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-2 / /09/09 すなわち ハード カレンシー と呼ばれる通貨は 国際的な商取引や資本取引などで 大きな制約なしに取引可能な通貨であり これに対して ソフト カレンシー は何らかの取引に制約がある通貨です もちろん ハード カレンシー であれば いかなる場合であってもいかなる場所で

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Academic year: 2021

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2016 年9月9日 新宿経済研究所 代表社員社長 岡本 修 okamoto@shinjuku-keizai.com

(1) 人民元のSDR入り

中国の通貨である「人民元」は、今年 10 月1日よ り国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)構 成通貨に組み入れられます。IMFの日本語版ウェブ サイト1によれば、このSDRは「加盟国の準備資産を 補完する手段として、IMFが 1969 年に創設した国 際準備資産」であるとされており、今回の人民元組入 れにより通貨の構成比率が変更されます(図表1)。 この事実をもって、わが国の一部の報道機関は昨年、「人民元がドル、ユーロ、円、ポンドにならぶ五つ目の 『メジャー通貨』の仲間になる」と報じていますし、「人民元がハード・カレンシーとなった」などの論評を見 かけることが多いのも事実ですが、果たしてこのような報道は正しいのでしょうか? 本稿では、SDRの位置付けについて、IMFの約款に従って整理するとともに、今回の「人民元のSDR入 りによって人民元がメジャー通貨になった」といった議論の妥当性を検討したいと思います。

(2) ハード・カレンシーとは?

ところで、議論の前提として、いくつかの用語を確認しておく必要がありますが、その一つが「ハード・カレ ンシー」です。この用語は、通貨・為替の世界ではよく見かけるものですが、IMFを含めた公的な機関による 正式な定義付けがなされているわけではありません。そこで、著者の定義で恐縮ですが、本稿では図表2に示し た定義を用いたいと思います(図表2)。 ■

図表2 ハード・カレンシーとソフト・カレンシー

用語 定義 具体例 ハード・カ レンシー その通貨の発行国・発行地域に留まらず、国際的な商取引・資 本取引等において広く利用されている通貨であり、為替取引等 においても法的・時間的制約が少ないもの 米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、ス イス・フラン、豪ドル、加ドル等の主要 国通貨 ソフト・カ レンシー 主にその通貨の発行国においてのみ利用されている通貨であ り、決済機能面や通貨の安定性等の観点から国際的な商取引・ 資本取引には馴染まないもの 中国人民元、香港人民元、韓国ウォン、 台湾ドル等の新興市場(EM)諸国通貨 など (出所) 著者作成 1 https://www.imf.org/external/japanese/np/exr/facts/sdrj.htm

新宿経済研究所

Shinjuku Economic Research Institute

図表1 SDRの構成通貨の変更

通貨 これまでの割合 10月以降 米ドル(USD) 41.9% 41.73% ユーロ(EUR) 37.4% 30.93% ポンド(GBP) 11.3% 8.09% 日本円(JPY) 9.4% 8.33% 人民元(RMB) ― 10.92% (出所) IMFウェブサイト

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すなわち、「ハード・カレンシー」と呼ばれる通貨は、国際的な商取引や資本取引などで、大きな制約なしに 取引可能な通貨であり、これに対して「ソフト・カレンシー」は何らかの取引に制約がある通貨です。もちろ ん、「ハード・カレンシー」であれば「いかなる場合であってもいかなる場所でも取引可能である」、というもの でもありません。また、法制度面では原則として資本の持ち込み・持ち出し規制がない香港やシンガポールなど の通貨は、「法制度面的には」自由な取引の制約が少ないことは事実ですが、実質的に国際的な商取引等におい て広く決済通貨に使われているとは言い難いのが実情でしょう。

(3) 通貨の三大機能

ここで、「ハード・カレンシー」について、もう少し詳しく検討する前に、そもそも「通貨」とは何かという 論点を整理しておきます。一般に、通貨には三つの機能があります(図表3)。 これらのうち、「①価値の測定尺度」 については、通貨である以上は当然 の話です。たとえば、食品スーパーに 出かけると、「にんじん1個40円」、 「じゃがいも1個50円」といった 具合に、お店に並んでいるすべての 商品に値段が付いていますが、これ によって私たちは「高い」「安い」と 判断することができます。 問題はそれ以外の二つの機能です。 まず、「②交換・決済手段」について考えてみましょう。日本国内で「日本円」を使っていると、「この店は円 を受け取ってくれるだろうか?」と心配することはありません。しかし、外国だと、自分の国の通貨よりも外国 の通貨の方が好まれる、という事例があります(図表4)。 ■

