• 検索結果がありません。

発達相談において子どもをみるということ : 障害幼児の事例をもとに

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "発達相談において子どもをみるということ : 障害幼児の事例をもとに"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

一障害幼児 の事例 を もとに一

A Consideration on Understanding of the

Handicapped lnfant in Developmental Counsehng

教育′い理学教室 田 丸 敏 高

Toshitaka Tamaru*:A consideration On understanding of the handicapped infant in

developmental counsehng。 (Journal of the Faculty of Education, ′rottori university,

〈Educational Science〉 ,1986,28-2: 417-425) は じおウに 子 どもの療育 をすすめる場合

,ま

ずその子 どもをみることか ら出発す る。 これは自明なことの よ うであるが

,何

をみた ら子 どもをみた ことになるのか

,考

えてみると案外難 しい問題 であることに 気づ く。目の前で遊 んでいる子 どもの様子 を外か らじっ と見 ていたら

,子

どもをみた ことになるの か。もちろん

,そ

うした 自然観察が大切であることは間違 いないが

,そ

れだけで子 どもが わか るわ けではない。だった ら何か知能 テス トで も実施 して子 どもの能力 を調べた ら

,子

どもがわか ること になるのか。テス トを実施す るのが必要な場合 もあろうが

,知

能年齢や知能指数が示せたか らとい って子 どもがわか った とは言 えまい。我々が子 どもをみて子 どもをわかろうとす る場合

,子

どもの 療育 をすすめるため

,そ

の子 どもの発達保障のためである。別 に子 どもについてのあ りとあらゆる 事実 を知 らない といけない とい うわ けではない。必要な ことを知ればいいわけである。 しか し

,こ

こで知 るということは

,子

どもについての知識の目録 を作 ることではない。本稿 では

,発

達相談 に おいて子 どもみるとい うことの意味 を考 えてい くわ けだが

,実

はみるという行為がすでに発達相談 過程 に合み込 まれている。みることは

,す

でに子 どもとの間で

,ま

た親 との間で一定の関係 を取 り 結ぶ ことである。発達相談 においては

,そ

の ことの意味 は大 きい。以下

,就

学前の障害 をもった子 どもの事例 を通 して

,み

るということの意味 を検討する。

1.問

題 へ の 対 応 の仕 方 Sち ゃんが母 親 に抱 か れ て部屋 に入 って きた。Sちゃん は

,小

柄 で色 白の女 の子 で あ る。母親 が Sち ゃん を側 にお ろ した ところで,「 どの ような ご心配 で し ょうか」と話 しか け る。母親 は

,一

瞬 と まどい を見せ てか ら,「 まだ

,歩

か ないんです……

Jと

答 え る。不 安 そ うな面 持 ちで あ る。「 それ か

(2)

田丸敏高:発達相談 において子 どもをみる とい うこと ら

,お

話 もまだで きないんです。」1歳

6か

月児健診 における発達相談の場面である。Sち ゃんのカ ルテの主訴の欄 には,「① ことばがでない ②一人歩 きがで きない ③耳の きこえ?」と記載 されて いる。「 どこか悪いので しょうか」と母親 は話 を続 ける。「普通の子 と同 じようになるので しょうか。」 Sち ゃんは

,側

で無表情 に ミニカーをころが している。 発達相談では

,

こうした場面 によ く出会 う。 もちろん

,発

達相談 は

1歳 6か

月児健診 には限 らな い。制度化 された もの としては

, 4か

月児健診 や

3歳

児健診 もあるが

,そ

の他年齢 を問わず相談 は 行 われ うる。 したがって

,子

どもの年齢 によって も (子どもの もつ問題や障害 によるのは当然の こ ととして

)対

応の仕方 は異な らざるをえない。発達相談 はステレオタイプではな く柔軟 に行われな ければならない。 その ことを認 めた うえで

,発

達相談 をするうえで基本的に考 えなければいけない こ とは何であろうか。相談員 として どのような対応 をしてい くべ きであろうか。 ここで考 えうる対応の仕方 をあげてみよう。 第 1の 対応。この母親 は少 し神経質 にな りすぎているのではないか と考 え,「まだSち ゃんは1歳 半 になったばか りであるし

