.対象者ごとに,軽擦前安静区間の平均心拍数を基準. (F(5,65)= 0.21,p = 0.958) .軽擦時間の効果がみら. とした軽擦 20 分区間の平均心拍数の増減値をみると,. れたので,多重比較を行った結果,両速度条件ともに,. 3cm/s 条件では,快不快得点が高かった人ほど心拍数が. 前安静と比較して,軽擦 5 分,軽擦 10 分,軽擦 15 分,. 減少する負の相関がみられた(r s=− 0.857,p < 0.001,. 軽擦 20 分,後安静の各区間で有意に減少した(p <0.01).. 有意水準はボンフェローニの補正値である 0.01).他方,. 速度条件に関わらず,軽擦開始後に心拍数が有意に減少. 0.6cm/s 条件ではこのような有意な相関関係はみられな. 6(6).

(7) 心身健康科学. 図7. 図8. 図9. 17 巻 1 号(2021 年). 繰返し軽擦による心拍数の推移. n = 14,平均±標準誤差,反復測定二元配置分散分析,多重比較検定(ボンフェローニ法), † p < 0.10,*p < 0.05,**p < 0.01. 繰返し軽擦による  HF の推移. n = 14,平均±標準誤差,反復測定二元配置分散分析,多重比較検定(ボンフェローニ法), † p < 0.10,*p < 0.05,**p < 0.01. 繰返し軽擦による血圧の推移. n = 14,平均±標準誤差,反復測定二元配置分散分析. かった(図 10) .そこで,全ての区間について(繰返し軽. 関を求めた(表 3) .3cm/s 条件では,軽擦 15 分(p =. 擦の 5 分,10 分,15 分,20 分,後安静),軽擦前安静を. 0.011)を除くすべての区間で有意な負の相関がみられた. 基準として心拍数の増減値を算出し,快不快得点との相. が(軽擦 5 分 p = 0.007,軽擦 10 分 p = 0.001,後安静 p = (7)7.

(8) 心身健康科学. 図 10. 17 巻 1 号(2021 年). 「軽擦 20 分」区間のΔ心拍数と快不快評価の相関. n = 14,スピアマンの相関,*p < 0.01(ボンフェローニの補正) 図の左が 3cm/s 条件,右が 0.6cm/s 条件の結果を示し,それぞれ,縦軸は軽擦前安静を基準とし た軽擦 20 分の心拍数の増減値(Δ心拍数),横軸は快不快得点を表している.. 表3. 軽擦 5 分間ごとのΔ心拍数と快不快評価の相関. n = 14,スピアマンの相関,*p < 0.01(ボンフェローニの補正). 0.007) ,0.6cm/s 条件では有意な相関はみられなかった.. 速度が 1-10cm/s のときに快評価が高くなり,マイクロ. さらに,5 区間(繰返し軽擦の 5 分,10 分,15 分,20. ニューログラフィを用いた測定では,触覚を伝える C 線. 分,後安静)のそれぞれにおいて,3cm/s 条件の相関係. 維の平均発火頻度も同様に増加することから,速度によ. 数と 0.6cm/s 条件の相関係数の差の検定を行ったとこ. る主観的な快評価の上昇には,触覚 C 線維が関与してい. ろ,軽擦 20 分で有意な違いがあり(p = 0.001,有意水準. ることが示されてきた.これらの研究は,前腕に対して. はボンフェローニの補正値である 0.01) ,軽擦 10 分(p. 行われてきたが.Macefield ら 23)は,下腿に対して軽擦. = 0.011) ,後安静(p = 0.015)で有意傾向であった.こ. 速度と快評価に関する実験を行い,前腕と同様の結果を. のことから,3cm/s 条件においては,心拍数の減少と快. 得た.触覚 C 線維の感覚受容部は毛根にあると考えら. 不快評価に関連があることが示された.. れており 18),特に手や足の有毛部に存在する 19-23).よっ. 他方, 「緊張−不安」得点の軽擦前後の差分と心拍数の. て,Macefield ら 23)の下腿に対する実験においても,前. 増減値との相関では,3cm/s 条件,0.6cm/s 条件ともに. 