ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著
『ドイツ伝説集』試訳(その二)
鈴木
滿
訳・注
*凡例 1.ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著『ドイツ伝説集』 (一八五三) (略称をDSBとする)の訳・注である本稿 の底本には次の版を使用。 Deutsches Sagenbuch von Ludwig Bechstein. Mit sechzehn Holzschnitten nach Zeichnungen von A. Ehrhardt.Leipzig, Verlag von Georg Wigand. 1853. ; Reprint. Nabu Press.
初版リプリント。ちなみに一〇〇〇篇の伝説を所収。 2.DSB所載伝説の番号・邦訳題名・原題は分載試訳それぞれの冒頭に記す。 3. ヤ ー コ プ と ヴ ィ ル ヘ ル ム の グ リ ム 兄 弟 編 著『 ド イ ツ 伝 説 集 』( 略 称 を D S と す る ) を 参 照 し た 場 合、 次 の 版 を 使用。
Deutsche Sagen herausgegeben von Brüdern Grimm. Zwei Bände in einem Band. München, Winkler Verlag. 1981.
Vollständige Ausgabe, nach dem Text der dritten Auflage von 1891
. ちなみに五八五篇の伝説を所収。 なお稀にではあるが、DSの英語訳である次の版(略称をGLとする)も参照した。 The German Legends of the Brothers Grimm. Vol.1/2. Edited and translated by Donald Ward. Institute for the
Study of Human Issues. Philadelphia, 1981.
4.DSB所載伝説とDS所載伝説の対応関係については、分載試訳冒頭に記すDSBの番号・邦訳題名・原題の 下に、ほぼ該当するDSの番号・原題を記す。ただし、DSB所載記事の僅かな部分がDS所載伝説に該当する場 合はここには記さず、本文に注番号を附し、 「DS***に詳しい」と注記するに留める。 5.地名、人名の注は文脈理解を目的として記した。史実の地名、人名との食い違いが散見されるが、これらにつ いては殊更言及しないことを基本とする。ただし、注でこれが明白になる分はいたしかたない。 6. 語 ら れ て い る 事 項 を、 日 本 に 生 き る 現 代 人 が 理 解 す る 一 助 と な る か も 知 れ な い、 と、 訳 者 が 判 断 し た 場 合 に は、 些 細 に 亘 り 過 ぎ る 弊 が あ ろ う と も、 あ え て 注 に 記 し た。 こ う し た 注 記 に お け る 訳 者 の 誤 謬 へ の ご 指 摘、 お よ び、このことについても注記が必要、といったご高教を賜ることができれば、まことに幸いである。 7.伝説タイトルのドイツ語綴りは原文のまま。 8.本文および注における〔 〕内は訳者の補足である。
*分載試訳(その一)の伝説
一
ドイツの大河ラインの話
Vom deutschen Rheinstrom.
二
スイスの民の起源
Des Schweizervolkes Ursprung.
*DS514 Auswanderung der Schweizer.
三 聖 ザンクト ガルス Sanct Gallus. 四 聖 ザンクト ガレンの修道士たちが祈りを捧げて 葡 ワ イ ン 萄酒 を授かる
Die St. Galler Mönche erbeten Wein.
五 ダゴバートの 徴 しるし Dagoberts Zeichen. *DS439 Dagoberts Seele im Schiff. / *DS440 Dagobert und seine Hunde. 六 テ ル 伝 説 Die Tellensage. *DS298 Die drei Telle. / *DS515 Die Ochsen auf dem Acker zu Melchtal. /
*DS516 Der Landvogt im Bad. / *DS517 Der Bund im Rütli./ *DS518
Wilhelm Tell. 七 ル ツ ェ ル ン の ホ ル ン と 殺 害 の 夜 Luzerner Hörner und Mordnacht. *DS519 Der Knabe erzählt , s
dem Ofen. / *DS520 Der Luzerner Harschhörner.
八
ホーエンザクスの殿たち
Die Herren von Hohensax.
九 イ ー ダ ・ フ ォ ン ・ デ ア ・ ト ッ ゲ ン ブ ル ク
Ida von der Toggenburg.
*DS513 Idda von Toggenburg.
一〇 ピラトゥスと 群 ヘ ー ル ド マ ン ド リ れなす小人
Der Pilatus und die Herdmanndli.
*DS150 Die Füße der Zwerge.
一一 獣と魚を守る 山 ベ ル ク マ ン ド リ の小人
Die Bergmanndli schützen Heerden und Fische.
*DS302 Der Gämsjäger. 一二 群 ヘ ー ル ド マ ン ド リ れ な す 小 人 の 退 去 Die Herdmanndli ziehen weg. *DS148 Die Zwerge auf dem Baum. / *DS149
Die Zwerge auf dem Felsstein.
一三 デュルスト Der Dürst. *DS 172 Der wilde Jäger Hackelberg. / *DS270 Der Türst, das Posterli
und die Sträggele. / *DS312 Die Tut-Osel. 一四 有 ド ラ ッ ヘ 翼龍 たちと 無 リ ン ト ヴ ル ム 翼龍 たちの話
Von Drachen und Lindwürmen.
*DS217 Der Drache fährt aus.
一五 ヴ ィ ン ケ ル リ ー ト と 無 リ ン ト ヴ ル ム 翼 龍 Winkelried und der Lindwurm. *DS218 Winkelried und der Lindwurm. / *DS220 Das Drachenloch. 一六 カステレン 高 ア ル プ 原牧場 Kastelen Alpe. 一七 お ブリューメリス 花の 高 ア ル プ 原牧場 Blümelis Alpe. *DS93 Blümelisalp. 一八 マ ッ タ ー ホ ル ン に 現 れ た 永 遠 の ユ ダ ヤ 人 Der ewige Jude auf dem Matterhorn. *DS344 Der Ewige
Jude auf dem Matterhorn. / *DS345 Der Kessel mit Butter.
一九 巖 い わ か べ 壁 の聖母
Mutter Gottes am Felsen.
*DS348 Das Muttergottesbild am Felsen.
二〇 動 物 た ち の 楽 園 Das Paradies der Thiere. *DS300 Die Zirbelnüsse. / *DS301 Das Paradies der Tiere. 二一 悪 トイフェルスブリュッケ 魔の橋 Die Teufelsbrücke. *DS337 Die Teufelsbrücke. 二二 牡 シ ュ テ ィ ー レ ン バ ッ ハ 牛の小川 Der Stierenbach. *DS143 Der Stierenbach. 二三 よ ベ ッ サ ー シ ュ タ イ ン り良き石 Der Besserstein. 二四 十 ク ロ イ ツ リ ベ ル ク 字架山 Der Kreuzliberg. *DS340 Der Kreuzliberg. 二五 骰 ヴュルフェルヴィーゼ 子が原 Die Würfelwiese. 二六 バーゼルの時の鐘
Die Basler Uhrglocke.
二七 アウグスト近郊なる 異 ハ イ デ ン ロ ッ ホ 教徒の洞窟 の 蛇 乙 女 Die Schlangenjungfrau im Heidenloch bei August.
*DS13 Die Schlangenjungfrau.
二八
ベルンハルト公誓言を守る
Herzog Bernhard hält sein Wort.
二九
忠実なエッカルトの話
Vom treuen Eckart.
三〇
ツェーリンゲン家の起源
Der Zähringer Ursprung.
*DS527 Ursprung der Zähringer.
三一 巨 人 の 玩 お も ち ゃ 具 Das Riesenspielzeug.
*DS17 Das Riesenspielzeug. / *DS325 Die Riesen zu Lichtenberg.
三二 蟇 クレーテン シ ュトゥール 蛙の椅子 Krötenstuhl. *DS223 Der Krötenstuhl. 三三 粉 挽 ひ き小屋の 熊 く ま Der Mühlenbär. 三四 司 コ ー ル 教座聖堂 王 ケーニヒ Chorkönig. 三五 聖 ザンクト オッティーリア Sankt Ottilia. 三六 父と息子
Vater und Sohn.
三七 大聖堂の時計 Die Münster-Uhr. 三八 シュトラースブルクの射撃祭とチューリヒの 粥 か ゆ
Straßburger Schießen und Zürcher Brei.
三九
ブレッテンの小犬
Das Hündchen von Bretten.
*DS96 Das Hündlein von Bretta.
四〇 トリフェルス Trifels. 四一 カイザースラウテルンの 赤 デア・ロートバルト 髭 Der Rotbart zu Kaiserslautern. *DS296 Kaiser Friedrich zu Kaiserslautern. 四二 舟に乗る修道士たち
Die schiffenden Mönche.
*DS276 Die überschiffenden Mönche.
四三
シュヴァーベン
鉢 シ
ュッセル
四四
シュパイアーの弔鐘
Die Todtenglocken zu Speier.
四五
ヴォルムスのユダヤ人たち
Die Juden in Worms.
四六
ダールベルク一族の話
Von den Dahlbergen.
四七 ヴォルムスの象徴 Wormser Wahrzeichen. 四八 ラインの王女
Die Königstochter vom Rhein.
四九 オッペンハイム近郊の ス シ ュ ヴ ェ ー デ ン ゾ イ レ ウェーデン柱
Schwedensäule bei Oppenheim.
五〇 ジーゲンハイム Siegenheim. 五一 イ イ ェ ッ テ ン ・ ビ ュ ー エ ル ェ ッ テ の 丘 と 王 ケーニヒス シ ュトゥール の 椅 子
Jetten-Bühel und Königsstuhl.
*DS139 Der Jettenbühel zu Heidelberg.
五二 聖 ザンクト カタリーナの手袋 St. Katharinen , s Handschuh. 五三 ローデンシュタインの進発
Des Rodensteiners Auszug.
*DS170 Rodensteins Auszug.
五四
エーギンハルトとエマ
Eginhart und Emma.
*DS457 Eginhart und Emma.
