奥行き融合型立体錯視の解明と 3 次元表示への適用に関する研究
Research on Clarification of Depth-Fused 3-D Visual Illusion and its Application to 3-D Display
2007 年 8 月
早稲田大学大学院 国際情報通信研究科 国際情報通信学専攻
人工現実表現と知的コミュニケーション・
ユビキタス環境情報システム研究Ⅱ
髙田 英明
i
目次
第 1 章 序 論 ... - 1 -
1.1 研 究 の背 景 ... -1 -
1.2 研 究 の目 的 ... -3 -
1.2.1 長 時 間 視 聴 可 能 で人 に優 しい裸 眼 立 体 表 示 の重 要 性 ... - 3 -
1.2.2 DFD(Depth-Fused 3-D)錯 視 現 象 の発 見 ... - 3 -
1.2.3 研 究 課 題 ... - 4 -
1.3 本 論 文 の構 成... -7 -
第 2 章 従 来 技 術 および DFD 錯 視 現 象 ... - 8 -
2.1 はじめに ... -8 -
2.2 立 体 視 の要 因... -8 -
2.2.1 生 理 的 要 因 ... - 8 -
2.2.2 心 理 的 要 因 ... - 10 -
2.2.3 立 体 視 要 因 の奥 行 き感 度 ... - 14 -
2.3 従 来 の 3 次 元 表 示 方 式 ... -15-
2.3.1 3 次 元 表 示 方 式 の歴 史 と分 類 ... - 15 -
2.3.2 2 眼 式 立 体 表 示 方 式 ... - 16 -
2.3.3 多 眼 方 式 ... - 22 -
2.3.4 超 多 眼 方 式 ... - 23 -
2.3.5 奥 行 き標 本 化 方 式 ... - 24 -
2.3.6 ホログラフィ ... - 28 -
2.3.7 電 子 ホログラフィ ... - 28 -
2.4 従 来 の 3 次 元 表 示 方 式 の問 題 点 ... -30-
2.4.1 生 理 的 要 因 の矛 盾 ... - 30 -
2.4.2 表 示 装 置 構 成 の複 雑 さ ... - 32 -
2.5 DFD(DEPTH-FUSED 3-D)錯 視 現 象 ... -33-
2.5.1 基 本 原 理 ... - 33 -
2.5.2 網 膜 像 と単 位 の定 義 ... - 34 -
ii
... - 35 -
2.5.4 奥 行 き知 覚 モデル ... - 38 -
2.5.5 視 点 位 置 ... - 40 -
2.5.6 DFD 錯 視 現 象 の明 らかとなっている部 分 ... - 44 -
2.6 まとめ ... -45-
第 3 章 DFD(DEPTH-FUSED 3-D)錯 視 現 象 の範 囲 と限 界 の解 明 ... - 46 -
3.1 はじめに ... -46-
3.2 前 後 2 面 間 距 離 の融 合 限 界 の評 価 ... -46-
3.2.1 評 価 方 法 ... - 47 -
3.2.2 評 価 結 果 ... - 49 -
3.2.3 考 察 ... - 52 -
3.3 前 後 2 面 の像 の大 きさの影 響 評 価 ... -54-
3.3.1 DFD 錯 視 現 象 の生 じる観 察 範 囲 ... - 54 -
3.3.2 前 後 像 の大 きさの違 いによる影 響 評 価 ... - 56 -
3.3.3 前 後 画 像 の大 きさを同 一 にした DFD 表 示 方 式 の提 案 ... - 60 -
3.3.4 考 察 ... - 63 -
3.4 まとめ ... -64-
第 4 章 輝 度 除 算 型 DFD 表 示 技 術 ... - 66 -
4.1 はじめに ... -66-
4.2 透 過 型 表 示 デバイスを用 いた輝 度 除 算 型 DFD 表 示 方 式 ... - 66-
4.2.1 輝 度 加 算 型 と輝 度 除 算 型 DFD 表 示 方 式 の光 学 特 性 ... - 66 -
4.2.2 輝 度 除 算 型 DFD 表 示 方 式 での DFD 錯 視 現 象 ... - 68 -
4.2.3 表 示 例 ... - 70 -
4.3 主 観 評 価 ... - 71-
4.3.1 評 価 方 法 ... - 71 -
4.3.2 評 価 結 果 ... - 73 -
4.4 プロトタイプによる実 証 ... - 74-
4.5 まとめ ... -75-
iii
第 5 章 偏 光 型 DFD 表 示 技 術 ... - 76 -
5.1 はじめに ... -76-
5.2 偏 光 型 DFD 表 示 方 法 ... - 76-
5.3 前 面 と後 面 の輝 度 の加 算 性 の実 験 と評 価 ... -79-
5.3.1 輝 度 の加 算 性 の実 験 ... - 79 -
5.3.2 主 観 評 価 ... - 80 -
5.4 プロトタイプによる実 証 ... - 82-
5.5 まとめ ... -82-
第 6 章 表 示 システムへの DFD 表 示 技 術 の適 用 ... - 84 -
6.1 はじめに ... -84-
6.2 従 来 の DFD 画 像 の生 成 ... - 84-
6.3 DFD 輝 度 分 配 モジュール ... - 85-
6.3.1 画 像 入 力 インタフェース ... - 86 -
6.3.2 位 相 同 期 処 理 ... - 86 -
6.3.3 輝 度 分 配 処 理 と補 正 処 理 ... - 87 -
6.3.4 画 像 サイズ調 整 処 理... - 89 -
6.3.5 画 像 出 力 インタフェース ... - 89 -
6.4 プロトタイプによる実 証 ... - 90-
6.5 まとめ ... -92-
第 7 章 結 論 ... - 93 -
7.1 総 括 ... - 93-
7.2 今 後 の展 望 ... - 96-
謝 辞 ... - 97 -
参 考 文 献 ... - 99 -
研 究 業 績 ... - 103 -
iv
- 1 -
第 1 章 序論
1.1 研究の背景
近 年 の 光 フ ァ イ バ 技 術 や 無 線 技 術 の 発 達 に よ り 、広 帯 域・高 速 ネ ッ ト ワ ー ク イ ン フ ラ の 構 築 が 進 み 、映 像 を 中 心 と し た 高 臨 場 感 通 信 サ ー ビ ス の 実 現 が 期 待 さ れ て い る 。高 臨 場 感 通 信 が 実 現 す る こ と で 、場 を 共 有 す る 新 た な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン [1]が 可 能 と な る 。 現 実 と 区 別 が つ か な い 程 の 高 臨 場 感 を 実 現 す る 要 素 と し て は 人 間 の 5 感 (視 覚・聴 覚・触 覚・嗅 覚・味 覚 )を 全 て 再 現 す る こ と が 理 想 と な る が 、そ の 中 で も 視 覚 と し て 影 響 を 与 え る 映 像 技 術 は こ の 高 臨 場 感 の 実 現 に は 大 き な 役 割 を 果 た し て い る 。映 像 技 術 の 研 究 と し て は 広 視 野 、高 精 細 、 高 階 調 、3 次 元 な ど 各 種 の 検 討 が 進 め ら れ て い る が 、そ の 中 で も 3 次 元 映 像 は 、 電 子 博 物 館 、 ゲ ー ム 機 や シ ミ ュ レ ー タ 、 携 帯 型 端 末 等 へ 応 用 す る こ と に よ り 、 2 次 元 映 像 に 比 べ て 臨 場 感 を 飛 躍 的 に 高 め る こ と の で き る 重 要 な 要 素 で あ る と 考 え て い る 。ま た 、遠 隔 操 作 や デ ザ イ ン 、医 療 等 に 応 用 す れ ば 、操 作 の 容 易 さ や 確 実 性 を 飛 躍 的 に 高 め る こ と も 可 能 で あ る 。
3 次 元 映 像 の 表 示 手 段 と し て は 、こ れ ま で に も 観 察 者 に 特 殊 な 3D メ ガ ネ を か け さ せ る こ と で 右 眼 と 左 眼 へ 別 々 の 画 像 を 提 示 し て 立 体 感 を 得 ら れ る よ う に し た 2 眼 式 (色 メ ガ ネ 方 式 、偏 光 メ ガ ネ 方 式 、時 分 割 メ ガ ネ 方 式 )[2]や 、3D メ ガ ネ な ど を 用 い ず に 表 示 装 置 の 表 示 面 上 に 右 眼 と 左 眼 の 画 像 を 分 離 さ せ る 光 学 系 を 配 置 し て 立 体 感 を 得 ら れ る よ う に し た 2 眼 式 (パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア 方 式 、 レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ 方 式 )[3]、こ れ を 応 用 し て 複 数 の 方 向 か ら の 画 像 を 提 示 で き る よ う に 表 示 装 置 の 表 示 面 上 の 光 学 系 を 工 夫 し た 多 眼 式 [4]、 複 数 の 方 向 か ら の 画 像 を 観 察 者 の 眼 の 瞳 孔 内 に 複 数 入 射 す る よ う に し て 自 然 な 立 体 感 を 得 ら れ る よ う に し た 超 多 眼 方 式 [5]、 奥 行 き 方 向 に 離 散 的 に 複 数 の 表 示 面 を 積 層 し て 立 体 感 を 得 ら れ る よ う に し た 奥 行 き 標 本 化 方 式 ( 可 変 焦 点 レ ン ズ 方 式 [6][7]、光 源 回 転 方 式 [8])、積 層 画 像 に よ り 奥 行 き を 知 覚 す る 微 分 両 眼 立 体 視 法 [9][10]な ど が あ る 。ま た 、物 体 か ら の 光 線 の 方 向 を 記 録 /再 生 す る こ と で 実
- 2 -
物 に 近 い 自 然 な 立 体 感 が 得 ら れ 、画 質 が 極 め て 高 い ホ ロ グ ラ フ ィ 方 式 [11]な ど が あ る 。
