DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.37.8
共感覚と音象徴からのぞく
認知処理間の潜在的な結びつき
浅 野 倫 子
立教大学現代心理学部Implicit joining of apparently disjoint
perceptual-cognitive processing types:
Synesthesia and sound symbolism
Michiko Asano
Department of Psychology, College of Contemporary Psychology, Rikkyo University
This article examines two types of nonarbitrary correspondences between apparently disconnected perceptual-cognitive entities̶synesthesia and sound symbolism̶the latter of which is a kind of crossmodal correspondence. First, the article describes the basic characteristics of these phenomena along with the similarities and differences between them. While both synesthesia and sound symbolism are intriguing matchings between different domains that are consistent over time, they differ in terms of their prevalence (rare vs. frequent) and idiosyncrasy (idiosyn-cratic vs. widely shared across individuals), and whether the concurrent is consciously experienced (conscious vs. not necessarily conscious). Although the similarities are often emphasized, the differences should never be neglected in the exploration of the underlying mechanisms of these phenomena. This article further discusses recent advances in these research fields, especially those showing a close relationship between language development and each of the two phenomena. Studies on synesthesia and sound symbolism should provide new insights into cognitive language processing.
Keywords: synesthesia, sound symbolism, crossmodal correspondence, language development
認知処理間の潜在的な結びつき 認知処理はさまざまなモジュールに分かれて行われて いることが知られる一方で,それらの一見独立なモ ジュールの処理間に結びつきが見られることもある(本 稿では「結びつき」という言葉を,相互作用や統合的な 処理,対応関係の検出のすべてを包括的に指すものとし て扱う)。例えば複数の感覚モダリティへの入力がある とき,それらの情報が時間的または空間的に近接してい たり(Spence & Driver, 2004),意味的に整合していたり すると(Chen & Spence, 2010),感覚モダリティ,そして 認知処理モジュールの垣根を越えた統合的な処理が生じ やすいことが知られている。 異なるモジュール間での認知処理の結びつきは,複数 の感覚モダリティに刺激入力がなされていないときでも 生じうる。たとえば明るい色の物体と暗い色の物体を目 の前にして,どちらのほうが高音を発しそうかと尋ねら れたとき,多くの人は直感的に「明るいほう」と答える のではないだろうか。また,丸みを帯びた図形と尖った 図形があるとき,丸みを帯びたほうに「マルーマ」,尖っ たほうに「タケテ」と名付けるほうが,その逆よりも しっくりくると感じる人は多いだろう。ウサギが跳ねて いる姿は,実際にそのような音はしていないにもかかわ らず,「ぴょんぴょん」という言語音で表すのがよく合っ ていると感じられる。中には,ひとつひとつの文字に特 定の色があると感じる人(例:「基」に薄い黄褐色の印象 を覚える),音楽に色や形があると感じる人(例: トラ ンペットの音は青く,やや厚みのある板のような形), Copyright 2018. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Psychology, College
