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高齢期の所得格差をどう考えるか がちな特徴を併せ持つ世帯の存在には注意が必要である これらの特徴に該当する可能性が高い世帯は 高齢単身世帯 とりわけ女性の単身世帯である 実際 高齢単身女性の所得は他の世帯と比較して低所得に偏る傾向がある しかし 高齢の女性が就業しようにも現実には困難な場合が多く 就

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特集「格差・分配政策」

高齢期の所得格差をどう考えるか

~求められる所得のセーフティネットの再構築~

[要 旨]

1. 近年、日本の家計の所得格差が拡大傾向にあるなか、その主要な要因が所得格差の大 きい高齢期の世帯の増加にあることが研究者や政策担当者の間で共通認識となってい る。しかし、今後急速な高齢化が進展するなかでは、このような高齢期の所得格差の 大きさそのものが問題として浮上してくる可能性がある。そこで本稿では高齢期に所 得格差が高まる背景を明らかにすることで、高齢期の所得格差に問題はないのか、仮 に問題がある場合にはどのような政策的対応が求められるのかを探ることとする。 2. 世帯主年齢別に世帯所得の格差の状況をみると、世帯主年齢が高いほどジニ係数が高 まる傾向が確認できる。この背景を探るため、所得五分位階級別・世帯主年齢別に世 帯平均所得をみると、世帯所得が上位20%の世帯では世帯主年齢が上昇するにつれて 世帯平均所得が明確に上昇する傾向がある。一方、上位20%以外の世帯では、世帯主 年齢が上昇するにつれて、世帯平均所得が緩やかに低下している。高齢期に世帯所得 のジニ係数が高まる背景には、世帯主年齢が高いほど所得が上位の世帯の平均所得が 高まること、それ以外の世帯の平均所得が緩やかに低下することの二つの要因が影響 している。 3. そこで、どの世帯が高齢期に高所得・低所得グループを形成しているのかをみると、 世帯業態別には雇用者世帯の多くや自営業者世帯の一部が、世帯構造別には三世代世 帯の多くが高所得グループに位置している。一方、年金等を主な収入とする世帯や単 身世帯の多くは低所得グループに位置している。高齢期に世帯所得の格差が大きくな る背景には、三世代世帯や雇用者世帯、事業収入の多い自営業者世帯など多様な所得 源がある世帯と、年金を主な収入源とする世帯や、高齢単身世帯など所得源が限られ る世帯で所得状況が大きく異なることがあると考えられる。 4. 次に、世帯人員一人あたり所得が世帯構造や有業者の有無によってどの程度異なるの かを確認すると、世帯の構造による差はそれほど大きくない一方、有業者の有無によ る差が大きいことが確認できる。有業者の有無は高齢期の所得水準を大きく左右する 要因となっている。また、高齢者が働いていない世帯の場合でも三世代世帯では一人 あたり所得は低くなく、子世代との同居が年金受給額の低い高齢者の所得保障機能を 果たしている可能性が指摘できる。 5. 高齢期の所得格差が、世帯業態や構造、特に有業者の有無によって大きな影響を受け ていることを踏まえると、高齢世帯のジニ係数の高さ自体に着目することは適切では ないといえる。ただし、高齢期において①有業人員がいない、②年金給付水準が低い、 ③子世代以下との同居による所得保障機能が働かないなど、厳しい所得環境に置かれ

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がちな特徴を併せ持つ世帯の存在には注意が必要である。これらの特徴に該当する可 能性が高い世帯は、高齢単身世帯、とりわけ女性の単身世帯である。実際、高齢単身 女性の所得は他の世帯と比較して低所得に偏る傾向がある。しかし、高齢の女性が就 業しようにも現実には困難な場合が多く、就業希望と実際の就業状況に大きな差が見 られる。一方で、高齢期の資産格差は、若い頃からの所得差やそれに伴う貯蓄率の差 により所得格差以上に大きいと考えられることから、高齢単身女性が多くの資産を保 有する状況も想定しにくい。 6. 高齢者に対する所得のセーフティネットとしては、公的年金と生活保護がある。いず れも一定の所得保障機能を果たしているものの、特に、女性に低年金者が多いことや、 無年金者が今後100 万人を超える見通しであること、高齢単身女性のうち所得が生活 保護基準額を下回る世帯の割合が、実際の生活保護率を大きく上回っていることを考 慮すると、現在の制度は必ずしも十分なセーフティネットとして機能しているとはい えない。 7. そこで、今後は、低所得高齢者のためのセーフティネットの再構築を検討する必要が ある。すなわち、無年金者・低年金者を無くす施策の実施により、誰もが少なくとも 現在の生活保護の基準額以上の老後の所得を確保できるような年金制度改革を実施す るとともに、生活保護制度が必要な人に利用されていないとすれば、資産調査や扶養 義務者の調査のあり方等を再検討することも求められよう。 政策調査部 上席主任研究員 堀江奈保子 主任研究員 大嶋 寧子 研究員 塚越 由郁* Tel*:03(3591)1332 E-Mail:naoko.horie@mizuho-ri.co.jp yasuko.oshima@mizuho-ri.co.jp yuka.tsukagoshi@mizuho-ri.co.jp

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[目 次]

1. はじめに ··· 5 2. 高齢期における所得格差の現状とその背景 ··· 5 (1) 日本の所得統計と本章の分析対象 ··· 5 (2) 高齢期ほど高まる世帯所得のジニ係数 ···10 (3) なぜ高齢期には所得格差が大きくなるのか ···12 (4) 高齢期の所得格差の大きさをどう評価するか ···25 3. 高齢期の低所得リスク層の所得・資産・就業状況 ··· 27 (1) 高齢単身世帯の低所得リスクの大きさ ···27 (2) 高齢単身世帯の資産保有状況 ···31 (3) 高齢者の就業環境···33 4. 高齢期の所得保障の現状と課題 ··· 39 (1) 公的年金···39 (2) 生活保護···44 (3) 高齢期の所得のセーフティネットの再構築が課題 ···50 5. おわりに ··· 55

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1. はじめに 日本の家計部門では、1980 年代以降、緩やかに所得格差が拡大している。例えば総務省 の「全国消費実態調査」を用い、代表的な格差指標であるジニ係数の推移を追うと、84 年 の0.280 から 2004 年には 0.308 へと上昇している。同様の傾向は他の統計や格差指標を用 いた場合でも確認されている(内閣府(2005))。 家計部門の所得格差が拡大している最大の要因とされるのが、人口動態要因である。そ うした指摘を最も早く行った大竹(1994)は、「全国消費実態調査」を用い、同一の年齢 階級における所得不平等度が80 年代にほぼ一定であった一方、年齢階級が上昇するにつれ て所得不平等度が高まる傾向にあること、したがって、80 年代の所得不平等度の上昇が高 齢化による可能性が高いことを指摘した。また、小塩(2007)も 83 年から 01 年における 家計の格差指標上昇分の50.9%を人口動態要因(高齢化)によって説明できることを指摘 した。もともと所得格差が大きい高齢者の割合が増加してきたことが、世帯全体の所得格 差が拡大した主要因であるとの認識は政策担当者や研究者の間でコンセンサスとなってい る。 しかし、今後急速な高齢化が進展するなかでは、高齢期における所得格差の大きさその ものが問題として浮上する可能性がある。そこで本稿では、高齢期に所得格差が大きい背 景を明らかにすることで、高齢期の世帯の格差に問題はないのか、仮に問題がある場合に はどのような政策的対応が求められるのかを探ることとする。まず、高齢期の所得格差の 現状とその背景を明らかにした上で、高齢期の所得格差が主に就労所得の有無によるため 格差指標の大きさ自体に着目することは適当でないこと、一方で高齢期に低所得となるリ スクが集中しやすい世帯(高齢単身女性世帯)への対応が必要であることを指摘する。続 いて、高齢単身世帯の所得、資産、就業をめぐる状況を整理した上で、最後に低所得の高 齢者のためにセーフティネットを再構築する必要性を指摘する。 2. 高齢期における所得格差の現状とその背景 まず、高齢期における所得格差の現状を把握するとともに、それがどのような要因によ るものかを明らかにする。高齢期の所得格差が大きいと一口に言っても、その要因によっ て、意味合いや必要な政策的対応は異なるからである。 (1) 日本の所得統計と本章の分析対象 まず、本稿で分析の前提とする統計、所得概念、格差指標を検討する。家計の所得や資 産に関して、わが国で入手可能な統計には総務省の「家計調査」及び「全国消費実態調査」、 厚生労働省の「国民生活基礎調査」及び「所得再配分調査」などがある(図表 1)。家計 調査は家計の収入・支出、貯蓄・負債動向について行われる月次調査である。一方、全国 消費実態調査は税制、年金、福祉政策の検討の基礎資料とすることを目的に、5 年に一度、 家計の収入・支出及び貯蓄・負債、耐久消費財の購入、住宅・宅地などの家計資産につい て行われる大規模調査である。国民生活基礎調査は所得に限らず、保健、医療、福祉、年

