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社会福祉措置制度の意義と課題(美崎皓教授追悼号)

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社会福祉措置制度の意義 と課題

は じわめに わが国の戦後社会福祉 は,一 口に措置制度によって支 えられて きた といって よいであろ う。 それがい ま大 きく揺 らいでいる。1980年代 に入 って厚生省 に よ りその 「見直 し」が主張 され るようになった。90年代 に入 ると,公 的介護保障 制度の創設 をめ ぐって措置方式か社会保 険方式かが争点 とな り,前 者が退け ら れ後者が採用 された。1997年には保育措置制度 を実質的に廃止す る含みで児童 福祉法の改訂が行 われた。 こうした 「見直 し」や 「廃止」の理由 として,措 置 制度は 「昭和20年代 の特殊 な環境の産物」で 「いまや古色蒼然たる制度」であ るとか,「措置は行政処分 であ り,選 択の 自由がない」 とか,「民間福祉施設は 措置委託費に依存 し,サ ー ビス競争がない」 といったことがあげ られている。 しか し,私 は,措 置制度 「見直 し」の動 きが始 まった比較的早 い段階か ら措 置制度の果 た して きた役割や改善すべ き問題点 を検討 して きたが,最 近の措置 制度に対す る批判 は きわめて一方的なものであって,決 して正鵠を得たもので ある とは思われない。 そこで小論 では,措 置制度の果 た して きた役割 をあ らた めて検討 して,一 方的な 「見直 し」「廃止」論への反駁 を試みたい。 I わ が国の社会福祉 と措置制度 最初 に,措 置制度につ いて簡単 に説明 してお こう。 「措置」 とい う言葉は,実 は社会福祉制度のなかでさまざまに使 われてお り, 錯綜 してい る。 そこで, まず以下の ように整理 してお こう。 第 1は ,社 会福祉諸法 (児童福祉法,母 子福祉法,老 人福祉法,身 体障害者 夫 龍 瀬 成

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74 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) 福 祉 法,精 神 薄 弱者福祉 法)の なか で見かけ る 「福祉 の措 置」 とい う使 われ方 であ る。社会福祉行 政 の メインは給付行 政 であ るが,給 付行 政 の手続 きとして 行 政側 が 申請者 のサー ビス受 給 資格 の認定 を行 った り具体 的 なサー ビスの提供 を決 め る行 為 を表現 す る意 味 で用 い られ て い る。 身体 障害者へ手帳 を交付 した り補装具 を給付 す るこ とも,保 育所や老 人 ホー ム な どの施 設へ の入所 を認可す るこ とも,い ずれ も 「福 祉 の措 置」 であ る。 しか し第 2に ,社 会福祉制度の各分野では,給 付行政の性質 を区別す る意味 か らか,あ るいは行政処分形式 を区別す る意味か らか,「保護」「援護」「措置」 な どの言葉が伝統的に使 い分 け られて きた。生活保護 なら 「保護」 (保護 の実 施機関,保 護決定,保 護基準,保 護費),障 害者福祉 なら 「援護」 (援護の実施 機関,援 護施設),児 童 ・老人福祉施設なら 「措置」 (措置の実施機関,措 置決 定,措 置基準,措 置費)と いった具合 にである。 ただ し,児 童 ・老人福祉施設 に関係 して 「保護」 とい う言葉 を使 わないわけではな く,保 育所や老人ホーム ヘの入所の対象 となる児童や老人 も 「要保護児童」「要保護老人」 といわれた りす る。「措 置」 とい う言葉が児童 ・老人福祉施設関係 の用語 であるのが比較 的明瞭に示 され るのは 「措置費」の場合 である。例 えば,厚 生省関係者の作成 した社会福祉制度の解 説書 では,「(児童福祉 関係 費におけ る)措 置費 とい うの 1 ) は,端 的 にいえば児童福祉施 設 の運営 費の こ と」 な どとのべ られてい る。 第 3に ,児 童 ・老 人福祉施 設 につ いて,社 会福祉事 業法等 に よって事業 の分 類や施 設経営 主体 の準則が定 め られ てい るが,法 的規制 を受 けていて もすべ て が措 置制度 の対 象 ではない。 そ こには,老 人福祉施 設 であれば,擁 護老 人 ホー ムや特別擁護 老 人 ホー ムの よ うに公 的措 置 を伴 うもの と,軽 費老人 ホー ムの よ うに伴 わ ない もの とが あ る。公 的措 置 を伴 う とい うの は,措 置の実施機 関 に よ って法 に もとづ く措 置 を受 け た者 を入所 させ る施 設 で,施 設 を設置す るこ との で きる者 (擁護老 人 ホー ム と特丹U擁護老 人 ホー ムは都 道府 県,市 町村,社 会福 祉法 人お よび 日本赤十年社 )が 限 られ てお り,施 設基準 の遵守義務,措 置の受 1)社 会福祉行政研究会編 『社会福祉法制論 ・財政論』新 日本法規,1981年 ,413ペ ー ジ。

