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随想 私が栃木のアルミ板圧延工場に入社してから 30 年余りが経過しました 大阪で育った私にとって は, 栃木県はきわめてなじみの薄い地域でした 六甲山系等の山々を近くに眺める大阪とは異なり, 工場周辺の景色は, 遥か遠くに山々を見る広々と した風景です また, 温暖化が進んだことにより 以前ほどで

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缶詰技術研究会 http://kangiken.net/ 随 想  第二の故郷……… <畑中孝一>… 258 解 説  シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用(第28回)        エリスリトールの発酵生産と浸透圧ストレス応答 ……… <春見隆文>… 260 解 説  シリーズ解説:進化する水産養殖技術(第10回・最終回)        養殖魚の生産履歴情報開示システムの開発… <舞田正志>… 268 連載エッセー:食べもの随想  外食の思い出と夢の話         −偶然と必然−……… <田村真八郎>… 274 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 海外技術・マーケット情報 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰   食品工場と再生可能エネルギー……… 276   パッケージにおけるナノテクノロジー……… 279   ヨーロッパの飲料缶市場……… 281   栄養素の豊富な食品:    健康改善のための栄養ナビゲーションシステム(1) ……… 282   農産物加工の新しい科学と技術……… 284   食品工場と従業員の衛生管理……… 288   オーガニック食品・natural食品開発の課題 ……… 290   PACKAGING NEWS……… 292 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 〰 特別レポート:トイレタリー・化粧品業界に押し寄せる         容器包装開発競争(2009年の動向) …………<大徳明子>… 295 特別解説:食品汚染の迅速検出と管理………<川崎 晋>… 300 業界トピックス:08年家庭用ココア市場,低迷に歯止め……… 306 技術用語解説:スマートパッケージ……… 307 今月の統計……… 308 最近の技術雑誌から……… 310 野菜・果物を巡って (第五話)環境を保全しつつ栽培された野菜 ………<吉田企世子>… 315 「泳げ鯉のぼり」 熊本県 高橋一郎

FOOD

&

PACKAGING

目   次

2009030885出版セ食品と容器:レイアウト 1 09/05/09 15:16 ページ 1

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258 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5  私が栃木のアルミ板圧延工場に入社してから30 年余りが経過しました。大阪で育った私にとって は,栃木県はきわめてなじみの薄い地域でした。 六甲山系等の山々を近くに眺める大阪とは異なり, 工場周辺の景色は,遥か遠くに山々を見る広々と した風景です。また,温暖化が進んだことにより 以前ほどではなくなったものの,冬の朝晩の冷え 込みは東京よりも一段と厳しいものです。一方で は入社当時と比較すれば,新幹線,道路が整備さ れ,最近は東西の動脈となる北関東自動車道が建 設されつつあるなど,利便性は隔世の感がありま す。  アンケート調査によりますと,栃木県は全国の 県の知名度ランキングで一昨年は最下位で,昨年 は下から3番 目であったそ うです。昨年, 栃木県より下 位であった県 は,茨城県と 群馬県であっ たそうで,東 京の北に位置 する北関東の 県は影が薄い ようです。  しかし,私が勤務する圧延工場が位置します真 岡市は,全国住み良さランキングでベストファイ ブに入っています。また,自宅のある下野市も某 雑誌の同様の調査で東京23区を除けば,全国トッ プの評価を受けたことがあります。これらは学校, 病院,文化施設の数等を基準にした評価であり, 実感と一致しているかどうかに疑問が残ることも あるでしょうが,いずれにしても,知名度よりは 客観的評価が高い地域であることは事実です。  栃木に住み30年も経過すると,愛着もわき,親 しみがわくものです。最近は栃木の「名産」に興 味を持ち写真に収めたりすることも多くなってい ます。益子焼や餃子のようにかなり知られたもの もありますが,ここでは,主として統計資料の県 別ランキングを取り上げ,栃木県に焦点を当てて みました。  私の仕事に属するアルミ産業は,産業分類とし ては非鉄金属製造業となりますが,このカテゴリ ーでは栃木県は全国8位(1位は茨城県)となり ます。飲料缶等の缶材が主要用途であるアルミ板 材に絞り込んだ比較は,工場立地に直結するので 難しいところです。しかし栃木県に焦点を当てる と,面白い事実があります。タイトルバックの写 真に用いたハードディスク用アルミ基盤です。誰 もが親しみのあるデスクトップパソコン,DVD, ゲーム機などに搭載される記憶媒体のハードディ スク用アルミ基盤は,需要変動と要求品質の高度 化に伴い,サプライヤーが絞られ,現在では世界 中で神戸製鋼と古河電工の2社しか生産しておら ず,その工場が両社ともに栃木にあります。100 %栃木県から世界中に供給しているという,特産 品ということになります。  目を転じて農産物等で見れば,ランキング上位 のものは第1表のとおりです。一位のものでは「い ちご」が有名で,「とちおとめ」はよく知られた 品種です。風景的には同じ一位の「麦」が見事で

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 中

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 孝

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 一

い ち (㈱神戸製鋼所 真岡製造所 所長)

随 想

品名 栃木県の 順位 1位(2位)の県 いちご 1位 (福岡) なし 5位 千葉 米 8位 新潟 大麦 1位 (佐賀) にら 2位 高知 クレソン 2位 山梨 生しいたけ 3位 徳島 こんにゃく芋 2位 群馬 生乳 2位 北海道 ウイスキー 1位 (山梨) 米菓 3位 新潟 線香 3位 兵庫 第1表 栃木県の主要産物

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259 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 す。県南ではビールに用いられる二条大麦の畑が 多く見られ,成長期から収穫期にかけての景色は なかなかのものです。  ランキング上位ではないものの,開花期や収穫 期の「なし」「そば」「たばこ」「落花生」の畑も, それぞれ美しさや独特の特徴があり,大阪育ちの 私にとっては,栃木のイメージと重なるものにな っています。  このような統計にはあがらないものの,間違い なく全国一位のものが「かんぴょう」と「麻」で しょう。地味ですが国産品に限れば,いずれもま さに栃木県の特産品といえるものです。県内でも ごく限られた地域のものですが,その畑や収穫後 の加工される様子は,特産品と呼ぶにふさわしい 景色と雰囲気を醸し出しています。  写真は「かんぴょう」「麻」の収穫期の畑と, その後の加工の様子を自分で撮影したものです。  「かんぴょう」はスイカのような夕顔の実を, 帯状に剥むき,写真のように天日で乾燥してできあ がります。収穫以降の一連の作業を,早朝から行 う大変な作業です。このためか作付面積は年々縮 小されているのが実状のようです。天日干しを終 えたばかりのものを頂戴したことがありますが, 滋味あふれる美味しいものでした。畑の様子も, 加工の様子も風物詩というにふさわしい情緒があ ります。  「麻」は夏物の衣服,ロープなどに重用されて います。国産品はごくわずかでしょうが,実はそ の大半が栃木県の山間で作られているのです。何 といっても,浅い緑色の茎が立ち並ぶ畑の美しさ は際立っています。茎の繊維が擦れて切れないよ うに,風が弱い山間部が育成に向いていると聞き ました。繊維にするまで手作りの過程も含めて, 引き継がれてほしいものです。  どの地にも,興味を持てばいろいろな特産品が あるもので,それが風景に繋がれば,風物詩とな ります。当初は慣れない土地柄でも,時を経て隠 れた魅力を知ることになり,住めば都と改めて感 じる次第です。 かんぴょう畑 かんぴょうの乾燥 麻畑 麻の乾燥

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260 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5

