359 『岡山大学法学会難詰』第58巻第3冒 し2009年2月)
担保保存義務に関する一考察
1判例・学説の推移㈲11
I間接義務概念の導入・制度の位置付けの対立・民法第三九二条との交錯・特約論の登場・その他
㈲ ﹁間接義務﹂概念の導入L− ドイツ法の注入
︵以上本誌五六巻三・四=ヱ は 制度の位置付けの相違卜柚木説と西村説を中心に
刷 民法第三九二条一一項との制度的交錯1複雑化の新たな安国
潮 担保保存義務の免除特約論
㈱ その他の問題点 ︵以上本誌五七巻∵三 ㈲ 小括 − 判例・学説の大枠形成
四 後期の判例∴字説1・企業法務の展開︑判例・学説による制度の微調整
㈲ 特約論の重占ルル〜−L議論の座標軸の変換 ︹以上本誌五七巻二ロケ︶
闇 妾件の﹁不確定安閑﹂ − 判例・学説一金融実務家の主張からの摘化
畑 議論の擦れ違いとその背景1法的思考の視点から ︵以上本誌五七巻三﹈勺.︶
五 黄近の判例・学説の動向とその到達点
伸 免除特約の﹁援用制限﹂判決の出現 − 昭和五〇年代の高裁判決
嘲 免除特約の﹁空洞化﹂ の叫び〜金融実務の反応︑新たな学説
潮 日管何故平成二年判決の登場 − 重過失要件の追加 はじめに 一 間題設定 初期の判例・学説 − 動揺期 中期 ︵入正・昭和初期︶ の判例・学説
︵以⊥本誌五七巻四号︶ ︵以上本誌五六巻二号︶
明 博
㌧ ・
同 法(58−3) 360
㈲ 懸念された問題の現実化−−解除ケースの出規
血 最高裁平成七年刊次の登場
温 室局栽平成七年判決の再検討∵ト判例法押の到達点と確された課遮
㈲ 免責効果の性質 − 判例・学説の到達点とその再検討
加† 最高裁平成二年判決の分析
② 免責効果の再検討− 担保保存義務制度の趣旨・原理部分から
㈲ 民法三九二条二項との枠組みの﹁交錯﹂
㈲ 判例・学説の推移 従来の判例−判例の変 化
刷 従来の学説
伸 学説の推移
廟 民法三九二条二項の代位の ﹁性質﹂
㈲ 最高裁平成四年判決∵−√判例法理の形成
回 最高裁平成四年判決の分析
㈲ 学説・金融実務の評価
抑 最高裁平成四年判決を妥斗とする説
困 不法行為構成を支持する説
い 金融実務の評価﹀後順位祇当確者の代位期待
ゆ 最高裁平成四年判決の再検討
回 判例理論の再検討・ 後順位抵当権者の代位期待
㈲ 民法三九二条の法意 − 民法五〇凹条との対比
川 民法三九二条の位置付け
叫 民法三九二条二項の趣旨 − 制度の ﹁沿革﹂から
州 民法三九l﹂条二項﹁削除論﹂1−∴甲田説の根拠
け 後順位抵当権者の地位 − 比較法的概観
国 後順位抵当権者の代位期待とその保護−新たな対応策 ︵以上本誌五八巻∴号︶ ︵以上本誌五八巻ヶ︶
361担保保存兼務に関する→考察
為メ其不動産二付債権全部ノ弁済ヲ受クルコトヲ得サル場合二始メテ取得スルモノニシテ一番抵当権者力右ノ弁済 ㈲ 民法lニ九二条二項との枠組みの﹁交錯﹂
金融機関から融資を受ける場合︑土地と建物あるいは複数の土地に抵当権が設定されることが多い︒その場合︑
先順位の共同抵当権者に続いて後順位抵当権者が存在することが珍しくない︒このような事実関係において︑先順
位の共同抵当権者が後順位抵当権者の代位期待の対象となる抵当権を放棄した場合︑後順位抵当権者としては自己
の代位利益が保護されるどうかが重要な問題となる︒
① 判例・学説の推移
川 従来の判例 − 判例の変化
まず︑﹇12﹈大決大六・一〇ニー二民録二三■一四一〇は︑﹁第一順位ノ抵当権ノ臼的タル数箇ノ不動産中ノ︼部ノ
上二第二順位ノ抵当権ノ設定アル場合二於テ一番抵当権者力民法第三百九十二条第二項前段ノ規定二従ヒ二番抵当
権ノ目的タル不動産ノ代価ノミニ付弁済ヲ受ケタルトキハ二番抵当権者ハ同条項後段ノ規定二依り一番拭当権着こ
代位シテ抵当権ヲ行ブコトヲ得ルモ此代位権ハ一番抵当権者力二番抵当権ノ目的不動産ノミニ付キ弁済ヲ受ケタル
ヲ受ケサル限リハニ香抵当権者ハ単二代位スルコトノ希望ヲ有スルこ過キサルモノトス然レハ一番抵当権者力二番
一五 五 最近の判例・学説の動向とその到達点 仰 問題点の整理 両 所たな対応策
六 むすび ︵以上本号︶
同 法(58→3)362
代位と物上保証人のする代位とが衝突した事案︶︒
右のように︑﹇42﹈判決は主な争点において﹇32﹈判決と同様であり︑後順位抵当権者は損害賠償を請求したのに対
して︑判決は残抵当権の行使は可能であるとしその請求を棄却したが︑その中で重要な価値判断の転換が見られる︒ 第三百九十二条及第五百四条ノ法意ヲ類推スルニ依リテ知ルヲ得ヘシ﹂とした︒その後︑﹇柑﹈最判昭四四・七・三 民集三一㌻八・∵一九七は︑﹇42﹈大判昭一 ニ将来古代位権ヲ取得スルこ至ルヘキ希望ヲ有スルニ過キサルカ故二縦令此ノ場合二光順位抵当権者力次順位抵当 権ノ臼的タル物件以外ノ不動産二付有セル抵当権ヲ舶棄シタレハトテ之ヲ以テ直二次順位抵当権者ノ権利ヲ侵害セ ルモノト断スルコト能ハス﹂としたっ
ところがその後︑判例理論に変化が生ずる︒﹇42﹈大判昭一一・七・一四民集一五・一国〇九は︑﹁民法第五百四条
ノ規定ハ第五百条ノ規定二依リテ代位ヲ為スヘキ者アル場合二於テ債権者力故意又ハ願意二固リテ其ノ担保ヲ喪失
又ハ減少シタルトキハ代位ヲ為スヘキ者ハ其ノ喪失又ハ減少二田り償還ヲ受クルコト能ハサルニ至りタル限度二於
テ其ノ黄ヲ免ルト云ワニ過キス而モ拭当権ノ一部︵即チ同一債権ノ担保クル数個ノ抵当不動産中ノ戎モノニ対スル抵当
権︶ヲ馳棄シタリトテ其ノ残部ノ抵当権︵即チ爾余ノ不動産二村スル抵当権︶ハ勿論存在スルカ放二其ノ行使ヲ為シ得
サルノ道理無シ唯本件ノ如キ場合二於テハ抵当権ヲ実行シ競売代金ノ配当ヲ為ス二当り先順位紙当権者ハ其ノ地棄
ノ目的タル抵当物件ノ価額二準シ次順位抵当権者二村シ優先弁済ヲ受クルヲ得サルハ必シモ多言ヲ侯タス這ハ民法 位権ハ先順位ノ抵当権者力其ノ抵当権ヲ実行スル以前二在リテハ末夕発生セサルモノニシテ該次順位抵当権者ハ単 三六
抵当権ノ目的不動産ノミニ付弁済ヲ受クルニ先チ他ノ抵当不動産二付抵当権ヲ放棄スル場合ハ二番抵当権者ハ其放
棄ヲ妨クヘキ何等ノ権利ヲ有スルモノこ非サルナリ﹂︑とした ︵傍線・筆者⁚以下同様︶︒
また︑﹇32﹈大判昭七・一一・T一九民集一山 二二九七は︑﹁民法第三石九十二条第一▲項二基ク次順位抵当権者ノ代
・七・一四民集一五・一円〇九を踏襲する ︵第二順位の抵当権者のする
3631封呆保存義務に関する¶一考察
つまり︑残抵当権を実行して配当をするに当たり︑先順位抵当権者はその放棄の目的である抵当物件の価額に準じ
後順位抵当権者に対して優先弁済を受けることができないとしたのである︒これは︑先順位抵当権者に﹁制裁﹂を
課してでも︑後順位抵当権者の代位を保護しようとする価値判断が窺える︒
従来の判例の流れを整理すると︑第一に︑請求原因として担保保存義務違反が正面から主張されていないことが
分る︒登記官吏の不当処分に対する再抗告の件︵﹇12﹈決定︶︑損害賠償事件︵﹇32﹈﹇42﹈判決︶ である︒
第二に︑代位の期待利益の位置付けに違いがある︒﹇12﹈決定﹇32﹈判決においては︑民法三九二条二項による代位