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社会福祉措置制度の意義と課題 75 託義務 な どが課 され,行 政庁 が報告 の徴収や 監督,改 善命令 等 の権 限 を もって い る。公 的措 置 を伴 わない施 設 では,措 置の受託義務 が ない。 以上の こ とか ら,社 会福祉の 「措置」制度 とい う場合,主 として児童 ・老人 福祉 の分野で公的措置 を伴 った施設に適用 され る制度 を指 しているといってよ い。1994年10月 1日 現在,措 置制度下にあるわが国の保育所は,施 設数22,526, 入所者数1,675,877人,養 護老人ホームは施設数947,入 所者数64,569人,特 別 養護老人ホームは施設数2,982,入所者数205,729人にのぼっている。 施設入所 にかかわる措置 を構成す る制度的な要件 としては,① 施設経営主体 ②施設最低基準③措置権者④措置基準⑤サー ビス基準⑥措置費②費用徴収,な 2 ) どが あげ られ る。 社 会福祉事 業法 では,入 所 者 の人格 の尊厳 がおびや か されや す い収容施 設事 業 を公共性 の高 い第 1種 社会福祉事 業 とし,施 設経営主体 を国,地 方公共 団体 , お よび公共性 の高 い特男U法人 であ る社会福祉 法 人 に限定 してい る。施 設 の構造 設備 や職 員 配置等 の基準 に関 しては児童福祉 法,老 人福祉法等 の関係法令 で規 定 して い る。例 えば,老 人 ホー ムにつ いては,老 人福祉 法第17条に もとづ く厚 生 省令 「養 護 老 人 ホー ム及 び特 別 養 護 老 人 ホー ム の 設備 及 び運 営 に関す る基 準」 で具体 的 に定 め てい る。措 置基準 とは,施 設の入所対象 に関す る基準 であ り,保 育所 な ら 「保 育 に欠け る」 (児童福祉 法),特 別養護老 人 ホー ム な ら,65 歳 以上 の者 につ いては 「身体 上 又 は精神 上著 しい欠陥が あ るため に常時の介護 を必要 とし,か つ,居 宅 にお いて これ を受 け るこ とが 困難 な者」(老人福祉 法) と定 め られて い る。 保 育所 の場合 は親,老 人 ホー ムの場合 は本 人又 は家族 に よって入所 の 申請が な され る。施 設へ の入所措 置 を講ず るべ き資格 の有無 の判定 は措 置基準 に照 ら して福祉事務 所 で な され るが,措 置の決定権 を もつ措 置権 者 は保 育所 では市町 村 長,老 人 ホー ム では都 道府 県知事 もし くは市町村長 が その位 置にあ る。施 設 2)わ が国の社会福祉 の措置制度の歴史 と機能的仕組みなどの詳 しい点については,成 瀬龍 夫 ・小 沢修 司 ・武 田宏 ・山本隆 『福祉改革 と福祉補助金』 ミネルヴ ァ書房,1989年 ,の 諸 章 を参照 してほ しい。

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76 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) へ の入所 等の措置 を とるべ き都道府 県知事や市町村長 は措置の実施機 関 ともい われ る。 ただ し,な が ら く保 育所 の措 置権 な どは国か らの市町村長へ の機 関委 任事務 であ った。 1986年の福祉 8法 改正 時 に機 関委任事務 か ら団体委任事務化 され たが,い ずれ に して も委任事務 であ るこ とは,児 童福祉行政 の最終責任 が 国 にあ るこ とを建 て前 として きたか らにほか な らない。 したが って,施 設へ の 入所措 置や 入所後 の処遇 に要 す る費用 であ る措 置費 も,そ の一定割合 が国庫負 担金制度 に よって国か ら自治体 に措 置費 として支弁 されて きた。 施 設入所 後 の処 遇 サー ビスの 内容 につ いては,国 が毎年予算編成 で決 め る措 置 費 の単価 (入所 者 1人 当 た りの 日額や 月額,保 育所 では 「保 育 単価 」,収 容 施 設 では 「保 護 単価 」 と呼ぶ)に よって コン トロー ル され る仕組 み であ る。 費 用 の徴収 は,保 育所 では 「保 育単価 」 の全額 を保 育料金 に リン クし親 の所得 階 層 に よって応能 的 に負担 させ る方式,老 人 ホー ムでは入所老 人や家族 の収 入 に 応 じた費用徴収 基準 が適用 され てい る。 II 措 置制度 をめ ぐる評価 (1)措置制 度が果 た して きた役 割 措 置制度 が わが 国の戦後社会福祉 の歴 史 にお いて呆 た して きた積極 的役割 と して,次 の よ うな諸″点が指摘 され る。 まず第 1に ,敗 戦後 の国民の大 多数 が貧窮状 態 にあった時期 お いては,生 活 救 済機 能 を中心 的 に担 ったの は生 活保 護制 度 であ った。福祉 施 設 は児童福祉施 設 も老 人福祉施 設 も障害者施 設 も絶対 的 に数 が少 な く,施 設へ の入所 等の措 置 制 度 は たい した役 割 を果 た した とは い えない。措 置制 度 の役 割 が注 目され るの は高度経済成長期, と くに昭和40年代 以降各種 の福祉施 設が大幅 に増加 す るよ うになってか らである。昭和40年代 には 「ポス トの数 ほ ど保育所 を」 とい う労 働組合 の要求 スローガンが見 られたが,女 性の職場進出,共 働 き夫婦の増大, 核家族化や高齢者世帯の増大 といった高度経済成長の もたらした変化 を背景に, 増大す る福祉 ニー ズを担 う施設福祉 の実施体制 を支 えるようになったのが措置 制度 であった。昭和20年代か ら30年代 にかけて福祉関係諸法の制定 を通 じて整