○はじめに○

 エリスリトールは炭 素数4個の糖,エリス ロースが還元されてで きた糖アルコールの一 種で(第1図),自然 界にも広く分布してい る。植物ではブドウ, スイカ,ナシ,メロン などの果実類やキノコ, 地衣類など,動物ではヒト,ウシの精液,眼の水 晶体などに含まれている。また第1表に示すよう に1),ワイン,清酒, 醤しょう油などの発酵食品には 30~1000mg/ℓ程度含まれていることから,人々 が日常,無意識のうちに食品とともに摂取してい る糖アルコールでもある。  エリスリトールは,多くの特徴的な物理化学的 および生理学的性質を有している。ショ糖の70~ 80%程度の爽さわやかで爽そう快な甘味を有し,低カロリ ー(≧0.4kcal,栄養表示では0カロリー)である ことから,様々な食品の甘味料としての利用は勿もち 論,高甘味度甘味料や野菜ジュースなど の味質改良剤などに広く使用されてい る2)。また,熱に安定で吸湿性が低いこ とから,シュガーレス薄層糖衣コーティ ング剤や口腔くう内洗浄剤など,医薬品分野 にも応用が広がっているが,この辺りの 詳細については本誌次号の解説記事をご 参照頂きたい。

○糖アルコール生成菌の

探索と分離○

 糖アルコールの発酵生産を目的として,

エリスリトールの発酵生産と

浸透圧ストレス応答

春 見 隆 文

か す み ・ た か ふ み 岐阜大学農学部農芸化学科 卒業。名古屋大学大学院農 芸研究科博士(論文)課程 修了。農林省食糧研究所入 所後,米国アルバートアイ ンシュタイン医科大学留学。 農林水産省食品総合研究所 食品工学部長,理事長を経 て,現在,日本大学生物資 源科学部農芸化学科教授。 農学博士

 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用(第28回)

○解説○

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第1図 エリスリトール の構造式 エリスリトール濃度 (kg/ 日 / 人)消費量 (mg/ 日 / 人)摂取量 日本  味 噌 1310(mg/kg) 0.0152 19.91  醤 油 910(mg/ℓ) 0.0212 19.29  日本酒 150 ~ 180(mg/ℓ) 0.0149 2.23   合計 41.43 ~ 64.45 アメリカ  ワイン 34 ~ 280(mg/ℓ) 0.0227 0.77 ~ 6.35  チーズ 12 ~ 1460(mg/kg) 0.0217 0.26 ~ 13.58   合計 1.03 ~ 38.03 フランス  ワイン 34 ~ 280(mg/ℓ) 0.2561 8.70 ~ 71.7  チーズ 12 ~ 1460(mg/kg) 0.0469 0.59 ~ 72.7   合計 9.29 ~ 144.4 第1表 食品中のエリスリトール含有量と摂取量

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261 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 エリスリトールの発酵生産と浸透圧ストレス応答 高濃度グルコース培地で生育可能な微生物の探索 を行った。50%グルコース,0.3%酵母エキス, 0.3%麦芽エキスを含む寒天平板培地を用い,発 酵食品,果実,土壌など,様々な分離源より得ら れたコロニーを取得し,約1,000株の微生物を分 離した。次に,これらの分離株および野生酵母研 究会から分譲を受けた計約2,000株の樹液酵母(野 生酵母研究会が樹液より分離した酵母)について, 10~20%グルコース液体培地(0.5%酵母エキス, 0.2%KH2PO4,0.1%尿素(樹液酵母のみ)を含む) で30℃,数日間の振とう培養を行い,生成した糖 アルコールをペーパークロマトグラフィーおよび ガスクロマトグラフィーによって確認し,生成量 の高い菌を分離した。  その結果を糖アルコールの生成パターン別に示 したものが第2表である3)。これから明らかなよ うに,主な糖アルコールとしてグリセロールまた はアラビトールを生成する菌が全分離菌の85%以 上を占め,マンニトール,エリスリトールを主要 な糖アルコールとして生成する菌は極めて少数で あった。グリセロールは量の多少はあれ,どの分 離菌にも生成がみられた。また,用いた培地およ び培養条件においては,キシリトールを生成する 菌は見あたらなかった。  樹液酵母の中には糖アルコールへの変換率(消 費グルコース当たり)が40%を超えるものもみら れたが,グルコース濃度が 20%を超えると生育速度は 急激に低下した。一方,新 たに分離した酵母の中には 浸透圧耐性の高い株がいく つかみられた。この中から, 特徴的に糖アルコール生成 量の多い菌を選抜し,形態 的・生理学的な検討を行っ た結果,グリセロール・マ ン ニ ト ー ル 生 成 菌 はTorulopsisお よ びCandida sp.,アラビトール生成菌はBrettanomycesおよび Debaryomyces sp.,エリスリトール生成菌はすべ てTrichosporonoides sp.(以前はAureobasidium sp.に分類)と同定された。  第3表に,各分離株の生成糖アルコールの種類 および変換率を示す3)。グリセロール・マンニト ール生産菌は,グルコース濃度20~30%の培地で, 消費したグルコースの50~60%の糖アルコールに 変換するが,グルコース濃度によって糖アルコー ルの組成が異なる。また,アラビトール生成菌は グルコース濃度20%では消費グルコースの50%を アラビトールに変換するが,それより高いグルコ ース濃度では変換率が急激に低下する。エリスリ トール生産菌は,グルコース濃度20~30%の培地 で消費グルコースの約40%をエリスリトールに変 酵母 糖アルコール 菌株数 樹液酵母 アラビトール 215 グリセロール 120 マンニトール 4 マンニトール+エリスリトール 2 新規分離株 アラビトール+グリセロール 28 グリセロール+マンニトール 22 エリスリトール+グリセロール 4 アラビトール+マンニトール +グリセロール 3 分離珠 培養日数 グリセロール エリスリトール アラビトール マンニトール糖アルコール変換率(消費グルコース当たり)(%) T-18 12 42.4 - - 23.7 T-36 7 40.3 6.9 - 10.3 T-39 11 21.8 - - 42.7 O-88 14 5.3 - 59.5 - T-113 7 2.7 - 53.6 - T-115 8 3.5 44.2 - - T-124A 7 3.9 43.0 - - T-45 6 5.2 34.3 - -

T-18, T-39; Torulopsis sp., T-36; Candida sp. O-88; Brettanomyces sp. T-13; Debaryomyces sp., T-115, T-124A, T-45; Trichosporonoides sp.

第3表 分離酵母による生成糖アルコールの種類と変換率 第2表 高糖濃度培地で分離された微生物と     糖アルコールの生産

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262 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用 換する。このように,同じ菌であっても,グルコ ース濃度,すなわち培地の浸透圧によって生成す る糖アルコールの種類や生育状況が異なるのは代 謝系路の差を示唆するもので興味深い。

○エリスリトール生産菌の

分離と改良○

(1)エリスリトール生産菌Trichosporonoides megachiliensisの分離および性質

 Trichosporonoides megachiliensis SN-124Aは, 筆者らがエリスリトール生産菌として分離した 菌のひとつで,アルコール発酵を行う出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae)とは遠縁の担子菌系 酵母である。The Yeastによれば,T. madida, T. megachiliensis,T. nigrescens,T. oedoc-ephalis,T. spathulataの5種に分類されてい る4)。この属は1967年,Hocking & Spencerに

