7 保健体育
体育的な思考力を育む保健体育
-「生きる力」を育てる武道の授業実践-
森山 進
本論の要旨
21世紀社会は新しい知識・情報・技術が飛躍的に重要性を増す「知 識 基 盤 社 会」(Knowledge- based society) の 時 代で あ る と い わ れ久 し い 。 こ の こと を 受 け て 今 回の 学 習 指 導 要 領の 改 訂 で も, 知 識 に 関 す る領 域 に つ い て は, 運 動 の 合 理 的な 実 践 を 通 し て, 生 涯 に わ た って 運 動 に 親 し み, 豊 か な ス ポ ーツ ラ イ フ を 送 るた め に 必 要 と され る 基 礎 的 な 知識 を 定 着 さ せ るこ と が よ り 一 層求 め ら れ て い る。 ま た , 授 業 時間 数 の 増 加 に よっ て , 生 徒 の 体力 及 び 運 動 の 技能 か ら 構 成 さ れる 「 身 体 能 力 」の 向 上 と , 身 につ け さ せ た い 知識 の 習 得 と そ の活 用 を め ざ す こと も 重 要 視 さ れて い る 。 仲 間 と関 わ り な が ら ,自 ら の ス ポ ー ツ種 目 経 験 だ け では 得 ら れ な い 運動 や ス ポ ー ツ に共 通 す る 考 え 方や 学 び 方 , 心 身や 社 会 性 へ の 効果 や 安 全 な 行 い方 , そ し て 文 化と し て ス ポ ー ツを 捉 え る こ と の意 義 を 学 び , 体育 分 野 が 目 指 す豊 か な ス ポ ー ツラ イ フ の 実 現 に向 け て 科 学 的 知識 や 考 え 方 の 基礎 を 養 い た い 。ま た ,「 4-4-4 」 と い う 指導 内 容 の 体 系 化を 鑑 み , 運 動 やス ポー ツ に 関 わ る 豊か な 人 生 を 送 るた め に , 運 動 やス ポ ー ツ に 対 する 理 論 的 思 考 を広 く 応 用 し な がら , 知 性 を 磨 いて い き た い 。
本 年 度 は 特 に 武道 領 域 ( 剣 道 ・柔 道 ) に お い て, そ の 授 業 展 開を 工 夫 し た 。 本校 で 取 り 組 ん でい る 「 情 報 の 時間 」・「 B T (BIWAKO TIME)」 で 得 た 「学 び 方 」 の 方 法知 を 取 り 入 れ ,生 徒が 武道固有の楽しさや喜びを味わいながら,視聴覚教材を有効活用し,シンキングツールを用い,幅 広い思考力・判断力を高める授業を実践した。
キーワード
生涯にわたっての健康,科学的知識や考え方,シンキングツール,思考力・判断力
1.研究主題によせて
(1)はじめに
社会環境やライフスタイルの変化にともない,
運動機会の減少,生徒の生活習慣に乱れが生じて いる。この現象から,現在の子どもたちの運動経 験をより一層減らす事態をもたらしている。この 対策として体力の向上や精神的ストレスの発散な ど,心身の両面にわたって健康の保持増進に資す るために,保健体育科の究極の目標である「生涯 にわたって健康を保持増進し,豊かなスポーツラ イフを実現することを重視し改善を図る」ことを 掲げている。
いわゆる「学力」を構成する要素はさまざまあ るが,学習指導要領の基本理念である「生きる力」
をはぐくむために,その基本方針で①知識・技能 の 習 得 や 主 体 的 課題 解 決 能 力 を 含む 確 か な 学 力
(文部科学省「学びのすすめ」2002 年),②豊か な人間性,③健康・体力の3つの要素の育成を目 指すことがあげられている。
本校では,情報の時間の授業を通して「情報の 本質を探究する・情報の活用を実践する・情報の 内容を吟味する」の視点を明確化した学習を進め
ている。保健体育科でもこれらの視点から,体を 動かすために必要なさまざまな情報を得る方法を 獲得したり,仲間と交流しながら今持っている力 を引き出し,より高度な運動能力(体を動かすた めに必要なさまざまな力)を身につけるためのに 必要とされる力を体育的な思考力と呼び,授業展 開を工夫している。
体育的な思考力を生かす日々の授業の中で「生 きる力」を育成するポイントとして以下の3つを 示し授業実践を行っている。