,発

達 には個人差があるのだか ら

,あ

せ らずに待 ってみ ましょう」 と言 う。 これは

,不

安が り焦 っている母親 を落 ち着かせ ようとしての対応である。 また

,

この ように直 接言わないまで も,「まだ小 さいのだか ら」とだけ言 ってあ とは態度で暗示する とい うの も同 じ対応 と考 えられ る。 しか し

,い

づれに して も

,こ

れで母親 は納得す るであろうか。 む しろ

,何

か しな く てはいけない と思 っているのに何 をした らよいかわか らず

,ま

す ます不安 と焦 りの 日々 を送 ること にならないだろうか。 それに

,そ

もそ も当のSち ゃんに とって この ままでいい と言 えるのであろう か。ただ待つ ことによって失われた時間 は

,取

り返 しが きかないのであるか ら。 第2の対応。「では

,早

速検査 をしてみ ましょう」ということで

,何

か発達検査 をしてみてその結 果 を伝 える。

S児

の場合

,初

対面で長時間の検査 にはの りに くいので

,母

親か ら様子 をききとるタ イプの質問紙の検査が利用 しやすい。 その結果 は,「 7か月前後の発達状態」で

,発

達指数

(DQ)で

表わせば40ぐ らい となる。

‐ 「いったい

,う

ちの子 はどうなんで しょうか。」 「あなたのお子 さんは

,発

達遅滞であると思います。」 「それはどういう意味で しょうか。」 「一般の子 どもに比べて発達がかな り遅れてい るということです。」 発達が遅れていることについては

,母

親 も十分気づいている。知 りたいのは

,

これか らの見通 し であ り

,何

をしてあげ られ るか何 をした らよいのかである。「発達遅滞」 とい う呼び名 も,「発達指 数40」 とい う表示 も

,母

親の知 りたい ことには何 も応 えていない伊 こうして

,第

1の対応の仕方 も第2の対応の仕方 も

,母

親の疑間には全然応 えていない ことがわ か る。 したがって

,こ

れでは子 どもの問題 に対応 した ことにはな らない と言 える。来談者であるこ の母親 は

,自

分が知 っていた こと以上 に子 どもの ことが深 く知 りえたわ けで もない し

,今

後 につい て もどうした らよいかわか らず じまいになった。 もちろん

,上

にあげた対応 は極端 に形式的に描 い た ものであ り

,実

際の発達相談で このような対応が為 されているとい うわ けではない。 む しろ

,な

いであろう反例 として示 した ものである。実 は

,

これか ら述べたいことは

,発

達相談で は

,時

間の 許 すかぎ りていねいに行わなければな らない2つの ことがあるのではないか とい うことである。

1

(3)