よって分離されたT. oedocephalisが最初であり, T. megachiliensisは1992年,Inglis & Siglerに よ って報告された。いずれもミツバチの幼虫,ジャ ム,マーマレードなど,ハチミツや糖濃度の高い 食品中から分離されており,高浸透圧環境を好ん で生育する微生物である。中でもT. megachi-liensisは60%グルコース(3.3M溶液)中で増殖 できると記述されており,極めて高い浸透圧を好 んで生育する菌である。ちなみにT. megachilie-nsisの名前の由来であるmegachiliとは,アルファ ルファハキリバチ(Megachilie rotundata)の 学名であり,このハチの幼虫から分離されたこと による。同様に花粉やハチミツ,腐敗果実などを 好んで生息するMoniliella pollinisなど,Monili-ella属と極めて近く,しばしば混同されることが ある。その違いは主に糖の資化性に基づいている が,最近,筆者らが26S rRNAの解析結果から推 定した分類では,Moniliella属のうち,M. sua-veolansやM. madidaよりもM. pollinisに近い菌と 推定された5)  エリスリトール生産菌,T. megachiliensis124A の主な形態的,生理学的特徴は第4表の通りであ る。グルコース,フルクトース,マンノースなど の6炭糖,スクロース,マルトースなどの2糖類 を資化するが,キシロース,アラビノースなどの 5炭糖およびソルビトール,マンニトールなどの 糖アルコールは資化しない。エリスリトール生産 には好気的条件が必要であるが,通気攪かくはん拌時に著 しい発泡性を示す。本菌は凝集性があり,水-ベ ンゼン混合液中に懸濁放置するとベンゼン層に集 まる性質がある。細胞表面の疎水性が高く,水と 混ざりにくい性質が発泡性と何らかの関係をもつ と考えられる4) (2)エリスリトール生産菌の性質と変異株の育成  T. megachiliensis SN-124Aはエリスリトール 生産能には優れているが,通気攪拌条件下で激し い起泡性を示すほか,グルコース濃度が30%を超 えると生育および収率が低下するなど,改良すべ き点があることから,実用的寒天から菌の育種・ 改良を行った。紫外線およびγ線照射,変異誘発 剤などの組み合わせによる変異株の育成の結果, エリスリトール収率,浸透圧耐性とも野生株を上 栄養細胞 4 ~ 7 × 4 ~ 15 ㎛円~楕円状 多極出芽 菌糸 真性菌糸 子嚢胞子 形成せず 線培養 光沢無し,クリーム色から 次第に黒色に変化 尿素の分解  + KNO3の資化  + ゼラチンの液化  - アルブチンの分解  - 糖の発酵性 グルコース,スクロース マルトース 糖の資化性 グルコース,スクロース マルトース,リボース 第4表 エリスリトール生産菌Trichosporonoides megachiliensis(野生株)の形態的,生理学的特徴

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263 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 エリスリトールの発酵生産と浸透圧ストレス応答 回る突然変異株,Trichosporonoides megachili-ensis.SN-G42(第2図)を得た6)。第3図は,野 生株および変異株のエリスリトール生産に及ぼす グルコース濃度の影響をみたものである。野生株 は,グルコース濃度が40%を超えると収率(消費 グルコース当たりの変換率),生産量(全エリス リトール量)とも急激に減少してくるが,変異株 ではこのような現象はみられない。また,第4図 は33.5%のグルコースを基質に,両株を培養した ときのエリスリトール生産量,残存グルコース量, 菌体収量などの経時変化を示したものである。変 異株が野生株を収率で約10%,生産量で20~30% 上回る結果となった。突然変異により浸透圧耐性 が上昇し,エリスリトールの生産性が向上したも のと考えられる。また,通気培養時に問題となる 発泡性は著しく改善された。本菌を用いたエリス リトール発酵技術が約20年前に確立され,世界に 先駆けて実用化された。  この他にエリスリトール生産菌として,Moni-liella,Trigonopsis,Torulopsis,Candida, Pichiaなどの酵母,糸状菌が知られている。現在, T. megachiliensisの 他 にMoniliella,Candidaが エリスリトールの工業生産に用いられている。

○エリスリトールの生成経路○

 エリスリトールは,第5図に示すような経路を 経て生成すると考えられる。すなわち,ペントー スリン酸経路(一部解糖系(EMP経路)との共役) により,エリスロース-4-リン酸が前駆体として生 成する。次いで,フォスファターゼの作用で無機 リン酸が脱離してエリスロースとなり,さらにエ リスロースレダクターゼの働きにより,エリスロ ースが還元されてエリスリトールとなる。一方, 乳酸菌Oenococcus oeni(Leuconostoc oenos)で

a) b)

第2図 エリスリトール生産菌Trichosporonoides sp. a)Trichosporonoides megachiliensis SN 124A(野生株) b)Trichosporonoides megachiliensis SN G42(変異株) リト ,残存 リト 度( m g/ リト 度( m g/ リト ,残存 細胞数 cells/ 第3図  野生株,変異株のエリスリトール生産に及ぼ すグルコース濃度の影響 ○, ●:エリスリトール収率,△, ▲:残存グルコース, □, ■:エリスリトール濃度, ┈, Trichosporonoides 野生株 ─, Trichosporonoides 変異株 第4図 野生株および変異株の培養径時変化 ○, ●:エリスリトール収率,△, ▲:残存グルコース, □, ■:エリスリトール濃度, ┈, Trichosporonoides 野生株 ─, Trichosporonoides 変異株

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264 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用 は別の系が知られている7)。解糖系で生成したフ ルクトース-6-リン酸がホスホケトラーゼによっ てアセチルリン酸とエリスリトール-4-リン酸に 開裂し,後者が脱リン酸を受けてエリスリトール になる。この乳酸菌はワイン醸造のとき,マロラ クチック発酵(生成したリンゴ酸を乳酸に変化さ せ,酸味を下げてまろやかな味にする)を起こす 菌のひとつである。  エリスリトール生成には糖代謝上の多くの酵素 がかかわるが,中でも解糖系とペントースリン酸 経路の分岐点に存在し,炭素代謝のフラックスを 制御していると考えられるグルコース-6-リン酸 デヒドロゲナーゼ(G6PDH),ペントース代謝 の主要酵素であるトランスケトラーゼ(TKT) やトランスアルドラーゼ(TAL),エリスロース -4-リン酸を脱リン酸するエリスロース-4-リン酸 ホスファターゼ(EPP),エリスロースをエリス リトールに還元するエリスロースレダクターゼ (ER)などが主要な働きをなすと考えられる。 T. megachiliensisのERについてはその性質の一 端が明らかにされ8),エリスロース,グリセルア ルデヒド,ジヒドロキシアセトンリン酸以外のペ ントース,ヘキソースにはほとんど作用しないこ とから,既知のアルドースレダクターゼ(Aldose reductase EC 1.1.1.21)とは明らかに異なる酵素 であるという。また,エリスロースレダクターゼ には三種類のアイソザイムが存在することが見い だされ,それらの性質の相違についてタンパク質 化学的な検討が行われている8)  著者らのグループは,T. megachiliensisから3 種のエリスロースレダクターゼcDNAを取得して 大腸菌で発現させ,そのアミノ酸配列を解析した。 その結果,本酵素は補酵素NADPH(ニコチンア ミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の存在下で グリセルアルデヒドとエリスロースに対して高い 特異性を示すことから,C4およびC3アルデヒド を還元するYeast aldo-keto reductase familyに属 するレダクターゼであると推定した9)  また,3種のアイソザイム(ER1,ER2,ER3) の遺伝子構造の解析結果からクラスター構造はと っておらず,このうちER3の遺伝子の 5’末端側上流域には,グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)と同 様なストレス応答に関する転写因子結 合配列(STRE)が存在することを明 らかにした。したがって,少なくとも ER3は浸透圧ストレス刺激に対して適応 的に働いていることは間違いないと思 われる(未発表)。この他の主要酵素, G6PDHやTKTに つ い て も 完 全 長 cDNAを取得し,その遺伝子構造とタ ンパク質機能を解析中である。興味深 いことに,G6PDHの5’末端側上流域 にはSTRE配列がなく,一方,TKTに はSTRE配列が見いだされている(未 発表)。G6PDHは,前述のように糖代 グルコース グルコース−6−Ⓟ 6−ホスホグルコノ−δラクトン 6−ホスホグルコン酸 リブロース−5−Ⓟ リボース−5−Ⓟ キシルロース−5−Ⓟ エリスロース−4−Ⓟ エリスロース エリスリトール フルクトース−6−Ⓟ グリセルアルデヒド−3−Ⓟ セドヘグツロース−7−Ⓟ TCA 回路 ER TKT TKT TAL 第5図 エリスリトールの生成経路    G6PDH:グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ    TKT :トランスケトラーゼ    TAL :トランスアルドラーゼ    ER  :エリスロースレダクターゼ

