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日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン 機能性ディスペプシア (FD) 作成 評価委員会は, 機能性消化管疾患診療ガイドライン 機能性ディスペプシア (FD) の内容については責任を負うが, 実際の臨床行為の結果については各担当医が負うべきである. 機能性消化管疾患診療ガイドライン 機能性

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日本消化器病学会

機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014—機能性ディスペプシア(FD)

Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Functional Dyspepsia

(2)

日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性

ディスペプシア(FD)作成・評価委員会は,機能性消化管疾患診療

ガイドライン—機能性ディスペプシア(FD)の内容については責任

を負うが,実際の臨床行為の結果については各担当医が負うべきで

ある.

機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性ディスペプシア

(FD)の内容は,一般論として臨床現場の意思決定を支援するもの

であり,医療訴訟等の資料となるものではない.

日本消化器病学会 2014 年 4 月 1 日

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(3)
(4)

— iv —

日本消化器病学会は,すでに胃食道逆流症(GERD),消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆

石症,慢性膵炎の 6 疾患ガイドラインを刊行し,市民向けの姉妹版であるそれぞれの疾患ガイ

ドブックと併せ会員に配布している.これらのガイドラインは一般書籍としても販売され学会

員以外の方々にも広く利用されているほか,その内容も他の書籍に数多く引用されている.こ

のように,日常的によく遭遇するいわゆる Common Disease に関するきちんとしたガイドライ

ンの必要性と重要性に鑑み,日本消化器病学会は,ガイドラインとしてさらに整備する必要度

が 高 い 疾 患 に つ い て 評 議 員 ア ン ケ ー ト を 行 い ,機 能 性 消 化 管 疾 患 ,大 腸 ポ リ ー プ ,

NAFLD/NASH

ガイドラインを策定することが決定された.ガイドライン作成過程で機能性消

化管疾患は,機能性ディスペプシア(FD)と過敏性腸症候群(IBS)との 2 つのガイドラインとし

て別々に作成されることになり,第二次ガイドラインについては合計 4 疾患がこの度発刊され

ることになった.

第一次ガイドライン 6 疾患では,関連学会から作成あるいは評価委員を推薦していただき,

それらの方々にガイドラインの作成メンバーとして加わっていたのであるが,第二次ガイドラ

インではそれぞれの疾患に関連の深い各学会との協力体制を強化し日本消化器病学会が核となっ

て共同体制のもと策定されたものである.すなわち,機能性消化管疾患は,日本消化管学会,

日本神経消化器病学会,大腸ポリープは,日本消化管学会,日本消化器がん検診学会,日本消

化器内視鏡学会,日本大腸肛門病学会,大腸癌研究会,NAFLD/NASH は日本肝臓学会を協力

学会としており,これらの諸学会のご協力に深く感謝したい.様々なガイドラインが数多くつ

くられているなかで,複数の専門学会が共通認識に基づいて日常臨床に役立つよう協力して,

これらの Common Disease のガイドラインを策定した意義は大きいと思われる.今後も,関連

する学会のいわば相互乗り入れ方式が積極的に導入され,ガイドライン相互の齟齬などをきた

すことのない継続的な努力が望まれる.

第二次ガイドラインの策定にあたっても,第一次ガイドラインと同様,学会総会,大会など

において中間報告や最終案の報告を行い,会員からの意見交換を行ってきたが,学会ホームペー

ジでもパブリックコメントを求め,作成過程の透明性や公開性を担保した.しかし,学会ホー

ムページ上でのパブリックコメントに関しては,私自身もコメントを寄せた経験から,システ

ムの利便性やコメント期間が必ずしも十分ではなく,幅広い意見の汲み取りができていたとは

いえないように感じられた.ガイドライン刊行後にも,幅広い疑問点や意見,あるいは新たな

知見を反映できるようにするには,さらにシステム改良を行っていく必要があると考えている.

今回の第二次日本消化器病学会ガイドラインのエビデンスレベル,推奨の強さに関しては,

第一次の 6 疾患ガイドラインで用いた Minds(Medical information network distribution

serv-ice)システムとは異なる,GRADE(The Grading of Recommendations Assessment,

Develop-ment and Evaluation)Working Group が提唱するシステムの考え方を取り入れることとした.

これは GRADE システムが,単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく,それ

が患者にとって便益があるのかどうか,費用はどうなのか,あるいは比較対照試験であっても

その方法によってエビデンスレベルを変更する必要があることなど,臨床介入や推奨が患者の

日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって

(5)

Medicine

(EBM)ではこのシステムに基づくガイドラインが国際的には主流となっている.一方,

GRADE

システムに基づくガイドラインは国内では先駆的な試みであり,その適用にあたって

は,GRADE システムをきちんと理解し,文献的エビデンスについてもより肌理細かな配慮が

必要となるため,今回の第二次ガイドラインの発刊が予定より遅れる原因ともなった.しかし,

日本消化器病学会はこれらのガイドラインを日本消化器病学会の英文誌である J.

Gastroenterol-ogy

に掲載する予定であり,その場合にも国際的に認知されている GRADE システムを用いる

ほうが世界的視野に基づくガイドラインとしての位置づけをより強化できると思われる.現在

前掲の 6 疾患ガイドラインもいわゆる Sunset Rule(日没ルール:作成から長期経過したガイドラ

インは妥当性が担保できないため,退場させる取り決め)に基づいて改訂作業が行われている

が,その際にもこの GRADE システムに準じた方式を採用する予定である.

このように新しく刊行される日本消化器病学会ガイドラインは,国内諸学会との密接な連携

のもとに策定され,わが国の消化器臨床の規範となるべき方法論と内容を有しており,英文論

文として国際的にも発信できる優れたガイドラインではないかと思われる.

ガイドラインづくりには,多大な時間と労力を必要とすることはいうまでもないが,その過

程で得られるものも少なくない.なにより,これらのガイドラインにより消化器病学の臨床水

準が向上し,患者のための適正な医療が提供できる一助となれば幸いである.

これまでガイドライン委員会で多大なご尽力をいただいた木下芳一理事,渡辺 守理事,なら

びに各疾患ガイドライン作成ならびに評価委員会のメンバーの諸先生,ならびに刊行にあたっ

て惜しみなくご協力をいただいた南江堂出版部の方々に厚く御礼申し上げる.

2014 年 4 月 日本消化器病学会理事長

菅野健太郎

(6)

— vi —

委員長

木下 芳一

島根大学第二内科

副委員長

渡辺  守

東京医科歯科大学消化器内科

委員

荒川 哲男

大阪市立大学消化器内科学

上野 文昭

大船中央病院内科

西原 利治

高知大学消化器内科

坂本 長逸

日本医科大学消化器内科学

下瀬川 徹

東北大学消化器病態学

白鳥 敬子

東京女子医科大学消化器内科

杉原 健一

東京医科歯科大学腫瘍外科

田妻  進

広島大学総合診療科

田中 信治

広島大学内視鏡診療科

坪内 博仁

鹿児島市立病院

中山 健夫

京都大学健康情報学

二村 雄次

愛知県がんセンター

野口 善令

名古屋第二赤十字病院総合内科

福井  博

奈良県立医科大学第三内科

福土  審

東北大学行動医学分野・東北大学病院心療内科

本郷 道夫

公立黒川病院

松井 敏幸

福岡大学筑紫病院消化器科

三輪 洋人

兵庫医科大学内科学消化管科

森實 敏夫

日本医療機能評価機構

山口直比古

東京理科大学野田図書館

吉田 雅博

化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科

芳野 純治

藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院消化器内科

渡辺 純夫

順天堂大学消化器内科

オブザーバー

菅野健太郎

自治医科大学消化器内科

統括委員会一覧

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(7)