五五 ヴィンデック一族 Die Windecker. 五六 ロルシュのタッシロ Thassilo in Lorsch. 五七 鬼 ヘーアヴィッ シ ュ 火 Der Heerwisch. *DS277 Der Irrwisch. 五八 草地の乙女とくしゃみ Die Wiesenjungfrau und das Nießen. *DS224 Die Wiesenjungfrau. /
*DS225 Das Niesen im Wasser.
五九
沈んだ修道院
Das versunkene Kloster.
六〇 フランケンシュタインの 無 リ ン ト ヴ ル ム 翼龍 Der Lindwurm auf Frankenstein. *DS219 Der Lindwurm am
*本分載試訳(その二)の伝説 六一 フランケンシュタインの 驢 ろ ば 馬 扶 ふ ち 持
Das Frankensteiner Eselslehen.
六二
黄金のマインツ
Das goldne Mainz.
六三 ハ ッ ト ー 、 ヘ ー リ ガ ー 、 ヴ ィ リ ギ ス Hatto, Heriger und Willigis. *DS242 Der Binger Mäuseturm. /
*DS474 Das Rad im Mainzer
W ap pe n. 六四 マインツの聖なる十字架
Die heiligen Kreuze zu Mainz.
六五 ハインリヒ・ 女 フ ラ ウ エ ン ロ ー プ 人讃美 の葬礼 Heinrich Frauenlob , s Begängniß. 六六 聖女ビルヒルデ
Die heilige Bilihilde.
六七 フランク族の 渉 フ ル ト り場
Der Franken Furt.
*DS455 Erbauung Frankfurts. 六八 王の 降 ヴ ァ イ ナ ハ ト 誕祭
Des Königs Weihnacht.
六九
エッシェンハイム塔の話
Vom Eschenheimer Thurm.
七〇
ファルケンシュタインの
悪 トイフェルスヴェーク
魔の道
Der Teufelsweg auf Falkenstein.
七一 エップシュタイン一族 Die Eppsteiner. 七二 血の 科 ブルートリンデ の木 Blutlinde. 七三 神 ノ ー ト ・ ゴ ッ テ ス の難儀 Noth Gottes. 七四 レーダーベルク Räderberg. *DS279 Räderberg. 七五 囁 ささや き声 Die Wisperstimme. 七六 燃える炭
七七
死を告げる
鳩 は
と
Taube zeigt denTod an.
七八
トハウンの猿
Der Affe zu Dhaun.
七九 坊さんの帽子 Das Pfaffenkäppchen. 八〇 長靴一杯の 葡 ワ イ ン 萄酒
Der Stiefel voll Wein.
八一
荒 デア・ヴィルデ・イェーガー
れ狂う猟師
Der wilde Jäger.
八二 シュパンハイムの創設 Spanheims Gründung. 八三 モーゼル 葡 ワ イ ン 萄酒 の起源の話
Vom Ursprung des Moselweins.
八四
聖人たちの墓
Der Heiligen Gräber.
八五
メッツは踊るのお断り
Metz versagt den Tanz.
八六 ヴ ィ ル ド ゥ ン グ の 悪 魔 と の 盟 約 者
Der Teufelsbündner in Virdung.
*DS536 Der Virdunger Bürger.
八七
貞女フロレンティーナ
Die getreue Frau Florentina.
*DS537 Der Mann im Pflug.
八八 トリーアの 齢 よわい Trier , s Alter. 八九 聖 ザンクト アルヌルフの指環 Sankt Arnulf , s Ring. 九〇 天罰 覿 て き め ん 面
六一 フランケンシュタインの 驢 ろ ば 馬 扶 ふ ち 持 その昔、ダルムシュタット にはなんともひどいかみさん連中がいた。願わくは現今同地においでなのがもっとま しなご婦人がたでありますように。その頃の女房たちと来たら亭主を 棍 こ ん ぼ う 棒 でぶんなぐったのである。 巷 こ う か ん 間 伝えられ る と こ ろ に よ れ ば、 そ れ は そ れ は こ っ ぴ ど く、 酷 む ご い 遣 や り 口 だ っ た の で、 女 房 と そ の 打 ち ょ う ち ゃ く 擲 か ら 身 を 防 ぐ た め、 亭 主 たちはフランケンシュタイン一族に矯正の手助けを求めた。ダルムシュタット市民は一族に毎年、十二マルター の 穀物、金ではグルデン銀貨二枚とヘッセン・アルブス 二枚を提供、これでもってフランケンシュタイン一族は一頭 の驢馬を飼っていた。で、市からの要望があると、そのつど一族はこの驢馬を実直でがっしりした驢馬 牽 ひ き一人を 附けて送り出した。亭主をなぐった女房はこの驢馬に乗せられ、しかも町中引き回しという目に 遭 あ わされた。妻が 夫につい手を上げてしまったとか、夫が病気で虚弱だとかいう場合は、この驢馬牽きが驢馬の手綱を執った。しか し、夫と妻の間に公然かつ正正堂堂の闘いが起こり、夫が妻からひどくやっつけられた場合は、夫が大恥かきかき 自分で驢馬を牽かなければならなかった。当時ダルムシュタットでは法と掟が極めて厳正に執行された。なにしろ 同 地 に は 警 察 権 を 行 使 す る 市 委 員 会 が あ り、 放 ほ う 埒 ら つ 無 ぶ 頼 ら い の 連 中 か ら 大 い に 恐 れ ら れ て い た の で あ る。 こ う し た 輩 やから は この委員会を 「 癪 しゃく な百 」 と呼んだ。百人の成員で構成されていたので。かつて悪妻たちのある集まり
─
今日だと お クレンツヒェン 茶会 と でも申すようなものか─
が示し合わせて夫たちをしたたかになぐるという事件が起こった。そこで 「癪 な 百 」 の 男 た ち は フ ラ ン ケ ン シ ュ タ イ ン 一 族 に こ ん な 書 簡 を 認 したた め た。 い わ く「 城 扶 持 の 法 と 掟 に 従 い、 か の 驢 馬 およびその牽き手を我らの救援に差し向けていただきたい。我らは両者、すなわち牽き手と驢馬を迎えに市の 使 し て い 丁 を遣わす所存。この者が両者のダルムシュタットへの入市を案内つかまつる。両者には充分食事と飼料をあてがわ ( ) 1 ( ) 2 ( ) 3 ( ) 4 ( ) 5 ( ) 6せる。そしてご一族がやむを得ず驢馬を必要とされる場合、両者は再び費用こちら持ちで送り返されるものといた す。 傲 ご う が ん 岸 不 ふ そ ん 遜 にして 邪 よこしま なる妻たちの暴力が抑圧され、これ以上 蔓 ま ん え ん 延 せざるように」と。 そ し て そ の 後 に も こ う し た 処 罰 を さ ら に 頻 繁 に 行 う 必 要 が あ っ た。 そ れ か ら プ フ ン グ シ ュ タ ッ ト、 ニ ー ダ ー ラ ム シ ュ タ ッ ト、 ク ル ム シ ュ タ ッ ト、 ゴ ッ ド ラ ウ な ど な ど の よ う な 近 隣 の 他 の 市 町 村 も や は り こ の 驢 馬 を 必 要 と し た。 ベ ッ ス ン ゲ ン だ け は フ ラ ン ケ ン シ ュ タ イ ン の 騎 士 た ち に 驢 馬 扶 持 の 穀 物 を 払 わ ぬ こ と 百 マ ル タ ー に も 及 ん だ の で、 フランケンシュタインはもはや彼らには驢馬を貸さなくなり、女房連はベッスンゲン市民をいくらぶんなぐっても よかった。 六二 黄金のマインツ ライン河とマイン河の合流点近くにあるローマ人に建てられたいと古き都市マインツ
─
その名はマインに由来 するわけだが─
は「 黄 ア ウ レ ア ・ ロ ー マ 金ノ羅馬 」と同様「黄金の」と称された。町を見下ろす人の住む山の高みは 黄 ゴ ル ド ネ ・ ル フ ト 金の大気 と い う 名 を 授 か っ た。 こ の 都 市 の 名 の 拠 よ っ て 来 た る 所 ゆ え ん 以 に つ い て は、 根 も 葉 も な い 話 が た く さ ん で っ ち あ げ ら れ た。 容易に思いつくのは近くの河なのに。ローマ人はかしこの地に幾つもの 堡 ほ う る い 塁 を築いた。その廃墟はいまだに目に触 れ、その名の響きはいまだに残っている。これもなお持ち 堪 こ た えている堡塁と申すべき存在、すなわち、マインツに 導入され、しっかりと定着したキリスト教、これがこの市を大層な繁栄に導いた。マインツの初代大司教となった ヴ ィ ン フ リ ー ト・ ボ ニ フ ァ ツ ィ ウ ス お よ び そ の 強 力 な 感 化 に よ っ て 礎 いしずえ が 置 か れ、 そ の 結 果、 こ の 市 の 大 司 教 座 は ド イ ツ で 最 も 重 要 な も の と な り、 マ イ ン ツ 大 司 教 は 後 に 同 時 に 帝 国 の 選 ク ー ア フ ュ ル ス ト 帝 侯 、 皇 帝 に 次 ぐ 第 一 人 者 と な っ た。 し ( ) 7 ( ) 8 ( ) 9かしながらヴィンフリートは、教会内でますます 旺 お う せ い 盛 になった華美、権勢を常に善しとしたわけではなく、むしろ こ う 言 っ て 非 難 し た、 と い う こ と で あ る。 「 そ の 上 か み 聖 職 者 は 黄 こ が ね 金 に し て、 木 の 聖 カ リ ス 杯 を 用 い し が、 今 日 で は 木 の 聖 職 者 が 黄 こ が ね 金 の 聖 カ リ ス 杯 を 用 い お れ り 」 と。