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社会福祉措置制度の意義 と課題 77 備 され た措 置 制 度 は, 昭 和 4 0 年代 以 降 の 高 度 成 長 期 に な って そ の役 割 を本 格 的 に果 たす よ うに な っ た とい え る。 第 2に ,わ が国の施設福祉の状況は,東 京のような大都市の中心部にある保 育所や老人ホームであろ うと,山 間僻地の保育所や老人ホームであろうと,施 設設備や処遇の内容,水 準 にほ とん ど差がない。公立 と私立のあいだで もそ う である。 この ように社会福祉サー ビスが,都 市 ・農村 を問わず,ま た施設経営 形態の公共 ・民間 を問わず,一 定の標準的な水準 を維持 しかつ向上がはか られ て きたのは,ひ とえに措置制度によるといってよい。 これは,地 方 自治法が福 祉施設や職員 につ いて必置規制 を行 い,福 祉関係諸法が福祉施設についての市 町村長の措置権や民間社会福祉法人へ の措置委託 の要件 を定め,国 が施設への 入所や施設内での処遇,入 所者か らの費用徴収等,措 置基準 を決め るとい う仕 組みの もとでは当然 そ うなる。逆て,措 置制度が存在 しなか ったならば, この ように全国的に同質,同 レベルの行政水準 を形成す ることは不可能である。措 置制度が存在 しなか ったな らば,財 政力の豊か な地域 と貧 しい地域,経 営基盤 の安定 した公共施設 と不安定 な民間施設 とのあいだには,大 きな格差が発生 し ていたであろう。 第 3に ,措 置制度は,社 会福祉法人 として法人認可 された民間福祉施設に措 置委託 し,措 置委託費によるその経営保障 をはか って きた。 これによって民間 福祉施設のほ とん どは措置制度の もとに包摂 され,公 的福祉 を代行 して きた。 その結果,わ が国の民間社会福祉法人は民間 らしい独立性や 自主性 を大幅に束 縛 され ることになったが,一 般 国民か らすれば,大 事 なのは施設の経営形態が どうあろうと,サ ー ビスの請求権が保障 され実際に適切 なサー ビスが受け られ るこ とである。措置制度の もとで国民は,民 営施設であって も公的責任 と管理 下 にあ り,公 営の施設 と同質,同 レベルのサー ビスを受け ることがで きるとい う安心感 と信頼感 をもつ こ とがで きた。措置制度は,こ の ように民間 をもあま ね く包摂す ることによってわが国の社会福祉の公共性 をきわめて明瞭ならしめ て きた といってよい。 総 じていえば,措 置制度は戦後 日本の福祉のナ ショナル ・ミニマムを支 えて

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78 美 崎 皓 教 授 追悼 号 (第309号 ) 〕 きた制度であると評イ面して もよいであろう。われわれが社会保障 を通ず るナ シ ョナル ・ミニマムを論ず るとき,一 般 に 2つ の点が問題 となる。一つはナ ショ ナル ・ミニマム を実現 しうるための各種社会保障サー ビスの行財政体制が整備 され機能 しているか どうかであ り, もう一つはサー ビスの内容,水 準がナ ショ ナル ・ミニマム (例えば,わ が国の憲法第25条の定め る 「健康 に して文化的な 最低 限の生活」)といえるだけの妥当なレベルにあるか どうかである。社会福祉 の措置制度は,前 者に関 しては,制 度の運営に多 くの硬直性が存在 し,次 の と ころでのべ るように問題がないわけではないが,先 ほ どあげた諸点か ら基本的 に評イ面してよvヽと思われ る。後者に関 しては,保 育所保育 などは一定評価 で き よう。 しか し,プ ライバ シー尊重のための個室保障 を制度化 してこなかった老 人 ホー ムな どは重大 な不備 をかかえている。 したがって措置制度下で も福祉分 野に よってナ シ ョナル・ミニマムの内容,水 準には差がある。 C)措置制度が抱 えて きた問題点 措置制度は改善 され るべ きい くつかの問題 を内包 して きた。 その第 1は ,実 際か らかけ離れた,低 い措置基準や措置費の算定基準がお し つけ られて きたことである。保育行政 を例 に とると,厚 生省通達の 「入所措置 基準」があげ られ る。 そこでは,母 親が居宅外労働 に従事 している場合,居 宅 内労働 に従事 している場合,母 親のいない場合,母 親が出産,病 気等の場合 な ど,入 所措置で きる 7項 目を示 している。厚生省児童家庭局 『保育所入所措置 事務提要』は,こ れ らをさらに細か くし,母 親が居宅外労働 の場合,病 BBな祖 母がいれば 2人 の乳幼児の育児がで きるとか,母 親が居宅 内労働の場合,伝 票 整理 ・記帳等の事務,理 容 の手伝 い,店 の電話の受付 ・来客接待,用 件の取 り 次 ぎなどは軽易 な仕事 なので,子 供 をみなが ら仕事がで きるとし,「入所不適 正」 とす るよう指示 している。 また,上 の子 を保育所に預けて乳児 をかかえて 内職 していると, これ も乳児の世話がで きるならと 「入所不適正」扱いである。 3)成 瀬龍夫 「福祉補助金 の仕組み と研究課題」,同 上,序 章,16ペ ー ジ。

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社会福祉措置制度の意義と課題 79 厚生省 は,こ うした厳 しい入所 措 置基準 を 自治体 にお しつ け,地 方 自治体 の弾 力的 な運 用 を基本 的 に認 め ない姿勢 を とって きた。 また,保 育所 に対 す る措 置 費 (運営 費)は 保 育単価 (入所 措 置 児 1人 にかか る月額 経 費)に も とづ いて決 め られ るが,保 育単価 で試算 され た保 母 配置人数 も国の最低 基準 よ り低 か った 0 ので,多 くの地方 自治体が単費で予L幼児の保母加配 をせ ざるをえなか った。 第 2は ,サ ー ビス受給の権利性のあいまいさである。サー ビス受給をめ ぐる 権本U性につ いては,国 民が 自らのエー ズに もとづ き給付 を申請 し措置を受けよ うとす る段階 と,措 置決定後 にさらに処遇の内容 に要望 をもつ段階 とがある。 前者に関 しては,法 学面では社会保障における国民の権利 を「実体的給付請求 ゆ 権」 として明確 に した社会保障学者の小川正亮の説が有力であるが,厚 生省 な どは,有 権解釈 において行政側の職権主義 を根拠 とす る反射的利益説の立場に 0 立 って権利性 を否定 して きた。 こうした職権主義的解釈に立てば,国 民の側 に 給付請求権 はな く,措 置はあ くまで行政側の 自由裁量による強制的な行政処分 行為 とい うこ とになる。 どこそこの保育所,老 人ホームヘ入 りたい と選択 を希 望す るとか,あ るいは措置決定後の段階,施 設入所後にサー ビスの内容の改善 をもとめ るといった権利は受給者 にはない とされ るのである。社会福祉 の措置 制度が人権保 障 とそれに対す る公的責任 に立脚 した制度であるとい う理解 に立 てば,厚 生省のこうした解釈 はあきらかに解釈権 の濫用であるが,そ の厚生省 が1980年代以降制度の 「見直 し」 を打 出 し,「措置方式では,権 利性が不 明確 で選択の 自由がない」 と主張 して きたのは一種の 自己矛盾 といわざるをえない。 権利性 を明確 に し選択の 自由 を認め るのは,措 置制度 を否定 しな くて も厚生省 4)村 山祐一 「『行政改革』 と保育 の危機」全 国保育 団体連絡会 ・保育研 究所編 『保育 白書19 82』草土文化,1982年 ,参 照。 5)小 川正亮 『権利 としての社会保 障』勁草書房,1964年 ,参 照。 6)老 人福祉法制定 (1963年)時 の厚生省社会局長の説明では,老 人ホーム等への収容等の 福祉 の措置 (同法11条)に 関 して職権 主義 を採用 した理 由の説明 と関連 して,「本条 に よ る措置は,措 置の実施機関に課せ られた義務 であって……希望者か らの請求権に基づ くも のではない。 したが って措置 を受け るこ とに よ り老人ホームにおいて養護 され ることは, 老人に与 え られた権利 ではな く,公 的機 関に措置義務 があ るこ とか ら派生す る反射的利益 であ る」 とされている。 (大山正 『老人福祉法の解説』有斐閣,1964年 。)