of Contemporary Psychology, Rikkyo University, 1–2–26 Kitano, Niiza-shi, Saitama 352–8558, Japan. E-mail: asano@ rikkyo.ac.jp
数字に特定の空間配置があると感じる人(例: 1から10 までが時計回りに並び,11から左奥方向に伸びていく) もいるかもしれない。詳しくは後述するが,最初の三つ は感覚間協応(crossmodal correspondence)の例であり, 特に二つ目と三つ目のような言語音のイメージに関する ものは音象徴(sound symbolism)と呼ばれる。後の三つ は共感覚(synesthesia)の例である。これらはいずれも, 異なるモダリティの認知処理間に自然と対応関係が見い だされる,しかもそれが,実際に時空間的に近接,また は意味的に一致した複数の情報入力が与えられていなく ても生じるという点で,認知処理間の潜在的な結びつき の存在を示していると考えられる。本稿ではまず,これ らの現象の基本的性質を,それぞれの関係を整理しつつ 説明し,それから近年の知見を紹介する。現象それ自体 のメカニズムの模索だけでなく,他の認知機能,特に言 語処理や言語発達とのかかわりにも注目する。 共感覚と感覚間協応,音象徴 共感覚とは 共感覚とは,ある情報入力により,一般的に喚起され る感覚や認知処理に加えて,別種の感覚や認知処理も喚 起される現象をいう。たとえば文字を見ると,一般的な 文字の認知処理がなされるのに加えて,特定の色の印象 が生じる(例:「基」という文字に薄い黄褐色の印象を 覚える)などである。感覚を引き起こす刺激(直前の例 では文字)のことを誘因刺激(inducer),共感覚として 生起する感覚や認知処理(同,色)のことを励起感覚 (concurrent)と呼ぶ。誘因刺激と励起感覚の組み合わせ は多岐にわたり,報告例が多いものとしては文字や数字 に色を感じる(色字共感覚,Figure 1),音に色を感じる (色聴共感覚),数字に特定の空間配置を感じる(数型共 感覚),曜日や一年の月に色を感じる,味に形を感じる などが挙げられる(Ward, 2013)。これら以外にも,ク ロールや平泳ぎといった水泳の型に特定の色を感じる共 感覚など(Rothen et al., 2013),実にさまざまな共感覚の 存在が報告されている。中でも特に研究が進んでいるの が色字共感覚である。「共感覚」という現象名は,異な る「感覚」間の結びつきであるという印象を与えやすい が,必ずしも感覚モダリティをまたぐ必要はない。たと えば色字共感覚では誘因刺激(文字)も励起感覚(色) も視覚に属する。また,色のような「感覚」だけでなく, より高次の概念なども誘因刺激や励起感覚になりうる (例: 個々の数字に性別やパーソナリティがあるように 感じる,ハ長調やホ短調といった調性に色を感じる)。 共感覚者は共感覚の内容が物理的には存在しないことを わかっており,また,励起感覚によって誘因刺激自体の 処理が阻害されるわけでもないことから(例: 色字共感 覚があっても,文字の物理的な色が見えなくなったり, 物理色と共感覚色の混色が生じたりすることはない), 共感覚は妄想や病気とも異なる。 共感覚を持つ人,すなわち共感覚者(synesthete)は 少数であることが知られている。共感覚を持っていて も,周囲の偏見を恐れてそのことを他人に話さなかった り,そもそも自分の感覚が珍しいものだと気づいていな かったりする人も多いため(大人になってから周囲の人 は文字に色を感じないことを知って驚く色字共感覚者は 多い),正確な人口比率の推定は困難だが,イギリスで 行われた大規模調査では,色字共感覚を持つ人は一般人 口の 1.4%, さまざまな種類を合わせると4.4%程度だと 推定されている(Simner et al., 2006)。複数の共感覚を併 せ持つ人もいる。共感覚者は幼少期から共感覚を持つ (Simner, Harrold, Creed, Monro, & Foulkes, 2009)。