図表4 自国通貨より外国通貨が好まれている事例

事例 概要 マカオ カジノや世界遺産で有名な観光地。形式上は「中華人民共和国」の特別行政区だが、旧ポルトガル 領だったという経緯もあり、独自通貨「パタカ」(MOP)が維持されている。しかし、実際には MOPよりも香港ドル(HKD)の方が好まれており、多くのカジノでもMOPは利用できない 北朝鮮 いちおう、独自の通貨「北朝鮮ウォン」(KPW)が法定通貨となっているものの、各種報道によ れば、国内経済は事実上、崩壊状態にあり、米ドル・ユーロ・日本円といった国際通貨や中国の通 貨・人民元などが流通しているとみられている (出所) 著者作成 著者自身もマカオに観光旅行に出かけた際、さすがに店でマカオ・パタカの受け取りを拒絶されるというこ とはありませんでしたが、それでも街中では「香港ドル」と「マカオ・パタカ」が同額面で流通しており、事実 上、香港ドルがマカオの通貨と同じような位置付けだったことに驚いた記憶があります。また、報道等によれば 北朝鮮では経済が事実上崩壊状態にあり、外貨(米ドル、ユーロ、日本円、さらに最近だと中国・人民元)が好 まれるのだそうです。これは、典型的な「自国通貨が交換・決済手段として機能していない事例」でしょう。 また、通貨はこまごまとした日用品を売買するときだけでなく、巨額の資本取引にも使われます。機関投資家 が株式や債券を含めた金融商品を取引する際には、通貨市場における決済システムなどのインフラや金融商品 ■

図表3 通貨の三大機能

機能 意味合い 備考 ① 価値の測定尺度 財貨・サービスの 価値を金額的に表 示・測定する機能 財貨・サービスを同じ金額単位 で表示することにより、財貨・ サービスの比較を容易にする ② 交換・決済手段 財貨・サービス、金 融商品等を購入・ 決済する機能 貨幣があればいつでも必要な ものを必要な時点で必要な量 だけ購入することができる ③ 価値の貯蔵手段 貨幣的価値を保存 する機能 勤労・事業等により得た富を保 存・貯蓄する機能 (出所) 著者作成

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さらに、「③価値の貯蔵手段」という観点からは、通貨の信用度が試されます。この「通貨の信用度」を測定 するうえで一番手っ取り早いのは「外貨準備」です。外貨準備とは、中央政府や中央銀行が保有する外貨のこと であり、多くの国が保有している通貨が「価値の貯蔵手段」として信頼されているという間接的な尺度と考えて も、あながち間違いではないはずです。

これについて、IMFは四半期に一度、「世界公式外貨準備構成」(World Currency Compositions of Official Foreign Exchange Reserves, COFER)と題する統計を公表しています(図表5)。

このCOFERから判明するのは、世界の中 央銀行等の「外貨準備」に占める比率としては、 依然として米ドルが圧倒的に多い、という事実 です。米ドルが世界の外貨準備に占める比率は 約 42%です。また、「内訳不明分」(Unallocated Reserves)が全体の 34%以上を占めているため、 これを取り除いた「内訳判明分」(Allocated Reserves)だけでみると約 64%と、世界全体の 外貨準備の半額を超えている計算です。 また、カナダ・ドル(加ドル)とオーストラ リア・ドル(豪ドル)は 2012 年第Ⅳ四半期から 統計に加えられましたが、全体に占める比率は それぞれ 1%台で、「内訳判明分」だけに占める比率でみても 2%に満たない水準です。 注目すべきは日本円と英ポンドです。この両通貨は、単一国が発行する通貨でありながらも、準備通貨に占め る比率はそれぞれ 3.15%、2.68%となっており、「内訳判明分」に対する比率では 4.79%、4.08%に上昇しま す。そして、COFER上の7つの通貨に含められない「その他の通貨」の比率を上回っているのです。 世界の外貨準備高に占める人民元の正確な比率は定かではありませんが、少なくとも「外貨準備」の世界で は、人民元はまだまだ「メジャーだ」とは言えないのが実情でしょう。