腕に対する多くの先行研究同様に触覚 C 線維を刺激し. すべての区間において有意な相関はみられなかった.. ていたと考えられる.Macefield ら 23) の軽擦範囲は左. Ⅳ.考. 脚の外側面,総腓骨神経の外側皮膚束であり,本実験の. 察. デルマトームの中心である L 5,S 1 とほぼ同様と考えら. 本実験では,下腿前面への軽擦が心身へ及ぼす影響を, 異なる軽擦速度条件で比較した.単軽擦実験において, 23). れる.したがって本実験においても,前腕に対する先行 研究同様に触覚 C 線維を刺激していたと考えられる.. の結. ヒトにおいて,皮膚触刺激によって誘起される快の神経. 果が再現された.繰返し軽擦実験において,3cm/s と. 処理経路は大きく 2 つの経路があることが知られてい. 0.6cm/sでの軽擦を比較したところ,両速度ともに,心理. る.末梢の触覚 C 線維を介する場合,情報は間脳から大. 的・生理的リラクセーション効果が得られた.速度条件. 脳の島皮質に伝えられ,「感情的快(affective pleasant-. 間の違いとして,3cm/s の軽擦においてのみ,軽擦に対. ness)」処理と呼ばれている.一方,A β 線維を介する経. する快評価が高い人ほど心拍数の減少が大きいという関. 路もあり,情報は間脳から大脳皮質体性感覚野に伝えら. 係性がみられた.快評価と心拍数の関係性に軽擦速度が. れ, 「弁別的快(discriminative pleasantness)」処理と呼. 関連することが本実験により初めて示唆された.. ばれている 16, 32).有毛部への刺激において,触覚 C 線. 3cm/s の軽擦時に快評価が高まり,Macefield ら. 1.単軽擦実験. 維のみを選択的に刺激することは不可能であるため 16),. 軽擦速度と快評価に関する一連の先行研究では,軽擦. 今回の下腿前面への軽擦は有毛部への刺激として,触覚. 8(8).

(9) 心身健康科学. 17 巻 1 号(2021 年). C 線維と A β 線維の両方を介して中枢に伝達されてい. 速度による違いはなかった.Triscoli ら 31) による軽擦. たと考えられる.. 実験では,最初の快不快得点は時間と共に減少し,概ね. Triscoli ら 26) は,前腕への軽擦に使用するブラシの. 軽擦開始 20 分後にゼロとなることが報告されている.. 操作を,手で行う場合と機械で行う場合を比較して,快. Sailer ら 35) は,40 分間の軽擦中のヒト脳活動を fMRI. 不快評価については同等であり,強さについては,速度. により観察した結果,皮膚触刺激による快の処理に関与. が速くなるほど強く感じる傾向であると述べた.本実験. する大脳領域および報酬ネットワークの領域(眼窩前頭. では,彼らの条件よりもさらに実際のマッサージに近い,. 皮質,被殻など)が活性化されることを確認したが,軽. 完全な徒手だった.本実験の快不快評価の結果(VAS. 擦の時間経過によって大脳皮質体性感覚野(S1,S2)の. の平均値:0.3cm/s で− 3.41,3cm/s で− 0.05,30cm/s. 活性化が減少しており, 「慣れ」を反映していると考察し. 26). の評価(VAS の平均. ている.本研究では,20 分間にわたって軽擦を繰り返し. 値:0.3cm/s で 0.2,3cm/s で 3.5,30cm/s で 2.2)と比較. て実施したことから,刺激に対する慣れによって快不快. して低かった.その原因として,刺激源がブラシではな. 得点が減少し,軽擦後の主観評価では速度条件間に違い. で− 3.52,図 4)は,Triscoli ら. く徒手であるという理由は考えにくい.Triscoli ら. 26). がみられなかった可能性が考えられる.また,単軽擦実. と本実験では刺激部位が異なっているが,刺激部位の違. 験では 1 回の軽擦を行う毎に快不快評価を行ったのに対. いが快不快評価の違いと関係している可能性も低い.な. し,繰り返し軽擦実験では 20 分間にわたる軽擦の後に. 