し か し 、 2 眼 式 や 多 眼 式 で は 立 体 視 の 要 因 の う ち 輻 輳 と ピ ン ト 調 節 の 関 係 な ど に 矛 盾 が 生 じ て 長 時 間 視 聴 す る と 眼 や 頭 が 疲 れ る 、超 多 眼 式 で は 極 め て 多 数 の 視 線 方 向 か ら の 画 像 を 提 示 す る た め に 装 置 が 大 幅 に 複 雑 化 す る 、奥 行 き 標 本 化 方 式 で は 扱 う 画 像 の 面 数 が 多 く な り 高 速 な 表 示 デ バ イ ス が 必 要 で あ り シ ス テ ム が 複 雑 と な る 、微 分 両 眼 立 体 視 法 で は 滑 ら か で 緩 や か な 奥 行 き 変 化 を す る 特 殊 な 画 像 は 表 現 で き る が 一 般 的 な 画 像 は 表 示 で き な い 、ホ ロ グ ラ フ ィ 方 式 で は 静 止 画 は 可 能 で あ る が 動 画 化 で き る デ バ イ ス が 存 在 し な い な ど の 課 題 が あ っ た 。ま た 、多 く の 方 式 で は 、人 の 視 覚 機 能 へ の 悪 影 響 も 懸 念 さ れ る た め 、成 長 過 程 で あ る 子 供 向 け の 使 用 に は 注 意 を 要 し て い た 。
こ れ ま で に 、装 置 構 成 は 複 雑 で は あ る が 立 体 視 の 要 因 を ほ ぼ 満 足 し 、自 然 な 立 体 視 が 可 能 な 奥 行 き 標 本 化 方 式 に お い て 、物 理 的 な 複 数 の 表 示 面 の 削 減 を 目 指 し 、 連 続 的 に 焦 点 距 離 を 変 化 さ せ る こ と の で き る 液 晶 レ ン ズ の 研 究 を 進 め 、 空 間 上 に 複 数 の 平 面 画 像 を 積 層 し て 結 像 す る こ と の で き る 新 し い 3 次 元 表 示 デ バ イ ス の 研 究 を 進 め て き た [6][7]。こ の 液 晶 レ ン ズ を 用 い た 奥 行 き 標 本 化 方 式 に て 、制 御 す る 表 示 面 数 を 大 幅 に 削 減 さ せ る 方 法 に つ い て 研 究 し て い る 過 程 で 、前 後 2 面 の 間 に 像 を 融 合 さ せ る こ と が で き る 新 た な 奥 行 き 融 合 型 の 立 体 錯 視 現 象 (DFD[Depth‑Fused 3‑D]錯 視 現 象 )を 発 見 し た [12][13][14]。本 DFD 錯 視 現 象 は 、観 察 者 の 疲 労 の 問 題 に つ い て も 従 来 の 2 次 元 表 示 装 置 と 同 等 で あ る と い う 結 果 [15][16][17]も 報 告 さ れ て い る 。ま た 、本 DFD 錯 視 現 象 の 特 性 を 評 価 す る た め 、ハ ー フ ミ ラ ー を 用 い て 前 後 2 面 を 重 ね 合 わ せ る 輝 度 加 算 型 の 評 価 装 置 も 構 築 し て き て い る [12][13]。 こ の 評 価 装 置 を 用 い た 表 示 実 験 に よ り 、 3D メ ガ ネ な し で 3 次 元 映 像 を 長 時 間 で も 楽 し め る 3D デ ィ ス プ レ イ の 実 現 の 可 能 性 が 見 え て き た が 、そ の 基 礎 と な る DFD 錯 視 現 象 の 生 じ る 範 囲 や 表 示 装 置 の 基 本 構 成 、 シ ス テ ム 化 手 法 な ど に つ い て は 、 ま だ 明 ら か と な っ て い な い 。
- 3 -
1.2 研究の目的
1.2.1 長時間視聴可能で人に優しい裸眼立体表示の重要性
従 来 の 3 次 元 表 示 方 式 の 多 く は 、長 時 間 観 察 時 の 眼 精 疲 労 の 問 題 が 懸 念 さ れ 、 商 品 化 さ れ て い る も の で は 、注 意 事 項 と し て 使 用 時 間 の 制 限 、あ る い は 制 限 時 間 に て 3 次 元 表 示 を 一 旦 終 了 し 2 次 元 表 示 化 す る 対 策 が さ れ て い る 。ま た 、3D 映 画 の 上 映 に 関 し て も 、あ る 一 部 分 の み 3 次 元 化 す る こ と で 、長 時 間 の 3 次 元 映 像 の 視 聴 を 回 避 す る な ど の 工 夫 が さ れ て い る 。
し か し 、3 次 元 映 像 を 必 要 性 で は な く 新 し さ や 驚 き な ど の イ ン パ ク ト を 与 え る 目 的 で 利 用 す る 場 合 は 、そ の よ う な 対 策 も 可 能 で あ る が 、安 全 に 関 わ る よ う な 用 途 や 産 業 応 用 、更 に は 一 般 的 な 民 生 機 器 へ の 応 用 に は 対 策 が 難 し い 部 分 と な る 。
誰 も が 安 心 し て 長 時 間 の 観 察 が 可 能 な 3 次 元 表 示 を 実 現 す る こ と で 、産 業 応 用 か ら 民 生 機 器 に 至 る 全 て の デ ィ ス プ レ イ 搭 載 機 器 に て 3 次 元 表 示 が 可 能 と な り 、 安 全 で 使 い や す い 3D デ ィ ス プ レ イ の 実 現 が 期 待 で き る 。 ま た 、 3 次 元 表 示 に よ る 奥 行 き 方 向 の 新 た な 表 現 に よ り 、わ か り 易 さ や 理 解 の 促 進 な ど を 実 現 で き る 、 人 に 優 し い 表 現 手 段 と な る 可 能 性 も 秘 め て い る と 考 え ら れ る 。
1.2.2 DFD(Depth-Fused 3-D)錯視現象の発見
空 間 を 奥 行 き 方 向 に 標 本 化 し た も の を 多 数 重 ね 合 わ せ て 3 次 元 表 示 を 実 現 す る 奥 行 き 標 本 化 方 式 に お い て 、複 数 の 物 理 的 に 存 在 す る 表 示 面 の 削 減 を 目 指 し 、連 続 的 に 焦 点 距 離 を 変 化 さ せ る こ と の で き る 液 晶 レ ン ズ の 研 究 を 進 め 、空 間 上 に 複 数 の 平 面 画 像 を 積 層 し て 結 像 す る こ と の で き る 新 し い 3 次 元 表 示 デ バ イ ス の 研 究 が 進 め ら れ て き た [6][7]。し か し 、デ バ イ ス の 製 造 の 難 し さ や 制 御 の 複 雑 さ に つ い て は 、 ま だ 解 決 さ れ て い な い 。
こ の 液 晶 レ ン ズ を 用 い た 奥 行 き 標 本 化 方 式 に て 、制 御 す る 表 示 面 数 を 大 幅 に 削 減 さ せ る 方 法 に つ い て 研 究 し て い る 過 程 で 、前 後 2 面 の 間 に 像 を 融 合 さ せ る
- 4 -
こ と が で き る 新 た な 奥 行 き 融 合 型 の 立 体 錯 視 現 象 (DFD[Depth‑Fused 3‑D]錯 視 現 象 )を 発 見 し た [12][13][14]。
ま た 、本 DFD 錯 視 現 象 の 特 性 を 評 価 す る た め 、ハ ー フ ミ ラ ー を 用 い て 前 後 2 面 を 重 ね 合 わ せ る 輝 度 加 算 型 の 評 価 装 置 も 構 築 し て い る 。こ の 評 価 装 置 を 用 い た 表 示 実 験 に よ り 、3D メ ガ ネ な し で 3 次 元 映 像 を 長 時 間 で も 楽 し め る 3D デ ィ ス プ レ イ の 実 現 の 可 能 性 が 見 え て き た 。
1.2.3 研究課題
DFD 錯 視 現 象 は 、同 じ 絵 柄 の 2 つ の 画 像 を 透 明 な 前 後 2 面 に 重 ね 合 わ せ て 表 示 す る こ と で 、前 後 2 面 の 間 の 奥 行 き 位 置 に 融 合 し た 1 つ の 像 と し て 知 覚 で き る も の で あ る 。ま た 、前 後 2 面 の 輝 度 を 変 化 さ せ る こ と で 知 覚 す る 奥 行 き 位 置 が 変 化 す る 。
本 DFD 錯 視 現 象 の 生 じ る 範 囲 や 限 界 を 示 す こ と で 、適 用 範 囲 が 明 ら か と な り 、 簡 単 な 構 成 で 3D メ ガ ネ が 不 要 な 3 次 元 表 示 装 置 の 実 現 が 期 待 で き る 。 ま た 、 本 現 象 を 用 い た DFD 表 示 装 置 の 基 本 構 成 技 術 と シ ス テ ム 化 技 術 に つ い て も 示 す こ と で 、 3D メ ガ ネ な し で 簡 単 な 装 置 構 成 で 3 次 元 映 像 を 長 時 間 で も 楽 し め る DFD デ ィ ス プ レ イ シ ス テ ム を 実 現 で き る 。
課 題 1: DFD 錯 視 現 象 の生 じる範 囲 と限 界 の明 確 化
DFD 錯 視 現 象 は 、同 じ 絵 柄 の 2 つ の 画 像 を 透 明 な 前 後 2 面 に 重 ね 合 わ せ て 表 示 す る こ と で 、前 後 2 面 の 間 に 1 つ の 像 と し て 融 合 し て 知 覚 す る こ と が で き る 。 ま た 、前 後 2 面 の 輝 度 を 変 化 さ せ る と 、知 覚 す る 奥 行 き 位 置 が 変 化 し て 知 覚 す る こ と が で き る 。こ の よ う な 性 質 を 持 つ DFD 錯 視 現 象 に お い て 、奥 行 き を 表 現 で き る 範 囲 や 限 界 に つ い て 明 確 に す る こ と が で き れ ば 、適 用 範 囲 が 明 ら か と な り 、3 次 元 表 示 装 置 へ の 応 用 が 期 待 で き る 。ま た 、奥 行 き を 表 現 で き る 範 囲 や 限 界 に つ い て 明 確 化 す る こ と で 、DFD 錯 視 現 象 の 生 じ る メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る 手 が か り と な る 。
本 論 文 で は 、こ の DFD 錯 視 現 象 の 奥 行 き の 表 現 で き る 範 囲 と 限 界 に つ い て 主
- 5 -