の期待は法的に保護するに値する利益とは解されていない点が注目される︒これに対して︑﹇42﹈判決は判例理論の
転換を示唆している︒確かに﹇42﹈判決も損害賠償の請求を認めておらず︑この結論については抵当権者の自由選択
権を前提にした判断であり︑担保価値の効率的利用という民法三九二条二項の趣旨に従った解釈である︒そこから
推論をすれば︑後順位抵当権者の代位期待を強く保護する必要性は導かれないはずである︒しかし︑﹇42﹈判決は︑
後順位抵当権者の代位期待を強く保護している︒その判断の根底には︑先順位抵当権者による行為によって筏順位
抵当権者の代位権が不利益を被ることは放置されるべきではなく︑代位の期待・地位は法的に保護されるべきもの
であるとの価値判断があったものと思われる ︵先述二一輝︶︒
㈱ 従来の学説
仰 学説の推移 戦前の学説を概観すると︑伸﹇42﹈判決の結論について︑大筋において口語仙する脱がある︵田
島︑浅井︶︒ただしその中には︑理論構成において不十分とする主張が見られる︵山田嵐︶︒しかし︑﹇42﹈判決とは異
なる主張が複数見られる︒すなわち︑㈲抵当権を放棄をした先順位抵当権者に不法行為責任の追求を認める説︵戒
能︶︑困放棄には後順位抵当権者の同意を要するとする説︵石田︵文︶︶︑刷抵当権を放棄しても後順位抵当権者に対
抗できないとする説︵末弘︶がある︒㈲説によれば︑不法行為による損害賠償の問題となり︑担保保存義務の問題
三七
同 法(58、3) 364
二八
から切り離Lて処理されることになる︒また︑先順位抵当権者に後順位抵当権者を侵害する認識または認識可能性
があることが要件となり︑担保の放棄について違法性が必要となる︵民法五〇四条構成との違い︶︒回説によれば︑そ
もそも後順位抵当権者の同意がなければ︑先順位抵当権者は担保の放棄ができなくなり︑﹇42﹈判決とは推論の前提
が異なってくる︵﹇42﹈判決は同意なしに放棄できることを当然の前提とする︶︒刷説は︑抵当権を放棄しても後順位抵当
権者に対抗できないとする︒これは︑担保放棄には相対的効果しかないと考えているからではないか︵先述三㈱︶︒
戦後の学説には︑回後順位抵当権者の代位の目的となるべき共同抵当権は︑後順位抵当権者の同意がない限りは
放棄できないとし︑その同意を得ないでした放棄は︑後順位抵当権者に対する関係では無効であるとする説︵香川⁚
右両説と同旨︶︑凧判例の考え方と結果的に同じになるが︑共同抵当権者が一つの目的不動産上の抵当権のみを放棄
したときは︑共同抵当権者があらかじめ各日的不動産の価額に按分比例して抵当金額の割付を行い︑単独抵当と化
したものの一つを放棄したものとみなして処理すべきとする説︵鈴木︵禄︶ただしその後に改説︶︑㈲共同抵当権者
はその放棄の対象となった不動産について自ら抵当権を実行することはできないが︑他の不動産より全額の債権に
ついて優先弁済を求めることを妨げるものではなく︑その場合に次順位抵当権者はあたかも放棄がなかった場合と
つJ一 同様に︑放棄の目的である不動産に民法三九l血条二項によって代位できるとする説︵柚木・高木︶がある︒そのよう
な状況において︑多くの学説が判例︵﹇42﹈大判昭一一・七・T四民集一五・二四〇九︑﹇68﹈最判昭門別・七二二民集二三・
八二二九七︵先述1い︶︺を支持し︑共同抵当権の放棄については︑他に傾聴すべき説もあるが︑一応判例は固まっ ︵4 たとする見方が現れるようになる︒
5ノ じ性質であるとし︑差異を認める説は少ないとの分析があヮ㌢たとえば︑我妻説によると︑法文は︑民法三九二条
二項末尾が﹁その抵当権に代位して抵当権を行使することができる﹂と起め︑弁済者の代位に関する民法五〇〇条 ㈲ 民法三九二条二項の代位の﹁性質﹂ 従来の学説は民法三九二条二項の代位を民法五〇〇条の法定代位と同
365 担保保存義務に関する・考察
旨に基づくものであるとされる ︵1後述②㈲㈲︶︒
わが国では従来︑両条の差異を正面から議論してこなかったといえるのではないか︒このl点は研究の空自部分で
あり︑埋める必要がある︒
︵1︶ 香川保一﹁共同抵当に関する諸問題 二ハ︶一会法二六五号一六〇百ハ ︵昭三六︶︒
︵2︶ 鈴木禄弥・抵当制度の研究二三九二門〇百ハ ︵昭四三.︸︒その後︑鈴木博士は︑二刀の物件の所有者が債務者︑他方の物件
の所有者が物上保証人である限り︑物上保証人の利益保護の観点から︑物上保証人が使先するとL︑旧説を改めるとされてい
る ︵鈴木禄弥﹁最近担保法判例雑考﹂︵10︶判夕五一六号二八頁 ︵昭五九こ︒
︵3︶ 柚木啓二日間木多喜男・担保物権法 ︵第三版︶ 三八七二八八東 ︵昭五七︶︒
︵4︶・古館清吉﹁共同抵当権の代価の配当二藤林益三・石井眞司編・判例・先例・金融取引法法 ︵新訂版︶ 所収︶ 蛸三〇頁︵昭
六三∵ 判例を支持する有力な主張として︑学説には︑我妻栄・新訂担保物権法四五﹂へ頁︵昭四三︶︑井健・担保物権法一円
八頁 ︵昭五〇︶ など︑金融実務からは佐久間弘道・共同抵当の理論と実務三七二百ハ へ半七︶ がある︒
︵5︶ 船越隆司1弁済者の代位﹂ 古鏡野英一編集代表・民法講座4債権総論・所収︶ 三五九頁︵昭六〇︶︒
︵6︶ 耗棄・前掲書注︵4︶四四九頁︒なお乗近の学説としては︑近江説は︑民法五〇〇条と民法三九二条二項における代位の性質
は︑﹁求償権﹂が分水嶺になるか否かは疑問があるとし︑民法五〇〇条の代位と民法二九二条丁一項の代位は同一的件質の代位
と考えてよいとする ︵先述1㈱甘届坤控︵1︶︶︒民法三九二条二項の代忙も民法五〇〇条の代位も法理を異にするものの︑法 債権者に帰すべき金銭を弁清したのではないから︑ここでほ代位ほ問題となり得ない︒これに対して︑ボアソナー た︒ボアソナードがこの通用を認めたのは︑各抵当不動産をその代価に比例して一つの債務に割り当てるという趣 ドは︑フランスにおけるこのような厳格な区別にとらわれず︑弁済における法定代位を抵当権の法定代位に適用し ﹁6﹂ が﹁当然に債権者に代位する﹂と定めるのとやや異なるが︑違った意味に解する必要はないとされる︒この点につ いて︑民法三九丁一条二項の立法過程を辿ると︑民法五〇〇条との差異をあいまいにしてきたことが窺える︒後述の ように︑フランスでは︑代位は︑代位権者によってなされた弁済を前提とする︒ところが︑後順位債権者は先順位
一二九
同 法(58、3) 366
㈲ 最高裁平成四年判決 − 判例法理の形成
先順位の共同抵当権者が後順位択当確者の代位期待の対象となる抵当権を放棄した場合に︑後順位抵当権者とし
ては自己の代位利益が保護されるか︒この未解決の関越について︑最高裁としてその立場を明らかにしたのが︑﹇101﹈
最判平四・一丁﹂ハ民集四六・八・二六二五である︒本件の事実関係の概要は次の通りである︒
Y銀行は︑昭和五四年山二月一七日︑0に対する債権を押保するため︑物上保証人Mから甲物件及び丁物件につ
き︑A根抵当権の設定を受け︑同月一八日︑その旨の登記を経由し︑また︑昭和五五年七月三二日︑0に対する債
