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「認知症高齢者と介護家族のための電話相談サミット」

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(1)認知症高齢者と介護家族のための. 電話相談サミット 完了報告書. 助成対象年度: 提 出. 2012 年度前期. 日 : 2013 年 1 月 11 日. 主. 催:社会福祉法人 浴風会. 共. 催:公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団. 1.

(2) 《概要》 日 時:平成 24 年 10 月 13 日(土)13:00~16:00 会 場:社会福祉法人 浴風会 認知症介護研究・研修東京センター2 階大会議室 参加費:無料 主 催:社会福祉法人 浴風会 共 催:公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団 後 援:杉並区 社会福祉法人 東京都社会福祉協議会 社会福祉法人 杉並区社会福祉協議会 《参加者》 参加申込数:180 名 実参加者数:181 名(166 名+スタッフ関係者 15 名) 《アンケート》 回収数:87 (50 音順・敬称略). 《プログラム》 13:00 主催者挨拶 京極 髙宣 (社会福祉法人 浴風会 理事長) 共催者挨拶 村松 静子. (公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団 理事). 13:10 講演「認知症の症状と接し方」 長谷川和夫 (認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長) 14:00 パネルディスカッション「わたしの話を聴いて~電話相談の役割~」 パネリスト 荒井 健次 「高齢者のための夜間安心電話」 (社団法人 東京社会福祉士会 電話相談事業研究開発委員会 委員長) 大野 教子. 「認知症てれほん相談」 (公益社団法人 認知症の人と家族の会東京都支部 代表). 近藤 憲明. 「認知症 110 番」 (公益財団法人 認知症予防財団 常務理事). 野辺 由郎 「介護支え合い電話相談」 (社会福祉法人 浴風会 電話相談員). 2.

(3) コーディネーター 角田とよ子 (社会福祉法人 浴風会 介護支え合い電話相談室 室長) 16:00 閉会挨拶 露口 長 (社会福祉法人 浴風会 専務理事) 司会 田中奈那子 (社会福祉法人 浴風会 電話相談員) 《配布資料・パネリスト紹介》 「高齢者のための夜間安心電話」 (通称:安心電話). 社団法人 東京社会福祉士会 電. 電話相談事業研究開発委員会. 話:03-3200-2950. 相談日:毎日(年中無休) 時. 間:19:30~22:30 電話をかけてくださる高齢者の方々の心の底にあるものは、誰かと話したい、気. 持ちを解ってもらいたいという人としてのあたりまえの感情です。 しかし、今日の社会状況は、この当たり前の感情ですら如何に阻害されているかと 驚愕に堪えません。 日中いきいきと活動的に過ごされている高齢者であっても、夜になると居たたま れない不安感と孤独感に襲われ、長い夜を耐え忍ぶ姿が受話器を通じて現れるので す。安心電話の使命は、そういった高齢者のご心情を受け止め、何気ない会話から ご本人が本来持っている生きる力を相談員と共に見出す活動であると考えております。 【相談方法】 安心電話の専用電話(電話ブース3つあり)にて相談対応。受容と傾 聴をベースとした対話型相談活動。 【対 象 者】 東京都民で高齢者の方。ただし、かかってきた電話相談は基本断るこ とはしません。他県からの電話や40歳代、50歳代の方からも多く かかってきます。 【相談体制】 相談日毎に電話相談員概ね2名~3名体制(相談員総数40名) パネリストプロフィール 荒井 健次(あらい けんじ). 社団法人 東京社会福祉士会. 電話相談事業研究開発委員会委員長. 3.

(4) 平成10年3月~ 安心電話事業スタート時からコーディネーター兼電話相談員 平成23年4月~ 電話相談事業研究開発委員会 委員長就任 職 業 昭和61年7月~平成19年3月 小平市社会福祉協議会 ボランティアセンター・生活福祉資金貸付担当ほか 平成19年4月~平成22年3月 小平市立あおぞら福祉センター サービス管理責任者 平成22年4月~. 小平市立あおぞら福祉センター 所 長. 「認知症てれほん相談」 公益社団法人 認知症の人と家族の会東京都支部 電. 話:03-5367-2339. 相談日:火曜日・金曜日(除祝祭日) 時. 間:10:00~15:00. 「認知症てれほん相談」は家族の会活動の三本柱“つどい”“支部報”“電話相談” のひとつで、1982 年 7 月、毎日介護に追われている家族介護者がダイヤルを回せばす ぐに相談できる場として、 「ぼけ老人てれほん相談」として発足し、病名の変更により 「認知症てれほん相談」となった。 相談員(現在7名)は全員が介護経験のある支部世話人で、同じ悩みを経験してき た仲間として相談を受けている。介護経験者であることでわかり合えることも多く、 相談者の話をていねいに聞き、混乱し、迷い悩んでいる気持ちを受け止めて、一緒に 考えることを基本にしている。相談者自身が抱えている問題や気持ちを整理するサポ ートをしている。 また、介護経験者としての守備範囲を逸脱しないように気をつけながら、在宅介護 の方法や工夫の助言、社会的資源の情報提供も大切な役目である。 1982 年 7 月~2012 年 3 月の総相談件数:27,879 件 パネリストプロフィール 大野 教子(おおの のりこ) 公益社団法人 認知症の人と家族の会東京都支部 代表 1974 年上智大学文学部教育学科卒業. 4.

(5) 知的障害児通園施設勤務を経て結婚。専業主婦に 17 年前に 4 年間、認知症の姑を在宅介護 現在、遠距離介護中 13 年前に認知症の人と家族の会東京都支部の世話人 となり、電話相談員を務める 2011 年より支部代表となる 「認知症 110 番」 公益財団法人 認知症予防財団 電. 話:0120-654-874. 相談日:月曜日・木曜日(除祝祭日) 時. 間:10:00~15:00 毎日新聞創刊120周年記念事業として日本医師会等の各団体、企業の協力で1990. 年3月に「ぼけ予防協会」が発足。2年後の 92 年7月、アフラックの委託事業として無 料電話相談「ぼけ110番」が開設された。 09 年に「ぼけ予防協会」が「認知症予防財団」に名称変更されたことに伴い電話相談も 現在の「認知症110番」に衣替えしたが、財団事務局内に専用電話回線を引いたブース を設け、月曜、木曜(祝日を除く)10 時~15 時まで相談を受け付ける体制は発足当時と 変わらない。フリーコールの専用電話番号(0120・654874)も同様。 この7月に満 20 年を迎え、累計の電話相談件数は1万8000件。 発足当初から学校法人順天堂と提携し実施している医師による「認知症相談室」は、患 者を直接診察していないので、診断、投薬などの指示はできないが、認知症一般の医学的 相談応じており好評。 パネリストプロフィール 近藤憲明(こんどう・のりあき) 公益財団法人 認知症予防財団 常務理事 1948年5月4日札幌市生まれ。 慶応大経済学部卒業後、毎日新聞入社。神戸支局、政治部厚生省担当、首相官邸キャップ、 政治部副部長、同編集委員、福島支局長、世論調査室長、論説委員を経て 08 年退社。 08 年から 10 年まで日本シニアリビング新聞編集長。 08 年4月から 09 年3月まで埼玉県立大学で非常勤講師、講座はメディア論。. 5.