協力学会:日本消化管学会,日本神経消化器病学会

責任者

木下 芳一

島根大学第二内科

作成委員会

委員長

三輪 洋人

兵庫医科大学内科学消化管科

副委員長

草野 元康

群馬大学光学医療診療部

委員

有澤 富康

金沢医科大学消化器内科学

大島 忠之

兵庫医科大学内科学消化管科

加藤 元嗣

北海道大学光学医療診療部

城  卓志

名古屋市立大学消化器・代謝内科学

鈴木 秀和

慶應義塾大学内科学(消化器)

富永 和作

大阪市立大学消化器内科

中田 浩二

東京慈恵会医科大学外科

永原 章仁

順天堂大学消化器内科

二神 生爾

日本医科大学消化器内科学

眞部 紀明

川崎医科大学内視鏡・超音波センター

評価委員会

委員長

本郷 道夫

公立黒川病院

副委員長

乾  明夫

鹿児島大学心身内科学

委員

春間  賢

川崎医科大学消化器内科学

樋口 和秀

大阪医科大学第二内科

屋嘉比康治

埼玉医科大学総合医療センター消化器・肝臓内科

オブザーバー

上村 直実

国立国際医療研究センター国府台病院消化器内科

作成協力者 栗林 志行 群馬大学病態制御内科学講座 河村  修 群馬大学病態制御内科学講座 保坂 浩子 群馬大学病態制御内科学講座 下山 康之 群馬大学病態制御内科学講座 川田 晃世 群馬大学病態制御内科学講座 神谷  武 名古屋市立大学消化器・代謝内科学 鹿野美千子 名古屋市立大学消化器・代謝内科学 正岡 建洋 慶應義塾大学内科学(消化器) 北條麻理子 順天堂大学消化器内科

(8)

— ix —

これまで形態学を中心に消化器病学が進んできたわが国においては,器質的疾患がないのに

腹部症状を生じる機能性消化管疾患に対する関心は低かった.しかし,生活レベルの向上とと

もに国民の QOL への関心が高まったこと,そして複雑化する現代社会において増加するストレ

スがその発症に関与していることなどを背景として,機能性消化管疾患に対する関心が飛躍的

に高まってきている.実際,日常診療では腹部の愁訴を訴える患者は極めて多く,これらの患

者を正しく診断し,科学的に対応することが求められるようになった.そこで,日本消化器病

学会ではこの疾患に対して標準的な診断・治療指針を示すため,機能性消化管疾患に対するガ

イドラインを作成することとなった.

機能性消化管疾患については,機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群の二部門に分け,と

もにガイドライン統括委員会の定める手順に従ってガイドラインを作成,評価した.作成委員,

評価委員は日本消化管学会,日本神経消化器病学会からの推薦を考慮して選任された.まず,

2011 年 7 月のガイドライン統括委員会で作成基本方針と作成スケジュールの確認が行われ,こ

こでガイドラインは GRADE システムの考え方を取り入れて作成することとなった.同月から

GRADE

システムの勉強会が開催され,クリニカルクエスチョン(CQ)が作成された.2011 年

11 月から,CQ に沿ってキーワードが策定され,文献検索が始まった.CQ に対するステートメ

ントを作成するため,拾い上げられた論文を一次,二次選択を通じて選択し,これらの文献の

構造化抄録を作成した.論文検索期間は 1983 年から 2011 年 9 月とし,この期間外のものは検

索期間外論文として取り扱った.また,キーワードからの検索では候補論文として上がらなかっ

たにもかかわらず引用が必要な論文はハンドサーチ論文として取り扱った.文献検索は 2012 年

内に終了し,ステートメントおよび解説の執筆に取りかかった.2013 年 1 月からは,作成委員

会を 6 回開催し,作成されたステートメント案に対して討議,投票のうえ,ステートメントと

解説文が決定され,評価委員会で評価,修正が加えられた.2013 年 12 月にパブリックコメント

を求め,これをもとに最終的に修正が加えられ「機能性消化管疾患診療ガイドライン 2014—機

能性ディスペプシア(FD)」が完成した.

2013 年 5 月に機能性ディスペプシアという保険病名が誕生し,今回この疾患に対するガイド

ラインができたことで,この領域が注目を浴びるとともに,機能性消化管疾患を有する患者に

対して正しい診断とよりよい治療が提供される素地が整ったと思われる.ただ,現在機能性ディ

スペプシアに対する保険適用を有している薬剤はアコチアミドのみであるため,ガイドライン

で推奨されている治療には保険上の制約がある.また,本ガイドラインはこれら患者の診療に

携わる医師を対象としており,作成はすべて日本消化器病学会の資金によるものであることを

付記しておきたい.

2014 年 4 月 日本消化器病学会機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性ディスペプシア(FD)作成委員長

三輪洋人

機能性消化管疾患診療ガイドライン—機能性ディスペプシア(FD)作成の手順

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(9)

1.エビデンス収集

それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)からキーワードを抽出し,学術論文を収集した.

データベースは,英文論文は MEDLINE,Cochrane Library を用いて,日本語論文は医学中央雑

誌を用いた.各キーワードおよび検索式,検索期間は日本消化器病学会ホームページに掲載す

る予定である.

収集した論文のうち,ヒトまたは human に対して行われた臨床研究を採用し,動物実験や遺

伝子研究に関する論文は除外した.患者データに基づかない専門家個人の意見は参考にしたが,

エビデンスとしては用いなかった.

2.エビデンス総体の評価方法

1)各論文の評価:構造化抄録の作成

各論文に対して,研究デザイン

1)

表 1

)を含め,論文情報を要約した構造化抄録を作成した.

さらに RCT や観察研究に対して,Verhagen らの内的妥当性チェックリストを参考にしてバイ

アスのリスクを判定した(

表 2

).総体としてのエビデンス評価は,GRADE(The Grading of

Rec-ommendations Assessment, Development and Evaluation)システム

2〜21)

の考え方を参考にして

評価し,CQ 各項目に対する総体としてのエビデンスの質を決定し表記した(

表 3

).

2)アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価

(1)初期評価:各研究デザイン群の評価

メタ群,ランダム群=「初期評価 A」

非ランダム群,コホート群,ケースコントロール群,横断群=「初期評価 C」

ケースシリーズ群=「初期評価 D」

(2)エビデンスレベルを下げる要因の有無の評価

研究の質にバイアスリスクがある

結果に非一貫性がある

表 1 研究デザイン

各文献へは下記 9 種類の「研究デザイン」を付記した.  (1)メタ (システマティックレビュー /RCT のメタアナリシス)  (2)ランダム (ランダム化比較試験)  (3)非ランダム (非ランダム化比較試験)  (4)コホート (分析疫学的研究(コホート研究))  (5)ケースコントロール (分析疫学的研究(症例対照研究))  (6)横断 (分析疫学的研究(横断研究))  (7)ケースシリーズ (記述研究(症例報告やケース・シリーズ))  (8)ガイドライン (診療ガイドライン)  (9)(記載なし) (患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見は, 参考にしたが,エビデンスとしては用いないこととした)

(10)

— xi —

エビデンスの非直接性がある

データが不精確である

出版バイアスの可能性が高い

(3)エビデンスレベルを上げる要因の有無の評価

大きな効果があり,交絡因子がない

用量–反応勾配がある

可能性のある交絡因子が,真の効果をより弱めている

(4)総合評価:最終的なエビデンスの質「A,B,C,D」を評価判定した.