① 自分で課題を見つけ,自ら学び,考え,主 体的に判断し,行動し,問題を解決する資質 や能力を身につける。
② 自らを律しつつ,他人とともに協調し,他 人を思いやる心や感動する心などの豊かな人 間性を身につける。
③ たくましく生きるための健康と体力を身に つける。
①で求められている力は,自分にふりかかる問 題を自分で解決していく力であり,解決の糸口を
保 健 体 育 科
自分で見つけ出していく力である。今回の改訂で 技能,態度と並列して,「学び方」が位置づけら れている。ここでの「学び方」は,教師から提示 された目標や内容を上手に獲得,体得,習得する という学びではなく,興味・関心にもとづいて自 分が抱えている問題をどのように解決し,同じよ うな壁にぶつかったときにどのように活用できる かを問う学びである。このような「学び方」を身 に付けていれば,生徒がこれからの人生で出合う さまざまな壁を乗り越えていくことができたり,
目標を実現させたり,疑問や課題を解決していく ために必要な最善策を見つけ出すことができる力 になると考える。
②に有効な運動領域が「武道」といえる。なぜ なら「武道」は常に相手との関係が重視されるそ して,我が国における伝統的な行動様式を有し,
礼法や作法を重んじ,その中で人間性を養うこと が求められているからである。「相手はともに学 び合う関係である」ことを理解することによって,
相 手 を 尊 重 す る 心や 自 分 を 律 す る心 を 追 求 し た り,規則の遵守,公正,協力などの社会的に望ま しい態度を養うことができるのであると考えられ る。
③は,これからの社会を生きる生徒に身に付け させたいたくましさを目指すものであり,心身へ のストレスに対応できるしなやかな心と体を鍛え ることである。ただ,昨今の子どもたちの様子を 見ていると,得意・好きな領域・種目には積極的 に取り組むことができるが,同じ好きなことでも ただひたすら同じ展開や練習・動作はいやがる傾 向にあり,体力を高めるためのトレーニングにお ける「反復性の原則」に強制力を持たせないと継 続できない面も見受けられる。また,幼少からの スポーツ少年団からの影響もあり,中学に入学し たときにはすでにある程度の運動能力(専門的な 技能や能力)が身についているため,体育の授業 で得意分野になると,真剣にプレーできずにいた り,しないこともある。また初心者や運動・スポ ーツにおける上達度の高くない生徒も,その差は 歴然としているため,互いに遠慮してしまう場合 も見られる。こういった現状を把握しながら,よ り楽しく,より継続的に,より考えさせる授業を 展開することが必要であると考える。
(2)「武道」領域について
平成元年の前回の改訂によって「格技」から「武 道」と名称が変更された。国際化がより一層進展 する中で,我が国固有の文化としての特性を生か
す指導に重点が置かれたためである。そして今回 の改訂では個に応じた指導の充実,伝統的な行動 様式を重視する従来通りの学び方の上に技や技能 を習得するために生徒一人ひとりが練習や試合を 工夫できる力を育成することが目標として掲げら れた。さらに,授業時数についても取り上げたい。
武道に関する授業時間数の縮減に伴い,「各学年 ともその種目の習熟を図ることができるように適 切な授業時数を配当し,効果的,継続的な学習が できるようにすることが必要である。また,武道 は段階的な指導を必要とするため,特定の種目を 3年間履修することが望ましいが,生徒の状況に よっては各学年で異なった種目を取り上げること もできるようにする」と改めたことで各学校の実 態や必要授業時数を適切に配当したり,個に応じ た指導を充実させることが強調された。
本校が所在する大津市の多くの中学校では武道 領域において柔道が選択されている。その理由と して,柔道場が設置できている(武道場や柔道を するための畳が用意できる)状況であること,柔 道着は個人でも安価で用意できること,指導者に 指導経験が多いことがあげられる。その中で,最 も大きな理由が,その他の「武道」領域で必要と される武具や施設の用意・準備の困難さを回避し て い る と い う 消 去 法 的な 要 素 も あ げ られ る だ ろ う。
こういった状況の中で柔道の授業を行う場合,
多くのことに気を配る必要がある。その最も大き な配慮事項が,けが・事故に関することである。