つ は

,母

親・ の話 を聴 くことであ り,も う 1つ は子 どもを直接みることである。どちらが先かは一律 には言 えないが

,こ

こで は

,前

者 について先 に論 じよう。

2.親

の 話 を聴 く 親の話 を聴 くということは

,親

の眼 を通 して子 どもをみるとい うことである。 とはいえ

,親

か ら たんに子 どもについての必要な情報 を得 ようとす る態度では

,子

どももみえて こない。子 どもはも ののように孤立 して単独で存在 しているわ けではない。様々な社会関係のなかで生活 しているので ある。 したが って

,子

どもを取巻 く社会関係 とともに子 どもを知 ることが必要 になる。 そのために も

, 1つ

には

,親

自身が何 を問題 に しどう悩 み苦 しんでいるのか ということを理解 しなければな ら ない。

S児

の母親の場合

,S児

が出生時体重が

2,450g(sFDネ

*)でぁ りよ く吐乳 した こともあって, 出生後か らいろいろ心配 はしていた。 しか し

,S児

の祖母が病気で寝た きりであったため

,母

親 は その世話にかか りきりであった。

S児

の ことを気 に しなが らも

,実

際 は

S児

を一人で コンビラック に寝かせてお くことが多かった とい う。母親 は

,S児

の ことを話す時,「わた しが十分面倒 をみてや れなかったか ら……」 とぶ と悔恨の情 を見せ る。母親 としては

,祖

母のためにがんばって きたんだ という気持 ち と

S児

に対 する悔恨の気持 ち とで葛藤 していると考 えられ る。子 どもの生活 を日常的 に支 え

,世

話 をや き

,様

々な働 きか けをしているのは

,親

である。子 どもの状態 を改善 するために は

,ど

うして も親 を欠 くことはで きない。親の考 え方

,生

活の仕方

,子

どもへの働 きか け方が

,子

どもの生活 に影響 を及ぼ している。 もちろん

,こ

の ことは

,親

が 自分のある一人の子 どもの ことだ けを考 えその子 どものためだけに専念せ よとい うことではない。そんな ことはで きない し

,し

よう とした ところで益 をもた らす とは言いがたい。親 は

,人

間 として多面的な役割 をもつ。た とえば, 母親の場合

,そ

の子 どもだけにとっての親 ではな く他の兄弟姉妹 にとって も親であ り

,夫

にとって は妻であ り

,職

場 に出れば勤労者である。母親 は

,そ

うした役割 を担いなが ら

,生

活 している。 し たがって

,親

が 自らの生活全体 の中で子 どもの問題 をどう受 けとめているか考慮 しなけれ ば

,援

助 ・助言 も空虚 な ものになるであろうし

,相

談関係 さえ成立 しないこともある。 親の話 を聴 くことの2つめの意味 は

,親

か ら子 どもについての必要な情報 をきき とる とい うこと に関わ る。発達相談では

,子

どもの状態 を判断 し

,必

要な場合 には精密検査や治療・ 訓練 のための 医療機関 を紹介す る。今す ぐ必要で可能 な手だてを講ず る。 もし

,子

どもに聴覚障害があるのに放 置 して

,親

のカウンセ リングのみ行 っているとした ら

,そ

れは発達相談ではない。 ただ し

,S児

の ような精神発達遅滞 (が予想 され る

)児

の場合

,必

要な情報 をききとりつつ

,親

の子 どものみかた を整理 してい く必要がある。親が相談 に来 る場合

,子

どもの様子 を整理 してか ら来 るとい うことは 稀である。 む しろ

,整

理で きず混乱 してい るか らこそ相談 に来 ると言 える。 したが って

,親

の子 ど ものみかた を整理 しなが らでない と子 どもについての必要な情報 は得 られない し,また,き きとるこ とを通 じてでない と親の子 どものみかたが整理 されない し

,生

活改善 につなが っていかない。

S児

の場合,「歩かない」と「 ことばを言わない」とが直接の問題 として言われている。 しか し

,こ

れで は事態 を尽 していない。 まず,「歩かない」と言 って もそれだけでは身体運動機能のふだんの様子 は

*

ここで は,母親 であるが,実際には父親の場合 もあるし,他の養育者の場合 もあるし,保育 園の保母 な どの 場合 もある。 したが って,来談者一般 として考 えてい きたい。

**低

体重児。満期産 (在胎週数37週以上)であ りなが ら,体重が低 い(2,500g以下)の児 をい う。一般 に,障 害発生率が そうでない児 に比べて高 い。

(4)

田丸敏高 :発 達相談 において子 どもをみる とい うこと わか らない。這 うことな らで きるのか

,で

きる とすればどんな時 にどのような這い方 をするのか, つかまり立 ちはしようとするのか

,坐

位 はどうか等々の ことについて家庭での様子が報告 され る必 要がある。「 ことばを言わない」ということに関 して も同様である。哺語

,身

振 り

,指

さし

,情

動等々 に関す るふだん様子が報告 される必要がある。また

,子

どもの発達状態 について見当をつ けるには, 粗大運動や言語の領域 だけでな く

,微

細運動

,適

応行動

,個

人・社会的行動などの諸領域のについて も最低限知 る必要がある。 もちろん

,こ

うした ことは実際の子 どもをみて判断するのであるが

,親

が どう認識 しているか もここではみてお く。 ところで

,親

か ら子 どもの様子 をききとる場合

,大

き く分 けて2つの方法がある。

1つ

,子

ど もの行動 を運動 とか言語 とかの領域 に分 けて直接質問 してい く方法である。 これは

,

き く方か らは 便利であるが

,き

かれ る親 にとっては少々難 しい。 この方法 はご くわか りやすい項 目に限 って用い た方がいいだ ろう。む しろ

,親

には

, 2つ

めの方法―

-1日

の生活の流れに沿 って質問 してい く方 法―― の方が答 えやすいであろう。 目覚 めの様子か ら始 まって

,食

,あ

そび等々の様子 をきいて い くと

,子

どもの現在の様子について必要 な情報 はほ とん ど網羅 される。子 どもの発達状態 ばか り でな く

,そ

れ と関連す る健康状態

,生

活 リズム

,食

,活

動―睡眠状態 も報告 され る。 また

,

この 方が思い出 しやすいため

,報

告 も正確にな りやすい。 こうして得た情報 を

,相

談者 は必要 に応 じて 整理すればよい。

S児

の場合

,こ

うした ききとりを通 じて,「不機嫌 にな りがちである」とか「 ヨダ レが多い」 とか「手で ものに働 きかけることがあまりない」 とかが明 らかになった。 これ らは