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80 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) が 自らの解釈 を変更す ればすむ問題 と思われ るか らであ る。 第 3は ,措 置制 度 の も とで民 間社 会福祉 法 人 は公 的福 祉 の代行機 関化 して い るが,そ の ため に民間 としての独 立性や 自主性 が著 し く制約 されて きたこ とで あ る。 この理 由 は あ きらか で,措 置委託 費 を民 間福祉施 設 に支弁 す るこ とは, 「公金 その他 の公 の財産 は,… …公 の支配 に属 しない慈善,教 育若 し くは博愛 の事 業 にたい し,こ れ を支 出 し,ま たはその利用 に供 して はな らない」 と定め た憲法 第89条に抵触 す る (民間社 会福 祉 事業 は慈善 や 博 愛 の事 業 とみ な され る)お それが あ るため,公 の支酉己に属させ るべ く,民 間社会福 祉 法 人の人事 , 会 計予 算等 を特別 な監督 の下 にお き, また措置委託 費の使 途 の 自由 も一切認め 7 ) て こなか つたか らで あ る。 しか しその結果,社 会福祉事 業法 で定め られ た社会 福 祉事 業 の経営 の準 則 で あ る公の責任 の転嫁 の禁 止,民 間社会福祉事業の 自主 性 の尊 重,民 間社 会福祉事 業 の独 立性の維持 とい ったいわゆ る 「公私分 離 の原 則」 は まった く空文化 して きた。憲法第89条や社会福 祉事 業法 の 「公私分 離 の 原則」 の規定 は,戦 前 の わが 国の社会福祉行 政 の反省 の上 に立 った もの であ る。 しか し,こ の″点も,戦 前 な ら ともか く,戦 後 の新たな社会環境や公 的社会福祉 が定着 して きた段 階 では,民 間社会福祉事業 をすべ て慈善 や博 愛 の事 業 とみ な す 必要 は な くな って い る とも考 え られ る。 民間 との関係 で措 置委託 ・措置委託 費 の制 度 を維持 す るに して も,民 間社会福 祉 法 人の経営 の独 立性や 自主性を も っ と高め てい く改革 は不可能 ではない と考 え られ る。 III 措 置制度 の 「見直 し」 「廃止」 をめ ぐる動 向 と論点 (1)「見直 し」「廃 止」論 の問題 点 1983年に全 国社 会福 祉協議会 施 設制 度基本 問題研 究委員会 は 『新 たな福 祉施 設活動 の展 開』 と題 す る報告 を出 した。全社協 はわが国の民間福祉機 関の代弁 者 で あ るが,厚 生省 の外郭 団体 的性格を もってお り, この報告 は全 社協 を通 じ て厚生省 の措 置制度 「見直 し」の基本認識が表面化 した ものであつた とい つて 7)社 会福祉行政研究会編 『社会福祉法制論・財政論』, 前掲,33-34ペ ー ジ。

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社会福祉措置制度の意義 と課題 81 よい。同報告は,次 のようにのべている。 「措置制度は制度発足当初 においては,国 民の最低 限度の生活保障 をは じめ, 保護 。養育 ・更正 な ど国の責務 の遂行や施設入所の優先順位等の判断を,公 の 責任 として行 うとい うものであった。措置の概念は,措 置権者 (行政)の 被措 置権者 (要保護者)に 対す る強制力の伴 った行政行為 である。国 と措置権者 と の関係は機関委任 であ り,措 置権者 と地方公共団体以外の ものが経営す る施設 との関係は委託契約 の関係にあると法的には解釈 されてお り,こ の場合,措 置 費はこれに支弁 され る委託費 と解釈 されている。 憲法89条で公の支配に属 さない 『私』の社会事業への公金支 出が禁 じられて い るが,こ の条項に抵触 しないようにす るため,『公の支配』に属す るかたち で 『特別助成』 を行 うとい う考 え方で整理 された ものが,委 託費 とされた経緯 である。措置費制度が硬直化 している原因の一端は,こ こにある。つ まり施設 入所処置が,行 政行為 として行 われ るため入所者の施設 を選択す る余地が少な く, また施設の側 で も, よ りよい処遇 を求めて他 とサー ビスを競 うとい うこと がない。 私学助成については, この条項 との関係 を法的に解明すべ く努力がなされて お り,措 置費について もこの点 を検討す る時期 に きている。 措置対象者が限定 され施設数が不足 していた時代 にはこうした制度で対応す るこ とがで きた。 しか し,今 日の ように,施 設が量的 ・質的に も整備 され,機 能的に も保護 ・収容 とい う場か ら生活 ・利用の場へ と変化 し,対 象者 も制度発 足当初 と比較 にならないほ ど拡大 した現状 にあって,被 措置者 を強制力 を伴 っ た行政行為 として保護収容す るとい う旧来の概念はそ ぐわな くなっている」 ここには,の ちのさまざまな措置制度批判の基本的論点が見出され るが,そ れ らの批判点 を列挙すれば,だ いたい以下の ようになるであろう。 ①措置制度は,昭 和20年代 の特殊 な社会環境の産物,敗 戦後 で貧 困者が満 ち あふれていた時代 にそれ らの人々の救済 を目的 としてつ くられた制度である。 ②保護,収 容,養 育,更 正 な どのための措置は強制力 をともなった行政処分 行為 であって,入 所者に選択の 自由がな く,福 祉施設が生活 ・利用の場 に変化