権を担保するため︑MからH物件︵甲物件及び乙物件︶︑口物件︵丙物件及び丁物件︶につき︑B根抵当権の設定を受
け︑同年八月五日︑その旨の登記を経由Lた︵り
Ⅹは︑昭和五一九年七月一六H︑物上保証人Mから甲物件につき︑D根抵当権の設定を受け︑同年九月二七日︑そ 閃○
律上当然に抵当権が移転する点では同一であるとする主張が金融実務家にもある︵佐久間・前掲茸托︵4︶二王二空
しかし最近では︑両制度の違いに言及する︑モ張が︑学説だけでなく金融実務の専門家からも多く見られるり弁済者代位制度 は保証人等の﹁求償権﹂を確保する制度であるのに対して︑民法三九二条は︑求償権の存在を必誓とせず︑後順位抵当権者の
抵当債権の確保をする制度であるという点である︵先述1㈲肺両国刷︶︒なお︑民法二元二条二項後段の法定代位は︑弁済者 代位と異なり︑担保権が把推していた臼的物の価値変形物への追及制度である﹁物上代位﹂に類似・近接しているとの指摘が
あるe民法一二九二条二項後段ほ︑その要件とLて︑舐当権の実行の場合であり後順位抵当権者による任意弁滴の場合でないこ と︑求慣権の存在ほ問題とならないこと︑その効果とーそ︑代位の客体は他の不動産上の先順位抵当権に限定されており︑﹁債
権の効力及び担保と﹂てその債権者が有していた一切の権利﹂︵民法亙〇一条本文︶ではないこと︑などの良で弁済者代位と
異なるからである寺闇正春﹁共同抵当における物上保証人の代位と後順位抵当権者の代位について﹂同埠二一巻五=六号三
一二百只二昭五吾ノ︶∩民法三九哀の法理と民法五〇〇条以下の法理はその趣旨も構成も遥つており︑本来的にはその適用領域
を異にするものである︵横悌次﹁共同抵当をめぐる代位と抑保保存義務﹂愛犬一些二号三二〇百二愛知大学創立▲五〇周年記念 特輯︑平九こ︒
367 細保保存義務に関する一考察
の旨の登記を経由した︒
Mは︑昭和五五年一二月二土日︑Hに対し︑H物件につき売買予約をし︑昭和五大年一月八日︑所有権移転の仮
登記を経由した︒
Ⅹは︑昭和五六年一月一二日︑債務者0及びHから︑0の経理内容が思わしくないので︑甲物件を処分し︑銀行
に対する債務の返済をしたいので︑D根抵当権を解除してもらいたいとの申し出を受けたため︑これに応ずること
にし︑甲物件につき︑D根抵当権を解除し︑同日︑D根抵当権設定登記の抹消登記手続を経由し︑その代わり︑同
日︑口物件にC根抵当権を設定し︑その旨の登記を経由した︒
Mは︑昭利五人年七月二四口︑Hに対し︑H物件を代金一億四五三一万三七〇〇円で売り渡し︑同日︑その旨の
所有権移転登記を群由した︒
ところが︑昭和五六年九月頃︑0が倒産したので︑Yは︑A︑B根抵当権を実行する予定であった︒しかし︑Y
は︑Hが︑同年∵0月二〇H︑Yに対し︑0のA︑B根抵当権の被担保債務を代位弁済するのと引換えに︑甲物件
に対するA根抵当権及びり物件に対するB根抵当権を放棄し︑その各根抵当権設定登記の抹消登記手続をするよう
求めたので︑昭和五七年二月一五日︑Hから六五五五万九八六二日の代位弁済を受け︑同月一八日︑甲物件に対す
るA根抵当権及びH物件に対するB根抵当権を放棄し︑その各根抵当権設定登記の抹消登記を経由した︒
その後︑Yは︑0に対する残債権を回収するため︑丁物件に対するA根抵当権及び□物件に対するB根抵当権を
実行し︑昭和五八年二月二四日︑丁物件の売却代金三一人八万九〇〇〇円から︑被担保債権六八〇九万三四一円に
ついて︑競売手続費用八六万三八一四円を控除した■二一〇∴万五一八大円の配当金を受領した︒そのため︑Ⅹは︑
右配当期日時点における0に対するC根抵当権の被担保債権二四五二万九一五五円について︑配当を受けることが
できなかった﹁ そこで︑Ⅹは︑Yに対し︑不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権に基づき︑一一
四一
同 法(58−3) 368
凹二
四五二万九一五五円の利得金または損害金の支払を求めて提訴した︵なお控訴審においては請求額を一四一六万八一八
六円としている︶︒Ⅹの主張は︑次の通りである︒
すなわち︑もしYがH物件についてのA及びB根抵当権を放棄しなかったならば︑口物件の次順位根抵当権者で
あるⅩは民法三九二条二項後段によりH物件に代位しうる権利を有するのであるから︑Yは︑根抵当権を放棄消滅
させたH物件の負担額分のうち少なくとも放棄がなかったならばⅩがH物件の根抵当権に代位できたⅩの前記債権
額二四亘一万九山五五円の限度において︑口物件の競売代金から優先弁済を受けられないというべきである︒しか
し︑Yは︑三一〇二万五∵八六円の配当金を受領し︑法律上の原因なくしてⅩの損失において右配当金のうち二四
五二万九一五五円を利得したものであって︑右利得につき悪意というべきである︒
Yは︑H物件についてのA及びB根抵当権を放棄すれば︑□物件の次順位根抵当権者であるⅩが有するH物件に
代位しうる権利を侵害することを知り︑あるいは容易に知り得たのに︑所有者であるMから物件を買受けたHと
相謀り︑Hに利益を得させんがためその要求に応じ︑H物件の担保価値が少なくとも二倍三四九四万円を下るもの
でないのにHからわずか六土五五万九八六二円を受領することにより︑しかも︑残物件︵口物件︶ の競売によりY
の残債権の満足が得られなかったときはHが補償することを条件に︑り物件についてのA及びB根抵当権を放棄し
てⅩの正当な代位権行使を抹殺し︑もつて︑Xに対し︑右放棄がなかったならばⅩがH物件につき代位権を行使す
ることにより最終的に弁演を受けることができたⅩの前記債権額二凶五二万九一五五円相当の損害を与えたと主張
した︒
これに対して︑Yは︑民法二九二条二項後段の代位の規定は共同抵当物件が債務者所有の場合に限って適用され
るというのが判例の確定的見解であるところ︵大判昭和四年一目三〇口︑最判昭和四四年七月三日参照︶︑本件H及び口
の物件はいずれも債務者0の所有ではなく︑物上保証人Mの所有であるから同条項の適用はなく︑Ⅹには法律上代
369 担保保存義務に関する一考察
位権がないので︑代位権があることを前提としたⅩの主張は失当であるっ仮にそうでないとしても︑後順位抵当権
者は︑民法一二九二条二項により先順位抵当権者の競売物件以外の物件についての抵当権につき代位できる場合で
あっても︑現実に競売の結果代位権を取得するまでは一種の期待権を有するにすぎず法律の保護に偵するものでは
ないと反論した︒
一審は︑次のように述べて︑Ⅹの請求を棄却した︒すなわち︑
﹁民法二九二条二項後段の代位の規定は︑共同︵根︶抵当の目的物件の全部が債務者の所有に属する場合にのみ
適用があるというべきであって︑物上保証人提供の不動産が共同︵根︶抵当の目的物件の一部又は全部を構成して
いる場合には同条項の適用はなく︑後順位︵根︶抵当権者はそもそも同条項の代位権を取得しないと解するのが相
当である一⁚大判昭和一㌻年一二月九R民集一五巻二四号二一七二頁︑長一小判昭利四四年七月三日民集二三巻八号一二九七
