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増幅器 皮膚 電極 筋線維 運動神経細胞 神経軸索 神経筋接合部 図 1 筋電位の発生メカニズムと計測方法を示す模式図 Fig. 1 Schematic diagram of myoelectric signal generation and its detection. 細胞と筋線維には1 対多の

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Academic year: 2021

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.はじめに

筋 の 緊 張 状 態 を 推 定 す る 方 法 と し て 筋 電 図 法 (electromyography:EMG)がある.電極を通して筋の緊 張に伴って発生する電位(筋電位)を計測することによ り,電極の検出範囲にある筋が,どのタイミングで,ど の程度の強さで緊張しているかを推定することができ る.また,筋電位信号(myoelectric signal)を周波数分析 することにより,筋の疲労度を推定することもできる. この総説では,今まで筋電図を使ったことがない,あ るいは,特に原理を知ること無く指示された手順だけを 基に筋電図を計測してきたという読者を念頭におき,筋 電図の原理を理解して的確に計測し,人間工学的な研究 に役立てられるように概要を説明する.この総説あるい は引用文献を手がかりとして,電源周波数の信号(ハ ム)や,リード線や電極の動きによって生じる人工的な 変化(モーションアーチファクト)を含まない,本来の 筋電位信号を的確に計測できるようして頂ければ幸いで ある. 概略を次節以降に記すが,より詳しい内容について は文献1)を参照して頂きたい.また,イタリア,トリノ 工科大学のMerletti教授が中心となって取りまとめた, 「筋 電 図 デ ー タ を 報 告 す る た め の 標 準(Standards for

Reporting EMG Data)」がインターネット2)並びに表面筋

電図関係の論文が掲載されるJournal of Electromyography and Kinesiology誌3)に掲載されている.なお,これらの内

容を和訳したものも文献1)に記載してある.

同じくMerletti教授を含むヨーロッパの研究者が実施し たSENIAM(Surface Electromyography for the Non-Invasive Assessment of Muscles)プロジェクトのWebサイト4)にも電 極の設置位置等有益な情報が掲載されているので,参照 して頂きたい.

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.表面筋電図とは

筋電図は筋細胞が発生する活動電位を,電極を通して 検出記録したものである.筋細胞は筋の長さ方向に伸び る細長い細胞で,筋線維とも呼ばれる.この総説では, 脳からの指令で随意的に制御できる骨格筋を対象とし, 検出用電極として皮膚表面に設置した表面電極を用いる 表面筋電図(surface EMG)に限定して述べる.表面電 極以外には,注射針の中に電極を通して筋内に刺入する 針電極や,筋内に留置するワイヤ電極等があるが,こ れらは主に神経筋疾患の診断等に用いられる侵襲的な手 段なので,一般的な人間工学的用途で用いられることは ない. 骨格筋の場合,筋の収縮は中枢神経系である脳からの 指令で制御されるが,筋線維に直接刺激を送るのは脊髄 の中にある(末梢)運動神経細胞である.脳からの指令 でこの運動神経細胞が興奮すると,興奮は神経軸索を伝 わって,神経筋接合部(あるいは神経終板)に到達する. 神経筋接合部では,伝達物質であるアセチルコリンが放 出され,それを受けて筋線維の細胞膜上の興奮が開始す る.神経筋接合部は,おおむね筋線維の長さ方向中央部 に1本の筋線維あたり1カ所だけあり,そこから細胞膜上 の興奮が両側の末端に向かって伝播する(図1). 1つの運動神経細胞の軸索は末端部で枝分かれし,複 数の筋線維と神経筋接合部を持つ.すなわち,運動神経

< General remarks > Special Issues No.3:Measurement Technique for Ergonomics, Section 4:Measurements and Analyses of Bioelectric Phenomena and Others(1) Surface Electromyography for Human Factors Research, by Tadashi MASUDA.