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82 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) して きた今 日に は そ ぐわ な い。 ③民間福祉施設は経営基盤 を措置委託費に依存 しているため,施 設間でのサ ー ビス向上の競争がない。 ④ わが国では福祉行政に中央政府が介入 しす ぎている。 ヨー ロッパなどでは 地方 自治体 に責任 と役割がゆだね られている。 しか しなが ら,こ うした批判″点は,す でにのべ たようなわが国の措置制度の 呆 た して きた歴史的役害Jを振 り返 るときやは り妥当な批判 とはいいがたい。 措置制度がつ くられた時代 は国民大 多数の生活が貧困状態にあ り,措 置制度 が一方でこうした状態に対応す る必要性に迫 られてつ くられたことは疑いない が, しか し決 して一時の救貧 目的でつ くられた制度ではなかった。憲法25条の 定め る生存権保障 を具体化す る社会福祉行政の実施 し制度 としてつ くられたの であ り, と くに戦前の救護法時代 の救貧行政 と決別 して公的責任 を明確 に しよ うとす る意図の産物 であった。生存権保障の理念 と公的責任 をまっとうす る制 度 として,最 初か らいわば丈夫で長持 ちのす る制度的仕組み として発足 したと いってよい。 それゆえに,高 度経済成長過程 で国民の生活水準が上昇 して も, 共働 き夫婦の保育問題や家族の解体が生みだす老人養護問題 などに対応 しえて きたのである。 措置が強制力 をともなった行政処分行為 であるとい う点に関 して も,一 方的 な解釈 である。通常,保 育所や老人ホームなどへの入所は入所 を希望す る者の 申請 と同意に もとづ いてなされてお り,入 所 その ものについて行政側の 自由裁 8)前 掲 の厚生省関係者による制度解 説の中で も,例 えば,「児童福祉法は,明 治以来の児 童政策 を一貫 して きた要保護児童対策 中心の思想に終止符 をうち,そ れ を超 えて次代の社 会 の担 い手 たる児童一般の健全育成,全 児童の福祉 の積極的推進 を基本精神 とす る児童に つ いての根本的総合的法律 であ り,わ が国におけ る画期的な社会立法である」 とのべ られ ていた (社会福祉行政研 究会編 『社会福祉法制論 ・財政論』,前 掲,136ペ ー ジ)。 ところ が,「措置か ら利用へ」の転換 を眼 目とす る児童福祉法改正 に関す る中央児童福祉審議会 の中間報告 (1996年12月3日 )の 趣 旨説明のために同月16日に開催 された全国児童福祉主 任課長会議 で,厚 生省の大泉企画課長は, この 「措置か ら利用へ」の転換 を 「古色蒼然 と した恩 恵的 な福祉制度か らの脱却」 と説明 してい る。 (保育研究所編 『保育情報』全国保 育 団体 連絡会,No.239,1997年 1月 。)

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社会福祉措置制度の意義 と課題 83 量 で 強 制 的 に入所 させ る とい っ た モ メ ン トは 存在 して い な い。 法 学専 門家 た ち が認めているように,措 置制度の もとでは,申 請者が一定の要件 を満たしてい れば行政側 はサー ビス給付 を行 わなければならない責任 を負っている。措置 と は,こ うした公正 な法的措置 を意味す る器束裁量行為である。 入所者に選択の 自由がない とい う″点に関 して も,今 日では,申 請者の場所希 望 を尊重 した対応がなされている。必ず しもそれが希望通 りにならなかった り 一定期間待機 をさせ られた りするのは,施 設の配置や量的不足から生 じる問題 である。社会福祉施設では医療の ような息者のフ リーアクセス保障や医療機関 を選択す る自由は とくに必要 ではない。医療では,診 療科 目の設定や患者への 治療の内容 は医療機関にまか されてお り,そ の代わ り患者はどの医療機関が 自 分 に とって適切か を自由に選ぶ権利 をもっている。福祉施設の場合は,措 置制 度の もとで処遇サー ビスの内容 は標準化 されてお り,あ る施設はサー ビス内容 が非常によ く,あ る施設は非常に悪いといった格差は本来生 じない。福祉施設 へ の入所 では,待 機者が出ず,交 通アクセスや家族の居住地 との関係か ら希望 され る場所の施設への入所がかな うように,施 設の量的充足や地域配置を行 う こ とが求め られ るのであって,問 題があればそうした課題 を解決できていない 福祉行政の計画性の欠如に起 因す るもの といわなければならない。 措置委託制度に経営依存 した民間施設には競争 を通 じてのサー ビス向上がな い とい う点について も,市 場原理的発想か らす る的外れの批判である。民間経 営が市場原理下におかれれば,競 争 を通 じて安 い価格で良質なサー ビスが供給 され るようになると考 えるのは,市 場主義的な一種の幻想にす ぎない。市場原 理下では,競 争によって安 い価格 で良好 な質のサー ビスが提供 されるのではな 9)宮 崎良夫 「社会保 障行政 と権利保護」東京大学社会科学研究所編 『福祉国家 4 日 本の 法 と福祉』東京大学出版会,1884年 ,参 照。宮崎は,職 権主義の原則が建前 として採 られ てい るのは,申 請に もとづ くだけの措置では不十分 なことを見越 した行政庁の措置義務 を 示 してお り申請権 を排除 しないこ と,入 所の措置決定は行政庁の恣意 を排 して公正になさ れ るべ きで法的拘束 を免れ るわけではないか ら, 自由裁量ではあ りえず,器 束裁量の行為 であるこ と,裁 量行為 による授益がたんなる反射的理由に とどまらなければない理由はな いこと, な どの″点を指摘 している。 (同上,295-298ペ ー ジ)。

