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3. 原理 3.1. マシュマロゲル 1),2),3) マシュマロゲルとは京都大学理学研究科の早瀬元氏によって発見された 2 官能性及び 3 官能性ケイ素アルコキシドから合成されるマシュマロのような柔軟性を持つ多孔性ゲルの俗称である. マシュマロゲルは内部に多数の細孔を有し, 撥水性, 親油性を持つ

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1 東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2017 年度春輪講書

マシュマロゲル作成に用いる

界面活性剤の検討

2017 年度金曜班 T.Sato(2K),S.Yanagihara(2K),Y.Kudo(2K),K.Ishii(2K), K.Shibuya(2K) 1. 背景 マシュマロゲルはその名の通りマシュマロのような質感,形状をしたゲルであり,撥 水性,親油性という二つの非常に興味深い性質を合わせ持つ.よってこのゲルをスポン ジのように用いると水と油が混じりあった溶液中から油のみを吸い出すことができる. さらにこのゲルはポリスチレンやポリウレタンなどの有機高分子が分解してしまう 300℃を超える高温から,ほとんどの有機高分子が柔軟性を保つことができない-130℃ 付近の低温でも柔軟性を保つことができ,-196℃の液体窒素でさえも吸い出すことが できる1) また,マシュマロゲルはタンカー事故による重油漏洩時の重油除去,高温・低温接触 域の断熱保護材,防音材,防振材などへの利用が示唆されており,その撥水性,親油性, 伸縮性,さらには広い温度領域での安定性によって多彩な有用性を示す.またマシュマ ロゲルは近年発見されたばかりであり,その性能を高める余地があると思われる. マシュマロゲルの性能を高めるうえで主に行われてきた処置といえばマシュマロゲ ルの前駆体であるケイ素アルコキシドの種類の検討だが,結果的には既に用いられて いる界面活性剤のように官能基が小さくてシンプルな構造をしているほうが性能は高 いとされている.そこで我々金曜班はマシュマロゲルの前駆体の種類ではなく,マシュ マロゲルの反応条件を決めていると考えられる界面活性剤に注目し,中でもその炭素 鎖の長さがマシュマロゲルの性質に与える影響を調べることでその性能の向上への可 能性を探ることができるのではないかと考えた. 2. 目的 基本構造が同じで炭素鎖の長さが異なる新たな界面活性剤を用いてマシュマロゲル を作成し,その性能を比較する.

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2 3. 原理 3.1. マシュマロゲル1),2),3) マシュマロゲルとは京都大学理学研究科の早瀬元氏によって発見された 2 官能性 及び 3 官能性ケイ素アルコキシドから合成されるマシュマロのような柔軟性を持つ 多孔性ゲルの俗称である.マシュマロゲルは内部に多数の細孔を有し,撥水性,親油 性を持つ. マシュマロゲルはケイ素アルコキシドをもちいて合成される柔軟多孔性素材であ り,シリコーンゴム・樹脂の主成分として知られるポリジメチルシロキサン(PDMS) に似た高分子構造を持つ. マシュマロゲルは酸-塩基 2 段階ゾル-ゲル反応中で界面活性剤を用いて重合シラノ ールの相分離を抑制しつつ,スピノーダル分解を構造凍結させることによって生成す る. 3.2. ゾル-ゲル法4) ゾル-ゲル法とは無機・有機金属塩の溶液を出発溶液とする.この溶液を加水分解 および縮重合反応によりコロイド溶液とし,さらに反応を促進させることにより流動 性を失った固体を形成させる方法であり,ガラスやセラミックスを作成する際に利用 される比較的新しい方法である.ゾル-ゲル反応では通常の加水分解反応は非常に遅 いため,反応には酸または塩基触媒を用いることが多い. 加水分解反応は触媒により大きく変化し,生成物の形状にも影響を与える.酸触媒 を使用した場合の加水分解は求電子反応による.溶液中の H3O+ はアルコキシル基(-OR; R=CnH2n+1)の酸素に対して攻撃し、SiOR を SiOH とし,結合が切れることによ り生成した R+は HO-と結合しアルコールを副生成物として形成する.反応が進むに つれてアルコキシル基と H2O が減少するため,加水分解反応速度は徐々に低下する. この加水分解反応が始まると同時に縮重合反応も始まり,脱水縮合を起こす. これらの反応が進行すると生成するシロキサンポリマーは直鎖状に近い構造とな り、絡み合うことで3次元編み目構造を構成し,自由に動き回ることができなくなる ために流動性を失ったゲルとなる.酸触媒(フッ酸を除く)のみを使用した場合は反応 性が低く,密度の低いゲルを形成しやすいため,ゲル化までに長時間を必要とし,H2O や副生成物であるアルコール等を内部に多く含んだゲルを形成する.