─
金 言 も 事 の 成 り 行 き も か よ う に 引 き 続 き 後 代 全 て に 継 承 さ れ て 行 っ た が、 これ 豈 あ に黄金のマインツのみに 留 と ど まらんや。 六三 ハットー、ヘーリガー、ヴィリギス 昔むかしのマインツ大司教の三つの名前だが、とりわけこれらを民衆の言い伝えが口から口へと後の世に至るま で継承して来たものである。 ハットー は至極厳しい殿だった。その気性は激し易く、信頼できず、神への 畏 い け い 敬 の念もなければ、人間愛にも欠 け て い た。 彼 は 卑 劣 な 裏 切 り に よ っ て 高 貴 な バ ン ベ ル ク 伯 ア ー ダ ル バ ー ト を 王 ル ー ト ヴ ィ ヒ 四 世 の 陣 営 へ と 誘 いざな い、 王は伯爵を斬首させた 。ハットー司教は自分の言うことを強調したい場合、 常にこういう 科 せ り ふ 白 を口に 上 の ぼ せた由。 「こ れ が 真 まこと で な け れ ば、 鼠 ねずみ ど も が 余 よ を 喰 く ら う が よ い わ 」 と。 さ て、 こ ん な こ と が 起 こ っ た。 ハ ッ ト ー が 治 め て い た 領 域 が 大 飢 き き ん 饉 に な り、 人 人 は 犬 や 猫 を 食 い、 飢 え た 者 た ち が 大 勢 窮 死 し た。 マ イ ン ツ の 司 教 館 に は、 何 か お 恵 み を、 と 施 せ も つ 物 を 願 う 輩 やから が 引 き も 切 ら ず に 押 し 寄 せ た。 す る と ハ ッ ト ー は、 貧 民 ど も は 手 っ 取 り 早 く こ の 世 か ら お さ ら ば す る の が な に よ り、 そ う す れ ば も う 腹 は 減 ら ぬ し、 こ ち ら も や い の や い と せ が ま れ ず に 済 む、 と 考 え た。 そ こ で、 食事をふるまうかのごとく装って、町のあらゆる貧民は市門の外のとある納屋に来たれ、と伝達させた。そして皆 が中に入ると、納屋の門を閉じさせ、納屋に四隅から火を放たせた。閉じ込められた者たちがなんとも悲痛な叫び ( ) 11 ( ) 11 ( ) 12を 挙 げ る と、 残 忍 な ハ ッ ト ー は こ う 言 っ た。 「 う ち の 穀 倉 鼠 ど も が ち ゅ う ち ゅ う 啼 な い て い る の が 聞 こ え る か。 こ れ で物乞い騒ぎもどうやらけりがつくだろうて。これが真でなければ、鼠どもが余を喰らうがよいわ」と。
─
する と、なんと、鼠の大群が納屋の焼け跡から跳び出して来て、司教に迫り、 嚙 か みついたので、恐ろしくなった。自邸 に 戻 っ て 食 し ょ く ぜ ん 膳 に 向 か う と、 鼠 ど も は 卓 テ ー ブ ル 子 の 上 を 駈 か け 回 り、 ご 馳 走 を 喰 ら い、 酒 杯 の 中 に 落 ち、 手 を 嚙 ん だ。 ハ ッ ト ー の 寝 床 の 上 に も 下 に も 中 に も 鼠 が お り、 狂 お し く 体 に 嚙 み つ い て 彼 を 責 め 苛 さいな ん だ。─
ハ ッ ト ー は 神 の 審 判 が下されたのを知って震え上がった。ところでビンゲンの近く、ライン河の中洲に 水 み ず じ ろ 城 が一つあった。司教はそこ なら安全と急いだ。鼠どもは水を越えては来られまい、と考えたからである。しかし彼が舟に足を踏み込む前に既 に 鼠 ど も は 乗 っ て い た し、 打 ち 殺 そ う と し て も 甲 か い 斐 は な か っ た。 な に し ろ 隠 れ 潜 ん で し ま う し、 夥 おびただ し い 水 鼠 ど も が舟と競泳してビンゲン近くの塔のあるその島にやって来たからである。大いなるラインの 河 か わ も 面 に人多しといえど も、ハットー司教の舟の周りの鼠の数ほどはいなかった。そして彼が塔に入ると、鼠どもが彼に襲い掛かり、嚙み つ き、 生 き な が ら そ の 肉 を 喰 ら っ た の で、 彼 は 無 数 の 嚙 み 傷 に よ る 灼 や け る よ う な 地 獄 の 苦 痛 を 蒙 こうむ り、 「 あ り と あ ら ゆ る 悪 魔 よ、 余 の 魂 を 持 っ て 行 け〔 = え え、 糞 く そ 、 忌 い ま い ま 忌 し い 〕」 と 罵 っ た。 悪 魔 ど も は 即 刻 出 現、 炎 炎 と 燃 え 上 が り な が ら や っ て 来 て、 ハ ッ ト ー の 魂 と 鼠 ら が 食 い 残 し た 肉 体 の か け ら を 奪 い、 こ れ を エ ト ナ 山 の 火 口 に 投 げ 込 ん だ。 それから、壁であれ銘板であれハットー司教の名が読まれるような場所は、彼を 偲 し の ぶよすがを根絶やしにするため に 鼠 た ち が 囓 か じ り 取 っ て し ま っ た。 以 来、 ビ ン ゲ ン 近 く の ラ イ ン の 中 洲 に あ る ハ ッ ト ー の 水 城 は 鼠 モ イ ゼ ト ゥ ル ム の 塔 と 呼 ば れ る ようになった。 鼠 モイゼトゥルム の塔 についての似たような伝説はポーゼン 地方でも語られていて、こちらではゴプロ湖にある。 ヘ ー リ ガ ー 大 司 教 は 信 仰 篤 あ つ い 御 仁 だ っ た。 峻 し ゅ ん げ ん 厳 で も あ っ た が、 廉 直 だ っ た。 か つ て あ る 者 が マ イ ン ツ に や っ て 来 て、 途 方 も な い こ と を 吹 ふ い ち ょ う 聴 し た。 天 国 と 地 獄 を く ま な く 経 へ 巡 り、 楽 園 で は 食 事 を し た、 と 称 し た の で あ る。 さ ( ) 13 ( ) 14 ( ) 15てそこでヘーリガーが、地獄はどんな土地柄か、と 訊 た ず ねると、いかさま預言者は答えていわく「地獄は周りをびっ し り と 生 い 繁 っ た 通 り 抜 け る こ と の で き な い 森 に 囲 ま れ て お り ま す る 」 と。 ヘ ー リ ガ ー は 哄 こ う し ょ う 笑 し て 言 っ た。 「 さ よ う な 森 の 中 に は 多 分 豚 ど も を 飼 う の に も っ て こ い の ど ん ぐ り な ど の 餌 え さ が 見 つ か る の で あ ろ う。 し た が、 言 う て み い、 そ の ほ う、 天 国 で は 何 を 目 に し た な 」。
─
「 天 国 で は、 さ れ ば、 か し こ に お き ま し て は、 キ リ ス ト が 大 き な 食 卓 に 着 い て い ら し て、 聖 ザンクト ヨ ハ ネ ス が お 毒 味 役 の 酌 し ゃ く に ん 人 を な さ っ て お ら れ る の を 見 ま い ら せ ま し た 」 と 嘘 う そ の 父 の 倅 せがれ は ぬ か し た も の。 「 し て、 キ リ ス ト は 聖 人 様 が た ご 一 同 を と び き り の 葡 ワ イ ン 萄 酒 で も て な さ れ ま し て な、 聖 ザンクト ペ ト ル ス が 煮 方、 焼 き 方 を お 引 き 受 け で、 食 べ 物 は た っ ぷ り ご ざ っ た 」。 ヘ ー リ ガ ー 司 教 は こ う 応 じ た。 「 聖 ザンクト ヨ ハ ネ ス 以 上 の 酌 人 を キ リ ス ト は お 選 び に は な れ な か っ た で あ ろ う。 な に し ろ あ の 神 の 使 徒 は 決 し て 葡 ワ イ ン 萄 酒 を 嗜 たしな ま れ な ん だ ゆえ。それにひきかえ、余の酌人と来たらずいぶんと飲みおるは。されど、ペトルスは天国の料理番におなりにゃ な れ ん て。 あ の 方 は 天 国 の 門 番 だ で な あ。 し た が、 言 う て み い、 そ の ほ う、 天 国 で い か よ う な 名 誉 に 与 あずか っ た か な。 ど ん な ご 馳 走、 ど ん な 飲 み 物 を そ の ほ う に 天 の 主 し ゅ は 下 し 置 か れ た か。 ど ん な 席 で そ の ほ う は 食 事 を い た し た か 」。 「天国の聖なるお客様がたに混じって坐るなど、わたくしめはよういたしませなんだ」と嘘つきは返辞した。 「わた く し め は 厨 く り や 房 の 片 隅 に こ っ そ り 控 え お り、 ち っ ぽ け な 肝 臓 と か 肺 臟 の 切 れ っ 端 な ぞ を 取 り ま し て、 人 目 を 忍 ん で 頂 ち ょ う だ い 戴 つ か ま つ っ た の で ご ざ り ま す る 」。 「 し か ら ば、 そ の ほ う、 天 国 で 盗 み を 働 き お っ た。 聖 な る 場 所 で も 持 っ て 生 ま れ た 根 性 を 直 せ な か っ た の だ な 」 と 司 教 は 怒 鳴 っ た。 