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84 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) く,所 得 階層 に応 じて 「安 か ろ う悪 か ろ う」 「良か ろ う高か ろ う」 とい うサー ビスの質 と価格 の格づ け され た市場構 造が で きあが るのであ る。 なお また,福 祉 サー ビスは経 済学 的 に見 て も市場競 争 に な じまない。福祉 サー ビスは,労 力 や 時間 をかければかけ るほ どサー ビスの質 が 向上す る時間消費型サー ビスの性 格 をもつ。福祉サー ビスの質の向上 は,こ うした時間消費型サー ビスであるこ との特性 をふ まえて,施 設職員の配置数 を増や した り,職 員の専 門能力の向上, さらには民主的な経営参加方式の導入 といった方法で追求 されてい くべ きもの といえよう。 また,こ うした改善 は,福 祉施設の経営が安定 した公的基盤の う えにおかれ るこ とに よって よ り容易になる。 ヨー ロッパに比べ て,わ が国の社会福祉行政では中央政府の関与が圧倒的に 高いこ とは事実 であ る。 ただ し,こ れは, ヨー ロッパ諸国 とわが国の地方 自治 の歴史や伝統の違 いが反映 してお り,た だちに社会福祉制度の国際間の優劣比 較やわが国の措置制度方式の劣位判定につなが るような論″点ではない。 ただ, すでにのべ たように,わ が国では中央集権的であるあまりその弊害が大 きかっ たのは事実 であ り,国 民の生存権権保障に対す る政府の最終責任 を曖味にさせ ないか たちで,地 方 自治体 によ り大 きな責任 と役割 を付与 してい く方向に異論 はない。 修)「措置 =集 権的パ ラダイム」論への批判 ― 新藤宗幸への反論一 さて, ここで新藤宗幸の措置制度に対す る批判に もふれておかなければなら ない。氏は,そ の著 『福祉行政 と官僚制』 (1996年)に おいて,措 置制度 は集 権的行財政体制に立脚 した ものであ るのに,成 瀬等の措置制度重視論は過剰 な 肯定的評価 を行 い,社 会福祉 におけ る管理 と集権の思想 を容認す るもの と論断 してい るか らである。新藤は,私 がかつて 「か りに今後措置 。措置費制度が解 体 されて しまえば,先 ほ どのべ たようなわが国の社会福祉事業の最低基準維持 や地域格差の是正,民 間経営の安定化 といったナ ショナル ・ミニマムの機能 を 果 たす制度がな くなるこ とを意味す る。 そ うすれば,わ が国の社会福祉体制は, 国民の権利 を保障す る公的な制度や条件 を基本的に失 って しまうことになる」

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社会福祉措置制度の意義 と課題 85 とのべ たこ とに関連 して,次 のように クレームをつけている。 「ここに見 られる発想の一つは,集 権的行財政体制にたいする高い肯定的評 価 である といわねばならない。別段 これは成瀬 らに特有の見解 なのではな く, 日本の社会福祉研究者の間に,か な り共通 して見受け られ るといってよい。 し か し,そ れに して も福祉 におけ るナ ショナル ・ミニマムの維持 は,行 政警察概 念 をひ きず る行政処分行為 としての 『措置』でなければ,維 持 しえない もので あ るのか。 また,ナ ショナル ・ミニマム概念では対応できないニー ズの発生に, どの ように応 えるのか。 さらに福祉財政政策は,『措置』 と不可分 に結びつ い た 『措置費』 を鍵概念 として,構 成 されねばならない ものであるのか。民間経 営の安定化 とはい うが,実 態は準政府機関であ り,さ らに近年 では経営の安定 性 に 目をつけ,相 続税 回避 を意図 した社会福祉法人 (主として特別養護老人ホ ーム)の 濫設をどのように考 えるの力!。」 相続税 回避 を意図 した特別養護老人ホームの濫設や それにか らむ厚生省の高 級官僚 の汚職 は措置制度 となん ら関係 はないが,そ れは ともか くとして,新 藤 が展開 している批判点は以下のように要約 され よう。 ①措置制度重視論 は,更 正,援 護,保 護,収 容,給 付 な どの 「措 置」「措 置 制度」「措置決定」 といった国家の後見性 を色濃 く反映す る一連の概念か ら構 成 されている。 しか し,国 家の後見性に もとづ く 「措置」概念か ら構成 された 福祉行政 と理論 は,福 祉給付へのスティグマ (恥辱)を 再生産 こそすれ,福 祉 を自治 と参加の もとに再構成す る指向性 を拒んできた。 ② 「措置」 を憲法第25条の定め る生存権保障の具体化の一つ と見 る見解があ るが,「措置」は行政警祭概念 をひ きず る強制的な行政処分行為 である。更正, 援護,保 護,収 容 といった言語は,憲 法のい う生活権の保障に反す るイメー ジ をもち,生 活保護行政に見 られ るように実際に人間の尊厳や権利の保障に反す る事態 を生んでいる。 ③戦後の社会福祉行政概念 と理論 は,公 (public)の責任 を国家の責任 と等 10)成 瀬龍夫,前 掲,17ペ ー ジ。 11)新 藤宗幸 『福祉行政 と官僚制』岩波書店,1996年 ,113ペ ー ジ。