3)エビデンスの質の定義方法

エビデンスレベルは海外と日本で別の記載とせずに 1 つとした.またエビデンスは複数文献

を統合・作成した統合レベル(body of evidence)とし,

表 3

の A〜D で表記した.

また,1 つ 1 つのエビデンスに「保険適用あり」の記載はせず,保険適用不可の場合に,解

説の中で明記した.

表 2 バイアスリスク評価項目

選択バイアス (1)ランダム系列生成 詳細に記載されている か (2)コンシールメント 組み入れる患者の隠蔽化がなされているか 実行バイアス (3)盲検化 検出バイアス (4)盲検化 症例減少バイアス (5)ITT 解析 ITT 解析の原則を掲げて,追跡からの脱落者に対してその原則を遵守 しているか (6)アウトカム報告バイアス  (解析における採用および除外データを含めて) (7)その他のバイアス 告・研究計画書に記載されているにもかかわらず,報 告されていないアウトカムがないか

表 3 エビデンスの質

A:質の高いエビデンス(High)    真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる. B:中程度の質のエビデンス(Moderate)    効果の推定値が中程度信頼できる.    真の効果は,効果の効果推定値におおよそ近いが,それが実質的に異なる可能性もある. C:質の低いエビデンス(Low)    効果推定値に対する信頼は限定的である.    真の効果は,効果の推定値と,実質的に異なるかもしれない. D:非常に質の低いエビデンス(Very Low)    効果推定値がほとんど信頼できない.    真の効果は,効果の推定値と実質的におおよそ異なりそうである.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(11)

奨の強さを決めるためにコンセンサス会議を開催した.

推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の嗜好,③益と害,④コスト評価,の 4 項目

を評価項目とした.コンセンサス形成方法は,Delphi 法,nominal group technique(NGT)法に

準じて投票を用い,70%以上の賛成をもって決定とした.1 回目で,結論が集約できないとき

は,各結果を公表し,日本の医療状況を加味して協議の上,投票を繰り返した.作成委員会は,

この集計結果を総合して評価し,

表 4

に示す推奨の強さを決定し,本文中の囲み内に明瞭に表

記した.

推奨の強さは「1:強い推奨」,「2:弱い推奨」の 2 通りであるが,「強く推奨する」や「弱く

推奨する」という文言は馴染まないため,下記のとおり表記した.

4.本ガイドラインの対象

1)利用対象:一般臨床医

2)診療対象:成人の患者を対象とした.小児は対象外とした.

5.改訂について

本ガイドラインは,日本消化器病学会ガイドライン委員会を中心として改訂を予定している.

6.作成費用について

本ガイドラインの作成はすべて日本消化器病学会が費用を負担しており,他企業からの資金

提供はない.

7.利益相反について

1)日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員・各ガイドライン作

成・評価委員と企業との経済的な関係につき,各委員から利益相反状況の申告を得た(詳細は

「利益相反に関して」に記す).

2)本ガイドラインでは,利益相反への対応として,協力学会の参加によって意見の偏りを防

ぎ,さらに委員による投票によって公平性を担保するように努めた.また,出版前のパブリッ

クコメントを学会員から受け付けることで幅広い意見を収集した.

■引用文献

1) 福井次矢,山口直人(監修).Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014,医学書院,東京,2014 2) 相原守夫,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADE システム,凸版メディア,弘前,

表 4 推奨の強さ

推奨度 1(強い推奨) 実施する ことを推奨する 実施しない ことを推奨する 2(弱い推奨) 実施する ことを提案する 実施しない ことを提案する

(12)

— xiii —

2010

3) The GRADE* working group. Grading quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2004;

328: 1490-1494 (printed, abridged version)

4) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recom-mendations. BMJ2008; 336: 924-926

5) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations: What is "quality of evidence" and why is it important to clinicians? BMJ2008; 336: 995-998

6) Schünemann HJ, Oxman AD, Brozek J, et al; GRADE Working Group. Grading quality of evidence and strength of recommendations for diagnostic tests and strategies. BMJ2008; 336: 1106-1110

7) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE working group .Rating quality of evidence and strength of recommendations: incorporating considerations of resources use into grading recommendations. BMJ 2008; 336: 1170-1173

8) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations: going from evidence to recommendations. BMJ2008; 336: 1049-1051

9) Jaeschke R, Guyatt GH, Dellinger P, et al; GRADE working group. Use of GRADE grid to reach decisions on clinical practice guidelines when consensus is elusive. BMJ2008; 337: a744

10) Guyatt G, Oxman AD, Akl E, et al. GRADE guidelines 1. Introduction-GRADE evidence profiles and sum-mary of findings tables. J Clin Epidemiol2011; 64: 383-394

11) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 2. Framing the question and deciding on impor-tant outcomes.J Clin Epidemiol2011; 64: 295-400

12) Balshem H, Helfand M, Schunemann HJ, et al. GRADE guidelines 3: rating the quality of evidence. J Clin Epidemiol2011; 64: 401-406

13) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al. GRADE guidelines 4: rating the quality of evidence - study limita-tion (risk of bias). J Clin Epidemiol2011; 64: 407-415

14) Guyatt GH, Oxman AD, Montori V, et al. GRADE guidelines 5: rating the quality of evidence - publication bias. J Clin Epidemiol2011; 64: 1277-1282

15) Guyatt G, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 6. Rating the quality of evidence - imprecision. J Clin Epidemiol2011; 64: 1283-1293

16) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 7. Rating the quality of evidence - inconsistency. J Clin Epidemiol2011; 64: 1294-1302

17) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 8. Rating the quality of evidence - indirectness. J Clin Epidemiol2011; 64: 1303-1310

18) Guyatt GH, Oxman AD, Sultan S, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 9. Rating up the quality of evidence. J Clin Epidemiol2011; 64: 1311-1316

19) Brunetti M, Shemilt I, et al; The GRADE Working. GRADE guidelines: 10. Considering resource use and rating the quality of economic evidence. J Clin Epidemiol2013; 66: 140-150

20) Guyatt G, Oxman AD, Sultan S, et al. GRADE guidelines: 11. Making an overall rating of confidence in effect estimates for a single outcome and for all outcomes. J Clin Epidemiol2013; 66: 151-157

21) Guyatt GH, Oxman AD, Santesso N, et al. GRADE guidelines 12. Preparing Summary of Findings tables-binary outcomes. J Clin Epidemiol2013; 66: 158-172

(13)