昨今,柔道に関する事故,ニュースが多く取り上 げられている。どの学校,指導者も安全面では特 に配慮した授業が行われているが,それにも関わ らず,けがや事故は多く発生している。本校でも,
武道の授業に入る際に武道の心構えについて「自 分で自分を律する克己の心を表すものとして礼儀 を守るという考え方があること」を十分理解させ,
伝統的な行動の仕方の指導についても,単に形の 指導に終わるのではなく,相手を尊重する気持ち を込めて行うことが大切であることを留意させて て授業に臨んでいる。技術指導においては自分の 体を守るために受け身の練習には特に時間をかけ ている。しかし,運動経験の未熟さや体幹の弱さ といった肉体的な要素,気持ちの緩みや恐怖心,
怠慢さといった精神的な要素から骨折やねんざ,
打撲といったけがが発生している。中にはこうい ったことを配慮した上で武道領域ではあえて剣道 を選択している県もある。ただ,柔道は民主的な スポーツとして発展し,・学校教育で実施されて
おり,相手の動きに対応した攻防から競い合う楽 しさ,自分の力や適性に応じた技能を身に付けて 自由練習で生かす楽しさがある。「相手を背負い 投げ で投 げてみ たい」,「私は 大外刈りで倒して みたい」というように相手の力を巧みに利用し「一 本勝ち」を味わうことができることもその特徴と してあげられる。
次に剣道は,面や胴,小手,竹刀といった武具 を用意することや保管する場所を設置するといっ たハード面に大きな課題がある。共同で使用する ことが多いため武具の臭いがしたり,武具の傷み が激しくなることがあげられる。教員の指導経験 の少なさも課題である。しかし,男女共修がしや すく,上記のように柔道で発生しやすい大きなけ がや事故を防ぐことができる。また,心身の発育 発達に大きな影響をもたらし,柔道と同じように 心の成長はもとより,竹刀操作や相手との攻防の 中で,平衡性や敏捷性,調整力,瞬発力といった 少年期に成長を促したい体力構成も養え,技が決 まったときの爽快感と充実感を味わえるのも大き な特徴である。
2.研究仮説
①仲間(男女共修も含めて)が互いに積極的に 参加しようとする授業は,互いに自分の意見を言 い合える場が提供されるときである。画像遅延装 置,テレビモニター,DVD や実技の教科書,上 手な生徒を参考にさせたり,パートナーやグルー プの仲間の動きを見て互いに指摘し合うような展 開にすれば,より高度で幅広い思考力・判断力を 高める授業が展開できるだろう。
そのために自分たちの「今」持っている力を生 かしながら,作戦会議やルールを工夫させる。ま た,仲間のアドバイスから技能の習得につながる きっかけを求めさせる。さらに,コミュニケーシ ョンをとらせることで,運動の楽しさにもつなが
る。
②自分の動きや今持っているイメージを理解さ せることができれば,生徒に身につけさせたい運 動技能・能力を習熟させ,高められるだろう。
そのために自己観察や他者観察を通して,正し い動きを知ると同時に,なぜできないか,どうす れば上手に技能習得につながるかを体感させられ る。(メタ認知的な判断)
③シンキングツールを用いて考える姿勢・態度 が身につけさせれば課題を解決する方法を自分で 探ろうとするだろう。
「書く」ためには,何を書くか,どんなことを 書くか,どんな視点が必要か(シンキングツール やワークシートの活用)を見極める必要がある。
また,「話す」ためには,相手に伝える内容を精 選し,まとめる必要がある。
3.研究方法
・仲間が互いに積極的に関わろうとする授業展開 を取り入れる。
・今持っている技能や動きを自分で知る方法を取 り入れる。
①男女混合のグループを作成したり,男女がペ アになったりする授業展開にする。
②男女の腕力を含めた力強さや柔軟性や気持ち を考えさせながら,互いの技能を高めさせる ための練習方法を取り入れる。
③見本となる教材や仲間から正しい動きを知る ために,視聴覚機器を利用する。
④見たこと・頭に浮かんだことをまとめさせた り,文章化させるためにシンキングツールを 用いる。
4.研究内容
①生徒の実態把握,幅広い資料収集
②授業展開の検討,授業用資料の作成・準備
③授業の分析と記録,生徒観察
④画像遅延装置による評価
⑤考え方をまとめるワークシートの活用
⑥互いに教え合う場面設定
5.授業実践
(1)“剣道”で自分の動きを発見してみよう!!