頁参照︶︒けだし︑他人の債務について物的な責任を負う物⊥保証人が掟供したその所有不動産の担保価値の利用
は︑物上保証人をしてなさしめるのが一層妥当というべきであって︑もし民法丁二九二条二項後段により後順位l︑根︶
抵当権者に代位を認めると︑物上保証人は︑右代位される物上保証不動産に存在する ︵根︶抵当権を抹消するため
に︑物上保証の被担保債権全額と当該物上保証不動産に割り付けられた額との双方を弁済しなければならなくなり︑
物上保証不動産が本来の債務だけでなく︑債務者の他の債務をも担保する結果となって︑物上保証人が不当に害さ
れることになるからである ︵また︑右により物上保証人が代位弁済すると︑物上保証人の代位と後順位抵当権者の代位と
が無限に循環することにもなる︒︶﹂
﹁民法三九l一条二項後段の代位は︑先順位共同︵根︶抵当権者と後順位︵根︶抵当権者との権利行使の調整を問題
とするものというべきであって︑共同︵根︶抵当の目的物件として物上保証人所有のものが存在するため物上保証
人と後順位︵根︶抵当権者との間の権利行使の調整が問題になる場合については︑最高裁昭和五二年七月四日判決
四二
同 法(58−3) 370
四四
︵民集三二巻五号七人五頁︶︑大審院昭和一一年一二月九日判決︵民唾二†巻二川号二︼七二莫︶が判示するように︑後
順位︵板︶ 抵当権者は民法三九二条二項後段による代位権は取得しえないが︑物上保証人が民法五〇C条の法定代
位によって取得Lた ︵根︶抵当権の上に一種の物上代位︵民法三七二条︑二〇四条︶をなし得ると解することによっ
て両者の利益の調整を図ることが相当であり︑後順位︵根︶抵当権者は右の限度において保護されるというべきで
ある︒﹂
﹁口物件の後順位根抵当権者であるⅩは︑物件について代位することができないものであって︑先順位の共同
根抵当権者であるYがH物件の根抵当権を放棄してもなんら不利益を被る地位にはなノ\ また︑本作では物⊥保証
人の法定代位を観念する余地もないのであるから︑結局︑ⅩがH物件につき代位しうる権利を有することを前提と
したⅩの不当利得又は不法行為の主張は︑その余の点につき判断するまでもなく︑失当というべきであるい﹂とし
た︒
これに対して︑控訴審は︑一番判決を取り消し︑次のように述べて︑Ⅹの請求をほぼ認めた︒すなわち︑
﹁債権者が債務者所有の甲︑乙一一個の不動産に第一順位の共同抵当権を有し︑その後右甲不動産に第二順位の抵
当権が設定された場合︑共同抵当権者が甲不動産についてのみ抵当権を実行したときは︑右共同抵当権者は︑甲不
動産の代価から債権全額の弁済を受けることができるが︵民法三九二条二項前段︶︑これに対応して︑第二順位の抵
当権者は︑共同抵当権に代位して乙不動産につき抵当権を行なうことができるものとされている ︵同条同項後段︶︒
したがって︑共同抵当権者が︑右抵当権の実行より前に乙不動産上の抵当権を放棄し︑これを消滅させた場合には︑
放棄がなかったならば第二順位の抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位できた限度で︑右第二順位の抵当権者に
優先することができないと解すべきである︵大審院昭和二年七月一四口判決︑民集一五巻一七号一四〇九頁︑最高裁昭
和四四年七月三H第一小法廷判決︑民集二二巻八号﹁一九七頁参照︶︒﹂
371担保保存義務に関する一考察
﹁被控訴人は︑民法三九二条二項後段は︑共同︵根︶抵当の目的物件の全部が債務者の所有に属する場合にのみ
適用があると主張し︑大審院昭和四年一月三〇日︑新聞二九四五号一三貫︑大審院昭利一一年一二月九日判決︑民
集一五巻二四号二一七二百ハ︑最高裁昭和四四年七月■二日第一小法廷判決︑民集二三巻八号一二九七頁︑日璽.1伺裁昭和
五三年七日四日第三小法廷判決︑民集三二巻五号七八五頁を援用する︒しかし︑右挙示の判例の事案は︑いずれも︑
第三者である物上保証人の民法五Cn条による代位権が存する場合において︑後順位抵当権者の民法三九二条二項
後段に基づく代位権の優劣ないし存否が問題となったものであるが︑本件は︑共同︵根︶抵当権の目的物全部が一
人の物上保証人の所有に帰属している場合であるから︑右物上保証人の民法五〇〇粂に基づく代位権と後順位抵当
権者の民法≡九二条二項後段に基づく代位権との徳突は起こりえないから︑被控訴人の右主張は採用できない︒﹂
﹁被控訴人が︑H物件についてのA及びB根抵当権を放棄しなかったならば︑控訴人は︑民法三九二条一一項後段
により︑被控訴人に代位して右根抵当権を行うことができたものであるから︑被控訴人は︑本件競売手続において︑
右放棄がなかったならば︑控訴人が石板抵当権に代位できた限度で︑控訴人に優先することができないというべき
である︒﹂
これに対して︑Yは︑民法三九二条二項後段は︑共同抵当物件が債務者所有の場合のみ適用されるのであって︑
抵当物件の全部または一部が債務者以外の者の所有に属する場合は︑この規定の適用がないと主張して︑上告した︒
﹇101﹈最判平四・一一・六民集四六・八∴一六二五は︑次のように判一小LてYの上出‖を棄却し︑最高裁としての立
場を明らかにするに至る︒
﹁共同抵当権の臼的たる甲・乙不動産が同一の物上保証人の所有に属し︑甲不動産に後順位の抵当権が設−足され
ている場合において︑甲不動産の代価のみを配当するときは︑後順位抵当権者は︑民法三九二条二項後段の規定に
基づき︑先順位の共同抵当権者が同条一項の規定に従い乙不動産から弁済を貴けることができた金額に満つるまで︑
四五
l司 法(58−3) 372
号同四四年七月三日第一小法廷判決∴民集二三巻八号一二九七頁参照︶︑甲不動産から後順位抵当権者の右の優先額につ
いてまで配当を受けたときは︑これを不当利得として︑後順位抵当権者に返還すべきものといわなければならない
︵最高裁平成二年︵オ︶ 第一八l一〇号同三年三月二二日第二小法廷判決・民集四五巻三号三三一頁参照こ︵傍線筆者︶︑とし
た︒ 待を保護すべきものであるからである︒甲不動産の所有権を失った物⊥保証人は︑債務者に対する求償権を取得し︑ その範囲内で︑民法五〇〇条︑五〇一条の規定に基づき︑先順位の共同抵当権者が有Lた一切の権利を代位行使し 得る立場にあるが︑自己の所有する乙不動産についてみれば︑右の規定による法定代位を生じる余地はなく︑前記 配分に従った利用を前提に後順位の抵当権を設定しているのであるから︑後順位抵当権者の代位を認めても︑不測 の損害を受けるわけではない︒所論引用の判例は︑いずれも共同抵当権の目的不動産が同一の物上保証人の所有に 属する事案に関するものではなく︑本件に適切でない︒ 四六
先順位の共同抵当権者に代位して乙不動産に対する抵当権を行使することができると解するのが相当である︒けだ
がその所有する不動産に共同抵当権を設定した場合と同様︑民法三九二条二項後段に規定する代位により︑右の期