「 そ こ で 天 国 は、 そ の ほ う を 罰 す る よ う に、 と 余 の 許 も と に そ の ほ う を 遣 わ さ れ た わ け じ ゃ。 即 刻 こ の 嘘 つ き め を 曝 さ ら し 柱 ばしら に 括 く く り 付 け て 笞 む ち 打 た せ よ。 そ れ が 済 ん だ ら、 ど こ へ なとこやつが 失 う せたいと申すところへ退散させい」 。 ヴィリギス大司教は学識あり 敬 け い け ん 虔 なお人で、心底謙虚だった。彼の出自は卑賤で、父は貧しい車大工だった。や ( ) 16 ( ) 17 ( ) 18 ( ) 19 ( ) 21んごとない身分の聖堂参事会員たちは、自分らの場合、系図を提示して貴族であることの証明をしたり、そう誓っ たりしなければならなかったので、これがためにヴィリギスをやっかみ、司教邸の扉や壁にひそかに車輪を描いて 辱 め、 「 こ れ ぞ 我 ら が 司 教 の 家 紋 で ご ざ る 」 と 嘲 あざけ っ た。 し か し 信 仰 篤 い 御 仁 で あ る ヴ ィ リ ギ ス は こ れ を 決 し て 嘲 ち ょ う ろ う 弄 と 取 ら ず、 自 分 の 寝 台 の 上 に 木 製 の 犁 す き 車 を 一 つ 吊 さ せ、 邸 の 部 屋 部 屋 に 赤 地 に 白 の 車 輪 の 紋 を 描 か せ た。 そ してこれに次のような章句を附した。 「ヴィリギスよ、ヴィリギス、 汝 な れ の出自を忘るるな」 。そして後代になっても 篤信の人ヴィリギスを記念して後任の大司教たちは皆この車輪を紋章として用いた。そこでマインツ市とマインツ 司教領は今日に至るまでこの紋章を採用し、持ち伝えているのである。 六四 マインツの聖なる十字架 そ の 昔 マ イ ン ツ に は 一 つ の 美 し い 教 会 が あ り、 そ の 名 を 森 ウ ン ズ レ ・ リ ー ベ フ ラ ウ ・ イ ム ・ ヴ ァ ル デ の 我 ら が 聖 母 教 会 と い っ た。 し か し 民 衆 は こ れ を 聖 ハ イ リ ヒ ク ロ イ ツ 十字架教会 と唱える。一隻の船が何人もの男女を乗せて航行していたところ、これらの人人は空中に一つの輝く 十字架が浮遊するのを見た。この十字架は船を追って来て、その帆柱の頂きにくっついた。昔あった浮き桟橋の近 く、 ホ ル ツ 門 トーア の 傍 に 船 が 着 く と、 な ん と、 輝 く 十 字 架 は 幻 影 で は な く、 巧 み を 凝 ら し た 青 銅 製 の キ リ ス ト 磔 た く け い 刑 像 で、 素 晴 ら し い 名 作 で あ る こ と が 分 か っ た。 さ て、 そ れ が い ず こ へ 行 く 定 め か 解 明 す る た め、 い ま だ 軛 くびき に も 車 に も繋がれたことのない二頭の 牡 お う し 牛 の背に載せ、導きも 牽 ひ きもしないまま歩くに任せたところ、牛たちは十字架をヘ ヒツハイムの山上に運んだ。そこに教会が建立され、奇蹟の 御 お 像はその中に安置されて崇敬された。この十字架の 前 に 跪 ひざまず い て 祈 り を 捧 げ た た く さ ん の 病 人 た ち が 癒 い や さ れ た が、 つ い に こ の 教 会 は 他 の 数 数 と と も に 炎 上 し た。 ブ
ラ ン デ ン ブ ル ク 辺 マ ル ク グ ラ ー フ 境 伯 ア ル ブ レ ヒ ト が 一 五 五 二 年 マ イ ン ツ の 町 を 占 領 し た 時 の こ と で あ る。 も っ と も、 そ れ か ら も ま だ 長 い こ と ホ ル ツ 門 トーア と ボ ッ ク ス 門 トーア の 間 で、 上 流 へ と 遡 そ こ う 航 し て 来 る 船 の 帆 に 下 が っ て い る 十 字 架 を 描 い た 絵 が 見られた。この絵の 痕 こ ん せ き 跡 は今日なお発見できる。 聖 キル ヒ ェ ・ ツ ム ・ ハ イ リ ゲ ン ク ロ イ ツ 十 字 架 教 会 と 聖 ザンクト ア ル バ ン〔 修 道 院 〕 の 間 に そ の 昔 壁 の な い 礼 拝 堂 が 建 っ て い て、 下 に マ リ ア と ヨ ハ ネ ス がいる木製の磔刑像が中に安置され、信徒たちに崇敬されていた。さてマインツに一人の市民が住んでいて、その 名 を シ ェ ル ク ロ プ フ と い い、 賭 と ば く 博 好 き の 大 酒 飲 み だ っ た。 こ の 男、 大 概 は 旅 は た ご 籠 屋 や の 花 ツ ア ・ ブ ル ー メ 亭 に 入 り 浸 っ て い た。 こ れはかつてはマインツ郊外だったピルツバッハにあった。ある日のこと、こやつ、有り金残らず、飲む打つに注ぎ 込んで、懐がすっからかんになってしまい、べろんべろんに酔い 痴 し れたあげく、神とあらゆる聖人を呪い、行き当 たりばったりの聖像を剣で真っ二つにしてやるわい、と誓ったもの。こうして野原をよろめき歩いていると、かの 壁 の な い 礼 拝 堂 の と こ ろ に 来 た の で、 三 つ の 木 像 に 走 り 寄 り、 突 く は、 切 る は、 を や ら か し た。 す る と、 な ん と、 命 の 無 い 木 像、 こ と に 磔 刑 像 か ら 血 が ど っ と 流 れ 出 し た。 男 は 驚 き ょ う が く 愕 し て 立 ち す く み、 正 気 を 失 い、 剣 は そ の 手 か ら落ちた。そしてこうした状態でいるところを見つかって、逮捕された。信心深い人たちが流れ出る血を鉢に受け た。 シ ェ ル ク ロ プ フ は こ の 前 代 未 聞 の 冒 ぼ う と く 瀆 行 為 の 廉 か ど で 生 き な が ら 火 刑 に 処 せ ら れ た。 一 方 奇 蹟 を 行 っ た キ リ ス ト 像 と聖なる血は近くのかの教会に運ばれた。教会が炎上した時、この聖なる十字架像は守られて助け出され、信心深 い人人はそれを今日なおマインツの 聖 ザンクト クリストフ教会で見ることができる。
六五 ハインリヒ・ 女 フ ラ ウ エ ン ロ ー プ 人讃美 の葬礼 昔ドイツの地に、ある 宮 ミ ン ネ ゼ ン ガ ー 廷恋愛歌人 がいて、 女 に ょ に ん 人 を 讃 さ ん び 美 する、とりわけあらゆる女人の栄光を 誉 ほ め 讃 た た える甘美な 唄をたくさん歌い上げた。それゆえ彼は 女 フ ラ ウ エ ン ロ ー プ 人讃美 という名ももらった。本当の名はマイセンのハインリヒなのであ る。この歌人はドイツの宮廷から宮廷へと多くの旅をし、 現 う つ し よ 世 の愛、また神の愛を歌った。ロストックにブランデ ン ブ ル ク 辺 マ ル ク グ ラ ー フ 境 伯 ヴ ァ ル デ マ ー ル が 居 を 構 え て い た。 伯 爵 は 薔 ロ ー ゼ ン ガ ル テ ン 薇 の 園 を 持 っ て お り、 歌 の 祭 典 を 催 し た こ と が あ っ た が、 師 マ イ ス タ ー 匠 ハ イ ン リ ヒ が 第 一 人 者 と な っ た。 ま た、 あ る 時、 敵 た ち が ハ イ ン リ ヒ を 待 ち 伏 せ し、 お っ と り 囲 ん で 脅しつけ、殺そうとした。彼は、どうか最後に一つだけ唄を歌わせてくれ、と頼み、許されると、天界の女人がた を讃美して、聴く者の胸を揺さぶる唄を歌い上げたので、振り上げられた武器はどれもだらりと下がり、敵たちは 行く手を妨げることなく、 危害を加えず、 彼を立ち去らせた。歌の旅の途次、 師 マイスター 匠 ハインリヒはマインツにもやっ て来て、かしこで亡くなった。そして大聖堂の周歩廊の、司教座附属学校の隣に盛大な礼遇をもって葬られた。止 宿先から埋葬場所まで彼の 亡 な き が ら 骸 を担ったのは女性たちで、この歌人が生涯を通じて全女性に捧げてくれた絶大な讃 美 の ゆ え に、 彼 を 悼 ん で 号 泣 し、 悲 嘆 の 声 を 挙 げ た。 そ し て 涙 を 注 ぐ と 同 時 に、 師 マ イ ス タ ー 匠 ハ イ ン リ ヒ の 墓 の 上 に 極 上 の酒をたっぷり注いだので、 葡 ワ イ ン 萄酒 は教会の周歩廊一面に流れ出した。やはり女性を愛し、讃美する詩人の大方に とっては、かような 美 う ま ざ け 酒 は生きている内にくださった方がどんなにかありがたいことか、とは存ずるが。一つなら ずの記念碑がハインリヒ・ 女 フ ラ ウ エ ン ロ ー プ 人讃美 のためにマインツの大聖堂に建てられたし、彼の唄の数数はいまなお忘れられ てはいない。