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金など、国民生活の基礎となる事項について幅広く行われる調査であり、3 年に一度の大 規模調査のほか、その中間年に小規模な調査が行われている。一方、所得再配分調査は、 社会保障制度における給付と負担、租税制度における負担が所得の分配に与えている影響 を明らかにするため、概ね3 年に一度の頻度で行われている。 図表 1:各種統計調査と取得可能なデータ 家計調査 全国消費 実態調査 国民生活 基礎調査 所得再配分調査 所管官庁 総務省 総務省 厚生労働省 厚生労働省 概要 家計の収入・支出、 貯蓄・負債などを毎 月調査 家計の収入・支出、 貯蓄・負債、耐久消 費財、住宅・宅地等 の家計資産を調査 保健、医療、福祉、年 金、所得等(所得の種 類 別 金 額 、所 得 税 等 の額 、生 活 意 識 の状 況 等 ) 国 民 生 活 の 基 礎的事項を調査 社会保障制度及び 税 に よ る 所 得 再 分 配の実態を調査 対象世帯 学 生 の 単 身 世 帯 を 除 外 し た 全 国 の 全 世帯 二人以上 及び単身世帯 全国の世帯 及び世帯員 全国の世帯 及び世帯員 調査頻度 毎月 5 年に一度 3 年毎に大規模調 査 、 中 間 の 各 年 に 小規模調査 概ね 3 年に一度 標本数 約 9,000 世帯 2人以上:54,372世帯 単身:5,002 世帯 (2004 年) 所得調査(所得票): 9,333 世帯 (2006 年) 9,409 世帯 (2005 年) (資料)各種統計よりみずほ総合研究所作成 家計の所得格差を把握する上では、統計の個票を用いて世帯の属性をコントロールした 上で分析することが必要であるものの、わが国では個票の利用は厳しく制限されている。 しかし、集計済みのデータによっても高齢期の所得に関わる状況をある程度把握すること は可能である。そこで以下では、利用可能なデータを活用して高齢期の所得格差の分析を 行っていくこととする。 これまで取り上げた統計のうち、今回の分析では国民生活基礎調査と全国消費実態調査 のデータを用いることとする。国民生活基礎調査は、高齢期の世帯の構造(単身世帯や夫 婦のみ世帯などの家族の構成)や業態(主要な所得源)別に多様な所得データを提供して いる。また、全国消費実態調査は最新の調査が04 年とやや古いものの、主に二人以上の世 帯について高齢期の所得や資産に関する詳細なデータを提供していることから、国民生活 基礎調査で得られた世帯の情報を補完するために使用する。一方、所得再配分調査は所得

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に退職金を含むため、高齢期の所得格差を把握する際にはその歪みが大きく出やすいこと、 家計調査は月次調査であるものの、高齢期の世帯のデータが全国消費実態調査等と比較し て充実していないことから、ここでは利用しない。 次に、分析の対象とする所得概念を考える。高齢期の世帯は、勤労収入、貯金の取り崩 し、公的年金・恩給など多様な所得の組み合わせによって生計を立てているため、ここで は社会保障給付などを含めた幅広い所得概念を分析の対象とする。これに該当するものと しては、国民生活基礎調査では「所得」及び「可処分所得」が、全国消費実態調査では「実 収入」及び「可処分所得」がある。国民生活基礎調査の「所得」と全国消費実態調査の「実 収入」は稼動所得(雇用者所得や事業所得)や財産所得、社会保障給付、仕送りなどを含 み、退職金や生命保険、損害保険金、医療現物給付を含まないという点で範囲が概ね一致 している。国民生活基礎調査および全国消費実態調査の「可処分所得」は「所得」「年間 収入」から税金及び社会保険料の負担を控除したものであり、こちらも範囲が一致してい る。このうち本稿では、より詳細なデータが得られる国民生活基礎調査の「所得」および 全国消費実態調査の「実収入」の所得概念を用いることとする。なお、以下本稿で「所得」 という場合、断りがない限り、上記の所得概念を指す(図表 2)。 図表 2:各種統計における再配分後の所得と内訳 家計調査 全国消費実態調査 国民生活基礎調査 所得再分 配調査 呼称 収入 実収入 可処分 所得 収入 実収入 可処分 所得 所得 可処分 所得 再分配 所得 雇用者所得・事業所得・財産所得等 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 退職金 × × × × × × × × ○ 公的年金・恩給 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 年金・恩給以外の社会保障給付金 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 企業年金・個人年金 ○ × × ○ × × ○ ○ ○ 生命保険金・損害保険金 ○ × × ○ × × × × ○ 預貯金引出 ○ × × ○ × × × × × 仕送り ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 医療等の現物給付 × × × × × × × × ○ 税金の負担 × × ○ × × ○ × ○ ○ 社会保障料の負担 × × ○ × × ○ × ○ ○ (注)1.家計調査、全国消費実態調査の可処分所得は勤労者世帯のみ。 2.国民生活基礎調査の財産所得は世帯員の所有する土地・家屋を貸すことによって生じた収入 (現物給付を含む)から必要経費を差し引いた金額および預貯金、公社債、株式などによって生 じた利子・配当金から必要経費を差し引いた金額(源泉分離課税分を含む)をいう。 (資料)各種資料によりみずほ総合研究所作成 最後に、所得格差を測るために使用する指標を考える。所得格差の度合いを示す指標と しては、ジニ係数、アトキンソン係数(AI)、平均対数偏差(MLD)、タイル指数(TI) などがある(図表 3)。本稿では先行研究で格差指標として最も頻繁に用いられているこ

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と、所得の分布状況を図表化したローレンツ曲線1との関係が明白であるために、解釈を行 いやすいことなどから、ジニ係数を用いることとする。 1 ローレンツ曲線とは、全ての世帯を所得が低い順番に並べ、横軸に世帯の累積比をとり、縦軸に所得の 累積比をとり、その所得分布をグラフで示したものである。同曲線は、分配の状況を視覚的に捉えられ るという利点がある。仮に、全ての世帯の所得が均等に分配されている場合、ローレンツ曲線は原点を 通る45 度線と一致する。所得の偏りに応じて、ローレンツ曲線は下方に膨らむ形となる。ジニ係数は、 ローレンツ曲線と45 度線とに囲まれた面積と 45 度線より下の三角形の面積の比率を用いて、所得分配 の均等度を示す指標である。

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図表 3:各種格差尺度とその概要 概要 ジニ係数 (Gini coefficient) 所得が完全に平等に分配されている場合に比べ、分配がどこまで高所得 者層に偏っているかを数値で表したもの。完全平等であればゼロ、完全に 不平等(世の中の所得を 1 人が独占し、それ以外の者の所得がゼロ)であ れば 1 となる。ジニ係数は幾何学的には累積世帯比率と累積所得比率を プロットしたローレンツ曲線と対角線で囲まれた三日月部分の面積の、対 角線を斜辺とする直角二等辺三角形の面積に対する比率として表される。 アトキンソン係数 (Atkinson index) 所得格差を容認する度合いを考慮して算出する格差指標。実際に発生し ている所得分布を前提として、そこからどの程度の社会的厚生(社会全体 の幸福)が得られるのかを計算し、次に、その社会的厚生を再現するため には、どれだけの所得を人々に均等に分配できるかを逆算する。その所得 を「均等分配所得」と名づける。そして、実際に計測される平均所得に対し て、その均等分配所得がどの程度下回るかを比率で表した値がアトキンソ ン係数。各人の所得を

y

i、均等分配所得

y

eをとすれば、 アトキンソン指数 i e

y

y

= 1

として定義される。 平均対数偏差 (MLD: mean logarithmic deviation) 平均所得に対する各人の所得の比の対数値を計算し、その社会全体にお ける平 均 値 を求 め たもの。つまり 、n 人で構成される社会において、 とすれば、

