447 昭和学士会誌 第76巻 第4号〔447‑450頁,2016〕
特 集 眼科治療の進歩
外傷性視神経症の治療
昭和大学医学部眼科学講座
恩田 秀寿
疾患の解説
眉毛外側部を強打した直後から急激な視力低下を 来す疾患である.眉毛外側部からの介達外力が同側 の視神経管の管壁に骨折または歪みが生じさせ,そ の内部を走行する視神経繊維の断裂や微少循環障 害,出血,浮腫が生じることが原因と考えられてい る1).視力障害には,「暗くなった」などの軽症例 から,「全く光を感じない」という重症例まであり,
打撲の強さによってその症状は異なる.特に眉毛外 側部に傷がある場合には,顔面損傷は軽度でも,視 覚障害が強く現れることが多い.
診断ならびに鑑別診断 診断に必要な重要所見を示す.
• 対光反射:相対的瞳孔求心路障害(Relative Afferent Pupillary Defect:RAPD)が陽性と なる.特に RAPD の検出は,言葉での意思伝 達に未熟な小児や意識レベルが低下している外 傷患者の診断に非常に有用である.
• 眉毛外側部の打撲痕:ほとんどの症例で認める
(図 1).
• 視力低下:軽度の視力低下から光覚なしまでさ まざまである.受傷直後の急激な視力低下が,
この疾患を疑う上で重要である.そのため,受 傷から数日経過してからの視力低下は別の病態 と考え,視力低下を生じる他の外傷性疾患との 鑑別を要する.
• 視野障害:視野障害は多様で,疾患特異的な視 野障害パターンはない.
• 眼底検査:瞳孔反応を確認したうえで散瞳し,
黄斑部網膜に異常がないことを確認する.視神 経乳頭の色調は,受傷後約 7 〜 10 日目頃より
徐々に蒼白化がみられるため,視神経乳頭を撮影 することで色調の定点変化を観ることができる.
• 眼窩 CT 検査:骨条件画像から視神経管壁の alignment を診る.画像によっては骨折がはっ きりしないことがあり,あくまで参考となるこ とが多い.骨折による蝶形骨洞,後篩骨洞の血 腫を認めることがある.手術に際して篩骨洞と 蝶形骨洞の形状を把握するため,眼窩水平断お よび冠状断画像が必須である.
• この他補助的な眼科検査として,中心フリッ カー検査,色覚検査,イリスコーダーを行う.
<鑑別疾患>
• 内眼疾患:硝子体出血,網膜剥離など,多くは 眼底検査で鑑別可能である.
• 眼窩出血:眼窩の骨折後の血腫が眼窩先端部を 圧迫する.眼球運動障害を併発することが多い.
• 眼窩先端部症候群:木の枝や傘の先が内眼角部 から刺入し直接視神経を損傷する.網膜中心動 静脈閉塞,眼球運動障害が生じることが多い.
• 詐病
図 1 眉毛外側部の打撲痕(矢印)
恩 田 秀 寿
448 手 術 適 応
視神経の減圧を目的とする薬物療法と観血的視神 経減圧術が主体となる.治療は可能な限り早期に開 始するのがよい.さらに,受傷早期に手術を行った 場合に視力改善する傾向にあり,手術のタイミング は受傷後早期が推奨されている2).しかし,薬物治 療との比較など,その外傷性視神経症に対する治療 方針は未だ議論の的となっている.
治療・手術手技の実際 <薬物治療>
1 週間に 3 日間を 1 クールとしてコハク酸メチル プレドニゾロンナトリウム 1,000 mg を投与するス テロイドパルス療法が一般的である.さらに,高浸 透圧液(グリセオールⓇ)を併用投与し視神経の浮 腫を軽減する.効果が見られない場合は,早急に外 科的治療を考慮する.
<外科的治療3)>
視神経管を開放し,視神経減圧を目的とする.視 神経減圧術の報告は,1916 年の Pringle による経眼 窩アプローチ法が最も古く4),1960 年代以降には,
視神経管まで到達する手技は工夫洗練され,日本で
a.皮膚切開予定線,b.眉毛,c.瞼裂図 2
a.上顎骨前頭突起,b.鼻骨図 3
図 4 コメガーゼで止血しながら,篩骨洞を後方へ進む.