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86 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) 置 して きた。 国 家 責 任 を強 調 す るあ ま り, 人 間 と して の権 利 を時代 状 況 に応 じ て発 展 させ る政 策 思考 を欠 い て い た。 ④ 国家の責任遵守 を強調す る 「措置 =生 存権パ ラダイム」は,行 政実施体制 上 「集権的パ ラダイム」 を前提 としてい るが,こ れは生存権保 障の価値 を強調 す るあま り政策の責任 と実施の主体 を国家 (中央政府)の み と見な している。 政策の 目標設定や手段体系の政府間 (中央政府・自治体間)で の分有の考祭が 軽視 されている。 ⑤ 「集権 的パ ラダイム」か らは,生 活権保障の 「自己決定の論理」が生 まれ ない。「集権 的パ ラダイム」 を大胆 に否定 し,市 民の政府 (自治体)に よる政 策 ・プ ログラム設計 と実施 システム を展望 した理論構成が必要 である。 さて, まず指摘 され るのは,新 藤は 「措置」 を強制的な行政処分行為 と見な しているこ とであ る。すでに この点につ いては現実的に も法学的解釈 において も妥当でないこ とをのべ たので繰 り返 さない。 ただ,更 正,援 護,保 護,収 容 といった言語の イメー ジに関 していえば,そ れ らが戦前か らの用語 として行政 警察的 イメー ジを有 してい るこ とには同感 である。 あ くまで言語 イメー ジの問 題 にこだわ るな らば,何 か的確 な言葉に置 き換 えれば簡単 にすむ ことである。 しか し,真 の問題 は言語 イメー ジではな く,「措置」 を厚生省や新藤の ように 権力的 な行政処分行為 と解す るか,そ れ とも基本的に人権保 障行為 と解す るか その理解の仕方にある。 第 2に ,戦 後の社会福祉行政概念 と理論が公の責任 を国家責任 と等置 して き た とい うの も,一 方的な決めつけである。憲法25条は 「・……国は,す べての生 活部面において,社 会福祉,社 会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなけ れば な らない」 と規定 し,「国の責任」 をうたってい る。 この 「国の責任」は, 中央政府の責任 をベー スに しているこ とは明 らかである。 しか し,社 会福祉 ・ 社会保 障に関す るあらゆ る施策 を中央政府が単独,直 営で行 うことは実際には 不可能 である。 また,社 会福祉行政 に関 して地域社会が地方 自治 を通 じて主体 的に関与す るこ とはのぞ ましいばか りか必要 で もある。 しだが って,「公的責 任」は通常 中央政府 と地方 自治体が協同 もしくは分担 して担 うもの として理解

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社会福祉措置制度の意義 と課題 87 され て きた。 社 会 福 祉 の実 施 上 の体 制 も,中 央 政 府 の 直 営 で な く,措 置権 を機 関 委 任 事 務 (現在 は 団体 委 任 事 務 )と して地 方 自治 体 に委 任 し,そ れ に と もな う措置費 を国庫負担金 として支弁 し,ま た地方 自治体 に社会福祉関連の施設, 職員 な どの設置 を法的に義務づ け る必置規制 を行 い,そ れに要す る経費 を各種 の国庫負担金や地方交付税の制度で保障す るとい うかたちが とられて きた。「公 的責任」のそ うした理解 こそ,戦 後の社会福祉行政概念 と理論において一般的 であった。問題 は,中 央政府 と地方 自治体 の関係 をめ ぐって中央政府の中央集 権的弊害 と地方 自治の限界が憲法25条の着実 な実現 を阻むおそれがあったこと であって,両 者の本来の関係 はいかにあるべ きかが今 日までさまざまな角度か ら模索 されて きた といってよい。新藤のように,中 央政府 と自治体間での政策 の 目標設定や手段体系の分有の考察が これ まで軽視 されて きたなどとはまった 1 2 ) くい えない。 第 3に また,戦 後の社会福祉行政概念 と理論が,国 家責任 を強調す るあまり, 人権 を時代状況に応 じて発展 させ る政策思考 を欠いていた とい うの も,妥 当で ない。国家責任 を強調す ることと,人 権 を時代状況に応 じて発展 させ る政策思 考 とは必ず しも対立 しないが,戦 後の両者の関係 を振 り返 るならば,む しろ人 権 を時代状況に応 じて守 り発展 させ る努力が,た えず国家責任 あるいは公的責 任 のあ り方 を問い,そ れ を変革 して きた といってよい。一例 をあげるならば, 児童福祉法の 「保育に欠け る」の規定の解釈 について,当 初の救貧的児童救済 の解釈が,高 度経済成長過程 で共働 き夫婦が増大す るにつれて女性の勤労権保 障的な意味合 い も積極的に加 味 され るようになったことである。む しろ,生 活 保護行政 な ど,社 会福祉行政の硬直的な救貧的運用にこだわって,時 代状況に 応 じて人権保 障 を発展 させ る政策思考 をしば しば欠いていたのは政府 ・厚生省 12)わ が 国の社会福祉行政 におけ る公的責任の構造,社 会福祉制度の中央 ・地方関係 をめ ぐ る戦後 の改革論 の流れにつ いては,塩 野宏 「社会福祉行政 におけ る国 と地方公共団体 の関 係」東京大学社会科学研究所編 『福祉 国家 4 日 本 の法 と福祉』東京大学 出版会,1884年 , を参照。 また,成 瀬龍 夫 「わが国の社会保 障 と地方 自治」総合社会福祉研究所 『総合社会 福祉研 究』 第10号,1997年 2月 ,を 参照 してほ しい。