)

,

,

1

(

i

n

y

i

=

K

=

=

n i

y

i

y

n

MLD

1

)

ln(

1

として与えられる。 この平均対数偏差の相対は所得が完全に平等に分布していればゼロとな り、不平等度が大きいほど大きくなる。 対数分散 (LV: logarithmic deviation) 各人の所得の対数値をとり、その分散(散らばり)を計算したものであり、 対数分散は

=

=

n i i

y

y

n

LV

1 2

)

ln

(ln

1

として与えられる。所得格差が大 きいほどこの対数分散の値も大きくなる。 平均所得の対数と各人の所得の対数の差をとり、各人の所得の比重で加 重平均したもの。所得が完全に平等に分布していればゼロになり、不平等 度が大きいほど大きくなる。

y

iは第

i

世代の所得、

y

はその平均、 は世 帯数とすると、

n

=

=

n i i i

y

y

y

n

y

TI

1

)

log

(log

となる。 タイル指数(TI) (資料)小塩(2005)、内閣府(2006a)

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(2) 高齢期ほど高まる世帯所得のジニ係数 まず、世帯所得の格差が高齢期にどの程度高まるのかを確認しよう。国民生活基礎調査 のデータを用いて、世帯主の年齢階級別に世帯所得のジニ係数を計算した結果が図表 4 で ある。これによると30 歳代以降、世帯主の年齢階級が上がるにつれてジニ係数が上昇する 傾向が確認できる。世帯所得のジニ係数は世帯主年齢が 30~39 歳代の世帯で最も低く (0.342)、世帯主年齢が 60 歳代の世帯で 0.380、70 歳代の世帯で 0.393、80 歳以上の世 帯で0.416 である。世帯主年齢が 65 歳以上の世帯(以下、高齢者世帯主世帯という)の平 均は0.390 である。 図表 4:世帯主年齢階級別・ジニ係数① 0.384 0.416 0.393 0.361 0.376 0.380 0.342 0.200 0.250 0.300 0.350 0.400 0.450 2 9 歳 以 下 3 0 ~ 3 9 歳 4 0 ~ 4 9 歳 5 0 ~ 5 9 歳 6 0 ~ 6 9 歳 7 0 ~ 7 9 歳 8 0 歳 以 上 (注)1.世帯主年齢階級別・所得五分位階級別の世帯平均所得金額を用いてみずほ総合研究所が算出。 2.単身世帯を含む。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年) 同様の傾向は全国消費実態調査でも確認できる(図表 5)。ただし、国民生活基礎調査か ら算出したジニ係数と比較して、全国消費実態調査のジニ係数は全体に低い。両統計でジ ニ係数の水準が異なる背景としては、以下の3 つの点が考えられる。第一に、国民生活基 礎調査のジニ係数は単身世帯を含む一方、全国消費実態調査のジニ係数は単身世帯が含ま れないという点である。世帯所得をみる場合、世帯所得の低い単身世帯を含む方が所得の 格差が大きく出がちである。第二に、国民生活基礎調査の統計としての特質がある。同調 査は低所得層がより多くカバーされるために、ジニ係数が大きくなりがちであることが指 摘されている2。第三に世帯主の定義の違いがある。国民生活基礎調査では、世帯主は「年 2 例えば太田(2000)は福祉行政の基礎として活用されている「国民生活基礎調査」では、生活保護世帯

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齢や所得にかかわらず、世帯の中心となって物事をとりはかる者として世帯側から申告さ れた者」を指す一方、全国消費実態調査で世帯主は「名目上の世帯主ではなく、その世帯 の家計の主たる収入を得ている人」を指す。このため、前者は高齢者が家計の主たる収入 を得ている世帯に加えて、名目上は高齢者が世帯主であっても、実態上は高齢者の子世代 以下が家計の中心となっている世帯も含まれると考えられる。一方、後者は65 歳以上が実 際に家計の主たる収入を得ている世帯に限定されるため、より対象が絞られることとなる。 つまり、国民生活基礎調査でより世帯の中身が多様なものとなることが、同統計に基づい た世帯所得のジニ係数が全国消費実態調査のそれよりも大きい一因となっていると考えら れる。 以上のように国民生活基礎調査と全国消費実態調査のジニ係数の単純な比較には注意を 要する。しかし、総所得でみた場合、30 歳代以降、年齢が上がるにつれてジニ係数が高く なるという点は共通している。 図表 5:世帯主年齢階級別・ジニ係数② 0.258 0.35 0.337 0.324 0.34 0.297 0.270 0.247 0.232 0.219 0.217 0.23 0.200 0.250 0.300 0.350 0.400 0.450 2 5 歳 未 満 2 5 ~ 2 9 歳 3 0 ~ 3 4 歳 3 5 ~ 3 9 歳 4 0 ~ 4 4 歳 4 5 ~ 4 9 歳 5 0 ~ 5 4 歳 5 5 ~ 5 9 歳 6 0 ~ 6 4 歳 6 5 ~ 6 9 歳 7 0 ~ 7 4 歳 7 5 歳 以 上 (注)1.所得10分位階級別の世帯所得データを用いて総務省が算出。 2.二人以上世帯。 (資料)総務省「全国消費実態調査」(2004年) など低所得層が多めになっている可能性が小さくないと指摘している。

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(3) なぜ高齢期には所得格差が大きくなるのか a. 所得五分位階級別にみた所得動向とジニ係数 それでは、世帯主の年齢が高いほど世帯所得のジニ係数が高まる傾向は、どのような要 因によるのだろうか。ジニ係数は所得格差を数値で表現する便利な尺度であるが、それだ けでは何がジニ係数の高低をもたらしているかの情報は明らかにされない(小西(2002))。 その例を示したのが図表 6 である。図表中の太線は「世帯主が65 歳以上の世帯」のローレ ンツ曲線を現しており、ジニ係数は 0.390 である。一方、図表中の太い点線(参考ケース ①)は所得が上位20%の世帯の累積所得が非常に大きいケース、細い点線(参考ケース②) は所得が下位40%の世帯の累積所得が非常に小さいケースを表しているが、いずれもジニ 係数は 0.390 である。このようにジニ係数が同一でも、所得の分布には様々な状況があり うる。 図表 6:ローレンツ曲線の比較 系列1 系列3 系列5 参考ケース① 参考ケース② 世帯主65歳以上世帯   0     0.2 0.4 0.6 0.8    1 100 80 60 40 20 0 (注)1.世帯主が65歳以上の世帯については、厚生労働省「国民生活基礎調査」2006年の所得 分位階級別の世帯平均所得を用いてみずほ総合研究所が算出。 2.単身世帯を含む。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年) そこで世帯主年齢が高いほど世帯所得のジニ係数が高まる背景を確認するために、世帯 主年齢別・所得五分位階級別(世帯を所得が少ない順に五等分したもの)の平均所得をみ たのが図表 7 である。これによると所得水準が最も高い上位20%(第Ⅴ分位階級)の世帯 の平均所得は、30 歳代以降、世帯主年齢の上昇とともに高まる傾向が顕著である。一方、 それ以外(第Ⅰ~第Ⅳ分位階級)の世帯の平均所得は、ピークとなる年齢に差があるもの の、世帯主の年齢が高まるにつれて緩やかに低下している。