(6) 10 年5月から公益財団法人認知症予防財団常務理事。著書に「ふくしま有情」など 「介護支え合い電話相談」 社会福祉法人 浴風会 電. 話:0120-070-608. 相談日:月曜日~金曜日(除祝祭日) 時. 間:10:00~15:00 社会福祉法人 浴風会は、 大正14年、関東大震災の被災老人等の援護を目的に設立され、. 現在は老人福祉施設、介護保険施設、病院、認知症介護研究・研修東京センター、地域貢 献サービスなどにひろがりをもち、1日の利用者2,100名、スタッフ850名余という 高齢者支援の総合的事業体である。 「介護支え合い電話相談」は、2000 年 10 月、厚生省の依頼により国際長寿センターを 事務局に、日本橋で開設された。2002 年 4 月に、浴風会の事業として引き継がれている。 高齢者を介護する家族の悩み相談を、フリーダイヤル(全国から携帯電話からも無料) の電話で受け、介護にかかるサービスなどの正確な情報提供と、 「介護を一人で抱え込まな いで」を合言葉に、孤独になりがちな介護家族の心のケアを目指している。 相談員は、介護経験があり一定の研修を受けた者で、相談者と同じ立場で話を聴くこと を大切にしており、毎日の対応検討会と月1回の研修会で電話対応のスキルアップを図っ ている。開設から 12 年、総相談件数 5 万 2600 件余り。相談の 7~8 割が認知症に関連し ている。 パネリストプロフィール 野辺 由郎(のべ よしろう) 社会福祉法人 浴風会 電話相談員 2003 年 7 月に電話相談員となる。 先天性四肢障害児父母の会 領家介護を考える会 傾聴ボランティア21 浦和区地域包括支援センター連絡会委員 さいたま市市民活動推進委員会委員 コーディネータープロフィール. 6.

(7) 角田 とよ子(つのだ とよこ) 社会福祉法人 浴風会 介護支え合い電話相談室 室長 1957 年生まれ。 お茶の水女子大学家政学部家庭経営学科で家族社会学・老年学を学ぶ。 高等学校家庭科教員の後、お茶の水女子大学教務補佐員。 退職後、NPO法人を立ち上げる。 共立女子短期大学教務補佐員として職場復帰。 2004 年に電話相談室に勤務。2005 年から電話相談室長。 《講. 演》. テーマ: 「認知症の症状と接し方」 講. 師:長谷川和夫. プロフィール 社会福祉法人 浴風会 認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長 聖マリアンナ医科大学特別顧問 1973 年聖マリアンナ医科大学教授、同大学学長、理事長などを経て、現在に至る。 長谷川式認知症スケール (HDS-R) の開発者として知られている。 最近では、 「痴呆」から「認知症」への名称変更に参加。 【著書】 『認知症診療の進め方』 、 『認知症診療のこれまでとこれから』 (永井書店) 『認知症の知りたいことガイドブック』、 『認知症ケアの心』 (中央法規出版)など。 【受賞歴】神奈川文化賞(医学)1997.11.3、叙勲 瑞宝中綬章 2005.11.3 ※長谷川先生の講演資料は講演録に収録してあります。 電話相談はとても大切な重要な仕事で、専門職といってもいいぐらいです。相談する人 に「もうあなたは一人じゃないですよ。今私があなたのお話を聞いたのですから、あなた は一人ではないですよ」とメッセージを送ることができるわけです。それから、言葉によ ってすごく力づけられ、その人の人生を変えることが起こるのではないかと思います。 ミルトン・メイヤロフという哲学者が『ケアの本質』という本の中で、 「ケアを親切な行 為、あるいは気持ちで人に接することだと考えている人が多いようだが、それは間違いで. 7.

(8) ある。ケアというのはそういう心ももちろん大切だけれど、同時に知識が必要だ。一般的 な知識と個別的な知識を持っていることが必要で、認知症の人のケアをする場合、認知症 についての一般的な知識をしっかり持っていることと、ケアを受ける人の認知症の個別的 な特徴を知っていることが大切である。知識は力だ」とおっしゃいました。 私たちの認知症診療やケアをする立場というのは、初診の入り口から看取りの出口まで の暮らしの旅を本人と家族と一緒に考え、支えていくことです。本人だけではなく家族も 含めて考えていきたいと思います。 認知症の人が実際に暮らしていくときは、いろいろなことを思い間違い行動も起こり ます。BPSD(行動心理症状)の一部は脳の病変に直接的な関係がありますが、大部分は 環境や状況、 ケアのやり方に左右されるので、ケアをする人にとっては腕の見せ所ですし、 環境や状況が安定すれば無くなっていきます。 認知症の薬物療法は、認知症の症状を一時休憩させて進行をなだらかにし、安定する時 期が多ければ多いほど本人の生活の質は維持されます。去年の夏から 4 剤体制になり、患 者・家族・医師にとって薬を選べるようになったのは大きな進歩ではないかと思います。 75 歳でアルツハイマー病の告知を受けた男性が、自分の心の体験を油絵に描きました。 街頭で照らされた今ここというところしかわからない。後ろを振り返ると真っ暗で、行く 手には得体の知れない何かが見え、未来に対する不安に脅かされているような感じです。 置き去りにされていく孤独感を後姿が表現しています。認知症になるとこういう気持ちを 持っていらっしゃるわけです。 認知症の人は、目に見えないところで不安な気持ちになってイライラなさるのだろうと 思いますので、認知症の人の立場に立ってケアをすることが求められます。どんな気持ち でいらっしゃるか、認知症の人を中心にしてその「人」を大切にするケアです。これを、 パーソン・センタード・ケアといいます。これはその人の言うなりになるケアではありま せん。その人しか持っていない環境・生活史があり、誰もその人の代わりにはなれません。 他の人では代行できない存在だということが尊厳性に通じます。このようなケアを行うた めには、ゆっくりとした時間の流れと小さい施設環境のほうがいいですね。環境を整えれ ば、認知症の人も、人と人との絆が上手に作れるようになって穏やかになります。 認知症ケアの技法としては、寄り添う心と絆が一番大事です。本当に寄り添う気持ちに なって、寄り添わなければいけません。ただ形の上で寄り添うと、認知症の人は見抜きま す。 「あなたのそのままでいいんですよ。今のことをすぐに忘れて、過去のことだけを思い 出しているあなたも、それでいいんですよ。ちょっと前のことを忘れてもそれは私たちで 何とかするからいいですよ」 「過去のいろいろなことを思い出して私たちに教えてください。 私たちのほうであなたに合わせるようにします」。こういう態度がいいのです。認知症の人 は、周りの人がゆとりを持ってくれると新しい絆を創り始めます。 二番目は聴くことを第一にして待つということ。私は診察で、一月に一回あるご夫婦に 会います。認知症のご主人に「何か変わったことはありましたか」と聞く。すると「あり. 8.