で︑甲不動産につき︑後順位抵当権者に優先することができないのであるから へ最高裁昭利由一年︵オ︶第一二八四 る抵当権を放棄したときは︑先順位の共同抵当権者は︑後順位抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位し得る限度
し︑後順位抵当権者は︑先順位の共同抵当権の負担を甲・乙不動産の価額に準じて配分すれば甲不動産の担保価値
に余剰が生ずることを期待して︑抵当権の一設定を受けているのが通常であって︑先順位の共同抵当権者が甲不動産 の代価につき債権の全部の弁済を受けることができるため︑後順位抵当権者の右の期待が害されるときは︑債務者そして︑右の場合において︑先順位の共同抵当権者が後順位抵当権者の代位の対象となっている乙不動産に対す
373 担保保存義務に関する一考察
の担保価値に余剰が生ずることを期待して︑抵当権の設定を受けているのが通常﹂であるとの﹁前提﹂ に立つ︒そ
の上で︑﹁後順位抵当権者の右の期待が害されるときは︑債務者がその所有する不動産に共同抵当権を設定した場合
と同様︑民法三九二条二項後段に規定する代位により︑右の期待を保護すべきものである﹂とし︑後順位抵当権者
の代位期待を厚く保護している︒そして︑配当後の調整として︑後順位抵当権者に不当利得の返還を認める根拠と
して︑﹁先順位の共同抵当権者が後順位抵当権者の代位の対象となっている乙不動産に対する抵当権を放棄したとき
は︑先順位の共同抵当権者は︑後順位抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位し得る限度で︑甲不動産につき︑後
順位抵当権者に優先することができないのであるから ︵最高裁昭和四一年へオ︶第一二八E号同国四年七月三日第J小
法廷判決・民集二三巻八号一二九七頁参照︶﹂とし︑﹇槌﹈最判昭四四・七・三民焦一三 一・八・一二九七を引用している︒
もっとも︑﹇棉﹈判決の焦点は債務者所有物件上の後順位抵当権者と物上保証人との優先関係にある事案である︒﹇鰭﹈
判決は︑﹇42﹈判決︵大判昭一丁七二四民集一五・一七・一四〇九︶によっているが︑﹇42﹈判決は損害賠償請求の可
否についての事案である︒﹇42﹈﹇68﹈判決ともに︑後順位抵当権者の代位期待に関する部分は傍論である︒
﹇101﹈判決の根底にある理論を辿っていくと︑﹇42﹈判決︵傍論︶ に行き着く︒﹇42﹈判決が後順位抵当権者の代位期
待を厚く保護する立場に言及するが︑その理由ついては︑民法三九二条二項と民法五〇四条の法意とを類推すると
四七 当権者としては自己の代位利益が保護されるどうかが問題となるっ最高裁平成四年判決︵﹇101﹈未刊平凶・一一・六民 集四六・八二一六二五︶は︑その点が問題となった事案である︒ ㈲ 最高裁平成四年判決の分析
金融機関から融資を受ける場合︑複数の不動産に抵当権が設定されることが多い︒そこには︑先順位の抵当権者
に続いて後順位抵当権者が存在することが珍しくない︒先順位の共同抵当権者が抵当権を放棄した場合︑後順位抵
﹇101﹈判決は︑﹁後順位抵当権者は︑先順位の共同抵当権の負担を甲・乙不動産の価額に準じて配分すれば甲不動産
同 法(58−3) 374
ることを期待Lて︑抵当権の設定を受けているのが通常﹂であると言い切る︒この点ついて︑﹇101﹈判決の調査官解
説は︑後順位抵当権者は︑共同抵当権の目的不動産の一部に後順位の抵当権の設定を受けるにつき︑先順位の共同
抵当権の被担保債権が抵当不動産の価額に応じて割り付けられることを前程に︑その残余の担保価値があればこそ︑
後順位の抵当権の設定を受けているとし︑他方︑物上保証人も︑担保提供に伴う負担を最終的には債務者に求償L
うるとしても︑先順位抵当権者に担保提供した後の目的不動産に右の割付けに従った残余の担保価値があればこそ︑
その一部を後順位抵当権者に担保提供し得たというのが通常であるとする︒しかし実際に︑後順位抵当権者は﹇川1﹈
判決に述べるような確かな期待をもって抵当権の設定を受けるのが﹁通常﹂なのだろうか︒民法三九二条二項は異
特配当における後順位抵当権者の代位について規定しているだけで︑先順位抵当権者の優先弁済権を犠牲にしてま
で後順位抵当権者を保護する趣旨なのだろうか︒ 当権者は︑先順位の共同抵当権の負担を甲・乙不動産の価額に準じて配分すれば甲不動産の担保価値に余剰が生ず しか述べておらず︑その ﹁法意﹂ の中身については言及していない︒
㈲ 学説・金融実務の評価
怖 最高裁平成四年判決を妥当とする説 ﹇川﹈最判平川■一山・六・民集四六・八∴宍二五の結論を支持す
る説が有力である︒
共同抵当権の目的不動産が同一の物卜保証人に属する場合には︑自己の他の物件から求償権を確保するなどとは ﹇川﹈判決は︑民法三九二条二項の枠組みを﹁超える﹂解釈をとっているのではないのか︒﹇101﹈判決は︑﹁後順位抵
︵1︶ 滝澤孝臣・最高裁判所判例解説民事篇 ︵平成四年度︶ 四六六頁︵平七︶︒
375‡則呆保存義務に関する・考察
廟 不法行為構成を支持する説 これに対して︑共同抵当権の目的となった不動産の一部について抵当権の放
棄が行われたときの︑後順位抵当権者の民法三九二条二項後段の規定する代位権の保護は︑民法五〇四条からただ
四九 考えられず︑自己の他の物件に対する代位を認めることは妥当でないとし︑﹇101﹈判決の判断はきわめて妥当とする
︵1︺ もの︑民法三九二条は共同抵当権者の自由な権利行使を認めながらも︑これによって後順位抵当権者の代位に対す
る期待を害してはならないとの理念を示し︑民法五〇四条は代位に対する期待を法的に保護するものとしており︑
これらの規定の趣旨に照らせば︑放棄によって後順位者の代位に対する期待を害することはできないという判例の
判断は支持せざるをえないとするもの︑共同抵当権の目的不動産の全部が同一の物上保証人の所有に属する場合は︑
︑3 後順位抵当権者の割付への期待は保護されるとするものがある︒なお︑﹇川﹈の結論に賛成する金融実務の専門家も
︵4﹂ ある︒
最近の体系書によると︑債権者が乙不動産上の抵当権を放棄して︑甲不動産を競売した場合︑甲不動産上の後順
位抵当権者について︑放棄の効果を尊重しっつ︑最低限︑異時配当で甲不動産がまず競売された場合に甲不動産上
lJ一 の後順位抵当権者が得られたであろう地位を確保する︑という観点から︑﹇州﹈判決を支持する説が有力であ与
︵1︶ 近江幸治・平成叫隼度重刑解七大頁 ︵平五︶︒
︵2︶ 鎌M薫・金法一三六門号三四〜三五百ハ ︵判研︑平五∴ 大塚首∵民法判例百選﹇1﹈ ︵第五版︺一九五頁 ︵乎一三︶いもっと
も︑鎌田教授は︑合理的理由を有する一部担保解除に伴うリスクを二万的に共同抵当権者に押し付けることのない果敢な解決
方法を模索する必要があるとされる ︵鎌田・同右二五百ハ一︒
︵3︶ 生熊長幸・法教五二号一四五首 ︵判研︑平五﹁
︵4︶ 案光昭・NBL五一九号五一百︵判研︑平五︶︑秦光昭・金法二二一四四号五頁︵判研︑平五∴
︵5︺・円柑貴・民法Ⅲ ︵第三版︑平一七︶ 四七一四七二百ハ︑道垣内弘人・担保物権法 ︵第三版︑平二〇し 二〇五−二C六頁︒