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図表 7:世帯主年齢・所得五分位階級別にみた世帯平均所得 120 150 131 135 134 127 120 288 299 296 286 288 289 285 448 466 472 459 457 456 440 697 676 686 660 687 658 636 1494 1367 1291 1274 1121 1187 1266 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 29歳以下 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70~79歳 80歳以上 第Ⅴ分位 第Ⅳ分位 第Ⅰ分位 第Ⅱ分位 第Ⅲ分位 (万円) (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年) 以上の傾向は、高齢期に世帯所得のジニ係数が高いことと、どのような関係があるのだ ろうか。そこで、第Ⅰ~第Ⅴ分位の世帯の平均所得が30 歳代以降変わらないと仮定し、そ れぞれのケースにおける60~69 歳、70~79 歳、80 歳以上のジニ係数を推計し、実際のジ ニ係数との差をみたのが図表 8 である。 これによると、第Ⅴ分位階級の世帯の平均所得が世帯主年齢の上昇に伴い高まっている ことによる影響が最も大きく、高齢期におけるジニ係数の相対的な高さ(世帯主年齢が30 ~39 歳の世帯における世帯所得のジニ係数と世帯主年齢が 65 歳以上の世帯における世帯 所得のジニ係数の差)の 7 割強がこの要因によることが分かった。第Ⅰ分位階級の世帯の 平均所得が世帯主年齢の上昇とともに低下していることも一定の影響を及ぼしており、高 齢期におけるジニ係数の相対的な高さの2 割弱がこの要因によっている。 これを踏まえ、第Ⅰ分位と第Ⅴ分位の世帯の平均所得が30 歳代以降変化しなかったと仮 定して、世帯主年齢階級別に世帯所得のジニ係数を推計すると、同係数は30 歳代以降もほ とんど上昇しない(図表 9)。以上からは、高齢期に世帯所得のジニ係数が高まる背景に は、世帯主年齢が高いほど高所得の世帯の平均所得が上昇すること、低所得の世帯の平均 所得が緩やかに低下することの二つの要因が大きな影響を及ぼしていると推察される。

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図表 8:世帯主年齢階級別ジニ係数のシミュレーション① 実数 第Ⅰ分位 の所得が 30歳代以 降一定 第Ⅱ分位 の所得が 30歳代以 降一定 第Ⅲ分位 の所得が 30歳代以 降一定 第Ⅳ分位 の所得が 30歳代以 降一定 第Ⅴ分位 の所得が 30歳代以 降一定 ジニ係数 0.380 0.373 0.377 0.378 0.379 0.353 実数との差 -0.006 -0.003 -0.001 0.000 -0.027 ジニ係数 0.393 0.384 0.391 0.392 0.393 0.356 実数との差 -0.009 -0.003 -0.001 0.000 -0.037 ジニ係数 0.416 0.405 0.413 0.413 0.416 0.362 実数との差 -0.012 -0.004 -0.004 0.000 -0.054 60~69歳 70~79歳 80歳以上 (注)1.ここでの「ジニ係数」は、①第Ⅰ分位の世帯平均所得が世帯主年齢30歳代、40歳代、50歳代、 60歳代、70歳代、80歳以上で一定のケース、②第Ⅱ分位の世帯平均所得が世帯主年齢30歳代、 40歳代、50歳代、60歳代、70歳代、80歳以上で一定のケース、③第Ⅲ分位の世帯平均所得が世 帯主年齢30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代、80歳以上で一定のケース、④第Ⅳ分位の 世帯平均所得が世帯主年齢30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代、80歳以上で一定のケー ス、⑤第Ⅴ分位の世帯平均所得が世帯主年齢30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代、80歳 以上で一定のケースを想定し、各ケースで世帯主年齢60歳代、同70歳代、同80歳以上のジニ係 数がどのような値となるかを推計したもの。 2.ここでの「実数との差」は1.で推計した「ジニ係数」と実数との差を求めたもの。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年) 図表 9:世帯主年齢階級別ジニ係数のシミュレーション② 0.416 0.393 0.380 0.376 0.361 0.342 0.343 0.347 0.347 0.347 0.350 0.300 0.320 0.340 0.360 0.380 0.400 0.420 0.440 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70~79歳 80歳以上 世帯主年齢階級別にみたジニ係数の実績 第Ⅰ分位と第Ⅴ分位の平均所得が一定のケースのジニ係数 (注)「第Ⅰ分位と第Ⅴ分位の平均所得が一定のケースのジニ係数」は、所得第Ⅰ分位階級及び第Ⅴ分 位階級の平均所得金額が、世帯主年齢30歳代以降、一定で推移したと仮定しジニ係数を推計した もの。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年)

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b. どの世帯が高齢期に高所得・低所得を得ているのか (a) 「高齢者のいる世帯」と「世帯主が高齢者の世帯」 それでは、高齢期に高所得・低所得を得ている世帯とは、具体的にはどのような属性の 世帯なのだろうか。国民生活基礎調査では「高齢者(65 歳以上)のいる世帯」について、 世帯業態別(「雇用者世帯」や「自営業者世帯」など、世帯の主要な所得源に基づく分類)、 世帯構造別(「単身世帯」や「核家族世帯」など、世帯の構造に基づく分類)に詳細なデ ータを得ることができる3。一方、これまで見てきた世帯主の年齢階級別の所得データと平 仄の合う「世帯主が高齢者(65 歳以上)の世帯」については、世帯業態や構造別の詳細な データは必ずしも得られない。 ここで「高齢者のいる世帯」と「世帯主が高齢者の世帯」の関係をみると、後者は前者 の一部である(図表 10)。さらに両者の内訳をみると「高齢者のいる世帯」と「世帯主が 高齢者の世帯」では三世代世帯の数に差があるものの、「世帯主が高齢者の世帯」の単身 世帯は「高齢者のいる世帯」の単身世帯とイコールであるほか、「世帯主が高齢者の世帯」 の核家族世帯(769 万世帯)は「高齢者のいる世帯」の核家族世帯(834 万世帯)の大部 分を占めるなど重複する部分も多い(図表 11)。そこで、以下では「高齢者のいる世帯」 と「世帯主が高齢者の世帯」の間で、世帯構造・世帯業態別の所得動向に大きな差がない と仮定し、前者の世帯構造・世帯業態別の所得データを用いて分析を行うこととする4 図表 10:「65 歳以上がいる世帯」と「世帯主が 65 歳以上の世帯」 世帯主が 65 歳未満の世帯 核家族世帯 三世代世帯 その他世帯 世帯主が高齢者(65 歳以上)の世帯 単身世帯 核家族世帯 三世代世帯 高齢者(65 歳以上)のいる世帯 (注)「高齢者(65歳以上)のいる世帯」かつ「世帯主年齢が65歳未満」の単身世帯は存在しない。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」によりみずほ総合研究所作成 3 例えば、所得五分位階級別の平均所得金額や、50 万円刻みの所得金額別の世帯分布など。 4 「高齢者のいる世帯」の「三世代世帯」には高齢者が世帯主として物事を取り仕切っている世帯と、高 齢者の子世代以下に世帯主としての地位を譲っている世帯の双方が含まれる。一方、「世帯主が高齢者 の世帯」の「三世代世帯」は高齢者が世帯主として物事を取り仕切っている世帯のみが含まれる。この ため、「高齢者のいる世帯」の「三世代世帯」と「世帯主が高齢者の世帯」の「三世代世帯」では、高 齢者や子世代の年齢や雇用状況に差がある可能性がある。しかし、国民生活基礎調査における世帯主の 定義が「年齢や所得にかかわらず、世帯の中心となって物事をとりはかる者として世帯側から申告され た者」であることを踏まえると、世帯主が高齢者であるか、子世代以下であるかという問題と、誰が最 多所得者であるかとの関係は明白ではない。そこで、ここでは「高齢者がいる世帯」と「世帯主が高齢 者の世帯」の所得動向に大きな差がないと仮定して、分析を行うことが適当と判断した。