六六 聖女ビルヒルデ マイン河畔のホーホハイムに高貴なフランク人一族が住んでいた。近世になってもまだかしこの地の車井戸の傍 ら に 彼 ら の 城 塞 の 遺 跡 が 認 め ら れ た も の だ。 フ ラ ン ク 王 ク ロ ー ト ヴ ィ ヒ〔 = ク ロ ー ヴ ィ ス 〕 の 時 代 の こ と で あ る。 この一族の一人にイーベリヒという者がおり、女の子が生まれて、この子はビルヒルデと名付けられた。けれども 聖 な る 洗 礼 を 受 け な か っ た の で あ る。 敵 に 蹂 じ ゅ う り ん 躙 さ れ て 聖 職 者 が 悉 ことごと く 殺 さ れ た り、 逃 げ 去 っ た り し た か ら に 他 な ら な い。 そ れ は と も あ れ、 両 親 は こ の い と け な い 娘 を 三 歳 で ヴ ュ ル ツ ブ ル ク な る 親 戚 の 女 性 ク ニ グ ン デ の 許 も と に 送 り、この子はそこで教育を受け、堅信礼を受けようとする子どもたち の一人として聖職者たちに迎えられた。けれ どもこの子はそれでも受洗には至らなかったのである。なにしろ周囲はこの子が既に洗礼を施されていると思い込 んでいたし、この子自身は自分がまだ洗礼の秘蹟を授かっていないことを知る由もなかったから。女の子はすくす く成長して徳高く神を 畏 い け い 敬 する乙女となった。ビルヒルデは当時なおフランク族の地にキリスト教と並んで根付い て い た お ぞ ま し い 異 教 と は 無 縁 で あ り、 そ の 麗 し さ、 敬 け い け ん 虔 さ、 淑 し と や か さ の 評 判 は 遍 あまね く 広 く あ り と あ ら ゆ る 地 方 に 及 ん だ。 そ の 噂 うわさ を テ ュ ー リ ン ゲ ン 公 ラ ト ゥ ル フ の 子 息 ヘ タ ー ン も 聞 き 及 ん だ。 ヘ タ ー ン は 既 に 一 度 結 婚 し て お り、 二人の子息がいる身で、年若のビルヒルデに求婚したのである。さてヘターンはまだ異教徒だった。ビルヒルデは 彼を配偶としたが、それはひとえに両親のたっての願いがあったればこそ。それに、そうすれば、夫がその家来た ちともども温和なキリスト教に改宗するよううまく説得できようか、と希望していたせいもある。しかしこれはど うしても成功せず、彼女はいたく嘆き悲しんだ。そこで極めて慎ましく、装飾品など身に着けずに暮らし、厳しい 禁欲と 懺 ざ ん げ 悔 の勤行に日を送った。ヘターンは戦で 殪 た お れると、残された寡婦は母親が慕わしくて 堪 た ま らなくなった。一 ( ) 21
つには彼女がキリスト教をテューリンゲンの民の間に布教しようと努めたのに、それを彼らから 仇 あ だ で返され、迫害 されて、逃亡せざるを得なくなったからでもある。そこでビリヒルデは数人の侍女とともに夜、 舵 か じ も 楫 か ん ど 取 りもない ま ま 一 い っ そ う 艘 の 舟 に 乗 り 込 ん だ。 け れ ど も 天 使 た ち が 現 れ て、 こ の 小 舟 を 操 り、 浅 瀬 や 巖 が ん 礁 しょう を 悉 ことごと く 無 事 に 乗 り 切 っ て、フレンキッシェ・ザーレ川からマイン川へ、マイン川ではホーホハイムを通り過ぎ、長の河旅をこなし、マイ ンツに到着した。この地の司教ジークベルトはビルヒルデのおじであり、この信仰 篤 あ つ い乙女を大いに歓待、住む場 所を提供し、ホーホハイムの相続財産
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というのも彼女の両親はそうこうするうち亡くなっていたからだが─
を彼女が手に入れるのに力を貸した。その後ビルヒルデは自分の相続財産で修道院─
マインツのアルテンミュン スター修道院がこれ─
を建設、そこで神に身を 委 ゆ だ ね、慎み深く、慈善に努めながら暮らし、やがて生涯の終わり に近づいた。するとビルヒルデが修道院長として治めているこの修道院の三人の修道女が、自分たちの母にして長 である人が洗礼を施されたことがこれまで全くない、との夢を見て、それを院長に告げた。ビルヒルデはそんなこ とを信じようともしなかったし、信じることもできなかったが、やがてこのことは他の示現、あるいはある天使の 声 に よ っ て 彼 女 の お じ に も 明 ら か に さ れ た。 そ こ で お じ は こ の 敬 虔 な キ リ ス ト 者 し ゃ を キ リ ス ト 教 徒 の 絆 きずな の 内 に 迎 え 入れたのである。その後でビリヒルデは世俗の生活から全く関係を絶ち、彼女が 身 み ま か 罷 った時、その 亡 な き が ら 骸 の周りに光 彩が現れ、 馥 ふ く い く 郁 たる香りがその居室を満たした。その傍に近づくと、病人たちは 癒 い やされ、盲人は目が見え、死者 は歩いた 。ビリヒルデはフランク族の地の最初の聖女となった。 ビ リ ヒ ル デ は 配 偶 者 ヘ タ ー ン が い ま だ 存 命 中 に か の 奇 蹟 に 操 ら れ た 小 舟 で マ イ ン ツ に 来 た の だ、 と 説 く 者 も 多 い。 ヴ ュ ル ツ ブ ル ク の 下 手 一 哩 マイル の と こ ろ、 マ イ ン 河 畔 に 一 つ の 村 が あ り、 フ ァ イ ツ ホ ー ホ ハ イ ム と い う が、 ビ リ ヒルデの生地ホーホハイムと同様、彼女はここから出たのだ、と村人は信じ込んでおり、独自の祭日を彼女のため ( ) 22に設け、その聖遺物 の一部を保存し、崇敬している。 六七 フランク族の 渉 フ ル ト り場 自 由 ド イ ツ 都 市 フ ラ ン ク フ ル ト の 起 源 は こ の よ う だ っ た、 と 伝 承 は 物 語 る。 カ ー ル 大 帝〔 = シ ャ ル ル マ ー ニ ュ〕 の時代、ザクセン族がフランク族とその強大な王〔=カール〕と戦い、前者が勝利を占め、マイン川下流の端まで 敵軍を追い詰めた。さてフランク族はその河畔まで急行、現在フランクフルトと呼ばれている場所まで来たが、大 河 の 幅 と 深 さ に 驚 き ょ う が く 愕 し た。 な に し ろ マ イ ン 川 を 渡 る た め の 橋 も 舟 も 無 か っ た の で あ る。 す る と、 な ん と、 一 頭 の 牝 め す の 角 ヒ ル シ ュ 鹿 が、 さ な が ら 慈 悲 深 い 神 の お 示 し に よ る か の よ う に 危 な げ も な く 流 れ を 歩 い て 渡 り、 道 を 教 え て く れ た。 かくして、逃げて来たフランク族は無事安穏に河を越えることのできる 渉 わ た り場 が分かったので、そこを渡った。追 尾して来た敵軍は後から河畔に着いたものの、渉り場がどこやら分からず、見つかりもしなかったので、フランク 族 を そ れ 以 上 追 え な か っ た。 そ こ で カ ー ル 大 帝 は こ う 言 っ た 由。 「 朕 ち ん が フ ラ ン ク の 兵 と と も に こ の た び ザ ク セ ン 軍 から逃げた、と諸族が言おうとも、朕がここで 殪 た お れた、と言われるよりはましじゃ。なにしろ朕は生きていて、こ の身の名誉を救う力も、その意志もあるからな」と。さてフランク族はその地に入植した。美しく、実り豊かな地 方 だ っ た の で。 そ し て そ の 場 所 を「 フ ラ ン ク 族 の 渉 フ ル ト り 場 」、 す な わ ち フ ラ ン ク フ ル ト と 命 名 し た。 そ の 頃 同 時 に ザ クセン族が、フランクフルトとはマイン川を隔てて真向かいに位置するザクセンハウゼンの町を建設した、とする 者も少なくない。しかし、カール大帝が彼に打ち負かされたザクセン族をその故地から追い立てて、フランクの地 への移住を強制した時初めて、そこの建設が行われたのだ、と主張する異説もある。こうした移住を由来として生 ( ) 23 ( ) 24 ( ) 25 ( ) 26
まれたとされる町の名はまだたくさんある。後にカール大帝自身フランクフルトに小さな居城を築き、狩猟のため に 好 ん で そ こ に 滞 在 し、 復 オ ー ス テ ル ン 活 祭 を 祝 い、 帝 ラ イ ヒ ス コ ン ヴ ェ ン ト 国 会 議 を 何 度 も 開 催 し た。 カ ー ル 大 帝 の 子 息、 ル ー ト ヴ ィ ヒ 王 も、 ま さにその広大な領国の真ん中にあるこの町に居住した。それからその子息のカール、後のカール 禿 と く と う 頭 王 は同地で誕 生。フランク族の 渉 フ ル ト り場 であり、フランクフルトの最初の定住地とその名称の元となったかの浅瀬はいまなおそれ と 示 さ れ る し、 カ ー ル 皇 帝 の 居 城 が あ っ た と こ ろ に は 現 在 聖 ザンクト レ ー オ ン ハ ル ト 教 会 が 建 っ て い る。 そ れ か ら ル ー ト ヴ ィ ヒ 敬 け い け ん 虔 王・ 帝 が 築 い た 新 た な 居 城、 ザ ー ル 城 は フ ァ ー ル 門 トーア の 隣 に あ っ た。 そ の 名 は ザ ー ル 小 ガ ッ セ 路 と し て 今 日 に 至るまで残されている。ルートヴィヒ敬虔王の末子、ルートヴィヒドイツ人王 、およびその妃ヘマ はザール城で亡 くなった。フランクフルトを東フランク王国の世俗の首都としたのはこの王に他ならない。なお、宗教上の首都は マインツだった。 六八 王の 降 ヴ ァ イ ナ ハ ト 誕祭 現在フランクフルトの大聖堂が建っているところに、ルートヴィヒドイツ人王の時代に礼拝堂があった。これは ル ー ト リ ン ト と 呼 ば れ た が、 後 に は 聖 ザンクト・ 救 ザ ル ヴ ァ ー ト ア 世 主 と も い わ れ た。 聖 処 女 マ リ ア と カ ー ル 大 帝 に 奉 献 さ れ た も の で あ る。ルートヴィヒドイツ人王は 降 ヴ ァ イ ナ ハ ト 誕祭 をフランクフルトの居城で祝ったが、そこに王国集会を招集した。すると悪 魔 が 聖 職 者 か つ 天 使 の 姿 と な っ て ル ー ト ヴ ィ ヒ の 子 息 カ ー ル に 近 づ き、 こ う 語 り 掛 け た。 「 さ て さ て、 そ な た は ご 兄弟の中で一番末じゃ。そしてそなたの父上はそなたの兄上カールマンに王国を進ぜるおつもり。なれどこの国は 神によってそなたのものと定められておるでな、父上がそなたを滅ぼそうとしても、さようなことを神はお許しに ( ) 27 ( ) 28 ( ) 29 ( ) 31 ( ) 31