日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員と企業との経済的な関係につき,下記の基準で, 各委員から利益相反状況の申告を得た. 機能性消化管疾患診療ガイドライン―機能性ディスペプシア(FD)作成・評価委員には診療ガイドライン対象疾患に関 連する企業との経済的な関係につき,下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た. 申告された企業名を下記に示す(対象期間は 2011 年 1 月 1 日から 2013 年 12 月 31 日).企業名は 2014 年 3 月現在の 名称とした.非営利団体は含まれない. 1.委員または委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が個人として何らかの報酬を得た企 業・団体 役員・顧問職(100 万円以上),株(100 万円以上または当該株式の 5%以上保有),特許権使用料(100 万円以上) 2.委員が個人として何らかの報酬を得た企業・団体 講演料(100 万円以上),原稿料(100 万円以上),その他の報酬(5 万円以上) 3.委員の所属部門と産学連携を行っている企業・団体 研究費(200 万円以上),寄付金(200 万円以上),寄付講座 ※統括委員会においては日本消化器病学会診療ガイドラインに関係した企業・団体,作成・評価委員においては診 療ガイドライン対象疾患に関係した企業・団体の申告を求めた 統括委員および作成・評価委員はすべて,診療ガイドラインの内容と作成法について,医療・医学の専門家として科 学的・医学的な公正さを保証し,患者のアウトカム,Quality of life の向上を第一として作業を行った. 利益相反の扱いは,国内外で議論が進行中であり,今後,適宜,方針・様式を見直すものである. 表 1 統括委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.アステラス製薬株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社 2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,株式会社 医学書院,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,杏林製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社, 第一三共株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,ファイザー株式会 社,株式会社ヤクルト本社 3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ 合同会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株 式会社,株式会社カン研究所,杏林製薬株式会社,協和発酵キリン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーン ケア研究所,株式会社スズケン,ゼリア新薬工業株式会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会 社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製 薬株式会社,東レ株式会社,ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,持田製薬株式会 社,株式会社ヤクルト本社,ヤンセンファーマ株式会社,ユーシービージャパン株式会社 表 2 作成・評価委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.なし 2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬 株式会社,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,武田薬品工業株式会社,株式会社ツムラ,日本新薬株 式会社 3.味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,イーエヌ大塚製薬株式会社,エーザ イ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,ギブン・イメージング株式会社,杏林製薬株式会社,サノフィ 株式会社,株式会社 JIMRO,ゼリア新薬工業株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品 工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,株式会社ツムラ,日本新薬 株式会社,バイエル薬品株式会社,VanaH 株式会社,ファイザー株式会社,株式会社ヤクルト本社

(14)

— xv —

第 1 章 概念・定義・疫学 

第 2 章 病態

第 3 章 診断 

第 4 章 治療

第 5 章 予後・合併症

本ガイドラインの構成

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(15)

【診断と治療のフローチャート[プライマリケアでの対応]】

機能性ディスペプシア 疑いの治療 推奨の強さ 1(使用することを推奨する) のものを初期治療に,それ以外を第二段 階の治療選択肢とし,使用してもよい薬 剤とした 症状の原因となる 器質的疾患あり 症状の原因となる 器質的疾患なし 症状持続 または再燃 数ヵ月以内に内視鏡あるいは その他の検査で器質的疾患が 除外されている場合 内視鏡検査をスキップ 機能性 ディスペプシア 慢性的な ディスペプシア 症状患者 他疾患 問診・身体所見・採血 状態/診断 検査 判断 内視鏡検査 あり なし 4 週を目処とする注 5 警告徴候注 1 可能 不可 内視鏡検査が すぐできる 陽性判断 or 治療成功 治療 陰性判断 or治療不成功 酸分泌抑制薬 運動機能改善薬 初期 治療 機能性ディスペプシア 疑い 説明と保証/食事・生活指導 初期治療 注 2 注 3 注 4 二次 治療 抗不安薬 抗うつ薬 漢方薬 注 1:警告徴候とは以下の症状をいう. 原因が特定できない体重減少 再発性の嘔吐 出血徴候 嚥下困難 高齢者 また NSAIDs,低用量アスピリンの使用者は機能性ディスペプシア患者には含めない. 注 2:内視鏡検査を行わない場合には機能性ディスペプシアの診断がつけられないため,「機能性ディスペプシア疑い」患者として 治療を開始してもよいが,4 週を目途に治療し効果のないときには内視鏡検査を行う. 注 3:説明と保証 患者に機能性ディスペプシアが,上部消化管の機能的変調によって起こっている病態であり,生命予後に影響する病態の可能性が 低いことを説明する.主治医が患者の愁訴を医学的対応が必要な病態として受け止めたこと,愁訴に対して治療方針が立てられるこ とを説明することで,患者との適切な治療的関係を構築する.内視鏡検査前の状態にあっては,器質的疾患の確実な除外には内視鏡 検査が必要であることを説明する. 注 4:二次治療の薬剤も状況に応じて使用してもよい.ここでは推奨の強さ 1(使用することを推奨する)のものを初期治療に,そ れ以外を二次治療とし,使用してもよい薬剤とした. 注 5:これまでの機能性ディスペプシアの治療効果を調べた研究では効果判定を 4 週としている研究が多く,また治療効果が不十 分で治療法を再考する時期として多くの専門家が 4 週間程度を目安としていることから4週を目途とした.

(16)

— xvii —

【診断と治療のフローチャート[消化器科専門医での対応]】

機能性ディスペプシア 推奨の強さ 1(使用することを推奨する) のものを初期治療に,それ以外を第二段 階の治療選択肢とし,使用してもよい薬 剤とした 症状の原因となる 所見あり 症状の原因となる 所見なし 症状の原因となる 所見なし 症状再燃 症状不変 症状改善 陽性 陰性 胃炎の所見がある場合 (除菌治療 抵抗性 FD) 注 4 症状不変 慢性的な ディスペプシア 症状患者 他疾患 問診・身体所見・採血 内視鏡 検査 あり なし 警告徴候 HP 関連 ディスペプシア HP 除菌 HP 診断 症状の原因となる 所見あり 他疾患 他の 画像診断 酸分泌抑制薬 運動機能改善薬 初期 治療 機能性ディスペプシア 説明と保証/食事・生活指導 治療抵抗性 FD注 5 他疾患 の検索 初期治療 注 3 二次治療 消化管機能検査・ 心理社会的 因子の評価 専門治療 注 6 二次 治療 抗不安薬 抗うつ薬 漢方薬 注 1 注 2 注 7 注 1:警告徴候とは以下の症状をいう. 原因が特定できない体重減少 再発性の嘔吐 出血徴候 嚥下困難 高齢者 また NSAIDs,低用量アスピリンの使用者は機能性ディスペプシア患者には含めない. 注 2:H. pylori 除菌効果の判定時期については十分なコンセンサスは得られていない. 注 3:説明と保証 患者に機能性ディスペプシアが,上部消化管の機能的変調によって起こっている病態であり,生命予後に影響する病態の可能性が 低いことを説明する.主治医が患者の愁訴を医学的対応が必要な病態として受け止めたこと,愁訴に対して治療方針が立てられるこ とを説明することで,患者との適切な治療的関係を構築する.内視鏡検査前の状態にあっては,器質的疾患の確実な除外には内視鏡 検査が必要であることを説明する. 注 4:H. pylori 未検のとき H. pylori 診断へ戻る 注 5:H. pylori 除菌治療,初期・二次治療で効果がなかった患者をいう. 注 6:心療内科的治療(自律訓練法,認知行動療法,催眠療法など)などが含まれる. 注 7:H. pylori 除菌治療を施行したあと,6〜12 ヵ月経過しても症状が消失または改善している場合は HP 関連ディスペプシア(H. pylori associated dyspepsia)という.