共感覚 には遺伝の影響があることも指摘されている(Ward, 2013)。 上述のとおり,共感覚は多様な形をとる現象であり, 定義のしかたについては研究者間でも議論があるが (Simner, 2012),基本的特徴として考えられているもの がいくつか存在する。特に重視されることが多いのが誘 因刺激と励起感覚の組み合わせの時間的安定性である。 これはたとえば,「基」という字に薄い黄褐色の印象を 覚える人であれば,「基」には基本的にいつでもその色 を感じ,他の色に揺らがないということである。時間的 安定性の高さは,その人が本当に共感覚者であるかどう かの一般的な判別基準となっている(Baron-Cohen, Wyke,
& Binnie, 1987; Eagleman, Kagan, Nelson, Sagaram, & Sarma, 2007; Simner et al., 2006)。また,誘因刺激と励起感覚の 組み合わせの個人差の大きさ,すなわち個人特異性も, 共感覚の主要な特徴の1つである(Simner, 2007)。たと えば色字共感覚の場合,各文字に具体的にどの色を感じ るかは共感覚者によって大きく異なる(Figure 1)。ま た,励起感覚が自動的かつ意識に上る形で経験されると いう特徴もある(Ward, 2013)。 感覚間協応,音象徴とは 感覚間協応は大まかに,異なる特徴情報間の非恣意的 な結びつきであると定義されることが多い(Spence, 2011)。一般的に感覚間協応として分類される「非恣意 的な結びつき」は多岐にわたり,例を挙げると,音の大 きさと光の明るさの対応関係(大きな音–明るい,小さ な音–暗い,という対応づけがなされやすい),音の高さ と視覚的な大きさ(高音–小さい,低音–大きい),音の 高さと空間的な高さ(高音–高い位置,低音–低い位置), 特定の言語音(母音,子音,もしくはそれらを組み合わ せた音素列)と何らかの感覚的イメージとの間の対応関 係(詳しくは次の段落で述べる)などが該当する。ここ に挙げた感覚特徴のほかにも,色,形,動き,匂い,感 情など,さまざまな情報に関する感覚間協応の研究がな されている(大山,2011)。現象の呼び方も研究によっ てまちまちであり,日本語の場合は「感覚間協応」のほ か,「通様相性現象」「モダリティ間現象」「共感覚的認 知」などと称されることもある。英語でも同様で,本稿 で採用しているcrossmodal correspondencesという呼称の ほか,synesthetic correspondences, crossmodal equivalences, crossmodal similaritiesなど,さまざまな名前で呼ばれる (Spence, 2011)。 感覚間協応の中でも,言語音と何らかの感覚的イメー ジの間の恣意的な結びつきは音象徴,もしくは語音象徴 と呼ばれる。例として,/a/の母音は視覚的に大きいも のの印象,/i/の母音は小さいものの印象を与える(Sapir, 1929),「マルーマ」や「ブーバ」という非単語は丸みを 帯び,「タケテ」や「キキ」という非単語は尖った印象 を与える(ブーバ・キキ効果,Köhler, 1929/1947;
Ram-achandran & Hubbard, 2001)といった傾向が幅広い言語 圏でみられることが知られている(Imai & Kita, 2014)。 これらのような視覚的な大きさや視覚的(あるいは触覚 的)形状以外にも,質感や動きなどさまざまな感覚的イ メージが言語音と対応づけられ,「とげとげ」「さらさら」 「ぴょんぴょん」といったオノマトペ(擬音語,擬態語) や,「静かな気分」のような一部の比喩表現(「共感覚比 喩」楠見・米田,2007; 「共感覚的表現」矢口,2011)の 基盤を成していると考えられる。 音象徴を含む感覚間協応の特徴として,基本的に人間 一般に広くみられ,個人差が少ないことが知られてい る。たとえば音の高さと視覚的な明るさの感覚間協応 は,4歳の子どもでも,大人でも,8割以上の人が「高 音–明るい,低音–暗い」という対応づけをすることが知 られている(Marks, Hammeal, Bornstein, & Smith, 1987)。 ブーバ・キキ効果も,95%の人が同様の,「ブーバ」は 丸く,「キキ」は尖っているという反応をすることが報 告されている(Ramachandran & Hubbard, 2001)。感覚間 協応は時間的安定性も高く(Spence, 2011),また,潜在 的連合テスト(implicit association test, IAT)のように, 特徴情報間の対応関係の良し悪しを参加者に明示的に判 断させない課題であっても頑健に検出される(Parise & Spence, 2012)。 