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265 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 エリスリトールの発酵生産と浸透圧ストレス応答 謝のフラックスを制御(解糖系かペントースリン 酸系路か)しており,NADPHを生成することに よって生体内還元を調節する重要酵素である。

○適合溶質としての

エリスリトール生成○

(1)浸透圧と適合溶質  微生物(生物)が浸透圧の高い環境条件で生育 するためには,細胞内の溶質濃度を高めて浸透圧 を調節する必要がある。そのために,無機イオン や有機物を外部から取り入れるか,細胞内で合成, 濃縮する。浸透圧を高める目的で細胞内に蓄積さ れる溶質は,細胞機能や生化学的な反応過程に悪 影響を与えるものであってはならない。それ故, 適合溶質(compatible solute)とよばれるこれら の物質は,いずれも水溶性の糖または糖アルコー ル,アミノ酸またはその類縁体である。また,高 度好塩性の一部細菌や古細菌はK+を蓄積する。 必要な適合溶質は外部から取り込むか,生物自身 が生成する。前者の例としてカリウムイオンやグ リシンベタイン,後者の例としてグリセロールな どがよく知られている。細菌はアミノ酸とK+ 酵母やカビは糖アルコールを細胞内に蓄積して浸 透圧の調節を行うものが多い。また,海藻はグル コシルグリセロール,マンニ トールなどを蓄積する。これ らをまとめて第5表に示した。  浸透圧調節機構に関する研 究で最もよく知られるもの は,出芽酵母(Saccharomyc-es cerevisiae)によるグリセ ロールの生成である(第6 図)。酵母が高濃度の塩溶液 や糖溶液など,浸透圧の高い (水分活性が低い)環境に曝さら されたとき,細胞内の水分は 浸透圧差によって細胞外に奪い取られ,同時に Na+,K+などの無機イオンが漏出する。同時に細 胞内ではタンパク質,アミノ酸,脂質などの生体 成分が濃縮され,イオンバランスの乱れが生じ, 正常な生育が不可能となる。これを防ぐために, 酵母は適合溶質としてグリセロールを多量に生成 し,細胞内の浸透圧を高め,細胞外から再び水や 無機イオンを取り込む。こうして,細胞内外の浸 透圧のバランスが取れるようにグリセロールを生 成したり排出したりしながら,高い塩濃度や糖濃 度の環境下でも生存できる仕組みを備えている。 (1)出芽酵母における浸透圧制御とグリセロー ルの生成  浸透圧ストレスを感知し,適応する情報伝達経 生物 適合溶質  細菌 グリシンベタイン,プロリン,グルタミン酸 エクトイン,トレハロース  古細菌  好塩菌 KCl  らん藻 スクロース,トレハロース,グルコシルグリ セロール,グリシンベタイン  海藻 マンニトール,グルコシルグリセロール, プロリン  酵母 グリセロール  糸状菌 グリセロール  植物 スクロース等糖類,アミノ酸 第5表 生物による高浸透圧下での適合溶質の生成 ࿑㧢㧚 ᶐㅘ࿶ߩ⺞▵ߦࠃࠆ㉂Უߩ↢૕㒐ᓮ H2O H2O H2O H2O H2O Cl -Na+ Na+ Cl -Cl -Na+ 㜞ᶐㅘ࿶ߦࠃࠆ ⣕᳓ߣỚ❗ ࠣ࡝࠮ࡠ࡯࡞↢↥ߦࠃࠆ ᶐㅘ࿶ߩ⺞▵ߣ᳓๺ߦࠃ ࠆᏗ㉼ Na+ H2O H2O 䉫䊥䉶䊨䊷䊦 Cl -Na+ Na+ H2O H2O H2O H2O 䉫䊥䉶䊨䊷䊦 Cl -Cl -Na+ 䍖䍼䍶䍜䍹䍎䍷 䍖䍼䍶䍜䍹䍎䍷 䍖䍼䍶䍜䍹䍎䍷 ᶐㅘ࿶ࠍㆡᱜߦ଻ߜߥ߇ࠄ↢ሽߔࠆ 㜞ᶐㅘ࿶ߦߐࠄߐࠇߚᓸ↢‛ 第6図 浸透圧の調節による酵母の生体防御

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食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5

シリーズ解説:食品加工における微生物・酵素の利用

路はHOG経路(High Osmolytic Glycerol Path-way)とよばれ,細胞の増殖,分化,修復などに 関連するMAPキナーゼ(MAPK : mitogen-acti-vated protein kinase)カスケードのひとつであ る10)。浸透圧ストレスを受けたとき,細胞表層付 近に存在するタンパク質が浸透圧センサーとして 働き,その情報を下流に存在するHOG経路のタ ンパク質にMAPキナーゼカスケードを通じて伝 達する。MAPキナーゼカスケードのタンパク質 はいずれもリン酸化酵素(protein kinase)で, リン酸化され活性化されたHog1は細胞質から核 内に移動し,別の転写因子と共同してグリセロー ルリン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)およびグリセ ロールリン酸ホスファターゼ(GPP)遺伝子の転写 を促す。これらの遺伝子(mRNA)は核から細胞 質に移動して各々酵素タンパク質に翻訳され,グ リセロールの生成が促されるという仕組みである。 (2)T. megachiliensisにおける浸透圧制御とエ リスリトールの生成  T. megachiliensis SN-124A株からHog1p遺 伝子を取得し比較してみたところ,黒穂菌Ustil-ago maydisや,S. cerevisiae, 耐 塩 性 酵 母Zygo-saccharomyces rouxiiのHog1pと高い(90%以 上)相同性を有していた。このHog1pはセリン/ トレオニンキナーゼで,触媒ドメインの中央部付 近にリン酸化を受けるTGY配列が存在すること が分かった。また,S. cerevisiaeのHog1p欠損 株(低浸透圧耐性)に導入し高濃度のNaClやグ ルコースの存在化で培養したところ,浸透圧耐性 は正常株(Hog1p欠損のない株)と同等レベルま で復活した(未発表)。このことから,T.megac-hiliensisにもS. cerevisiaeと同様のHOG1 MAPキ ナーゼ経路が存在することが明らかとなった。し たがって,本菌のエリスリトール生成はS. cer-evisiaeにおけるグリセロールと同様,細胞内の浸 透圧調節機構の一環であり,本目的のための適合 溶質であることが判明した。その模式図を第7図 に示す。

○ お わ り に ○

 T. megachiliensisによるエリスリトールの生産 が,浸透圧ストレス応答という生物の生存戦略の 一環であること分かってきた。このような研究は S. cerevisiae以外で例が少なくそのシグナル伝達 機構には不明な点が多いが,これらの研究を通じ て今後どのようなことが期待されるのか,以下に まとめてみた。  第1に,酵母における浸透圧適応はストレス応 答機構の一環であり,あらゆる 生物のストレス修復機構のモデ ル と な り 得 る こ と で あ る。 MAPキナーゼカスケードはほ 乳類細胞にも何種類か存在す るが,増殖因子などによって活 性化されるERK(extracellular signal-regulated kinase: 細 胞 外シグナル制御キナーゼ)経路 と,ストレスやサイトカインに よって活性化されるストレス応 答MAPキ ナ ー ゼ(SAPK) と ᶐㅘ࿶䉴䊃䊧䉴 ᶐㅘ࿶䉶䊮䉰䊷 MAPKKK MAPKK MAPK Hog1 Hog1 䍒䍶䍛䍶䍢䍎䍷↢ᚑ 䈮㑐䉒䉎 ㆮવሶ⟲䈱⊒⃻ ⚦⢩⾰ ᩭ 䉣䊥䉴䊥䊃䊷䊦↢ᚑ♽㉂⚛ ⚦⢩⤑ 䊥䊮㉄ൻ ER3 Erythrose reductaseઁ ⣕䊥䊮㉄ൻ 第7図 T. megachiliensisにおけるHog1pと浸透圧調節