(17)

症状の原因となる 所見あり 症状の原因となる 所見なし 症状の原因となる 所見なし 症状再燃 症状不変 症状改善 陽性 陰性 胃炎の所見のある場合 (除菌治療 抵抗性 FD) 注 7 症状不変 慢性的な ディスペプシア 症状患者 他疾患 問診・身体所見・採血 内視鏡 検査 あり なし 警告徴候 HP 関連 ディスペプシア HP 除菌 HP 診断 症状の原因となる 所見あり 4 週を 目処とする 他疾患 他の 画像診断 機能性ディスペプシア 説明と保証/食事・生活指導 治療抵抗性 FD 他疾患 の検索 初期治療 機能性ディスペプシア 疑い 説明と保証/食事・生活指導 初期治療 注 3 注 2 注 4 注 5 二次治療 消化管機能検査・ 心理社会的 因子の評価 専門治療 注 9 注 8 注 1 注 6 症状不変 または再燃 注 10 注 1:警告徴候とは以下の症状をいう. 原因が特定できない体重減少 再発性の嘔吐 出血徴候 嚥下困難 高齢者 また NSAIDs,低用量アスピリンの使用者は機能性ディスペプシア患者には含めない. 注 2:内視鏡検査を行わない場合には機能性ディスペプシアの診断がつけられないため,「機能性ディスペプシア疑い」患者として 治療を開始してもよいが,4 週を目途に治療し効果のないときには内視鏡検査を行う. 注 3:説明と保証 患者に機能性ディスペプシアが,上部消化管の機能的変調によって起こっている病態であり,生命予後に影響する病態の可能性が 低いことを説明する.主治医が患者の愁訴を医学的対応が必要な病態として受け止めたこと,愁訴に対して治療方針が立てられるこ とを説明することで,患者との適切な治療的関係を構築する.内視鏡検査前の状態にあっては,器質的疾患の確実な除外には内視鏡 検査が必要であることを説明する. 注 4:二次治療の薬剤も状況に応じて使用してもよい.ここでは推奨の強さ 1(使用することを推奨する)のものを初期治療に,そ れ以外を二次治療とし,使用してもよい薬剤とした. 注 5:これまでの機能性ディスペプシアの治療効果を調べた研究では効果判定を 4 週としている研究が多く,また治療効果が不十 分で治療法を再考する時期として多くの専門家が 4 週間程度を目安としていることから 4 週を目途とした. 注 6:H. pylori 除菌効果の判定時期については十分なコンセンサスは得られていない. 注 7:H. pylori 未検のとき H. pylori 診断へ戻る 注 8:H. pylori 除菌治療,初期・二次治療で効果がなかった患者をいう. 注 9:心療内科的治療(自律訓練法,認知行動療法,催眠療法など)などが含まれる. 注 10:H. pylori 除菌治療を施行したあと,6〜12 ヵ月経過しても症状が消失または改善している場合は HP 関連ディスペプシア (H. pylori associated dyspepsia)という.

(18)

— xix —

【診療レベルに応じた FD 診断に行いうる検査】

CQ 推奨の強さ EvL

EvL:エビデンスレベル(evidence level) na:推奨の強さなし(not applicable) LDA:低用量アスピリン(low dose aspirin)

PC 医:プライマリケア医 ▲:可能ならば実施する検査 ▽:他疾患鑑別の必要性に応じて行う ●:実施が望ましい検査 *:研究施設によって行いうる機能検査は異なる PC 医 消化器病専門医 研究機関 病歴聴取(医療面接) 自己記入式問診票 身体診察 NSAIDs,LDA 使用の確認 末梢血,生化学一般 炎症反応 便潜血検査 腹部 X 線 上部消化管内視鏡 感染検査 上部消化管透視 腹部超音波検査 腹部 CT 検査 消化管機能検査* 心理社会的因子の評価 3 4 3 7 3 9 3 7 3 7 3 7 3 2 3 1 3 6 3 2 3 2 3 2 3 2,3 8 3 5 2 2 na 2 2 2 2 2 1 2 2 2 2 1 B B A C C ● ▲ ● ● ● ● ▽ ▽ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ● ▲ ● ● ● ● ▽ ▽ ● ● ▲ ▲ ▽ ▲ ▲ ● ▲ ● ● ● ● ▽ ▽ ● ● ▲ ● ▽ ● ● 機能性ディスペプシア診断のためには,器質的疾患の除外が必要である.問診でも,ある程度の診断は可能ではあるが,確実な診 断には内視鏡検査が必須であり,診療のいずれかの段階で内視鏡検査を行うことが必要である(CQ3-1,推奨の強さ 2,エビデンス レベル B).H. pylori 検査は,除菌によって症状改善に至るものがあり,推奨の強さ 1,エビデンスレベル A と判定された.H. pylori 感染症として保険診療が可能であるが,ディスペプシア症状改善を起こす確率が高いわけではない. 上部消化管透視は今日の消化器診療では器質的診断のために用いられる頻度は少なく,むしろ専門医での機能検査の一環として用 いられることがある. 他疾患除外のために行うことがある検査は▽で示した. ここに示す検査は,機能性ディスペプシアを積極的に診断するためだけではなく,機能性ディスペプシアと他疾患とを鑑別すると きに行うものを含めたものであり,すべての患者に適用すべきものではなく,患者の症状あるいは症候にあわせて選択するものの参 考として提示するものである.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(19)

第 1 章 概念・定義・疫学

CQ 1-1

ディスペプシアとは何か? ………2

CQ 1-2

FD

はどのように定義されるか?………4

CQ 1-3

現状の慢性胃炎と FD の関係はどのようになるのか? ………6

CQ 1-4

日本の日常診療において RomeⅢ基準の使用は妥当か?(期間や下位分類)…………8

CQ 1-5

日本人の FD の有病率はどのくらいか? ………11

CQ 1-6

FD

の有病率は増加しているか? ………13

CQ 1-7

FD

に性差はあるか? ………15

CQ 1-8

FD

の頻度は肥満者で高いか? ………16

CQ 1-9

FD

は高齢者よりも若年者に多いか? ………17

CQ 1-10 FD 患者の受療行動は症状の持続期間や強さに影響を受けるか? ………18

CQ 1-11 FD 患者の QOL は低下しているか? ………20

CQ 1-12 症状の程度は QOL と相関するか? ………22

CQ 1-13 病悩期間は QOL と相関するか? ………23

第 2 章 病 態

CQ 2-1

FD

の病態は多因子によるものか? ………26

CQ 2-2

FD

の病態に胃適応性弛緩障害は関連するか? ………27

CQ 2-3

FD

の病態に胃排出障害は関連するか? ………28

CQ 2-4

FD

の病態に内臓知覚過敏は関連するか? ………30

CQ 2-5

心理社会的因子は FD に関連するか? ………31

CQ 2-6

胃酸は FD の発症に関連するか? ………33

CQ 2-7

H. pylori

感染は FD に関連するか? ………36

CQ 2-8

家族歴・遺伝的要因は FD に関連するか? ………38

CQ 2-9

幼少期や思春期の環境は FD に関連するか? ………40

CQ 2-10 感染性胃腸炎の罹患後に FD の発症がみられるか? ………41

CQ 2-11 生活習慣は FD に関連するか? ………43

CQ 2-12 食事内容や食習慣は FD の増悪に関連するか? ………45

CQ 2-13 胃の形状(胃下垂,瀑状胃)は FD の発症に関連するか? ………47

(20)

— xxi —

第 3 章 診 断

CQ 3-1

日常診療において内視鏡検査は FD の診断に必要か? ………50

CQ 3-2

内視鏡検査以外の画像検査は FD の診断に必要か? ………51

CQ 3-3

FD

の診断に有用な診断指標(バイオマーカー)はあるか? ………52

CQ 3-4

FD

の診療に自己記入式質問票は有用か? ………53

CQ 3-5

FD

の診療に心理社会的因子の評価は必要か? ………55

CQ 3-6

FD

の診断時に H. pylori 検査をすべきか? ………56

CQ 3-7

アラームサイン(警告徴候)は器質的疾患を疑うべきサインとなるか? ………57

CQ 3-8

消化管機能検査は日常診療を行ううえで有用か? ………59

CQ 3-9

NSAIDs,低用量アスピリン服用者は FD から除外すべきか? ………61

CQ 3-10 FD の重症度の評価は必要か?(軽症,中等症,重症 FD などの区別は必要か?)