(9) ます」 。 「じゃあ、それを言ってください」。なかなかパッと出てきません。コンピューター を見たり診療録を書いたりしながら待つのではなく、ちゃんとその人と向き合ってじっと 待つ。すると向こうが一生懸命に言葉を探して、 「いや、実はねえ先生、家内とちょっとケ ンカしちゃったんですよ。家内が私の言うことを聞かないで・・・ (省略)」 。奥さんが、 「そ んなことをわざわざ先生に話さなくてもいいじゃないの」。私はその時に、 「あっ、これは シメタ。いいぞ」 。つまり医者と患者さんと家族とが、同じ土俵の上に立ったことになりま す。 こっちが待てないときは、 「顔色良さそうだし、よく眠れるんでしょ」 「はいよく眠れる んです」 。 「ご飯もおいしいんでしょ」 「おいしいです」。それは YESorNO のクエスチョ ンで早く終わってしまいます。患者さんは言おうと思っていたことが思い出せず、面白く ないという顔をして帰っていくわけです。 同じ土俵の上で、3 人がやり取りをするということがとてもいいのです。最後に「それ じゃあ、とにかくまた一月やってみてくださいよ。僕はいつも君たちと一緒に考えていく からね。安心していらっしゃい」 。帰りはとても嬉しそうでした。 待つということがとても大切で、電話相談では面接のようなやり方は難しいので、どう いうふうに待ったらいいかを考えて、 「それから」というような言葉を少し差し挟んで導入 していく工夫が必要ではないかと思います。 96%の人は左脳が認知機能を司っていて、認知症になると左脳のほうが損傷を受け易い ために右脳は相対的に働きが強くなります。感情的になったり、うれしかったり悲しかっ たりするときは、 右脳が関与しているので、 認知症になると感受性がより高くなるのです。 ですから、私たちが不機嫌な状態にいると、それをすぐに感知してしまいます。明るいニ コニコとした態度で接し、その人の目を見て話すことを心がけてください。 人が苦しんでいるとき、かわいそうだなあ、気の毒だなあという気持ちに誰でもなるで しょう。その人の部外者としてかわいそうだなあと思うのは同情です。これをシンパシー といいます。もう一つは、 「どうして私だけが一人残って、他の人は津波で死んじゃったん でしょうか」 。そのまま悲しみの気持ちを受けて「ああ、そうだねえ」 。そうすると涙が浮 かんでくる。これをエンパシー(共感)というそうです。その人の心のところで、バイオ リンだか琴だかの弦がビーンと鳴って、そのビーンと鳴ったおんなじ音の弦が私の心の中 にあって、そのビーンという弦の音を聞いただけで私の心の中の弦もビーンと鳴る。これ を共感といいます。電話でもそういうことが起こる可能性があります。こういう感性をも っていることが認知症のケアでは大切ではないかと思います。 かなり高度の患者さんが、診察の合間に僕にフッとおっしゃった。 「私はどうして認知症 になったんでしょうか」 。津波の被害者と同じです。これはもう言葉では答えられない。た だ、その人の手を握って「そうですねえ」と共感するより他になかった。スピリチュアル ケアはここからスタートしていくわけです。 皆様方の対応の原則ですが、リピーターをどうするか。何回も何回もやってくる人の場. 9.

(10) 合は、予め、 「一人のお時間は 20 分から 30 分くらいでさせていただいております。他の 人が待っていらっしゃいますから」と約束をするとか、いろいろな工夫をしなければなら ないと思います。電話相談の注意点というのは、自分の感情や価値観は脇に置いて相手の 立場に立って話を聴く、パーソンセンタードです。事実を話してもらい、私たちは、考え を整理するお手伝いをする。相談員は聞く・話すの割合を 8:2 くらいにする。声のトー ンや話す速度を相手に合わせる、落ち着いた聞き取りやすい話し方を心掛ける、内容を記 録しておく、相談員同士の意見の交換やミーティングを催す、というようなことを心掛け ます。 最後になりますが、ケアする人の、電話相談員の思いと行動によって、ケアされる人の 人生は変わる、そういう重い言葉がございますが、大きな役割を果たすことができると思 います。どうも、ご清聴ありがとうございました。 《パネルディスカッション》 テーマ:わたしの話を聴いて~電話相談の役割~ 【荒井健次:公益社団法人 東京社会福祉士会 電話相談事業研究開発委員会委員長】 「高齢者のための夜間安心電話」の「売り」は、夜間帯に相談時間を設定し、365 日や っていることです。それから、相談員すべてが社会福祉士資格を持っており、かつ電話相 談員になる前に既に3年以上の福祉相談経験があるということです。 また、一回性、一期一会の関係で話を聞きます。安心電話を心の拠所にしているという リピーターの方にとっては継続性がありますが、相談員が「あの時話したあの人ですね」 ということはなく、初めてのように対応することを原則としています。 それと、利用者主体性、利用者のペースに合わせるというのも大原則で、パーソンセン タードです。 安心電話は、受容と傾聴をベースにした対話型電話相談が特徴です。 “対話型電話相談” というのは、社会福祉の援助技術の原則を踏まえつつも、相談員が利用者と信頼関係を築 きながら、相談員の方も一定の自己開示、たとえば自身の経験や考えを会話の中に交えて 対話するということです。対話を通じて利用者とともに何らかの気付きを見つけ、認め合 う関係に移行していくことを目指しています。相談者は、対話の過程で自分自身を少しだ け客観的に見ることができる瞬間があります。苦しみまとわり付いていた嘆きや苦悩を取 り払うということではなく、そこにありながら別の捉え方をすることができる瞬間がある のです。一瞬ですが、すっと肩の力が抜けるときがあり、これが大事な気付きであり捉え どころです。この瞬間を共有すると、利用者が本来持っている生きる力、生きようとする 思いを見出すことができることもあり、そういったプロセスを対話型電話相談といいます。 利用者のものの見方が変わる過程ですが、同時に相談員自身の変化でもあり、それを「利 用者と相談員の相互変容」と言っています。 「利用者と相談員の関係性のステージが上がっ. 10.

(11) ていく」という言い方もしております。 今後活動で力を入れて行きたいことは、民間財団等の助成金を得るなどして、研究報告 書を作成し発表したいと思っています。それと、電話相談の立場から自殺予防のソーシャ ルアクションを起こしたいとも考えています。日頃の電話の中で、利用者の希死念慮に向 き合うことが多いのですが、それをどのように受けとめ、自殺予防にどうつなげたらいい か、まずは、関係者で一緒に考える場をつくりたいです。 そして、今日のサミットをきっかけに皆さんとも連携したいと思っております。 【大野教子:公益社団法人 認知症の人と家族の会東京都支部代表】 「認知症てれほん相談」の特色は、相談員全員が介護経験者であることです。介護経験 者という守備範囲を守ってお相手しています。相談員はあまり自分の話はしないようにし ています。不用意に自身の介護体験を語ると、相談者はその話を聞いたことで、変に負い 目を感じたり、逆に嫌な思いをしたり・・・。せっかく掛けてきてくださった方に嫌な思 いをさせてはいけないというのが一番の基本です。また、自分の経験がすべてではなく、 その方の話を聞くことで相談員もいろいろ教えていただき、それを、他の方にお伝えでき ます。 介護体験が増え、 相談を通して豊かになれるといった気持ちで電話を受けています。 対応の基本は、相手の話を十分に聴くこと。自分の話を人に話すのはとても勇気のいる ことなので、話しやすい状態を心掛けています。相談者が、何を一番電話で訴えたいのか、 一生懸命聞いて思いを汲み、どういう家庭にいてその中に認知症のご本人がどういう状態 でいるのかを想像しながらお話を受けます。そして、その方の状況を一緒に整理する手助 けをします。相談したことでちょっと勇気や元気が出て、一歩前に踏み出す。あなただけ ではなくみんな同じような思いを抱えていて、でも、一歩出るのはあなた自身ですよとい う感じで、まずきっかけを作りたいと思います。相談者が、 「自分はこういうことで本当は 悩んでいたんだ」 「あっちょっとこういう風にしてみよう」「やっぱり自分では背負いきれ ないな」と客観視することを、とても大事にしています。ご自分が気づくということで一 歩前に進めます。 相談員はそれぞれ個性が違うので、相談者と感性が合って「ああ、よかった」と思って くださるように、一回限りではなくて、何度でも掛けていただけるような雰囲気を作って いきたいと心掛けています。 今、30 年の集大成ということで電話相談の 30 年史を作っている最中です。今後に向け てですが、電話相談をするということは大変な役割を担っているわけで、私たち相談員一 人ひとりがもっともっと成長しなければいけないと思っております。お互いにケアカンフ ァレンスは常にやっておりますが、自分自身を見つめて振り返って、今の自分でいいのだ ろうか、何が足りないのだろうかというふうに、いつも振り返りながら毎日進んでいきた いと思っております。. 11.