な ら ぬ 」。 し か し カ ー ル は こ う し た 誘 惑 に 仰 天 し て、 急 い で 礼 拝 堂 に 逃 げ 込 ん だ。
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「 誘 惑 者〔 = 悪 魔 〕 よ、 去 れ。 き さ ま は 天 の 御 み 使 い で は な い 」 と 叫 び な が ら。─
け れ ど も 悪 魔 は そ の 後 に 随 つ い て 教 会 に 入 り、 「 わ た し が 天 の使いでないなら、そなたとともにこの神の家に足を踏み入れることなどどうして許されよう。祭壇の秘蹟、聖な るミサの犠牲〔= 聖 せ い さ ん し き 餐式 〕を執り行うことなどどうして許されよう」と言って、地獄の詐術でカールを惑わし、ミ サを司式し、祝福された 聖 ホ ス チ ア 餅 をカールに与え、その 聖 ホ ス チ ア 餅 とともにカールの中に入って、彼に取り 憑 つ いた。 さて王国集会の折、カールは訳の分からぬことを口走り、脇に吊った剣帯を引っ 外 ぱ ず し、剣もろとも広間の真ん中 に 放 り 投 げ、 腰 帯 と 衣 服 を か な ぐ り 捨 て、 ご ろ ご ろ と 激 し く 転 げ 回 っ た の で、 居 並 ぶ 者 た ち は だ れ も か れ も 驚 き ょ う が く 愕 した。けれども司教たちが悪しき敵〔=悪魔〕に憑かれた彼を取り押さえ、先の礼拝堂に連れて行き、大司教が彼 にミサを行い始めた。するとカールは大声でかきくどき、悲鳴に次ぐ悲鳴を挙げ、ミサが終わるまでこれがずっと 続いたが、聖職者たちは悪魔が王子から去るまで祈祷を止めなかった。かくしてカールは神の慈悲により 癒 い やされ たのである。しかしそれでも悪魔の邪心が王子に吹き込んだことは後に実現した。なにせカールマンとルートヴィ ヒは二人とも彼に先んじて死に、カールはドイツ王国の王冠 を手に入れたのだから。僅かな間に過ぎなかったとは 申しながら。というのも、カールは 憂 ゆ う う つ 鬱 症に陥り、全く僧侶たちの腕にその身を 委 ゆ だ ねたのだから。そこで王国の諸 侯は驚愕し、彼の兄カールマンの実子アルヌルフに王国を渡したのである。 六九 エッシェンハイム塔の話 フランクフルトにはかつて市壁の一部だったごく古い塔がいまだに立っている。その昔フランクフルト市民が密 ( ) 32猟者 を捕らえたことがある。その名をヘンゼル・ヴィンケルゼーといい、 〔死刑〕判決が執行される前、 〔塔の地下 の 〕 真 っ 暗 な 牢 獄 に も う 九 日 も 入 っ て い た。 そ し て 風 見 が エ ッ シ ェ ン ハ イ ム 塔 の 天 辺 な る 楽 し い 棲 す み か 処 で キ イ キ イ、 ガ タ ガ タ 騒 ぐ の を 夜 毎 聴 か さ れ、 こ う 言 っ た。 「 お れ が 自 由 の 身 で、 好 き な よ う に 撃 た せ て も ら え る な ら、 き さ ま を 撃 っ て や る わ、 い や ら し い 風 見 め。
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お れ が 入 れ ら れ た 夜 と 同 じ 数 だ け 薄 う す が ね 鉄 に 穴 を 開 け て み せ る 」。 こ の 独 り 言を耳にした牢番は自由都市の 市長にそれを伝えた。すると市長いわく「そやつに相応のお恵みは吹きっ 曝 さ ら しの絞 首 台 以 外 に は な い。 し た が、 さ よ う に 大 し た 名 射 手 だ と 言 い 張 る な ら、 そ や つ に 運 を 試 さ せ て や る が よ か ろ う 」。─
か く し て ヴ ィ ン ケ ル ゼ ー に は 所 持 し て い た 銃 が 渡 さ れ、 「 豪 語 し た こ と を や っ て み せ い。 そ れ が で き た ら、 無 罪放免にして遣わす。しかし一発でもしくじったら、ぶらんこ往生だ。 雄 お ん ど り 鶏 はきさまのことで 啼 な きはせん 〔=だあ れ も き さ ま な ん ぞ 気 に し は せ ん 〕」 と 言 い 渡 さ れ た。 猟 師 は 愛 銃 を 手 に す る と、 め で た い 狩 か り こ と ば 詞 を 語 り 掛 け て 励 ま し てやり、それから弾丸─
もちろんこれ無しでは済まされない─
を受け取り、 装 そ う て ん 塡 し、風見に狙いを定め、発射 し た。 す る と 小 さ い 穴 が 一 つ 薄 鉄 に 開 い た。 並 み 居 る 一 同 は 大 笑 い し て、 見 ブ ラ ー ヴ ォ 事 、 と 叫 ん だ。 そ れ か ら ま だ 後 八 回 こ れ が 行 わ れ、 ど の 弾 丸 も し か る べ き 場 所 に 命 中、 九 回 目 の 射 撃 で「 九 ここの つ 当 た り 」 を 達 成 し た。 こ の 「 九 ノ イ ナ ー つ 当 た り 」 は 今 日 な お エ ッ シ ェ ン ハ イ ム 塔 の 風 見 に 見 る こ と が で き る。 さ て 市 参 事 会 の 面 面 だ が、 心 中 こ う 考 え た。 「 い や は や、 こ れ は 一 大 事 だ て。 我 ら が 哀 れ な 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 そ の 他 の 猟 獣 ど も に は な あ。 こ ん な 名 射 手 の 大 泥 棒 が お っ 放 ぱ な さ れ て 森 に 戻 っ た 日 に は 」。─
そ こ で 鳩 き ゅ う し ゅ 首 協 議 の 結 果、 市 長 の 言 う よ う「 の う、 ヘ ン ゼ ル。 そ の ほ う の 射 撃が巧みなことは、当市の猟獣の数がなんとも情けないありさまゆえ、我らとっくに察しておったし、今その腕前 を し っ か と 見 届 け も し た。 こ こ に 留 と ど ま れ。 当 市 の 市 民 軍 の 射 撃 隊 長 に な る が よ い 」。─
し か し ヘ ン ゼ ル は こ う 答 え た。 「 旦 那 が た、 御 免 蒙 こうむ っ て 申 し 上 げ ま す が、 お れ は 薄 鉄 を 撃 ち 当 て ま し た。 そ う い う こ っ て、 お 申 し 出 く だ ( ) 33 ( ) 34 ( ) 35 ( ) 36 ( ) 37 ( ) 38 ( ) 39すった射撃隊長の職も撃っちまいまさあ。旦那がたの屋根の風見はおれにはうるさ過ぎますし、旦那がたの雄鶏は お れ に は ろ く す っ ぽ 啼 い ち ゃ あ く れ ま せ ん〔 = 旦 那 が た は お れ の こ と な ん ぞ ろ く す っ ぽ 気 に し て や し ま せ ん 〕。 も う旦那がたには金輪際お目に懸かりませんし、旦那がたに取っ捕まることだってありゃあしません。お宿に泊めて く だ す っ て あ り が と う ご ざ ん し た 」。 そ し て 銃 を 持 つ と、 傲 ご う ぜ ん 然 と 歩 み 去 っ た。 さ て、 雄 鶏 云 云 で ヘ ン ゼ ル が 述 べ た の は 嘲 ち ょ う ろ う 弄 に 過 ぎ ず、 彼 が 仄 ほ の め か し た の は フ ラ ン ク フ ル ト の 象 徴 で あ る ザ ク セ ン ホ イ ザ ー 橋 ブリュッケ の 真 ん 中 に あ る 黄 き ん 金 鍍 め っ き 金 の雄鶏のこと 。 この橋を架けるのにその昔悪魔が手を貸した。 請け負った建築の 棟 とうりょう 梁 がどうにもうまくできな いので、悪魔に、助けてくれ、と言い、橋を最初に渡る者の魂をやる、と約束した。さあて、それから早暁、真っ 先に一羽の雄鶏に橋を渡らせたのである。そこで悪魔はかんかんに怒り、雄鶏を引き裂き、橋の真ん中を貫いて投 げ落とした。それで穴が二つできた。これは今日まで修理修復され得ないでいる。昼間 塞 ふ さ いだのが夜落ちているの だ。 も っ と も 橋 の 上 に そ の 雄 鶏〔 の 姿 〕 が い つ い つ ま で も の 徴 しるし と し て 安 置 さ れ た。 ヘ ン ゼ ル・ ヴ ィ ン ケ ル ゼ ー が、 ろくすっぽ啼いちゃあくれません、と言ったのは、取りも直さず、全然啼かない、という意味だったわけ。 七〇 ファルケンシュタインの 悪 トイフェルスヴェーク 魔の道 マ イ ン 河 畔 の フ ラ ン ク フ ル ト か ら 四 時 間 行 程 の 丘 の、 ほ と ん ど 到 達 し 難 い 巖 が ん じ ょ う 上 に フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン の 城 塞 の廃墟が 聳 そ び えている。これぞタウヌスとヴェッターアウで権勢を誇った一族の 揺 よ う ら ん 籃 の地である。一族の子孫の何人 かはトリーア大司教にすらなった。ザインのある騎士がファルケンシュタイン家の息女に恋したが、その父親は男 を嫌い、こんな人を 喰 く った口上を並べて騎士の求婚を断った。 「わしは喜んで貴殿に娘を花嫁御寮として進ぜたい。 ( ) 41