,今

後の

S児

の生活改善 をすすめるうえで

,重

要 な情報 となった。 親の話 を聴 く3つめの意味 は

,親

が子 どもの問題 の原因をどう考 えているか知 ることである。 そ の際

,生

育歴の ききとり方は重要である。母親の場合

,子

どもの問題 を全部 自分の責任 と感 じ

,自

分の育 て方のせいにしやすい。 しか し

,何

の脈路 もな く問題 を自分の育 て方のせいに して しまって は

,何

の策 も生 まれて こない。

S児

の場合

,発

達遅滞の基本的要因は

,育

て方ではな く

S児

自身の 脳 の発育 にある。 その うえ

,S児

は低体重や左心房 中隔欠損症の負因がある。 こうした病歴 につい ては医師の所見 に依 らなければいけないが

,親

か ら直接報告 して もらうことに意味が ある。 また, 問題の背景 としては

,生

育歴 ばか りではな く

,家

庭環境

,地

域環境 も重要である。 以上の ように

,親

か ら話 を聴 くことを通 じて

,子

どもの状態 と問題 についての輪郭が浮かびあが って くる。 もちろん

,こ

の輪郭はあ くまで も親の話 を通 じての ものであ り

,そ

れ以上の ものではな い。しか し

,親

の話 を聴 くことが

,問

題 に見通 しをたて解決 に向かってい くための一環 なのであるも

3.子

ど も をみ る

A.み

る とはなにか ここまで,「子 どもをみる」 とい う表現 を何度 も用 いて きたが,「みる

Jと

はいったい どの ような 意味 をもっているのだろうか。実際

,日

本語の「みる」 には多様 な意味が込め られてい る。漠字 を 当てれば,「見 る」「視 る」「観 る」「診 る」「看 る」な どになろう。『広辞苑(第二版)』 によれ ば,「み る」 とは,「自分の目で実際に確かめる。転 じて自分 の判断で処理する。」 とされている。 その使 わ

*

発達相談 はチーム相談 であ り,他の専門家の意見 を十分聴 くことが重要であ り,問題 の解決過程 で もチーム の協力 な しには実効性がない。 また,乳幼児健診 で は

,障

害の発見か ら指導 に至 るまで保健婦が きわめて大 きな役害Jを演 じている。 しか し,ここでは,それ らについての言及 は省かれている。

(5)

れ て きた 意 味 を列 挙 して示 す。

1)日

にとめて内容を知る。①目にとめて知る。②ながめる。望む。③あう。④異性とあう。

2)判

断する。①物事を判断する。②よく注意して観察する。③見て占う。④文字をみてその意

味を知る。読む。⑤評価する。③診断する。

3)物

事を調べ行う。①取り扱う。行う。②監督する。③調査する。調べる。

4)自

ら経験する。①身に受ける。身にかぶる。②経験する。③試みる。ためす。④⑦ためしに

……・する。③ある事実に気付く,ま たはある事実が成り立つ条件を示す。……すると。……し

た ところが。

5)世

話 をする。

6)(僧

の忌詞

)仏

前 に供 える花 を切 る。 子 どもをみるとい う場合,「みる」 には様々 な意味 あいが込められ うる。 それ は,「みる」 とい う ことばが歴史的に様々 な意味 を担 ってきた ことか らも肯 ける。「みる」ときは

