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高齢期の低所得を回避するための社会保障制度としては、主として、公的年金と生活保 護がある。公的年金には、老齢年金、障害年金、遺族年金があるが、高齢期の所得保障は 老齢年金と遺族年金が中心である。一方、生活保護は、高齢期の所得保障に限定されてい るものではないが、06 年度の被保護世帯のうち、44.0%が高齢者世帯となっており21、生 活保護の高齢期の所得保障としての役割は大きい。

以下では、高齢期の所得保障制度である公的年金と生活保護の給付の現状を確認すると もに、高齢期の低所得対策として効果的なセーフティネットとしての社会保障制度のあり 方について考察する。

(1) 公的年金

a. 公的年金が老後の所得保障の中心

公的年金のうち、老齢年金は、高齢による稼得能力の減退を補填し、老後生活の安定を 図るものと位置づけられている。また、遺族年金は、遺族の生活の安定を図るものと位置

した講義課目を安価に提供している。

21厚生労働省「社会福祉行政業務報告」2006年度による。1カ月平均の被保護世帯数は、全体で1,075,820 世帯、高齢者世帯が473,838世帯。人口高齢化に伴い、被保護世帯に占める高齢者世帯の割合は、年々 増加している。

づけられている22

厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2006 年調査)によると、高齢者世帯23の1世帯当 たりの平均所得金額のうち、公的年金・恩給24の占める割合は約7割となっている。また、

所得が公的年金・恩給のみの世帯は高齢者世帯の約 6割を占めており、公的年金は老後生 活で重要な役割を果たしているということができる(図表37)。

図表 37:高齢者世帯の総所得に占める公的年金の割合

【所得の種類別の構成割合(平均)】 【公的年金が総所得に占める割合】

仕送り・企業年 金・個人年金・

その他の所得 5.7%

財産所得 5.2%

年金以外の社 会保障給付金

0.8%

稼働所得 18.1%

公的年金・恩 70.2%

80~100%

未満 10.3%

60~80%未 11.8%

100%(公的 年金・恩給

のみ)

59.9%

40~60%未 8.8%

20~40%未 6.7%

20%未満 2.5%

(資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2006年)

一方で、年金制度は、主として現役世代が負担する保険料が、高齢者世代が受給する年 金原資となる賦課方式で運営されているため、少子高齢化の進行に伴って段階的に給付水 準が抑制されている。しかし、年金制度発足時からの時間の経過とともに、平均の年金加 入期間が長期化していることから、平均年金額の著しい目減りは見られず、老後生活の安 定を図るという機能は維持されている(図表38)。

22公的年金には、他に一定の障害を負った場合に給付される障害年金がある。

23 ここでは65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯を指す。

24恩給法に規定される公務員であった者に対して給付される。現在は、公務員の年金制度は共済年金に移 行されており、恩給の対象となる公務員は、共済制度発足前に退職した公務員及びその遺族である。し たがって、現職者に恩給の対象者は存在しない。

図表 38:平均加入期間と平均年金額

0 5 10 15 20 25 30 35 40

96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 年度

(万円)

0 50 100 150 200 250 300 350 400

(月)

基礎年金 厚生年金 遺族厚生+基礎年金

【平均加入期間(右)】

(厚生年金)

(国民年金)

【平均年金額(左)】

(注)厚生年金は定額部分・基礎部分が支給されている分のみ集計。平均年金額は06年度価格。

(資料)厚生労働省社会保障審議会資料、社会保険庁「事業年報」、総務省「消費者物価指数」

b. 無年金・低年金の問題

一方、年金給付額は、現役時代に保険料を納付した期間と額に応じて決まるため、現役 時代に一定期間以上保険料を納付しないと、将来、無年金になるほか、保険料納付期間が 短いと低年金になる。

例えば、国民年金のみの加入者は、毎月一定額の保険料25を負担し、原則として20歳か ら60 歳になるまで40年間保険料を納付する。40 年間保険料を納付した場合には、65 歳 から満額の老齢基礎年金79.2万円26(月額6.6万円)を受給することができるが、保険料 納付済期間が短ければその分年金額が減額され、原則として、保険料納付済期間が25年未 満だと年金受給権は発生しない27。また、低所得者には所得に応じて全額免除制度や一部 免除制度があるが28、免除を受けていた期間については年金額が減額されるため、低年金 になりやすい。

そもそも、老齢基礎年金のみを受給している場合、最大で単身世帯は月額6.6万円、夫婦 世帯で月額13.2万円である29。05年度末時点の平均年金月額は、男性5.8万円、女性4.9

25 08年度の国民年金保険料は月額14,410円。

26 08年度価格。

27 老齢基礎年金(08年度)は、年額792,100円×(保険料納付済月数/480月)。保険料納付済月数は300

月(25年)未満だと老齢基礎年金の受給権はない。なお、一部、例外がある。

28国民年金保険料の全額免除期間については、年金額は3分の2に減額される。また、全額免除のほか、

所得に応じて半額免除、4分の3免除、4分の1免除があり、それぞれの免除幅に応じて年金額が減額さ れる。免除された期間については、10年以内に保険料を追納することができる。追納した場合は、保険 料納付済期間となり、その期間については満額の年金を受給できる。