同 法(5R3) 376
五〇
ちに導き出されないとし︑そこで︑共同抵当権の目的不動産の一部に対する抵当権の放棄にともなう後順位抵当権
者の代位権の侵害については︑不法行為に基づく損害賠償の問題として︑放棄した抵当権者と後順位抵当権者の間
−− で処理すべきだとする説がある﹁り担保保存義務違反による免責の場合には︑共同抵当権者の帰貢事由として︑﹁故
意﹂﹁願意︵過失︶﹂が要求されているが︑何故に後順位抵当権者に対する関係では︑結果責任になるのか疑問であ
る︒民法三九二条二項は︑後順位抵当権者の代位制度を規定するが︑共同抵当権者がどの物件から抵当権を実行す
るかによって後順位抵当権者間に不公平が生ずることを調整する制度であるり ﹇m﹈判決のように︑先順位の抵当権
者の優先権を犠牲にしてまで︑後順位抵当権者の代位権を保護する意味まで含むものではない︒判例の態度はあま
りにも後順位抵当権者の保護に傾斜しすぎているのではないか︒担保の放棄に際しての共同抵当権者の客観的︑主 リ⊥ノ 観的状況を考慮する必要があり︑それには不法行為責任を考えるのがよいとする説がある︒
︵−︶ 角紀代恵・判夕八二三号﹂ハ六頁 ︵判研︑平五∵
︵2︶ 高木多言男﹁後順位抵当権者のための共同抵当権者の柑保保存﹂金法一二八二号二六貪︵平六﹁高木多善男・リマークス
八号一l▲九百二判研︑平六一へ改説て‖後藤巻則﹁共同抵当における利害関係人の利益の調整と民法≒九一▲条の適用﹂民研五五四
号一〇白ハ ︵平一五︶︒なお︑原則として共同抵当権者に放棄の日由を認め︑詐害的な場合にのみ︑権利濫用などを理由として︑
共同抵当権者に二妃の責任を負わせる方が︑実務感覚にも合致し︑理論的にも可能だとする主張がある ︵森昌彦﹁共同抵当権
を一部放棄した場合の後順位抵当権者保護の必要性¶北大法学研究科ジュニア・リサーチ∴ンヤーナル二号二一七頁︵平六︶︶︒
また︑代位の期待を持たない後順位抵当権者には︑判例理論を適用しない必要があるとするものがある ︵丸山絵美子・法学五
八巻一号二一九頁 ︵判研︑平Lハ︶︶︒
い 金融実務の評価1後順位抵当権者の代位期待 ﹇101﹈判決に対して︑金融実務から次のような強い疑問が示
されている︒
377 担保保存義務に関する・一考察
すれば甲不動産の担保価値に余剰が生ずることを期待して︑抵当権の設定を受けているのが通常﹂ であるとの前掟
で推論している︵先述回︶︒しかし実際には︑後順位抵当権者の代位の期待は﹇川1﹈判決が述べるようなものではない
とすれば︑推論の前提が異なることになり︑﹇101﹈判決の推論およびその結論は妥当性を欠くことになる︒
なお︑担保を一部解除する際に︑すべての担保物件について︑登記を再確認し︑後順位の権利関係の状況をチェッ
クして︑後順位者の権利を保護する義務まで課すとすれば︑それは先順位の共同抵当権者にあまりに酷な義務を課
すことになるとするもの︑すべての所有者が債務者または同一物上保証人の場合における後順位抵当権者の存在に
五リ ければ︑各物件への割付額がどうなるかという計算はできないという現実があるとされる︒そうだとすると︑後順 位抵当権者の代位の期待は確かなものではないことになる︒特に︑後順位抵当権者が一方の物件にだけ抵当権を設 定したようなときは︑もっぱら対象となる物件に対してだけ担保余力を当てにしているとすれば︑代位の期待はほ とんどないに等しいことになる︒
で設定する抵当権者はもっていなくても︑もっぱら対象となる物件に対してだけ担保余力をみるのが︑これまでの 大方の設定の実務ではなかったかとされる︒また︑後順位抵当権者が甲物件に抵当権を取得した後︑先順位抵当権
者が︑追加担保として乙物作に第一順位抵当権を設定した場合︵いわゆる追加的共同担保︶︑甲物件の後順位抵当権者∵1 は甲−乙不動産の価格に準じた配分を受けるという期待はもっていないとされる︒さらに︑実際には競売してみな 金融実務の専門家によると︑実務では︑同一の物上保証人から担保提供を受けることが多いが︑同一の物上保証 人提供の担保に関する問題はこれまで表面化しなかったとされる︒その原因は︑実務現場の慣行・指導にしたがっ て︑共同担保物件の全部に後順位で抵当権を設定する者が多かったため︑この種の紛争が目立たなかったのではな いかとされる︒他方︑一方の物件に抵当権を設定するときは︑先順位が共同抵当権かどうかという認識は︑後順位
これに対Lて︑﹇101﹈判決は︑﹁後順位抵当権者は︑先順位の共同抵当権の負担を甲・乙不動産の価額に準じて配分
同 法(58−3) 378
当権を放棄することは︑後順位抵当権者には十分予想されたことである︒
次に︑担保価値の正確な評価は︑金融機関でさえ雉しいとされる︒仮に正確な評価ができたとLても︑担保の設
定後に担保価値の変動もありうる︒そこで︑共同抵当不動産が相互に補完L合うメリットのある狭義の共同根抵当 ② 最高裁平成四年判決の再検討
㈲ 判例理論の再検討1−後顧位抵当権者の代位期待
先述のように ︵㊥価︶︑﹇101﹈ 最判平四・二 こハ民集四六・八・二六二五は︑民法三九二条二項による後順位抵
当権者の代位期待を手厚く保護している︒しかし︑後順位抵当権者Ⅹの代位期待は︑はたLて判例法理が述べる程
に手厚く保護されるべき性質を有する利益なのだろうか︒
まず︑実務では︑目的不動産の一部が任意売却されることが珍しくなく︑抵当権者がその売却代金を受領して抵 五二
﹁1︺ までは︑留意が及ばないことがありうるとする指摘があるっ
以上のことから︑後順位抵当権者の地位︑具体的には後順位抵当権者の代位期待をどのように捉えるかによって
結論が異なることになる︒
︵1︶ 百井眞司・伊藤進・上野隆司﹁同一の物上保証人提供の共同担保物件の二部の抵当権解除と後順位拭当確者の代位﹂手形四
八〇号三−三﹂一頁︵鼎談・上野氏発言︶ ︵平五︶︒
︵2︶ 石井ほか・前掲注︵1︶鼎談三二百 ︵石井氏発言王
へ3︶ ︺皿光碩・判ク八い二国号二二八貞︵判研︑平六︶︒
︵4︶ 佐久問弘道▲金法一三五二号二〇寅 ︵判研︑平五︶︒
が利用されている︒担保価値をグロスでとらえても対応できるからである︒後順位抵当権者の代位は予想通りにい
379 担保保存義務に関する一一考察
甲不動産の担保価値に余剰が生ずることを期待Lて︑抵当権の設定を受けているのが通常﹂ であるとの前程で推論
しているが︑実際には︑後順位抵当権者の代位︵民法三九二条二項︶は担保価値の余剰を確実に期待できる利益では
ないことが多い︒
したがって︑民法三九二条二項の代位と他人の債務を弁済した保証人の求償権の確保手段である代位︵民法五〇
〇条︶とは︑原理部分でその趣旨を異にすることが窺える︒担保保存義務︵民法五〇四条︶は︑保証人を中心とする
民法五〇〇条による代位を裏から支える制度であり︑民法三九二条二項の代位とは次元が異なる︒民法三九二条.一