特集③人間工学のための計測手法

第4部:生体電気現象その他の計測と解析(1)

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-表面筋電図の測定方法と人間工学への応用-

増田 正

2 1 受付:2015年10月15日 受理:2015年11月17日 2 福島大学共生システム理工学類

Faculty of Symbiotic Systems Science, Fukushima University ■総 説■

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細胞と筋線維には1対多の関係がある.1つの運動神経細 胞と,それに支配された筋線維群をまとめて,運動単位 (motor unit:MU)と呼ぶ.運動神経細胞は,互いに独立 に興奮するが,1つの運動神経細胞に支配された筋線維 群は同期的に興奮する.これによって発生する電位を運 動単位活動電位(motor unit action potential:MUAP)と いう. 筋の発揮する力を大きくすると,個々の運動神経細胞 の発火頻度(firing rate)が上昇するとともに,発火を開 始する運動単位の数が増加する(recruitment).発火を 開始する順序はおおむね決まっており,少数の筋線維を 支配する運動神経細胞がまず発火を始め,次第により多 数の筋線維を支配する運動神経細胞が興奮するというサ イズの原理(size principle)が働く. 筋電位は独立して活動する運動単位活動電位の総和と なるが,電極から近い筋線維の活動電位の影響をより強 く受ける.個々の運動単位活動電位はスパイク状の同一 波形が10 ~ 20 Hz程度の頻度で,おおむね一定間隔で発 生する信号である.複数の運動単位が独立に興奮するの で,それらの総和としての表面筋電位信号はランダム波 形となる.ただし,ごく弱い収縮時には,単一あるいは 少数の運動単位活動電位が検出できることもある.

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.表面筋電位の測定方法

3-1.電極 表面筋電位を計測するための電極として,素材や形 状,大きさ等,様々なものが用いられ,現状では特に標 準化されていない.素材としては,ステンレス,銀,銀 塩化銀等で,形状としては円形や棒状等である.心電図 用の使い捨て電極も利用可能である.小さな筋に対して は,小児用の小さな電極を用いると便利である.目的と する筋電位信号が得られれば,どのような電極を用いて も問題ないが,論文等で報告する際には,素材や形状, 大きさについて記載することが必要である2,3) 電極を設置するにあたって,皮膚と電極の間の電気的 抵抗を下げ,良好な接触状態を確保する必要がある.増 幅器によっては電極抵抗を測定する機能を有するものも あるが,抵抗を計測することが簡単にできなければ,計 測された信号のノイズ成分を見て判断することになる. 接触状態を良くするためには,電極ペーストを用いる, 電極を設置する前にアルコールで皮脂を除去する,皮膚 処理剤でこすり角質の表面を除去する,体毛を剃る等の 方法がある.最近の筋電位計測装置は,入力側を高イン ピーダンスにする等,性能が良くなっているので,あま り手間をかけなくてもきれいな信号が得られることが多 い.実際に使用する機器に応じて,対策をとることに なる. 表面筋電図は,原則として,2つの電極間の電位差と して計測する(双極導出).電極間の距離は20 mm程度が よく用いられるが,これも対象とする筋の大きさによっ ても異なる.最近では,双極電極を1体化したものも市 販されている(図2).また,3個の電極を用いて,双極 導出した信号のさらに差分(double differentiation)を取 り,一種の空間フィルタをかける電極もある.ただし, 一体型電極の場合には,電極と皮膚の間で発汗が生じる と,電極間がショートした状態になり,筋電位の振幅に 影響を与えるので,注意が必要である. 検出用電極とは別に装置の電位の基準を決めるための アース電極が必要になる.アース電極は筋のない関節部 増幅器 電極 皮膚 筋線維 運動神経細胞 神経筋接合部 神経軸索 図1 筋電位の発生メカニズムと計測方法を示す模式図 Fig. 1  Schematic diagram of myoelectric signal generation

and its detection.

図2  筋電位計測用電極の例.前置増幅器一体型双極電極 (Biometrics Ltd., UK).

Fig. 2  Example of a surface EMG electrode. This electrode has two contacts and also contains a preamplifier for differential amplification(Biometrics Ltd., UK).