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図表 11:「65 歳以上がいる世帯」と「世帯主が 65 歳以上の世帯」の世帯数 (万世帯) 三世代 その他 男性単身 女性単身 夫婦のみ夫婦と未 婚の子 ひとり親と 未婚の子 65歳以上がいる世帯 1829 410 103 307 834 540 181 114 375 209  うち世帯主が65歳以上の世帯 1442 410 103 307 769 526 173 70 150 113  うち世帯主が65歳未満の世帯 387 0 0 0 65 14 8 44 225 96 単身 核家族 総数 (注)世帯主が65歳未満の世帯には、世帯主年齢が不詳の世帯を含む。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年) (b) 世帯業態から見た高所得グループ・低所得グループ まず、「高齢者のいる世帯」について所得下位40%、中位 20%、上位 40%に出来るだ け近い所得水準で線引きを行い、「雇用者世帯」、「自営業者世帯」、「その他世帯」の 世帯業態別に構成比をみたのが図表 12 である。「雇用者世帯」、「自営業者世帯」はそれ ぞれ最多所得者が雇用者である世帯、自営業を行っている世帯を指す5。一方、「その他世 帯」は最多所得者が雇用者・自営業者でない世帯と定義されており、最多所得者が全く働 いていない世帯(利子、家賃、配当、年金、恩給等で所得を得ている世帯)を指す。「高 齢者のいる世帯」の場合、「その他世帯」は年金を主な所得源とする世帯が多数を占める と考えられる。 これによると、「雇用者世帯」の大部分(74%)は上位 40%(以下、相対的な高所得グ ループという)に属する一方、下位40%(以下、相対的な低所得グループという)に属す る世帯は13%に止まっている。「高齢者のいる世帯」で、かつ「雇用者世帯」に該当する 世帯としては、①高齢者自身が雇用者として働き続けており、世帯における最多所得とし ての雇用収入と老齢年金6の双方を得ている世帯、②高齢者自身が雇用者として働き続けな がら老齢年金を受給しており、さらに同居する子世代が最多所得者として雇用収入を得て いる世帯、③高齢者自身は働かずに老齢年金を受給しており、同居する子世代が最多所得 者として雇用収入を得ている世帯など、多様な形態がありうる。いずれの場合でも、「高 齢者のいる世帯」のうちの「雇用者世帯」とは、多様な所得源が期待できる世帯というこ とが可能であり、これが高い世帯所得の背景となっていると考えられる。 5 雇用者世帯とは①最多所得者が雇用期間について別段の定めなく雇われている者の世帯、②最多所得者 が形式のいかんを問わず1 月以上 1 年未満の契約によって雇われている者の世帯をいう。自営業者世帯 は最多所得者が事務所、工場、商店、飲食店等の事業を行っている者の世帯をいう。 6 老齢の年金受給者が厚生年金保険に加入すると、総報酬月額相当額(給料と賞与によって決定)と 1 カ 月当たりの年金額との合計に応じて年金額の一部または全部が支給停止となる場合がある(在職老齢年 金)。

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図表 12:高齢者のいる世帯の分布(世帯業態・所得階級別) 39 13 35 56 20 13 21 23 42 74 44 21 0% 20% 40% 60% 80% 100% 全体 雇用者世帯 自営業者世帯 その他世帯 上位40% 中位20% 下位40% 年収450万円 年収300万円 「高齢者(65歳以上)のいる世帯」を、 ①下位40%(低所得グループ) ②中位20% ③上位40%(高所得グループ) に近い水準で線引き ↓ この線引きに従って雇用者世帯、自営業 者世帯、その他世帯それぞれにおける① ~③の構成比をみたもの (注)1.国民生活基礎調査では、「65歳以上のいる世帯」の業態別・所得五分位階級別の世帯分布を得 ることができないため、50万円刻みの所得金額階級別データを用いて、「65歳以上のいる世帯」 を上位40%、中位20%、下位40%の分布に近いところで分ける所得水準(具体的には、300万円 未満(下位0~39%)、300万円~450万円未満(中位20%)、450万円以上(上位42%))を見 極め、この所得金額の水準に沿って、「雇用者世帯」、「自営業者世帯」、「その他世帯」の分 布をみた。 2.小数点以下を四捨五入しているため、世帯業態ごとの合計は100%とならない場合がある。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年) 「自営業者世帯」については、相対的な高所得グループに属する世帯が44%を占める一 方、相対的な低所得グループに属する世帯も35%を占めるなど、「高齢者のいる世帯」全 体と近い分布となっている。ただし、「自営業者世帯」の中だけで見ると、所得が最も高 い上位 20%の世帯の平均所得金額は 1,415 万円と、「高齢者のいる世帯」の平均(1,317 万円)を100 万円近く上回る。つまり、「自営業者世帯」の場合、比較的多額の事業収入 によって高い所得を得ている世帯がある一方、事業収入や年金額が少ないために相対的な 低所得グループに属する世帯も少なくない。 一方、年金を主な所得源とする世帯が多数を占めるとみられる「その他世帯」の場合、 相対的な高所得グループに属する世帯は21%に過ぎず、56%が相対的な低所得グループに 属している。一定の財産収入を得ている一部の世帯を除けば、年金を主な収入源とするこ との多い「その他世帯」は、高齢期に相対的な低所得グループに属する場合が多いといえ る。 (c) 世帯構造から見た高所得グループ・低所得グループ 同様に「高齢者のいる世帯」全体について所得水準が下位 40%、中位 20%、上位 40% に出来るだけ近い所得水準で線引きを行い、「単身世帯」、「核家族世帯」、「三世代世 帯」の世帯構造別に構成比をみたのが図表 13 である。ここでいう「単身世帯」とは世帯員 が一人だけの世帯を、「核家族世帯」は①夫婦のみ世帯、②夫婦と未婚の子のみ、③ひと り親と未婚の子のみの世帯のいずれかを指す。また、「三世代世帯」は世帯主を中心とし

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た直系三世代以上の世帯を指す7 図表 13:高齢者のいる世帯の分布(世帯構造・所得階級別) 39 88 76 91 35 5 20 8 17 29 10 42 5 7 4 36 85 5 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 全 体 単 身 世 帯   男 性 単 身   女 性 単 身 核 家 族 世 帯 三 世 代 上位40% 中位20% 下位40% 年収300万円 年収450万円 「高齢者(65歳以上)のいる世帯」を、 ①下位40%(低所得グループ) ②中位20% ③上位40%(高所得グループ) に近い水準で線引き ↓ この線引きに従って単独世帯、核家族世 帯、三世代世帯それぞれにおける①~③ の構成比をみたもの (注)1. 国民生活基礎調査では、「65 歳以上のいる世帯」の世帯構造別・所得五分位階級別の世帯分布 を得ることができないため、50 万円刻みの所得金額階級別データを用いて、「65 歳以上のいる 世帯」を上位40%、中位 20%、下位 40%の分布に近いところで分ける所得水準(具体的には、 300 万円未満(下位 0~39%)、300 万円~450 万円未満(中位 20%)、450 万円以上(上位 42%)) を見極め、この所得金額の水準に沿って、各構造の世帯の分布をみた。 2. 小数点以下を四捨五入しているため、世帯構造ごとの合計は100%とならない場合がある。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年) 注目されるのは「三世代世帯」の大多数(85%)が相対的な高所得グループに属してい ることである。「高齢者のいる世帯」全体をみると、一世帯あたりの所得は514 万円、世 帯人員は2.74 人、平均有業人員は 1.13 人である。一方、「三世代世帯」の所得は 930 万 円、世帯人員は5.28 人、有業人員は 2.58 であり、有業人員の多さが世帯あたり所得の多 さに繋がっていると考えられる(図表 14)。つまり「三世代世帯」は、高齢者自身の年金 収入のみならず、高齢者の子世代の勤労所得など多様な収入源が期待できるため、世帯あ たりの所得水準が高いと推察される。 7 「単身世帯」、「核家族世帯」、「三世代世帯」以外の世帯は「その他世帯」として分類。「その他世 帯」には、高齢者の親世代と子どものいない既婚の子ども夫婦をはじめ、様々な類型が含まれると考え られること、「高齢者のいる世帯」の中で構成比が小さいことから、本稿で分析の対象外としている。

