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得 られず 不 安 やうつ 症 状 が 増 悪 し,QOL の 低 下 を 引 き 起 こすと 考 えられている 5 7).この 現 状 は, 痛 みの 治 療 に おいて, 痛 み 以 外 の 合 併 症 状 も 考 慮 に 入 れて 治 療 してい く 必 要 性 を 示 している( 図 1).

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Academic year: 2021

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はじめに

痛みは感情ではなく,危害を「感受」し,生態を「防 御」する反応であり,生体にとってなくてはならない感 覚である.痛みは急性痛と慢性痛に大別されるが,急性 的な痛み反応は,危害から生体を防御するシグナルであ り,「生体防御」に関与する重要なバイタルサインである. これに対して慢性痛では,その病変部位が治癒している, あるいは修復に向かっている状態にも関わらず断続的に 痛みが認められる症状を示す.2010年に米国で実施され た集団ベース研究の報告によると,人口の約1/3が何ら かの慢性,再発性,または長期的な痛みを訴えているこ とが明らかになっている1).世界中で多くの人々に影響 を与えている慢性痛は,公衆衛生上の課題となっている 一般的な疾患といえる. 2013年のPain 誌に掲載されたcommentaryで指摘さ れているように2),慢性痛患者において最も問題となる のは,うつや不安障害などの精神症状,睡眠障害などの 合併疾患である.痛みが明らかな身体疾患によって引き 起こされ,精神症状は二次的な反応として引き起こされ た場合でも,その精神症状が病態を複雑にし,痛みを増 悪させる.慢性痛患者において共通して訴えがみられる 睡眠障害は3),痛みの重症度と密接に関係していること がわかっており,このような睡眠の質の悪化が,痛みを さらに増悪させている可能性も指摘されている.また, 精神症状の増悪によって睡眠障害が誘発され,逆に長く 続く睡眠障害によって精神症状や痛みのさらなる増悪が 引き起こされている可能性も考えられている4).慢性痛 患者はこのような負のスパイラルにより,十分な睡眠が

慢性痛と睡眠障害

Chronic Pain and Sleep Dysregulation

痛みは本来,組織損傷を避けるための警告反応としてなくてはならない感覚である が,慢性化すると痛みを提供するだけの病態像そのものになってしまう.こうした痛み の難治化・慢性化は,やがてうつ症状や不安などの情動障害や睡眠障害を引き起こし, QOLの著しい低下をもたらす.痛みの治療において,このような痛み以外の合併症状 も考慮に入れて治療していく必要性があり,そのためには基礎研究による原因の究明 が必要である.筆者らは神経障害性痛モデルマウスにおいて,帯状回におけるグルタ ミン酸遊離の亢進,アストロサイトの形態変化とGAT-3 細胞膜移行に伴うGABA取 り込み亢進が引き起こされていることを明らかにした.このGABA神経機能低下が, 慢性痛患者における睡眠障害の一因である可能性が示唆された. 星薬科大学薬理学教室

山下 哲

Ⅰ)

成田 年

Ⅱ) 星薬科大学薬理学教室

(2)

得られず不安やうつ症状が増悪し,QOLの低下を引き起 こすと考えられている5 〜 7).この現状は,痛みの治療に おいて,痛み以外の合併症状も考慮に入れて治療してい く必要性を示している(図1).

慢性痛と睡眠障害

慢性痛下における睡眠障害は,単に痛みが起きている ことによる生理的な拮抗であると考えられてきた.しか しながら最近では,痛みのコントロールが良好な患者に おいても,過去に激しい痛みを経験した場合,睡眠障害 を訴えるケースがあることから,慢性痛下における睡眠 障害は単に痛みに起因する生理的な拮抗だけが結果では ない可能性が考えられている. このような慢性痛患者の痛み病態とそれに併存する睡 眠障害の双方を効果的に治療するために,慢性痛病態の 病因のより良い理解が不可欠である.慢性痛下において 脳内で何が起こり,何が睡眠障害の原因なのか,様々な 動物モデルを用いて,この問題を解決すべく多くの基礎 研究が行われている.本稿ではその一端として,われわ れの研究内容を紹介する.

神経障害性痛下における,

急性熱負荷による帯状回での神経機能変化

前帯状回領域は,痛みの上行性経路の最終地点の 1 つ である.前帯状回は扁桃体との強い線維連絡があること から,不安や抑うつなどの情動行動を司るといわれてお り,痛みの認知にも重要な部位であることが知られてい る.そこで,慢性痛下における前帯状回の神経機能変化 を中心に研究した. 侵害刺激が脊髄に入力されると,様々な神経伝達物質 が放出される.その 1 つが,グルタミン酸に代表される 興奮性アミノ酸である.グルタミン酸は,中枢では学習, 記憶,思考などに関わるシナプス可塑性や神経回路形成 など,様々な神経機能に重要な役割を果たす.そこで, 慢性痛下の痛覚伝達機序について検討を行う目的で,坐 骨神経を半周程度結紮して作製した神経障害性痛モデル を用いて,帯状回領域におけるグルタミン酸遊離量の変 化を検討したところ,坐骨神経結紮 7 日目に熱負荷を与 えた群において,著明かつ有意なグルタミン酸遊離量の 増加が認められた8)