(12) 【近藤憲明:公益財団法人 認知症予防財団常務理事】 「認知症 110 番」の特徴は、電話相談員全員が看護師、保健師、介護支援専門員、介護 福祉士、臨床心理士、社会福祉士、産業カウンセラーの資格をもっていることです。非常 にスキルが高く、人の話を真摯に聴くということにかけては、大変なプロフェッショナル です。 医療的な相談をしてくる方も多いため、順天堂大学と提携して、医師による認知症電話 相談を月 2 回実施しています。これは、電話による聞きっぱなし、言いっぱなしではなく て次に繋げるという電話相談の課題への一つの回答だと若干自負しています。相談者が最 初から医師との相談を希望してくるケースと、相談員との話し合いの中で相談員が医師に つなげたほうがいいとするケースの二通りがあります。月 2 回の相談日に先着順で予約を 入れ、相談希望者は指定された時間に、順天堂大学医学部の精神医学教室で待機している 准教授 2 人に電話を入れて相談します。相談料は無料です。医学的な質問は受けますけれ ども、所謂セカンドオピニオンはやっておりません。 また、財団は東京都武蔵野市と提携し、武蔵野市が実施している認知症相談に相談員を 派遣しています。相談員と地元の介護スタッフメンバー、市民センターのスタッフが一緒 に面談に同席し、必要に応じて具体的な支援やサービスにつなげていくというルートがで きています。このようなシステムが全国の自治体に広がっていくと認知症の早期発見早期 治療につながるのではないかと期待しています。 電話相談の役割としては、相談者とともに悩み、ともに乗り越えるという側面が絶対あ ると思います。上からの目線ではなくて、同じ平面、同じ目線で話を聴くということが大 切です。介護ストレスを抱えた相談者に対する電話相談の社会的貢献度は非常に高く、国 民栄誉賞ものだと思っています。 今後に向けてについては、紙で記録票を保存しているのですが、これをデータベース化 したいと思っています。もう一つ、認知症 110 番がちょうど 20 周年に当たりますので、 これまでに蓄積されたデータと、さらに相談者のその後を追いかけて取材し、読み物風の 本を出したいと思っております。これは既に毎日新聞社から出版することが決まっており ます。 【野辺由郎:社会福祉法人 浴風会 電話相談員】 「介護支え合い電話相談」では、 「よくかけてくださいましたね。あなたはとってもよく おやりですよ。大丈夫ですよ、またお掛けくださいね」というような、ホスピタリティを 一番大事にしています。 相談員は介護経験はありますがプロの資格はもっていません。それがかえって安心感を 誘うのか、相談者と同じ目線で、同じ土俵の上で話ができます。教える・伝えるというよ り、一緒に困って考えるという形です。 私たちは、困難な介護状況に至るまでの経緯を物語としてお聞きします。誰にも話せな. 12.

(13) い話を勇気を奮って電話を掛けてきた、その重さを受けとめながら物語を聞きます。また、 苦しみの構造というものを自分なりに類推しながら、苦しいというメッセージが言葉を通 して私たちのところに届いてくるのを受けとめたいと思っています。自分の物語、苦しみ を言葉にすること自体が自己の客観化です。傾聴の立場から言えば、相談員が相手の言葉 を反復する中で、相談者は自分の言葉が相手から聞こえてくるという形で自己を客観化す ることもあると思います。ものすごく強いストレスが働けば、自分の物語が揺らいで混乱 します。電話相談でその物語を立て直すことができれば最高ですし、自己の客観化にたど り着ければ、すごいと思います。 相談者の苦しみの物語をとにかく丁寧に聞き、それを了解し全部肯定することが特色と いえると思います。答えの出る相談もあれば、出ない相談もあります。 「いったいなぜ私一 人が親の介護を引き受けなければならないのだろう」。そういう問いに答えはなく、共感し かありません。また、 「待つこと」は、相手が考えていることにつながっていきます。 自分以外のもう一人の人と関わることによって初めて「私」というものが見つけられる とすれば、せっかく電話をかけてくださった方にとって電話相談員はもう一人の人という 役割を演じたい。電話をかけてきた人が自分自身を再発見してくれればこんな嬉しいこと はありません。 電話相談の一番のよさは、匿名性が担保されていることです。自分の家族のことは外に は漏らしたくないと思うのは、世間の口に戸は立てられないからです。匿名だから電話し たという方の中には、世間の怖さを何らかの経験で知ってしまい、 「もう二度とこういう話 はしたくない」 「民生委員さん、信用できない。みんな裏でつながっているんでしょ」と言 う人もいます。しかし、社会は個人を単位に作られていて守秘義務がありますから、当然 「あなたの秘密は守られますよ」と説明します。しかし、本当にそうだとわかってもらえ るかどうかが新たな課題ではないかと思っています。 最後に、私自身の自戒の言葉を一言。一番怖いのは慣れです。慣れると、寄り添うとい う本来のことが疎かになって、先回りして相手の話を引き取ってしまいます。相手の話を 類型化して分類してしまいます。自分の経験が豊富になればなるほど自分の引き出しが多 くなりますので、これはこのパターンというふうに考えながら話を聞いてしまい、相談者 の話を無視してしまう怖さがあります。それから、ついつい教えたがりになります。これ は私も何回も経験しています。私たちも、がんばります。 《感想》 【角田とよ子:社会福祉法人 浴風会 介護支え合い電話相談室長】 このサミットは、以下の4点を踏まえて、企画いたしました。 ①「認知症てれほん相談」が 30 年、 「認知症 110 番」が 20 年、 「高齢者のための夜間安心 電話」が 14 年、当会の「介護支え合い電話相談」が 12 年の節目を迎えたこと. 13.

(14) ②電話相談従事者が一堂に会して話し合う機会がなかったこと ③認知症の人が 305 万人に達したとの厚労省の推計が発表され、認知症になっても安心し て暮らせる町づくりが喫緊の課題であり、電話相談に期待される役割を再確認すること ④認知症の情報が増える中で相談内容が確実に変化し電話相談の役割も変化してきたこと 当日は、北海道から九州まで、全国から電話相談に関心をお持ちの皆様にお集まりいた だき、会場は静かな熱気に包まれました。長谷川和夫先生の認知症ケアにおけるパーソン・ センタード・ケアのお話から、認知症ケアや電話相談の基本を学ぶことができました。パ ネルディスカッションでは、各団体が試行錯誤しながら積み上げてきた電話相談技法やそ れぞれの特色が明らかになり、また、電話相談の周知と運営資金の調達が共通課題として 浮かび上がりました。基本情報の交換に時間を要したため、具体的な相談事例や認知症相 談の変化を話し合うには時間が足りなかったことが心残りです。終了後、 「よかったです」 「大成功でしたね」とたくさんの方が声を掛けてくださり、心より安堵いたしました。 アンケートでは、 ・電話相談の重要性を再認識した ・電話相談だからできることがあるとわかった ・電話相談員としてたくさんのことを学ぶことができ、今後に活かしたい ・それぞれの特徴がわかったので相談内容によっては適切なところに紹介できる ・電話相談のことやこのようなイベントをもっと広く周知してほしい ・日本の家族が抱えている問題や利用者がどんなことに困っているかについてもう少し 踏み込んでいただきたい ・次回の開催を期待しています との声をいただいています。 電話相談が、孤立の時代に求められる支援として益々重要になるであろうとサミットを 通じて感じました。これからもよりよい電話相談を目指して、学び合い、連携していきた いと思います。 今回のサミットを開催できましたのは、貴財団が共催してくださったお陰であると、感 謝の気持ちで一杯でございます。また、引き続きご支援をいただけますよう、よろしくお 願い申し上げます。 本当にありがとうございました。. 「公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成による」. 14.