,た

だ外か らながめる わけではない。子 どもをみるときには

,子

どもとある関わ りをもって

,あ

る目的の下で

,指

導や世 話や試みを加 えなが らみることになるし

,そ

うしてはじめて

,子

どもを判断 した り

,評

価・ 診断す ることがで きる。「みる」とは総合的な行為 なのである。以下

,心

理学

,

とりわ け発達心理学の知見 に基づ きなが ら

,子

どもをみる方法について考察 してみよう。 B。 静的把握 ぶつう人が人 をみる場合

,そ

の関わ り方に応 じて主観的印象が前面 に出やすい。 これ は

,子

ども をみる場合 も同 じである。 まして

,親

が子 どもをみると,「○○の ところが いい子だ」とか「△△の ところがわが ままだ」 とかいう把握 をしがちである。 しか し

,発

達相談 を受 ける者が これ と同 じレ ベルの把握ではその価値がない。そこで

,相

談者 は

,発

達心理学等の成果 によって構成 されたある 枠組 を用いて

,そ

の子 どもについて知 るうえで必要 な諸領域の事物 を客観的 に把握 しようとす る。 た とえば

,発

達診断研究の古典であるGese■

,Aは

,子

どもの行動 を

4領

域 に分 け

,Key年

齢 ごとに

行動型を整理 した発達標準表を用いて

,子

どもをみている?こ こでいう

4領

域 とは

,①

運動行動(粗 大運動 と微細運動)②適応行動③言語行動④個人一社会的行動を指し

,Key年

齢 とは

, 4週 ,16週

, 28週

,40週 ,12か

,18か

, 2歳 , 3歳

……等をいう。現在の子 どもの発達状態を確かめるため には,テ ス トも使い,そ れぞれの領域 ごとの行動型 と比較 しながら

,子

どもの位置を明 らかにする。 健常児では

,特

に環境上の問題がなければ

,ど

の領域でもほぼ生活年齢に対応 した状態像を示すこ とが多い。だが

,障

害児では

,全

般に生活年齢に 'ヒ ベてかなり低い状態像を示すだけでなく

,行

動 領域間に発達のずれを生 じやすい。

S児

の場合

,四

つ這いし伝い歩きが多少できる状態であるので, 粗大運動領域で10か月 くらいのレベル と思われる。当時の月齢が18か月であるか ら明 らかに遅れて いる。では

,他

の行動領域 も同 じ発達年齢10か月 くらいのレベルか というと

,そ

うではない。両手 にものを もって遊ぶ こともない し,「バイバイ」や「メッ」など呼びかけにも応 じない。

S児

の微細 運動

,言

語な どの領域では

,

どうにか

6, 7か

月の レベルを示す といった状態である。 こうい うと ころにも

, S児

の障害の特徴や生育歴の影響が現われている。 ところで

,発

達状態 を領域 ごとに把握 し

,そ

の レベル を明 らかにしたか らといって

,静

的子巴握 と して十分 なわけではない。静的把握での課題 として

,当

面当該児童の発達 とその障害の状態 をとら えるのに必要な事実 を

,条

件や場面 に応 じて観察 し記録することがある。だ とすれば

,

もう少 して

(6)