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等の皮膚上に貼付ける.アース電極の設置位置はそれほ ど厳密に決める必要はないが,大きめの電極を用いてイ ンピーダンスを下げるとハムの混入等を低減できる. 3-2.電極の設置位置 計測対象となる筋が決まったとして,電極を筋のどの 部位に設置するかが問題になる.教科書的には筋が一番 太くなっている筋腹上に筋線維の走行方向に沿って設置 するとされており,多くの場合には,それで問題は生じ ない.しかしながら,運動に伴って関節角度が変化する 場合には,皮膚上に貼付けた電極と皮下の筋の相対的な 位置関係が変化するので,運動範囲全般に渡って,電極 が筋の活動を検出できる位置にあることを確認する必要 がある.運動範囲が大きいと,電極下から筋が移動し, 電極が腱の上に移動する場合もありえる.筋に力を入れ て皮膚上から触診し,筋の緊張状態を確認すると良い. 前腕のように小さな筋が密集している場所に電極を貼 付ける場合には,どの筋から電位を導出しているのかが 分かりにくい.特に手先の回内外運動が伴う場合には, 皮膚と筋の相対的な位置がずれるため,目的とする筋以 外からの電位を導出したり,他の筋からの電位が本来の 筋からの信号に重畳している可能性もでてくる. 電極位置に関しては,神経筋接合部との関係も重要で ある.先に述べたように,筋電位は神経筋接合部から開 始し,両端の腱に向かって伝播するため,神経筋接合部 を挟んで双極電極を設置した場合には,2つの電極で常 に同じ電位値を観測することになり,差動で出力される 振幅は0になる.神経筋接合部は,上腕二頭筋(力こぶ の筋)や僧帽筋(肩から背中の筋)等,筋によっては神 経支配帯と呼ばれる狭い範囲に限局している場合があ り,このような筋では,実際に電極設置位置によっては 振幅が極端に小さくなることがある.運動により関節角 度が変化する場合には,神経支配帯が双極電極のちょう ど中央部に位置した時に振幅が小さくなる.これを収縮 力の減少と誤って解釈することのないように注意する必 要がある. 神経支配帯の位置は,多点表面電極列によって推定す ることができる.実際問題としては,計測毎に神経支配 帯の位置を確認することは困難であろうから,上記の振 幅の減少のように,常識的に考えておかしい現象に遭遇 した時に,誤った解釈をしないように注意し,必要なら ば,多点表面電極列を用いて,改めて詳しく計測する. 3-3.増幅器とフィルタ 表面筋電位の信号は,通常大きくても数mVであり, 生体側のインピーダンス(電気抵抗)も大きいので,直 接AD変換器を通して計算機に取り込んだり,データレ コーダに記録することはできない.そのため,生体電位 用の増幅器を用いる.筋電位専用の増幅器もあるが,心 電図や脳波等も対象とした汎用の生体増幅器を用いても 良い.ただし,脳波や心電図とは,電位の振幅も周波数 帯域も異なるので,適切な値に増幅器を設定する必要が ある.1000倍の増幅率(ゲイン)にすれば,1 mVの信号 が1 Vになる.増幅率を大きくし過ぎて,AD変換器の入 力電圧範囲を超えないように注意する必要がある.最大 収縮等を行って,増幅器の信号が入力範囲に収まってい ることを確認しておく. 増幅器に付属するフィルタの高域側の周波数は,筋電 位の周波数成分をカバーするように設定する必要があ る.通常は500 Hz程度である.可能ならば,計測した信 号を周波数分析して確認しておけば良いが,筋電位の振 幅情報から筋の活動度を推定する目的であれば,そこま で詳しく調べる必要はないであろう.筋を弛緩した状態 で,周波数の高い,あるいは不規則な信号が見られる場 合には,増幅器等の機器の不具合か,外部からの何らか の電気的なノイズを検出している可能性があるので,こ れらの原因を取り除く. 周波数の下限については,5 Hz程度の小さめに設定し て,必要ならば計算機に取り込んだ後に信号処理でフィ ルタをかける.あるいは増幅の段階でモーションアーチ ファクト等,~ 30 Hz以下の周波数成分を除去すること も考えられる.身体の運動を伴うような状況では,電極 や電極から増幅器までのリード線が動いて,基線の揺ら ぎ等の低周波のノイズが入る場合がある.これらについ ては,電極やリード線をバンドや粘着テープで固定する ことが基本である.どうしてもノイズが除去できない場 合には,フィルタで信号の低周波成分を除去することも 有効である.最近の製品では双極電極を一体化した上で, さらに前置増幅器(プレアンプ)の回路も電極に内蔵し てリード線の動きによるアーチファクトの混入を防ぐ製 品も多くなっている. 電極の接触状況が悪い,あるいは,周囲の電気的な環 境が悪いと,電源周波数(50あるいは60 Hz)のハムノイ ズが混入する場合がある.この場合,電極の接触状況や 周囲の電気的な環境を改善することが第一である.次善 の対策として,電源周波数を除去するハムフィルタの使 用も対策の1つとなる.いずれにしても,どのようなフィ ルタを使用したのかを記録し,論文等の報告に記載する 必要がある. 研究の目的によっては無線式の計測装置(テレメー