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図表 14:65 歳以上のいる世帯の平均所得、世帯人員、有業人員 世帯あたり 平均所得金額 (万円) 平均世帯人員 (人) 平均有業人員 (人) 単身 181万円 1.00人 0.17人 男性単身 227万円 1.00人 0.28人 女性単身 168万円 1.00人 0.18人 核家族 454万円 2.24人 0.80人 夫婦のみ 405万円 2.00人 0.51人 夫婦と未婚の子 640万円 3.15人 1.63人 ひとり親と未婚の子 424万円 2.12人 1.04人 三世代 930万円 5.28人 2.58人 その他 578万円 3.16人 1.51人 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年) 一方、「単身世帯」の大多数(88%)は相対的な低所得グループに属している。なかで も、「単身世帯」の75%を占める8女性の「単身世帯」についてみれば、9 割以上が相対的 な低所得グループに属している。その一因として、「単身世帯」は世帯人員が最も少なく、 他の世帯と比較して収入源の多様性が確保しにくいことがあると考えられる。実際、高齢 単身女性世帯の平均有業人員は0.18 人となっており、大部分は年金収入によって生活して いる計算である。加えて、一般に、女性の公的年金の給付水準が男性と比較して低水準で あることも、「単身世帯」の多数が相対的な低所得グループに属する背景となっていると 考えられる。 このほか、「核家族世帯」の中には相対的な高所得グループに属する世帯が 36%に上る 一方、相対的な低所得グループに属する世帯も35%に上る。これは、「核家族世帯」の中 でも夫婦のみの世帯、夫婦のみと未婚の子のみの世帯、ひとり親と未婚の子のみの世帯で 有業人員や世帯あたりの所得に差があることを反映していると考えられる(前掲図表 14)。 (d) 世帯業態・世帯構造別にみた構成比のバラツキの大きさ これまでみてきたように、世帯業態や世帯構造によって「高齢者のいる世帯」の所得状 況は大きく異なっている。加えて、「高齢者のいる世帯」が世帯業態・構造の点でバラツ キが大きいことが、「高齢者のいる世帯」において所得格差が大きい一因となっている。 これに関し、「高齢者がいる世帯」と「高齢者のいない世帯」について、世帯業態・構造 別の構成比を比較したのが図表 15 および図表 16 である。 世帯業態別には、「高齢者のいる世帯」の中では「雇用者世帯」と「自営業者世帯」が 合計で約半数を占める一方、「その他世帯」も約半数を占めている。これは、「高齢者の いない世帯」において、「その他世帯」が11%であるのと大きく異なっている。また、世 8 厚生労働省が 06 年に実施した「国民生活基礎調査」による。

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帯構造別には、「高齢者のいる世帯」と「高齢者のいない世帯」では単身世帯の割合に大 きな差はないものの、「高齢者のいる世帯」において世帯あたり所得が大きい「三世代世 帯」の割合が21%と大きいことが特徴である。「高齢者のいる世帯」は総じて、「高齢者 のいない世帯」と比較して世帯業態・構造別の構成比にバラツキが大きいといえる。 図表 15:高齢者のいる世帯の内訳(世帯業態別) 77 32 12 16 50 11 0% 20% 40% 60% 80% 100% 高齢者の いる世帯 高齢者の いない世帯 雇用者世帯 雇用者世帯 自営業 者世帯 自営業 者世帯 その他世帯 その他世帯 不詳 最多所得者に稼動所得あり 最多所得者に稼動所得なし 最多所得者に稼動所得あり 最多所得者に稼動所得なし (注)高齢者とは65 歳以上を指す。「高齢者のいない世帯」は、全世帯から 65 歳以上のいる世帯を差し 引いたもの。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年) 図表 16:高齢者のいる世帯の分布(世帯構造別) 21 2 11 4 27 22 46 67 0% 20% 40% 60% 80% 100% 高齢者の いる世帯 高齢者の いない世帯 単身世帯 単身世帯 核家族世帯 核家族世帯 三世代世帯 三世代世帯 その他世帯 (注)高齢者とは65 歳以上を指す。「高齢者のいない世帯」は、全世帯から 65 歳以上のいる世帯を差し 引いたもの。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年)

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(e) 高齢期に所得格差が拡大する背景 これまで見てきたように高齢期において世帯業態・構造別の所得状況に大きな差が存在 する結果、「高齢者のいる世帯」のなかでも、相対的低所得グループ(年間所得金額 300 万円未満)と相対的高所得グループ(同450 万円以上)の中で、特定の業態・構造の世帯 が多数を占める傾向が認められる(図表 17)。まず、相対的低所得グループをみると、世 帯業態別には「その他世帯」が、世帯構造別には「女性単身世帯」や「核家族世帯」が多 数を占めている。一方、相対的高所得グループをみると、世帯業態別には「雇用者世帯」、 世帯構造別には「三世代世帯」や「核家族世帯」が多数を占める。なお、相対的高所得グ ループのうち24%を占める「その他世帯」は、年金のほかに利子・家賃・配当などによる 収入を一定程度確保できている世帯であると考えられる。 図表 17:年間所得上位、下位グループの内訳(高齢者のいる世帯) 11.2 57.7 14.8 17.4 71.9 24.5 2.0 0.4 0% 20% 40% 60% 80% 100% 300万円未満 450万以上 不詳 自営業者世帯 その他世帯 雇用者世帯 8.6 43.8 40.9 2.8 42.8 8.6 36.2 14.1 0% 20% 40% 60% 80% 100% 300万円未満 450万以上 男性単身 女性単身 核家族 核家族世帯 三世代世帯 その他世帯 女性単身、1.5 男性単身、0.7 三世代 その他 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年)

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これまでの議論を総合すると、高齢期に世帯所得の格差が大きくなる背景として、世帯構 造や業態の面で多様な形の世帯が存在していること、そうした世帯構造や世帯業態ごとに 所得の状況が大きく異なることが指摘できる。なかでも、年金や子世代の勤労収入など多 様な所得源が期待できる「三世代世帯」の存在や、「自営業者世帯」の一部のうち高い事 業収入を得ている世帯の存在は、相対的に高所得を得ているグループの平均所得を高いも のとしていると考えられる。一方、「高齢者のいる世帯」の20%を占める「単身世帯」の 場合、そもそも就業可能な人員が限られていること、そのなかでも有業者のいる割合が低 いこと、単身世帯の多くを占める女性の公的年金受給額が一般に男性単身世帯や夫婦世帯 と比較して低いことが、低所得グループの所得金額を押し下げ、高齢期の格差を大きくす る一因となっていると考えられる。 c. 世帯あたりの所得格差は一人あたりの所得格差につながっているか これまで、世帯あたりの所得データを用いて、高齢期に所得格差が大きくなる背景をみ てきた。しかし、世帯規模が大きい「三世代世帯」で世帯あたり所得が大きく、世帯規模 が小さい「単身世帯」で世帯あたり所得が小さくなりがちであることは、ある意味当然で ある。仮に、世帯の業態や構造が異なっても一人あたり所得に大きな差がないのであれば、 世帯ベースでみた高齢期の所得格差の大きさは見せかけのものということができる。 そこで、「高齢者のいる世帯」について、世帯人員の規模や有業者の有無別に、一人あ たり実収入(勤め先収入や事業収入、内職収入、財産収入、社会保障給付など)をみたの が図表 18 である。ここでは全国消費実態調査の統計を用い、世帯の平均所得を平均世帯人 員の平方根で除したものを、世帯人員一人あたり実収入としている9 これによると、高齢期の一人あたり実収入の水準は、有業者の有無によって大きく異な っている。有業者のいる世帯では、一人あたり月額22~28 万円の実収入を確保する一方、 有業者のいない世帯の場合、最も高い高齢単身男性で 17 万円、無職の夫婦高齢者世帯で 13 万円、高齢単身女性で 14 万円に止まっている。同じ状況は、国民生活基礎調査の世帯 類型別の所得データからも確認できる。「高齢者のいる世帯」について、世帯構造別に一 人あたり年間所得金額と有業比率(平均世帯人員に対する平均有業人員の比率)の関係を みると、有業者の比率が高いほど、世帯人員一人あたりの所得金額が高い(図表 19)。 9 世帯単位の所得を一人あたりに直す際に、世帯所得を世帯人員で除すと、世帯規模の経済による効果を 十分反映できない場合がある。ここでは、OECD等の研究や全国消費実態調査等にならい、一人あたり 所得は世帯所得を世帯人員の平方根(0.5 乗)で除すことによって求めている。