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3 3.3. 界面活性剤5) 界面活性剤は疎水基と親水基を持ち,その両方の部分で水と油が互いに反発して分 離してしまうのを防ぎ,両者をつなぎとめる役割を果たす物質である.界面活性剤を 水に溶かしたとき,自身が持つ疎水基と水との反発をなるべく少なくするため,以下 の 2 つの方法をとる.一つは図 1 のように親水基を水中に残し,疎水基を空気中に突 き出す方法であり,もう一つは図 2 のように界面活性剤どうしで疎水基を寄せ合って 少しでも疎水基と水との接触面を減少させようとする方法である.後者がミセル形成 の現象である. 界面活性剤はその種類によって親水性の程度が異なっている.親水性の程度を表す 数値を HLB といい,以下の計算式で定義される. 非イオン性界面活性剤の HLB 値の定義は以下のようになり,この値が大きければ 大きいほど親水性が大きい. 親水基部分の分子量 界面活性剤の分子量× 100 5 = 親水基重量 �疎水基重量+親水基重量�× 100 5 = �親水基の重量%�×15 3.4. スピノーダル分解6) 二つ以上の純物質が溶け合った溶液が時間と共に相分離するとき,一般的にはある 1 種類の物質の核が生じ,その核にその物質が集まるようにして相分離を起こす核生 成-成長型と呼ばれる方法をとる.しかし,まれに明確な核の形成を伴わずに濃度の揺 らぎのみによって相分離を起こすものがあり,これをスピノーダル分解と呼ぶ.

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4 3.5. θ/2 法と撥水性の判断基準7)

水滴と固体表面とのなす角(接触角,図 3)を測定する方法.

図 3. 水滴と固体表面の接触角

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5 液滴は円の一部とみなし,△OLK と△KLH が相似であることから Ɵ=γ △OKH もまた相似であり内角の和が π であるから β+γ+π 2=π △OJK は二等辺三角形であるから 2(α+β)=π 式(1),(2)を連立して解けば y=2ɑ=Ѳ tanα = a b 2 � α= tan-12a b ∴θ=2 tan-1a b 上記証明より a と b を測り, θ=2 tan-12a b に代入することによって接触角を得る方法. 接触角 90°以上で撥水性を示し,150°以上で超撥水性を示すと定義する.

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6 3.6. マシュマロゲル反応機構8) まず,下記二つの加水分解が起こる. nSi(OCH3)3CH3+3nH2O→nSi(OH)3CH3+3nCH3OH nSi(OCH3)2(CH3)2+2H2O→nSi(OCH3)2(CH3)2+2nCH3OH そののち,さらに下記の重合反応が起こる. Si(OH)3CH3+Si(OH)2(CH3)2→(HO)2(CH3)Si-O-Si(OH)CH3 (HO)2(CH3)-Si-O-Si CH3 (OH)CH3+Si(OH)2(CH3)2

→(HO)2Si-O-SiCH3(OH)-O-Si(CH3)2(OH) ただ,この縮重合の反応パターンはいくつもあるうちの一つにすぎず,実際に生成 するマシュマロゲルは他のパターン(2 官能+2 官能,3 官能+3 官能)の反応も含まれ ていると考えられる. これを考慮すると.下記のような反応比率になっていると思われる.

4

Scheme 3.6.1. マシュマロゲル生成における重合反応 4. 実験 4.1. 試薬  尿素 urea 分子式 CH4N2O 分子量 60.06 融点 133℃ 沸点 135℃ 危険性:軽度の皮膚刺激

+3

R Si OH HO O Si R O Si O O R Si OH R Si R O O Si OH R Si OH OH R O Si O O Si O O

H

2

N

O

NH

2

(7)

7  シュウ酸 oxalic acid 分子式 C2H2O4 分子量 90.03 凝固点 39℃ 融点 17℃ 沸点 118℃ 危険性:引火性 金属腐食のおそれ  ジメチルジメトキシシラン Dimethoxydimethylsilane 分子式 C4H12O2Si 分子量 120.22 凝固点 -5℃ 沸点 81℃  トリメトキシメチルシラン Trimethoxy(methyl)silane 分子式 C4H12O3Si 分子量 136.22 凝固点 13℃ 沸点 103℃ 危険性:皮膚刺激  ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド Dodecyltrimethylammonium Chloride 分子式 C15H34ClN 分子量 263.89 凝固点 246℃ 危険性:皮膚刺激 N+ Cl

-Si

O

O

O

HO

O

OH

Si

O

O

O

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8  トリメチルテトラデシルアンモニウムクロリド Myristyltrimethylammonium Chloride 分子式 C17H38ClN 分子量 291.95 危険性:皮膚刺激  ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド Hexadecyltrimethylammonium Chloride 分子式 C19H42ClN 分子量 320.0 水溶液は弱酸性~中性 危険性:呼吸器への刺激のおそれ  トリメチルステリルアンモニウムクロリド Octadecyltrimethylammonium Chloride 分子式 C21H46ClN 分子量 348.06 危険性:経口もしくは直接接触で有 害  日清キャノーラサラダ油 主成分はオレイン酸 4.2. 器具 ビーカー,メスピペット,マグネチックスターラー,撹拌子,ガラス棒,ウォータ ーバス,薬包紙,角度測定器,お茶パック,乾燥剤,ビニール袋,紙コップ,温度計, ピンセット,ゴム手袋,針金,カッターナイフ N+ Cl -N+ Cl -N+ Cl

