競争時代の介護サービス論 第9回 戦略的発想のす すめ (3)‑‑分析から実行へ
著者 岡田 耕一郎, 岡田 浩子
雑誌名 ふれあいケア
巻 5
号 1
ページ 74‑77
発行年 1999‑01‑01
URL http://id.nii.ac.jp/1204/00000167/
競争時代の介護サー ビス論
第 9 回
I ~U
学生の対立: r 分析」対「直観 J
岡 田 耕
一郎(語学院大学経済学部助教授)
岡 田 浩 子
(社
会福
祉士
・
介護福
祉士
)
‑
は じ め に
現在︑介護サービス提供機関では
︑
介護保険の実施を視野に入れながら︑ケ吹1フ
ラン の策 定日 取り 組ん でい
ます︒どうすれば利用者の状態を的確に分析できる
のか︑利用者に満足してもらえるサービスを舵供でき
るの か︑ 真剣 に検 討を 重ね てい ます
勺
一方︑これらの機関では︑競中時代を迎えて︑戦略
的な経営を展開することが求められています勺戦略を
たてるためには環境に目を向け
︑
しっかりと分析しな直 観
熟練者でなければでき忽い 勘と経験を生かしたサービス の提供
とが でき るの です
︒そして︑それを実現するのが科学的
な分 析な ので す﹂
彼ら
の基
本的
な考
︑え
方は
非常
に明
解で
す勺
それに対して︑後者のグル
ー
プは︑分析よりも肋や経験の方を重視する立場を支持していました︒彼ら
によ ると
︑﹁ 科学 的﹂ と称 して 前述 のよ うな 分析 をし て
も︑
それ
によ
って
お客
様の
求め
るサ
ー
ビスを提供できるとは限らないというので究大学のような教育サ
ー
ビス
を例に出して︑次のように説明しました︒
﹁たとえば︑ある学生が自分の能力を向上させたい
と希望したとしましょう︒その際に教師は︑学生の専
門
書を読みこなす能力や︑レポートをまとめ上げる能力などを客観的に分析して︑劣っている点を発見し︑
それを改普しようと働きかけるはずで・元確かに︑そ
うすることで学生の能力の一部分は向上し︑学生は
それに満足するかもしれません︒
ところが︑その学生が抱えていた本当の問題は︑自
分に
﹃や
る気
﹄が
起こ
らな
いこ
とで
した
︒能
力ア
ップ
もさ
るこ
とな
がら
︑
あらゆる能力を目覚めさせる﹃やる気﹄が彼には根本的に欠けていたのです︒
この よう な場 合︑
教師は長年の勘や熟練技術を活用し
︑
まず個々の学生に応じたやり方で﹁やる気﹄が出るように噂かなけれ
ばなりません︒そうしなければ︑学生は結局十分に伸
びな いよ
︑つ に思 いま す﹂
以上の
2
つの
グル
ー
プの対立を図示すると︑図ーのようになりま
‑ t
もち ろん
︑
どちらか 一
方の
グ
ルー プが
作業をマニュアル化し 初心者でも対応できる サービスの提供
分 析
7 4
ければなりません
︒
もち ろん スタ ッフ にお
いて
も
︑今後は介護とともに広
範な環境に対して分析の目を持?﹂とが期待されてい
ます
︒
そこで今回は︑
戦略的発想のキーワードとして
﹁分 析﹂ を取 り上 げて みま しょ
う
︒
‑ ﹁ 分 析
﹂ 対
﹁ 直 観 ﹂
企業は経営を行うにあたって︑かなり以前から環境
の分 析に
・刀 を入 れて きま した
︒
大学で の授 業の
小で
も︑
そのような話題にふれることがありますが︑学中は時
とし て﹁ 分析
﹂を 巡っ て対 立を しま
すその村立は
︒
︑﹁ 科
学的﹂な分析の有効性を支持するグループと︑分析よ