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食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5

エリスリトールの発酵生産と浸透圧ストレス応答

に大別される。酵母のHOG1経路はSAPKに含ま れるほ乳類のJNK(C-Jun N terminal kinase), p38経路とは相同性が高く,高等動物のストレス 刺激応答解明の手掛かりになるものと期待される 11)。さらに,これらのMAPキナーゼカスケード のタンパク質(セリン/スレオニンキナーゼ)は, 増殖・分化やタンパク質合成,がん細胞の発現・ 抑制など,細胞の死活に関わる重要なシグナル伝 達において共通する部分も多い。  第2に,適合溶質としての糖,糖アルコール, アミノ酸などの中から,食品,医薬品,細胞・組 織の保護物質などに利用可能な有用物質が見出さ れる可能性がある。適合溶質は,細胞内で高濃度 に蓄えられるものであることから,細胞自身に悪 影響を及ぼすことはなく,むしろ,ストレスで受 けた傷害の治癒的な機能をもつと考える方が妥当 である。本稿ではエリスリトールについて紹介し たが,スクロース,トレハロース,グリシンベタ インなどは適合溶質としての認識の有無にかかわ らず,その有用性から広く利用されてきている。  第3に,ストレス修復機構の阻害や破壊による 有害微生物の防除の可能性である。  植物病原菌のいもち病菌(Pyricularia oryzae) は,80気圧にも達する細胞内圧力により生じる物 理的な力を用いて,細胞壁合成の制御を行いなが らイネに侵入・増殖するといわれている。このよ うな圧力発生は浸透圧応答と密接に関連するとさ れ,植物病原菌や寄生菌で共通性があり,そのシ グナル伝達機構の解明およびシグナル伝達を阻害 する薬剤の開発の研究などが行われている12)

参 考 文 献

1)赤坂 敬,河野宏行,折原房男:エリスリトール(糖 アルコールの新知識),早川幸男編,食品化学新聞 社(東京),p68,1996年 2)春見隆文:エリスリトールの発酵生産技術の開発と その利用(機能性糖質素材の開発と食品への応用), 井上國世監,シーエムシー出版,p27-47,2005年 3)若生勝雄,川口 嶽,久保直哉,春見隆文,林 清: 発酵工学,68, 209-215(1988) 4)若生勝雄,石塚博明,久保直哉,川口 嶽,春見 隆文,林 清:発酵工学,68, 217-223(1988) 5)Ookura, T., and Kasumi, T., Phylogenetic analysis

of the yeast Trichosporonoides megachiliensis SN G-42 by sequencing the large subunit(26S)D1/ D2 regions. Rept. Nat'l. Food Res. Inst.72, 73-76 (2008)

6)Ishizuka, H., Wako,K., Kasumi, T., and Sasaki, T., Breeding of a mutant of Aureobasidium sp. With high erythritol production. : J. Ferment. Bioeng., 68, 310-314(1989)

7)M Veiga-da-Cunha, H Santos, and E Van Schaf- tingen, Pathway and regulation of erythritol for-mation in Leuconostoc oenos. J. Bacteriol., 175: 3941-3948(1993)

8)Ishizuka, H., Tokuoka, K., Sasaki, T., and Tani-guchi, H.,Purification and some properties of an

erythritol- reductase from an Aureobasidium sp. mutant., Biosci. Biotechnol. Biochem.,56, 941-945 (1992)

9)Ookura, T., Azuma, K., Isshiki, K., Taniguchi, H., Kasumi, T., and Kawamura, Y., Primary structure analysis and functional expression of erythritol reductases from erythritol-producing fungi (Trichosporonoides megachiliensis SN G-42,

Bio-sci. Biotechnol. Biochem., 69, 944-951(2005) 10)Blomberg, A., Metabolic surprises in

Sacchromy-ces cerevisiae during adaptation to saline condi- tions: question, some answers and a model. FEMS Microbiol. Lett. 182, 1-8.(2000)

11)Ansell, R., Granth, K. Hofmann, S. Threvelein, J. M., and Adler, L., The two isoenzymes for east NAD+-dependent glycerol 3-phosphate de- hydrogenase encoded by GPD1 and GPD2 have distinct roles in osmoadaptation and redox regu-lation. EMBO J. 16, 2179-2187(1997)

12)Motoyama, T., Kadokura, K., Ohira, T., Ichiishi. A., Fujimura, M., Yamaguchi, I., and Kudo, T., A two-component hisitidine kinase of the rice blast fungus is involved in osomotic stress response and fungicide action. : Fungal Gen. Biol., 42, 200-212(2005)

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養殖魚の生産履歴情報

開示システムとは

 「養殖生産履歴情報開示システム」開発の大き な目的は,消費者の安心につながる養殖魚の安全 性をどのように確保するか,消費者に安心して養 殖魚を購入してもらうために必要な情報をどのよ うに伝えていくかを考え,それをシステムとして 養殖魚の生産に取り入れることである。第1図は, 2002年9月に読売新聞が行った消費者が農産物の 生産者に望むことのアンケート調査の結果である。 75%が安全性の向上を求めるとともに,35%の消 費者は生産情報の提供を求めていることが明らか となった。生産情報の提供については,安全性を 確認するための情報提供を求めていると考えられ る。このような消費者の意向を背景に,養殖魚生 産においても安全性確保に向けた様々な取り組み が進められてきた。その一翼を担うものが生産履 歴情報開示システムである。  養殖魚を巡っては,輸入養殖魚における抗菌性 物質の残留,養殖カンパチからのロイコマラカイ トグリーンの検出,ウナギの産地偽装などの問題 が起こった。これらの問題を振り返ると, 養殖魚のサプライチェーン全体にトレー サビリティーシステムが早く導入されて いれば,原因の究明や再発防止,産地偽 装の防止に役立っていたのではないかと 思われてならない。養殖生産履歴情報開 示システムは,フードサプライチェーン 全体におけるトレーサビリティーシステ ムの最も重要な生産段階での生産情報, 安全情報の収集,伝達に関わるものであ る。  平成15年度から平成19年度に実施され

養殖魚の生産履歴情報

開示システムの開発 

舞 田 正 志

解説

ま い た ・ ま さ し 東京水産大学水産学 部卒業。東京水産大 学大学院水産学研究 科修士課程修了。東 京水産大学助手を経 て,現在東京海洋大 学大学院教授。 専門:水族生理学 博士(水産学)

 シリーズ解説:進化する水産養殖技術(第10回・最終回)

㪇 㪈㪇 㪉㪇 㪊㪇 㪋㪇 㪌㪇 㪍㪇 㪎㪇 㪏㪇 ↢↥ᖱႎ䈱ឭଏ ቟ቯଏ⛎ ᵹㅢ⋥⚿ ୯Ბ䉕቟䈒 ຠ⾰ะ਄ ቟ోᕈ䉕㜞䉄䉎 第1図 消費者が農産物の生産者に望むこと(読売新聞,2002年9月)

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269 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 養殖魚の生産履歴情報開示システムの開発 た水産庁委託事業「養殖生産履歴情報開示検討事 業」(事業主体:マリノフォーラム21)において, ウナギ,ブリ,マダイを対象として養殖生産履歴 情報開示システムの開発とマニュアルの作成およ び実証試験を行った。平成20年3月には,生産情 報公表養殖魚の日本農林規格(養殖JAS)が制定 され,ブリで第1号の養殖JAS認定を受けた養殖 場がある。「養殖生産履歴情報開示検討事業」で 開発されたシステムは養殖JAS規格をほぼ満たす ものとなっている。