観 評 価 実 験 を 用 い て 明 確 化 し 、こ の 奥 行 き の 範 囲 と 限 界 に つ い て の 知 見 を 述 べ る 。 ま た 、 前 後 2 面 の 像 の 表 示 位 置 や 大 き さ な ど の 関 係 に つ い て も 明 確 化 し 、 前 後 2 面 の 像 の 関 係 に つ い て の 知 見 を 述 べ る 。
課 題 2: 輝 度 比 と透 過 率 の違 いによる奥 行 き表 現 の違 いの明 確 化
DFD 錯 視 現 象 を 用 い た 表 示 で は 、前 後 2 面 の 像 を 重 ね 合 わ せ て 表 示 す る 構 成 と な る 。前 後 2 面 の 像 を 重 ね 合 わ せ る 方 法 と し て は 、2 種 類 の 構 成 方 法 が あ る 。 1 つ は 前 後 2 面 の 発 光 型 表 示 デ バ イ ス を ハ ー フ ミ ラ ー な ど に よ り 光 学 的 に 重 ね 合 わ せ る 方 法 (輝 度 加 算 型 )、も う 1 つ は 透 過 型 表 示 デ バ イ ス を 直 接 重 ね 合 わ せ て 背 面 を 透 過 さ せ て 表 示 す る 方 法 (輝 度 除 算 型 )で あ る 。前 者 は 、各 々 の 表 示 面 に お い て 発 光 し た 輝 度 が 合 わ さ り 増 加 し て い く 方 法 で あ り 、DFD 錯 視 現 象 の 発 見 当 初 か ら 評 価 装 置 と し て 構 築 し 、利 用 し て い る 方 法 で あ る 。後 者 は 、背 面 か ら の 光 が 各 々 の 表 示 面 を 透 過 す る 過 程 で 輝 度 が 減 衰 し て い く 方 法 で あ る 。ま た 、 DFD 錯 視 現 象 を 用 い た 表 示 に 利 用 で き る 表 示 デ バ イ ス は 自 ら 光 を 発 光 す る 発 光 型 表 示 デ バ イ ス だ け で な く 、 背 面 か ら の 光 を 透 過 /減 衰 さ せ る 透 過 型 表 示 デ バ イ ス も 利 用 す る こ と が で き る が 、輝 度 の 制 御 と し て は 、全 く 性 質 の 異 な る 光 学 特 性 を も っ て い る 。
本 論 文 で は 、こ の 発 光 型 表 示 デ バ イ ス と 透 過 型 表 示 デ バ イ ス の 輝 度 比 と 透 過 率 の 特 性 の 違 い に つ い て 比 較 し 、そ の 特 性 の 違 い が 奥 行 き 知 覚 に ど う 影 響 す る か に つ い て 知 見 を 述 べ 、透 過 型 表 示 デ バ イ ス を 用 い た 新 た な 輝 度 除 算 型 の DFD 表 示 方 式 に つ い て 提 案 す る 。
課 題 3: 3 次 元 表 示 装 置 の小 型 薄 型 化 手 法 の確 立
DFD 錯 視 現 象 を 用 い た 3D デ ィ ス プ レ イ を 構 築 し 、 世 の 中 に 普 及 さ せ て い く た め に は 、 既 存 の 2D デ ィ ス プ レ イ と 同 様 に 小 型 薄 型 化 の 必 要 性 が 高 ま る 。 し か し 、 今 ま で に 評 価 用 と し て 構 築 し て き た ハ ー フ ミ ラ ー を 用 い た 輝 度 加 算 型 DFD 表 示 で は 装 置 の 奥 行 き が 大 幅 に 大 き い 、輝 度 除 算 型 DFD 表 示 で は 輝 度 の 減 衰 が 大 き い な ど の 問 題 を 抱 え て い る 。
- 6 -
本 論 文 で は 、透 過 型 表 示 デ バ イ ス で あ る 液 晶 デ ィ ス プ レ イ の 液 晶 セ ル を 積 層 し 、液 晶 の 偏 光 加 算 特 性 を 用 い る こ と で 輝 度 を 減 衰 さ せ る こ と な く 、ハ ー フ ミ ラ ー を 用 い た 輝 度 加 算 型 DFD 表 示 と 同 等 の 光 学 特 性 を 実 現 す る 偏 光 加 算 型 の DFD 表 示 方 式 に つ い て 提 案 す る 。
課 題 4: 輝 度 分 配 手 法 の確 立 によるシステム化
DFD 錯 視 現 象 を 応 用 し て 3 次 元 画 像 を DFD 表 示 装 置 に 表 示 す る た め に は 、利 用 者 が 前 後 2 面 に 輝 度 を 分 配 し た DFD 特 有 の 特 殊 な 画 像 を 作 成 、あ る い は 元 々 の 3 次 元 画 像 を 前 後 2 面 の 特 殊 な 画 像 へ と 変 換 し な け れ ば な ら な い 。 し か し 、 単 純 な 画 像 の 表 示 で は 問 題 に な ら な い が 、動 画 な ど を 表 示 し よ う と し た 場 合 に は こ の よ う な 作 成 /変 換 は 現 実 的 な も の で は な い 。 ま た 、 DFD 錯 視 現 象 を 用 い て 任 意 の 奥 行 き 位 置 に 像 を 表 現 す る た め の ア ル ゴ リ ズ ム も 確 立 さ れ て い な い 。
本 論 文 で は 、DFD 錯 視 現 象 を 用 い て 任 意 の 奥 行 き 位 置 に 像 を 表 現 す る た め に 、 2 次 元 画 像 と 奥 行 き 画 像 (デ プ ス マ ッ プ )か ら DFD 特 有 の 特 殊 な 画 像 生 成 を 行 う 輝 度 分 配 ア ル ゴ リ ズ ム に つ い て 提 案 し 、本 手 法 を 用 い た プ ロ ト タ イ プ を 構 築 す る こ と で 実 現 性 を 示 す 。
本 論 文 で は 、こ れ ら の 課 題 を 解 決 す る こ と で 、DFD 表 示 を 用 い た 3 次 元 表 示 シ ス テ ム の 実 現 に 向 け た 要 素 技 術 を 確 立 す る こ と が で き る 。
- 7 -
1.3 本論文の構成
第 1 章は 、 序 論 で あ り 、 研 究 の 背 景 と 目 的 に つ い て 述 べ た 。
第 2 章で は 、 本 論 文 に 密 接 な 人 間 の 奥 行 き 知 覚 を 中 心 と し た 視 覚 の 効 果 と 、 従 来 技 術 に つ い て 整 理 す る 。ま た 、本 論 文 の 基 礎 と な る DFD 錯 視 現 象 に つ い て 述 べ る 。
第 3, 4, 5, 6,章で は 、1.2 章 で 挙 げ た 各 課 題 を 解 決 す る た め の 技 術 に つ い て 具 体 的 に 述 べ て い く 。
第 3 章で は 、 1.2.3 章 に 述 べ た 課 題 1 に 対 し 、 DFD 錯 視 現 象 の 生 じ る 範 囲 と 限 界 に つ い て 定 量 化 し 、 そ の 知 覚 メ カ ニ ズ ム に つ い て 述 べ る 。
第 4 章で は 、1.2.3 章 に 述 べ た 課 題 2 に 対 し 、輝 度 と 透 過 率 の 違 い に つ い て 明 確 化 し 、 そ の 透 過 型 表 示 デ バ イ ス を 用 い た 表 示 原 理 に つ い て 述 べ る 。 ま た 、 透 過 型 表 示 デ バ イ ス を 用 い た 表 示 技 術 を 提 案 し 、そ の 構 成 技 術 に つ い て も 述 べ る 。
第 5 章で は 、1.2.3 章 に 述 べ た 課 題 3 に 対 し 、動 画 表 示 が 可 能 で 大 幅 な 装 置 の 小 型 薄 型 化 を 実 現 で き る 偏 光 型 DFD 表 示 技 術 を 提 案 し 、そ の 構 成 技 術 に つ い て 述 べ る 。
第 6 章で は 、 1.2.3 章 に 述 べ た 課 題 4 に 対 し 、 DFD 特 有 の 前 後 2 面 へ の 輝 度 分 配 手 法 に つ い て 提 案 し 、DFD 表 示 を 用 い た 3 次 元 表 示 シ ス テ ム の 実 現 性 に つ い て 述 べ る 。
第 7 章は 、 ま と め で あ り 、 本 論 文 の 総 括 を 行 う 。
- 8 -
第 2 章 従来技術および DFD 錯視現象
2.1 はじめに
人 間 の 視 覚 系 は 奥 行 き や 物 体 の 3 次 元 の 形 状 を 知 覚 す る た め に 、 さ ま ざ ま な 手 が か り を 用 い て い る 。
本 章 で は 、こ の 3 次 元 形 状 を 知 覚 す る た め の 生 理 的 /心 理 的 な 要 因 に つ い て 整 理 し 、こ れ ら の 要 因 を 用 い て 実 現 し て い る 従 来 の 3 次 元 表 示 技 術 の 概 要 と 問 題 点 に つ い て 整 理 す る 。ま た 、本 論 文 の 基 礎 と な る DFD 錯 視 現 象 の 基 本 的 な 知 覚 特 性 な ど に つ い て 述 べ る 。
2.2 立体視の要因
立 体 視 の 要 因 と し て は 、 下 記 に 示 す 10 項 目 の 要 因 が 大 き く 影 響 し て い る と 考 え ら れ て い る [8][19][20]。そ れ ら に つ い て 、「 生 理 的 要 因 」と「 心 理 的 要 因 」 に 分 け て 説 明 す る 。
生 理 的 要 因 の ほ う が 心 理 的 要 因 に 比 較 し て よ り 影 響 が 大 き い と 考 え ら れ て い る [19]。
2.2.1 生理的要因
生 理 的 要 因 と し て 大 き く 影 響 す る 4 項 目 に つ い て 図 2‑2‑1 に 示 す 。以 下 に そ れ ぞ れ に つ い て 説 明 す る 。
- 9 -
【Binocular disparity】 【Vergence】 【Accommodation】 【Motion parallax】
図 2-2-1 立 体 視 の生 理 的 要 因
(1) ピント調 節
対 象 物 体 を 鮮 明 に 見 よ う と 眼 は 毛 様 体 の 筋 肉 を 働 か し 、水 晶 体 (眼 の レ ン ズ ) の 厚 さ を 近 く で は 厚 く 、遠 く で は 薄 く な る よ う に 調 節 し て 焦 点 合 わ せ を お こ な っ て い る 。こ の 要 因 を ピ ン ト 調 節 と 呼 ん で い る 。こ の 調 節 量 の 感 知 か ら 単 眼 で も 立 体 感 を 得 ら れ る が 、そ の 効 果 は 数 m 程 度 ま で で あ り 、単 独 で は あ ま り 有 効 な 働 き を し な い 。