共感覚と感覚間協応,音象徴の類似点と相違点 共感覚と感覚間協応(音象徴を含む)はいずれも,異 なる感覚・認知情報処理間の潜在的な結びつきであると いう点や,時間的安定性が高いという点が共通している。 「一見無関係な情報間に自然とつながりが感じられる」と いう現象そのものが面白く感じられ,多くの人の興味を 引くという点でも似ており,これら二つの現象はしばし ば同種のものとして扱われる。このことは感覚間協応が 「共感覚的(synesthetic)」な認知と形容される場面が多々 あることからも伺える(楠見・米田,2007; Marks et al., 1987; 大 山,2011; Ramachandran & Hubbard, 2001; 矢 口, 2011)。両者をひとまとまりの現象としてとらえ,感覚間 協応を「弱い共感覚」,共感覚者と呼ばれる人々が持つ共 感覚を「強い共感覚」と位置づける立場もある(Marks et al., 1987; Ramachandran & Hubbard, 2001)。
しかし,共感覚と感覚間協応には大きな相違点も多々 存在する。まず,共感覚は数%の人しか持たないのに対 し(Simner et al., 2006),感覚間協応は多くの人が持つ認 知処理特性である(Marks et al., 1987; Ramachandran & Hubbard, 2001)。また,共感覚では誘因刺激と励起感覚 の具体的な対応関係に大きな個人特異性があるのに対し (Simner, 2007),感覚間協応は個人差が少ない(Marks et
al., 1987; Ramachandran & Hubbard, 2001)。さらに,引き 起こされる感覚がどのくらい意識に上るかにおいても両 者は異なる。共感覚では,励起感覚は自動的かつ意識的 な体験を伴うことが指摘されている。たとえば色字共感 覚者は文字を見たときに,誰かに色のことを考えるよう に指示されていなくても,(物理的には存在しないこと
は理解しているものの)実際に外界にある文字の付近, または,頭の中にある色を見ているのに近い印象を覚え る1と報告する(Skelton, Ludwig, & Mohr, 2009)。一方, 感覚間協応は必ずしも意識的な感覚を伴わない(Deroy & Spence, 2013)。たとえば/a/という母音を聞くたびに, 何か大きなものを見ているかのような視覚的イメージが 自動的に意識に上るという人は少ないだろう。 以上のように,共感覚と感覚間協応の間には類似性が 存在し,しばしばその側面が強調されるが,大きな相違 点 も い く つ も 存 在 す る(同 様 の 議 論 と し て Deroy & Spence, 2013)。両者のメカニズムを明らかにするうえで は,そのような相違点は決して無視してはならないもの である。両者は基本的には別のものでありながら部分的 に重なりを持っている,という可能性も考えられる。た とえば楽器音の一音一音に色を感じるタイプの色聴共感 覚では,音の高低と視覚的な明るさの感覚間協応の一般 的な傾向と同様に,高い音ほど明るく,低い音ほど暗い 色が対応づけられやすい(Ward, Huckstep, & Tsakanikos, 2006)。人間の認知処理間の潜在的な結びつきの全貌を 明らかにするためには,共感覚と感覚間協応の類似点と 相違点の両方に着目し,両者の関係を見極めることが重 要であると考えられる。 近年の研究動向 基礎的メカニズムの模索 共感覚も,音象徴を含む感覚間協応も,研究の歴史は 長い。19世紀末には多数の共感覚者を対象にした共感 覚の実験心理学的研究が盛んに行われていた(Jewanski, 2013)。音象徴の古典的研究であるSapirやKöhlerの論文 はいずれも1929年に出版されている(Köhler, 1929/1947; Sapir, 1929)。いずれの研究もその後一度下火になった が,近年再び盛り上がりを見せており,共感覚研究に関 しては「ルネッサンス」と呼ばれる状況になっている。 しかし,そのような研究の蓄積がなされてきたにもかか わらず,どちらの現象も基礎的メカニズムの全容の解明 には依然遠い状態である。その大きな理由として,いず れも複雑な現象であることが挙げられる。 共感覚のメカニズムを推定するとき,もっとも単純な 可能性として考えられるのは,異なる2種類の情報処理 に携わる脳領域間が何らかの事情でつながり,情報処理 の「混線」が生じるというものだろう。特に色字共感覚 の場合は,文字の視覚的形状と色の処理には側頭葉にあ る紡錘状回の隣り合った領域が深く関与していることか ら,このような「混線」説は魅力的に思える(Ramach-andran & Hubbard, 2001)。しかし,色字共感覚以外の共 感覚が,誘因刺激と励起感覚の処理領域が脳内で「混 線」を起こせるほど近接しているものばかりとは考えに くい。また,色字共感覚であっても,実際は,文字の視 覚情報処理を超えた,音韻や意味概念などのより高次な 情報の処理が介在していることが明らかになってきてい る。たとえば日本語の共感覚では,対応するひらがなと カタカナ(例:「あ」と「ア」)や同音異義文字(例:「視」 「詩」「史」)など同じ音韻を表す文字には,視覚的形状 は互いに異なるにもかかわらず,似た色(共感覚色)を 感じる共感覚者が多い。このことから,共感覚色は, (文字によっては)単なる文字の形状ではなく,音韻情