トレーサビリティー

システムの機能

 養殖魚の生産履歴情報開示システムは,食品ト レーサビリティーの生産段階での情報を消費者, あるいは食品事業者に開示する方法であるが,こ こでまず,トレーサビリティーシステムの機能に ついて考えてみる。トレーサビリティーシステム は,我が国では食品のリスク管理を行う重要な手 法の一つと位置づけられており,食品事故発生時 に問題のある製品の特定・回収を速やかに行い, 被害を最小限に食い止めるとともに,原因を究明 して再発を防止するための対策を講じるために有 効な手段である。また,マーケティングに利用し て,生産者と消費者との間の「顔の見える関係」 を構築することで商品の差別化を図る手段と考え る食品事業者も多い。さらに,トレーサビリティ ーシステムの本来の機能である流通情報の明確化 という点から考えると,偽装防止やブランドの保 護という機能も持ち合わせていると考えられる。 養殖魚の生産履歴情報開示システムは,養殖魚の 安全性に対する消費者の不安を背景に,消費者の 信頼を得るための手段として,生産者が取り組み 始めたという側面が強い。

生産履歴情報開示システム

で注意すること

 養殖魚の生産履歴情報開示システムの導入に当 たっては,注意すべき3つの大きなポイントがあ る。まず,消費者の安心につなげるために必要な 情報は何か,そのために開示すべき必須すの項目は 何か,いつでも開示できる状態にしておくべき項 目は何かという情報の仕分けである。これらの情 報の仕分けを行う際に考慮したことは,消費者が どのような情報の開示を求めているかということ と養殖魚のリスクを判断するために必要な情報は 何か(これは,言い換えると生産者が安全な養殖 魚を生産する上で管理しなければならない事項は 何か)ということである。消費者の知りたい情報 として,生産者名,抗生物質の使用状況,どのよ うな餌えさを与えたかということがあげられた。この ような情報は,安全な養殖魚の生産を行うために 生産者が管理すべき項目とほぼ一致しており,養 殖履歴情報開示システムで必要とされる情報の分 類は第1表のようになった。これらの事項は,基 本的な情報開示システムとしてウナギやブリ・マ ダイに限らず,他の養殖魚種にも適用可能である と考えられる。記録単位の“養殖池”とは飼育単 No 環記録目的薬 餌 生 帳票名 場所 帳票 記入記録単位 ① ○ 投薬記録 養殖池 通年 日 ② ○ 水産用医薬品管理簿 生産者 通年 日 ③ ○ ○ ○ ○ 飼育管理記録 養殖池 月 日 ④ ○ ○ ○ ○ 養殖日誌 生産者 日 日 ⑤ ○ 養殖池管理簿 生産者 通年 月 ⑥ ○ 養殖魚在庫推移表 生産者 月 日 ⑦ ○ 出荷作業記録 養殖池 出荷 日 ⑧ ○ 海域の環境検査 漁協 年 ⑨ ○ ○ ○ 魚体の安全検査 養殖池 出荷 ⑩ ○ ○ ○ 養殖履歴書 養殖池 出荷 第1表 記録の目的・帳票名・記録単位

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270 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 シリーズ解説:進化する水産養殖技術 位毎(養殖池や養殖生け簀す)に,“生産者”とは 生産者毎に,“漁協”とは漁協毎に作成すること を意味している。また,帳票欄の“通年”は1年 を通して記録様式に記入することを,“月”は1 カ月を単位として記録を作成することを,“出荷” は出荷時に作成することを意味している。  次に,養殖魚の生産履歴情報開示において重要 なことは,稚魚から製品になるまでの生産履歴を たどれる記録が残されていることである。したが って,通常の飼育管理や投薬の記録を飼育単位毎 に残すことはもちろん,魚の移動が明確にわかる ような記録(選別や分養に関する記録)を作成す ることが必須である。養殖生産履歴が適正に開示 されているという証拠の記録,養殖生産履歴をい つでも検証できる記録,何か問題が発生したとき に,問題があるロットをいつでも特定できる記録 が残されていることが,真に消費者の信頼,安心 につながる。これがトレーサビリティーシステム 本来の目的であるといっても過言ではない。  3つめのポイントは,出荷するときの製品の識 別である。トレーサビリティーの基本は製品の識 別と情報の結合にある。したがって,飼育履歴を 適切に消費者へ伝えるためには,製品の識別(ロ ット番号など)を確実に行うことが必要である。 養殖生産履歴情報の開示に取り組む場合には,こ れらの点に留意しなければならない。

情報開示とIT

 養殖生産履歴情報開示システムでは,情報を開 示する媒体として,携帯電話でQRコードを読み 取るか(第2図),パーソナルコンピューターで ホームページにアクセスし,製品のIDコードを 入力することによって,その製品の生産履歴を見 ることができるようなシステムになっている(第 3図)。これは,他の家畜や野菜なども同様である。 情報開示の媒体としてITを利用することは,情 報量の多さやインターネットの普及などから一般 的な方法であると言える。しかし,消費者が実際 に生産履歴を確認する方法についてアンケートを 取ってみると,パーソナルコンピューターや携帯 電話でホームページ にアクセスして確認 したのは25%にすぎ ず,大半の消費者は わざわざ生産履歴の 確認を行うことはし ていない(第4図)。 この原因の一つは, 養殖魚の生産履歴情 報開示システムの存 在について知らなか ったことがあげられ る一方で,自由意見 の中には,店頭のポ スターで履歴を確認 できる方がよいとい

HP䉝䊄䊧䉴

第2図 魚函に貼付されたラベルの例

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271 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 養殖魚の生産履歴情報開示システムの開発 うものが多かった。生鮮魚介類の購入に当たって, 消費者が重視しているのは見た目の鮮度の良さと いうことが多く,生産履歴を確認した上で購入を 判断するという段階には達していないのが現状で ある。また,購入してから自宅で履歴を確認する という手間をかけることには抵抗があるのかもし れない。  IT利用のメリットは情報量の多さと迅速性と いうことにあるが,情報量の多さが消費者の安心 につながるかといえば,必ずしもそうではないこ とがこのアンケート調査で明らかになった。とい うのは,いろいろな飼育履歴に関する情報があっ ても,それによって安全であるかどうかを判断で きないという消費者が多かったのである。先に, 消費者の知りたい情報として,生産者名,抗生物 質の使用状況,どのような餌を与えたかというこ とがあげられたと述べたが,実際には,それらの 情報から消費者が正しく判断ができるかといえば そうではなさそうである。その情報をわかる人が 安全であると判断したものだけを店頭に並べて欲 しいという意見が強かったことからすれば,生産 履歴情報に基づく,第三者による安全性の保証が 消費者の安心につながるものと考えられる。また, 飼育履歴情報には,使用した水産用医薬品の情報 も含まれているが,飼育履歴を見た消費者の中に は,「養殖魚に抗生物質を使用していることを知 らなかった。薬を使用しているのだから安全であ るとは思えない」という意見を持つ人もいた。こ のように,一般には,情報量の多さは安心感につ ながると考えがちであるが,情報を開示すること が逆に消費者に不安感を持たせる結果にもなり得 ることに注意しなければならない。このことは, 消費者が希望すれば生産履歴情報をいつでも見ら 第3図 HPと生産履歴情報の例 ៤Ꮺ㔚⹤䋨䋵䋦䋩 ⏕⹺䈚䈭䈎䈦䈢䋨䋵䋰䋦䋩 䊌䊷䉸䊅䊦䉮䊮䊏䊠䊷䉺䊷䋨䋲䋰䋦䋩 ᐫ㗡䈱䊘䉴䉺䊷 䋨䋲䋵䋦䋩 第4図 どのような方法で生産履歴を確認したか