~自己観察と他者観察~
①題材名,対象学年,授業時間
武道(剣道),第1学年男女共修,全6時間
②主題との関わり
本年度も第1学年において防具がない中での剣
保 健 体 育 科
道の授業展開を進めた。剣道の楽しさの醍醐味は
「相手を打つ」ことであるが,本校では防具を着 けての攻防はできないため,この経験はできない。
したがって,防具がなくても剣道の楽しさや剣道 から学べること,他人をいたわり尊敬する気持ち を考えたり,仲間の動きをことばで「書く」「伝え る」といった体育的な思考力を養ったり,考え方 を考えるといった授業展開を探った。(剣道での技 能や心の発育発達させるための指導が未熟なため,
本年度も本校前校長の村山勤治先生に指導・助言 をいただいた。)
学習指導要領の中において剣道の知識は「武道 の特性や成り立ち,伝統的な考え方,技の名称や 行い方,関連して高まる体力などを理解させる」
と示されている。「武道の特性や成り立ち」では,
武道では技を身に付けたり,身に付けた技を用い て相手と攻防する楽しさや喜びを味わうことので きる運動であること,武技,武術などから発生し た我が国固有の文化として今日では世界各地に普 及し,オリンピック競技大会においても主要な競 技として行われていることを示し,「伝統的な考 え方」では,武道は,単に試合の勝敗を目指すだ けではなく,技能の習得などを通して礼法を身に 付けるなど人間としての望ましい自己形成を重視 するといった考え方があることを示している。「技 の名称や行い方」では,「武道の各種目で用いら れる技には名称があり,それぞれの技を身に付け るための技術的なポイントがあることを理解でき るようにする」とあり,これらから生徒一人ひと りに武道の特性とあり方,技の構造,技の動きを 習得させるために必要な「知識」を身に付けさせ ることにした。
剣道の授業についての思考・判断では「課題に 応じた運動の取り組み方を工夫する」とあり,活 動の仕方,組み合わせ方,安全上の留意点などの 学習した内容を,学習場面に適用したり,応用し たりすることを示している。実践学年では,基礎 的な知識や技能を活用して,学習課題への取り組 み方を工夫できるようにすることを目標とした。
このことからも本単元では,技を身に付けるため の運動の行い方のポイントを見つけることや課題 に応じた練習方法を選ぶこと,仲間と協力する場 面を設定し,分担した役割に応じた協力の仕方を 見つけさせた。学ぶことに喜びを感じさせる授業 展開を目指した。
技能面において,技能の習得のためにも体幹を 意識させた授業展開を進めた。竹刀を姿勢正しく 振るために補助棒を用いたり,スポンジを足で扱
いスムーズに動いたり,準備運動ですばやく回る 回転運動を取り入れた練習を行った。復元力とも いわれる「体幹」を鍛えることは,自分のからだ を支える力を理解させる上で最も重要と考え,剣 道での素振りや武道以外のさまざま運動・スポー ツに生かすことができる。
剣道を通して技とからだの動かし方を身に付け させることで,生涯にわたって運動に親しむ資質 を感じ学ばせることができると考えた。そして,
どんな動きをすればいいのかを考える力(知識の 習得),「調べる」→「取り組む」→「理解する」
という達成感と充実感を感じ取り,他の領域や日 常生活の中でも活用できる実践力につなげる生徒 を育成することを目指した。
③学習目標
自分や他人の動きを様々な方法から分析し,ワ ークシートを通して,適切にアドバイスしたり,
新たな課題を発見する。
④評価規準
・武道の特性に関心をもち,仲間と協力して教え あい,互いの技能を高めようとする。
【関心・意欲・態度】
・自己の能力に応じた目標を設定し,課題を解決 するための工夫や仲間の課題を見つけ合いながら,
それを克服するための練習方法を探る。
【思考・判断】
・「正面うち」,「早素振り」の技能を身に付ける。
【技能】
・技の構造や正しい動きを身に付けるためのポイ ントとそのための練習方法を理解する。
【知識・理解】
⑤学習計画(過程)とその様子