報に依存してつけられることがわかる(Asano & Yokosa-wa, 2011, 2012, 2013)。また,対応するアラビア数字と漢 数字(例「5」と「五」)のように同じ概念を表す文字に は似た共感覚色が結び付けられやすかったり,「竹」と いう字には竹らしい色,「血」という字には血のような 暗めの赤のように,典型色を持つ事物を表す漢字には意 味通りの色が結び付けられやすかったりすることから, 文字の意味概念の情報も共感覚色の規定因になりうる (Asano & Yokosawa, 2012)。これらの研究結果からも,色 字共感覚に文字処理領域と色処理領域の「混線」のよう な単純な図式が当てはまらないことがわかる。むしろ色 字共感覚は言語処理と密接な関係にあると考えられる (Asano & Yokosawa, 2011, 2012, 2013; Simner, 2007)。
感覚間協応も,本稿の冒頭で述べた通り,多種多様な 「異なる特徴情報間の非恣意的な結びつき」を大まかに まとめたものであり,それらに共通するメカニズムの推 定は容易ではない。現状でひとくちに感覚間協応として みなされている協応関係の中には基盤メカニズムが異な るものが混在していると考えられ,Spence (2011) はそ れらを分類して検討することを提唱している。 音象徴に的を絞っても話は簡単ではない。なぜ「ブー バ」という言語音は丸みを帯びた印象を与え,「キキ」 は尖った印象を与えるのかということについて,Ram-achandran と Hubbard (2001) は発音するときの口の形 (「ブーバ」と発音するときには唇を丸め,「キキ」と発 音するときには唇を薄く横に引き伸ばす)が関係してい るのではないかと推測的に述べている。母音と視覚的な 形状や大きさの音象徴についての最近の研究では,第2 1 色字共感覚における励起感覚の色(共感覚色)の定 位位置は,色字共感覚者によって異なる。大きく は,共感覚色が外界の文字の付近にあるように感じ られる投射型(projector)と,頭の中に色が浮かぶ ように感じられる連想型(associator)に二分される (Skelton, Ludwig, & Mohr, 2009)。
フォルマントの周波数が高い母音ほど尖った印象をもた らすことや,第2フォルマント周波数が低いとき,第1 フォルマント周波数が高い母音ほど大きい印象をもたら すことが明らかにされている(Knoeferle, Li, Maggioni, & Spence, 2017)。第2フォルマント周波数が高い母音には /i/や/e/のように唇を薄く引き伸ばして発音する母音が 該当し,第 2 フォルマント周波数が低く,かつ,第 1 フォルマント周波数が高い母音には/a/のように口を大 きく開ける母音が該当することから,Knoeferleらの研究 結果は RamachandranとHubbardの仮説と整合する。し かし,音象徴には湿り気(例:「さらさら」「べとべと」) や光 沢 感(例:「つ や つ や」「き ら き ら」), 動 き(例: 「ぴょんぴょん」「ふらり」)など,唇の形状だけで表す のは難しいものも多く,このような発音時の唇の形状で 説明できるものは一部にすぎない。有声音子音は大きく 重たい印象をもたらし,無声音子音は小さく軽い印象を もたらすなど(Imai, Kita, Nagumo, & Okada, 2008),音声 の音響的特徴の関与も指摘されており,さまざまな要因 を考慮する必要があると考えられる(Imai & Kita, 2014)。 また音象徴には,ブーバ・キキ効果のように言語圏を問 わず広く観察されるものがある一方で,特定の言語でし か通用しないものもあることに注意が必要である(Imai & Kita, 2014; 薛・郷原・佐々木・山田,2017)。そのよう な言語依存的な音象徴の存在は,音象徴には唇の形や音 響的特性といった表面的に検出可能な特徴情報だけでな く,その言語文化圏における経験や,語彙や音韻体系な どの要因も関わることを示唆する。 