………62

第 4 章 治 療

CQ 4-1

FD

の治療目標は患者が満足しうる症状改善が得られることか? ………64

CQ 4-2

FD

の治療において,プラセボ効果は大きいか? ………65

CQ 4-3

FD

患者のプラセボ効果は女性で男性より高いか? ………66

CQ 4-4

FD

の治療において,良好な患者-医師関係を構築することは有効か? ………67

CQ 4-5

FD

の治療として,生活習慣指導や食事療法は有効か? ………68

CQ 4-6

FD

の治療薬として,酸分泌抑制薬は有効か? ………69

CQ 4-7

プロトンポンプ阻害薬はヒスタミン H

2

受容体拮抗薬よりも有効か? ………71

CQ 4-8

FD

の治療薬として,消化管運動機能改善薬は有効か? ………73

CQ 4-9

FD

の治療として,H. pylori 除菌治療は有効か? ………76

CQ 4-10 FD の治療薬として,漢方薬は有効か? ………79

CQ 4-11 FD の治療薬として,抗うつ薬・抗不安薬は有効か? ………81

CQ 4-12 FD の治療薬として,制酸薬,プロスタグランジン誘導体および消化管粘膜保護薬

は有効か? ………84

CQ 4-13 FD の治療として,薬剤併用療法は有効か? ………85

CQ 4-14 FD の治療として,認知行動療法は有効か? ………86

CQ 4-15 FD の治療として,自律神経訓練法は有効か? ………88

CQ 4-16 FD の治療として,催眠療法は有効か? ………90

CQ 4-17 FD の治療として,鍼灸療法は有効か? ………91

CQ 4-18 FD の治療は病型に基づいて行うのがよいか? ………92

CQ 4-19 病悩期間が長いほど治療に抵抗するか? ………94

CQ 4-20 治療抵抗性の FD 患者はどの時点で治療を変更すべきか? ………95

CQ 4-21 FD 診療では,症状消失後の薬物治療を継続すべきか? ………97

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(21)

CQ 5-1

FD

は再発するか? ……… 100

CQ 5-2

FD

には気分障害,神経症性障害の合併の頻度は高いか?………101

CQ 5-3

FD

と胃食道逆流症(GERD)の合併の頻度は高いか?………103

CQ 5-4

FD

と過敏性腸症候群(IBS)の合併の頻度は高いか? ………105

CQ 5-5

FD

と慢性便秘の合併の頻度は高いか?………107

CQ 5-6

FD

に胆膵疾患(機能性胆囊・Oddi 括約筋障害,慢性膵炎,膵癌)は混在している

か? ………108

索引 ………109

(22)

— xxiii —

略語一覧

BMI body mass index

CBT cognitive behavioral therapy 認知行動療法 EPS epigastric pain syndrome 心窩部痛症候群 FD functional dyspepsia 機能性ディスペプシア FGID functional gastrointestinal disorder 機能性消化管疾患 GERD gastroesophageal refl ux disease 胃食道逆流症 GHQ General Health Questionnaires

H2RA histamine H2-receptor antagonist ヒスタミン H2受容体拮抗薬 HADS hospital anxiety and depression score

IBS irritable bowel syndrome 過敏性腸症候群 IMC interdigestive migrating complexes 空腹時強収縮

NSAIDs non-steroidal anti-infl ammatory drugs 非ステロイド性消炎鎮痛薬 NUD non-ulcer dyspepsia

PAGI-QOL Patient Assessment of Upper GastroIntestinal Disorders-Quality of Life

PDS postprandial distress syndrome 食後愁訴症候群 PGWB index Psychological General Well-Being index

PPI proton pump inhibitor プロトンポンプ阻害薬 QOL quality of life 生活の質

SF-36 Short Form 36 Health survey

(23)
(24)

— 2 —

解説

ディスペプシアとはもともと bad(dys)digestion(peptein)を意味するギリシャ語であるとい

う.しかしながら,これまで広く様々な腹部症状に対して使用されてきた曖昧な用語である

1, 2)

以前は時折あるいは持続的に生じる近位消化管に由来すると思われる症状とするのが一般的

であり,具体的には abdominal pain or discomfort(腹痛または不快感),postprandial fullness

(食後の胃もたれ),abdominal bloating(腹部膨満感),belching(曖気,ゲップ),early satiety

(早期飽満感,早期満腹感),anorexia(食欲不振),nausea(悪心),vomiting(嘔吐),heartburn

(胸やけ),regurgitation(呑酸,逆流感)などの症状を指していた

2)

.すなわち,これらの症状が

単独であるいは複数存在するときにディスペプシア症状を有する状態とされた.

注目すべきはディスペプシアという用語は時代とともに変遷していることであるが,これは

non-ulcer dyspepsia

や functional dyspepia など機能性ディスペプシアの定義の変遷と関連する

と思われる.1989 年の AGA の working team の報告では,ディスペプシアは「上部消化管(食

道,胃,十二指腸)に由来すると思われる上腹部や胸骨背部の痛み,不快感,胸やけ,嘔気,嘔

吐などの症状」と定義され,これは広く上腹部のすべての症状と解釈できる

3)

.一方,機能性消

化管疾患(FGID)の定義,分類には Rome 委員会が大きな役割を果たしており全世界に大きな影

響力を持つが,1991 年の RomeⅠ基準では,ディスペプシアは「持続的なあるいは反復する上

腹部の中心に生じる腹部の痛みまたは不快感」と定義されており,胸やけのみの症状はディス

ペプシアに含めない立場を取っている

4)

.1999 年の RomeⅡ基準

5)

においてもこのディスペプシ

アの定義は継承されているが,より具体的に心窩部痛,心窩部不快感,早期満腹感,胃もたれ,

膨満感,嘔気をディスペプシア症状としており,明確に胸やけ・逆流などの逆流症状を除外し

ていることには注目すべきである.また,2006 年の RomeⅢ基準

6)

においてはディスペプシア

をさらに狭義に定義しているが,ここでもやはりディスペプシアに胃食道逆流症状を含めてい

ない.

これらのことより,歴史的にはディスペプシアは胸やけなどの食道の症状を含めて考えられ

ることもあったが,胃食道逆流症の概念が明確になるにつれて,胃・十二指腸の症状に限定す

るようになってきたと思われる.そこで本ガイドラインではディスペプシアに食道の症状と考

Clinical Question 1-1

ディスペプシアとは何か?

CQ 1-1

ディスペプシアとは何か?