(4) 資本取引

「通貨の三大機能」では、通貨には「価値の交換手段」としての側面がある、という説明を加えました。ただ、 これについてはもう少し深い議論が必要です。というのも、現代の資本市場では、大企業による国境をまたいだ 直接・間接の投資活動や、銀行をはじめとした機関投資家らによる資金運用が行われています。そして、「価値 の交換機能」には、「日用品をやり取りする」機能だけでなく、「資本取引」(株式・債券などの金融商品を売買 したり、外国に子会社を設立したりする取引)機能も極めて大切です。当然、これらの「資本取引」は金額も巨 額であり、通常、資金を授受する際に現金を用いることはありません。 例えば、ある大企業が海外に進出し、子会社を設立する場合、従業員などが現地に赴くケースも多いでしょ う。しかし、資金(子会社の設立資本金や当座の運用資金など)に関していえば、従業員がアタッシュ・ケース などに札束を詰め込んで現地に運ぶようなことは、通常行われません。進出国の治安状況にもよりますが、現金 だと盗難・紛失のリスクも大きく、また、札束は意外と重たいからです。したがって、通常であれば、その企業 が取引している銀行などに「送金」を依頼するはずです(図表6)。 ■

図表5 世界の準備通貨構成(金額:百万ドル)

区分 2016 年第Ⅰ四半期 構成比率 世界の外貨準備合計 10,936,075 100.00% 内訳判明分 7,181,698 65.67% うち米ドル 4,566,924 41.76% うちユーロ 1,462,829 13.38% うちポンド 344,131 3.15% うち円 293,284 2.68% うち加ドル 140,089 1.28% うち豪ドル 136,144 1.24% うちスイス・フラン 19,851 0.18% その他通貨 218,445 2.00% 内訳不明分 3,754,377 34.33% (出所) IMF

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そして、送金の際に、同時に相手国の通 貨に両替(exchange)されるのが通例です。 しかし、通貨によってはこの送金システ ムが未発達であるケースもあり、本国の 通貨から直接、進出国の通貨に両替でき ないような事例もあり得るでしょう。た とえば、あるA国(ソフト・カレンシー国) の企業がB国(ソフト・カレンシー国)に 進出するような事例だと、A国通貨から 直接、B国通貨に両替することは難しい のが実情です。 このような場合に、いったん本国の企 業が自国通貨を「国際的なハード・カレン シー」に両替し、さらにそのハード・カレ ンシーから進出国の通貨に両替する、と いう使い方があります。 そのように考えていくならば、ある通貨が「国際的に取引される」ためには、決済インフラ(特に電子決済イ ンフラ)が整っていることが必須条件であるといえるでしょう。

(5) SWIFT電文

電子決済は現代の通貨制度の中で重要な位置を占めています。この点、民間銀行の国際送金メッセージ等を 交換する基盤を運営しているSWIFT社は、人民元の取引に関する興味深い統計を公表しています。これは 「RMB Tracker2」と名付けられているページで公表されているもので、いわば、国際的な取引における決済電文 に占める人民元のシェアを示したものです。入手可能な直近のレポート上、「顧客を送金人とする決済額及び銀 行間決済額(SWIFT上で交換されたメッセージ)」に占める人民元のシェアは、世界第5位です(図表7)。 ■

図表7 SWIFT電文シェアの推移

(出所) SWIFTウェブサイト 2 https://www.swift.com/our-solutions/compliance-and-shared-services/business-■

図表6 資本取引(企業の海外進出の場合)