23). は前腕への刺激による快不快評. 「先ほどの 20 分間の軽擦を思い出して,どのように感じ. 価を下腿への刺激の場合と比較したが,刺激部位の効果. たかを評価して下さい」と質問した.20 分間の軽擦をま. を見出していないからである.Triscoli ら 33) は,35 分. とめて評価することによって,対象者の日常生活におけ. 間にわたる低速・低強度の擦りでは,最初の快不快得点. るマッサージ経験やマッサージに対する知識との比較に. は時間と共に減少し,概ね軽擦開始 20 分後にゼロにな. おいて評価がなされ,単軽擦実験のような速度と快評価. ると報告している.今回の単軽擦実験は,20 分間の繰返. の関係が明確にならなかったと考えられる.. ぜなら,Macefield ら. し軽擦実験の後で行ったために,慣れが生じた可能性が. 2)リラクセーション反応. 考えられる.. 3cm/s 条件,0.6cm/s 条件のどちらも軽擦によって身. 2.繰返し軽擦実験. 体的には心拍数が減少し,POMS 2 では「緊張−不安」. 1)快不快評価と心拍数減少の相関. が減少した.心拍数は,両速度条件ともに軽擦開始直後. 心拍数の減少は,3cm/s,0.6cm/s 条件ともにみられ. に減少し,軽擦中は継続した.3cm/s 条件の心拍数は,. た.背部への軽擦による心拍数減少について,心臓支配. 軽擦中と比べて軽擦終了後に増加し,前安静の値よりは. の交感神経活動の減少と副交感神経活動の増加によるも. 低いものの,前安静の値に戻る傾向であった.このこと. のと報告されている 34).これらは体性−自律神経反射. から,今回の実験でみられた心拍数の減少は,半座位で. として,皮膚刺激情報が脳幹の循環中枢に伝えられ,自. 安静を保っていたことのみで説明されず,皮膚触刺激と. 律神経を介して心拍数が減少したものと考えられる.本. 関連があると考えられる.皮膚への触刺激によってもた. 実験における 2 つの速度条件においても,皮膚刺激情報. らされた心拍数の減少や緊張感,不安感の減少といった. が脳幹の循環中枢に伝えられ,自律神経を介して心拍数. 状態は,ストレスによって引き起こされる「闘争か逃走」. が減少した可能性が考えられる.一方,快不快得点が高. 反応の反対で,リラクセーション反応と呼ばれる 9).リ. いほど心拍数の減少が大きいという負の相関は,3cm/s. ラクセーション反応は,交感神経活動の減少と副交感神. 条件のみにみられた.3cm/s 条件では,皮膚刺激情報が. 経活動の増加によってもたらされ,筋緊張の減少,心拍. 大脳に伝えられて快が誘起され,大脳部位の賦活化が延. 数の減少や血圧の降下,呼吸数の減少 9) が生じる.リ. 髄の循環中枢に影響を与えた結果,心拍数が減少した可. ラクセーションの生理的な反応が生じる時,心理面では. 能性が考えられる.前述のように, 快を誘起する経路は,. 緊張感や,不安感の軽減 25, 36) が生じるとされている.. 触覚 C 線維を介する経路と A β 線維を介する経路の 2. これらのことから,本実験における下腿前面への繰返し. 経路がある.3cm/s は触覚 C 線維の活性化に最適とさ. の軽擦は,速度に関わらずリラクセーション反応を誘起. 17). にあるため,触覚 C 線維を介する「感. することが示唆された.他方, 「混乱−当惑」は 0.6cm/s. 情的快」経路が関与すると考えられる.しかし,有毛部. 条件でのみ有意に減少した.この速度による違いの機序. への触刺激において,触覚 C 線維のみを選択的に刺激す. については,先行研究で明らかになっていないため今後. れる速度範囲. ることは不可能である. 16). ため,A β 線維を介する「弁別. 的快」経路の関与も否定できない. 繰返し軽擦における快不快評価では, 単軽擦と異なり,. 研究を進める必要がある. マッサージの対象となる身体部位として,下腿前面の 他に背部がある.大学生を対象とした背部への 1cm/s, (9)9.