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図表 18:世帯の構造・有業者の有無別にみた一人あたり実収入(月額) 28.0 14.0 27.0 22.1 26.3 24.8 23.8 17.1 12.7 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 世 帯 主 ( 6 5 歳 以 上 ) の み 勤 労 世 帯 主 ( 6 5 歳 以 上 ) と 配 偶 者 勤 労 世 帯 主 ( 6 5 歳 ) と 配 偶 者 以 外 の 世 帯 人 員 が 勤 労 無 職 高 齢 者 が お り 、 世 帯 主 が 5 9 歳 以 下 男 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身 女 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身 夫 婦 の み ( 夫 6 5 歳 以 上 ) 男 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身 女 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身 (万円) 二人以上 単身 二人 単身 有業者あり 有業者なし (注)1.世帯単位の所得を一人あたりに直す際に、世帯所得を世帯人員で除すと、世帯規模の経済によ る効果を十分反映できない場合がある。ここでは、OECD 等の研究や全国消費実態調査等になら い、一人あたり実収入は世帯実収入を世帯人員の平方根(0.5 乗)で除すことによって求めてい る。 一人あたり実収入=世帯実収入/世帯人員の0.5 乗 2.実収入の中身は勤め先収入や事業収入、内職収入、財産収入、社会保障給付など。 (資料)総務省「全国消費実態調査」(2004 年) 図表 19:一人あたり年間所得金額と有業比率(世帯構造別) 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 (一人あたり所得金額) 女性単身世帯 夫婦のみ世帯 男性単身世帯 三世代世帯 夫婦と未婚の子世帯 ひとり親と未婚の子世帯 (平均有業人員/平均世帯人員) (万円) (注)世帯年間所得所得金額を一人あたりに直す際には、図表 18 と同じ方法を用いている。 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年)

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勤労所得の有無は、先々への備えの状況にも差をもたらしている可能性がある。図表 20 は世帯が手にする実際の所得(実収入にネットの資産取り崩し金額を加えたもの)10及び その内訳を示している。図表中、ネットの資産取り崩し金額がマイナスになっているのは、 預貯金等の積み増しなどの形で資産が増加していることを意味している。これによると、 有業者のいる世帯では資産の積み増しが行われているのに対し、有業者のいない世帯では 資産の取り崩しを行っていることがわかる。 図表 20:高齢者のいる世帯が実際に手にする月あたり所得とその内訳(一人あたり) 23.2 22.0 18.8 24.2 21.0 16.9 18.4 17.0 15.8 -10 -5 0 5 10 15 20 25 30 世 帯 主 ( 6 5 歳 以 上 ) の み 勤 労 世 帯 主 ( 6 5 歳 以 上 ) と 配 偶 者 勤 労 世 帯 主 ( 6 5 歳 ) と 配 偶 者 以 外 の 世 帯 人 員 が 勤 労 無 職 高 齢 者 が お り 、 世 帯 主 が 5 9 歳 以 下 男 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身 女 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身 夫 婦 の み ( 夫 6 5 歳 以 上 ) 男 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身 女 性 ( 6 5 歳 以 上 ) 単 身  勤労収入  社会保険給付  資産取り崩し(ネット)  その他 実際の所得金額 (万円) 二人以上 単身 二人 単身 有業者あり 有業者なし (注)1.世帯所得を一人あたりに直す際には、図表 18 と同じ方法を用いている。 2.ここでの「所得」は実収入(勤め先収入や事業収入、内職収入、財産収入、社会保障給付など実 質的に資産の増加となる収入の合計)とネットの資産取崩し金額の合計額。 3.ネットの資産取り崩し金額の定義は脚注 10 参照。 (資料)総務省「全国消費実態調査」(2006 年) 10全国消費実態調査には「実際の所得」という項目はない。ここでは、家計が実際に手にする所得に近づ けるために、「実収入」にネットの資産取り崩し金額を加えたものを「実際の所得」としている。ネッ トの資産取り崩し金額とは、「実収入以外の収入(預貯金引出・有価証券売却、有価証券売却、借入金、 月賦など負債の増加となる収入を集めたもの)」から「実支出以外の支出(預貯金、投資、財産購入、 借金返済など手元から現金が支出されるが、一方で資産の増加あるいは負債の減少を伴うもの)」を差 し引いたもの。したがって、プラスの場合にはネットで資産を取り崩していること、マイナスの場合に はネットで資産を積み増していることに相当する。

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なお、注意すべきなのは、現在働いておらず、年金の給付水準も低い高齢者が必ずしも 低所得の状況におかれているとはいえないことである。前掲の図表 20 では、無職の65 歳 以上の世帯員がいる世帯で、世帯主の年齢が59 歳以下の世帯の所得の内訳を示している。 この世帯が受け取る社会保障給付額は一人あたりで月額1.9 万円(世帯計で同 3.9 万円)に 止まる一方、この世帯の一人あたり所得は24.2 万円と、他の無職の高齢者世帯と比較する と高い水準にある。この類型に属する世帯の多くは、無職の65 歳以上の高齢者が、子世代 と同居している世帯であると考えられる。これは勤労所得のある子世代との同居が、勤労 収入がなく、年金収入も少ない高齢者の所得保障機能を果たしている可能性を示している。 (4) 高齢期の所得格差の大きさをどう評価するか それでは高齢期の所得格差の大きさについて、何を問題とするべきなのだろうか。これ までの議論を踏まえると、高齢期の所得格差の大きさそのものを問題とすることは適切で はない。高齢期の所得格差の大きさは、日本で高齢期にも働き続ける人が少なくないこと に加え、勤労所得の有無により高齢期の所得状況に大きな差があることを反映している。 今後日本で高齢労働者の確保が急がれていることを踏まえれば、所得格差が大きいことを 単純にマイナスとみることはできない。 高齢期の所得に関しては、ジニ係数で示される所得格差の大きさよりも、厳しい所得環 境におかれがちな世帯の特徴を重複して持つ世帯が存在することが問題といえよう。そう した特徴とは、前節でみたように相対的な低所得グループの特徴を重複して持つ世帯であ る。つまり、①有業人員が少ないために勤労収入がない(または少ない)、②年金給付水 準が低い、③子世代以下との同居による所得保障機能が働いていないという 3 つの点であ る。 なかでも、こうした特徴を重複して持つ場合が多いのが、高齢単身女性である(図表 21)。 高齢単身女性の場合、平均有業人員が0.18 人と他の世帯よりも少なく、稼動所得がない世 帯が大多数を占めている。また、公的年金・恩給の年間受給額も平均127 万円と他の世帯 よりも低いことに加え、単身であるために子世代との同居による所得保障も行われていな い。実際、高齢単身女性、高齢単身男性、高齢者が世帯主の世帯(世帯人員一人あたり所 得)について、所得階級別に世帯分布をみると、高齢者が世帯主の世帯では、一人あたり 所得のピークが100~150 万円未満にある一方、高齢単身女性では所得のピークが 50~100 万円未満にあり、他の世帯よりも低所得に偏る傾向がみられる(図表 22)。 近年、高齢単身世帯の数は増加傾向が続いており、将来的にもこうした傾向が続くとみ られている。この結果、低所得リスクに直面する高齢者が拡大する可能性も否定できず、 現在のセーフティネットが十分なものとなっているのかを再検討する必要があるといえよ う。そこで以下の章では、高齢単身世帯の経済状況(所得、資産、就業状況)を明らかに するとともに、高齢期の低所得リスクを縮小するために現在行われている対応策と課題を 検討していくこととしたい。

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図表 21:世帯類型と低所得リスク 単身世帯 核家族 低所得リス クの種類 男性単身 女性単身 夫婦のみ 夫婦と未婚 の子 ひとり親と 未婚の子 三世代 ①有業人員 が少なく、 勤労収入が な い / 少 な い ○ ( 平 均 有 業 人員は 0.28 人) ○ ( 平 均 有 業 人員は 0.18 人) △ ( 平 均 有 業 人員は 0.51 人) × ( 平 均 有 業 人員は 1.63 人) × ( 平 均 有 業 人員は 1.04 人) × (平均有業 人員は 2.58 人) ②年金給付 水準が低い △ ( 世 帯 あ た り 公 的 年 金 ・ 恩 給 受 給 額 は 160 万円) ○ ( 世 帯 あ た り 公 的 年 金 ・ 恩 給 受 給 額 は 127 万円) × ( 世 帯 あ た り 公 的 年 金 ・ 恩 給 受 給 額 は 257 万円) × ( 世 帯 あ た り 公 的 年 金 ・ 恩 給 受 給 額 は 241 万円) ○ ( 世 帯 あ た り 公 的 年 金 ・ 恩 給 受 給 額 は 124 万円) ○ (世帯あた り 公 的 年 金・恩給受 給額は 136 万円) ③夫婦間や 子世代との 同居による 所得保障機 能がない ○ ○ △ ( 場 合 に よ る) △ ( 場 合 に よ る) △ ( 場 合 に よ る) × (注)1.図表中の○は当該世帯が低所得リスクに該当している可能性が高い、△は場合によって該当、× は該当する可能性が低いことを表す。 2.①は、世帯あたりの平均の有業人員が、高齢者がいる世帯の平均(1.13 人)の三分の一未満の場 合に○、三分の一~平均未満の場合に△、平均以上の場合に×とした。 3.②は、世帯あたりの平均の公的年金・恩給受給額が、高齢者がいる世帯の平均(189 万円)を大 幅に下回る場合に○、平均近辺の場合に△、平均を大幅に上回る場合に×とした。 4.③は、核家族世帯における同居が所得保障の機能を果たすかどうかは、高齢者の配偶者や未婚の 子の就労状況にもよるため、△(場合による)とした。 5. 図表中の数値は厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年)による。 (資料)みずほ総合研究所作成