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-9 4.3. 実験操作 4.3.1. ゲルの合成 1) メチルトリメトキシシラン 3.0 cm3とジメチルジメトキシシラン 2.0 cm3をそれ ぞれ測り,紙コップに入れたケイ素アルコキシド溶液を 4 つ作る. 2) ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド 0.8000 g,トリメチルテトラデシル アンモニウムクロリド0.8848 g,ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリ ド 0.9697 g,トリメチルステリルアンモニウムクロリド 1.0548 g を量り,それ ぞれを 1)で作成した溶液に入れ,それぞれに尿素 5.00 g,5 mmol dm-3シュウ酸 水溶液 15 cm3を加える. 3) 2)の紙コップ内の溶液をマグネチックスターラーで室温にて 1 時間攪拌し,そ の後蒸発を防ぐためにセロテープで上部分に蓋をし,80℃に設定したウォータ ーバスで 8 時間加温する.その後生成物を水でよく洗い流して未反応物及びア ルコールを除去する. 4) ろ紙で生成物を挟み,圧搾を行って余分な水分を取り除く. 4.3.2. 収量及び収率の評価 1) ゲル生成前のドデシルトリメチルアンモニウムクロリド,トリメチルテトラデ シルアンモニウムクロリド,トリメチルステリルアンモニウムクロリドの重量 を記録する. 2) ゲル生成後の収量を記録して収率を計算する. 4.3.3. 撥水性の評価 1) ゲルの表面に水滴を落とし,その接触角をθ/2 法を用いて計算する. 4.3.4. 吸油性の評価 1) 生成したそれぞれのゲルを 1 cm×1 cm×0.2 cm にカッターナイフで削り出す. 2) 1)のゲルをキャノーラサラダ油に約 1 時間つけ,その後油から取り出して 0.5 時 間宙づりにして余分な油を落とす. 3) キャノーラサラダ油の重量を電子天秤で測り,吸い取った油の重量を記録する.

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10 5. 展望 界面活性剤の基本構造が変わらないとき,親油基の長さを長くすればミセル中央の ケイ素アルコキシドに入り込もうとする性質が大きくなってミセルが大きくなり,短 くすればその性質が小さくなってミセルが小さくなると考えられる.ミセルが大きく なれば触媒であるシュウ酸に触れているケイ素アルコキシドの表面積が減るため生成 するマシュマロゲルの内部構造は粗になり,逆にミセルが小さくなればその表面積は 大きくなるのでマシュマロゲルの内部構造は密になると考えられる. ここでマシュマロゲルの内部構造が粗であればあるほど吸油性が上がると考えられ るが粗でありすぎれば内部に油を保有する能力が下がるため,適度に粗である方が吸 油量が増加すると思われる. 反応に時間がかかるが木曜日にゲル生成,金曜日に性質評価を行う予定であるので 8 月までには一通りの実験操作が終わると考えられ,その後はそれまでの結果を踏まえ た上で試薬の量の微調整に充てる予定である. 参考文献 1) GEN『ふにふにふわふわ☆マシュマロゲルがスゴい!?-Chem-Station』 http://www.chem-station.com/blog/2013/01/post-476.html 2) 京都大学『水と油を効率的に分離できる柔軟多孔性物質(マシュマロゲル)の開発 に成功-原油回収や分析化学での応用に期待-』 http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2012/130111_2.htm 3) 京都大学『水も油もよく撥く柔軟多孔性物質「超撥水・超撥油性マシュマロゲル」 の開発に成功 -汚れを寄せ付けない素材として応用に期待-』 http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2013/130906_2.htm 4) 東京理科大学土谷敏雄,西尾圭史『ゾル・ゲル法によるセラミックスの合成 “有 機-無機ハイブリッドイオン伝導材料

”』

http://www.hst.titech.ac.jp/~meb/Ceramics/hybrid/hybrid.htm 5) 藤本武彦,『新・界面活性剤入門』,三洋化成工業株式会社,1973 年, p12-15,127-129 6) 樋口健志,『相分離現象を利用した多孔質材料』 http://www2.yz.yamagata-u.ac.jp/research/seeds/pdf22_j/3_17higuchi.pdf 7) 新潟大学大学院自然科学研究科『接触角の概算』 http://www.gs.niigata-u.ac.jp/~kimlab/lecture/math/estimating_contact_angle.html 8) 作花済夫,『ゾル・ゲル法の科学:機能性ガラスおよびセラミックスの低温合成』, アグネ承風社,1998,p30-31

図  3.  水滴と固体表面の接触角

参照

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