りも直観の方を主机するグループとの︑分析を巡る認
識の ズレ ( 誤 解) によ るも ので 丈
まず前者のグループ
は︑
ハン
バ
ー
ガー
ショ
ッを例に山プ
して
︑そ
こで は﹁ 科学 的﹂ な分 析を 通し て作 業マ ニュ アル
が作られていることを紹介しました︒誰でも.定の品
質の ハン バー ガー をう まく 作れ るよ
︑つ に作 業の 千順 が 明示 され てい る点 を次 のよ
︑つ に説 明し まし た
︒
﹁たとえば︑失敗なくパテ(
お内
)を以良の焼き加減
で捌 即日 でき るよ うに なる まで には
︑執
ようなまでの試
行錯誤が必要です
︒
さら
に焼き上
︑
がっ たパ テを 挟ん
で ︑
短時間で要領よくハンバーガーを仕上げるにも︑さま
ざまな作業の段取りを適切に断まなければなりませ
ん︒したが
っ て ︑
それ らの 作業 千順 をマ ニュ アル にし て訓
練しさえすれば︑説でも同じ品質のものを提供するこ
4企・ー
も 正 で し あ い
り と
問 主
題 蓄 は のむ は し 誤ろ 解 両 で 者 究
融ど
.6.. 玄
l
ロ ゴこ りあ
のり 見
そ 解う
も
で
もす ;Z
‑ 学 生 グ ル ー プ 聞 の 対 立 の 原 因
さて︑両者の見解は︑議論を続けるうちに︑必ずし
も真
っ向から対立しているわけではないことが分か
っ て
きました︒すなわち
︑
それ ぞれ のグ ル
ー
プ が想 定し ていたサービス提供者保(
ある
いは
サ
ー
ビスの 質
)が全く異
なっ てい たた めに
︑そ れが 原因 とな っ て 対立 が生 じて いた ので す
勺
前者
のグ
ルー
プはどち
らか とい うと
︑それほど熟糾
していない従業貝︑新入社只のような不倒れな従業日
を想定していました︒サー
ビス の質 とし ては
︑比
較的
︑
基本的なレベルのサ
ー
ビス と
d一 一
える でし ょう
︒
彼らは
︑
知識が乏しく十分に業務をこなす︑﹂とができない場
合で あっ ても
︑科
学的分析に基
づく マニ ュア ルを 活用 す
るこ
とに
よっ
て︑
一定レベルの業務を逆行できる点を高
く評価していました︒確かに
︑
サー ビス の
全体を構成
する一
つひ とつ の部 分に 自を 向け
︑そ れに
改善を加え
てい くこ とが サー ビス 全体 の向 上に つな がっ て
いく とい う
発想は極めて合理的です︒
した が っ て
︑他 の多 くの
学
生に対してかなりの説得力を持
っ て いま した
︒
他方︑後者のグル
ー
プは
︑hu同
度な 勘や
︑そ の市 説付 け とな
っ て い
る経 験に 目を 向け てい る
こと
からも分かるよ
うに
︑熟練者を想定していました
︒
熟練 者で あれ ば︑
アルバイトや未熟練者では慨しい高度な注意力と判断
7 5
競争時代の介 護サー ビス論
E B サービ 、 スを向上させる 2 つのステッ プ
〔分析志向の発想〕 ↓ステップアップ
個人に固有の知識・ノウハウ妓術+標準化された分析
→現状よりも一歩進んだサービスの提供
〔直観(熟練)志向の発想〕 ↓ステツ力ツブ
標準化された分析ノウハウ+熟練の妓術
→競争時代のサービスの提供
↓
利用者のニーズを満たせる実行力 (サービス)
E 回 分析マヒ症候群
P R OFI LE
現状のサービス
分析にかなりの時間と労力を取うれ、なか なか次の実行段階に進め主主い。
分析.