ステートメント

ディスペプシアとは心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とした腹部症状をいう.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(25)

文献

1) Chiba N. Definitions of dyspepsia: time for a reappraisal. Eur J Surg Suppl 1998; 583: 14-23 2) Heading RC. Definitions of dyspepsia. Scand J Gastroenterol Suppl 1991; 182: 1-6

3) Anonymous. Management of dyspepsia: report of a working party. Lancet 1988; 1 (8585): 576-579(ガイド ライン)

4) Talley N, Colin-Jones D, Koch K, et al. Functional dyspepsia: a classification with guidelines for diagnosis and management. Gastroenterol Int1991; 4: 145-160(ガイドライン)

5) Talley NJ, Stanghellini V, Heading RC, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gut 1999; 45 (Suppl 2): II37-II42(ガイドライン)

6) Tack J, Talley NJ, Camilleri M, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gastroenterology 2006; 130: 1466-1479(ガイドライン)

(26)

— 4 —

解説

1989 年に発表された AGA working party の報告では,ディスペプシアに胸やけや胸骨背部痛

を加えるなど広い定義を採用しており,器質的疾患を伴わないディスペプシアを non-ulcer

dys-pepsia

(NUD)と命名した

1)

.すなわち NUD は「上部消化管疾患に由来すると思われる上腹部

症状で,4 週間以上継続し,運動と関係なく,原因となる器質的・全身的疾患がないもの」と

定義されている.ここでは NUD を gastroesophageal reflux like,dysmotility like,ulcer like,

aerophagia,idiopathic の 5 つのグループに分類した.

1991 年の RomeⅠ基準では

2)

,「持続的なあるいは反復する上腹部の中心に生じる腹部の痛み

または不快感が 1 ヵ月以上続く場合で(そのうち 7 日以上に症状がある),明らかに症状の原因と

なる器質的疾患がなく,腹部手術や消化性潰瘍の既往がないもの」と定義されている.この分類

では functional dyspepsia という用語が使用され,FD は ulcer like,dysmotility

like,unspecif-ic

の 3 つに分類された.1999 年の RomeⅡ基準では

3)

,基本的に RomeⅠ基準を継承しつつ FD

を定義している.すなわち「症状の原因となるような器質的疾患がなく,反復性の上腹部を中

心とした痛みや不快感が過去 12 ヵ月間の内 12 週間に起こり,しかも IBS を合併していないも

の」と定義している.この分類でも FD は ulcer like,dysmotility like,unscpecific の 3 つに分

類されている.2006 年の RomeⅢ基準では

4)

,FD を 2 つのレベルで定義している.ひとつは一

般的でより広義に臨床的に用いる定義で「症状の原因となるような器質的,全身性,代謝性の

疾患がないにもかかわらず胃十二指腸に由来すると思われる症状が慢性的に生じているもの」

である.もうひとつは臨床研究や病態研究のための定義であり,これは「症状の原因となる器

質的疾患がないのににもかかわらず,食後のもたれ感や早期満腹感,心窩部痛,心窩部灼熱感

のうちの 1 つ以上の症状があり,これらが 6 ヵ月以上前に初発し,3 ヵ月以上続いているもの」

と定義されている.この 4 つの症状のうち,前二者を有するものを PDS(postprandial distress

syndrome),後二者を有するものを EPS(epigastric pain syndrome)と呼んでいる.また,最近

発表されたアジアの FD に関するコンセンサス(J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 626-641

a)

[検索

期間外文献])では FD を「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性の疾患がないにもかかわ

らず,慢性的にディスペプシア症状を有する状態」と定義しているが,これも今までの FD 研

Clinical Question 1-2

FD はどのように定義されるか?

CQ 1-2

FD はどのように定義されるか?

ステートメント

症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や

胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(27)

に基づいて行われてきたものであり,換言すればこれまでの膨大なエビデンスはこれらの定義

の上に成り立っている.この意味において,わが国のガイドラインにおいてもこの歴史的な背

景を踏まえて FD を定義すべきであると考える.しかし,これまでは慢性であることの定義は

様々であり,またディスペプシア症状の位置づけにもバラツキがあるため,わが国の実情にあっ

た定義が必要であると考えられる.そこでわが国においても,FD という概念が受け入れられ,

広く使用されて,多くのディスペプシア患者が正しく治療されるためにはより現実的で理解さ

れやすい定義が必要であるとの考えから,ガイドライン委員会としてステートメントに記す定

義を提案したい.

文献

1) Anonymous. Management of dyspepsia: report of a working party. Lancet 1988; 1 (8585): 576-579(ガイド ライン)

2) Talley N, Colin-Jones D, Koch K, et al. Functional dyspepsia: a classification with guidelines for diagnosis and management. Gastroenterol Int1991; 4: 145-160(ガイドライン)

3) Talley NJ, Stanghellini V, Heading RC, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gut 1999; 45 (Suppl 2): II37-II42(ガイドライン)

4) Tack J, Talley NJ, Camilleri M, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gastroenterology 2006; 130: 1466-1479(ガイドライン)

【検索期間外文献】

a) Miwa H, Ghoshal UC, Fock KM, et al. Asian consensus report on functional dyspepsia. J Gastroenterol Hepatol2012; 27: 626-641(ガイドライン)

(28)

— 6 —

解説

一般的に日本では,胃炎は症候性胃炎(症状はあるが器質的疾患のないものの総称),組織学

的胃炎(胃粘膜の組織学的炎症),内視鏡的胃炎(内視鏡的に同定可能な胃粘膜のびまん性,ある

いは限局性で発赤,びらん,凹凸不正粘膜など)の異なる概念が混同されてきた.ここで,明ら

かな器質的疾患がないのにディスペプシア症状のある FD は症候性胃炎の概念と最も類似して

いると思われる.

しかし,本来の意味の慢性胃炎は慢性的な胃粘膜の組織学的炎症により定義されるべきで,

また FD は症状により定義される疾患であるため,基本的に両者は異なる概念の疾患であると

考えてよい.すなわち,組織学的慢性胃炎の有無とディスペプシア症状の有無は異なった次元

の命題であり,両者は併存することもしないこともある.残念ながら,現在では両者が混同し

て使用されており,FD 患者の多くは慢性炎症がなくても慢性胃炎として治療されてきた.これ

は機能性ディスペプシアという保険病名がわが国になかったことが最も大きな原因であると思

われるが,これまでこの両者はほぼ同様に扱われてきた感がある.

このように慢性胃炎と FD の概念は同一ではないが,実際に胃炎の所見と症状の関連性は強

くないと考えられる.内視鏡検査所見に関しては,組織学的に判定された胃炎と内視鏡的に判定

された胃炎の一致率も 60%程度とあまり高くないとされ

1)

,また内視鏡的所見と上腹部症状と

の関連についての検討結果は報告間の差が大きいが

2, 3)

,前庭部胃炎とディスペプシアとの関連を

示唆する報告は多い

4, 5)

.ただ胃粘膜の慢性炎症と症状の程度は相関しないという報告が多く

2, 6)

特に萎縮性胃炎とディスペプシアの関連性は低いと考えるのが一般的である

1)

.ディスペプシア

症状と内視鏡所見,組織学的胃炎との関連を遡行的に検討した日本からの報告でも,一部の内

視鏡所見(前庭部の線状発赤)がディスペプシア症状と関連したものの組織学的胃炎の程度と萎

縮の程度はディスペプシア症状と関連しなかった

4)

.このように,ディスペプシア症状の原因を

胃粘膜の組織学的な変化に求めることは難しいことからも,組織学的慢性胃炎と FD は異なる

疾患であると銘記すべきである.

Clinical Question 1-3

現状の慢性胃炎と FD の関係はどのようになるのか?

CQ 1-3

現状の慢性胃炎と FD の関係はどのようになるのか?

ステートメント

FD 患者の多くはこれまで慢性胃炎として診断,治療されてきたが,FD は症状により定義さ

れる疾患であり,両者は同一のものではない.