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タ)を用いる場合もある.一般的に無線式の場合には, ゲインや周波数帯域の選択範囲が狭い場合もあるので, あらかじめ確認しておく必要がある.最近では,電極内 に電池を内蔵し一体化した製品も販売されている.この ような製品では,電池の持続時間も重要になる. いずれにしても,常に増幅器から出力される信号を確 認していないと,整流平滑化等の処理をした信号からは 本来の筋電位以外のノイズ信号の混入を識別することが できないので,注意が必要である. 3-4.計算機への取り込み 現在では,増幅した筋電位信号はAD変換器を通して 計算機に取り込み,計算機内で処理することが普通であ り,記録紙に波形を書き出すことはまずない.AD変換 にあたっては,サンプリング周波数が問題になる.ナイ キストの原理で知られるように,必要な最低周波数は 元の信号の周波数成分の2倍であり,元の筋電位信号が 500 Hzまでの成分を持っていれば,サンプリング周波数 は1000 Hzとなる.ただし,増幅器のフィルタの高域周 波数が500 Hzだった場合,周波数成分は500 Hzから高域 になるに従って徐々に減少するので,500 Hzを境に周波 数成分が無くなる訳ではない. 計算機に取り込むためのハードウェアとしては,筋電 位計測システムとして一体化されている場合や,動作計 測装置の外部入力,あるいは汎用のAD変換器等,いろ いろな状況が考えられる.研究の目的やハード・ソフト に関する知識,予算額等を勘案して決定することにな る.一般的に,一体化されたシステムでは,取り扱い方 だけを修得すれば,それほど手間をかけないで目的の結 果が得られるものの,一方で,予め提供された以外の機 能を用いようとすると苦労する,あるいはあきらめるこ とになる. 反対に,汎用的なシステムでは,できることの制限は 少なくなるが,自身でプログラムを作成する等の必要が 出てくる.National Instruments社の提供するAD変換器と LabVIEWソフトを組み合わせると,比較的手軽に汎用 的な計測システムを構築でき,後述する平滑化等の処理 も容易に実現できる.しかしながら,これらを使いこな すには一定のプログラミング能力とプログラムの作成時 間が必要になるので,自身の能力と時間的な余裕を基に 判断することになる. AD変換に当たっては,ビット数も問題になるが,12ビッ ト以上であれば問題ない.なお,これらの情報も報告に 記載する必要がある.

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.表面筋電位の信号処理

4-1.振幅情報 筋電図から筋の緊張度を知りたい場合には,筋電位信 号の振幅情報が解析の対象となる.振幅情報を抽出する ためには,筋電位信号を整流したのち,低域通過フィル タを通して平滑化する.整流のためには,絶対値を計算 するか(average rectified value:ARV),2乗して平滑化 した後に平方根をとって振幅に戻す(root mean square: RMS)(図3,4). 平滑化においては,どの程度の時間範囲あるいは周波 数で平滑化を行うかが問題になる.表面筋電位信号はラ ンダムな信号なので,平滑化が十分でないと変動が大き く残った信号になる.しかしながら,実際に筋が発揮し ている張力が筋電位と同様に細かく変動している訳では ない.一方で,平滑化をし過ぎると,筋張力の変動に追 いつかなくなり,実際の筋張力の変動よりもさらになだ らかな波形になる.この辺は,発揮する筋力の変動の程 度と見比べながら適切な値を探索するしかない.どちら かと言えば,筋電位の振幅が完全に筋張力の変化に一致 しないことは分かっているので,筋電位の変動が残って も,元の筋電位信号の包絡線から逸脱しない程度の平滑 化に留めた方が良い.また,歩行運動等の周期的な動作 であれば,何回か繰り返した動作の平滑化筋電図を,時 2 1 0 -1 -2 EMG mV 0 1 2 3 4 Time[s] 図3 表面筋電図の例

Fig. 3 Example of a surface EMG signal. 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0 1 2 3 4 Time[s] RMS mV 図4 筋電位の振幅情報.図3の波形からRMSとして求めた. Fig. 4  Amplitude of a surface EMG signal. This waveform

represents the root mean square(RMS) of the EMG signal shown in Fig. 3.

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間軸を揃えてさらに平均することもできる. 平滑化において,単にフィルタを通しただけでは,元 の信号に対して時間遅れが生じるので,振幅がピークを 示した時間を知りたい際には問題になる.このような場 合には,時間の正の向きにフィルタを一旦通した後,時 間を反転させて再度同じフィルタに通すことにより,時 間遅れを打ち消すことができる(zero phase shift filter).