i
白出したさまざま忽問題点のうち、どれを重視すべきなのか(ます何から取 りかからなければ怒ら忽いのか)分かう悲し1。 分析対象と芯るチェック項目だけに自が 向けられ、それらの項目を満足させるとと だげが介護の目的になってしまう。
② . お か だ ひ ろ こ
1962年兵庫県生まれ。介護領有上士。社会福祉士。
③
〒980・8511 宮線県仙台市管葉区土樋1ふ1 東 北 学 院 大 学 経 済 学 部 商 学 科 岡 田研究 室 電子メール:
o k a d a @t s c c . t o h o k u ‑ g a k u i n . a c . j p
① .おかだ こういちろう
1958年兵庫県生まれ。神 戸 商 科 大 学 大 学 院 修 了。 東 北 学 院 大 学 に お い て 経 営 組 織 縞 を担当している。
絡設経営に関する執筆に、「サービス評価基準の戦略 的活用J(本誌'97年4月号)、「福祉業界に導入される 後争原理か'めざすものJ(本総'98年2月号)がある。
力に基づく迅速な行動が︑個々のお客様の要求に的限
に応
︑え られ るワ ンラ ンク 上の サー ビス の提 供に つな がる と主 張し てい るの で
・
丈( 注 1) もち ろん
︑前 者の グル ープ も勘 や経 験が マニ ュア ルを さら に発 展さ せる
可
能性に
自
を向け るよ うに なり まし たし
︑ 後者 のグ
ル
ー
プも
︑ベ テラ ンの 従業 員で あっ ても マ
ニ
ュ アル
を活 用す るこ とに よ っ て ︑ 自分 の知 織の 欠落 など を再 確
認す
るメ
リ
ット
を認める よ・ つに なり
ま
し
た︒‑
サービスに対する考え方の違い
ここ
でつのグループのサービスに対する考え方の違
2
いを整理しておきます(図
2
参照
)︒
前者のグループは︑基本的なレベルのサ
ー
ビスを想定しており︑個人的な資質に基づく知識・ノウハウ
・技 術 など をベ
ー
スにしながら︑標準化された分析( 業
界の中
で︑ある程度︑普遍的で共通するものであると認めら
れた分析)を活用することによ
っ て
︑現状よりも一歩
進んだサ
ー
ビスを提供することを狙いとしてい まし た
︒
分析に重きを泣いているので︑ここでは分析志向の発想
と呼ぶことにします︒
それに対して︑後者のグループは︑あくまでも競争
関係を念頭に世いて︑比較的応用レベルのサービスを想
定していました︒つまり︑前述の標準化された分析を
活用することによって確立した基本的サービスをベ
l
スにして︑さらに個人が長年の経験や勘をもとに'
身に
つ
けた熟練の技を加えることによって︑厳しい競争関係
‑ 競
争 力 の あ る サ ー ビ ス へ の 展 開
s 分析から実行ヘ
s
介護サ
ー
ビス提供機関が競争力のあるサービスを展開するには適切な分析をすることが重要です︒
とこ ろ
が︑この分析作業は︑時として﹁分析マヒ症候群﹂とで
も呼べるような問題を引き起ャ﹂す‑﹂とがあります(図
3
を参照)︒たと えば
︑
①利用者の介護にあた
っ て
︑分析対象とな
るチ
ェッ
ク
項目だけに目が向けられ︑それらの項目を満足させる
ことだけが介設の目的になってしまうことがありま究
② 分
析にかなりの時間と労力を取られ
︑
その 結果
︑
なかなか次の実行段階に進めないことがありまえ
③
コン ピュ
ー
タを導入して分析作業の省力化を進めたに もか かわ らず
︑コ ンピ ュ
ー
タが分析・
抽出し
たさま
ざまな問題点の︑っちどれを重視すべきなのか(
まず何
から取りかからなければならないのか
)分 から ない ので
︑
次の一歩を踏み出せないことがありま究
いずれにせよ︑分析した結果に従って利用者にサ
ー
ビスを提供し︑そのサービスの内容を利用者に評価し
ていただくわけですから︑迅速に適切なサービスを提