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(29)

1) 木下芳一,天野祐二.内視鏡的胃炎と上腹部症状の関係.日本消化器病学会雑誌 2007; 104: 1573-1579 2) Lai ST, Fung KP, Ng FH, et al. A quantitative analysis of symptoms of non-ulcer dyspepsia as related to

age, pathology, and Helicobacter infection. Scand J Gastroenterol1996; 31: 1078-1082(横断)

3) Kyzekove J, Arlt J, Arltova M. Is there any relationship between functional dyspepsia and chronic gastritis associated with Helicobacter pylori infection? Hepatogastroenterology2001; 48: 594-602(横断)

4) Tahara T, Arisawa T, Shibata T, et al. Association of endoscopic appearances with dyspeptic symptoms. J Gastroenterol2008; 43: 208-215(横断)

5) Koskenpato J, Farkkila M, Sipponen P. Helicobacter pylori and different topographic types of gastritis: treat-ment response after successful eradication therapy in functional dyspepsia. Scand J Gastroenterol2002; 37: 778-784(横断)

6) Turkkan E, Uslan I, Acarturk G, et al. Does Helicobacter pylori-induced inflammation of gastric mucosa determine the severity of symptoms in functional dyspepsia? J Gastroenterol2009; 44: 66-70(横断)

(30)

— 8 —

解説

RomeⅢ基準では FD を 2 つのレベルで定義している

1)

.ひとつは一般的に用いる広い意味で

の定義と,もうひとつは研究用に用いるより細かく規定された定義である.前者は一般臨床で

用いるもので「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにもかかわらず,胃十

二指腸領域に由来すると思われる症状を呈する疾患」と定義され,また後者は「器質的疾患が

ないにもかかわらず,煩わしい食後もたれ感,早期満腹感,心窩部痛,心窩部灼熱感の 4 つの

症状のうち 1 つ以上の症状を有し,さらにこれらが 3 ヵ月以上継続し,初発症状が 6 ヵ月以上

前にみられるもの」と定義されている(

表 1

).また,4 つの症状のうち前二者を有するものを

食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS),後二者を有するものを心窩部痛症候

群(epigastric pain syndrome:EPS)と呼んでいる.本ガイドラインは基本的に一般医家を対象

として診療の指針を示すものであるため,前者に準じた定義を採用している.

一般には RomeⅢ基準の定義としては研究用基準(定義)がよく知られており,この意味で使

Clinical Question 1-4

日本の日常診療において RomeⅢ基準の使用は妥当か?(期

間や下位分類)

CQ 1-4

日本の日常診療において RomeⅢ基準の使用は妥当か?(期間や下位

分類)

ステートメント

RomeⅢ基準はわが国の日常診療での使用には必ずしも適していない.

表 1 FD 診断のための Rome Ⅲ基準

(特に研究目的やさらに詳しい定義が必要な場合の定義)

以下の 4 つうち少なくとも 1 つ以上の症状があること 食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS)*  1.食後膨満感

 2.早期満腹感(early satiation)

心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)**  3.心窩部痛  4.心窩部灼熱感 症状を説明できる明らかな器質的疾患がないもの 少なくとも 6 ヵ月以上前に症状を経験し,最近 3 ヵ月間症状が続いているもの 症状が持続しているとは PDS に関しては週に数回(2∼3 回以上),EPS に関しては週に 1 回以上の頻 度で生じることをいう *:EPS 症状を併存することがあり,また食後のもたれ感,食後の悪心,ゲップをきたすことがある. **:少なくとも中等度以上の強さの心窩部に限定する間欠的な痛みで排便や排ガスで軽快しない.痛みは灼熱感のこ ともあるが胸骨後部に起こるものではない.症状は空腹時に起こることもある.PDS 症状を併存することがある. (文献 1 より引用改変)

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

(31)

用されることが多い.しかし,この基準は日常診療では必ずしも日本人 FD 患者の診断には適

していないことが報告されている.Kinoshita らは,内視鏡で異常がなくしかもディスペプシア

症状を有している 2,946 人を対象に検討したところ,RomeⅢ基準ではその 12.3%しか FD と診

断されず,その主な理由は症状持続期間(病悩期間)の規定によるものであった(Intern Med 2011;

50: 2269-2276

a)

[検索期間外文献]).しかし,症状が 1 ヵ月までと 1〜6 ヵ月と 6 ヵ月以上持続す

る患者を比較しても,症状の強さも,QOL も変わらなかった(

図 1

).すなわち,RomeⅢ基準

では慢性的な症状発現を具体的な病悩期間の設定により定義することを試みたが,結果的にそ

の方法はわが国においては意義が少ないと考えられた.これは日本人では医療機関へのアクセ

スがよいため,症状発現から来院するまでの期間が短いことによる可能性がある.同様に

Man-abe

らは,364 人の内視鏡で所見のないディスペプシア患者を対象に調査したところ,6 割以上

の患者が罹病期間の項目で RomeⅢ基準に合致しなかったことを報告している

2)

.このように

RomeⅢ基準では症状の持続期間が長く設定されているが,これは諸外国と日本の医療保険制度

の違いによるものが大きい.日本の医療機関では短期間の有症状者の受診が多く,実態を反映

できる定義が必要である.

また,病態が多因子にわたり複雑な FD を定義すること自体の根本的な難しさも忘れてはな

らない.van Kerkhoven らは,RomeⅠ,Ⅱ,Ⅲ基準での診断された FD 患者は FD と思われる患

者の 41%,81%,60%であり,その 25%が Rome 基準の 3 つすべてで FD と診断され,15%は

どの診断基準でも診断されなかったという

3)

.RomeⅢの研究用基準では PDS と EPS という下

図 1 日本における病悩期間別の FD 患者 2,549 人の症状の程度

上腹部症状のある慢性胃炎患者を対象としたわが国における症状調査の結果.心窩部痛や胃もたれがあるにもか かわらず内視鏡的に明らかな器質的病変がない 2,549 人(ほぼ FD 患者と考えられる)を対象として,病悩期間と症 状の程度を比べた結果,症状の程度と病悩期間には明らかな関連性はなかった.同様にこれら患者の QOL も病悩期 間と関連しなかった.このことは,RomeⅢ基準で慢性の基準とされている 6 ヵ月という期間によって FD を定義す ることはわが国においては根拠のないことものであることを意味している. (文献 a より引用改変) 0 0.5 1 1.5 2 0 0.5 1 1.5 2 病悩期間 心窩部痛の程度 胃もたれ感の程度 <1 ヵ月 1∼6 ヵ月 6 ヵ月以上 NS NS NS 病悩期間 <1 ヵ月 1∼6 ヵ月 6 ヵ月以上 NS NS NS

図 1 FD 患者における Psychological General Well-Being Index(a)と General Health Question- Question-naire score(b)の推移
図 2 胃酸分泌と関連する機能障害HP 感染酸分泌亢進酸分泌低下 適応性弛緩拡張不全知覚閾値胃知覚過敏知覚閾値十二指腸知覚過敏幽門輪機能排出能胃液の急速排出知覚知覚酸分泌 機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014
図 1 消化管運動機能改善薬とプラセボを用いた non-ulcer dyspepsia に対する介入試験のメタア ナリシス (文献 2 より) 0.1 0.2 0.5 1 2 5 10Al-QuorainBekhtiChampionChungDe GrootDe NutteFrancoisHannonHansenHoltmannKellowRosch WoodYeoh6/447/2043/834/1421/563/173/173/1141/10951/595/2810/541/617/3855632/451
図 1 FD と漢方
+2

参照

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