神経障害性痛刺激による帯状回での

アストロサイト活性化

痛み刺激を負荷させたげっ歯類の帯状回領域におい て,グリア細胞の中でも大部分を占めるアストロサイト が突起伸展などの形態変化を引き起こすことを明らかに した9, 10).また,培養細胞を用いた検討において,突起 伸展の認められるアストロサイトにグルタミン酸を曝露 し,細胞内カルシウム応答の変化について検討を行った 結果,通常のアストロサイトと比較して,グルタミン酸 による細胞内カルシウム応答の著明な増強が認められ た.帯状回領域において神経障害性痛により活性化した 慢性痛 睡眠障害 ストレス うつ うつ患者はストレスに脆弱である ストレスに より睡眠が 障害される 睡眠障害はストレッサー の一種である 慢性痛患者は 睡眠障害を 引き起こす 痛みはストレッサーの 一種である ストレスに より慢性痛の 症状は悪化する 不眠により 痛みが悪化 する 慢性腰痛症 の患者では うつの発症 が高い うつ患者の痛みに対する 感受性は亢進する うつ患者は 睡眠障害に 陥りやすい 睡眠不足に 陥るとうつが 悪化する ストレスはうつ症状を惹起する 図1 痛み,うつと睡眠障害の相互修飾 痛み,うつ,ストレス,さらに睡眠障害の関連を示す報告は数多くあり,それぞれ互いに密接に関与していると考えられる.

(3)

アストロサイトは,シナプス伝達を変化させ,神経伝達 効率に影響を与えている可能性が示唆された(図2).

神経障害性痛による睡眠障害の発現機構

筆者らは実際に,神経障害性痛モデルにおいて,脳 波測定(EEG)および筋電図計測(EMG)を用い,サーカ ディアンリズムの変化を検討することにより,睡眠障害 が引き起こされることを明らかにした11).さらに,大脳 皮質のGABA神経系が,睡眠・覚醒に重要な役割を果 たすことが知られていることから12, 13),帯状回のGABA 神経系に着目し検討を行った.その結果,GABAの取 り込みに関与するGABAトランスポータの帯状回領域に おける発現変化を免疫組織化学的染色法を用いて検討し たところ,坐骨神経を結紮したマウスの帯状回領域にお いて,GABAトランスポータの著明な増加が認められ, さらにこの増加したGABAトランスポータは,帯状回 領域に発現するグリア細胞線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein:GFAP)陽性アストロサイト

の伸展した突起上に局在していることが明らかになっ た.また,神経障害性痛下における帯状回領域の細胞外 GABA濃度を測定したところ,GABAトランスポータの 増加に呼応した形で,GABA再取り込みの増加が認めら れた.さらに,帯状回領域にGAT-3インヒビタである SNAP-5114を微量注入した際のEEG/EMGを測定した. その結果,SNAP-5114を微量注入することにより,結 紮群においてみられた睡眠障害の改善が認められた.一 方,マウス大脳皮質由来初代培養グリア細胞にグルタミ ン酸を加えた後にGAT-3の細胞内挙動を観察した結果, アストロサイトに存在するGAT-3の細胞膜への移行が 観察された.前述のように,神経障害性痛下に熱負荷を 与えた際に,帯状回領域におけるグルタミン酸遊離量の 増加が認められたことから,神経障害性痛下における帯 状回領域におけるグルタミン酸の増加が,アストロサイ トを刺激し,その結果GAT-3の細胞膜移行を誘導して, 細胞外GABA濃度の低下を引き起こしている可能性が 示唆された.これらの結果より,神経障害性痛により抑 帯状回領域 GFAP陽性アストロサイト GFAP陽性アストロサイト グルタミン酸に対するカルシウム応答 50sec F/F0=1 グルタミン酸100μM 正常細胞 活性化細胞 持続的な痛み刺激 アストロサイトの活性化 アストロサイトの形態変化 アストロサイトのグルタミン 酸に対する反応性の上昇 (反応性アストロサイト) グルタミン酸100μM 図2 帯状回領域におけるアストロサイトの形態変化と活性化 GFAP:グリア細胞線維性酸性タンパク質 痛み様症状時 慢性痛時 正常時 正常時