422 田丸敏高:発達相談 において子 どもをみる とい うこと いねいな観察が必要であ り

,そ

れ によって子 どもの状態 もよ り正確 に把握 される。

S児

では

,

もの をもつ ことはもつがす ぐ手放 して落 として しまう。 自分 か らはなかなか手を出 して ものに触れたが らない。仮 りに

,微

細運動の「片手で ものをもつ」 とい う項 目が「十」 と記録 されて も

,積

極的に 手 を出 してい くの とは明 らかに異 なる。発達標準表 はすべての子 どものすべて行動 を想定 して記載 で きるようになっているわけではないので

,そ

の子 ども独特の様子 は別途記録 されなけれ ばな らな い。

S児

,

ものに手 を出す といって も

,姿

勢 も視線 も志向性 に乏 しい。 こうした ことを抜か して 「十」ない し「―」 と判定 しただけでは

,今

後 の取 り組 みを考 える手がか りを捨てて しまうことに なる。検査や観察 を行 うとき

,た

んに「できた」「で きない」で採点することに終始せず,「で きか た」「で きに くい様子」 をその条件 とともに言己録 してお くことが大切である。

C.動

的把握 「で きた」「で きない」 をみるだけではな く,「で きかた」 をみるということは

,子

どもの発達の 動的な把握 につなが る。動的把握 とは

,子

どもの現在の発達状態 を確認することに とどまらず

,そ

の状態 をの りこえようとしている子 ども

,そ

こに困難 を抱 えている子 どもを把握することを意味す る。つ まり

,変

化 し発達 しつつある子 どもの姿 をつかむことを意味する。実の ところ

,

こうした動 的把握の方法 については

,発

達心理学のなかで明 らかにされているとは言いがたド?こ こで は

,動

的 把握の3つの側面 について問題 を提起 したい。 第1の側面 は

,時

間的な変化 をみるということである。

S児

の場合

,年

齢 に比べて発達が遅滞 し ていることは確認 されたが

,遅

滞の性質 についてはまだ不分明である。そこで

,一

定期 間 を置 いて 観察 を繰 り返す ことにす る。それによって

,今

イ申びつつあるのか停滞 しているのかがわか る。また,

S児

の行動領域の内

,比

較的変化 しやすい ものが何 で変化 しに くいものが何かがわかる。 これによ って

S児

の遅滞の性質がある程度明 らかにされ る。 しか し

,こ

の際

,一

定期間を置 くというのは何 もしないでただ待つ ということではない。 それで は

,発

達保 障ではな く発達放置 としか言 えない。静的把握の段階で もい くつかの課題 を仮説的にた てることは可能である。

S児

では

,全

体的不活発

,筋

力の弱 さ

,手

を使 うことへの消極性

,発

声の 貧 しさ

,視

線の合 いに くさ等々が

,次

の発達 に とって制約 になっていることは十分予想 され る。 そ こで

,親

と相談 しつつ可能な範囲で

S児

の生活の改善 を計 ってい く。親 と相談員 との間で,「こうし てみた らどうだろうか」 ということが発見 され確認 し合 えれば

,そ

れは子 どもの生活の改善 と発達 につなが ってい く。

S児

の場合 も

,こ

うした確認 をし合 うなかで

,次

回の面接時で子 どもの新 しい 発達 を発見 しうることになった。 もちろん

,子

どもへの医学的治療やそのための条件づ くりに追わ れて

,親

が育児の仕方 に目を向けるのが当面困難 な ときもある。 その ときも

,そ

れであ きらめて し まった り

,逆

に特定の「指導」 を強要 した りしては

,発

達相談 は進展 しない。子 どもが発達面の指 導 も必要 としている以上

,何

らかの工夫が為 されなければならない。医療面で頭がい っぱいになっ ている親の場合で も

,親

の話 を聴 いてい くなかで「手の使 い方が大切ですね」 とか「視線 の動 きが 重要 そうですね」とかの共通理解が得 られ ることは多い。「では

,そ

の辺の様子 をよ くみて

,次

回教 えて くだ さいJと いうことになる。親 は

,子

どもをよ くみることになる。すると,「わが子 にはこん な ことがで きるのか」「 こんなふ うにものを扱 うのか」「 こんな ことを喜ぶのか」等々が見 えて くる。 見 えて くれば親 はいつの まにか子 どもに手 を出 し働 きか けてい く。そして,無意識的にで はあるが, 間接的に子 どもの生活改善につながってい く。

、 さて

,動

的把握の第 1の 側面が変化 をみることだ とす ると

,第

2の側面 は関係 をみることであ る。 これ まで

,心

理学 は

,個

人的な能力発達 をつか もうと努力 して きた。 そのため

,ど

うして も一人 で

(7)