(2) 輻 輳
両 眼 で あ る 点 を 注 目 し た と き 、そ の 注 視 点 に お い て 両 眼 の 視 線 が な す 角 を 輻 輳 角 と 呼 ん で い る 。一 定 の 輻 輳 角 を つ く る た め に 眼 球 を 内 側 に 回 転 さ せ る 筋 肉 の 緊 張 が 、距 離 感 の 一 つ の 手 掛 か り と な る と 考 え ら れ る 。こ の 要 因 を 輻 輳 と 呼 ん で い る 。 ま た 、 輻 輳 と ピ ン ト 調 節 に は 相 互 作 用 が あ る こ と が 知 ら れ て い る 。 あ る 距 離 に 対 応 す る 輻 輳 の 情 報 に よ っ て 、ほ ぼ 自 動 的 に 対 応 す る 度 合 い の ピ ン ト 調 節 が 起 こ る 。一 方 、そ れ に 比 べ る と や や 弱 い 作 用 で あ る が 、逆 に ピ ン ト 調 節 の 情 報 が 輻 輳 に 影 響 す る こ と も 知 ら れ て い る 。
- 10 - (3) 両 眼 視 差
観 察 者 が 注 視 し て い る 物 体 表 面 の 一 点 (注 視 点 )か ら の 光 は 、両 眼 い ず れ に お い て も 、そ の 網 膜 の 中 心 に 結 像 す る 。し か し 、注 視 点 以 外 の 点 か ら の 光 は 、必 ず し も 両 眼 の 網 膜 上 の 対 応 す る 位 置 に 結 像 せ ず 、両 眼 像 が ず れ て 見 え る 。こ れ を 両 眼 視 差 と い う 。
(4) 運 動 視 差
例 え ば 、片 眼 で 対 象 を 観 察 す る と き に 、物 体 あ る い は 視 点 の ど ち ら か を 移 動 さ せ る こ と で 網 膜 像 に 視 差 が 生 じ 、両 眼 視 に 近 い 効 果 を 得 る こ と が で き る 。こ の 要 因 を 運 動 視 差 と 呼 ん で い る 。
2.2.2 心理的要因
人 間 は そ れ ま で 見 慣 れ て き た 対 象 物 に 対 し て 形 や 大 き さ な ど を あ る 程 度 覚 え て い る 。こ の よ う な 過 去 の 経 験 や 記 憶 に 基 づ い た 想 像 力 に 助 け ら れ 、網 膜 上 の 平 面 的 な 画 像 か ら あ る 程 度 の 立 体 感 を 得 る こ と が で き る 。こ の 心 理 的 な 要 因 は 幾 何 学 的 な 2 次 元 像 の 構 図 か ら 得 ら れ る 立 体 視 と 光 の 濃 淡 や 陰 影 か ら 得 ら れ る 立 体 視 の 要 因 が あ る 。し か し 、こ れ ら の 効 果 を 利 用 し た 画 像 表 示 は 人 間 の 錯 視 現 象 に よ っ て 立 体 感 を 知 覚 す る も の で あ り 、前 述 し た 生 理 的 要 因 と の 相 乗 効 果 で よ り リ ア ル な 立 体 感 を 生 み 出 す も の と 考 え ら れ る 。
(1) 網 膜 像 の大 きさ
図 2‑2‑2 に 示 す よ う に 、大 き さ の 変 化 を つ け る こ と に よ っ て 、前 後 関 係 が 感 じ ら れ る 。 我 々 は 、 多 く の 対 象 の 大 き さ を あ ら か じ め あ る 程 度 は 知 っ て い る 。 ま た 、日 常 の 経 験 か ら 同 一 物 体 で も 近 く の も の は 大 き く 、遠 く の も の は 小 さ く 見 え る と い う こ と も 知 っ て い る 。し た が っ て 、網 膜 上 の 像 の 大 き さ か ら 逆 に 距 離 を 知 る こ と が で き る 。こ れ は 、恒 常 的 な 認 識 が 無 意 識 の う ち に 働 く か ら で あ る 。
- 11 -
図 2-2-2 大 きさによる距 離 感
(2) 線 遠 近 法 (リニア・パースペクティブ)
た と え ば 、図 2‑2‑3 の よ う な 湖 畔 の 町 の 情 景 が あ る と き 、我 々 が 町 の 奥 行 き を 感 じ る 最 大 の 要 因 は 、建 築 物 の パ ー ス ペ ク テ ィ ブ (遠 近 画 法 的 な 遠 景 の 縮 小 ) で あ る と 考 え ら れ る 。 こ れ は 日 常 の 経 験 か ら 同 一 物 体 で も 近 く の 物 は 大 き く 、 遠 く の 物 は 小 さ く 見 え る と い う 恒 常 的 な 認 識 が 無 意 識 の う ち に 働 く か ら で あ る 。 こ の 効 果 を 線 遠 近 法 (リ ニ ア ・ パ ー ス ペ ク テ ィ ブ )と 呼 ん で い る 。
図 2-2-3 パースペクティブとコントラスト
[8][19]- 12 - (3) 空 気 遠 近 法 (エアリアル・パースペクティブ)
同 じ く 図 2‑2‑3 に お い て 、遠 く に 見 え る 山 脈 や 家 並 み が 多 少 か す ん で い る と き 、遠 近 感 は 一 層 強 調 さ れ る 。こ れ も 日 常 経 験 す る 現 象 で あ り 、大 気 の 散 乱 に よ っ て 近 い と こ ろ で は コ ン ト ラ ス ト (空 気 透 視 )が は っ き り し 、遠 い 物 ほ ど コ ン ト ラ ス ト が 低 下 し て 見 え る な ど 心 理 的 効 果 か ら 距 離 感 を つ か ん で い る 。表 示 画 像 に も こ の よ う な 情 報 を 加 え る こ と で 立 体 感 を 出 す こ と が で き る 。こ の 効 果 を 空 気 遠 近 法 (エ ア リ ア ル ・ パ ー ス ペ ク テ ィ ブ )と 呼 ん で い る 。
(4) 重 なり合 い
図 2‑2‑4 に 示 す よ う な 、 (a),(d)か ら は 物 の 重 な り の 前 後 関 係 の 判 断 や 奥 行 き 感 を 得 る こ と が で き る が 、 (b),(c)か ら は 距 離 関 係 の 手 掛 か り が ま っ た く 得 ら れ な い 。一 般 的 に 、輪 郭 線 が 連 続 的 に 見 え る も の ほ ど 手 前 に 感 じ る 。こ れ も 、 遠 い 物 は 近 く の 物 の 影 に な る と い う 原 則 が あ る か ら で あ る 。
図 2-2-4 重 なり合 いの関 係 に由 来 する奥 行 き感
[8][19](5) 陰 影
図 2‑2‑5 は 、壁 に 作 ら れ た 突 起 を そ れ ぞ れ 上 方 と 下 方 か ら 照 明 し た 場 合 を 描 い た も の で あ る 。 図 2‑2‑5(a)は 突 起 に 見 え る が 、 図 2‑2‑5(b)は 凹 ん だ 形 に も 見 え る 。こ れ は 心 理 学 で は 良 く 知 ら れ た 効 果 で あ り 、我 々 が 日 常 経 験 す る ほ と ん ど の 照 明 光 (太 陽 光 や 室 内 照 明 )が 上 か ら 下 に 向 か う も の で あ る た め と 考 え ら れ る 。
- 13 -
(a) (b)
図 2-2-5 陰 影 による奥 行 き感
[8][19](6) 地 肌 模 様 の勾 配
パ ー ス ペ ク テ ィ ブ (リ ニ ア・パ ー ス ペ ク テ ィ ブ )の 一 種 と も 考 え ら れ る も の で も あ る が 、 図 2‑2‑6 に 示 す よ う な 一 様 な 地 肌 模 様 (レ ン ガ 敷 き の 床 、 じ ゃ り 道 の 表 面 な ど )を 眺 め る と き 、 そ の 荒 さ の 勾 配 も 、 奥 行 き 感 の 手 掛 か り と し て 有 効 で あ る 。
図 2-2-6 地 肌 模 様 の勾 配
[19]- 14 - 2.2.3 立体視要因の奥行き感度
立 体 感 の 要 因 に つ い て 奥 行 き 感 度 と 視 距 離 の 関 係 の 概 要 を 示 し た も の を 図 2‑2‑7 に 示 す 。
実 際 の 画 像 で は 多 く の 要 因 が 共 存 し て い る が 、像 の 奥 行 き 感 は 感 度 の 高 い 要 因 に よ っ て 優 先 的 に 決 ま る 。両 眼 視 差 は 通 常 の 距 離 で 極 め て 重 要 で あ る 。運 動 視 差 は 運 動 速 度 が 最 適 で あ れ ば 有 効 で あ り 、特 に 遠 距 離 で は 両 眼 視 差 よ り 有 効 で あ る 。 非 常 に 遠 い 場 合 に 関 し て 距 離 感 を 出 す に は 大 き さ や コ ン ト ラ ス ト (空 気 遠 近 法 )が 重 要 で あ る と さ れ て い る 。
3D デ ィ ス プ レ イ で は 、 比 較 的 近 距 離 で 見 る 場 合 が 多 く 、 両 眼 視 差 や 輻 輳 、 ピ ン ト 調 節 が 大 き な 役 割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ る 。
Depth sensitivity
D/ ⊿ D
Distance
D (m)
AccommodationBinocular disparity Motion Parallax
Vergence
Contrast Brightness Size
図 2-2-7 奥 行 き知 覚 に関 与 する諸 要 因 と奥 行 き感 度 の関 係
[8][19][20]- 15 -
2.3 従来の 3 次元表示方式
2.3.1 3 次元表示方式の歴史と分類