大企業

海外市場

国内の取引銀行

現地の銀行

送金 海外子会社 設立 (出所) 著者作成 2015 年2月 順位 通貨 比率 1位 USD 43.09% 2位 EUR 28.95% 3位 GBP 8.57% 4位 JPY 2.75% 5位 CHF 1.85% 6位 CAD 1.82% 7位 CNY 1.81% 8位 AUD 1.80% 2015 年3月 順位 通貨 比率 1位 USD 44.64% 2位 EUR 27.21% 3位 GBP 8.49% 4位 JPY 3.07% 5位 CNY 2.03% 6位 CAD 1.93% 7位 AUD 1.88% 8位 CHF 1.64% 2015 年8月 順位 通貨 比率 1位 USD 44.64% 2位 EUR 27.21% 3位 GBP 8.49% 4位 CNY 2.79% 5位 JPY 2.76% 6位 CAD 1.79% 7位 AUD 1.60% 8位 CHF 1.55% 2016 年7月 順位 通貨 比率 1位 USD 41.30% 2位 EUR 31.31% 3位 GBP 7. 85% 4位 JPY 3.42% 5位 CNY 1.90% 6位 CAD 1.81% 7位 CHF 1.60% 8位 AUD 1.59%

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史上初めて日本を抜いて「世界第4位に浮上した」としていますが、 人民元が「世界4位」となったのはこの単月のみであり、翌月(2015 年9月)には再び日本円に抜かれて5位に転落しています(図表 8)。 もちろん、国際的な商取引において、通貨の使い勝手を決めるう えで重要な要素は、「電文決済におけるシェアや順序」ではありま せんが、少なくとも電文決済の世界では、数年前には遥かにランク 外だった人民元が、加ドルやスイス・フラン、豪ドルなどの「準主 要通貨」と並ぶ通貨となっていることは間違いありません。 しかし、少なくとも「いったんは日本を抜いて世界4位に浮上し た」ことをもって「国際的なハード・カレンシーの仲間入りした」 との報道もありましたが、その後は伸び悩んでいるというのが実情でしょう。

(6) BISレポート

スイス連邦バーゼル市に本部を置く国際決済銀行(Bank for International Settlements)は3年ごとに、 外為市場における通貨の取引量 に関する統計を公表しています3 (図表9)。 なお、この統計は今年(=2016 年)に更新が予定されています が、当レポート執筆時点におい てはまだ公表されていません。 統計上、合計値が「200%」とな っている理由は、BISが集計 対象としている項目は通貨同士 の交換取引であるためです。 意外なことですが、SWIFT統計と異なり、こちらの統計では日本円の占めるシェアが 23%と、米ドル・ ユーロに次いで世界3位となっています。ただし、この統計では、人民元が別掲されていないため、「その他」 にどの程度の人民元が含まれているかについては定かではありません。 SWIFTレポート上、日本円の電文決済シェアは英ポンドに大きく劣後していますが、BISレポートで は、逆に日本円のシェアが英ポンドのそれの倍に達しています。この違いについては、おそらく日本円を使った 取引は、資本取引やデリバティブ取引、中央銀行や公的機関の取引など、SWIFT統計の集計対象外のものが 多い(言い換えれば日本円の市場が洗練されている)とうい証拠ではないかと考えます。 3 http://www.bis.org/publ/rpfx13fx.pdf

図表9 世界の通貨の取引量

通貨 2001 年 2004 年 2007 年 2010 年 2013 年 USD 89.9% 88.0% 85.6% 84.9% 87.0% EUR 37.9% 37.4% 37.0% 39.1% 33.4% JPY 23.5% 20.8% 17.2% 19.0% 23.0% GBP 13.0% 16.5% 14.9% 12.9% 11.8% AUD 4.3% 6.0% 6.6% 7.6% 8.6% CHF 6.0% 6.0% 6.8% 6.3% 5.2% CAD 4.5% 4.2% 4.3% 5.3% 4.6% その他 20.9% 21.1% 27.6% 24.9% 26.4% 合計 200.0 200.0% 200.0% 200.0% 200.0% (出所) 2013 年 9 月 付 “ Triennial Central Bank Survey ” , Bank for

international settlements,(BIS)の 10 ページ Tabel 2 より当社加工 ■

図表8 人民元のシェア推移

時期 順位 シェア 2016 年7月 5位 1.90% 2016 年6月 6位 1.72% 2016 年5月 6位 1.90% 2016 年4月 6位 1.82% 2016 年3月 5位 1.88% 2016 年2月 5位 1.76% 2016 年1月 5位 2.45% 2015 年 12 月 5位 2.31% 2015 年 11 月 5位 2.28% 2015 年 10 月 5位 1.92% 2015 年9月 5位 2.45% 2015 年8月 4位 2.79% (出所) SWIFT