何がで きるかをもって子 どもの発達 を描 こうとしてきた。 そうした方法 は

,子

どもの内部 に自生的 に能力が蓄積 されてい くような発達観 と結びつ きやすい。 しか し

,実

際には

,子

どもは他の人々 と 関係 を結 びなが ら生活 し

,活

動 している。子 どもので きることも内在的に決 まっているわ けではな く

,他

の人々 との関係 に応 じて変化する。 もし

,こ

うした諸関係 を子 どもか ら切 り離 して しまった らす子 どもの発達 は理解 しえな くなる。 これは

,ち

ょうど

,木

の成長 を上 (養分)や空気

,日

光 か ら 切 り離 して しまっては理解で きな くなるの と同 じである。子 どもは

,た

った一人で何かをしている ときで も

,そ

れ は以前大人 と一緒 にやった ことであった り

,ま

た周囲の人 に認 め られているのを条 件 として行 っていた りす るのである。子 どもは

,一

定 の社会的諸関係の下で一定の活動 を行 ってい るのである。かつて

,ヴ

ィゴツキーは

,個

人の発達 を「精神間機能か ら精神内機能へ」 として定式 化 した

pす

なわち

,彼

,以

前 は大人の援助 の下 にで きた ことが今後 は一人でで きるようにな る と いうところに発達の本質があると考 えた。そ して

,一

人で何ができるか ということよ りも

,一

人 で はで きな くとも大人の援助 の下 にで きることの範囲の大小 に目を向け,それ を「最近接発達の 領域

P

と呼び重要視 した。 これは

,発

達 を動的 に把握 しようとす る 1つ の方法である。

S児

で言 えば

,一

人でいるときは

,日

はうつろで ミニカーをころが しているが

,大

人が声かけした り指 さしした りす ると

,自

分の扱 っている対象に

S児

の目が向かってい く。 この違 いのなかに

S児

の明 日の発達 が予 期 され る。つ ま り

,適

切 な援助 を続 けることによって

,今

度 は一人で遊ぶ ときも自分の扱 う対象に 目を向けられ るだろうと。当然のことなが ら

,子

どもの取 り結ぶ社会的諸関係 は

,ヴ

ィゴッキーの 示 した教育 的関係だけではない。発達 をみる場合 には

,様

々 な関係 に子 どもの活動 を対応 させて考 えなければな らない。 ところで

,変

化 をみるとか関係 をみるとかは子 どもの外側 か らのみかたである。子 どもの内側 か らとらえれば

,子

どもの中に葛藤 をみるとい うことになる。これが

,動

的把握の第3の側面である。 初回面接か ら数 ケ月後

, S児

は自分の扱 うもの を目で とらえるようになる。次には

, 2つ

の もの を 手に もってそれ を打 ち合わせて遊ぶ ことが盛んになる。ついには

,コ

ップに積木 を入れ ることに興 味 をもち始 めた。「入れ る」ということは

,障

害児の発達 に とって

, 1つ

の画期的な行動である。 し か し

,S児

にはそ うやすやす と入れることはで きない。手 か ら積木 を放 そうとして も

,親

指 と他 の 指 とが同時 に静かに離れないため積木 はコップの外 に落 ちて しまう。

S児

はいらい らし始 め結局 は 積木 を放 り投 げその行 き先 は目向 きもしない(以前の行動様式 に戻 る)。 ここに

,S児

の葛藤が見 ら れる。コップに積木 を入れ る活動 は,興味ある活動で

S児

を次の発達 レベルヘ押 し上 げるものだが, 同時 にその活動 は

,い

らい らする活動で手で ものを扱 うことを嫌悪 させ退行 を起 こさせ るものなの である。だった ら

,

その 1段 階 レベルの低い活動

,2つ

の ものを打合わせ る活動で満足 していれ ば いいが

,

もうそれにも飽 きて興味がいかな くなっている。 ここに葛藤が生 じる。葛藤 は発達 の分岐 点 を表示 してぃる。葛藤 は

,ま

た危機であるとも言 える。発達 は平担な道ではない。危機 に立 ち向 かいなが ら人間 として飛躍 してい くのである。動的把握で は

,こ

うした危機

,葛

藤 を事実 に即 して 把握することが課題である。 以上

,動

的把握の3つの側面 について提起 したが

,子

どもをみる場合

,こ

の他 にも子 どもの健康 状態

,生

活 リズム

,環

境条件等々の関わ りも見逃せない ことを付 け加 えてお く。

*

これ は,理論上 のみ可能 な ことだが。

(8)