3 次 元 表 示 技 術 の 歴 史 [8]は 、 古 く は 洞 窟 壁 画 や 遠 近 法 、 画 像 の 重 な り な ど に 端 を 発 す る が 、 西 暦 1600 年 頃 に は 手 書 き の 両 眼 視 差 方 式 が 既 に わ か っ て い た 。 そ の 後 、 1853 年 に は ア ナ グ リ フ ( 赤 青 メ ガ ネ ) 方 式 が 、 1903 年 に は 、 両 眼 視 差 を 使 っ た パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア 方 式 、 1910 年 ご ろ に は レ ン テ ィ キ ュ ラ 方 式 、 1948 年 に は ホ ロ グ ラ ム の 原 理 な ど が わ か っ て い る (図 2‑3‑1)。
近 年 で は 、両 眼 視 差 に 加 え て ピ ン ト 調 節 も 満 た す 超 多 眼 方 式 な ど も 提 案 さ れ 、 ま た 、 本 論 文 の 基 礎 と な っ て い る 簡 易 な 構 成 で 3 次 元 表 示 が 実 現 で き る DFD 表 示 方 式 な ど も 提 案 さ れ て き て い る [12][13][14]。
2000
その他の歴史 手書き両眼視差絵 偏光眼鏡方式立体映画時代ホログラム原理を発見
レン ティ キュ ラ方 式 パラ ラッ ク スバ リア 方 式 ステ レオ スコ ー プ
バリ フォ ー カ ルミ ラ ー 方 式
DFD表示方式
(1838)
銀塩写真を発明
(1903) (1910)
(1948)
(1950年代) (1967)
(2000)
(1839)
(西暦)
3次元表示に関する歴史
CR Tを 発 明 (1897)
超多眼方式
(1995)
1990 1900
1000 紀元前
山水画
線遠近法
洞窟壁画
(1600頃) (1000頃)
(前400年頃) (前4万年頃)
紀元
TN 液 晶 を発 明 (1969)
紙を発明
(105)
はんこを発明
(前2000頃)
印刷技術を発明
(1450)
電信
(1835)
電話
(1876) ファ クシ ミリ
(1925)
テレビジョン
(1926)
空気遠近法
(1400頃)
図 2-3-1 3 次 元 表 示 方 式 の歴 史
- 16 -
図 2‑3‑2 に 3 次 元 表 示 方 式 の 分 類 を 示 す 。こ こ で は 、立 体 視 の 生 理 的 要 因 の 一 部 の み を 利 用 し た 方 式 を「 立 体 画 像 」、生 理 的 要 因 の 多 く を 満 た す 方 式 を「 3 次 元 画 像 」と い う よ う に 整 理 し て い る 。立 体 画 像 に は 、両 眼 視 差 の み を 利 用 し て 簡 単 な 装 置 構 成 で 立 体 感 を 作 り 出 す 2 眼 式 /多 眼 式 が あ り 、 3 次 元 画 像 と し て は 、 空 間 に 直 接 像 を 配 置 /結 像 さ せ て 自 然 な 立 体 感 を 実 現 す る 奥 行 き 標 本 化 方 式 や 物 体 表 面 か ら の 光 を 再 現 す る ホ ロ グ ラ フ ィ 方 式 な ど が あ る 。
L R R L
LR
3次元表示方式
立体
画像 2眼式
多眼式
パララックスバリア
レンティキュラレンズ 立体メガネ
3次元
画像 奥行き標本化方式
ホログラフィ方式
ホログラム 積層画像
図 2-3-2 3 次 元 表 示 方 式 の分 類
2.3.2 2 眼式立体表示方式 (1) アナグリフ方 式 (赤 青 メガネ方 式 )
ア ナ グ リ フ 方 式 は 、赤 青 メ ガ ネ 方 式 と も 呼 ば れ て お り 、メ ガ ネ 式 の 立 体 表 示 方 式 と し て は 最 も 古 い も の と な る 。 こ の 方 式 で は 、 補 色 関 係 に あ る 2 色 (主 に 赤 と 青 )を 用 い て 、 両 眼 視 差 の つ い た 2 枚 の 映 像 を 構 成 す る 。 そ れ ら を 左 右 眼 に 分 割 し て 呈 示 す る た め に 、共 通 の 透 過 波 長 域 を 持 た な い カ ラ ー フ ィ ル タ ー の
- 17 -
付 加 さ れ た メ ガ ネ を 用 い る 。ア ナ グ リ フ 方 式 の 問 題 点 と し て は 、左 右 眼 で 異 な る 色 フ ィ ル タ を 通 し て 観 察 す る た め に 、フ ル カ ラ ー で は 再 生 で き な い こ と が あ げ ら れ る 。赤 か ら 青 の 間 の 波 長 の 色 や 、混 合 色 の 多 い 映 像 で あ れ ば 、自 然 な 色 彩 に 近 い 状 態 で 再 生 す る こ と が 可 能 で あ る 。し か し 、赤 や 青 の 原 色 に 近 い 色 で は 、色 が 飛 ん で 不 自 然 に な っ て し ま う 。ま た 、左 右 の フ ィ ル タ の 色 差 や コ ン ト ラ ス ト が 強 す ぎ る と 、視 野 闘 争 が 生 じ て し ま う 場 合 も あ る 。加 え て 、長 時 間 の 観 察 で は 、 左 右 の 眼 の 色 順 応 に 差 が 生 じ 、 視 覚 的 な 疲 労 を 生 じ る こ と も あ る 。 色 順 応 と は 、私 た ち の 眼 が 観 察 環 境 の 白 色 点 の 変 化 に 適 応 す る こ と で あ る 。し た が っ て 、赤 の フ ィ ル タ に 順 応 し た 眼 で は 、メ ガ ネ を 外 し た 後 に 白 が 青 み が か っ て 見 え 、青 の フ ィ ル タ に 順 応 し た 眼 で は 、白 が 赤 み が か っ て 見 え る こ と に な る 。も ち ろ ん 、し ば ら く す る と 再 度 、色 順 応 に よ り 元 の 状 態 に 戻 る が 、自 然 界 で は 通 常 起 こ ら な い 状 態 の た め 、注 意 が 必 要 で あ る 。再 生 す る メ デ ィ ア を 選 ば な い と い う 特 徴 か ら 、 ア ナ グ リ フ 方 式 は 、 印 刷 物 な ど で も 多 く 使 わ れ て き た 。
Right-eye
Glasses with color filters
Left-eye
Images on screen
Perceived 3-D image
Red Blue
図 2-3-3 アナグリフ方 式 の概 要
- 18 - (2) 偏 光 メガネ方 式
偏 光 フ ィ ル タ の 遮 光 効 果 を 利 用 し た 立 体 デ ィ ス プ レ イ が 、偏 光 メ ガ ネ 方 式 で あ る 。左 右 の 映 像 、つ ま り 左 右 か ら の 光 を 互 い に 直 交 し た 2 枚 の 偏 光 フ ィ ル タ を 通 し て 呈 示 し 、 偏 光 フ ィ ル タ の 付 加 さ れ た メ ガ ネ を 用 い て 観 察 す る こ と で 、 左 右 眼 に 分 割 し て 呈 示 す る 方 式 で あ る 。偏 光 メ ガ ネ 方 式 は 、立 体 映 像 を 高 解 像 度 か つ フ ル カ ラ ー で 再 生 で き 、多 人 数 で 同 時 に 観 察 で き る た め 、ア ミ ュ ー ズ メ ン ト 施 設 な ど で 広 く 利 用 さ れ て い る 。問 題 と し て は 、2 眼 式 全 般 に 生 じ る 眼 精 疲 労 の 問 題 と 、偏 光 フ ィ ル タ に よ っ て 映 像 が 暗 く な っ て し ま う こ と 、偏 光 保 存 性 の あ る 特 殊 な ス ク リ ー ン が 必 要 な こ と 、プ ロ ジ ェ ク タ や モ ニ タ が 2 台 必 要 な こ と な ど が あ げ ら れ る 。
Right-eye
Polarized glasses
Left-eye
Images on screen
Perceived 3-D image
図 2-3-4 偏 光 メガネ方 式 の概 要
- 19 - (3) 時 分 割 メガネ方 式
上 記 の 方 式 は い ず れ も 左 右 眼 用 の 画 像 を 同 時 に 提 示 す る も の で あ っ た 。こ れ に 対 し て 時 分 割 メ ガ ネ 方 式 は 、左 右 画 像 を 交 互 に 切 り 替 え て 提 示 す る 方 法 で あ る 。左 画 像 の 提 示 時 に 右 眼 に は 左 画 像 が 入 ら な い よ う に 、右 画 像 提 示 時 に 左 眼 に は 右 画 像 が 入 ら な い よ う に 、表 示 装 置 に 表 示 す る 画 像 に 同 期 さ せ て シ ャ ッ タ ー メ ガ ネ の 両 眼 を 交 互 に 開 閉 す る 方 式 で あ る 。シ ャ ッ タ ー メ ガ ネ は 、外 部 か ら の 制 御 信 号 を 元 に し て 偏 光 素 子 の 屈 折 率 を 変 化 さ せ て 偏 光 面 を 回 転 さ せ る こ と で 透 過 /遮 蔽 を 制 御 す る こ と が で き る 。 表 示 装 置 側 は 単 に 左 右 画 像 を 交 互 に 切 り 替 え て 表 示 す る の み で あ る が 、 フ リ ッ カ な ど の 影 響 を 考 慮 し て 従 来 の 2 次 元 表 示 と 同 等 の 表 示 を 実 現 す る に は 、2 倍 速 の リ フ レ ッ シ ュ レ ー ト で 表 示 で き る 表 示 装 置 が 必 要 と な り 、ま た 、高 価 な メ ガ ネ が 必 要 と な る と い う 問 題 が あ る 。
Right-eye
Shutter glasses
Left-eye
Images on screen
Perceived 3-D image
Switching Switching
図 2-3-5 時 分 割 メガネ方 式 の概 要
- 20 - (4) パララックスバリア方 式
パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア は 、視 差 を 生 じ る た め の 障 壁 (バ リ ア )で あ り 、通 常 は 垂 直 方 向 に 入 っ た 細 か い ス リ ッ ト を 意 味 す る 。こ の 方 式 で は 、パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア の 後 方 あ る い は 前 方 に 、両 眼 視 差 の つ い た 2 枚 の 映 像 を 垂 直 方 向 に 切 り 取 っ て 交 互 に 配 置 す る 。こ れ を 特 定 の 距 離 か ら 観 察 す る と 、パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア は 、 右 眼 で は 左 眼 の 像 を 、 左 眼 で は 右 眼 の 像 を 遮 蔽 す る 障 壁 と し て 働 く 。 つ ま り 、 左 右 の 眼 に 分 割 し て 提 示 す る こ と が 可 能 と な る 。
パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア 方 式 の 問 題 と し て は 、バ リ ア に よ っ て 映 像 が 暗 く な っ て し ま う こ と や 、バ リ ア 自 体 が 目 障 り で あ る こ と 、観 察 位 置 が 限 定 さ れ る こ と な ど が 指 摘 さ れ て い る 。観 察 位 置 の 限 定 と は 、適 正 に 観 察 で き る 位 置 か ら 、頭 部 が 水 平 方 向 に ズ レ た 場 合 、左 右 の 分 割 が 上 手 く 行 わ れ な く な る 。そ し て 、瞳 孔 間 隔 分 の ズ レ 量 で 、左 右 の 映 像 が 反 対 に な り 、右 眼 の 像 が 左 眼 に 、左 眼 の 像 が 右 眼 に 提 示 さ れ る 状 態 に な る 。こ の 問 題 を 解 決 す る た め に 、多 眼 式 と 呼 ば れ る 映 像 の 枚 数 を 増 や す 方 法 や 、観 察 者 の 頭 部 や 視 線 を ト ラ ッ キ ン グ す る 方 法 な ど が 試 み ら れ て い る 。
パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア 方 式 は 、デ ィ ス プ レ イ 側 に 備 え る 仕 組 み と し て は 簡 易 で あ る こ と か ら 、 現 在 で も 広 く 利 用 さ れ て い る 立 体 表 示 方 式 で あ る 。
L
R L
R L
R L
R L
R
LCD Barrier Back light
図 2-3-6 パララックスバリア方 式 の概 要
- 21 - (5) レンティキュラレンズ方 式
レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ 方 式 は 、カ マ ボ コ 状 の 半 円 筒 型 の レ ン ズ を 並 べ た レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ を 用 い た 2 眼 式 立 体 表 示 方 式 で あ る 。パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア 方 式 と 同 様 、こ の 方 式 で は 、レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ の 後 方 に 、両 眼 視 差 の つ い た 2 枚 の 映 像 を 垂 直 方 向 に 切 り 取 っ て 、交 互 に 配 置 し た も の で あ る 。レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ は 指 向 性 を 持 っ て お り 、視 線 の 届 く 位 置 を 変 化 さ せ る プ リ ズ ム と し て 働 く 。同 時 に 、レ ン ズ の 焦 点 を 画 面 に 合 わ せ る こ と で 、映 像 を 水 平 方 向 に 拡 大 す る レ ン ズ と し て 働 く 。こ れ を 特 定 の 距 離 か ら 観 察 す る と 、右 眼 の 像 は 右 眼 の み に 到 達 し 、左 眼 の 像 は 左 眼 の み に 到 達 し 、拡 大 し て 提 示 さ れ る た め 、左 右 の 分 割 提 示 が 可 能 と な っ て い る 。レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ 方 式 で は 、バ リ ア の 代 わ り に レ ン ズ を 利 用 す る こ と で 、映 像 が 暗 く な っ て し ま う こ と や 、バ リ ア 自 体 が 目 障 り に な る と い っ た パ ラ ラ ッ ク ス バ リ ア 方 式 の 問 題 を 解 決 で き る 。し か し 、 観 察 位 置 が 限 定 さ れ る 問 題 は 依 然 残 っ て い る た め 、2 眼 式 よ り は 多 眼 式 に 活 用 さ れ る 場 合 が 多 い 。ま た 、レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ は 、比 較 的 安 価 に 製 造 で き る た め 、 立 体 ポ ス ト カ ー ド な ど の 印 刷 物 に も 使 わ れ て い る 。
Lenticular screen
Right image Left image
図 2-3-7 レンティキュラレンズ方 式 の概 要
- 22 - 2.3.3 多眼方式
多 眼 方 式 は 2 眼 式 の 眼 数 を 拡 張 し た も の で 、観 察 者 が 移 動 し て も 、そ の 方 向 か ら の 画 像 を 観 察 で き る 方 式 で あ る 。
た と え ば 、図 2‑3‑7 の レ ン テ ィ キ ュ ラ レ ン ズ 方 式 の 1 つ の レ ン ズ に 対 応 す る 2 つ の 画 像 (右 眼 画 像 と 左 眼 画 像 )を 複 数 個 に 拡 張 し 、そ の 各 々 の 画 像 に 対 し て 別 々 の 方 向 か ら 見 た 画 像 を 表 示 す る 。す る と 、観 察 者 の 観 察 位 置 が 移 動 す る 毎 に 異 な っ た 画 像 が 提 示 で き る こ と か ら 、離 散 的 で は あ る が 、あ る 程 度 の 運 動 視 差 を 実 現 す る こ と も 可 能 と な る 。
し か し 、表 示 す る 視 差 数 が 多 く な る ほ ど 表 示 装 置 に 表 示 す る 情 報 も 多 く な り 高 解 像 度 な 表 示 装 置 が 必 要 と な る か 、 あ る い は 立 体 表 示 の 解 像 度 が 1/視 差 に 減 少 す る と い う 問 題 も 残 っ て い る 。
Lenticular screen
Image 1 Image 2 Image 3 Image 4 Image 5
図 2-3-8 多 眼 方 式 の概 要
- 23 - 2.3.4 超多眼方式
超 多 眼 方 式 と は 、従 来 の 2 眼 式 が 左 右 眼 に 各 1 枚 の 画 像 を 提 示 す る の に 対 し 、 左 右 眼 の そ れ ぞ れ の 瞳 孔 に 2 つ 以 上 の 視 差 画 像 が 入 射 す る よ う な 細 か い ピ ッ チ で 多 視 点 画 像 を 表 示 す る 方 法 で あ る 。
瞳 中 に 複 数 の 方 向 か ら の 光 線 が 入 射 す る た め 、ピ ン ト 調 節 が 働 き 自 然 な 立 体 視 が 可 能 と な る 可 能 性 が 期 待 さ れ て い る 。
Horizontal Scanner
Lens Vertical Scanner
Lens
3-D image Laser
Array
Scan
図 2-3-9 超 多 眼 方 式 の概 要
- 24 - 2.3.5 奥行き標本化方式
奥 行 き 標 本 化 方 式 で は 、 図 2‑3‑10 に 示 す よ う に 、 3 次 元 物 体 を 奥 行 き 方 向 に 標 本 化 し て 多 数 の 2 次 元 の 奥 行 き 標 本 化 像 を 作 成 し 、こ れ ら を 再 び 奥 行 き 方 向 に 再 配 置 す る こ と に よ り 3 次 元 像 を 再 現 す る 方 式 で あ る 。
Depth sampling
Display
3-D objects 2-D images
図 2-3-10 奥 行 き標 本 化 方 式 の概 要
(1)バリフォーカルミラー方 式
図 2‑3‑11 に 示 す よ う に 、 焦 点 距 離 を 物 理 的 に 変 化 さ せ ら れ る ミ ラ ー を 用 い た バ リ フ ォ ー カ ル ミ ラ ー 方 式 が あ る 。
こ れ は ス ピ ー カ ー と 同 じ よ う な 原 理 で ミ ラ ー 表 面 を 振 動 さ せ 、そ の 時 の ミ ラ ー 表 面 の 曲 率 の 違 い に よ り 、可 変 凹 面 鏡 の よ う な 機 能 を 実 現 し し て 、像 を 異 な っ た 奥 行 き 位 置 に 結 像 さ せ る こ と が で き る 。
- 25 -
High-speed 2-D display
Drive unit
Varifocal mirror
図 2-3-11 バリフォーカルミラー方 式 の概 要
(2)光 源 回 転 方 式
図 2‑3‑12 に 示 す よ う な 光 源 ア レ イ を 直 接 回 転 さ せ 、 人 間 の 眼 の 残 像 時 間 内 に 画 像 を 時 分 割 で 表 示 す る も の で あ る 。光 源 ア レ イ を 回 転 さ せ て 周 囲 か ら 像 を 観 察 す る 方 式 や 、観 察 者 の 周 り に 光 源 ア レ イ を 観 察 さ せ て 観 察 者 の 視 野 を 越 え た 画 像 を 提 示 す る も の な ど 様 々 な 方 式 が 研 究 さ れ て い る 。
LED array
Input signals
図 2-3-12 光 源 回 転 方 式 の概 要
[8]- 26 - (3) 可 変 焦 点 レンズ方 式
可 変 焦 点 レ ン ズ 方 式 の 原 理 図 を 図 2‑3‑13 に 示 す 。 可 変 焦 点 レ ン ズ 方 式 の 特 徴 は 、液 晶 を 用 い た 二 周 波 液 晶 レ ン ズ の 焦 点 距 離 変 化 を 利 用 し て 画 像 の 再 配 置 を 行 う こ と で あ る 。