第1次では武道の心得を理解させるために武道 についての心構えを学ばせ,基本所作(正座や黙 想,立ち方や座り方,あいさつの仕方,道場での 姿勢や態度)を確認させた。また,本単元で学ぶ 技能「正面うち」「早素振り」を紹介し,補助棒で 素振りの練習を体験させた。
第2次では,DVD教材を用いて基本動作(姿勢,
足さばき,素振り)を確認させ,補助棒での攻防 と竹刀を用いて素振りを行わせた。
第3次は,小さいスポンジを用いて足運び(さ ばき)を練習させ,対人練習で竹刀の重さや打っ た手応えや受けた重さと,攻防の楽しさを体感さ せた。
第4次はバスケットボールを用いて素振りの姿 勢,手首や腕の使い方を学ばせ,竹刀でバレーボ ールを打つ練習で手応えを感じる体験をさせた。
第5次は自動画像遅延装置や鏡を用いて自分の 素振りの姿勢を確認させるとともに,シンキング ツールを用いてグループで他人の目から素振り姿 勢を確認する練習を行わせた。
第6次は補助棒・竹刀・遅延装置・鏡を用いて の個人練習とグループで素振り練習,連続正面打 ちを練習させ,技能テストを行った。
第1次
「武道」とは何かを学ぶ。
補助棒で素振りの体験
第2次
DVD教材で剣道を知る。
補助棒での攻防
竹 刀 を 用 い て の 素 振 り 練習
第3次
足さばき練習(スポンジの利用)・対人練習
第4次
バスケットボールで素振り練習・バレーボール打 ちで打つ感覚を体験
第5次
自分や仲間の動きを知る(自動画像遅延装置や鏡,
シンキングツールを利用)練習
補助棒での攻防
スポンジでの足さばき
自分の素振り撮り
対人練習
バスケットボール バレーボール打ち
モニターで確認 補 助 棒 で 素 振 り を 体 験
第6次
総 合 的 な 素 振 り 練 習 ・ 連続面打ち練習
⑥本単元の技能目標
⑦本単元で用いたシンキングツール 鏡で姿勢を確認
シンキングツールで意見交流 三方向から観察
保 健 体 育 科
⑧学習展開(第5時)
(2)武道領域(柔道)
「得意技を見つけよう!!」
①題材名,対象学年,授業時 間
武道(剣道),第2学年男女別 修,全10時間
②主題との関わり
本年度は剣道の授業ととも に柔道の授業展開も研究対象 とした。第2学年は昨年度,
男女共修で柔道の授業を経験 している。そのため武道にお いての心構えや受け身などの 技能や構造は多くの生徒が理 解し,身に付けられている。
そこで今回は男女別習の中で,
互いに今持っている力を十分 に発揮しながら自らが得意な 技能(立ち技)を探し,仲間 とともに練習し,乱取り稽古 や試合形式の場で生かすよう な授業展開を目指した。この ことは学習指導要領における
「自分で課題を見つけ,自ら 学び,考え,主体的に判断し,
行動し,問題を解決する資質
や能力を身につける」ための授業展開だと考える。
学習指導要領にも「第1学年及び第2学年では,
相手の動きに応じた基本動作から,基本となる技 を用いて攻防を展開できるようにする」とある。
これを踏まえ,授業の進め方として初心者に対し て比較的習得しやすいとされる技,「大外刈り」
「大腰」「体落とし」の足技・腰技・手技の3種 を全員で練習した後,その練習過程で身に付けた 体さばきや足さばき,くずしを上手に使いこなせ るようにさせ,その上でスピードやタイミングを 活用し,他の技に挑戦させる展開にした。
③学習目標
立ち技の基礎的な動きをイメージしながら,視 覚教材やワークシートを用いて,適切にアドバイ スしたり,新たに得意な技を身に付けることがで きる。
④評価規準
・健康や安全に留意しながら,相手を尊重する態 度を身につけるとともに,得意技を試合で使うた めに進んで練習に取り組もうとしている。
【関心・意欲・態度】
・練習を通して得意技をかけるための課題を見つ け,課題解決を目指して工夫して練習に取り組む
ことができる。 【思考・判断】
・自己の能力にあった技・得意技を身に付けるこ
とができる。 【技能】
・得意技の技能のポイントが理解できる。
【知識・理解】
⑤学習計画(過程)とその様子
第1次では,昨年度の練習を振り返るため,体 つくり的な運動(押し合い,引き合い,回転練習 など)や基本技能(受け身や寝技)を多く取り入 れた。
