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CQ 1-4 日本の日常診療において RomeⅢ基準の使用は妥当か?(期間や下位 分類)

ステートメント

● RomeⅢ基準はわが国の日常診療での使用には必ずしも適していない.

表 1 FD 診断のための Rome Ⅲ基準

(特に研究目的やさらに詳しい定義が必要な場合の定義)

以下の 4 つうち少なくとも 1 つ以上の症状があること 食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS)*

 1.食後膨満感

 2.早期満腹感(early satiation)

心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)**

 3.心窩部痛  4.心窩部灼熱感

症状を説明できる明らかな器質的疾患がないもの

少なくとも 6 ヵ月以上前に症状を経験し,最近 3 ヵ月間症状が続いているもの

症状が持続しているとは PDS に関しては週に数回(2〜3 回以上),EPS に関しては週に 1 回以上の頻 度で生じることをいう

*:EPS 症状を併存することがあり,また食後のもたれ感,食後の悪心,ゲップをきたすことがある.

**:少なくとも中等度以上の強さの心窩部に限定する間欠的な痛みで排便や排ガスで軽快しない.痛みは灼熱感のこ ともあるが胸骨後部に起こるものではない.症状は空腹時に起こることもある.PDS 症状を併存することがある.

(文献 1 より引用改変)

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

用されることが多い.しかし,この基準は日常診療では必ずしも日本人

FD

患者の診断には適 していないことが報告されている.Kinoshitaらは,内視鏡で異常がなくしかもディスペプシア 症状を有している 2,946 人を対象に検討したところ,RomeⅢ基準ではその 12.3%しか

FD

と診 断されず,その主な理由は症状持続期間(病悩期間)の規定によるものであった(Intern Med2011;

50: 2269-2276a)[検索期間外文献]).しかし,症状が 1 ヵ月までと 1〜6 ヵ月と 6 ヵ月以上持続す る患者を比較しても,症状の強さも,QOLも変わらなかった(図 1).すなわち,RomeⅢ基準 では慢性的な症状発現を具体的な病悩期間の設定により定義することを試みたが,結果的にそ の方法はわが国においては意義が少ないと考えられた.これは日本人では医療機関へのアクセ スがよいため,症状発現から来院するまでの期間が短いことによる可能性がある.同様に

Man-abe

らは,364 人の内視鏡で所見のないディスペプシア患者を対象に調査したところ,6 割以上 の患者が罹病期間の項目で

RomeⅢ基準に合致しなかったことを報告している

2).このように

RomeⅢ基準では症状の持続期間が長く設定されているが,これは諸外国と日本の医療保険制度

の違いによるものが大きい.日本の医療機関では短期間の有症状者の受診が多く,実態を反映 できる定義が必要である.

また,病態が多因子にわたり複雑な

FD

を定義すること自体の根本的な難しさも忘れてはな らない.van Kerkhovenらは,RomeⅠ,Ⅱ,Ⅲ基準での診断された

FD

患者は

FD

と思われる患 者の 41%,81%,60%であり,その 25%が

Rome

基準の 3 つすべてで

FD

と診断され,15%は どの診断基準でも診断されなかったという3).RomeⅢの研究用基準では

PDS

EPS

という下

図 1 日本における病悩期間別の FD 患者 2,549 人の症状の程度

上腹部症状のある慢性胃炎患者を対象としたわが国における症状調査の結果.心窩部痛や胃もたれがあるにもか かわらず内視鏡的に明らかな器質的病変がない 2,549 人(ほぼ FD 患者と考えられる)を対象として,病悩期間と症 状の程度を比べた結果,症状の程度と病悩期間には明らかな関連性はなかった.同様にこれら患者の QOL も病悩期 間と関連しなかった.このことは,RomeⅢ基準で慢性の基準とされている 6 ヵ月という期間によって FD を定義す ることはわが国においては根拠のないことものであることを意味している.