2 次 元 表 示 装 置 の 像 を 焦 点 距 離 が 変 化 す る 二 周 波 液 晶 レ ン ズ を 通 し て 観 察 す る こ と で 、像 の 結 像 位 置 が 移 動 す る 。こ の 移 動 に 同 期 し て 2 次 元 表 示 装 置 に 奥 行 き 標 本 化 像 を 逐 次 表 示 す る こ と で 、時 分 割 で 再 配 置 を 実 現 で き 、空 間 上 に 3 次 元 像 を 再 現 で き る 。
Depth sampling
Liquid-crystal Varifocal lens
Image depth position
is changed
2-D display
Synchronizer Volumetrically reconstructed
Time-sequentially using after-image
effect
図 2-3-13 可 変 焦 点 レンズ方 式 の概 要
二 周 波 液 晶 レ ン ズ の 構 造 を 図 2‑3‑14 に 示 す 。 フ レ ネ ル レ ン ズ と 二 周 波 液 晶 の 領 域 と こ れ ら を 挟 む 2 枚 の 透 明 電 極 よ り 成 る 。
動 作 原 理 は 、電 界 で 液 晶 の 向 き を 変 え る こ と に よ り 、フ レ ネ ル レ ン ズ の 屈 折 率 nFに 対 し て 、 光 の 入 射 方 向 か ら み た 液 晶 の 実 効 的 屈 折 率 nLを 変 化 さ せ 、 屈 折 角 を 変 化 さ せ る こ と が で き る 。
- 27 -
Dual- frequency
LC reg ion Refra ctive index
nL>nF nL=nF nL<nF
Incident
lig ht Alig nment la yer Pla stic fresnel lens
E lectrodes Ref racted
lig ht
nF nL
D rive system
図 2-3-14 二 周 波 液 晶 レンズの構 造
可 変 焦 点 レ ン ズ 方 式 で の 視 域 は レ ン ズ の 視 域 で 制 限 さ れ る が 、レ ン ズ の 視 域 内 で あ れ ば 観 察 者 は 見 た い 方 向 か ら の 画 像 を 観 察 す る こ と が で き 、運 動 視 差 も 満 た さ れ て い る (図 2‑3‑15)。
し か し 、表 示 す る 面 数 が 多 く な る ほ ど 奥 行 き の 連 続 感 は 増 加 し て い く が 、高 速 に 時 分 割 で 表 示 装 置 に 各 々 の 面 を 表 示 す る 必 要 が あ る た め 、高 速 な 2 次 元 表 示 装 置 が 必 要 と な る 問 題 が あ る 。
Photograph from left side Photograph from right side
Focus in front of cube Focus at the back of cube φ250
3-D image [Wireframe image of sphere]
φ250
3-D image [Filled image of cube]
図 2-3-15 可 変 焦 点 レンズ方 式 の 3 次 元 画 像
- 28 - 2.3.6 ホログラフィ
ホ ロ グ ラ フ ィ は 立 体 視 の 要 因 で あ る ピ ン ト 調 節 、輻 輳 、両 眼 視 差 、運 動 視 差 な ど の す べ て の 要 因 を 備 え て お り 、完 全 な 3 次 元 画 像 が 得 ら れ る の が 最 大 の 特 徴 で あ る 。2 つ の レ ー ザ ー 光 を 重 ね 合 わ せ る と 干 渉 現 象 が 起 こ る 。ホ ロ グ ラ フ ィ は 物 体 の 表 面 か ら の 反 射 光 と 参 照 光 と の 干 渉 パ タ ー ン を 記 録 、再 生 す る こ と で 3 次 元 表 示 を 行 う も の で あ る 。
し か し 、こ の 干 渉 パ タ ー ン を 記 録 す る に は 、1mm 当 た り 数 千 本 と い う 膨 大 な 情 報 を 記 録 す る 必 要 が あ り 、現 在 こ れ を 記 録 で き る の は 写 真 に 代 表 さ れ る 乾 板 し か 存 在 し て い な い 。そ の た め 、こ れ を リ ア ル タ イ ム に 記 録 し 再 生 す る こ と が 困 難 で あ り 、 静 止 画 で の 記 録 /再 生 を 中 心 と し た 技 術 と な っ て い る 。
Incident light
Reference
light Illuminated
light
Outgoing light Reconstructed
image Object
Laser
Laser Mirror
Mirror
Mirror Half mirror
Lens
Lens Lens
Recording
material Hologram
(a) Record (b) Play
図 2-3-16 ホログラフィ方 式 の概 要
2.3.7 電子ホログラフィ
超 音 波 光 変 調 器 (AOM[Acousto‑Optic Modulator]) や 液 晶 デ バ イ ス を 用 い る 方 式 で 電 子 的 に ホ ロ グ ラ フ ィ を 実 現 す る 方 法 が 研 究 さ れ て い る 。
た と え ば 、AOM 方 式 は 高 速 の ス ー パ ー コ ン ピ ュ ー タ を 使 っ て 簡 単 な 構 造 の 画 像 情 報 を 計 算 し 、こ れ を ビ デ オ 信 号 と し て AOM を 駆 動 す る 。こ の AOM は 1 次 元 の 光 波 面 変 調 デ バ イ ス で 、こ れ に レ ー ザ ー 光 を 照 射 し て 光 を 回 折 さ せ て 水 平 方 向 の 画 像 信 号 を 作 り 、垂 直 方 向 に 対 し て は ガ ル バ ノ ミ ラ ー を 振 動 さ せ な が ら 走
- 29 -
査 し て 画 像 を 合 成 表 示 す る 。こ の 方 式 で は ス ー パ ー コ ン ピ ュ ー タ を 必 要 と す る こ と や 画 像 を 機 械 的 に 走 査 す る こ と な ど が 大 き な 問 題 と な る が 、3 次 元 表 示 技 術 に と っ て 理 想 的 で あ る ホ ロ グ ラ フ ィ を 電 子 化 で き る メ リ ッ ト は 大 き く 、今 後 の 進 展 に 期 待 し た い 。
Laser beam AOM
Moving mirror
Polygon mirror
Lens
3-D image
Diffuser
Observer Video signal Computer
図 2-3-17 電 子 ホログラフィ方 式 の概 要
[20]- 30 -
2.4 従来の 3 次元表示方式の問題点
人 間 の 立 体 視 の 要 因 に は 生 理 的 /心 理 的 に 多 種 多 様 な 要 因 が あ る が 、 そ の 中 で も 特 に 生 理 的 な 要 因 で あ る 両 眼 視 差 と 輻 輳 、ピ ン ト 調 節 、運 動 視 差 が 大 き く 関 与 し て い る 。
こ れ ら の 要 因 を 利 用 す る こ と で 、現 在 ま で に 各 種 の 3 次 元 表 示 方 式 が 研 究 開 発 さ れ て き て い る が 、 各 方 式 に お け る 問 題 点 も 多 く 残 さ れ て い る 。
2.4.1 生理的要因の矛盾
広 く 普 及 し つ つ あ る 2 眼 式 の 立 体 表 示 方 式 は 、立 体 メ ガ ネ を 使 用 す る こ と で 極 め て 簡 便 に 通 常 の 2 次 元 画 像 と 同 程 度 の 精 細 度 、動 画 化 、カ ラ ー 化 を 実 現 で き る 利 点 が あ る 。ま た 、観 察 者 の 各 々 の 片 眼 に 入 る 画 像 を 制 限 す る こ と で 立 体 メ ガ ネ を 使 用 せ ず に 立 体 表 示 を 行 う 2 眼 式 /多 眼 式 の 立 体 表 示 方 式 も あ る 。
し か し 、図 2‑4‑1 に 示 す よ う に 、通 常 の 現 実 の 世 界 で 物 体 を 観 察 す る と き に は 立 体 視 の 生 理 的 要 因 で あ る 両 眼 視 差 、輻 輳 、ピ ン ト 調 節 、運 動 視 差 な ど 全 て の 要 因 を 利 用 し て い る が 、 2 眼 式 /多 眼 式 の 立 体 表 示 で は こ れ ら の う ち 両 眼 視 差 の み を 用 い て 立 体 感 を 得 る 方 式 で あ る た め に 、両 眼 視 差 、輻 輳 と ピ ン ト 調 節 と の 間 の 関 係 に 現 実 世 界 と は 異 な っ た 矛 盾 を 生 じ 、特 に 長 時 間 観 察 す る と 疲 労 感 を も た ら す こ と が 指 摘 さ れ て い る [21][22]。
具 体 的 に は 、現 実 の 世 界 に あ る も の を 見 る と き に は 、左 右 の 眼 に 輻 輳 角 だ け で な く 、見 て い る も の の 距 離 に 応 じ た 眼 の レ ン ズ の ピ ン ト 調 節 が 大 き く 変 化 す る 。 し か し 、 2 眼 式 な ど の よ う な 両 眼 視 差 の み を 用 い た 3D デ ィ ス プ レ イ で は 表 示 装 置 上 の 表 示 面 に 表 示 さ れ た 画 像 自 身 に ピ ン ト を 合 わ せ る 必 要 が あ り 、眼 の ピ ン ト 調 節 は 表 示 面 の 付 近 に 留 ま る こ と と な る 。現 実 の も の で あ れ 、両 眼 視 差 に よ る 3D デ ィ ス プ レ イ で あ れ 、 近 い も の を 見 る と き は 左 右 の 眼 の 輻 輳 は 互 い に 内 向 き に 、遠 い も の を 見 る と き は 平 行 に な る 。ま た 、左 右 の 眼 の 輻 輳 が 内 向 き に な っ た と き に は 眼 の レ ン ズ を 膨 ら ま せ て 近 い も の に ピ ン ト を 合 わ せ る よ う に な り 、左 右 の 眼 の 向 き が 平 行 に な っ た と き に は 眼 の レ ン ズ を 薄 く し て 遠
- 31 -