た だ さ さ や か な お 返 し を 頂 ち ょ う だ い 戴 い た す が。 こ の ぎ ざ ぎ ざ の 巖 い わ や ま 山 に 騎 馬 で 通 行 で き る 道 を 一 夜 で 作 っ て 欲 し い。
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こ れ が わ し の 条 件 で な。 こ れ で 決 ま り じ ゃ」 。 不 可 能 な 要 求 だ っ た。 仮 に 同 時 に 何 千 も の 人 手 を 掛 け て 堅 い 巖 が ん せ き 石 に 道を刻み込むとしても、そんな短い期間に作業を終わるなどということはできっこなかった。ザイン騎士─
名は ク ー ノ と い っ た─
は 悄 し ょ う ぜ ん 然 と 引 き 下 が り、 聖 地 へ 赴 き、 サ ラ セ ン 人 と の 夥 おびただ し い 会 戦 で 勇 猛 果 敢 に 闘 い、 死 に 場 所を求めたが、遂に見つからずじまい。我が恋を思い続けて止まぬまま、とうとう故郷へ立ち戻った。 懊 お う の う 悩 しなが ら 彼 は、 い と し い 女 に ょ し ょ う 性 の 消 息 が 得 ら れ ば、 と 巖 の 上 に 聳 え 立 つ フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン 城 の 周 り を 彷 さ ま よ 徨 い 歩 き─
その堅さ〔=苛酷さ〕で 己 お の が運命を象徴している巖を 陰 い ん う つ 鬱 に凝視した。ここでは人力は役には立たない、この巖に 道を 拓 ひ ら けるのは魔法だけだ、と騎士は溜息をついた。はて─
その時彼はだれかが自分の名を呼ぶのが聞こえたよ うな気がしたし、そこで振り向くと、茶色の上っ張りを 纏 ま と い、白髪で 皺 し わ くちゃの顔をした 地 エ ー ル ト メ ン ヒ ェ ン 中の小人 が 一人、巌の 裂 け 目 か ら そ こ に 出 現 し て お り 、 奇 妙 な 声 で こ う 語 り 掛 け た 。「 ク ー ノ ・ フ ォ ン ・ ザ イ ン よ 、 お ぬ し は ど う し て 城 し ろ や ま 山 下のおぬしの所領で銀を掘らせおって、わしらの安息を妨げるのか。おぬしはこの巖に道を拓きたいのか。ファル ケ ン シ ュ タ イ ン の 女 子 相 続 人 を、 あ の 高 み で ま だ 独 り ぼ っ ち で お ぬ し の こ と を 嘆 き、 お ぬ し を 慕 っ て い る あ の 姫 を、 己 お の がものとしたいのか。それなら一つだけ誓いを立て、それを守る、と約束せい」 。 か よ う な も の が 出 現 し、 か よ う な こ と を 告 げ た の で 騎 士 は 妙 な 気 分 に な っ た。 そ し て こ れ は 悪 し き 敵〔 = 悪 魔 〕 の誘惑かなにかかも知れぬ、誓え、と言われるのは、自分の魂のことではないか、と考えた。そこで、びくともせ ず に「 お ま え の 要 求 は 何 か 」 と 訊 た ず ね た。─
す る と 地 エ ー ル ト メ ン ヒ ェ ン 中 の 小 人 は 言 っ た。 「 お ぬ し の 騎 士 と し て の 言 葉 に か け て、 明日、その日のうちに鉱坑、 縦 た て あ な 坑 、横坑をすっかり埋めさせる、と約束してくれい。どのみち、我ら、やろうと思 えばこれらを水浸しにできはするがな。─
約束してくれれば、我ら、今夜中に巖をならしておこう。わしが言う ( ) 41たことをおぬしが実行すれば、おぬし、白昼に馬で城へ上がり、ファルケンシュタインの城主にやつの約束を思い 起 こ さ せ る こ と が で き る 」。
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こ れ を 聞 い て 騎 士 は 有 頂 天 に な り、 小 さ な 地 エ ー ル ト ツ ヴ ェ ル ク 中 の 小 人 の 要 求 を 喜 ん で 承 諾 し、 の んびり床に就いた。夜になると、城の周りには驚くべきことが起こった。ガラガラ、メリメリ、ゴトゴト、ドンド ン、 カ チ カ チ、 ザ ク ザ ク の 大 騒 ぎ。 何 千 も の 小 さ な 山 ベ ル ク ガ イ ス ト の 精─
こ の 連 中、 体 は ち っ ぽ け だ が、 力 は 巨 人 並 み─
が 総 懸 か り で 請 け 合 っ た 工 事 を 推 進 し、 雄 お ん ど り 鶏 が 啼 な い て 暁 を 告 げ た 時 に は 終 わ っ て い た。 そ し て 太 陽 が 遙 か な シ ュ ペ ッ サ ル ト 山 地 の 後 ろ か ら 昇 っ て 来 た 時、 ク ー ノ・ フ ォ ン・ ザ イ ン は 早 く も 新 し く で き た 道 を 騎 馬 で 上 が っ て 行 き、 角 笛 を 嚠 り ゅ う り ょ う 喨 と 吹 き 鳴 ら し た 。 そ こ で フ ァ ル ケ ン シ ュ タ イ ン 城 の 塔 上 の 見 張 り は 少 な か ら ず 仰 天 し た し、 フ ァ ルケンシュタインの城主はなおさらだった。しかし城主は長らく熱望していた道も嬉しく、約束を遵守し、相思相 愛 の 二 人 を 結 婚 さ せ た。 同 様 に ザ イ ン 騎 士 ク ー ノ は 小 ツ ヴ ェ ル ク 人 に し た 自 分 の 誓 言 を 実 行、 銀 鉱 山 の 坑 道 を 土 砂 で 塞 ふ さ ぎ、 廃 坑 に し た。 地 霊 が 拓 い た 巖 の 小 径 は 今 日 な お 悪 ト イ フ ェ ル ス ヴ ェ ー ク 魔 の 道 と 呼 ば れ て い る。 こ れ は 城 山 下 の 地 霊 の 棲 す み か 処 で あ る ア ル トキングの西側からシェルトの 洞 ど う く つ 窟 を通って山上に達する。 七一 エップシュタイン一族 今あるエップシュタインの町周辺の錯雑した 巖 い わ の 狭 は ざ ま 間 や 暗 あ ん う つ 鬱 な峡谷に、その昔、一人の荒くれた巨人が 棲 す みつい ていた。こやつは乙女たちを待ち伏せし、だれか一人を 捉 と ら えるたびに、先方のご意向より自分の勝手を重んじるも てなしをつかまつった。ある時、ファルケンシュタインの姫君を 拐 かどわ かすのに成功したが、この姫君にはさる高貴な ( ) 42騎 士 が 想 お も い を 寄 せ て い た。 エ ッ ポ と い う 名 の こ の 騎 士 は、 巨 人 と 闘 う か、 あ る い は 策 略 で 打 ち 負 か そ う と、 急 き ゅ う き ょ 遽 そ の 跡 を 追 っ た が、 鉄 で で き た 網 を 携 え て い て、 こ れ を あ る 場 所 に 仕 掛 け た。 そ れ か ら 巨 人 が こ ち ら を 見 つ け た 時、 す ぐ に そ れ と は 見 分 け ら れ な い よ う、 盾 持 ち が エ ッ ポ の 衣 服 と 甲 か っ ち ゅ う 冑 を 纏 ま と わ な け れ ば な ら な か っ た。 エ ッ ポ は 盾持ちの装束を身に着けたのである。巨人は自分を追跡して来る騎士のことなどこれっぱかしも注意していなかっ た。 こ や つ の 頭 を 占 め て い た の は た だ 虜 とりこ に し た 女 に ょ し ょ う 性 の こ と ば か り で、 こ れ ま で 他 の 乙 女 に し た こ と を 彼 女 に も し よ う と し た。 し か し 守 護 精 霊 が 彼 女 に 随 つ き 従 っ て い た の で あ る。 こ の 守 護 精 霊 に 対 し て は 巨 人 の 強 さ も そ の 魔 力
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というのはこやつは魔法使いだったのだ─