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(7) SDRの仕組み

ここからは、IMFのウェブサイトや約款集等を参考に、SDRの仕組みを考えてみます。 SDRとは、いわば「通貨バスケット」に基づく国際的な準備資産の一つです。まず、SDRがIMF加盟国 に「配分」され、各国は同額、SDRを保有します(図表 10)。 ■

図表 10 SDRの仕組み①「SDR配分額」と「SDR保有額」

(出所) IMFウェブサイトより著者作成 そして、仮に加盟国が保有するSDRを行使する場合には、大きく分けて二通りの方法があります(図表 11)。 これらのうち、「都度指定方式」と は、IMFが「強い通貨ポジショ ンを持つ国」として個別指定した 国がSDRの買い取りに応じる、 というものです。一方、「事前協定 方式」とは、事前にIMF加盟国 相互間で協定を締結しておく方 式です。

また、SDRを行使する際には、そのSDRは「自由利用可能通貨」(Freely Usable Currency)と交換され ますが、ここで「自由利用可能通貨」とは、冒頭に示した「SDR構成通貨」のことです。2016 年 10 月1日以 降は、この「自由利用可能通貨」に人民元が加わりますが、これについてもう少し詳しく見てみましょう。 SDR未使用時 SDR 保有額 SDR 配分額 手数料支払 利子受取 IMF SDR 保有額 SDR 配分額 手数料支払 利子受取 IMF SDR使用時 SDR 保有額 SDR 配分額 手数料支払 利子受取 IMF SDR被使用時 ● 加盟国には出資比率等に応じ、SDRが「配分」される(≒負債) ● 各国は配分額と同額のSDRを「保有」する(≒資産) ● SDR構成通貨のベンチマーク金利等を基に決まるSDR金利が各 国から「手数料」として徴収され、各国は保有するSDRに応じてそ の手数料を「利子」として受け取る ● SDRを全く利用していない場合は「保有額」と「配分額」が同額で あるため、結果的に手数料支払・利子受取は発生しない ● 保有するSDRを「使用」した国は、自国 のSDR保有額が減少する(引き出す方 法などについては後述) ● 結果的に「保有額」が「配分額」を下回る ため、「手数料」の支払が発生する ● 他国の求めに応じて「自由利用可能通貨」 (後述)を引き渡した国は、SDR配分額 (≒負債)が減少する ● 結果的に「保有額」が「配分額」を上回る ため、「利子」の受取が発生する ■

図表 11 SDRを行使する主な方法

方式 概要 都度指定方式 ある国がSDRを行使しようとする際に、「強い外貨準備ポジ ション(strong reserve position)」を持つ国としてIMF が指定した国から資金を引き出す

事前協定方式 事前に加盟国間で自主的に協定を締結しておき、SDRを行 使する際は、その協定に従ってSDRの買い取りを依頼する (出所) IMF “Articles of Arrangement” Article XIX §2(a)(b)等より著者

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(8) SDRは人民元と交換するのか?

IMFによると、「自由利用可能通貨」とは、IMFが次の2要件を満たすと判断した通貨です。 ①国際取引での支払いに広く使われていること ②主要な取引市場で広く取引されていること 現在のところIMFはこの「自由利用可能通貨」として、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドの四つの通貨を 指定しています。そして、SDRは「自由利用可能通貨」と交換されます。 ところで、「人民元がSDRの構成通貨に入る」からといって、必ずしも加盟国は「通貨バスケット」を受け 取る必要はありません。IMFの約款集第19条セクション4には、IMFから通貨提供を求められた国の義 務についての定めが設けられています(図表 12)。 この条文は、IMFから通貨提供を求められた 国の義務について定めたものですが、これを読む と、「a freely usable currency」とあり、あく までも「単数形」となっている点に注意が必要で す。つまり、人民元が「通貨バスケット」に入っ たことは事実ですが、だからといってIMFのS DRを利用すれば「SDR構成通貨割合」に応じ て人民元が交付されるわけではないと解すべき でしょう(著者私見)。