五.二 強くなる︒﹇川1﹈判決は︑﹁後順位抵当権者は︑先順位の共同抵当権の負担を甲・乙不動産の価額に準じて配分すれば が一般的とされる︒というのは︑後順位抵当権者は抵当権を実行しても思うような配当が見込めない場合が少なく ないため︑被担保債権額をかなり下回る提示忽でもそれに応じる方がまLだと考えるからである︒民法三九二条二 項の代位期待は︑いわゆる判子代に値する程度のものであることが多く︑順位が後になればなるほど︑その傾向が の物件にも抵当権を設定しておくべきであったと思われる︒なお︑実務の現場では︑任意売却によって物件を換価 する場合が多いが︑両方の物件に抵当権を設定しておけば︑代位を期待する物件の任意売却を阻止することができ る︒
後順位抵当権者の代位期待の実態を︑任意売却の場合について分析すると︑興味深い︒抵当権者に競売を取り下
げてもらい︑買手の多い不動産市場で高額で任意売却するには︑﹁00位の額で売却できそうなので︑貴社には△△
円の返済をする﹂と申し出てそれを条件に︑任意売却について抵当権者全員の同意をとらなければならない︒問題
は︑後順位抵当権者への提示額であるい実際には︑﹁判子代﹂と称して︑数十万円を提ホしそれで合意が得られるの くものではなく︑かなりの誤差を覚悟する必要がある︒後順位抵当権者の代位へ民法三九二条二項︶は︑確実に期待
できる利益ではない︒そのことから︑もし後順位抵当権者が他の物件への代位を強く期待していたのであれば︑そ
同 法(58→3) 380
条及第五百四条ノ法意ヲ類推スルニ依リテ知ルヲ得ヘシ﹂︑とする ︵民法五〇四条の法意1先述㈲②仙㈲刷︶︒
それでは︑民法三九二条二項の法意とはなにを意味するのか︒民法三九二条二項の趣旨とはなにか︒以下では︑
この点を中心に検討する︒
仰 民法三九二条の位置付け 民法三九二条は一項と二項に分けて異なる内容の規完を置いている︒民法三九
二条一項は︑﹁債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において︑同時にその代価
を配当すべきときは︑その名不動産の価額に応じて︑その債権の負担を按分する︒﹂と規定する︒これは︑いわゆる
﹁同時配当﹂ の場合の規定であり︑各不動産の価額に応じてその債権の負担を積分し分担させることによって︑後
順位抵当権は満足させられる︒他方︑民法三九二条一▲項は︑﹁債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき
抵当権を有する場合において︑ある不動産の代価のみを配当すべきときは︑抵当権者は︑その代価から債権の全部
の弁済を受けることができる︒この場合において︑次順位の抵当権者は︑その弁済を受ける抵当権者が前項の規定
に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として︑その抵当権者に代位して抵当権を行使すること
ができる︒﹂と規定する︒これは︑いわゆる﹁異時配当﹂の場合の規定であり︑共同抵当権者は数個の不動産の中か
ら任意のものを競売し︑その代価から弁済を受けることもできるが︑後順位抵当権者は︑同時配当の場合に他の不 当物件ノ価額二準シ次順位抵当権者二対シ優先弁清ヲ受クルヲ得サルハ必シモ多言ヲ侯タス這ハ民法第三百九十二 五囲
項の ﹁趣旨﹂﹁法意﹂が問題となる︒
㈲ 民法三九二条の法意−−民法五〇四轟との対比
﹇1nl﹈判決は︑﹇68﹈最判昭四四・七二二民集二三・八・二一九七を引用し︑﹇柑﹈判決は﹇42﹈判決︵大判昭二・七・
一四民集t五二七二四C九︶を踏襲している︒﹇101﹈判決の元になった﹇42﹈判決は︑その結論を導く理由として︑
﹁唯本件ノ如キ場合二於テハ抵当権ヲ実行シ競売代金ノ配当ヲ為スニ当り先順位抵当権者ハ其ノ地棄ノ目的タル抵
381担保保存義務に関する−一考察
㈲ 民法三九二条二項の趣旨Tl・制皆の﹁沿革﹂から 問題は︑民法三九二条二項の趣旨である︒同条二項は︑
フランス民法ではなく︑イタリア旧民法に由来するとされる︒イタリア旧民法二〇一一条一項は︑ある債権者が一
個若しくは数個の不動産の上に抵当権を有する場合において︑共同抵当権を有する先順位の債権者が︑ある不動産
の代佃によって満足を受け︑そのため︑その後順位の抵当権者がその不動産から満足を得られないときは︑この後
順位の抵当権ほ︑満足を受けた先順位債権者が抵当権を有している他の不動産にも及び︑かつ︑満足を受けた先順
位債権者の有している抵当権に代位することができることを規定する︒
その ﹁立法趣旨﹂ によると︑後順位抵当権者の代位椎を否定すると︑共同抵当権を有する債権者が︑特定の後順
位抵当権者に不利益を与えることができるようになり︑不当であるとし︑衡平の原則から︑代位を認める条文を置
五五 後順位抵当権者がいることが多いため︑後順位抵当権者間の利益調整を考慮する制度設計がなされている︒すなわ
ち︑わが国の民法は︑共同抵当権者が目的たる数個の不動産の中の任意のものから全額の弁済を受けることができ
動産が負担すべき金額を限度として︑これに代位することができるとし︑同時配当の場合と同一の結果となるよう に調整している︒このように︑共同抵当では︑抵当権者は︑どの抵当権から実行するかも自由で︑同時に全部の抵当権を実行する
こともできるとされ︑共同抵当権者には﹁自由選択権﹂が与えられている︒その一方で︑実際には︑各不動産には
るという主義と割付主義とのいわば一種の﹁中間主義﹂をとっている︒
丁−︶ 我妻栄・新訂担保物権法四二七−四二八頁︵昭四三∴高木多喜男∵新版⁚托郡民法︵9︶物権︵4二柚木等・高木多善男編︶六
四−六二ハ頁︵平一〇︶︒
同 法(58−3) 382
てソ︼ 各抵当不動産をその代価に比例して一つの債務に割り当てるという趣旨に基づくものであるとされる︵傍線筆者︶︒ 五六
いたとされる︒また︑代位を否定すれば︑複数の不動産の上に共同抵当権を有する債権者が︑それらの不動産の一
つにつき抵当権を有する債権者と共謀して︑その昔を︑共同抵当権の他の目的不動産の上に抵当権を有する債権者
よりも有利にすることができる︒そのような方法によって︑後者の債権者が利益を受けようとLている債権者より
も時間的に先行するときであっても不利益を被ることになる︒このようなことは︑優先順位は時間的先後によると
いう原則に反L︑抵当権制度の根幹を間接的に侵すことになり︑許されないとされた︒
ボアソナードは︑右 のイタリア旧民法二〇一一条を参照して︑民法草案一二五六条を起草した︒草案一二五人条
二項は︑異時配当の場合において︑ある債権者が不動産のうちのある代価によって︑全額の弁済を受け︑その不動
産につき後順位の抵当権を有する債権者が損失を受けたときは︑その後順位の債権者は︑自己の債権の代りに︑そ
の相互の順位をもって︑他の各不動産について︑満足を一安けた先順位債権者の有している抵当権に代位することが
できる︑と規定する︒
ボアソナードは︑各抵当不動産を︑その代価に比例して︑一つの債務に割り当てるのが法律の目的であるとし︑
代位の範囲に制限を加えている︵イタリア民法との遠い︶︑ゝ フランスの判例は︑イタリア民法二〇一一条に啓発され