29 旧法国民年金法による老齢年金は除く。

万円である。男女別の老齢基礎年金の年金月額の分布をみると、男性については月額6 万 円以上の受給者が全体の6割を超えるが、女性の月額6万円以上受給者は全体の3割程度 にとどまっているなど、女性の低年金者は多い(図表39)。したがって、老齢基礎年金の みを受給している世帯では、他に所得や、取り崩せる金融資産がない場合には、高齢者世 帯(65歳以上の無職世帯)の平均消費支出(単身世帯:月額14万円、夫婦世帯:月額23 万円30)と比較して所得が大きく見劣りする。

図表 39:男女別の老齢基礎年金等の年金月額の分布(2005年度末)

10.7 8.7

23.9 8.8

17.6 13.4

17.8 61.3

24.2

3.8

5.9 4.1

0 20 40 60 80 100

(%)

3万円未満 3~4万円 4~5万円 5~6万円 6~7万円 7万円以上

(注)現在の老齢基礎年金は満額で月額 6.6 万円だが、旧法国民年金の老齢年金の受給者がいるため、7 万円以上の受給者がいる。

(資料)厚生労働省

また、遺族基礎年金は、18歳未満(18歳の誕生日の属する年度末まで)の子か20歳未 満の障害等級1級または2級の子がいなければ妻に受給権はないため、基礎年金のみの高 齢夫婦世帯で夫死亡時に遺族基礎年金の支給対象となる子がいなければ、妻は自身の老齢 基礎年金(最大で月額6.6万円)のみの受給になる。

一方、会社員で厚生年金に加入していた者については、老齢基礎年金に加えて、老齢厚 生年金を受給することができるため、年金収入は手厚くなる(図表40)。ただし、老齢厚 生年金は、給付が勤続期間(加入期間)と給与水準(保険料納付額)に応じた給付となる ため、65歳以上の平均受給額は、男性19.7万円に対して、女性は11.2万円と、女性の平 均年金額は男性の6割弱にとどまっている。すなわち、女性の平均的な厚生年金受給者に ついては、前述の高齢者単身世帯の1カ月の平均消費支出である月額14万円を下回る(図 表40)。これは、女性の平均勤続期間が短いことと、平均給与水準が短いことに起因して いる31。なお、老齢厚生年金は、夫死亡時に夫によって生計を維持していれば妻に遺族厚

30 06年の総務省「家計調査」の数値。

31かつては企業退職時に厚生年金の脱退手当金を受給できる制度があり、脱退手当金を受給した場合はそ の期間について将来の年金受給時には厚生年金に加入していなかったものとみなされる。このため、一

生年金(夫の厚生年金の4分の3)が給付される32

図表 40:公的年金の負担と給付の概要

負担 給付 平均年金額

(2006年度)

国民年金のみ加入

・毎月一律の保険料を納付

・免除制度あり

※厚生年金、共済年金(公務 員等)の加入者の被扶養配 偶者は保険料負担なし

・納付した期間に応じた老齢 基礎年金

・免除期間は年金減額

平均

47,587円 新規裁定

53,249円

厚生年金加入者

・報酬の一定率(労使折半)

・納付した期間に応じた老齢 基礎年金

・納付した期間と保険料の額 に応じた老齢厚生年金

平均(全体)

170,853円 男(65歳以上)

197,007円 女(65歳以上)

112,033円

(注)1.国民年金のみ加入者とは、自営業者や短時間労働者等。厚生年金加入者は民間会社員。

2.老齢基礎年金の受給には、保険料納付済期間(免除期間、被扶養配偶者期間等を含む)が25

以上必要。老齢厚生年金は、老齢基礎年金の受給要件を満たしていれば加入期間1カ月以上で受 給できる(60~64歳の特別支給の老齢厚生年金を除く)。

3.平均年金額のうち、厚生年金加入者の平均は定額部分または基礎年金部分ありの者。

(資料)厚生労働省、社会保険庁資料によりみずほ総合研究所作成

以上は、年金受給者の年金額についてであるが、無年金者の存在も大きな問題である。

社会保険庁の推計によると、今後、任意加入期間も含め、可能な限り保険料を納付したと しても無年金となる者は、全体で118万人いるという(07年4月1日時点)。世代別には、

60歳未満が45万人、60~64歳が31万人、65歳以上が42万人である(図表41)。また、

現在は、保険料納付済期間が25年に満たずに年金受給要件を満たさないが、今後、保険料 を納付すれば受給資格要件を満たす 60 歳以上の者は 37 万人いる。逆に言えば、この 37 万人は今後、保険料を払わなければ無年金者となるので、将来の無年金者数は最大で 155 万人に上ると見ることができる。

わが国の年金制度は、老後生活の重要な役割を担っている一方で、実際には高齢無年金 者が最大で100万人を超える状態になっており、必ずしも高齢による稼得能力の減退を補 填する確実なセーフティネットになっているわけではない。

定以上の年齢の女性は、過去に会社員であった期間があっても厚生年金を受給できない例が多い。脱退 手当金は、1985年の年金改正で廃止されたが、4141日以前生まれで厚生年金に5年以上加入し ていた等の一定の要件を満たす場合に限り脱退手当金を受給することができる。

32妻自身に老齢厚生年金が支給されている場合は妻の年金額により変わる。妻死亡時に妻により生計を維 持されていた55歳以上の夫も遺族厚生年金の受給者となる(給付は60歳から)。

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