(10) 心身健康科学. 17 巻 1 号(2021 年). 5cm/s,20cm/s の速度での軽擦において,リラックス感. 張−不安」と心拍数が減少し,リラクセーション反応が. や交感神経活動の指標と言われている Low frequency. みられた.一方,3cm/s においてのみ,快不快評価が高. (LF)成 分 と HF の 比(LF/HF)の 減 少 は,5cm/s と. いほど心拍数の減少が大きくなるという負の相関がみら. 37). .5cm/s. れた.下腿前面へのマッサージを模した軽擦の効果にお. は,前腕部における触覚 C 線維刺激に最適な速度であ. いて,快評価と心拍数の関係性に軽擦速度が関連するこ. 20cm/s で違いがなかったと報告されている. る.5cm/s と 20cm/s で違いがなかった理由が,部位の. とが本実験により初めて示唆された.本研究結果は,皮. 違いによるかどうかは不明である.マッサージの効果の. 膚触刺激を用いる徒手療法による心理的・身体的リラク. 基礎となる体性−心臓反射は,動物を用いた基礎的研究. セーション効果の機序の一部を明らかにしたものであ. で詳細に分析されてきた. 10). .身体のどの部位のつまみ. 刺激(侵害性刺激)でも同じような心拍数増加が起こる が,四肢の刺激は上脊髄反射(脊髄より上位の中枢を介 した反射),体幹の刺激は脊髄反射(脊髄を介した反射) の機序により,心拍数が増加する.Hotta ら. 38). は,軽い. 皮膚触刺激(タッチ)が侵害反射に与える影響を調べる ため,ラット脛骨神経の求心性 C 線維を電気的に刺激 し,誘発された心臓交感神経の活動電位を記録する実験 を行った.求心性 C 線維刺激による心臓交感神経の活 動電位は, 同側の非侵害性のタッチにより抑制されるが, タッチの部位が後肢か腹部かにより抑制の効果は異な る. 38). .ヒトにおいて,触刺激を加える部位によって心拍. 数の反応がどのように変わるかを検討する必要がある. 3.本研究の課題と展望 本研究の結果では,有毛部に対するマッサージの効果 に つ い て,軽 擦 速 度 の 違 い に よ っ て 検 討 し た 結 果, 3cm/s では快評価と心拍数の減少との間に関連がみら れた.皮膚触刺激が「こころ」に影響して快の増大や不 安軽減をもたらしたり,心拍数を減少させたりすること は知られていたが,軽擦速度という条件によって心身相 互の関係を明らかにしたことに,本研究の意義があると 考える.しかし,今回の実験では,中枢での処理につい て検討していないため,今後は中枢処理機構を明らかに することが必要である.間脳の視床下部で産生され血中 と脳内へ放出されるオキシトシンは, 快や安心感を増し, 不安や心拍数の減少をもたらす 16, 39).本実験と同条件 でオキシトシン放出について検討することは,中枢処理 機構解明の第一歩となると考えられる.また,「混乱− 当惑」は 0.6cm/s 条件でのみ有意に減少したことについ て,今後研究を進める必要があると考える.. Ⅴ.結. 論. 健常男性を対象とした下腿前面への 1 回の軽擦におい て,最も快と評価された軽擦速度は,3cm/s であった. この速度は,ヒト前腕への軽擦を行った先行研究におい て,求 心 性 触 覚 C 線 維 の 活 性 化 に 適 し た 速 度 範 囲 (1-10cm/s)にあった.マッサージを模した繰返し軽擦 実験において,速度条件以外は統制して 2 つの速度を比 較した結果,0.6,3cm/s のどちらの速度においても「緊 10(10). る. 謝. 辞 本研究を行うにあたり,ご協力いただきました皆様,. ご指導を賜りました人間総合科学大学大学院研究科の先 生方に深く感謝申し上げます. [付記] 本研究は,2019 年 9 月 14 日に開催された第 29 回日本 心身健康科学会学術集会において報告した.. 引用文献 1)教科書執筆小委員会:あん摩マッサージ指圧理論 第 3 版,公益社団法人東洋療法学校協会編,医道の日本 社,神奈川,1,2016. 2)Eguchi E, Funakubo N, Tomooka K, Ohira T, Ogino K, Tanigawa T:The effects of aroma foot massage on blood pressure and anxiety in japanese communitydwelling men and women:a crossover randomized controlled trial, PLoS One, 11(3) , e0151712, 2016. 3)Field T:Massage therapy research review, Comple, 224-9, 2014. ment Ther Clin Pract, 20(4) 4 )Diego MA, Field T, Sanders C, Hernandez-Reif M: Massage therapy of moderate and light pressure and vibrator effects on EEG and heart rate, Int J Neurosci, 114, 31-45, 2004. 5 )Moeini M, Givi M, Ghasempour Z, Sadeghi M:The effect of massage therapy on blood pressure of women with pre-hypertension, Iran J Nurs Midwifery Res, 16 (1),61-70, 2011. 6)Hatefi M, Jaafarpour M, Khani A, Khajavikhan J, Kokhazade T:The effect of whole body massage on the process and physiological outcome of trauma ICU patients:adouble-blind randomized clinical trial, J Clin Diagn Res, 9(6),5-8, 2015. 