(15) 認知症高齢者と介護家族のための. 電話相談サミット 講 演 録. 開催日:平成 24 年 10 月 13 日 (土) 主 催:社会福祉法人 浴風会 共 催:公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団.

(16) 目 次. 「電話相談サミット」実施データ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2. プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3. 主催者挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4. 共催者挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5. 講演「認知症の症状と接し方」. ・・・・・・・・・・・・・・・・ 6. パネルディスカッション      「わたしの話を聴いて∼電話相談の役割∼」 ・・・・・・・・ 16 閉会挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 アンケート集計結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38 電話相談サミットを終えて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49. --.

(17) 認知症高齢者と介護家族のための「電話相談サミット」 実施データ 《概要》.    日 時:平成24年10月13日(土)13:00∼16:00    会 場:社会福祉法人 浴風会        認知症介護研究・研修東京センター 2 階大会議室    参加費:無料    主 催:社会福祉法人 浴風会    共 催:公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団    後 援:杉並区        社会福祉法人 東京都社会福祉協議会        社会福祉法人 杉並区社会福祉協議会 《参加者》.    参加申込数:180名    実参加者数:181名(166名+スタッフ関係者15名). --.

(18) 《プログラム》. 13:00. 主催者挨拶  京極 髙宣(社会福祉法人 浴風会 理事長). 共催者挨拶  村松 静子(公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団 理事). 13:10. 講演「認知症の症状と接し方」  長谷川和夫(浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 名誉センター長). 14:00. パネルディスカッション    「わたしの話を聴いて∼電話相談の役割∼」  パネリスト  荒井 健次「高齢者のための夜間安心電話」     (社団法人 東京社会福祉士会 電話相談事業研究開発委員会 委員長)  大野 教子「認知症てれほん相談」     (公益社団法人 認知症の人と家族の会東京都支部 代表)  近藤 憲明「認知症110番」     (公益財団法人 認知症予防財団 常務理事)  野辺 由郎  「介護支え合い電話相談」     (社会福祉法人 浴風会 電話相談員)  コーディネーター  角田とよ子(社会福祉法人 浴風会 介護支え合い電話相談室 室長). 16:00. 閉会挨拶 露口 長(社会福祉法人 浴風会 専務理事)  司会  田中奈那子(社会福祉法人 浴風会 電話相談員).          注)敬称は略させていただきます。. --.

(19) 主催者挨拶. 京極 髙宣 社会福祉法人 浴風会 理事長  皆さん、こんにちは。お忙しい中、電話相談サミットにお集まりいただきありがとうござい ます。北海道から九州までお集まりでございます。 浴風会の電話相談は12年やってきましたが、大変地味な存在です。当初は厚生省から助成金 をいただいていたのですが、今はカットされて、もう止めたらどうかという声もありましたが、 高齢者の介護を支えるいのちの電話のような大事な仕事ですから続けております。 実はこういう電話相談はいろいろな団体がやっておりまして、それが一堂に会するのは初め てということなので、ちょっと大袈裟ですが、電話相談サミットと名前をつけました。在宅医 療助成勇美記念財団が快く共催者となり、お金を付けてくださいまして、今日に至りました。 認知症の人と家族の会は30年、認知症予防財団は20年、東京社会福祉士会は14年の歴史があ りますので、浴風会の電話相談よりは先輩です。しかし、浴風会の役割としては、それぞれの 団体の方々が一堂に会する場所を提供できるという点ではやや有利な地位にありますので加え させていただきました。 今日はこのあと、共催者の村松静子先生から勇美記念財団の理事を代表してご挨拶をいただ きます。また、ご講演をいただく長谷川和夫先生は、聖マリアンナ医科大学の学長・理事長を おやりになって、浴風会では認知症介護研究・研修東京センターの初代センター長で現在は名 誉センター長になっていただいております。認知症の世界では、日本だけではなく国際的に知 られた偉い先生であります。そのあと、いよいよ電話相談サミットの主要なメンバーでパネル ディスカッションをいたします。東京社会福祉士会の荒井健次さん、認知症の人と家族の会東 京都支部の大野教子さん、認知症予防財団の近藤憲明さん、それから私ども浴風会の相談員の 野辺由郎さん、コーディネーターは当会の電話相談室長の角田とよ子さんということでござい ます。せっかくの機会ですので、フロアからも質問していただいて、お互いに連携交流してい ただきたいと思います。 終わりにささやかな懇親会をやりたいと思いますので、お時間のある方はどうぞということ で、主催者としてのご挨拶とさせていただきます。本日はありがとうございました。. --.

(20) 共催者挨拶. 村松静子 公益財団法人 在宅医療助成勇美記念財団 理事  皆さん、こんにちは。公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の理事をしております村松静 子と申します。在宅看護のほうをずっと、約30年近くやって参りました。 この財団は、勇美(ゆうみ)記念財団といいますが、勇さんという方と美代子さんというご 夫妻が、個人財産を投げ打って在宅医療が少しでも進むようにということで立ち上げられた財 団でございます。私もこの10年ずっとその一員をさせていただいておりますが、今回この電話 相談サミットに共催という形で加えさせていただきましたことは財団にとっても最高の意味が あると私は思っております。 実は、私の在宅看護は一本の電話から始まっております。「助けてください」という電話の 奥の声を聴いて在宅看護の道を切り拓く決心をしたということもありまして、この電話相談サ ミットはとても意味のあるもので絶対不可欠だと思います。パネリストの皆さんの肩書きを拝 見しますと、毎日新聞さんのぼけ予防財団をつくるときにちょっと関わらせていただいたり、 家族の会の方たちとも出会っておりまして、すごく懐かしいです。すべてが電話でつながって いたというふうに思っております。 今回、皆さんの熱い思いを持ち帰りまして、できる限り助成していただけるように財団のほ うにお願いして参りたいと思いますし、ご報告させていただきます。今日はよい討論ができま すことを期待しております。ありがとうございます。よろしくお願いいたします。. --.

(21) 講 演. 「認知症の症状と接し方」 講師:長谷川 和夫(社会福祉法人 浴風会 認知症介護研究・ 研修東京センター名誉センター長 聖マリアンナ医科大学特別顧問) 長谷川式認知症スケール(HDS-R)を開発 「痴呆」から「認知症」への名称変更に参加. --.