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図表 22:所得金額の階級別にみた世帯分布 0 5 10 15 20 25 30 5 0 万 未 満 5 0 ~ 1 0 0 1 0 0 ~ 1 5 0 1 5 0 ~ 2 0 0 2 0 0 ~ 2 5 0 2 5 0 ~ 3 0 0 3 0 0 ~ 3 5 0 3 5 0 ~ 4 0 0 4 0 0 ~ 4 5 0 4 5 0 ~ 5 0 0 5 0 0 ~ 6 0 0 6 0 0 ~ 7 0 0 7 0 0 ~ 8 0 0 8 0 0 ~ 9 0 0 9 0 0 ~ 1 0 0 0 1 0 0 0 万 以 上 (%) 高齢単身女性 高齢単身男性 世帯主が65歳以上の世帯(世帯人員一人当たり年間所得金額) (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2004 年) 3. 高齢期の低所得リスク層の所得・資産・就業状況 これまで、高齢期の所得に関しては、所得格差の大きさそのものよりも、低所得になり やすい特徴を併せ持つ世帯が存在することが問題であることを指摘してきた。高齢期に低 所得になりやすい世帯の特徴とは、前述の通り、①勤労収入がないこと、②年金給付水準 が低いこと、③子世代以下と同居していないことの3 つであり、この 3 つの条件を併せ持 つ可能性が高い世帯は、世帯類型別には単身世帯、とりわけ女性の単身世帯である。高齢 期のセーフティネットを考える上では、低所得リスクが高い層がどのような所得・資産・ 就業状況にあるのかを把握することが必要であることから、以下では、高齢単身世帯に焦 点をあて、所得、資産保有状況、就業環境を確認することとする。 (1) 高齢単身世帯の低所得リスクの大きさ まず、高齢単身世帯の所得の状況をみていく。すでに女性の高齢単身世帯では低所得リ スクの高い世帯の特徴を重複して持つ場合が多いとみられること、実際に、他の世帯より も低い水準に所得が偏る傾向があることを指摘した。 それでは、高齢単身世帯にとって、低所得状態に陥るリスクはどの程度の大きさといえ るのだろうか。本稿では低所得リスクの定義を「その世帯の一人あたり所得が、全世帯の

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一人あたり平均所得の50%未満であること」と定義する11。定義からも分かるように、こ こでの「低所得」は、平均所得との対比でみた相対的な概念である。 国民生活基礎調査によると、全ての世帯で見た場合、平均の所得金額は 563 万円、平均 世帯人員は2.74 人であるから、世帯人員の違いがもたらす規模の経済を考慮すると一人あ たり平均所得は340 万円となる(図表 23 のケース(1))。この 50%水準である所得金額 170 万円以下の高齢単身世帯の割合は 30%となる。一方、規模の経済を考慮しない場合で も、低所得の高齢単身世帯の割合は13%となる(図表 23 のケース(2))。 このように相対的な低所得の水準をどこに置くかによって高齢単身世帯のうち低所得リ スクに直面する世帯の割合は異なってくる。しかし、一人暮らしの高齢者の一定割合が相 対的な低所得に該当すること、今後高齢単身世帯の増加が予想されていることを併せて考 えると、今後低所得リスクに直面する単身高齢世帯の絶対数もまた増加に向かうと考える のが自然であろう。 図表 23:高齢単身世帯の低所得リスクの大きさ ① ② ③ (②×0.5) ④ 一世帯あたり 平均所得 ①を一人あたり 所得に換算 ②の50%金額 低所得(一人あたり平均 所得の50%以下)の 高齢単身者割合 ケース(1) 563万円 340万円 (等価尺度0.5) 170万円 30% ケース(2) 563万円 205万円 (等価尺度1.0) 103万円 13% (注)1.ケース(1)は、世帯所得を世帯人員の平方根(0.5 乗)で除すことで一人あたり所得を求めてい る(世帯規模の経済を考慮するケース)。ケース(2)は世帯平均所得を世帯平均人員(2.74 人) で単純に割ることで、世帯人員一人あたり所得を求めている(世帯規模の経済を考慮しないケース)。 2.国民生活基礎調査では年間所得が 50 万円刻みでのみ世帯数を把握することが可能であるため、 低所得リスクに該当する世帯の割合を推計する際には、以下の方法を用いた。 ・所得金額170 万円未満の世帯数:150 万円未満の世帯数+150 万円以上 200 万円未満の間にこ のカテゴリーの世帯が均等に分布していると仮定した場合の150 万円以上 170 万円未満の世帯数 ・所得金額103 万円未満の世帯数:100 万円未満の世帯数+100 万円以上 150 万円未満の間にこ のカテゴリーの世帯が均等に分布していると仮定した場合の100 万円以上 103 万円未満の世帯数 (資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006 年) 11 貧困の度合いを示す指標の一つに相対的貧困がある。相対的貧困とは、所得が全国民の一人あたり所得 の中央値に対して半額未満であることを指し、これに該当する人口の割合を相対的貧困率という。しか し、これまで分析に使用してきた国民生活基礎調査では、一人あたり所得の中央値を得ることができな いため、本稿では低所得を「その世帯の一人あたり所得が、全世帯の一人あたり平均所得の50%未満で あること」と定義することとした。

図表 3:各種格差尺度とその概要  概要  ジニ係数  (Gini coefficient)  所得が完全に平等に分配されている場合に比べ、分配がどこまで高所得者層に偏っているかを数値で表したもの。完全平等であればゼロ、完全に不平等(世の中の所得を 1 人が独占し、それ以外の者の所得がゼロ)であれば 1 となる。ジニ係数は幾何学的には累積世帯比率と累積所得比率を プロットしたローレンツ曲線と対角線で囲まれた三日月部分の面積の、対 角線を斜辺とする直角二等辺三角形の面積に対する比率として表される。 アトキンソ
図表  7:世帯主年齢・所得五分位階級別にみた世帯平均所得  120 150 131 135 134 127 1202882992962862882892854484664724594574564406976766866606586876361494136712741291112111871266 0 2004006008001000120014001600 29歳以下 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70~79歳 80歳以上 第Ⅴ分位第Ⅳ分位第Ⅰ分位第Ⅱ分位第Ⅲ分位(万円) (資料
図表   8 :世帯主年齢階級別ジニ係数のシミュレーション① 実数 第Ⅰ分位の所得が 30歳代以 降一定 第Ⅱ分位の所得が30歳代以降一定 第Ⅲ分位の所得が30歳代以降一定 第Ⅳ分位の所得が30歳代以降一定 第Ⅴ分位の所得が30歳代以降一定 ジニ係数 0.380 0.373 0.377 0.378 0.379 0.353 実数との差 -0.006 -0.003 -0.001 0.000 -0.027 ジニ係数 0.393 0.384 0.391 0.392 0.393 0.356 実数との差 -0.009
図表  11 :「 65 歳以上がいる世帯」と「世帯主が 65 歳以上の世帯」の世帯数 (万世帯)  三世代 その他 男性単身 女性単身 夫婦のみ 夫婦と未 婚の子 ひとり親と未婚の子 65歳以上がいる世帯 1829 410 103 307 834 540 181 114 375 209  うち世帯主が65歳以上の世帯 1442 410 103 307 769 526 173 70 150 113  うち世帯主が65歳未満の世帯 387 0 0 0 65 14 8 44 225 96単身核家族総数 (注)世
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参照

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