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88 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) であ った といえ る。 新 藤 は, 生 存権保 障や 国家責任 を強調 した り, そ れ らと関連 させ て措 置制度 を重視 す る論 者 を一括 して 「集権 的パ ラダ イム」 に組 みす る もの と批判 してい るが, しか し,そ の論法 は きわめて強 引かつ 断定 的 であ る。彼 自身は, 自己の 主張 す る 「分 権 的パ ラダイム」 の具体 的 イメー ジ,あ るいは生活権保 障の 「自 己決定の論理」 なるものが具体的に どの ような福祉行財政の制度構造になるの か何 も示 していない。仮 に中央政府が社会福祉行政か ら手 を引 き,彼 のい う市 民の政府 (自治体)が 福祉サー ビスの事業主体 となって給付 をお こな うように なった場合,何 が期待 で きるであろ うか。福祉サー ビスのあ り方 を地方 自治の 原理や方法に則 った住民参加型に改革す る可能性は期待 で きる。 しか し, 自治 体行政が直接サー ビスを給付す るかたちをとる限 り,そ こではやは り何 らかの 措置方式,行 政の轟束裁量 (彼の理解 では強制的な行政処分)と い う手続 き過 程 は避け られない。新藤の論理 を貫徹 しようとすれば,た とえ福祉サー ビスを 地方 自治のベースに完全に乗せ変 えて も,行 政 はせ いぜ い地域福祉計画 を立案 す るに とどま り,サ ー ビス給付すべ きでないことになる。呆 た して, 自治体の 直接的なサー ビス給付 な しに, どんな生活権保障や公的責任のあ り方が可能で あろ うか。 新藤 は,集 権的行財政体制 を否定す るあまり,生 存権保障や国家責任 とい う 社会福祉行政の基本的な概念 まで捨て去 ろうとしているが,そ こには集権 =悪 , 分権 =善 とい う単純 な二分法があると思われ る。 しか し,わ れわれが問題に し て きたのは集権一般の悪ではない。 まず上か ら自治体の 自主的な行政運営に枠 をはめ低 い行政基準 を画一的にお しつけ るような過度の集権的統制の弊害 を改 革すべ きである とい うこ とである。 そのために 自治体 の分担 と責任の領域 を拡 大すべ きであるが,そ れには 自治体への財源の保障が必須の条件 であるとい う こ とである。 こうした改革は,集 権 を減 らし分権 を拡大す るものであるが,集 権 その もの を完全 に排 除す るわけではない。 自治体への財源保障や,狭 域的な 地域社会 で解決 で きない課題, 自治体 の能力だけで達成で きない課題 に関 して 中央政府が関与 し調整や財政的支援 を行 う必要性 はな くな らない。 た とえ中央

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社会福祉措置制度の意義 と課題 89 政 府 か ら地 方 自治体 へ権 限や財 源 の相 当な移 譲 が行 われ た として も,社 会福 祉 行 財 政 を地 方 自治体 だけの全 責任 にゆだね るこ とは,地 方 自治体 の行 財政 能 力 や 取 り組 みへ の熱意等 を含 め て社会福祉 の行 政水準 の地域格差 を生 みだ し,そ の結果福祉 のナ シ ョナ ル ・ミニマ ムが維持 で きな くな るお それが あ る。 その意 味 でや は り,福 祉 ナ シ ョナル ・ミニマ ム を維持 してい くための公的責任 の構造 として,中 央政府 と地方 自治体 が互 いに行政責任 と守備 範 囲 を明確 に しつつ協 同 ・分 担 して い く関係 が求 め られ て い る とい え る。 I V 措 置制度 と地方分権化 社会福祉行政 におけ る地方 自治体 の役割 の拡大 にふれ たので, 最 後 に地方分 権 化 に よって措 置制 度 は あ らため て ど う位 置ず け られ るのか に も言及 してお こ う。 この問題 を考察す る際,振 り返 る必要のあるのは,1986年 の措置事務の機関 委任事務 か ら団体委任事務へ の移行 であ る。 この移行 によって,措 置基準や費 用徴収基準の設定が地方 自治体 の条TrlJ事項 とな り,措 置制度の運用における地 方 自治体 の役害Jが拡大す るこ とになるのではないか と期待 された。 しか し,結 果的には見 るべ き変化 は引 き起 こされなか った。 それは,国 が団体委任事務化 に伴 う財源保障 を行 わなか ったことやむ しろ団体委任事務化 と並行 して措置費 の国庫負担率 を 8割 か ら 5割 へ と引 き下げこと, また厚生省が 自治体の条例制 定 に もとづ く制度運用 に幅 をもたせ るような積極的な政令 の見直 しをしなか っ たこ とが主要 な原因であった。財源保障 と政令の見直 しが同時になされていれ ば,団 体委任事務化 は一つの大 きな転機 になったことは疑いな く,そ れ らは今 後 もまだ追求 され るべ き未達成の課題 である。 さらに,地 方分権化 を推進 して措置事務 を完全 な自治事務 にす ることは可能 であろうか。 この点にかかわって重要 なことは, これ までわが国の児童福祉や 老人福祉 の法制度は憲法第25条の規定 を受けて国 と地方公共団体 の共同責任制 を明確 に しているこ とである。 こうした共 同責任制 を廃止 して地方 自治体 の単 独責任制 にす ることは,児 童福祉法や老人福祉法の見直 しだけですむ問題 では

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90 美 崎 皓 教授追悼号 (第309号) な く,憲 法論議 す なわ ち憲法 第25条 との関係 を問題 とせ ざるをえない。 したが って,憲 法 レベ ルか らす れば,児 童福祉行政や老 人福祉行 政 に関す る国の最終 責任 は免 れず, そ れ らの事務 を完全 な 自治事務 にす るこ とは不可能 で,や は り 国 と地 方 自治体 の共 同責任制 の建 て前 を崩す こ とはで きない と思 われ る。可能 なの は共 同責任制 の なかみ を改革す るこ とであ るが,国 の側 では制度面 で社会 福 祉 に関す る国民 の権 利性 と公 共性 を維持, 確 保 し, さ らに必要 な財 源 を保 障 して地方 自治体 の社会福祉行政 を支 えてい くことが必要 である。 こうした条件 の もとで,措 置事務 について権 限 を大幅に地方 自治体 に移譲 して, 自治事務 に 近 い状態 を実現す ることは可能であろう。

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