て︑ボアソナード民法草案一二五六条二項と同じ解決に到達したが︑フランスの判例が認めた法定代位はその後支
持を得られなかった︒というのは︑この見解が︑﹁弁済のどんな状況とも無関係に法定代位の場合を創設し︑しか
も︑︵フランス民法︶一二五一条二号と相容れない﹂ものであったからである︒フランスでは︑代位は︑代位権者に
よってなされた弁清を前提とする︒ところが︑後順位債権者は先順位債権者に帰すべき金銭を弁済Lたのではない
別にとらわれず︑弁済における法定代位を抵当権の法定代位に適用した︒ボアソナードがこの適用を認めたのは︑ から︑ここでは代位は問題となり得ない︒これに対して︑ボアソナードは︑フランスにおけるこのような蕨格な区
383 担保保存義務に関する−一考察
ていない土地の価格をどのように評価するかが問題となるからである︒実際に近い評価額を求めようとすれば鑑定
を要するが︑鑑定には時間がかかるため︑代位者は第一二者に対する関係では代位の付記登記の仮登記をしておかな
五七 ず︑このことは︑後順位者による代位がほとんど行われていないことを推測させる ︵括弧内・筆者付記︶︒しかも︑ これらの判例の事案では︑後順位者が付記登記をして代位権を行使したと見られる事件はほとんどなく︑共同抵当 の抵当権の一部を放棄した場合に︑後順位抵当権者が優先して代位できるか等を争う事案が数件ある程度である︒ その理由について︑次のような事情が考えられるとする︒ 困 民法三九二条二項﹁削除論﹂ 山田説の根拠 わが国の民法は︑共同抵当において︑債権者の自由選択権を認めるとともに︑自由選択権によって生ずる後順位 者間の不公平をなくすために︑後順位抵当権者の代位権を認めた︵民法三九﹁条二項︑民法三九﹁八条ノー六︶︒しかし︑ 後順位代位権の規定は実用性に乏しく︑後順位著聞の公平ということも実際の取引ではほとんど考慮する価値がな
︵1こ いとする学説がある ︵山田巌︶︒
後順位者代位権に関する判例で公刊されたものは︑最近︵昭和四八年時点から過去︶ 四〇年間を通じて数件にすぎ
後順位者が代位権を行使することは簡単ではない︒後順位者が代位する場合︑その前提として︑現実に競売され ︵2︶ 藤原明久﹁ボアソナード日本民法草案における抵当権の効力・消滅︵
巻三号四八七−四九一百ハ︵−1冒五六︶︒ ︵1︺ 大島俊之﹁民法三九二条の沿革とイタリア法を継愛したわが民法規定﹂神院二三巻二号二九掴頁以下 ︵平五∵大島﹁イ
タリア法との関係﹂︵椿寿夫編・担保法理の現状と課題・所収︶ 別冊NBL三号三〇八百以下 ︵平七︶︒もっとも︑イタリア
旧民法二〇り一条はイタリア現行民法二八五六条に承継されているが︑新たに追加された二八五七条は︑第三者によって抵当
に提供された物については代位することはできないとする ︵大島こ剛鴇祁院論文二八Cl二八二頁︶︒
旧民法における抵当権の前提1﹂神戸三一
同 法(58−3) 384
ようとするのだろうか︒おそらくはそうでないところに︑後順位者代位権の非実用性が表れている︒共同抵当の目
的たる土地が同一所有者に属する場合︑第二順位の共同抵当を設定することは容易であり︑第一順位の共同抵当権
者の自由選択権によって損害を被ることはないから︑第二順位の抵当権者は好んで単一抵当の設定を受ける必要は
ない︒問題は︑共同抵当の目的不動産が異なる所有者に属する場合には︑第二順位の共同抵当権を設定することが
困難かもしれない︒その場合︑目的不動産の一〃に第二順位の単一抵当権を設定するであろうか︒優越的な地位に
ある債権者が︑面倒な代位をあてにしてまで︑目的不動産の一方に後順位抵当権を設定することはまず考えられな
いとされる︒
以上のことから︑後順位代位権がほとんど実用に供せられず︑また︑きわめて錯雑なものであり︑債権者に自由
志する者が多かったため︑この種の紛争が目立たなかったのではないかとされる︒他方︑一方の物件に抵当権を設 方がよい︒後順位者が見込み違いで弁済を受けられなかった場合︑そのような見込み違いの場合に備えて代位の制 度を用意する必要はないとされる︒この学説の分析は︑ドイツ・プロイセン法との比較法的分析に基づく︵傍線筆 者︶︒ 選択権を認めることが不当に後順位者を害する結果にならないとすれば︑後順位者代位権に関する規定は削除した 五人
ければならず︑鑑定の費用は代位者の負担となる︒もし他の後順位者があくまで評価額を争うならば︑訴訟で解決
するほかはないことになる︒これに加えて︑順位の異なる後順位者が複数いれば︑代位は計算上も錯綜することに
なかったとされる︒その原因は︑実務現場の慣行・指導にしたがって︑共同担保物件の全部に後順位で抵当権を設 なる︒さてそれでは︑後順位者は代位に伴う以上のような不利益と錯推さをしのんでまで後順位の抵当権を設定L
右の学説の分析は︑先述の最近の ﹁金融実務﹂ の専門家の主張と重なる部分があり︑興味深い︒実務でほ︑同一
の物上保証人から担保提供を受けることが多いが︑同一の物上保証人提供の担保に関する問題はこれまで表面化し
385 担保保存義務に関する一考察
H 後順位抵当権者の地位1比較法的概観
ボアソナードが参照したイタリア旧民法二〇一一条は︑異時配当の場合の後順位抵当権者に代位権を認め︑その
地位を保護している︵先述旦㌦それでは︑その他の外国法削は後順位抵当権者の地位をどのように位置付けている
のだろうか︒
フランス民法においては︑異時配当の場合に︑後順位抵当権者を保護する配慮ほとくに見られない︒第一順位の
共同抵当権者は︑配当を受けるべき不動産を任意に選択することができる︒この場合︑後順位抵当権者は不利益を
被ることになるが︑それを緩和するために︑後順位抵当権者の法定代位権を認める見解と︑後順位抵当権者が先順
⊥九 計算はできないという現実があるとされる へ傍線筆者︶ ︵先述血蘭偏高︶︒ ぱら対象となる物件に対してだけ担保余力をみるのが︑これまでの大方の設定の実務ではなかったかとされる︒ま た︑後順位抵当権者が甲物件に抵当権を取得した後︑先順位抵当権者が︑追加担保として乙物件に第一順位抵当権 を設定した場合︵いわゆる追加的共同担保︶︑甲物件の後順位抵当権者は甲・乙不動産の価格に準じた配分を受けると 走するときは︑先順位が共同抵当権かどうかという認識は︑後順位で設定する抵当権者はもっていなくても︑もっ いう期待はもっていないとされる︒さらに︑実際には競売してみなければ︑各物件への割付額がどうなるかという
︵1︶ 山門嵐﹁共同担保と後順位者代位権 − 民法三九二条二項削除論﹂金法﹂ハ八九号∴二八−∴二九頁︵昭四人︶︒その後︑昭
和丘C年代以降についても︑民法三九↓一条二項に関する公刊された判例・裁判例は数件にとどまる︒
なお︑比較法的考察から︑民法三九二条二項後段による後順位抵当権者の保護は糾限的解釈に付Lてしかるべきとする主張
がある ︵斉藤和郎﹁共同抵当権における代位 二︶ トー後順位抵当権者と物上保証人の優劣関係︑その類型的検討∵﹇ノ﹂法
相五七巻九号七六1七七頁︵昭五九︶︶=