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(24) 長谷川でございます。今日はこのサミットに全国からお集まりいただきまして本当にありが とうございます。早速お話をさせていただきます。  ミルトン・メイヤロフという有名な哲学者が『ケアの本質』という本の中で、「ケアを親切 な行為、あるいは気持ちで人に接することだと考えている人が多いようだが、それは間違いだ。 ケアというのはそういう心ももちろん大切だけれど、同時に知識が必要だ。ケアをする場合、 ケアをされる人のことをよく知っていることと、自分の力、能力がどれくらいあるか、その限 界を知っていることが必要である。また、認知症の人のケアをする場合には、認知症について の一般的な知識をしっかり持っていることと、ケアを受ける人の認知症の個別的な特徴を知っ ていることが大切である。知識は力だ」こうおっしゃいました。今日はそういうことを踏まえ て、 「認知症の症状と接し方」についてお話ししようと思います。  電話相談というのは、私たちが考えている以上にとても大切な重要な仕事で、専門職と言っ ていいぐらいではないかと思います。私のところに室長がいろいろな情報を持ってきてくれま す。電話相談室のことを書いた本の中に、認知症の家族の人が電話を掛けてくる。電話を掛け ると、ツーツーツー、電話中です。誰かもう話しているんですね。だから、あっだめだ。しば らくしてまた掛けたら、またツーツーツー。またお話中だ。また掛けた。そしたらパッと通じ た。あーよかった。こういう感じで相談が始まるとありました。 電話相談というのは、相談する人にとっては、「もうあなたは一人じゃないですよ。今私が あなたのお話を聴いたのですから、もうあなたは一人じゃない。これからですよ。がんばりま しょうね」というメッセージを送ることができるわけです。非常に大切だと思います。 それから、人の言葉を聞いた時に、その言葉によってすごく力づけられる場合があると思い ます。もう、大袈裟に言うとその人の人生を変えるっていうことが起こるのではないかと思い ます。そういう重要な仕事に従事していらっしゃるということでお話しようと思います。  私たちの認知症診療、あるいはケアをする立場というのは、初診の入り口から看取りの出口 までの暮らしの旅を本人と家族と一緒に考え、支えていくことです。本人だけではなく家族も 含めて考えていきたいと思います。 これは認知症疾患の中でも一番多いといわれているアルツハイマー病ですが、アルツハイ マー病は経過が長く、診断を受けてから看取りに至るまで10年から15年掛かります。その間に 脳の病変がどんどん進行し、軽度・中等度・高度と認知機能がだんだん失われていくわけです。 軽度の場合 2 ∼ 3 年、中等度も 2 ∼ 3 年、高度の場合は 5 ∼ 6 年で、高度が一番長い。そして、 認知障害。たとえば、言葉のやり取りができない、場所の見当がつかない、あるいは、身内の 顔もわからなくなって、寝たきりになり、ろう便、失禁というような症状が起きてくる。こう いう症状を持った人が実際の暮らしをしていく時にいろいろなことを思うわけです。間違い行 動も起こるわけです。たとえば、高度のもの忘れが起こるものだから不安になってうつ状態に なったり、もの盗られ妄想になったり、あるいは言葉のやり取りが理解できないために非常に イライラして興奮して暴力行為をしたり。それこそ家族は逃げ回らなくてはならないくらいの ことが起こってきたりする。そういうのを、従来は、問題行動と言われていたのですが、今は、 行動心理症状、英語の頭文字を取って BPSD と言っています。介護している家族にとっては、. BPSD のほうが大変です。イライラして急に怒り出した、あるいは夜中に飛び出して行ってど こに行ったかわからない、そういうことが起こって参りますから、この対応がとても大変です。 行動心理症状は、一部は脳の病変に直接的な関係がありますけれども、大部分は環境とか、状 況とか、あるいはケアのやり方によって左右される症状です。だからこれは、ケアをする人に とっては腕の見せ所でもあるし、環境や状況が安定すれば無くなっていきます。 --.

(25) アリセプトという薬はこの症状を一時 休憩させて、なだらかにしてくれます。 アリセプトを飲まないとこのままダーと 症状が急激に進行してしまいます。なだ らかになって、安定する時期が多ければ 多いほど、ご本人の生活の質は維持され ます。 アリセプトの他に 3 つの薬が使用でき るようになりました。上の 3 つはコリン エステラーゼ阻害作用がメインの薬理作 用です。これはアルツハイマーになると、アセチルコリンという記憶を担当する脳内ホルモン のようなもの、神経伝達物質といいますが、これが脳の中から減ってしまいます。これを減ら さないようにするのがコリンエストラーゼ阻害作用です。コリンエステラーゼというのは酵素 の名前で、アセチルコリンを分解する酵素のことです。普通の場合はアセチルコリンがあまり 多すぎると、神経細胞がかえって疲れてしまうので適当にアセチルコリンをコントロールする わけですが、アルツハイマーになると、アセチルコリンを担当する神経がどんどん少なくなっ てしまうので、分解酵素の働きは少し止めてください、邪魔をしますよというのが、このコリ ンエステラーゼ阻害作用です。上の 3 つはその作用を持っています。ドネペジルは 1 日 1 回、. 1 錠飲めばいい。副作用はイライラするのと食欲がなくなるという本当に軽い作用です。 2 、 3 日休めばまた元に回復します。あるいはごく簡単な健胃剤を売薬でもいいから飲んでいただ くと軽快します。ただ、不整脈などの心臓の病気を持っている人と、前に胃潰瘍をなさった方 は胃腸管出血を起こす可能性がありますから、投与を慎重にしなくてはいけないと言われてい ます。これは医師が注意しなければいけないことですが。 イライラには、抑肝散という漢方薬を併用するとイライラ感は少なくなります。副作用はあ りますが、それほど著しいものではありません。 リバスチグミンは同じ作用で、貼り薬、膏薬です。ぺタっと貼ればいい。アルツハイマーの 人は自分は病気ではないと思っているから、薬をなかなか飲みません。そういう場合は、膏薬 だったらいいですね。 ガランタミンは、ニコチン受容体に作用して、今のコリンエストラーゼ阻害作用をさらに強 めるので、ドネペジルよりももっと強い作用があり、よく効きます。ところが、1 日 2 回飲ま なくてはなりません。ドネペジルは 1 日 1 回でしたが、これは朝と夕方の 2 回飲まさなければ いけないという難点があります。上のこの 3 つは皆同じ作用なので、2 剤投与はできません。 たとえば、ドネペジルと膏薬を併用することはできません。 ところが、もう一つのメマンチンはグルタミン酸を抑制して神経細胞を保護するという全然 違う作用なので、メマンチンとこの 3 つの薬の 1 つは併用することができます。ドネペジルは. 12年くらい使われているので、アルツハイマーの人はアリセプトを飲んでいると思います。で すから、アリセプトにメマンチンを加えて経過を見るというのが多くの処方だと思います。メ マンチンは副作用として転びやすいというところがあり、これがちょっと難点です。転ぶ習慣 のある高齢者の方はかなりいらっしゃいますから、そういう人には慎重に投与しないといけな いということになります。 このような 4 剤体制は、去年の夏から始まったばかりです。これからは、かかりつけ医や専 門医は薬物に習熟して 4 剤の薬を使ってやっていくことになります。患者さんにとっても家族 - 10 -.