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272 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 シリーズ解説:進化する水産養殖技術 れるようにしておくことは重要であるが,通常は 小売店までの段階で生産履歴を伝達し,製品に関 するリスクを判断する必要があることを示してい るように思われる。対消費者への情報開示にIT の利用はあまりメリットがないように思われるが, 小売店までの情報伝達という点では,メリットは 大きいと言えるかもしれない。  若手の生産者はコンピューターの取り扱いにも 長け,記録を直ちに電子媒体で作成することがで きるが,生産者の多くは必要な記録を紙ベースで 作成している。情報開示をITで行うとなれば, 誰 だれ が紙ベースの記録を電子媒体へ入力するのかが 大きな問題となっている。さらに,漁村地域は過 疎地が多く,最新のIT環境(CATV,ADSL,光 回線など)が十分整備されていないところがある。 このことが養殖生産履歴情報開示のIT利用に制 限を加える一因となっている。

生産者にとっての生産

履歴情報開示システム

 生産履歴情報を開示するためには,生産者は, 必要な情報を記録し保管する必要がある。生産者 にとっては手間のかかる作業である。「製品が高 く売れれば,このような手間をかけてもやる価値 はあるのだが」という生産者は多い。しかし,こ れまでにもいろいろな問題が起こってきたことを 考えると,高く売るためという考え方ではなく, 最低限の安全性の保証をするためという観点での 取組が必要になっている。ひとたび問題が発生し, それが報道されると,問題を起こした企業だけで はなく,その業界全体が多大な影響を受けること は,これまでに目にしてきたことである。  何らかの問題が起こった場合に,自社の製品に は問題はないことを消費者に納得してもらうため には,問題が発生した原因の究明が欠かせない。 問題が発生したことを想定したシミュレーション を行ったところ,生産履歴情報開示システムを導 入していれば,原因の究明に要する時間がかなり 短縮できることがわかった。また,自社の製品に 問題がないことを証明するときにも,このシステ ムが有効に機能することも確認している。したが って,生産者にとっての生産履歴情報開示システ ムは,問題が発生したときに自分を守るためのも のであると言えるのではなかろうか。

生産履歴情報開示

システムの問題点

 養殖魚の生産履歴情報開示システムにおいては, 製品の識別(ロット番号,製品IDなど)を確実 に行うことが必要であることを先に述べた。養殖 魚が養殖場から直接加工場に搬入され,加工して から流通する場合には,加工製品のパッケージに 製造ロット番号を記載することができる。したが って,生産履歴情報との紐ひも付けは容易である。ま た,パッケージに製造ロット番号が記載されてい れば,意図的にリパックすることさえなければ, 流通段階での偽装は起こらないであろう。第5図 は,養殖ぶりを小売店に養殖場から直接搬入して 切り身にパッキングした製品のラベルである。こ

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ID

ID

第5図 切り身のパッケージラベルの例

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273 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 養殖魚の生産履歴情報開示システムの開発 の よ う に 製 品 のIDを ラベルに記載すること ができる。  養殖魚の出荷方法に は,魚を即殺して血抜 きを行う活け〆しめ出荷と, 魚を生きたまま(出荷 する活魚出荷がある。 活け〆出荷は魚を発泡 スチロールの魚函ばこに1尾ずつ入れて氷冷するので, 第2図のように魚函にラベルを 貼ちょう付する方法で 識別することができる。しかし,活魚出荷を行う 場合には,魚にラベルを貼はることはできない。IC タグなどで識別することは可能ではあるが,1日 の出荷量が数百匹に及ぶ場合には1尾ずつタグを 装着することは難しい。台湾では,第6図に示し たようにICタグを装着した活魚水槽用コンテナ やカゴを用いて識別する試みがなされている。し かし,これらの方法は,容器の回収やコストの問 題が依然として残されている。  生鮮養殖魚の生産履歴情報の開示を進めるため には,識別可能な容器の開発と流通システムの改 善が不可欠であろう。その場合,容器の材質とし ては,衛生的で破損しにくく再利用が可能である こと,保温性に優れていること,リパックを防止 するか,リパックを感知できる構造を持つことな ど品質保持と偽装防止を目的としたいくつかの規 格を満たすとともに,コスト面への配慮も必要に なるであろう。

生産履歴情報開示システム

と消費者の安心

 養殖魚の生産履歴情報開示システム開発の目的 の一つは,消費者に養殖魚の生産に関する情報を 開示することで,安心して養殖魚を食べてもらう ということにある。開示している個々の生産情報 は,どのような餌を与えたか,どのような薬を投 与したか等を知りたいという消費者の声を反映し たものとなっている。しかしながら,消費者への アンケート調査の結果から,それらの情報を開示 することによって消費者自身に判断を求めること が難しいことがわかってきた。つまり,情報の開 示は必ずしも消費者の安心にはつながらないとい うことである。それでは,生産履歴情報開示シス テムが意味のないことであるかといえばそうでは ない。このようなシステムを導入し,いつでも情 報を開示できる状態にしていることが消費者の信 頼につながることは間違いない。また,何か問題 が起こった時には原因を速やかに特定し,それに 対する対策を取れるということが消費者の安心に つながると考えられる。その意味では,このよう な生産履歴情報の開示は,今後も積極的に普及さ せる必要があるし,それをサポートする様々な技 術開発も続けていくことが求められている。特に, 産地偽装の防止にはトレーサビリティーシステム を有効に活用することが必要である。そのために は,いかに生鮮魚介類を識別するかが重要な課題 であり,識別方法に容器の工夫が大きな位置を占 めていると考えられる。 第6図 ICタグが装着されたカゴや活魚輸送用コンテナ

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274 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5   日 本 と ア メ リ カ が 戦 っ た 昭 和16年 か ら20年 (1941∼1945)の太平洋戦争の前のことですから, もう60年以上も昔の少年時代の思い出です。    私が子供のころ育った家は東京の南西部の目黒 区にありました。工業大学の2kmぐらい西で, 大学の本部があるあたりとの中間には,北から南 に流れる小さな川をはさんで,ささやかな住宅地 と畑地とが広がっていました。  私の家も高台にあり,工業大学の本部の時計台 も高台にあったので,晴れた日の夕方になると私 の家の二階のベランダから,目め じ路はるか夕日に映 える時計台を眺めることができました。  私の家から工業大学の方へ行くとすると,高台 から東にだんだんおりてまだ川までさがりきらな いあたりに,五い つ ま た叉路があってその角のひとつ西北 向きの角に飲食店がありました。その店での外食 (外食という用語はまだなかったと思いますが) が私の憶えている最初の外食です。私がまだ自転 車にのれず,練習していた小学校の5年の夏休み だったと思います。  今では男の子でも女の子でも小学校に上がる前 から自転車にのれるのが当たりまえですから,「よ ほど運動神経がにぶいのでは?」と思われてしま うでしょう。確かにそれは認めないわけでもない のですが,もうひとつ理由があります。つまり現 在のような補助車輪がついた子供用の小型自転車 が,私の遊び仲間の間にはなかったからです。私 の家ももちろんですが,子供用の自転車を買って もらえるほど裕福な家は戦前のその頃はほとんど なかったので,いきなり大人用の自転車に横乗り するより仕方がなかったからです。  それで夏休みの朝の11時頃だったと思います。 家に時どき自転車でご用聞きに来ていた薬屋さん が,後ろにのるように誘いました。そこで私は後 部の荷台にまたがって,薬屋さんのご用聞きにつ いて廻りました。そして昼食時になって,さきほ どの五叉路の飲食店に立ち寄り,ソバをおごって もらったわけです。その頃の小学生はお小遣いを 持っていないのが普通でしたから。その時のソバ はものすごく美お い味しかったように憶えています。 おそらく五目ソバだったろうと思います。  〈五目そば:①かけそばの上にゆで卵やなると, さやインゲンなどを彩りよく盛ったそば,具は5 種とは限らず,たくさんという意味で,3種,7 種のこともある。②種々の具をのせた五目中華そ ば,什錦湯麺(シージヌ・タヌミエヌ)のこと。〉 (『丸善食品総合辞典』・平成10年)  このうちの②の五目中華そばだったろうと思い います。私にとっては,この美味で感激した五目 中華ソバが最初の記憶に残っている外食体験だっ たということです。  ところで話は変わりますが,どういうわけか,