認知処理間の潜在的な結びつきがもたらす作用 前節で述べた基礎的なメカニズムの模索に加えて,近 年では,音象徴や共感覚が他の認知処理とどのように関 わるかを調べた研究も面白い展開を見せている。音象徴 を含む言葉であるオノマトペは,言葉という記号的な存 在でありながら,音象徴を含まない一般的な言葉よりも 「感覚に根差した言葉」であると考えられる。一般的に 言葉とは,音と意味とが恣意的に結び付けられた記号で ある(de Saussure, 1916 Baskin英訳 2011)。たとえば「り んご」という言語音列(音の響き)自体には,あのみず みずしくて甘酸っぱい,赤い(時には緑色や黄色の)丸 い果物を思わせるような情報は含まれていない。このこ とは,同じ果物を,他の言語では“apple”,“pomme” など,まったく異なる言語音列で呼ぶことからもわか る。しかし「ぴょんぴょん」や「ブーバ」といった音象 徴が含まれる言葉の場合は,言語音列自体が何らかの知 覚的イメージと非恣意的に結びつき,跳ねる動きや丸み を帯びた形を直感的に連想させる。機能的核磁気共鳴画 像法(fMRI)を用いた研究でも,一般的に言語音の処 理は左半球優位であるのに対し,オノマトペの処理で は,環境音など非言語的な音の処理に強く反応すること が知られる右上側頭溝が重要な役割を担っていることが 示 さ れ て お り(Kanero, Imai, Okuda, Okada, & Matsuda, 2014),オノマトペは一般的な(非オノマトペの)語に 比べると,より「感覚的」に処理されている可能性があ る。このような音象徴を含む言葉の「感覚に根差してい る」という性質は近年多くの研究者の関心を引き,それ がさまざまな認知処理にもたらす作用についての研究が 行われている。 たとえば薛らの研究では,画像に「べとべと」という オノマトペを添えると,画像の湿り気の印象や嫌悪感が 増すことが報告されている(薛ら,2017)。また,Goba-raらの研究では,画面上を動く物体が停止するタイミン グに合わせて「ピタリ」というオノマトペ音声を添える と,「ビュン」のような停止動作に合わないオノマトペ や,「ニサヒ」のような音象徴を持たない無意味語音声 を添えたときよりも停止位置の判断が正確になる(そし て,「ピタリ」のかわりに「停止」という非オノマトペ を用いても促進効果は見られない)ことが示されている (Gobara, Yamada, & Miura, 2016)。これらの研究結果は,
オノマトペ(音象徴)が質感や運動位置などの知覚的な 処理に作用することを示している。応用的視点に立った 研究もなされている。一般的に,材質の質感(木や金属 といったさまざまな材質の手触りなど)の微妙な違いを 言葉で言い表すのは難しいが,オノマトペを用いて表現 させると材質の特性(粗さ,硬さ,湿り気,高級感な ど)によって異なるタイプのオノマトペが対応づけられ ることが示されており,購買行動場面で消費者がどのよ うな質感の商品を求めているかの把握などに役立つと期 待されている(早川・松井・渡邊,2010; 權・吉野・高 佐原・中内・ 坂本,2017)。 言語発達との関わり 先述のように,言葉とは基本的には言語音と意味概念 が恣意的に結びついたものである(de Saussure, 1916 Baskin英訳 2011)。大人は何万もの語彙を身につけてい るが,最初に言葉の意味(語意)を学習しようとする乳 幼児にとっては,そのような恣意的に結びついた言語音 と意味概念のペアを覚えるという作業は一苦労だろう。 なにしろ,でたらめとしか思えない結び付けられかたを した情報のペアを覚えなければならないのである。乳幼 児はどのようにして,この困難な作業を乗り越えるのだ
ろうか。
乳幼児が語意学習の際に活用する情報にはさまざまな
ものがあるが(今井・佐治編,2014),そのひとつとし
て近年,音象徴の役割が注目されている(Imai & Kita, 2014)。音象徴を含むオノマトペのような語では言語音 と意味のつながりが非恣意的であり,そのことが,乳幼 児が新しく聞いた言葉(言語音列)を意味概念に結び付 ける際の助けになるという考え方である。実際,2∼3 歳児に新奇な動詞を学習させるという実験では,音象徴 が学習を促進することが知られている(Imai et al., 2008; Kantartzis, Imai, & Kita, 2011)。この年齢の幼児にとって 動詞の学習は難しいものであり,ある人物が行った動作 に結び付ける形で新奇動詞を学習したとしても,別の人 物が同じ動作をしている場面に同じ動詞を汎化して使用 することができなかったりする。しかし新奇動詞が動作 と音象徴の観点から適合的であれば(例: すり足で重々 しくゆっくり歩く動作に対して「のすのす」という新奇 動詞を対応づける),そのような汎化が可能な形で新奇 動詞が学習されやすくなるのである。新奇動詞が動きに 合った音象徴を含んでいることで,その動詞の指示内容 が,動作主や場面の違いによらない動作そのものである ということを把握しやすくなると考えられる(Imai et al., 2008; Imai & Kita, 2014; Kantartzis et al., 2011)。日常場面に おいても,養育者が乳幼児に対する話しかけの中でオノ マトペを多用することや(Toda, Fogel, & Kawai, 1990),