図 5 骨窓から約 50 mm のところに視神経管隆起 が確認できる.
図 6 視神経管隆起の拡大写真.耳鼻 科硬性鏡を用いて撮影した.
外傷性視神経症の治療
449 も,深道らよって経篩骨洞視神経減圧術が多くの症 例に対し行われてきた5).眼科顕微鏡を使用した経 皮膚経篩骨洞・視神経減圧術の術式と注意点につい て述べる.症例は右眼である.
a. 術者の位置
健側の耳脇(右眼が術眼ならば,患者左耳と自 分のお臍が対向する位置)
b. 皮膚麻酔・止血
0.1%エピネフリン 3 滴を含む 2%リドカイン 2 ml を切開予定部位周囲皮下に局所注射する.
c. 皮膚切開(図 2)
鼻根部の正中よりやや患側を眉毛内側から内眼 角まで約 20 mm 切開する.その後,皮下組織 を鈍的に剥離し,骨膜を露出する.前角動脈 angler artery に注意し剥離する.
d. 骨膜剥離(図 3)
骨膜を剥離し,前頭骨,鼻骨,上顎骨前頭突起 を露出する.ピオクタニンで骨縫合線をマーキ ングする.内側眼角靭帯の位置を確認する.
e. 骨窓作成
10×15 mm の骨窓を作る.副鼻腔粘膜が露出 するまでエアトームで掘削し,その後,鋭匙と スタンツェで骨窓を拡大する.
f. 視神経管隆起への道程
副鼻腔粘膜を切開し,5,000 倍希釈エピネフリ ンおよび 4%キシロカインに浸したコメガーゼ で粘膜麻酔と止血を行いながら篩骨蜂巣,副鼻 腔粘膜を除去し,前篩骨洞から蝶形骨洞へと進 む(図 4).視神経管は蝶形骨小翼を通るため,
後篩骨洞の後方,蝶形骨洞上内側にかまぼこ状 の視神経管隆起を確認できる(図 5,図 6).隆 起がはっきりしない場合には,ナビゲーション システムを用いて視神経管を同定する.
g. 視神経管壁を細い鋭匙で可能な限り除去し,硬 膜を露出する.
h. 創縫合
止血を確認したのち,骨膜を 6−0 吸収糸,皮 下組織を 3−0 吸収糸さらに,皮膚を 6−0 ナ イロンで連続埋没縫合する.
術中・術後の合併症
• 髄液漏:受傷早期の手術中に認めることがある.
• 眼窩先端部症候群:眼窩内側壁の医原性損傷に よる眼窩出血が原因.
図 7 ナビゲーションシステム:術前
図 8 ナビゲーションシステム:術中
図 9 ナビゲーションシステム:視神経管壁を同定している.
恩 田 秀 寿
450 • 鼻出血:稀ではあるが後篩骨洞動脈からの再出
血を数日後に見ることがある.
• 副鼻腔炎
ナビゲーションシステムを利用した手術 多発性顔面外傷などでは顔面骨の形状が不整なこ とがあり,経篩骨洞的なアプローチが難しい場合が ある.また,視神経管隆起が不明瞭な場合には管壁 の同定が困難なため,十分に管壁を削ることができ ないことがある.このようなケースではナビゲー ションシステム(Medtronic 社の Stealth Station)
を使用することで,手術アプローチの方向と的確な 視神経管壁の同定が可能となる(図 7,8,9).
文 献
1) Duke-Elder S. Neuro-ophthalmology. London:
Henry Kimpton; 1971. (System of ophthalmolo- gy; 12).
2) 稲富 誠.外傷性視神経症.柏井 聡編.臨床 神経眼科学.東京: 金原出版; 2008. pp275‑279.
3) 深道義尚.外傷性視神経損傷.あたらしい眼 科.1986;3:337‑342.
4) Pringle JH. Monocular blindness following dif- fused violence to the skull: its caution and treatment. . 1916;4:373‑385.
5) Fukado Y. Results in 350 cases of surgical de- compression of the optic nerve.
. 1973;25:96‑99.