い も の に ピ ン ト を 合 わ せ よ う と す る 。日 常 の 眼 の 動 き に お い て は 、こ の 2 つ の 関 係 は 連 動 し て い る た め 、 遠 い も の と 近 い も の を 交 互 に 見 る よ う な 場 合 で も 、 あ ま り 時 間 遅 れ が な く ピ ン ト の 再 調 節 が で き る 。し か し 、従 来 の 両 眼 視 差 を 用 い た 2 眼 式 /多 眼 式 の 3D デ ィ ス プ レ イ で は ピ ン ト 調 節 の 変 化 を 許 さ ず 、た と え ば デ ィ ス プ レ イ 面 よ り 手 前 に 飛 び 出 た 物 体 を 見 て い る と き に 遠 く を 見 て い る か の よ う な ピ ン ト 調 節 を す る 必 要 が あ り 、こ の よ う な 不 自 然 な 眼 の 動 き を 強 い ら れ る こ と が 立 体 画 像 を 見 た と き の 眼 の 疲 労 に つ な が る と 考 え ら れ て い る 。 ま た 、運 動 視 差 も 実 現 で き な い た め 、図 2‑4‑2 に 示 す よ う に 、観 察 者 が 移 動 し て も 同 じ 立 体 像 が つ い て く る よ う に 感 じ ら れ て 違 和 感 が 生 じ る と い う 問 題 も あ る 。
[Real object]
Match
Real object
[Stereoscopic display]
Screen Vergence
Not match
↓ Fatigue
3-D image
Left-eye’s image Right-eye’s image
図 2-4-1 生 理 的 要 因 の矛 盾 (ピント調 節 )
- 32 -
[Real object]
Not moving
[Stereoscopic display]
Screen
Not match
↓ Fatigue
Moving
図 2-4-2 生 理 的 要 因 の矛 盾 (運 動 視 差 )
2.4.2 表示装置構成の複雑さ
生 理 的 要 因 で あ る 両 眼 視 差 と 輻 輳 、ピ ン ト 調 節 、動 的 視 差 の 全 て の 要 因 を 満 足 で き る ホ ロ グ ラ フ ィ 方 式 は 理 想 的 な 方 式 で あ る が 、動 画 表 示 を 実 現 す る た め に は 表 示 デ バ イ ス の 精 細 度 の 大 幅 な 向 上 な ど 技 術 的 な 実 現 性 の 問 題 や 、膨 大 な 計 算 を リ ア ル タ イ ム に 実 現 す る 必 要 性 の 問 題 な ど 数 多 く の 課 題 が あ り 、す ぐ に は 実 用 化 で き る も の で は な い 。ま た 、奥 行 き 標 本 化 方 式 で も 、多 数 の 表 示 面 へ リ ア ル タ イ ム に 表 示 す る た め の 画 像 生 成 や 、物 理 的 な 表 示 面 の 多 さ な ど か ら 実 用 化 に 向 け た 課 題 は 多 く 残 っ て い る 。
こ の よ う な こ と か ら 、3 次 元 表 示 を 実 用 化 し て 広 く 普 及 さ せ る た め に は 、簡 便 な 構 成 で 、 か つ 疲 労 感 の 少 な い 3 次 元 表 示 を 実 現 す る 必 要 が あ る 。
- 33 -
2.5 DFD(Depth-Fused 3-D)錯視現象
多 く の エ ッ ジ を 持 っ た 2 つ の 一 般 的 な 画 像 を 透 明 な 前 後 2 面 に 重 ね 合 わ せ て 表 示 し 、そ の 前 後 2 面 の 画 像 の 輝 度 の 割 合 を 変 化 さ せ る こ と で 2 面 の 間 の 任 意 の 位 置 に 奥 行 き 位 置 を 知 覚 で き る 新 た な 奥 行 き 融 合 型 の 立 体 知 覚 現 象 (DFD[Depth‑Fused 3‑D]錯 視 現 象 )の 奥 行 き 知 覚 特 性 に つ い て 主 観 評 価 と 知 覚 モ デ ル を 用 い て 説 明 す る 。
2.5.1 基本原理
こ の DFD 錯 視 現 象 を 用 い た 3 次 元 表 示 の 原 理 は 、以 下 の 2 つ の 新 た な 基 本 原 理 か ら 構 成 さ れ る 。
(1) 奥 行 き方 向 の融 合
観 察 者 か ら 見 て 奥 行 き 方 向 に 前 後 2 面 の 透 明 な 2 次 元 表 示 面 を 配 置 す る (図 2‑5‑1)。表 示 し た い 3 次 元 画 像 (図 中 で は 四 角 で 表 現 )を 、観 察 者 の 両 眼 の 間 の 中 心 の 1 点 か ら の 投 影 像 と し て 前 後 の 表 示 面 に 重 な り 合 う よ う に 表 示 す る と 、 こ の 配 置 条 件 の 場 合 の み で 観 察 者 は 前 後 2 つ の 画 像 と し て で は な く 、奥 行 き 方 向 に 融 合 し た 1 つ の 画 像 と し て 知 覚 で き る 。
Perceived image Overlapping images
Observer
Front Rear Front Rear
図 2-5-1 奥 行 き方 向 の融 合
- 34 - (2) 輝 度 比 による連 続 的 な奥 行 き表 現
3 次 元 画 像 の 奥 行 き 位 置 に 応 じ て 前 後 の 画 像 の 輝 度 の 割 合 を 変 化 さ せ る と (図 2‑5‑2)、そ の 奥 行 き 位 置 が 連 続 的 に 変 化 し て 知 覚 で き る 。知 覚 で き る 奥 行 き 位 置 は 、前 面 の 輝 度 の 割 合 を 高 く し 、後 面 の 輝 度 の 割 合 を 低 く す る と 、前 面 に 近 い 位 置 に 知 覚 で き る 。前 面 の 輝 度 の 割 合 を 低 く し 、後 面 の 輝 度 の 割 合 を 高 く す る と 、後 面 に 近 い 位 置 に 知 覚 で き る 。前 面 と 後 面 の 輝 度 の 割 合 を 同 一 に す る と 、中 間 付 近 の 位 置 に 知 覚 で き る 。本 DFD 錯 視 現 象 で は 前 後 の 重 ね 合 わ せ た 総 合 的 な 輝 度 が 同 一 の 場 合 で 、か つ 前 後 の 輝 度 の 割 合 が 異 な っ て い る 場 合 に は 、 像 の 奥 行 き 位 置 が 異 な っ て 知 覚 さ れ る た め 、明 る さ 等 に よ る 観 察 者 の 心 理 的 な 奥 行 き 知 覚 と は 全 く 異 な っ た 現 象 で あ る 。そ の た め 、重 ね 合 わ せ た 総 合 的 な 輝 度 が 高 い 像 を 奥 に 表 示 、あ る い は 総 合 的 な 輝 度 が 低 い 像 を 手 前 に 表 示 す る こ と も で き る 。
Perceived image Luminance ratio change
図 2-5-2 輝 度 比 による連 続 的 な奥 行 き表 現
2.5.2 網膜像と単位の定義
本 論 文 で は DFD 錯 視 現 象 に お け る 像 に つ い て 、観 察 者 の 網 膜 に 映 る 像 を 中 心 に 議 論 を し て い く 。 網 膜 像 に お け る 定 義 を 図 2‑5‑3 に 示 す 。
DFD 錯 視 現 象 に よ る 前 後 2 面 の 像 は 、 観 察 者 の 両 眼 の 間 の 中 心 か ら 前 後 2 面 へ 投 影 し た 投 影 像 と な る よ う に 表 示 を 行 う 。そ の 時 の 観 察 者 の 眼 (図 で は 右 眼 ) に 映 る 像 は 、 像 の 両 端 に 2 重 の エ ッ ジ が 付 い た 像 と な る 。 こ の 2 重 エ ッ ジ が DFD 錯 視 現 象 で き 重 要 な 奥 行 き 知 覚 の 手 掛 か り と な っ て い る 。本 論 文 で は こ の
- 35 -
2 重 エ ッ ジ の 大 き さ に つ い て 、 網 膜 上 の 像 で の 大 き さ で 正 規 化 し て 議 論 す る 。 そ の た め に 、観 察 者 の 位 置 か ら の 視 角 で 表 す こ と と し 、単 位 は 角 度 分 (min. of arc)で 表 す こ と と す る 。ま た 、像 の 幅 や 前 後 2 面 の 距 離 に つ い て も 、網 膜 上 で の 大 き さ が 変 化 す る こ と と な る た め に 、 同 様 に 視 角 で 表 し て い く 。
こ の 視 角 は 、両 眼 視 差 方 式 な ど で よ く 使 わ れ る 両 眼 の 像 の ズ レ 量 の 大 き さ で あ る 視 差 と 同 じ 定 義 で あ る 。一 般 的 に 、視 角 1 分 の 大 き さ は 、視 力 1.0 の 人 が 視 力 検 査 に て 使 用 す る C 字 型 の 環 (ラ ン ド ル ト 環 )の 開 い て い る 方 向 を 識 別 で き る 角 度 で あ る 。
Double edge width (min. of arc)
Distance from front image (mm)
Distance between two images (min. of arc) Image width (min. of arc)
Retinal image
図 2-5-3 網 膜 像 と単 位 の定 義
2.5.3 奥行き方向の融合と輝度比による連続的な奥行き表現
本 方 式 の 奥 行 き 知 覚 の 特 性 に つ い て 、奥 行 き 方 向 の 融 合 、及 び 輝 度 の 割 合 に よ る 連 続 的 な 奥 行 き 表 現 に つ い て 主 観 評 価 の 結 果 を 用 い て 説 明 す る 。
評 価 に 使 用 す る 評 価 用 装 置 に お け る 前 後 2 面 の 重 ね 合 わ せ 方 法 に つ い て 図 2‑5‑4 に 示 す 。使 用 す る 前 後 2 面 の 表 示 装 置 は 、透 明 で か つ 書 き 換 え が 可 能 な デ バ イ ス が 必 要 と な る が 、簡 単 に 入 手 で き る 表 示 デ バ イ ス で は 透 明 で は な い も