幼児はオノマトペを多く発すること(D’Odorico,
Carub-bi, Salerni, & Calvo, 2001)が知られており,音象徴が乳 幼児の語意学習を助けるという考え方に整合的である。 音象徴が乳幼児の語意学習を促進するためには,乳幼 児が大人と同じように音象徴に対する感受性を持ってい る必要がある。ではその感受性はどのくらい早期から存 在するのだろうか。行動実験では,生後4か月児の時点 ですでに,大人と同じような母音と視覚的な大きさの対 応づけ(/a/̶大きい,/i/̶小さいなど)や(Peña, Mehler, & Nespor, 2011),ブーバ・キキ効果(Ozturk, Krehm, & Vouloumanos, 2013)が生じることが示唆されている。さ らに言葉を発するようになる直前の時期にあたる11か 月児を対象とした脳波測定実験では,11か月児がブー バ・キキ効果を示すこと,特に,音象徴的に不適合な新 奇音声と新奇図形の組み合わせ(例:「モマ」という音 声+尖った図形)が提示された場合は,事象関連電位 (ERP)のN400波形の振幅が増大することが示された (Asano et al., 2015)。N400の振幅は意味的なエラー(例: 犬に対して「ネコ」という言葉を組み合わせる)に反応 して増大することが知られている(Kutas & Federmeier,
2011; Friedrich & Friederici, 2005)。このことを踏まえる と,Asanoらの実験結果は,11か月児が音象徴を足掛か りにして新奇語(音声)と図形が適合的であるかどうか を判断し,音象徴的に合わない音声と図形のペアに対し ては(初めて見聞きした音声や図形であるにもかかわら ず)意味的に間違った組み合わせであるかのような反応 をしたという風に解釈できる。Asanoらの研究では脳波 の振幅変化(脳内の局所的なネットワーク形成を反映し ているといわれる)や位相同期度(より大局的なネット ワーク形成を反映)も分析しており,11か月児の脳内 において,音象徴的に適合した音声と図形のペアに対し ては知覚的統合処理を反映する反応がより強くみられた り,不適合なペアに対しては左半球を中心に持続的な位 相同期の増加が見られたりすること(情報の統合がス ムーズでないことを反映している可能性がある)も明ら かにされている。 共感覚も近年,言語発達や学習との関わりが注目され ている。Asano & Yokosawa (2013) は,色字共感覚の文字 の色が,幼少期の文字学習を助ける役割を持っていた可 能性を指摘している。先述のように,共感覚色は文字の 持つ音韻や意味といった特徴情報(特に,その文字を他 の文字と区別するのに役立つ弁別的特徴,Asano & Yo-kosawa, 2013)に結び付けられていると考えられること から,共感覚色は各文字の特徴を目立たせるマーカーの ような役割を果たし,文字の学習に役立っていたのかも しれない。このような考え方は,共感覚には,文字や数 字,曜日や月,音階といった,人工的で学習を要する系 列を誘因刺激としたものが多いという事実とも合う (Watson, Akins, Spiker, Crawford, & Enns, 2014)。
お わ り に 本稿では,共感覚と,音象徴を含む感覚間協応とい う,認知処理間の潜在的な結びつきを示す現象を扱っ た。両者には相違点もあるが,いずれも一見無関係に思 われる認知処理間に豊かな結びつきが存在することを示 唆している。また,そのような結びつきがさらにほかの 知覚・認知処理に影響し,言語発達を促進するなどの作 用ももたらすことも実証的に明らかにされつつある。多 種情報の総合的,統合的な処理の研究(「統合的認知」 横澤,2014)は,感性(「包括的,直感的に行われる心 的活動およびその能力」三浦,2016)など,まだ心理学 が十分には踏み込めていない領域の解明にもつながると 考えられる。
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