第2次は,立ち技練習。より実践的な足さばき や体さばきをペアで行い,一斉練習としての基本 技(「大外刈り」「大腰」「体落とし」)を習得す る。
第3次は,身に付けた3種の技を生かしながら 仲間とともに DVD や実技教科書を用いて得意技 や 自 分 が 習 得 し てみ た い 技 の 習 得を 目 標 と さ せ た。
第4次は,練習した技を試すために乱取り,試 合形式の授業展開を行った。
第1次
体 つ く り 運 動 を 取り 入 れ た 運 動 で柔 道 を 思 い 出 す。受け身や寝技,体さばき,足さばきの復習
第2次
「大外刈り」「大腰」
「 体 落 と し 」 の 練 習
第3次
DVD や教科書を見な が ら , 得 意 技 の 習 得
第4次
得 意 技 を 使 っ て 乱 取 り 稽 古 練 習 ・ 試 合 形 式の練習
⑥本単元で用いたワークシート
DVDで3種目以外の技
得意技の稽古
試合形式での練習 体落としの練習の様子
保 健 体 育 科
⑦生徒(男女)の感想(抜粋)
A 本時の目標 投げ技をマスターする。
腕は,しっかり持ち,受け身 はしっかりとらせる。
気づいたこと 大外刈りはの右手(つり手)
で引き上げて刈るのがポイン ト。右足を振り上げるのもポ イント。
次時の課題 右足で思い切り刈れていない のでしっかり刈る。大きい人 を刈るのは難しいが,つり手 でバランスをくずして刈る。
B 本時の目標 腰 技 で あ る 大 腰 を マ ス タ ー し,パートナーと練習する。
気づいたこと 相手の後ろの帯を利き手でつ かみ自分が体勢を低くして自 分の腰に相手を乗せ,倒す。
次時の課題 手わざの体落としを学んで練 習して身に付けたい。
C 本時の目標 新しい技(大内刈り,小内刈 り)を練習する。試合をする。
気づいたこと 新しい技を試合中にやれなか った。足ばかりに気をとられ てしまった。
次時の課題 新しい技をいつでもできるよ うにする。練習してすばやく
できるようにする。
D 本時の目標 自分の得意技を見つける。そ して試合でそれを使う。
気づいたこと 自分の練習が少なかったのか 試合で通用しなかった。手の 動かし方が悪かったかも。
次時の課題 通用するように得意技を頑張 って身に付け新たな技も覚え る。
E 本時の目標 今まで習ったことを生かして の試合(背負い投げや膝車に 挑戦)。くずしをしっかりや ろう。
気づいたこと 実際に(試合で)やるとくず しが難しい。技が少ないとか けにくい。
次時の課題 くずしをもっと激しくやる。
技のレパートリーを増やす。
F 本時の目標 試合で大外刈りだけにならな いようにいろいろな技を仕掛 ける。
気づいたこと 大腰をしているすきに大外刈 りをやられた。
次時の課題 技をすばやくかけて,すぐに 寝技にうつる。
G 本時の目標 くずし,体さばきを試合の時 で も で き る よ う に 身 に 付 け る。
気づいたこと 大きい人が得意とする技,小 さ い 人 が 得 意 と す る 技 が あ り,それぞれ違うということ。
次時の課題 大腰や体落としなど逃げ腰の 相手には有効なため使うよう にする。
H 本時の目標 ビデオや壁の紙を見て新たな 技を身に付ける。パートナー と乱取りを真剣にして技をか ける。
気づいたこと 乱取りは相手のペースをくず さなければならない。乱取り だけは臨機応変にいろいろな 技 の チ ャ ン ス を ね ら う と 良 い。
次時の課題 しっかり使えるように頭を使 って戦う。
⑧学習展開(第3次,第6時間目)
6.成果と課題 本年度も武道に焦点 を当てて研究を進めて きた。研究授業や発表 大会の参観者から,生 徒達が武道場に入退室 する際にきちっと一礼 をすること,試合や練 習では自ら練習・試合 相手に対して尊敬の念 や対戦させてもらうこ とに感謝の気持ちを示 す場面が見られたこと などの助言があった。