(文献 a より引用改変)

0 0.5 1 1.5 2

0 0.5 1 1.5 2

病悩期間

心窩部痛の程度 胃もたれ感の程度

<1 ヵ月 1〜6 ヵ月 6 ヵ月以上

NS NS

NS

病悩期間

<1 ヵ月 1〜6 ヵ月 6 ヵ月以上

NS NS

NS

10

位分類が採用されているが,この報告では

EPS

PDS

FD

と思われる患者の 44%と 42%に 存在し,26%は両方,40%はどちらでもなかったという.わが国で

RomeⅢ基準質問票によっ

FD

患者を診断した検討では,その 1/3 は

PDS

にも

EPS

にも当てはまらないと報告されてお り4),また

PDS

患者の 50%が

EPS

を合併し,EPS患者の 72%は

PDS

を合併しているとも報告 されている2).これらのことは,PDSと

EPS

に分類できない患者が多く,さらには両者にはか なりの重なりがあることを示している.ただ,このことはわが国にだけ特有なことではない.

消化器症状は人種や文化,言語に左右されることから,RomeⅢ診断基準の妥当性は各地域や国 によって個別に再検証されるべきであろう(J Gastroenterol Hepatol2012; 27: 626-641b)[検索期 間外文献]).

文献

1) Tack J, Talley NJ, Camilleri M, et al. Functional gastroduodenal disorders. Gastroenterology2006; 130:

1466-1479(ガイドライン)

2) Manabe N, Haruma K, Hata J, et al. Clinical characteristics of Japanese dyspeptic patients: is the RomeⅢ classification applicable? Scand J Gastroenterol2010; 45: 567-572(横断)

3) van Kerkhoven LA, Laheij RJ, Meineche-Schmidt V, et al. Functional dyspepsia: not all roads seem to lead to rome. J Clin Gastroenterol2009; 43: 118-122(横断)

4) Nakajima S, Takahashi K, Sato J, et al. Spectra of functional gastrointestinal disorders diagnosed by RomeⅢintegrative questionnaire in a Japanese outpatient office and the impact of overlapping. J Gas-troenterol Hepatol2010; 25(Suppl1): S138-S143(横断)

【検索期間外文献】

a)Kinoshita Y, Chiba T. Characteristics of Japanese patients with chronic gastritis and comparison with func-tional dyspepsia defined by ROME III criteria: based on the large-scale survey: FUTURE study. Intern Med2011; 50: 2269-2276(横断)

b)Miwa H, Ghoshal UC, Fock KM, et al. Asian consensus report on functional dyspepsia. J Gastroenterol Hepatol2012; 27: 626-641(ガイドライン)

機能性消化管疾患診療ガイドライン2014―機能性ディスペプシア(FD),南江堂,2014

解説

日本における

FD

の有病率は,用いた

FD

の定義により異なってはいるが,採用文献に示す ように計画的に検討された横断的報告が多く,報告されている有病率に大きな隔たりはない(表 1)1〜7).FDの有病率を考える場合,対象者が健診者か病院受診者かで異なることが考えられ,

両者を分けて評価する必要がある.健診者を対象とした場合の

FD

の有病率に関する報告は,

古いものでは 1993 年に発表されたものから最近では 2010 年に発表されたものまでみられるが,

その有病率は 10%程度とほぼ一定している.また,欧米からの

FD

の有病率に関する主な報告 をみると,北欧で 14.7%,米国で 15%,英国で 23.8%であり,本邦の頻度は,欧米に比較する と同等かやや低値とする報告が多い8).一方,病院受診者を対象とする

FD

の有病率に関する報 告は,古いものでは 1992 年に報告したものから,新しいものでは 2000 年に報告したものが認 められるが,FDの有病率は上腹部症状を訴えて病院受診した患者の約半数と報告されている.

残念ながら今回採用された論文はいずれも単施設での検討であり,多施設共同研究による疫学 調査ではない.

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