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図3 帯状回領域における睡眠障害発症の分子機構 グルタミン酸遊離促進 アストロサイト形態変化 GAT-3 の細胞膜移行 GABA 神経系の機能低下 睡眠障害 マウス大脳皮質由来 初代培養グリア細胞 グルタミン酸によるGAT-3の膜移行 GAT-3 GAT-3 対照処置 グルタミン酸処置 領域におけるグルタミン酸遊離量の増加 マイクロダイアリシス法を用いた帯状回 In vivo 80 90 100 110 120 130 相対比 %(0 分に対す る) 刺激後時間(分) −30 −20 −10 0 10 20 30 40 50 60 *** ** 非結紮群 結紮群 帯状回 GABA神経 GAT-3 アストロサイト グルタミン酸神経 ①グルタミン酸の遊離促進 ②突起伸展などの形態変化 ③GAT-3 の細胞膜移行 ④GABA 取り込み亢進 GABA濃度低下 制性GABA神経系の伝達効率の低下が,睡眠障害の一 因となる可能性が推察される(図3)14)

おわりに

前述のように,慢性痛モデルでみられる睡眠障害は, 皮質シナプスにおける神経伝達物質バランスの調節不全 がその原因の 1 つである.この他にも,様々な知見があ るが,慢性痛下において,脳神経,特に情動反応に関与 する脳内部位の変化が認められている.慢性的な痛み刺 激が,脳内に多大な影響を与え,不安や抑うつ症状など の情動障害や睡眠障害を引き起こし,それらの症状がさ らに痛みを増悪させるといった悪循環が形成されている 可能性が考えられるが,より良い慢性痛の治療戦略を目 指すために,慢性痛に伴ううつ症状や睡眠障害がどのよ うなメカニズムで引き起こされるのか,さらなる研究の 発展が期待される.また,鎮痛薬の効果を痛みそのもの に対する効果だけでなく,睡眠障害やうつ症状といった, 痛みに伴う他の合併症への有効性も解析する必要もある といえる.

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■参考文献

1)Johannes CB, Le TK, Zhou X, et al.:The prevalence of chronic pain in United States adults:results of an Internet-based survey. J Pain 11:1230-1239, 2010

2)Araujo P, Tufik S, Andersen ML:Animal models of pain: best behavioral analysis for better translational research. Pain 154:968-969, 2013

3)O'Brien EM, Waxenberg LB, Atchison JW, et al.:Negative mood mediates the effect of poor sleep on pain among chronic pain patients. Clin J Pain 26:310-319, 2010

4)Imbe H, Iwai-Liao Y, Senba E:Stress-induced hyperalgesia: animal models and putative mechanisms. Front Biosci 11: 2179-2192, 2006

5)Bloom JR, Stewart SL, Chang S, et al.:Then and now:quality of life of young breast cancer survivors. Psychooncology 13:147-160, 2004

6)Spiegel D, Sands S, Koopman C:Pain and depression in patients with cancer. Cancer 74:2570-2578, 1994

7)仙波恵美子:慢性痛による情動障害・睡眠障害と脳報酬系. ペ インクリニック 34:611-623, 2013

8)Niikura K, Furuya M, Narita M, et al.:Enhancement of glu-tamatergic transmission in the cingulate cortex in response to mild noxious stimuli under a neuropathic pain-like state. Synapse 65:424-432, 2011

9)Kuzumaki N, Narita M, Hareyama N, et al.:Chronic pain-induced astrocyte activation in the cingulate cortex with no change in neural or glial differentiation from neural stem cells in mice. Neurosci Lett 415:22-27, 2007

10)Narita M, Kuzumaki N, Kaneko C, et al.:Chronic pain-induced emotional dysfunction is associated with astrogliosis due to cortical delta-opioid receptor dysfunction. J Neurochem 97: 1369-1378, 2006

11)Takemura Y, Yamashita A, Horiuchi H, et al.:Effects of gabapentin on brain hyperactivity related to pain and sleep disturbance under a neuropathic pain-like state using fMRI and brain wave analysis. Synapse 65:668-676, 2011 12)Gottesmann C:Brain inhibitory mechanisms involved in basic

and higher integrated sleep processes. Brain Res Brain Res Rev 45:230-249, 2004

13)Kilduff TS, Cauli B, Gerashchenko D:Activation of cortical interneurons during sleep:an anatomical link to homeostatic sleep regulation? Trends Neurosci 3:10-19, 2011

14)Narita M, Niikura K, Nanjo-Niikura K, et al.:Sleep disturb-ances in a neuropathic pain-like condition in the mouse are associated with altered GABAergic transmission in the cingulate cortex. Pain 152:1358-1372, 2011

図 3   帯状回領域における睡眠障害発症の分子機構グルタミン酸遊離促進アストロサイト形態変化GAT-3 の細胞膜移行GABA 神経系の機能低下睡眠障害マウス大脳皮質由来初代培養グリア細胞グルタミン酸によるGAT-3の膜移行GAT-3GAT-3対照処置グルタミン酸処置 領域におけるグルタミン酸遊離量の増加 マイクロダイアリシス法を用いた帯状回In vivo 8090100110120130相対比%(0分に対する) 刺激後時間(分) −30 −20 −10 0 10 20 30 40 50 60*****非結

参照

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