田丸敏高:発達相談 において子 どもをみる とい うこと 4。 子 ど もの 発 達 をみ つ め て 発達相談 は

,直

接的には親

,子

ども

,相

談員の

3者

によって構成 されるが

,そ

の ことは

3者

で閉 じた世界 をつ くってい くことを意味 しない。子 ども

,

とりわけ障害 をもった子 どもの発達 を保障 し てい くためには

,多

くの人々の協力 と共同が必要である。医療サイ ドでは

,医

,保

健婦

,理

学療 法士

,作

業療法士

,言

語治療士

,栄

養士

,歯

科医等々の協力が必要 となる。教育サイ ドでは

,療

育 機関

,保

育園や幼稚園

,学

校等々 との協力が必要である。地域生活の問題 では

,近

隣の人々の協力 をはじめ

,親

の会

,ケ

ースワーカー

,ボ

ランテ ィア等々 との協力が必要 となる。医療

,教

,福

祉 の どの分野 も

,障

害 を もった子 どもの発達保障のためには欠かせない。発達相談員 (心理士

)も

こ うしたチームワークのなかで一員 として役割 を果たす。発達相談員 は

,直

接親 と子 どもと関わ る者 として

,医

,教

,福

祉 の関係機関 との連携 をすすめる立場 にある。適切 な機関 を親 に紹介 した り

,機

関 と機関 との連絡 をすすめた り

,

ときには機関か らの相談 に も応 じてい く必要がある。 こう してはじめて

,子

どもをみることが子 どもの発達 をみることへ とつなが ってい く。

S児

, 2歳

10か月の とき保育園に入園することになった。 ここに至 るまでは

,担

当保健婦の尽 力が大 きかった。保健婦 は

,

ときには医療の立場 に立 ち ときには親 の立場 に立 ち

,必

要な関係機関 と連絡 をとり親 とよ く話 し合 いなが ら入園をすすめて きた。障害児が入園するにあたっては

,親

の 側 にも園の側 にも双方 に不安がある。親の方では

,友

だちがいる保育園での生活 によ り子 どもに新 たな成長が生 じることを期待する一方

,わ

が子がついていけるか先生 に迷惑 をか けないかな どの不 安 を抱 く。園の方で も

,新

しい子 どもの入園によ り新 しい人間関係が生 まれるのではないか とい う 期待のある一方

,き

ちん とした指導がで きるだろうか といった不安 を抱 く。 こうした とき

,双

方か ら話 を聴 く保健婦の役割が重要であるが

,発

達相談員 もそうした双方の不安の解決のために働 くこ とが可能である。当時

, S児

,歩

行が一応確立 し

,

ものの出入れ遊 びを好み

,反

復哺語や少数で はあるが片言が出現 し始 めた状態であった。

S児

,入

園によって新 しい世界 を発見 した。母親 と 一定時間離たれる不安

,規

律 ある生活の困難

,保

母や友だち とのつ き合 い方での とまどい等々 はあ った。 しか し

,新

しい世界への関心 と周 りの人々の援助の下

,こ

うした問題 を一歩一歩の りこえ,

S児

は成長 してい くことになる。入園1か月後 にして

,S児

は重要な変化 を示す。 もちろん

,発

達 検査得点 に表わされ るような変化ではないが

,自

分か ら「バ ァ」 と言 って他の人の顔 をのぞきこん で くるのである。

S児

,も

ともと視線の合 いに くい子 どもであった。 それ まではこち らか ら視線 を合わす ことに苦労 していた。 それが

,自

分か ら人 に向かってい くのである。

S児

,園

の生活 を 通 じ自分か ら能動的 に他の人 に働 きかけてい くことを学んだのであるよ 発達相談 とは

,相

談員が直接子 どもを指導 し変 える仕事ではない。 そ ういった部分が求め られ る こともある し

,あ

る遊 び方などを例示 した方が よい場合 もあるにはあるが

,そ

れが基本的な仕事で あるとは思われない。といって,親のカウンセ リングをし親の気持 ちを安定 させて親が 自分の生 き方 を問い直 し新 しい自己 と人生 とを発見 してい くのを援助す るといった仕事 で もない。 そういった部 分がない とは言 えないが

,そ

れが基本であるとは考 えられない。発達相談の基本 は

,子

どもの発達 保障をめざしてその条件づ くりを親 と考 え合 ってい くことにあるのではないだろうか。そのために, 一方で

,子

どもの発達 の状態 を明 らかに して把握 し

,親

の考 えや問題 を整理 し

,可

能で必要な生活

*

その1か月間,園で は担 当保母が配置 されかな りていね いな指導が行われた。

(9)

改善 と子 どもの 発導 の1見通 しにつ いて考 え合 ってい くと同時 に

,他

方で

,子

どもの1発達 を最大 限保 障 して い くために

,必

要 に応 じて医療

,教

育 夕福祉 の システム をその子 どもに即 して実現 してい く 一員 とな る こと

,そ

れが発達相談 の基本的 なあ り方ではないだ ろ うか 。 注 お よ び 文 献 (1)同 様の問題については

,ヴ

イゴッキーの考察が参考にな―る。ブィゴツキー :困難児の発達診断と児童学的臨 床,大井清吉・菅田洋一郎監訳 ブィゴツキー障害児発遂論集 ぶどう社 1982 171-127arく_ジ 修

)こ

の領域区分はゲど 'レ ーによる。

儡)Gese■

,A&Amatruda,CS,pevdopnental■

agtlotts,195S,新井清二郎・ 佐野保課 発達診断学 日本 小児医事出版11958

)日

丸敏高:1'S4 精神遅滞の発生過程の診断と評価 東京大学教育学部紀要 第23港

345-“

3ページ

(5)BЫFOTC(率五,Л.G.,Pa8BИ TXe.BHc」呼x HcIEX叩 0044X ΦyIItlx4Ⅲ 柴田義松訳 精神発達の理論 明治 図書 1979

(0

ディゴツキーの「最近接発達の領域」については様々な文献で言及されているcその基本的内容については丁 筆者がかつて分析 `検 討した。日丸敏高11977 日本における「発達の最近接領域

_概

念理解の問題 心理 科学第 1巻第 2号 12-23ページ

(10)

参照

関連したドキュメント

1-1 睡眠習慣データの基礎集計 ……… p.4-p.9 1-2 学習習慣データの基礎集計 ……… p.10-p.12 1-3 デジタル機器の活用習慣データの基礎集計………

このように、このWの姿を捉えることを通して、「子どもが生き、自ら願いを形成し実現しよう

子どもが、例えば、あるものを作りたい、という願いを形成し実現しようとする。子どもは、そ

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

どんな分野の学習もつまずく時期がある。うちの

いしかわ医療的 ケア 児支援 センターで たいせつにしていること.

こらないように今から対策をとっておきた い、マンションを借りているが家主が修繕

[r]