(9) SDRの使い勝手

SDRは、平常時にはコストなしで準備されており、かつ、緊急時に利用可能な準備資産として設計されたも のだと考えられますが、IMFウェブサイトによると加盟国に配分されたSDRの総額は 2015 年 11 月末時点 で 2850 億ドル相当ですが、これは 2016 年3月末における世界の外貨準備額(10 兆 9361 億ドル)と比べて3% にも満たない金額です。また、SDRの利用方法のうち、「事前協定方式」については、わざわざIMFのSD Rを使わなくても、直接、二カ国間または多国間での「通貨交換取極め」(いわゆる通貨スワップ協定)で対応 すれば済む話です。 また、近年ではギリシャが 2015 年5月に、IMFからの融資を返済する目的でIMFのSDRを取り崩した 時に話題となったくらいなので、利用実績も少なく、実際には「使い勝手」は良いとは言えないのが実情ではな いでしょうか?

(10) 人民元はハード・カレンシーなのか?

ところで、人民元がIMFのSDRの構成通貨に含められたことについては、様々な議論があったことも事 実です。実際、IMFはウェブサイトに、「なぜ人民元が自由利用可能通貨なのか?」という疑問に対する回答 を、日本語版を含めたウェブサイトに掲載しています4。これによるとIMFは次の説明を記載しています。 4 https://www.imf.org/external/japanese/np/exr/facts/sdrcbj.htm

図表 12 通貨提供国の義務

本条セクション5に従い当ファンドから指定された 国は、求めに応じて「自由利用可能通貨」を、本条セク ション2(a)に従ってSDRを利用しようとする国に 提供しなければならない。

A participant designated by the Fund under Section 5 of this Article shall provide on demand a freely usable currency to a participant using special drawing rights under Section 2(a) of this Article.

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「世界第 3 位の輸出国(過去 5 年間)である中国は第 1 の基準を満たしています。同時に IMF は、2016 年 10 月 1 日付けで RMB が自由利用可能通貨であり第 2 の基準を満たすという判断をしました。中国当局は RMB のオペレーションを促進するための広範な策を採ってきており、その結果、IMF、加盟国、そして他の SDR 利用者は現在、オンショア市場に十分にアクセスすることができ RMB で IMF 関連そして外貨準備運営 関連の取引を大きな障害なく行っています。」 しかし、これらの説明はいかにも不十分です。まず、「第1の基準」については上記(5)で見たとおり、国 境をまたいだ取引における電文として、人民元の利用高が上昇していることは事実です。しかし、「第2の基準」 のうち、「自由に取引可能」という部分については、重大な問題が残されています。 じつは、人民元には通貨コードが 三つ存在します。IMFのウェブサ イトに掲載されている通貨コードは、 これらのうち「RMB」ですが、中国 本土で流通している人民元を示す通 貨コードは「CNY」であり、さらに 「自由に流通している」のは香港で 取引されている人民元であり、これ が「CNH」です。すなわち、レートも「中国本土の人民元」と「オフショアの人民元」の二つが成立してしま っています(図表 13)。 中国の通貨がオンショア・オフショア二つの市場で分断されている理由としては、もし両者を統合してしま えば、中国本土に巨額の投機資金が流入しやすくなるほか、中国本土からキャピタル・フライト(資本逃避)が 発生したときにそれを当局がコントロールできないことを懸念しているからではないかと思いますが(著者私 見)、いずれにせよ、現状で見る限り、人民元は為替市場での自由な交換にはかなりの制約があると考えざるを 得ません。 よって、今回、人民元がSDR入りした事実だけをもって、「人民元がハード・カレンシーとなった」と結論 付けるには尚早であると考えるのが妥当でしょう。 以上 ■

図表 13 三つの通貨コード

コード 語源 意味合い RMB 北 京 語 読 み の 「 人 民 幣 」 (ren-min-bi)の頭文字 人民元のことを広く指すが、為替 市場で利用される用語ではない CNY チ ャ イ ニ ー ズ ・ ユ ア ン (Chinese Yuan)の略語 為替市場では一般に「中国本土の 人民元」を示す CNH 香港(Hong Kong)で取引 されるオフショアCNY 為替市場では一般に「香港で流通 する人民元」を示す (出所) 著者作成

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