このことから,多くの 生徒が武道の心構えを 体で覚えていたことが わかった。また,剣道 の時間では防具がない 中,様々な練習方法を 探ることで,防具がな い授業でも素振りの練 習までは積極的に楽し んで参加する姿が見ら れた。さらに,画像遅 延装置や鏡を活用した ことで自分の動きを初 めて知ることができた 生徒もたくさんおり,
自分の動きや体の使い 方を知る機会になっ た。また,シンキングツールを用いたことで,相
手の動きを観察しアドバイスを与えることやコメ ントを記したり,相手を見てコミュニケーション をとることで,再び自分の動きを知るきっかけに なることも感じとれたようである。相手にアドバ イスするためには,技の基本的な構造を理解して おかなければならず,正しい動きとそうでない動 きの違いを自ら探そうとしなければならず,自己 観察力や他者観察力も養えたように思われる。つ まり,これらは本研究テーマにおける体育的な思 考力を身に付ける一因になったと確認できる。
柔道では,男女とも視聴覚教材の活用や仲間と の教え合いを通じて,基本技から得意技・チャレ ンジしたい技の習得のために熱心に練習に励む姿 が見られた。このことは指導者からの一方通行的 な授業では得られない楽しさにつながった結果だ
と考えられる。さらに,今回はまだ研究段階であ った男女共修の授業実践(男女が組み合って練習 する授業)も体さばきや足さばきの練習時のみ行 えた。このことも共修の授業での成果であると考 え,互いに思いやろうとする気持ちを養うことが できた実践事例だろう。
一方,課題はたくさん残っている。生徒の様子 を見ていると,言葉には出さないが,武道(の心 構え)は授業の中の取り組みであるという割り切 った思いもあるようで,普段の生活の中では生か されていない場面も見受けられる。
また,剣道では昨年に引き続き,武具を用いず 竹刀のみを用いた授業を展開した。改善できたと ころもあるが,剣道は,互いに打ち合い(攻防)
があってその楽しさを知ることができるという指 摘は改善できていない。武具・防具が十分整備さ
保 健 体 育 科
れていない状況で,段階的に指導するにはどんな 方法が良いかなどはまだまだ思案中である。指導 いただいた多くの先生方からいくつかの授業実践 事例を紹介いただたり,新しい授業方法は発想力 の 中 か ら 生 ま れ ると い っ た ア ド バイ ス を い た だ き,それらを生かす事例をこれから探り実践して いきたい。思考力を高めるポイントとしてのシン キングツールも一定の成果は得られたが,体育の 時間内でどのように活用すれば今以上の成果が出 せるか,生徒がより高度な思考力を身に付けるた めにはどんな展開を工夫すればよいかなど課題は 多い。
柔道では,受け身や準備運動の反復練習に時間 をかけることもあり,50分という限られた時間 の中では十分な練習ができないこともある。この ような現状をどう工夫するかも課題である。さら に,それほど大きくない武道場で柔道を行う場合 におけるけがや事故が起こらないようにどう配慮 するかも課題である。互いに教え合う場面を設定 したものの,一人ひとりが得意技やチャレンジし たい技の練習を指導者自身が把握しきれず,個人
男女共修で男女がペアになって行う授業展開
任せになっていることもあり,乱取りや試合形式 での攻防で十分に生かし切れない生徒もいた。
これらの成果と課題を生かすよう来年度も授業 実践を行っていきたい。
【引用・参考文献】
■最新体育授業シリーズ「新しい剣道の授業作り」,
大修館書店,村山勤治・岡嶋 恒/他,2004.
■財団法人全日本剣道連盟編「剣道授業の展開」,
2009.
■「先生の面白! びっくり! 新発想! 剣道レッス ン」,スキージャーナル株式会社,髙倉聖史,2008.
■最新体育授業シリーズ「新しい柔道の授業作り」,
大修館書店,坂田敬一・鮫島元成・磯村元信/他,
2003.
■「Q&A中学校柔道の学習指導」,大修館書店,
飯島元成,髙橋秀信,瀧澤政彦,2006.
■「DVD で見て学ぶ『初心者が段階を踏んでう ま くな る!柔 道上達 のプ ロセス 』」,永岡書店,
柏崎克彦,2008.
■「新学習指導要領による『中学校体育の授業』」,
大修館書店,杉山重利,2001.