逆に,このようなフィルタをかけると,信号の立ち上 がり時等で,実際には信号が0に近い時間に振幅が上昇 することになる.振幅のピーク時間を知りたいのか,あ るいは活動の立ち上がりを見たいのかによって使い分け る必要がある. 目的とする情報がARVやRMSのような振幅情報だけで あっても,処理する前の筋電位の原波形は保存しておい た方が良い.分析の結果,振幅情報にアーチファクトが 混入していることが疑われても,原波形が残っていなけ れば確認することができない.現在の計算機では1 kHz でサンプリングした数秒~数分の,複数チャンネルの筋 電位信号を保存しても,それほど問題になるような情報 量にはならない. 4-2.周波数情報 筋電位はランダム信号なので,周波数分析を用いて変 化を解析することも有効である.筋の持続的な収縮に よって生じる局所的筋疲労にともなって,筋電位信号の 周波数成分が低周波側に移動することが知られており, この性質を利用して筋疲労を定量化できるものと考えら れている5).筋電位が低周波化する原因としては,いろ いろな要素が指摘されているが,直接的に関係するの が,筋線維伝導速度である.筋線維伝導速度とは,筋線 維上を活動電位が伝わる速度で,通常は4 m/s程度であ り,筋の持続的な収縮にともなって低下する. 筋電位の周波数成分の特徴量としてよく使われるもの は,平均周波数(mean frequency)と中央周波数(median frequency)である.平均周波数は,筋電位のパワースペ クトル分布の平均値で,中央周波数はスペクトル分布の 面積を二分する周波数である.どちらを用いても良いが, 高周波のノイズが筋電位に含まれていると平均周波数の 方が影響を受けやすいとされている.

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.振幅値の規格化

筋電位の振幅については,筋に力を入れて緊張度が高 くなるほど,振幅が大きくなるという単調増加の関係が ある.この関係を用いて,筋電位振幅から筋の緊張度を 推定するのであるが,異なった筋の間の比較や,異なっ た被験者間あるいは同一の被験者内であっても異なった 計測時の間の比較をどうするかという問題が生じる.異 なった被験者では,同じように電極を貼付けても,筋肉 の量や,皮膚や皮下脂肪の厚さの違いによって筋電位の 電圧値は大きく異なる.同じ被験者であっても,別の日 に計測をやり直すと,電極の位置や間隔が微妙に異なっ ていて同じ振幅値が得られるとは限らない. 基本的には,電極の装着毎に,対象とする筋に対して 最大随意収縮(maximal voluntary contraction:MVC)を 行わせ,その時に記録した筋電位の振幅値を100%とし て比較する.ただし,筋電位振幅と筋張力の間には,単 調増加の関係はあるが,線形関係は必ずしも成立しない ので,筋電位の振幅値が50%であっても,筋張力が50% になっていることは保証されない. 最大筋力を発揮する場合には,できるだけ速やかに力 をいれ,最大を2 ~ 3秒間持続すると良い.これを,十 分な休憩時間を挟んで3回程度繰り返し,一番大きな値 を採用する.徒手的に筋力を発揮させる際の姿勢等につ いては,徒手筋力テストのテキストを参考にすると良 い.あるいはサイベックス等の筋力測定装置を用いる場 合には,装置に付属の資料を参考にアタッチメント等を 取り付け,関節角度を設定した上で計測を行う.最大筋 力の発揮においては,対象とする筋だけに力を入れ,他 の筋の寄与をできるだけ排除する必要があるが,実際に は共同で働く筋もあるので難しい. 通常の生活において,最大筋力を特定の筋で発揮する ことは多くはないため,いきなり最大筋力を発揮するよ うに指示してもできない場合もあり得る.できるだけ正 確な値を知る必要がある場合には,姿勢等も指示して, 計測前に練習を行わせる必要がある. 最大筋力の発揮ができない場合もある.例えば高齢者 等で,最大筋力の発揮によって関節や靱帯等に傷害が発 生する可能性があるような場合である.このような場合 には,最大筋力ではなく,例えば5 kgfの負荷をかける等, 一定の絶対値の負荷に対する筋電位振幅を記録すること もできるが,異なる被験者間での比較を行う場合にはさ らに注意を要することになる.