(26) にとっても 4 つ薬があってそれを選べる、医師にとっても、ドネペジルで効かなかったらガラ ンタミンを使おう、つまり 1 つの薬でダメだったら別の薬を使うということが可能になったわ けで、大きな進歩ではないかと思います。  普通の人のもの忘れと認知症の人のもの忘れには大きな違いがあります。普通の人のもの忘 れは、たとえば、人の名前を思い出せないといったように、体験の一部分を忘れるだけですか ら、記憶の帯はずっとつながっています。ですから後で必ず思い出します。 しかし、認知症では、体験したこと全体を忘れてしまいます。何時どこで誰とお話ししたか、 週明けにはこういうことをやりましょうと約束したこともスポッと忘れてしまいますから、明 日の記憶もあやふやになることになります。エピソード記憶つまり出来事記憶が無くなってし まうわけです。そして、絶対に思い出せない。明日のことも約束できず、今ここというところ しかわかりません。はっきり認識できる、やっと認識できるのは、今ここという現在のところ しかわからないということになります。これはきついです。  佐藤早苗さんという評論家でエッセイストで小説家の方のお父さんが、75歳の時にアルツ ハイマー病の告知を受け、彼は自分の心の体験を油絵で描きました。彼は油絵の素人というよ りも個展を開くくらいの専門職で、ポスターになりました。街頭で照らされた今ここというと ころしかわからない。後ろを振り返ると真っ暗だし、行く手を見ると何か得体の知れない何か が見えるという感じで、非常に不安です。そして孤独感。他の人と会話をしていてもついてい けないという感じがあります。誰かと会ってお話して、例えば会議をしているときに、あっこ ういうことかなと思って自分の意見をポッと言ったら、みんながエっていう感じでこっちのほ うを向いた。怪訝な顔をして私の顔を見つめた。あれっ何かおかしいことを言ったかな、そう いう置き去りにされていく孤独感を後姿が表現しているのです。よく見るとスリッパを履いて いて、今そこから出てきたお年寄りの後姿です。あれはなんだ、あれはなんだろうと、未来に 対する、将来に対する得たいの知れない不安に脅かされているような感じです。認知症になる とこういう気持ちを持っていらっしゃるわけです。 言葉のやり取りがかなり上手な方は、かなり末期になってもお話なさいます。だから、ある 人はそういう自分の心の体験をかなり長い文章にしてお話しすることができるかもしれませ ん。しかし、「俺は話さない。身内にだって話せない。プライドがあるから」。結局、話したく ないと言って話しません。また、認知症になると、こういう心の体験をまとめて表現する認知 力が低下してしまい、自分では表現できないので、私たちは、認知症の人が悩みを持ってい らっしゃるかということははっきりわからないのです。これが認知症のケアの非常に難しいと ころです。 認知症ご本人の言葉です。これはある雑誌の座談会で、「記憶がないということは、明日に 自信がもてないんです。自分の立っている現在が揺らいでいて、未来も揺らいでいるから、 ちょっとしたことで不安になったりイライラするんです」。認知症の人はちょっとしたことで イライラしてしまうので、ケアしている家族やケア職の人に、急にカーとなって怒り出すこと があるのです。実はこういう目に見えないところで不安な気持ちになってイライラなさるのだ ろうと思います。だから認知症の人の、その人の立場に立ってケアをするということが求めら れることになります。認知症の人への対応の仕方というのは、認知症の人がどんな気持ちでい らっしゃるか、認知症の人の立場に立って、そして認知症の人を中心にして、認知症の人の 「人」ということを考えて、その人を大切にするようなケアをするということが大切だと思う のです。 それを言い出したのが、トム・キッドウッドという英国の臨床心理士です。パーソン・セ - 11 -.

(27) ンタード・ケア、その人を中心にしたケアです。その人の言うなりになるケアということでは ありません。その人を中心にして、まずその「人」ということを非常に重要視する。パーソン という、その人の立場に立ったケアです。その人は私をどう見るか。もしここに認知症の人が 誰かいらっしゃったとしたら、その人にとって今この会場はどういうふうに見えているだろう か、話をしている私はどんなふうに見えているのかということが課題だというのです。ですか ら、その人の内的体験を理解するケア、そして結局はその人らしさを大切にするケアになりま す。その人らしさというのは、その人がその人しか持っていない、環境・生活史・育ち方とい うのがあるわけです。誰もその人の代わりになることはできません。たった一人、自分は他の 人では代行できない存在だということが尊厳性に通じると思います。 ですから、認知症の人の排泄、摂食介助、あるいは、入浴介助などはとても重要なことでは ありますが、認知症のケアではないです。認知症のケアという場合には、食事・排泄とかそう いったことは全く別にして認知症のその人自体をケアすることです。その人らしさを、全体を 大切にするケアということになると思いますが、果たしてそれはどうやったらできるのでしょ うか。これが難しいところです。それには、条件があると思います。ゆっくりした時間の流れ があるとか、それから、小さい施設環境のほうがいいですね。例えば、グループホームとかユ ニットケア。 介護保険が導入された頃にこの東京センターが建ち、研究部長の永田久美子さんと一緒にセ ンターのことをやり始めました。その時にちょうどグループホームも盛んになり始めました。 グループホームに入居した人は、初めの頃は引き篭もってしまい部屋から出てこなかった。と ころが、グループホームは小さいから環境に馴染みやすい、ケアをする人も一定の人だから馴 染みやすいということで、とても打ち解けてきて、時々は自分で料理を手伝うようになった。 そうしたら見違えるように認知症の引き篭もりが無くなったのです。それから、ある方は、も う帰りたい帰りたい帰りたい、落ち着かなくてフラフラフラフラ歩き回っている。ところが、 この人もだんだん馴染んできたら落ち着いて、全然そういう症状が無くなってきた。そういう 報告がグループホームから相次いで入ってきたのです。永田さんも本当に興奮して、「こんな 状態になるんですよ、グループホームに入ったら」。私は、精神科の教科書を書き換えなくて はいけないのじゃないかと思ったくらいです。認知症は認知症なのです。認知症の症状は画像 も長谷川式スケールも同じなのですが、生活が改善されるのです。つまり人と人との絆が上手 につくれるようになるのです。そういう環境を整えるということがとても大切です。そういう ことを体験したことを思い出します。 ゆっくりした時間の流れがあるということがとても大切ですが、これが難しい。我々は皆時 間の軸で働き、生活しているので、非常に難しい。しかし、絶望しないで、諦めないで、環境 をなるべく整えましょう。 認知症ケアの技法、これはスキル、技術です。心掛けというよりも技術そのものです。寄り 添う心と絆が一番大事、二番目は聴くことを第一にすること。目を見て話すこと、明るく楽し い気分を大切にしてケアをする。寄り添う心と絆とは、体ではなくて、本当に寄り添う気持ち になって、寄り添わなければいけません。ただ形の上で寄り添うと、認知症の人は見抜きます。 認知症の人はそういうのをよく見抜いてしまいます。気持ち、心がとても大切です。認知症の 人はいろいろ失敗したり、いろいろな苦しみを、先程の映像の人のように、ちょっとしたこと でイライラしたりするわけですが、そういうときにそれを理解して「あなたのそのままでいい んだよ、今のことをすぐ忘れて、過去のことだけを思い出しているっていうあなたも、そうい うことでいいんだよ。今ちょっと前のことをすぐ忘れてもそれは私たちで何とかするからいい - 12 -.