7)Mahshid G:Durability of effect of massage therapy on blood pressure, Int J Prev Med, 4(5),511‒516, 2013. 8)Supaʼat I, Zakaria Z, Maskon O, Aminuddin A, Nordin NA:Effects of swedish massage therapy on blood pressure, heart rate, and inflammatory markers in hypertensive women, Evid Based Complement Alternat Med, 2013;171852, 2013. 9)Benson H, Beary JF, Carol MP:The relaxation response, Psychiatry, 37(1) , 37-46, 1974. 10 )Sato A, Sato Y, Schmidt RF:The impact of somatosensory input on autonomic functions, Rev Physiol Biochem Pharmacol.130, 1-328, 1997..

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(12) 心身健康科学. 17 巻 1 号(2021 年). Effects of the velocity of lower-leg tactile stimulation on pleasantness score and heart rate in men Hiroko FUTAGAMI. 1). 1)2). , Hiroko EDA-FUJIWARA. 3)4). , Hiroko YOSHIDA. 3). Graduate Division of Human Arts and Sciences, Graduate School of the University of Human Arts and Sciences 2) 3) 4). Faculty of Medical Sciences, Teikyo University of Science. Graduate School of the University of Human Arts and Sciences. The Health Sciences of Mind and Body, Human Arts and Sciences Research Center(HASREC) To examine the effects of lower-front leg tactile stimulation, we conducted two experiments with 14 healthy male university students. For the single-stroke test, tactile stimulation was applied by hand to a 15-cm region of the lower leg at three different velocities(0.3, 3.0, or 30.0cm/s). The subjects rated the extreme stroke velocities as less pleasant than the 3.0cm/s velocity, which aligns with optimal velocities for exciting Ctactile afferents. The repeated-stroke test included the same subjects and stimulus site; however, two stroking velocities were applied using a randomized crossover method. The subjects received 20 minutes of tactile stimulation at either 3. 0 or 0. 6cm/s and subsequently scored pleasantness and mood changes. Both velocities resulted in significantly decreased tension, anxiety, and heart rate. For the 3.0-cm/s group, a direct relationship was detected between pleasantness scores and heart-rate reduction. Our results imply that the velocity of lower-leg tactile stimulation influenced the correlation between the pleasantness score and heart-rate reduction. We discuss the possibility that the correlation observed at 3.0cm/s may be explained by excitation of C-tactile afferents. Key words:Health sciences of mind and body, stroking velocity, relaxation, pleasantness, heart rate. 12(12).

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図 3 繰返し軽擦実験における 1 分間の軽擦方法

参照

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