外食の思い出と夢の話

―偶然と必然―

食べもの随想 

 村

むら

 真

しん

ぱち

ろう (元農水省食品総合研究所所長)

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275 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5 この飲食店から東にさらに下がって小川を渡って, 対岸の高台に上がったあたりの夢をよく見ます。  現実にはそのあたりは工業大学の北側の高級住 宅地なのですが,夢の中では広い原っぱのように なっています。多くの夢の場合その原っぱの中に 研究所のような建物が立っています。私が勤務し ていた食品研究所くらいの大きさのコンクリート の4,5階のビルディングです。もちろん夢の中 でそう了解しているだけですから,食品研究所に は現実にはなかった食堂が夢の中のビルディング にはあって,それは大体,1階の西南側の隅でか なり広い面積を持っています。  私はたいがいその食堂でカレーライスを食べる のですが,1m×3mほどのテーブルがいくつも あって,すでにご飯にカレーのかけてあるお皿が 数十枚ほど並んでいます。私は食べものの研究者 だったのですが,そのせいか時どき夢の中でカレ ーについて,すばらしいヒントに気がついたと思 ったことがあります。しかし残念なことに夢から さめてみると役に立ったような経験は1度もあり ませんでした。  しかしご存じの方が多いと思いますが,科学技 術史の中では,夢からすばらしいヒント・着想を 掴んだ実例があります。つまり,ベンゼン環,い わゆるカメノコの構造を突きとめたドイツの化学 者,アウグスト・ケクレ(1829∼1896)が夢から 得たとされるヒントです。ケクレはベンゼン環の 六角の炭素原子6コの環状構造をヘビが自分のシ ッポを食わえてグルグル廻っている夢を見て思い ついたということです。  19世紀の後半に有機化合物(炭素化合物)の構 造理論の基礎を考えた,ケクレがベンゼン環の構 造を思いついたイキサツについては,『化学を築 いた人々』(原光雄・中央公論社)によれば以下 のようです。  〈・・・ケクレは,1890年のケクレ祭での講演 の中でこれらの着想の起源について,次のような 思い出を語っている。これは重要な仮説の提唱者 自身が,その着想経路を語ったものとして,歴史 的に意義深いものである。・・・後半部はベンゼ ン核の着想についてである・・・。  「・・・(ある夜)私は・・・教科書の著述をや っていましたが,仕事がうまく運びませんでした。 ・・・私はイスを暖炉の方へ廻転して,うたたね をしました。私の眼前ではまたもや原子がめまぐ るしく動いていました。・・・この種の幻覚をた びたび見て鋭敏になった私の心眼は,さまざまな 形や群像を見分けました。たびたび濃密に結集す る長い列。すべては蛇のようにからみあい,廻転 しつつ運動している。ところで,あれは何だろう?  蛇のうちの一匹が自分自身の尻尾をくわえて, その像が私の眼前で,あざ笑うように旋回してい るのです。私はまるで電光にうたれたように目覚 めました。そしてこんどもまた,この仮説の帰結 を仕上げるために,その夜の残りを費やしたので した。」〉  〈また,前掲の思い出話を語った後で,「皆さん, 私たちは夢みることを学びましょう。そうすれば おそらく真理を発見するでしょう。・・・だが, 私たちの夢を目覚めた理性でもって検討する前に それを発表することは,つつしみましょう」とも のべている。〉  ケクレの夢の話とは全く異質な夢の研究が,ケ クレより少しおくれて,オーストリアの医者,ジ ーグムント・フロイト(1856∼1939)により発表 されました。フロイトが夢の研究を始めたのは, いつも熱心に見た夢の話をする患者がいたからだ そうです。この患者がフロイトのところに来たと いう偶然がなければ,無意識の心理過程の研究へ のキッカケが得られなかったのかもしれません。  「偶然を媒介として必然が結果する」は真実だ と思いますが,偶然はいつ起こるかわかりません。 いずれ夢を研究対象にすることは近代科学の必然 だったでしょう。しかし,この必然性のキッカケ を与えた偶然が百数十年前にフロイトという心理 学者の巨人のところで起こったことを喜ばずには おられません。もしこの偶然が百年前ではなく百 年後に起こるとしたら,人類はいまだに,人類の 文化にも文明にもきわめて実りの多い夢の研究へ のキッカケを掴んでいなかったのかも知れません から。

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276 食 品 と 容 器 2009 VOL. 50 NO. 5  氷河が溶け出しているという環境破壊に対する 懸念が今日の金融危機克服の切り札として持ち出 されてきているが,今,色々な食品工場で再生可 能エネルギーの活用が進みつつありグリーン革命 がこれから進行してゆくことになる。  新しく工場を建設した一連の食品会社が米国グ リーンビルディング審議会による環境改善貢献度 レーティング制度LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)の認証を取得すること により環境対策を実施している企業としての信認 をより強固なものにしているが,環境保護への対 応は工場新設プロジェクトだけに留まらない。ス ナック類を製造するFrito-Lay社がアリゾナの砂 漠地帯で取り組むプロジェクト“ネット・ゼロ” の第1段階はメンブレンバイオリアクター(MBR= 膜分離活性汚泥法)により工場排水の75∼90%を ろ過して再利用しようとするもので,この浄化装 置が2009年第3四半期までに稼動開始することに なっている。Frito-Lay社は1999年に単位生産量当 たりの水,ガス,電力使用量を削減する計画を開 始した。その結果,2007年末までに水使用量が38 %,ガス使用量が29%,電力使用量が22%減少し, これを受けて,同社ではさらに水と電力の使用量 を90%,天然ガスの使用量を80%削減するという より高い目標に取り組むこととなった。これは過 去9年間にFrito-Lay社の37工場に導入されたエネ ルギーを回収し無駄を少なくする技術とアリゾナ 州カーサ・グランデの最先端の技術とを組み合わ せた取り組みとなる。MBRのパイロットプラント で浄化した水は米国環境保護庁(EPA)の食品調 理用水の基準を満たすことが既に確認されている。  “ネット・ゼロ“プロジェクト第2段階では二 次生成物を利用して嫌気性微生物を送り込み嫌気 分解により発生させたメタンガスを工場のボイラ ー用燃料として利用する。また,MBR方式の採 用で不要となった100エーカーのこれまで排水を 散布していた土地の約半分にパラボラ型集光器を 設置して反射光で水を260℃まで加熱,加圧して 蒸気にする計画もある。  太陽光エネルギー  一方,Ausra Inc.はカリフォルニア州ベーカー ズフィールドで小型リニアーフレネル反射装置 (CLFR)と称する一連のパラボラ型集光器を設置 し,5ギガワットのタービンを稼動させるという 野心的なプロジェクトに取り組んでいる。この装 置は曲面ミラーでボイラーチューブに太陽光の焦 点を合わせチューブを直接加熱するもので天然ガ スをボイラーの燃料とするよりも高い効率が得ら れると言う。10エーカーの敷地に設置するCLFRパ ネルがスチームエネルギー換算で年間700億BTU (British thermal unit:1ポンドの水の温度を1゜ Fあげるに必要なエネルギー:約252カロリーに相 当)の熱量を生み出しボイラーで同じ量のスチー ムを発生させるのに必要な90兆BTUの天然ガスを 置き換えるのに十分な能力があるとAusra社は推 定している。循環する水の量を変化させることで 約150∼260℃の範囲での温度設定が可能で温水を 断熱タンクに貯蔵することにより工場の温水・ス チームの必要量の1/3を賄えると言う。  全米で2番目に太陽光の活用に力を入れている ニュージャージー州はソーラーパネルの設置を助 成しており,2021年までには電力需要の2.1%を 太陽光発電で賄うようにしたいとしている。  Advanced Food System Inc.は同州の助成金を 受けて工場に2,500基のソーラーパネル設置した が,そのコストを約5年間で回収すべく計画して

食品工場と再生可能エネルギー

( )40( 08・11) 文献 №5440

参照

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