(28) よ」と、むしろ、「過去のいろいろなことを思い出して私たちに教えてください、そのほうが いいんですよ。あなたのほうで自分のことをいろいろ考える必要はない、私たちのほうであな たのそれに合わせるようにするから」。こういう態度がいいのです。そうすると認知症の人は、 周りの人がそれだけのゆとりを持ってくれると不思議なことに新しい絆を創り始めます。そう いうことが第一だと思います。 二番目は聴くことを第一にして待つということ。私は診察で、一月に一回あるご夫婦に会い ます。男性はちょうど私と同じくらいの年齢の方でした。「この一月に何か変わったことはあ りませんでしたか。何かお話はありますか。困ったことはありますか」と聞く。そうすると「あ ります」 。「じゃあ、何です。それを言ってください」。なかなかパッと出てきません。「それは 何ですか」と言っても、すっと出てこないのです。だから、待たなければいけない。2 分か 3 分待てば、話が出る。でも、待つという場合も、コンピューターを見たり、診療録を書いたり、 ちょっとこちらで何かしたり、そういう雑用をしながら待つのではなく、ちゃんとその人と向 き合ってしっかりと、「そう何、言ってごらん」という感じでじっと待つ。すると向こうが一 生懸命に言葉を探して、その人の脳のコンピューターが一生懸命に言葉を探して、そして、 「い や、実はねえ先生、家内とちょっとケンカしちゃったんですよ。家内が私の言うことを聞かな いで、ガガガアーと怒ったんです。だから私もむかっ腹をたてて、ガーっとやったんですよ。. 2 ∼ 3 日前に、こういうことがあったんですよ。もう頭に来た」。奥さんが、「そんなことを、 夫婦の間のちょっとした日常のことじゃないの。それをわざわざ先生の前で話さなくてもいい じゃないの」。私はその時に、「あっ、これはシメタ。シメタって言ったら悪いけれどこれはい いぞ」 、つまり医者と患者さんと家族とが、同じ土俵の上に立ったことになるわけです。 「何かありましたか」「実は…」。こっちが待てないときは、ちょっと言ってしまいます。「顔 色良さそうだし、よく眠れるんでしょ」「はいよく眠れるんです」。「ご飯もおいしいんでしょ」 「おいしいです」。もうその話は YES or NO のクエスチョンです。どんどんどんどん進んでし まって早く終わってしまう。で、そのときは、患者さんは言おうと思っていたことが思い出せ ない。それはもう本当に早く終わってしまい、患者さんはあんまり面白くないという顔をして 帰っていくわけです。 同じ土俵の上で、そういう状態で 3 人が取り組んで、僕は奥さんにも言います。「ご主人は もっとつらい思いをしているかもしれないから、そういう時は少し…」彼に対しても「奥さん だっていろいろあなたのことで苦労していらっしゃるのだから、そんなに向きになって言い合 いをしないほうがいいよ」。もちろん反論もあります。奥様からも反論がある。それにまたお 答えする、そういうやり取りをするということがとてもいいのです。お終いに「それじゃあ、 とにかくまた一月やってみてくださいよ。だけど、僕はいつも君たちと一緒に考えていくから ね。安心していらっしゃい。何かあったらね、いつでも診療所に電話しなさい。そしたら僕の ほうに必ず連絡が入るから、必ず対応するから、大丈夫だからね、安心していらっしゃい、じゃ あがんばって」。帰りはとても嬉しそうにして帰られました。 そういう、聴くことを第一にするというのは待つということが必要になります。ですから、 認知症の人のケアをするときには、待つということがとっても大切です。 皆さんが電話相談をしているときに、いろいろな人が相談してくるかもしれません。介護す る家族、介護者、患者さん本人が掛けてくるかもしれない。時には待たなきゃならないかもし れません。その時は電話相談だから、面接の時のようなやり方は難しいと思います。どういう ふうに待ったらいいかなあということをお考えになって、「それから」というような言葉を少 し差し挟んであげて、導入していくという工夫が必要になるのではないかと思います。 - 13 -.

(29) それから、目を見て話すこと。認知症の人と話すときは目を見て話すことがとても大切だそ うです。それから、明るく楽しい気分を大切にする。明るい気分で「大丈夫ですよ」と言い、 他のことをお話しするときでも、明るくニコッとしてお話をしてあげるということが認知症の 人にとってはとってもいいそうです。というのは、認知症になると、左側の脳が一番やられ易 く、右の脳はあまり損傷を受けないのです。例えば、読み書き算盤とか人と話をするとかみん な左側の脳がやっています。ほとんど96%の人は左側の脳が認知機能を司っていて、認知症に なると左の脳が損傷を受けますから、右の脳は相対的に働きが強くなるのです。私たちも感情 によるコミュニケーションをしますから、感情的になったり、非常にうれしかったり悲しかっ たりするときには、もちろん右の脳の働きが関与しているわけですが、認知症になるともっと 感受性が高くなるのです。私たちが考えている以上に認知症の人は感情による交流が得意です から、私たちがまだ黙って何も話していなくても、こちらが不機嫌な状態にいると、その不機 嫌な状態をすぐに認知症の人は感知してしまう。「あっ、今日は機嫌悪そうだなあ」とわかり ますから、そういうことを認識して、少なくとも明るいニコニコとした態度で接するのがいい と思います。 認知症の人の生活では、自分がしたいことや周りがこれくらいのことはできるだろうと思っ て頼んだことと実際にやれることとの間にはギャップがあって、そのために興奮したり、うつ 状態になったり不安になったりします。しかし、先程言ったような寄り添う気持ちになって少 し時間を与えてあげると、それなりの対応ができ、自分で新しい絆、関係性を創り出していく ことがあります。これが認知症のケアのポイントではないかと思います。新しい絆を創ってい くことを援助する、それを知識ではなくて行動として表現できるかどうか。そして、必要な感 性、感受性を私たちが持っているかどうかということです。 感性、感受性というのは、人が苦しんだり悩んだりしていらっしゃる、電話でもそうですが、 そのときにそれをかわいそうだなあ、気の毒だなあっていう気持ち、誰でも持つでしょう。し かしそれはまだ部外者になっていて、自分はその人の部外者としてかわいそうだなあと。同情 ですよね。これをシンパシーといいます。もう一つは、「悲しい、悲しいんです。どうして私 だけが一人残って、他の人は津波で死んじゃったんでしょうか。どうして私だけが残ったんで しょうか」。そういうときに、そのままの悲しみの気持ちをすぐにとって、「ああ、そうだね え」 。そうすると涙が浮かんでくる。これをエンパシーっていうのだそうです。シンパシーじゃ なくてエンパシー、共感なんですね。ともに感じる、その人の心のところで、バイオリンだか 琴だかの弦がビーンと鳴って、そのビーンと鳴ったおんなじ音の弦が私の心の中にあって、そ のビーンという弦の音を聞いただけで私の心の中の弦もビーン、おんなじところでビーンとな る。そういうのを共感といいます。そういう感性を持っているということが認知症のケアのと きは大切ではないかと思うのです。 電話では、表情を見られないので、それがどういうふうに受け取られるか私もよくわかりま せんけれど、これは電話でもそういうことが起こる可能性があります。 私は診療所で診ていますが、診療所に来る人は軽い人ばかりだというふうに思っていると大 間違いで、かなり重症な人もやって来られます。たとえば、ある患者さん、かなり高度の患者 さんです。その方は、技術者でした。非常に優れた能力を持っていらして、某国立大学を非常 に優秀な成績で卒業して、管理者、社長になりました。すごく出世したすごい能力を持った人 が、この数年の間にものすごい認知症になってしまった。奥様の顔も認識できない、大便失禁 がある、長谷川式スケールは30点満点で 5 点しか取れない、一桁なんです。高度の認知症で す。 「じゃあ、ここにお掛けください」と言ったら、その椅子に掛けられない。椅子はここに - 14 -.

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