も何一つ果たせなかった。こうした不首尾にかんかんに腹を立て た巨人は今度はエッポに立ち向かうことにし、相手がこちらへやって来るのを目にすると、魔法の 伎 わ ざ 倆 と力を駆使 してエッポの従士を巖に変え、これで敵手を充分な期間呪封してやったわい、と思った。次いで、騎士の家来ども もすっかり片づけてしまおう、と勢い込んで前進した。しかしそのとたん巨人は例の鉄の網に落ちてしまい、中で じたばた大暴れしたが、網を引きちぎることができなかった。そこへ盾持ち姿の騎士が隠れ場所から現れて、巨人 を高い巖山の上へ引きずって行き、そこから下へ突き落とした。それから巨人の虜だった姫君を束縛から解放、奥 方に迎えた。残念ながらエッポは魔法を掛けられた盾持ちを救うことはできず、彼は今日なお巖と同様こんこちに 強 こ わ ば 張 っ た ま ま で、 事 実 巖 そ の も の で あ る。 こ れ は 男 マ ン シ ュ タ イ ン 石 と 呼 ば れ て い る。 そ の 後 エ ッ ポ 騎 士 は、 自 分 が 巨 人 を 突 き落とした巖山の上に新たに城塞を築いた。これなんすなわち後代の エ エ ッ プ シ ュ タ イ ン ッポの石 城である。で、その城門の丸天井 の 梁 は り には曲がった石の代わりに例の巨人の肋骨を埋め込んで繋ぎ留めた。さて、騎士とその夫人の子孫として数数 の 雄 雄 し い 勇 士 た ち と 偉 大 な 高 位 聖 職 者 が 数 え ら れ る。 騎 士 身 分 の 人 た ち に は 皇 帝 じ き じ き に 上 オーバー タ ウ ヌ ス の 特 ヴ ァ ル ト ボ ー テ 命使節 職 を下し置かれたし、エップシュタイン家の五人もが次次にマインツ大司教の座を確保した。そのうち三 ( ) 43 ( ) 44人の名はそれぞれジークフリート、ヴェルナー、ゲーアハルトである。このゲーアハルトは代代のマインツ司教の 系 譜 で は 二 マ マ 番 目 に そ の 名 を 連 ね て い る が、 頑 が ん め い 冥 か つ 傲 ご う が ん ふ そ ん 岸 不 遜 な 御 仁 だ っ た。 さ る ド イ ツ 皇 帝〔 = 神 聖 ロ ー マ 皇 帝 〕 が 彼 と は 別 の 意 向 を 示 し た 時、 腰 の 提 げ 囊 ふくろ を 叩 い て 大 声 を 張 り 上 げ た。 「 え え ま あ、 忌 い ま い ま 忌 し い。 皇 帝 の 思 惑 が 余 よ の そ れ と は 異 な る の で あ れ ば、 こ の 囊 の 中 に 別 の 皇 帝 を 用 意 い た し て お る わ 」。
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あ る 時、 あ る 皇 帝 が 彼 の 意 図 に 添 わ な か っ た こ と が あ っ た。 す る と 大 司 教 は 怒 っ て 自 分 の 角 笛 を 摑 つ か ん で こ う 叫 ん だ。 「 皇 帝 め、 神 の 呵 か し ゃ く 責 で 大 恥 を か き お れ い。 余 の 思 い の ま ま に な ろ う も の な ら、 こ の 角 笛 か ら 別 の 皇 帝 を 吹 き 出 し て く れ よ う に 」。─
こ れ は あ ながち 法 ほ ら 螺 を吹いたわけではない。アードルフ伯爵 に力添えして帝冠を得させようとしたのはこの人であった。そ してそれから引き下ろすのに荷担したのも。しかし後には衰運に向かい、己の不遜さを悔いる理由をたっぷり見せ つけられた。 七二 血 ブ ル ー ト リ ン デ の科の木 ヴィースバーデン 近郊、フラウエンシュタイン城の廃墟の傍らに巨大な 科 リ ン デ の木 が 一本立っている。この樹につい てこんな伝説が語られている。昔この場所でごく悲しいことが起こった。フラウエンシュタイン一族のある姫君が 自分と生まれの同等でない若者に恋をし、夕方城塞の外に出て城壁の近くの心地よく 小 お ぐ ら 暗 い一画でしばしば 逢 あ い び き 引 を し た。 こ こ へ は 普 段 は 常 に 閉 ざ さ れ て い る 小 さ な 門 か ら 出 ら れ、 そ の 鍵 は 乙 女 だ け が 携 え て い た の で。 姫 の 厳 し く、かつ気位の高い父親がとうとうこの 逢 お う せ 瀬 に気づいて激怒し、恋人たちの不意を襲い、我と我が手で姫の相手を 斬 り 殺 し た。 息 女 は 悲 嘆 の 涙 に く れ な が ら 科 リ ン デ の 木 の 若 枝 を 折 り 取 っ て、 愛 い と し い 男 の 血 の 泌 し み 込 ん だ 土 に そ れ を 挿 ( ) 45 ( ) 46 ( ) 47 ( ) 48し、父親には二度と再び言葉を掛けず、最寄りの修道院に入った。来る日も来る日も彼女は斬り殺された愛人を 偲 し の んで泣いたが、 科 リ ン デ の木 の若枝は根を張り、芽吹き、樹となり、男を慕って悼み続けるこの女性が生きて涙を流して い る 間、 だ れ か が こ の 科 リ ン デ ン バ ウ ム の 木 の 葉 を 一 枚 も ぎ っ た り、 枝 を 一 本 折 っ た り す る と、 そ こ か ら 血 が 流 れ 出 す の だ っ た。 も っ と も や が て そ ん な こ と を す る 者 は い な く な っ た。 畏 お そ れ 憚 はばか ら れ た の で。 こ う し て 血 ブ ル ー ト リ ン デ の 科 の 木 は ど ん ど ん 伸 び て 大層な高さと太さになり、現在その幹周りは男四人が手を繋いでやっと囲めるくらいである。 近くにグラローダー 農 ホ ー フ 場 なるいと古き農家がある。これについて類縁の伝説が語られている。ラーンガウのさる 伯爵家の年若な 御 お ん ぞ う し 曹司 がその一族とは出自の等しからざる少女に恋した。それゆえ父親は激怒し、二度と再び面前 に 現 れ る な、 と 勘 当 し た。 若 い 騎 士 の 方 も 言 わ れ た 通 り に 立 ち 去 り、 心 の 欲 す る ま ま、 愛 の 命 じ る ま ま に 従 っ た。 しかしそのうち老伯爵の周辺で疫病 が始まった
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妻が死に、娘たちが死に、それから四人の花も盛りの息子たち が同時に病んで、一人また一人と死んで行き、最後に残った者も─
やはり亡くなった。天涯孤独の身となり、跡 継ぎの子どもがすっかり絶えた老人は勘当した息子を思って 懊 お う の う 悩 した。あれが生き長らえていて、わしの傍にいて くれれば、もはやあれの恋のゆえに勘当などせぬものを。だが、まだあれは生きているだろうか、と。─
そこで 老伯爵は旅立ち、息子を捜してライン河畔をあちこち当たり、それからラインに流れ込んでいる支流の河谷やそれ らのまた支流の谷谷、そして山山を歩き回った。ある時疲れ切ってとある小さな 葡 ぶ ど う 萄 栽培農家に 辿 た ど り着いた。そこ で出 逢 あ ったのは葡萄栽培農夫夫妻、それから多分その子どもたちにも。そしてこの人人が周りの 巖 い わ だらけの土地を 開墾し、葡萄の木を植えたことによって 麵 パ ン 麭 を得ているのを見た。老人が空腹だったので、彼らはこの 麵 パ ン 麭 を老人 と 分 か ち 合 っ た。 若 い 妻 は 陶 器 の 鉢 か ら 葡 萄 の 房 を 出 し て く れ た。 そ し て そ の 夫 は、 ぴ か ぴ か の 二 ふ た ま た 股 鍬 ぐ わ 、 常 じょう 不 断 勤勉に使用しているのでぴかぴか光っている 鍬 く わ を肩に担いで歩み寄って来た。その時老伯爵は、その葡萄摘み農夫 ( ) 49が自分の息子だ、と一遍で分かり、抱きついて、涙を流し、祝福した。その後騎士は自分の葡萄山の農家を見下ろ す位置に城を築き、そこへ家族ともども引き移った。というのも、自分が妻と力を合わせて開墾し耕作した地所か ら去りたくなかったからである。この地所は後代、 伯 グ ラ ー フ ロ ー ダ ー ・ ホ ー フ 爵開墾農場 、あるいは縮めて、グラローダー 農 ホ ー フ 場 と呼ばれる よ う に な っ た。 伯 グ ラ ー フ 爵 が 開 ロ ー デ ン 墾 し た か ら で あ る。 老 伯 爵 は そ れ か ら ま だ 何 年 も 何 年 も 子 ど も や 孫 た ち と 一 緒 に 暮 ら し た。 そ し て 若 い 伯 爵 は 冑 かぶと 飾 り の 紋 章 と し て、 肩 に 銀 の 開 墾 鍬 を 担 い で い る 黒 い 短 上 衣 姿 の 髯 ひ げ 男 を 採 用、 彼 自 身 が 愛しい女性と力を合わせて土地を開墾した記念とした。ライン河畔なるシーアシュタインの古い教会でまだこの一 族の墓石を見ることができる。 七三 神 ノ ー ト ・ ゴ ッ テ ス の難儀 ラ イ ン 河 畔 の リ ュ ー デ ス ハ イ ム で、 ブ レ ム ザ ー・ フ ォ ン・ リ ュ ー デ ス ハ イ ム と い う 雄 雄 し い 一 族 が い と 古 き 砦 とりで に住んでいた。この砦の建設はローマ時代に遡る。そしてここから更に下流、木木の生い繁る山の頂きに 神 ノ ー ト ・ ゴ ッ テ ス の難儀 という奇妙な名の付いた修道院がある。一人のブレムザー・フォン・リューデスハイムがパレスチナへ出征、その 地 で 数 多 く の 勲 いさお を 挙 げ、 数 多 く の サ ラ セ ン 人 に 打 ち 勝 ち、 ま た 一 頭 の 龍 と 闘 い、 こ れ も 斃 た お し た。 し か し こ の 際、 あ る い は そ の 後 す ぐ に 不 信 の 輩 ともがら の 手 に 落 ち、 重 い 鎖 を 負 う こ と を 強 い ら れ た。 そ こ で 彼 は 牢 獄 の 中 で、 も し 自 分 が 命 長 ら え て 故 郷 に 戻 っ た ら、 い と け な い 子 ど も の 時 置 い て 来 た 娘 を 天 に 奉 献 す る、 と 誓 っ た。 す る と、 な ん と、 騎士の鎖がその身から外れた。天は捧げられた犠牲を 嘉 か の う 納 したのである。騎士は脱走し、故郷指して急いだ。麗し く 、 ま た 、 花 も 盛 り に 成 長 し た 娘 は 大 喜 び で 彼 を 迎 え た が 、 例 の 誓 言 を 打 ち 明 け ら れ る と 、 死 神 の よ う に 蒼 ざ め た 。 ( ) 51