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.人間工学への応用

人間工学分野においては,筋緊張の程度と持続時間が 主な解析対象となる.筋電位の振幅が大きく,筋の緊張 度が高い場合には,一般的に身体への負担が大きいと考 えられる.一方で,たとえ筋の緊張度が低くても,緊張

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の持続時間が長い場合には,やはり,大きな身体負担が あると推測される.これらの情報に基づいて,作業負担 や操作負担を評価し,負担の軽減につなげて行くことに なる. 例えば,上肢を使ってレバー操作を行った際に,体の どの部位に,どの程度の筋緊張が生じているかを定量化 する際に筋電位を用いることができる.このような場 合には,どこに電極を取り付けるかが問題になる.可能 性のある部位にできるだけ多く電極を取り付けて解析す ることも可能であるが,電極の取り付けに時間を要する し,増幅器のチャンネル数の制限もあるかも知れない. このような場合には,まず予備的に作業を行わせ,被験 者の自覚的な筋負担を聞き出したり,あるいは作業姿勢 から筋負担が予想される筋を予測して対象筋を選択する 必要がある. 持ち上げ動作における腰部の負担を調べる場合等で は,脊柱起立筋からの筋電位を計測することになる.こ の際,筋電位の振幅が小さいほど負担が少なく,より良 い動作という訳には行かない.筋が力を発揮して脊柱を 支えないと脊柱の他の部位に負担がかかり,腰痛の原因 になることも考えられる.このような場合には,筋電図 だけではなく動作計測も同時に行い,関節にかかるトル クや筋力を計算し,これらと筋電位から推定される筋力 を比較する必要がある. 筋疲労に関しては,例えばキーボード操作のような上 肢作業において,僧帽筋(肩から背中の筋)の筋電位信 号を計測し,持続的な筋緊張にともなって筋電位の周波 数成分がどのように変化するのかを分析するような応用 が考えられる.ただし,筋電位の周波数の変化だけを もって筋疲労について議論することはできないので,自 覚症状や,筋の硬さ等多面的な指標を利用して総合的に 解析する必要がある.

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.おわりに

筋電位計測については,基本的な原理は古くから変 わっていないが,製品としては,増幅器一体型電極や, さらにそれを無線化したもの,AD変換まで内蔵してデ ジタル通信で信号を送信するもの,加速度等との同時計 測も行うもの等,利便性を追求したものが開発され,実 際に販売されている.また,計算機用の処理ソフトも, ハードウェアと一体化して販売されているものも多い. 価格的な問題は残るが,特段の注意を払わなくても筋電 位信号を計測し,付属ソフトで信号処理することは容易 になっている.しかしながら,安易に利用した結果,学 会発表等で基線の動揺した筋電位信号波形が発表されて いる例を目にすることもある. 計測機器の性能は十分に良くなっているので,筋電位 の的確な計測にあたっては,計測のノウハウの比重は相 対的に低下し,筋電位の発生機構や得られた信号の的確 な解釈がより重要になってきている.本稿を機会として, これらの点に改めて注意し,筋電図を有効に使用して頂 けば幸いである. 参考文献 1) 木塚朝博, 増田正, 他:表面筋電図, 東京電機大学出版 局, 東京, 2006

2) International Society of Electrophysiology and Kinesiology(ISEK): Standards for Reporting EMG Data, Retrieved September 7, 2015, available from http://www. isek-online.org/standards_emg.html

3) Standards for Reporting EMG data, Journal of Electromyography and Kinesiology, 9(1), III-IV, 1999 4) SENIAM project: Recommendations for sensor

locations on individual muscles, Retrieved September 7, 2015, available from http://www.seniam.org/

5) Basmajian JV, De Luca CJ: Muscles Alive: Their Functions Revealed by Electromyography, Williams & Wilkins, Baltimore, 1985 著者情報 増田正(ますだただし) 1976年東京大学工学部卒.工学博士.㈱独 産業技術総合研究所,東京医科歯科大学勤 務を経て,2011年より福島大学共生シス テム理工学類教授.専門領域:筋電位を中 心とした生体電位計測,人体動作計測,人 体運動のモデリングほか.バイオメカニズ ム学会ほか会員. 連絡先:[email protected]

Fig. 2  Example of a surface EMG electrode. This electrode  has  two  contacts  and  also  contains  a  preamplifier  for  differential amplification(Biometrics Ltd., UK).
Fig. 3 Example of a surface EMG signal.

参照

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