供することが先決です︒したがって︑分析のリストにば
かり目が行き︑自の前の利用者が見えなくな
らな いよ
うに気をつけるとともに︑分析と直観を最大限に活用
して利用者の
‑ T
ズを満たせるような実行力を発揮し
なければなりません︒ に勝ち残れるサービスを提供することを狙いとしてい
たのです
︒
熟練にお一きを置いているので︑ここでは直観(熟
練
) 志 向の発想と呼ぶことにします
︒
以上のような
学 生
の発想は︑サービス提供機関の経
営を考える上で非常に参考になります
︒
機関が競争 時代に
むけて介護サ
ービ
スを向上させるステップを示
して
いる から
です泡
たとえば︑新設されたばかりでスタ
ッ フ がト分な介
説サービスを提供できない機関や︑もう一
度基本に立
ち戻って自らの介護サ
ー
ビスの現状を見直してみ
よ︑
つ
という機関などは︑利用者の現状を把怪するための各
極の分析ツ
l
ルを活用することによっ て
︑確 実に レベ ル
アップをはかることができます
︒
そのため︑ ﹁
分 析
﹂へ の
取り組
み
は
︑競
争時代に向け
ての第一歩で
あり
︑非
常
に
重要な意
味
を持
って い
ます
︒
そして︑さらに介護サービス提供機関が競争時代に
本格
的に対応しようとする場合には︑その分
析ツ
l
ルを活用して介護の標準的なレベルのサービスを実現し
た上で︑熟練技術
・
日度なノウハウを加味することによって︑競争力のあるサ
ー
ビスへと民附することがボめられま士
すなわち︑現状から一ぷ踏み出して競争
時 代
に刈
応するには︑介護サービス提供機関は︑まず分析志向
の発想に立ち︑さらに熟練志向の発想へと進めていく
ステ
必要なのですソプが
︒
(注2)
かつ て︑ 米国 のビ ジネ スの 現場 で広 く支 持さ れて いた 分 析的 な経 営手 法が 重大 な問 題を 引き 起こ した こと があ りま
す︒
それ は
︑戦
略経 営と よば れる
﹁科学
的﹂ な手 法 で︑ その 特徴 は︑ たと えば
︑ま ず環 抽出 を徹 底的 に分 析し
︑ それ に合 わせ て自 社の 資源 を論 理的 に展 開し
︑次 に組 織を 戦略 にあ わせ て設 計し て戦 略を 実施 する とい う基 本的 性格 を待 って いま すも 戦略 経営 の手 法は
﹁分 析的 戦 略論
﹂と もよ ばれ
︑さ まざ まな 実践 的手 法を 生み 出し て 優れ た成 果を あげ まし た
︒
とこ ろが
︑戦 略経 営は 次第 に
ト
ラブル を引 き起 こす よ うに なり まし た︒ 戦略 を策 定す る禁 務が 窓社 スタ ッフ に 集中 し︑ それ に反 比
例
して︑ 現喝 が自 主性 を
持っ
て意 思 決定 でき なく なっ てい った ので 克他 方︑ 本社 の戦 略ス タ はッ フ 必要 以上
に
m
員さ れ
︑現
織 の情 報や 問題 から 遠 く離 れた 本社 で︑ 机上 の戦 略プ ラン の作 成に 忙殺 され て いき ま
し
た︒その 結果
︑組 総は しだ いに 複雑 化
・
官僚制 化し
︑現 場の 環境 適応 力は 低下 して い
った
ので
す勺
こう
し た現 象は
︑一 般に
︑﹁ 分析 マヒ 症候 群﹂ と呼 ばれ てい ます
唱
。
。
。
サービスの提供者に力量があれば分析志向であ
っ て も直観
(熟
練
) 志 向であっても適切なサービスを提供す
ることができ︑逆に力量がなければ分析志向︑直観志
向にかかわらず十分なサービスは提供できません
︒
これからは︑それぞれのスタッフが屠ってきた助や技
術のノウハウに加えて︑それを普遍化させるために科争
的根拠に基づいた分析を活用して手早く
判断
し︑
スタ
ッフの能力を最大限に使って︑高齢者にサービスを提
供したいものです ︒
76
'"参考文献『企業進化治j野 中 郁 次 郎 /日本経済新聞社.1985